しゅえ うぇいとん
氏 名 薛 衛 東
学 位 の 種 類 博士(工学)
学 位 記 番 号 甲第157号
学 位 授 与 年 月 日 平成16年 3月25日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当
学 位 論 文 題 目 浸炭焼入れ薄肉歯車の残留応力と曲げ疲労強度に関する 基礎的研究
学位論文審査委員 (主査) 宮 近 幸 逸
(副査) 早 川 元 造 小 出 隆 夫
学 位 論 文 の 内 容 の 要 旨
各 種 機 械 装 置 の 原 動 機 の 出 力 増 加 に と も な う 伝 達 ト ル ク の 増 大 に 対 し て 、 変 速 装 置 の 大 き さ に 制 限 が あ る た め 、 ま た 小 形 ・ 軽 量 化 に 対 す る 要 求 の た め 、 動 力 伝 達 用 歯 車 の 強 度 増 強 が 強 く 望 ま れ て い る 。 歯 車 の 強 度 増 強 を は か る た め に 、 浸 炭 焼 入 れ や 高 周 波 焼 入 れ な ど の 表 面 硬 化 処 理 が 施 さ れ 、 ま た 小 形 ・ 軽 量 化 を は か る た め に 、 遊 星 歯 車 装 置 や 薄 肉 歯 車 が し ば し ば 用 い ら れ る 。 浸 炭 焼 入 れ は 高 周 波 焼 入 れ に 比 べ て 表 面 形 状 に 沿 っ た 硬 化 層 が 得 や す い の で 、 焼 入 れ に よ る 強 度 増 強 の 信 頼 性 が 高 い と 考 え ら れ て い る 。 し か し 、 従 来 の 浸 炭 焼 入 れ 歯 車 の 曲 げ 強 度 に 関 す る 研 究 で は 、 歯 車 側 面 を 浸 炭 防 止 し た も の に 対 す る 曲 げ 疲 労 試 験 結 果 と 二 次 元 有 限 要 素 法 に よ る 残 留 応 力 計 算 結 果 に 基 づ い て 検 討 が 行 わ れ て い る が 、 実 際 に 用 い ら れ る 浸 炭 焼 入 れ 歯 車 で は 、 側 面 浸 炭 防 止 は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。 ま た 、 歯 幅 の 狭 い 歯 車 の 浸 炭 焼 入 れ に よ る 残 留 応 力 を 二 次 元 有 限 要 素 法 に よ っ て 評 価 す る こ と に は か な り 問 題 が あ る 。 さ ら に 、 薄 肉 ウ ェ ブ 構 造 歯 車 や は す ば 歯 車 な ど の よ う な 三 次 元 形 状 を も つ 歯 車 の 浸 炭 焼 入 れ に よ る 残 留 応 力 は 三 次 元 有 限 要 素 法 に よ っ て 評 価 さ れ る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。 し た が っ て 、 浸 炭 焼 入 れ 歯 車 の よ り 正 確 な 曲 げ 強 度 設 計 お よ び 最 適 な 浸 炭 焼 入 れ 条 件 の 選 定 を 行 う た め に は 、 ま ず 三 次 元 形 状 の 機 械 要 素 の 浸 炭 焼 入 れ に よ る 残 留 応 力 を 予 測 で き る シ ミ ュ レ ー タ を 開 発 し 、次 に 種 々 の 薄 肉 平・は す ば 外 ・ 内 歯 車 の 浸 炭 焼 入 れ に よ る 残 留 応 力 お よ び 曲 げ 疲 労 強 度 に 及 ぼ す 浸 炭 部 ( 歯 面 、歯 車 側 面 な ど ) 、浸 炭 時 間 ( 硬 化 層 厚 さ ) の 影 響 な ど に つ い て 明 ら か に す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る 。
本 論 文 で は 、 ま ず 、 二 次 元 浸 炭 焼 入 れ シ ミ ュ レ ー タ を 三 次 元 形 状 の 機 械 要 素 に 適 用 で き る シ ミ ュ レ ー タ に 発 展 さ せ 、 三 次 元 有 限 要 素 法 (3D-FEM) に よ る 炭 素 拡 散 、 熱 伝 導 お よ び 弾 塑 性 応 力 解 析 法 を 用 い た シ ミ ュ レ ー タ を 開 発 し た 。 こ の 三 次 元 浸 炭 焼 入 れ シ ミ ュ レ ー タ を 用 い て 、 円 柱 お よ び 平 歯 車 の 冷 却 過 程 の 温 度 を 計 算 す る と と も に 、 種 々 の 浸 炭 焼 入 れ 条 件 に 対 す る 平 外 歯 車 の 炭 素 濃 度 分 布 、 硬 さ 分 布 お よ び 残
留 応 力 分 布 を 求 め 、 微 小 硬 度 計 に よ る 硬 さ 分 布 の 測 定 結 果 、 熱 電 対 に よ る 温 度 分 布 の 測 定 結 果 、 せ ん 孔 法 お よ び X 線 法 に よ る 残 留 応 力 の 測 定 結 果 と 比 較 検 討 す る こ と に よ り 、 本 シ ミ ュ レ ー タ の 有 効 性 を 確 か め た 。 次 に 、 三 次 元 浸 炭 焼 入 れ シ ミ ュ レ ー タ を 用 い て 、 種 々 の 浸 炭 焼 入 れ 条 件 に 対 し て 、 平 外 ・ 内 歯 車 、 薄 肉 対 称 ・ 非 対 称 ウ ェ ブ 構 造 歯 車 、 は す ば 歯 車 の 浸 炭 焼 入 れ 過 程 の 温 度 ・ 応 力 を 計 算 し 、 残 留 応 力 を 求 め 、 浸 炭 焼 入 れ に よ る 残 留 応 力 に 及 ぼ す 浸 炭 部 ( 歯 面 、 歯 車 側 面 、 リ ム 表 面 、 ウ ェ ブ 表 面 ) 、浸 炭 時 間 ( 硬 化 層 厚 さ ) 、モ ジ ュ ー ル 、歯 数 、基 準 圧 力 角 、リ ム 厚 さ 、歯 幅 、 ウ ェ ブ 構 造 、 ね じ れ 角 の 影 響 な ど に つ い て 検 討 を 加 え た 。 さ ら に 、 歯 車 側 面 に 銅 め っ き を 施 し て 側 面 浸 炭 防 止 し た 場 合 と 浸 炭 防 止 し な い 場 合 の 浸 炭 焼 入 れ 平 外 歯 車 に 対 し て 、 パ ル セ ー タ 試 験 機 に よ る 曲 げ 疲 労 試 験 を 行 っ て 、 曲 げ 疲 労 強 度 を 求 め 、 曲 げ 疲 労 強 度 に 及 ぼ す 側 面 浸 炭 、 硬 化 層 厚 さ お よ び 残 留 応 力 の 影 響 な ど に つ い て 明 ら か に し た 。 一 方 、 歯 車 の 歯 面 強 度 を 求 め る た め の 基 礎 と し て よ く 用 い ら れ る 円 筒 ロ ー ラ に 対 し て 、 側 面 浸 炭 防 止 し た 場 合 と 防 止 し な い 場 合 の 浸 炭 焼 入 れ 過 程 の 温 度 ・ 応 力 を 、 軸 対 称 有 限 要 素 法 に よ る 熱 伝 導 お よ び 弾 塑 性 応 力 解 析 法 を 用 い て 求 め 、 浸 炭 焼 入 れ に よ る ロ ー ラ の 残 留 応 力 に 及 ぼ す ロ ー ラ 形 状 、浸 炭 部 、浸 炭 時 間 ( 硬 化 層 厚 さ ) お よ び ロ ー ラ 幅 の 影 響 な ど に つ い て 検 討 を 加 え た 。
以 上 、浸 炭 焼 入 れ 平 外 ・ 内 歯 車 、薄 肉 対 称 ・ 非 対 称 ウ ェ ブ 構 造 歯 車 、は す ば 歯 車 、 お よ び 歯 車 の 歯 面 強 度 を 求 め る た め の 基 礎 と し て 用 い ら れ る 円 筒 ロ ー ラ の 残 留 応 力 の 計 算 結 果 、 側 面 浸 炭 防 止 し た 場 合 と 浸 炭 防 止 し な い 場 合 の 浸 炭 焼 入 れ 歯 車 の 曲 げ 疲 労 試 験 結 果 よ り 、 浸 炭 焼 入 れ 歯 車 の 強 度 設 計 お よ び 最 適 な 浸 炭 焼 入 れ 条 件 を 選 定 す る た め の 有 用 な 基 礎 資 料 を 提 示 す る こ と が で き た 。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本論文は、動力伝達用歯車の強度増強および小形・軽量化をはかるために用いられる浸炭焼入れ薄 肉歯車について、浸炭焼入れによる残留応力と曲げ疲労強度・歯面強度に対する最適浸炭焼入れ条件 の選定法の確立を目的として行った基礎的研究の結果をまとめたものである。
まず、二次元浸炭焼入れシミュレータを三次元形状の機械要素に適用できるシミュレータに発展さ せ、三次元有限要素法(3D-FEM)による炭素拡散、熱伝導および弾塑性応力解析法を用いたシミュレ ータを開発し、本シミュレータによる計算結果と測定結果を比較することにより、その有効性を確か めている。次に、このシミュレータを用いて、平外・内歯車、薄肉対称・非対称ウェブ構造歯車、は すば歯車の浸炭焼入れによる残留応力を求め、残留応力に及ぼす浸炭部(歯面、歯車側面、リム表面、
ウェブ表面)、浸炭時間(硬化層厚さ)、モジュール、歯数、基準圧力角、リム厚さ、歯幅、ウェブ構 造、ねじれ角の影響などについて明らかにし、残留応力に対する最適な浸炭焼入れ条件と焼入れ法を 選定するための指針を提示している。さらに、歯車側面に銅めっきを施して側面浸炭防止した場合と 防止しない場合の浸炭焼入れ平外歯車に対して、パルセータ試験機による曲げ疲労試験を行って、曲 げ疲労強度を求め、曲げ疲労強度に及ぼす側面浸炭焼入れ、硬化層厚さおよび残留応力などの影響に ついて明らかにしている。一方、歯車の歯面強度を求めるための基礎としてしばしば用いられる円筒 ローラに対して、側面浸炭防止した場合と防止しない場合の浸炭焼入れ過程の温度・応力を、軸対称
FEMによる熱伝導および弾塑性応力解析法を用いて計算し、残留応力を求め、浸炭焼入れによるロ ーラの残留応力に及ぼすローラ形状、浸炭部、浸炭時間(硬化層厚さ)およびローラ幅の影響などに ついて検討を加えている。
以上、本論文は動力伝達用薄肉歯車の強度増強、小形・軽量化をはかるための最適な浸炭焼入れ条 件と焼入れ方法の選定法を確立するために、新しい方法を導くとともに、多くの指針と有益な資料を 提示したものとして高く評価できる。よって、本論文は、博士(工学)の学位論文に値するものと認 められる。