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中学校国語科の文学教材における役割語とキャラクタに関する基礎的研究

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(1)

2014年

兵 庫 教 育 大 学 大 学 院 学 位 論 文

中学校 国語科 の文学教材 にお ける

役割語 とキャラクタに関す る基礎 的研 究

教 育 内 容

0方

法 開 発 専 攻 文 化 表 現 系 教 育 コ ー ス 言 語 系 教 育 分 野 (国 語)

M13165E

塚 本 晃 弘

(2)

中学校 国語 科 の文 学 教材 にお け る役 割 語 とキ ャ ラ ク タ に 関す る基礎 的研 究 序章・・・・・・・・・・ ●●●●●・・・・・・・・・・ ●●●●●・・・・・ 。

1

1章

役割語 とキャラクタの概要・・・・・・・・・・・・・・・ ●●●●●・ 1 第1節

役割語 とは・・・・・ 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 。 1 第

2節

キャラクタとは 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 第

3節

キャラクタの分類・・・・・・・・・・・・・・・ ●●●●●・・・ 。

4

4節

本研究の位置付け 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 第

2章

女性キャラクタの可塑性・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第1節

女性のキャラクタ変化 と役割語・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第

2節

「オ レっ娘」キャラクタの役割語・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 第

3節

「オ レっ娘」キャラクタの多様性・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 第

3章

文学教材における発話キャラクタの役割語 。・・・ ◆・・・・・・・・・ 15 第1節

(私

たち

)タ

イプの発話キャラクタ・・・・・・・・・・・・・・・・ 。 15 第

2節

〈異人

)タ

イプの発話キャラクタ 。・・・・・・・・・・ 。・・・・・・ 23 第

3節

破綻キャラクタ 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 第

4章

文学教材 における発話キャラクタの方言 と役割語 。・・・・ ●●●●●・ 29 第 1節

方言 コスプ レとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 第

2節

文学教材におけるヴァーチャル方言の役割・・・・・ ◆。◆・・・・ 。 31 第

3節

ヴァーチャル方言 とステ レオタイプ 。・・・・ ・・・・・・・・・・・ 36 第

4節

方言キャラクタの特徴・・・・・・・・・・ 0。 ・・ ◆・ ・・・・・ 。38

5章

文学教材 における表現キャラクタの役割語 。・・・・・・・・・・・・・ 40 第1節

動作表現の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ◆・・・・・・ 40 第

2節

「笑 う」に関する明示的動作表現・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 第

3節

その他の動作表現・・・ 。・・・ 。こ・ ●●●◆●・・・・・・・・・ 46 終章・ ◆・・・・・・・ ◆・・・・・・・・・・ ◆。。・・・・・・・・・・・・・ 48 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 巻末 (資料一覧)

(3)

序章 本論文は、近年の言語学研究で明 らかにされつつある 「役割語」を考察対象 とし、お も に中学校国語科の教科書に掲載 されている文学教材 を用いることにより、登場人物の発話 や動作表現か ら「品」「格」「性」「年」 とい う値の特定 とキャラクタの可変性のメカニズム について検討 を加 えることにある。 本論文が考察対象 とす るのは、「役割語」 とい う言語表現である。役割語 とは、いわば、 ある特定の言葉遣いか ら人物像 を想起 させ るものであ り、人物像か ら特定の言葉遣いを想 起 させ るものである。例えば、「わ しが知っておる」 とい う発話を聞くと、我々はいわば老 人キャラクタとでも言 うべきものを思い浮かべることができる。同様に、老人キャラクタ と聞 くと、我々は「わ しが知っておる」のような言葉遣いを思い浮かべることができよう。 本研究は、この役割語やキャラクタと呼ばれ る理論の知見を援用 し、中学校国語科の文 学教材 に適用 させ ることで、登場人物のキャラクタ性や心情の変化 を把握す ることが可能 ではないか、 とい う着眼点か ら始めたものである。 本論文の構成は次の通 りである。第

1章

では、役割語の概観を示 し、先行研究を踏まえ た うえで、本研究の意味および位置づけを示す。第

2章

では、従来の役割語研究において 散見す るアニメや漫画を活用 し、特に女性キャラクタの発話に着 目す る。その うえで、発 話の変化 とキャラクタの変化の関係性について役割語の観点か ら検討を力日える。第

3章

で は、「発話キャラクタ」 とい う概念 を用い、文学教材 の登場人物の特徴 について考察す る。 第

4章

では、方言を扱った文学教材 を用い、登場人物が方言を使用することで どのような キャラクタ性が生 じ得 るかを考察 し、方言 と役割語の関係性について言及す る。第

5章

で は、「表現キャラクタ」 とい う概念を用い、文学教材 に示 され る動作表現か ら動作主の特徴 について分析す る。 以上の考察を通 して、キャラクタの可変性のメカニズムにういて検証 し、文学教材 にお いて役割語が果たす機能を明 らかにしたい。 第

1章

役割語とキャラクタの概要 この第

1章

では、「役割語」 とい う概念 を取 り上げ、先行研究の知見を振 り返 り、現状を 整理す ることを目的 とする。 第1節では、役割語の概念について説明す る。第

2節

では、キャラクタの特徴について、 人格やスタイル との違いを明 らかにしなが ら述べる。第

3節

では、先行研究をもとにキャ ラクタの分類について整理す る。第

4節

では、本研究における位置づけについて述べる。 第

1節

役割語とは この第

1節

では、先行研究をもとに、「役割語」の概念について述べることを目的 とする。 本研究に先立ち、金水(2000は 「役割語」 とい う概念を次のように定義 している。 ある特定の言葉遣い (語彙・語法・言い回 し 。イン トネーション等

)を

聞 くと、特定の 人物像 (年齢 。性別・職業・ 階層 。時代・容姿・風貌・性格等

)を

思い浮かべ ることが できるとき、あるいはある特定の人物像を提示 され ると、その人物がいかにも使用 しそ うな言葉遣いを思い浮かべ ることができるとき、その言葉遣いを

<役

割語

>と

い う。

(4)

金水(2003)の定義を要約す ると、「役割語」 とは、言葉遣いか ら人物像 を想起 させ るもの であ り、人物像か ら言葉遣いを想起 させ るものである。 例 えば、「そ うじゃ、わ しじや」 とい う発話を聞 くと、我々はいわば

<博

士 ことば

>と

で も言 うべきものを思い浮かべることができる。同様に、「そ うですわ。わたくしですわ」 と い う発話を聞 くと、我々はいわば

<お

嬢様 ことば

>と

でも言 うべきものを思い浮かべるこ とができる。 しか し、現代社会において、博士が 「そ うじゃ、わ しじゃ」 と言 うことや、 お嬢様が 「そ うですわ。わた くしですわ」 と言 うことは稀である。それにもかかわ らず、 現代社会に生きる我々にとつて、このような人物 と発話の結びつきは想像に難 くない。 こ の点について、金水0003)は、テ レビや漫画な どのマスメデ ィアの普及に伴い、ある種経験 的にステ レオタイプ化 した知識を個人が有 していることを要因に挙げている。 「役割語」 とは、現実の 日本語 とは別の、 しか し、確かに存在する日本語 とい う意味で 「ヴァーチャル 日本語」 としての側面を有 している。つまり、「役割語」は実際に存在す る 言語であるか どうかにかかわ らず、ある言葉 を聞 くことによつて特定の人物 を想起 させ る、 あるいは、特定の人物か ら特定の言葉遣いを想起 させ るものを言 うのである。 金水

0000は

、 日本語の役割語にとつて特に重要な指標は、「人称代名詞」またはそれに 代わる表現、および 「文末表現」であると指摘す る。 この うち、文末表現は 「せ え/しろ」 「雨 じゃ/雨だ」「知 らん/知らない」な ど、活用や助動詞に関わるものが挙げ られている。 さらに、文末表現 との関係 において、「行 く{ぜ/ぞ /わ}」 「暑い{ねえ/の う}な どの終助詞や、 「雨で(ございます/ござんす/ござる}」 な どの断定表現、「あら」「まあ」「おお」な どの感 動詞 も判断の指標 とな り得 ることが示 されている。例 えば、終助詞 「わ」は主張や断定を やわ らげ、まるみや可愛 らしさをもつ女性語であ り、終助詞 「ぜ」「ぞ」は自己を顕示 し主 張を強 く押 し出す働 きをもつ男性語である。(井出.1979)同様に、感動詞 「あら」や 「ま あ」は女 ことば、「おお」「おい」は男 ことばと捉えられる。(金水.2010) 一方、藤原(1990は、金水α003)の 指摘する

<終

助詞

>や <感

動詞

>を

「文末詞」と呼び、 次のように定義 している。 「文末詞」は文表現の末尾に立脚 して、遊離独立 し、文表現のそこまでの意味作用を、 発展的に集約す るものである。 ここでい う「遊離独立」 とは、助詞のように上のことばに接合す る働 きが無 く、文末詞 はそれ単体で相手への 「訴えかけ 。呼びかけ」 となるものである。 この 「文末詞」に関 して、これまでの文法では 「日本語の文の最終末に現れ得 るのは終 助詞であ り、終助詞の後に終助詞以外のことばが付 くことはない」 と考えられてきた。 し か し、「うそだぴ ょ―ん」の 「ぴ ょ―ん」や 「誰かねぷ―ん」の 「ぷ―ん」のように、これ までの文法では想定 され得なかった場所、つま り、終助詞の後に出現す る「キャラ助詞」 なるものが確認 され るようになつた。1 このように、役割語 として機能 し得 る品詞は多岐に渡 ることが先行研究によつて指摘 さ れている。

1金水0011)第 2章

pp.23・24

(5)

2節

キャラクタとは この第

2節

では、先行研究をもとに、役割語 を使用する「キャラクタ」の特徴について、 「人格」や 「スタイル」 との違いを示 しなが ら述べることを目的 とする。 第

1節

において、金水

000め

の提唱す る「役割語」の概念 について述べた。その中で、楚筵 (2011)は「人物像」とい う言葉 に着 日し、「キャラクタ」と呼び換 えた うえで、「人格」や 「ス タイル」 と明確 に区男1してい る。 定延0011)は 、島尾敏雄の小説『帰巣者の憂欝』を例に挙げ、「人格」と「スタイル」の 違いについて示唆 している。次の(1)は、登場人物である妻の 「人格」の変化について示 し たものである。

(1)妻

「わた しが悪かつた。行かないでください。」・・・① 妻「アンマイ、ワンダカ、テレティタボレ」…。② 妻「わたし、何か して?」 …・③ (1)の

妻の発話において、①のように夫婦喧嘩が終わつた際に共通語でしゃべつていた妻

が、やがて②のように故郷の島言葉を喋りだし、我に返った後は③のように共通語に戻つ

ている。②の島言葉をしゃべっていた間の記憶は、③の共通話に戻つた時点では継承され

ず消滅している。

もう一つ、「人格」の変化について例を挙げよう。次の

(2)は

、アニメ『 ドラゴンボール』

に登場する「ランチ」という女性の発話を示している。

(2)ラ

ンチ (青髪

):み

んな、逃 げて。(く しやみ) (金髪

):ど

こだ、 ここは

?何

だテ メェたちは

?(く

しゃみ) (青髪

):あ

?す

み ません。何 かいけないこと しませんで した

?

(2)において、発話者であるランチは、「くしゃみ」によつてお となしい人格 (青髪

)と

凶 暴な人格 (金髪

)が

入れ替わる女性である。青髪のランチが丁寧で上品な女性言葉 を使用 しているのに対 し、金髪のランチは乱暴な男言葉 を使用 している。 ランチの場合、青髪か ら金髪へ と変化す る過程において、外見や言葉遣いな どが大きく変化す るのが特徴である。 さらに0)において、青髪のランチが 「何かいけないことしませんで した」 と発 しているよ うに、青髪に戻つた際のランチは金髪のランチのときの記憶を引き継いでいない。 以上より、(1)の妻や(2)のランチのよ うに、言語や記憶が引き継がれていない根本的な変 化を指 して、定延(2011)は 「人格」の変化 と呼んでいる。 一方、定延(2011)は、根本的な変化はな く相手に応 じて自在に変化 させ ることができるも のを 「スタイル」 と呼んでいる。「スタイル」の例を挙げると、軍隊に所属す る兵士が戦場 にて 「自分は兵士であ ります。」な どと、いわゆる「軍隊評 」を使用す る場合 がある。 しか

2「

軍隊語 」では、一人称 に 「自分」、文末 に 「∼であ ります 」の よ うな固い表現 が使 用 さ れ ることが多い。

(6)

し、戦場か ら家庭 に場 を移す と、その兵士は 「おい、今帰つたぞ。」な どとぞん ざいな言葉 遣 い を使用 し、一家の大黒柱 としての側 面 を見せ る場合 もあるだ ろ う。 つま り、兵 士は相 手や場面 に応 じて意 図的 に 「ス タイル 」 を変化 させ てお り、 この よ うな行為 は現代社会 に おいては 日常的に行 われ るもの と言 つて よいだろ う。定延(2011)は、 この 「ス タイル 以上、 人格未満」 の状態 を指 して 「キャラクタ」 と呼び、次のよ うに指摘 してい る。 キ ャラクタは、意 のままにおおっぴ らに変 えて構 わない もの (ス タイル

)で

はないが、 か といつて根本的で変 わ りに くい もの (人格

)で

もない。 さ らに定延 ⑫011)は 、た とえ「キャラクタ」が変化 した場合 においても、自分の意思で 自 由に操 ることができない ことを示唆 している。つま り、「キャラクタ」 とは基本的には変化 しない もの と見なす ことができる。 しか し、実際 にはキャラクタの変化 は生 じ得 るもので あ り、キャラクタは 自分の意思 とは無 関係 に変化す るもの として提 えることができる。 以上 よ り、「人格」「キャラクタ」「スタイル」の特徴 を整理す ると次の表 1のよ うになる。 表

1

それぞれの特徴 と可変性 特 徴 可変性 スタイル 意図的 に変化す る。 ◎ キ ャラクタ 基本的 には変化 しない。 変化 した として も、無意図的で ある。 △ 人 格 変化 しない。 × 表1において、キャラクタとはスタイル と人格の中間に位置す るものであ り、基本的には 可変性は低い。 しか し、キャラクタが変化す る場合、その人物の意思 とは無関係に生 じる のである。 以上第

2節

では、先行研究をもとにキャラクタの特徴 とその可変性について論 じた。 第

3節

キャラクタの分類 この第

3節

では、定延0011)が定義 した「キャラクタ」について、先行研究を基にさらに 細分化す ることを目的 としている。 定延(2011)は、キャラクタとことばの結びつきを次の二つに分類 し整理 している。なお、 定延0011)が指摘す る 「ことば」 とい う概念は言語一般を指す ものではなく、「語」「単語」 「フレーズ」などの 「言語表現」 と置換することができる。 一つ 日は、言語表現が直接キャラクタを表す場合である。例 えば、或 る男性 について、 その人物がた とえ年輩でも 「あの人は

<坊

つちゃん

>だ

」「あいつは

<子

>だ

」な どと評 す ることがある。 この時、

<坊

つちゃん

><子

>と

い う言語表現は、その人物の 自己中 心的あるいは幼児的なキャラクタを直接表 している。3 二つ 目は、台詞の中の特定の表現がその台詞の発話者のキャラクタを暗に示す場合であ

3定

0011)p.110

(7)

る。 これは、「発話キャラクタ」 と呼ばれ るものである。例 えば、「そ うじゃ、わ しが知つ てお る」 とい う発話において、一人称 「わ し」や文末表現 「じや」な どの特定の表現は、 いわゆる

<博

士ことば

>を

示 している。また、「そ うですわよ、わた くしが存 じてお ります」 とい う発話において、一人称 「わた くし」や文末表現 「ですわよ」な どの特定の表現は、 いわゆる

<お

嬢様 ことば

>を

示 している。 このように、発話内における特定の言語表現が 特定の人物像 を想起 させ るとい う考え方は、金水0003)が提唱する「役割語」とい う概念に 起因す るものである。4 二つ 目は、動作を表現す る語句がその動作を行 うキャラクタまでを暗に示す場合である。 これは 「表現キャラクタ」 と呼ばれ るものである。例 えば、或 る人物について 「たたずん でい る」な どと言 えば、その人物がそれな りの雰囲気 を備 えた

<大

>キ

ャラであること が暗に示 され る。同様に、「ニタ リとほくそ笑む」のは

<悪

>キ

ャラである。5 上記の二つの分類において、一つ 目の 「言語表現が直接 キャラクタを表す もの」につい ては説明的なもの、二つ 目の 「発話キャラクタ」については台詞 (特に人称や文末表現)、 三つ 目の「表現キャラクタ」については地の文における動作によって捉 えることができる。 なお、「発話キャラクタ」については第

3章

、「表現キャラクタ」については第

5章

で詳述 す ることにす る。一つ 目の 「言語表現が直接キャラクタを表す もの」については、本研究 では考察対象外 とす る。 以上、第

3節

では先行研究に基づいてキャラクタを

3つ

に分類 し、それぞれの特徴につ いて述べた。第

4節

では、本研究における位置づけを示す。 第

4節

本研究の位置付け 第

4節

では、本研究の位置づけを示す。 本研究の 目的は、中学校国語科の教科書に掲載 されている文学教材 を主要な考察対象 と し、役割語 とキャラクタの観点か ら登場人物の発話について分析 を行 うことにある。従来、 役割語研究ではマ ンガやアニメな どを媒介 に し、ステ レオタイプ との関係性か ら論 じられ ることが多かつた。本研究では、この役割語 の概念 を教科書の文学教材 に適用 し、発話キ ャラクタや表現キャラクタの役割語 とい う観 点か ら分析 を加 え、登場人物 の 「品」「格」 「性」「年」 とい う値について特定す ることを試みる。 まず第

2章

では、従来の役割語研究で多 く用い られ るアニメや漫画を活用 し、それ らに 登場す る女性 キャラクタの発話に着 目す る。そ して、女性のキャラクタの変化 に伴 う言葉 遣いの変化の過程 を模索す る。 第

3章

では、教科書の文学教材 に立ちかえ り、発話 キャラクタにおける特定の言語表現、 とりわけ一人称や文末表現に着 目す る。その うえで、言葉遣いがキャラクタの 「品」「格」 「年」「′1/■」の値 に どのよ うな影響 を与 えるかを明 らかにす る。また、登場人物の社会的 上下関係 を踏まえた上で、登場人物の発話形態が変化する過程 を模索す る。 第

4章

では、教科書の文学教材 において、方言 を用いた発話キャラクタの役割語 につい て検討 を加 える。その際、方言に含有 されているステ レオタイプ との関係性 に着 日し、方 4 兵:j延:(2011)pp.113‐ 116 5 119

(8)

言 を使用す る発話 キャラクタの 「品」「格 」「性」「年」の値 の特定 を試 み る。 第

5章

で は、教科書 の文学教材 に登場す る 「笑 う」 とい う動作表現 に限定 して着 目し、 その動作表現が動作主のキャラクタの 「品」「格」「性」「年 」の値 に どの よ うな影響 を及 ぼす かについて検 討 を加 える。 第

2章

女性キャラクタの可鯉性 この第

2章

では、女性 のキャラクタの変化 に着 日し、役割語 との関係性 についてアニメや 漫画 な どを用 いて検討 を加 える。 なお、アニメや漫画 において、 キャラクタの変化 は男性 に も生 じ得 るものであるが、本章では考察対象外 とす る。第 1節では、テ レビ番組 の一つ である『 吉本新喜劇』 とアニメ『 ケロロ軍曹』を用い、女性キャラクタの役割語について 考察する。第

2節

では、ジブ リ作品『 千 と千尋の神隠 し』に登場する リンの役割語につい て考察する。第

3節

では、「オ レっ娘」キャラクタの多様性 について論 じる。 第

1節

女性のキャラクタ変化と役割語 この第 1節 では、女性キャラクタの役割語の変化に伴 うキャラクタの変化について論 じる。 キャラクタの変化は、原則 として 「遊び」の文脈の中で見受けられ ることが多 く、「スタ イル以上人格未満」 とい う頻度で変化が生 じるものである。(定延

.2011)こ

のことか ら、 アニメや ドラマな どは、ある程度 自由にキャラクタを変化 させ ることができると言える。 それでは、「キャラクタ」の変化 とは どのよ うなものかについて、例 を挙げて説明す る。 使用するのは、関西で放送 されているテ レビ番組の一つ、『 吉本新喜劇』である。 この『 吉 本新喜劇』に登場す る女性たちは、各々のキャラクタが大きく変化す るのが特徴である。 次の(1)は、『 吉本新喜劇』に登場す る陣内智則 (中年・男性

)と

未知やすえ (中年 。女性) の会話場面を示 している。(実際には、陣内は兵庫県加古川市出身、未知は大阪府東大阪市 出身である。)

(1)未

知 「アカ ン言 うたらアカンの」 陣内 「ホ ンマ もうええわ、 このケチ豚」 未知 「われ、 いま何ぬか しとん じゃ、 こらあ」 未知 「怖 かつた あ」 (1)において、何度頼み ごとを して も断 られた ことに業 を煮や した陣内が、未知 に対 して 悪態 をつ く。す る と、未知 の 目調 は一変 し、「われ 、いま何 ぬか しとん じゃ、 こ らぁ」 と、 いわ ゆる 「ヤクザ言葉」 に切 り替 わ る。 この時点において、未知 とい う人間性 に関す る判 断基 準 は失 われ るため、彼 女 が本 来有 していた女性 として のキ ャラクタは破綻す るこ とに な る。そ して、しば らくして正気 に戻 つた未知 は 「関西弁」ではな く「標準語」を使用 し、 なお かつ 「可弱い女性」 キャラクタヘ と変化 してい る。 この未知 のキャラクタの変化 は、 臨時的 に発動 した もので あると言 える。 例 えば、 ある若者 が本 来 の 「若者 」 の よ うなキ ャラクタを発動 させ て話 していなが ら、 時 に遊び の文脈 な どで臨時的 に 「老人」 の よ うに話 した とす る。 この 「老人」の よ うな話 し方 は男1のあ る老人 に とって は本来的な もの と見なす ことができる。換言す る と、臨時的

(9)

に発動 したキャラクタは、別 の誰 かに とっては本来的 なキャラクタ として発動 し得 るもの で もある。(定延。2011) つ ま り、未知 の 「ヤ クザ」 キャラクタや 「可弱い女性 」 キャラクタは臨時的 に発動 した ものであ り、 これ らはあ る別 人 に とって は本 来的 な もの と して成 立 し得 るもので あ る。未 知の場合、本来彼女が有す るキャラクタが臨時的 に幾つかのキャラクタヘ と変化 した と考 え るこ とがで きる。 そ こで、未知 の役割語 とキャラクタの関係 について整理す ると、次の 図1のよ うになる。 役割語 関西弁

→ ヤクザ言葉

→ 標準語 キャラクタ 中年女性 ヤ クザ

→ 可弱い女性 図

1

未知 のキャラクタ と役割語 関係性 女性 のキ ャラクタの変化 について、『 吉本新喜劇』 よ り、 も う一つ例 を挙 げ よ う。(2)の前 半は浅香 あきえ (年輩 。女性

)演

じる仲居 と旅館 に訪れた客 (若者 。女性

)の

一人 とのや りと りを描 いた場面、後半は浅香 と彼女 が働 く旅館 に訪れた得意先 の健 二 (若者・男性) とのや りとりを描 いた場面 を示 してい る。(本来、浅香 は大分県大分市出身で あるが、大阪 府 堺市北 区の在住 である。 そのため、 日常的 に関西弁 を使用 してい る。) 唸

)客

A「 何す るのよ、おば さん」 浅香 「おば さん

?誰

見て言 うとんね ん。 どう見 たつて姉 ちやんや ろが。 お前、なめ とつた らいかんぞ。怒 るで しか し。」 客A「あ、 わかつた。私 た ちに彼 氏が いるか ら、や きもち焼 いてるんで しょう」 浅香 「や きもち違 います。 やつあた り じや一」 (略) 健二 「こんにちは」 浅香 「こんにちは、健二 さん。御 苦労 さま、寒 か つたで しょう?」 0)において、客

Aが

発 した 「おば さん」 とい う言葉 によ り、浅香 は仲居 とい う立場 を忘 れ 、いわゆる 「ヤ クザ言葉」へ と切 り替 わ る。 その後 、浅香 が働 く旅館 に得意先の健 二が 配達 にや って くる。す る と、先程 まで 「ヤ クザ言葉 」 であ つた浅香 の言葉遣 い は一転 し、 今度 は 「標 準語」へ と変化 してい る。 未知 の場合 と同様 、浅香 も彼 女 が本 来有す るキャラクタが臨時的 に変化 してい るこ とが 窺 える。 そ こで、浅香 の役割語 とキャラクタの関係 について整理す る と、次の図

2の

よ う にな る。 役割語 関西弁

→ ヤ クザ言葉

→ 標準語 キャラクタ 中年女性 →

ヤ クザ

→ 仲居

2

(10)

図1・ 2よ り、女性 のキャラクタの変化 とい う観 点か ら前述 した二つの事例 (未知・浅香) の共通点を整理す ると次の三つ になる。 一 つ 日は、本来、未知や浅香 は関西弁 を使用す る中年女性 であ り、それが二人 のキャラ クタを形成 してい るとい うことで ある。 二つ 目は、未知や浅香 は複数 の役割語 を使 い分 けるこ とによ り、複数 のキャラクタを形 成 してい る とい うこ とで ある。換言す る と、二人 は場面や状況 に応 じて、意 図的 にキャラ クタを変化 させてい るのである。そ うであるな らば、ある程度 において、「キャラクタの変 化 は意 図的である」 とい う定延 唸011)の 指摘 とも一致す る。 三つ 目は、臨時的 に発動 した発話 キャラクタは、ある別人の本来的な発話 キャラクタ と して成立す るとい うことである。この点について も、定延(2011)のキャラクタの定義 に沿 う ものである。 これ らの考察か ら、役割語 が変化す るこ とでキャラクタ も変化 してお り、両者 の間には 強 い対応 関係 が存在 してい る と言 え る。 さらに、未知・ 浅香 両者 の発話 キャラクタが臨時 的 に変化す るのであれ ば、両者 は 自身のキャラクタが無意図的に変化 してい る可能性 もあ る。 そ うであるな らば、 この無意図的 な変化 の過程 には、一定の規則 が存在 してい る と言 える。そ して、 このキャラクタの変化 の発動条件 の一つ として、「ケチ豚」や 「おば さん」 の よ うに発話者 の勘 に障 る言葉 (フ レー ズ

)を

相 手 が使用す る場合 が考 え られ る。 これ ら の言葉 (フ レーズ

)が

引 き金 (trigger)と な り、未 知や浅香 は本来 のキャラクタが 自身 の 意思 とは無 関係 に変化 し、役割語 として表 出す るよ うにな るのであ る。逆 に言 うと、役割 語が変化す るこ とによ り、その人物 が本 来有す るキャラクタも変化す るとい うことである。 次 に、アニメ『 ケロロ軍曹』 の登場人物 の一人、西澤桃華の役割語 について考察す る。 本作 品の設定では、桃華 は西澤 グループ とい う大会社 の令嬢 である。 また、以下の会話 に 登場す る冬樹 とは 中学校 のクラスメー トであ り、桃華 は冬樹 に対 し恋心を抱いてい る。桃 華 は本来的なキャ ラクタ (以後 、「表」 とす る

)と

別 のキャラクタ (以後、「裏」 とす る) が入れ替わる人物 として本作品では描 かれ てい る。 次 の(3)は、飛行 機内での場 面、飛行機 の墜落後 に桃華 と冬樹 が無人 島に漂着 した場 面、 桃華 と無人 島の生物 との格 闘場面 を示 してい る。

6な

お、括弧内の発話 は桃華 の心中におけ る対話や呟 きを示 してい る。

(3)桃

華 (表) (裏) (今日こそ冬樹君 にちゃん と告 白 しな くちゃ。 で も…) (何でおめぇらまでついてきてんだよ。) (裏) (略) もうす ぐレスキュー隊がかけつけて くれるはずです。 (あつ、待てよ。 つてことは、つま り、助 けが来るまでは冬樹君 と二人 つきりつてことじゃね えか。) (略) (守つてもらうつもりが、守つちまつたぜ。あんま り、や りすぎね えよ うに しねえとな。おい、 ゴル ァ、危ね ぇ じゃね えか。)

6(3)は

『ケロロ軍曹』3st 第

108話

「冬樹

&桃

8 (表) (彗員) ドクター クルル 島」 よ リラ1用。

(11)

(3)において、基本的に桃華 (表

)の

一人称は 「私」であ り、丁寧語を用いて話すのが特 徴である。 この桃華 (表

)の

言語体系は、彼女が西澤 グループの令嬢であるとい う設定を 加味すると、お嬢様キャラクタを想起 させ るものと捉 えることができる。 これに対 し、桃 華 (裏

)の

一人称は 「俺」であ り、喋 り方 も暴言を伴つたいわゆる 「ヤクザ」言葉に変わ る うえ、声 もか嘩 (表

)の

よ うな優 しげな大入 しい声か ら ドスの利いたものへ と変化する。 なお、西田

(2012)に

よると、この桃華 (裏

)は

いわゆる 「オ レっ娘7」 に該 当する。 桃華は (表

)と

(裏

)が

頻繁 に交替 し、 どちらかが表に出ていても、も う一方 と対話す ることができる。このことか ら、定延(2011)が指摘す るよ うに、桃華の性格の変化は記憶が 引き継がれていることか らも人格の変化 とは言えない。 さらに、桃華は意図的にスタイル を変化 させているとも言い難 く、ある程度突発的かつ無意図的にキャラクタの変化が生 じ ていると言 える。 桃華の場合、桃華 (表

)と

桃華 (裏

)の

間における明確な引き金C五

ggeDは

存在 しない。 しか し、わヒ華が好意を寄せ る冬樹 との関わ りにおいて、 しば しばキャラクタが変化す る。 そのため、彼女のキャラクタが変化す る引き金 となるものは、冬樹の言動あるいは彼の存 在そのもの と捉えてよいだろ う。 さらに注 目すべきは、西澤桃華の場合、『 吉本新喜劇』に 登場す る未知やす えや浅香あきえのよ うに、「ケチ豚」や 「おばさん」な どの発話者の勘に 障る言葉 (フ レーズ

)を

相手が用いることによつてキャラクタが変化す る過程 とは異なる 点である。つま り、桃華 (表

)か

ら桃華 (裏

)へ

とキャラクタが変化す る際、その変化の 引き金e五ggeDと なるものは他者の否定的な言動ではなく肯定的なものである。この点にお いて、西澤桃華は未知やすえや浅香あきえとは異なる女性キャラクタであると言える。 ところで、西澤桃華には (表

)と

(裏

)以

外に第二のキャラクタが存在す る。次の(ので は、桃華の第二のキャラクタ (以後、「第二」 とす る

)が

現れ、同級生の冬樹 と会話す る場 面を示 している。8 ④ 桃華 (第二): 冬樹

:

「 さあ、冬樹君。ボ タンを押 したまえ。 それで君 は世界の支配者だ。」 「西澤 さん、 どうしちゃったの

?今

日の西澤 さん何 か変 だよ

?何

で僕 が世界 を支配 しな きゃなんないの」 (略) 「だつた ら、躊躇 う理 由はないはずだ。世界 を支配する ことは、その 理想 を実現す る必要枠 なのだ。」 桃華 (第三): ④ において、桃華 (第二

)の

一人称は桃華 (表

)と

同様 に 「私」である。 しか し、桃華 (第二

)は

語尾に断定の 「∼だ」や 「∼のだ9」 を用い、基本的には 「たまえ」な ど司令官 のよ うな命令 口調 を用いるのが特徴である。ただ し、 この桃華 (第二

)は

桃華 (表

)と

桃 華 (裏

)の

ように頻繁にキャラクタが入れ換わるようなことは無 く、本作品で〃 `華 (第二) 「オ レっ娘」とは、女性が一人称 に 「オ レ」を使用す るキャラクタの総称である。全体的 に言葉づかいがやや乱暴であ り、 自分勝手な ところが特徴的である。 (0は『 ケロロ軍曹』

2st

75話

「桃華覚醒 !二番 目の桃華」より引用。 「∼のだ」は、話 し手の現在の気持ちを聞き手に

<強

いお しだ し

>を

ともなって手渡す

<

自己主張の文

>に

なる。 井.1996) 8 9

(12)

が出現す るのは上記の場面のみである。 この場面において、桃華が一人称 として用いてい る「私」には、ある程度権威や地位の高 さが見受けられる。そのため、桃華 (第二

)は

格 式高 く高圧的な男性キャラクタとして描かれてお り、「躊躇 う」「必要枠」な ど女子中学生 としては分不相応な表現を用いている。 これ らの表現についても、役割語 としての機能 を 果た していると言 える。 以上 より、西澤桃華の役割語 とキャラクタについて整理す ると次の表

2の

ようになる。 表

2

西澤桃華の役割語 とキャラクタの関係 「表 」 一異 「第二」 役割語 お嬢様言葉 ヤ クザ言葉 司令官言葉 キャラクタ お嬢様 ヤクザ 司令官 表

2に

おいて、西澤桃華には三つの異なるキャラクタが存在 している。その各々が固有 の役割語を用いることにより、西澤桃華 とい うキャラクタを構成 していると言 える。また、 西澤桃華が臨時的に発動 した発話キャラクタは、別の誰かにとつては本来的な発話キャラ クタとして発動 し得 るもの と見てよいだろ う。 以上の考察より、『 吉本新喜顔』に登場す る未知やすえ`浅香あきえとアニメ『 ケロロ軍 曹』に登場す る西澤桃華の両者 に共通 しているのは以下の三点である。 一つ 日は、役割語の変化 と女性のキャラクタの変化 には一定の対応関係が存在 し、それ ぞれの役割語 と女性キャラクタの間にも密接な結び付きがあるとい うことである。 二つ 目は、女性 のキャラクタが変化す る際、そこには何 らかの引き金ctriggeぅが存在 して いるとい う点である。 三つ 目は、その引き金ctriggerulま他者の否定的・ 肯定的言動によつて発動 し、それに伴い キャラクタも変化す るとい うことである。 以上、本節では女性のキャラクタ変化 と役割語の関係 について論 じた。 第

2節

「オい 娘」キャラクタの役割語 この第

2節

では、「オ レっ娘」キャラクタの役害1語について検討をカロえることを目的 とし ている。本節では、ジブ リ作品『 千と千尋の神隠 し』の登場人物の一人、 リンの役割語に ついて考察す る。 リンは、人百万の神々が集 う湯屋でfJJいている湯女の娘 (女 。

14歳

)で

ある。主人公の 千尋 (女・

10歳

)が

湯屋で働 くことにな り、先輩 として千尋の面倒 を見ることになる。 次の(5)は、 リンと湯屋の帳場 を預かつているハク (男 。

12歳

)に

よる会話の場面、 “ ) は リンと千尋による会話の場面を示 している。 (→ (ハク):「仕事に戻れ。 リンはどこだ?」 (リ ン):「え一つ。アタイに押 しつけんのかよ。」 (ハク):「手下 を欲 しがつていてな。」 (リ ン):「え一つ、やつてらんね ぇよ。埋め合わせは してもらうか らぬ轟 10

(13)

(6)(リ

ン):「 お前上手 くや つたな」 (千尋 ):「 え つ?」 (リ ン):「 お前 トロいか ら心配 して たん だ。 油断す るな よ。分 か らな い ことはオ レ に聞 け。」 【 『 千 と千尋の神隠 し』】 (めにおいて、作品の設定上、 リンは

14歳

、ハクは

12歳

である。そのため、本来はハク が リンに対 して敬意を払つた言葉遣いを使用す るべきである。 しか し、湯屋 とい う仕事場 においては リンが部下でハ クが上司であ り、二人の立場は逆転 している。 リンは基本的に は男性表現を用いる女性キャラクタである。 しか し、年上のハクに対 しては一人称 「アタ イ10」 や文末詞 「∼ね」などの女性表現を使用 している。このことか ら、 リンは自身が本来 有 している男性的なキャラクタを相手 (ハク

)に

応 じて変化 させた と言 える。 一方、

Oに

おいて、 リンが

14歳

であるのに対 し、千尋は10歳である。 さらに、湯屋 と い う仕事場においても、 リンが上司で千尋は部下にあたる。そのため、 リンは千尋に対 し て一人称 「オ レ」や文末詞 「∼な」「∼だ」のような男性表現を用いたキャラクタとして描 かれている。つま り、年齢的にも立場的にもリンの方が千尋 よりも上であ り、本来 リンが 有す る男性的なキャラクタを変化 させ る必要 もない と言える。 以上のことか ら、男性表現 を用いるか女性表現 を用いるかは、相手 との上下関係 によつ て異なっていることがわかる。 このことは、キャラクタの変化が単なる二項対立 (男性か 女性か

)に

よるものではなく、場面や状況に応 じて左右 され るといつた程度差があること を示 している。一方、リンは西澤桃華 と異な り、何 らかの引き金eriggeDに よつてキャラク タが変化す る様子は見受けられない。そのため、 リンは相手 との上下関係に応 じて意図的 にスタイル を変化 させていると言 えな くもない。 しか し、(5)のハクに対するリンの発話に おいて、一人称 「アタイ」や文末詞 「∼ね」 といった女性表現 と文末詞 「∼かよ」 といつ た男性表現が混在 している。 この リンの言葉遣いの揺れについては第

3節

で詳述す る。 第

3節

『オレつ娘」キャラクタの多様性 本節では、 「オ レっ娘」キャラクタの多様性について検討を加 える。 「オ レっ娘」キャラクタの考察に際 し、冨樫0012)は次のように指摘 している。 「女性語 として 「ボク」を使用す ると、普通の少女ではなく、スポーツが得意であつた り、短髪のボーイ ッシュな風貌であつた りを、想定することが可能」とい う指摘があ り、 “ボーイ ッシュ"“ 男勝 り"といつた属性 と密接に結びついた言葉づかいを想起 させ る。 一方、男性語 としての (ボク

)は

、も う一つの男性 自称詞である (オレ

)と

の対比か ら、 金水(2000では「野性的・攻撃的な 〈オ レ

)と

柔弱で被保護者的な くボク

)Jと

いつた位 置付 けがなされてお り、男性語 としてみた場合の 「ボク」 と女性キャラクタが使用す る 「ボク」 とでは、与えるイメージがだいが異なっている。 Ю 主 として女性が用いる一人称代名詞

(<女

ことば

>)で

あ り、男勝 りな性格の女性や教 養・知性・ 品性の低い女性の話 し手を想起 させ る。(金水。2014)

(14)

冨樫(2012)の指摘 は、女性 キャラクタが使用す る男性 自称詞 「ボク」 だけでな く 「オ レ」 の場合 にも応用できるのではないか と考 える。 前節 で示 した西澤桃華 「裏」 の場合 、 キャラクタが変化 した際、彼女 はいわゆ る 「オ レ つ娘」キャラクタ として 自称詞 「オ レ」に対応 した男性語 を使用 してい る。この ことか ら、 桃華 「裏」は金水鬱

000の

主張す る「野性 的・ 攻撃的」なキャラクタを想起 させ、この点で 十分 な役割 を果た してい る と言 える。 さらに、富樫(201"は 「ボクつ娘」キャラクタを次の図3の よ うに規定 してい る。

{會

[勇

::│こ

Cが

2婁

I:,多

: 1葉

『奪

[図3] 図3において、言葉遣い全般が男性語の女性キャラクタの事例 として、富樫(2012)は手塚 治虫の『 リボンの騎士』 とい う作品を挙げている。次の(7)は、主人公のサファイアと臣下 のチンクとのや りとりを示 している。

(7)サ

ファイア 「いいや… ぼくは王子で いなければ ならないんだ かまわないで お くれ」 チンク 「だめです

だめです

1

王子さまは 女の子です」 (7)において、サファイア11はチンクの発話にもあるように「女の子」である。 しかし、一 人称に「ぼく」ゝ文末詞 「∼んだ12」 ゃ 「ぉくれ」といつた男性表現を使用 している。この 点においては、サファイアの言葉遣いに揺れは生 じていない。一方、言葉づかいのね じれ13 が生 じる女性キャラクタの事例 として、富樫(2019は 手塚治虫の『二つ 目がとおる』という 作品を挙げている。次の

Oは

、登場人物の一人である和登千代子の発話を示 している。

(0

和登「写楽クンに いったとこなのよ!! 約束を 守るのが 男だつて1! それなのに… ボクがやぶる なんて…」

Oに

おいて、和登の一人称 は男性 自称詞 の 「ボク」であるにもかかわ らず、文末 には女 性表現 「∼ の よ」が用い られ てい る。富樫0012)は、この よ うな言葉遣いの揺れ が生 じる女 性 キャラクタを 「ボクつ娘」キャラクタ として定義 してい る。 さらに、富樫0012)は 「ボク っ娘」キャラクタは “男 つぽ さの中にある女 らしさ"とい う二重の属性 を表出 している点に 特徴 がある と指摘 してい る。 これ らの ことを踏 まえる と、富樫9012)が提唱 した理論 は、自称詞「オ レ」を使用す る「オ レっ娘」キャラクタの場合 にも該 当 し得 る。 そ こで、独 自に 「オ レっ娘」キャラクタの概 11 サ ファイ アはいわゆ る男装 キャラで あ り、表 面上 は男性属性 と結びついた もの として 「ボ ク」 を使用 しているため、「ボクつ娘」キャラクタではない。(富樫 。2012) 12「 ∼んだ」は日語であ り、文語の 「∼のだ」に相当す る。鱈 井。1996)

B

以後 「言葉づかいのね じれ」 を、「言葉遣 いの揺れ」 に統一 して論 じる。

(15)

念 について整理す る と、図4の よ うになる。 一貫 して男性語 を使用す る女性 キャラクタ : 男性語 と女性語 が混在す る女性 キャラクタ: [図 4] 「オ レ」使用女性 キャラクタ 「オ レっ娘」キャラクタ C D r J ﹁ L この理論 に当てはめる と、図4の

Cに

該 当す るのは西澤桃華 (裏

)で

ある。一方、図4の

D

に該 当す るのは リンである。 西澤桃華 の場合、複数 の役割語 を用い ることで複数のキャラクタを使 い分 けてお り、そ の一つ一つ に強い対応 関係 が存在す る。 そのため、個 々のキャラクタにおいて言葉遣いの 揺れ が見 られ るこ とはない。 一方、 リンは部下である千尋 に対す る発話 において、彼女の言葉遣いに揺れ は生 じてお らず、一貫 して男性語 を使用 している。 この ことか ら、 リンは図4のCに該 当す る。その反 面、上司であ るハ クに対す る発話 にお いて、 リンは一人称 「アタイ」や文末詞 「∼ね」な どの女性表現 と文末詞 「∼か よ」や 「∼ね ぇよ」な どの男性表現 を混同 して使用 してい る。 つ ま り、 リンは言葉遣いに揺れが生 じる女性 キャラクタである とい うこともでき、 この点 において図4の

Dに

も該 当 し得 る。 そ こで、 リンのキャラクタと役割語 の関係 について整理す ると次の表

3の

よ うになる。 表

3

リンのキャラクタ と役割語 の関係性 キャラクタ 役割語 具体的表現 対 「ハ ク」 NA14 女言葉 「アタイ」「∼ね」 男言葉 「∼か よ」 対 「千尋 」 「オ レ」使用女性 キャラクタ 男言葉 「オレ」「∼ (する

)な

よ」 表

3に

おいて、 リンは千尋 に対 して一貫 して男性語 を使用 してお り、いわゆる 「オ レ」 使用女性 キャラクタ としての側 面 を有 してい る。そ して、 この 「オ レ」使用女性 キャラク タが リンに とつての素である と判断す ることが可能である。 なぜ な ら、役割語 とキャラク タの間には一対一 の対応 関係 が存在 してい るか らである。 一方、ハ クに対 しては男性語 と女性語 が混在 してい るため、一見す る とリンは 「オ レっ 娘 」 キャラクタで ある と判断 できる。 しか し、「オ レっ娘」 キャラクタは一人称 に 「オ レ」 を使用す るため、一人称 に 「アタイ」 を使用す る リンには該 当 しない。 そのため、彼女 の キャラクタは破綻 して しまってい る と言 える。 このいわゆる 「破綻 キャラ」 について、定延0011)は次 の よ うに指摘 してい る。 た とえば、≪二枚 目≫を演 じよ うとす る意図が露わになつて しまい、 ≪二枚 目≫として 破 綻 をきた した人物 には、≪キザ ≫とい う別 のキャラクタが割 り当て られ る。 ≪キザ ≫

И

NAと

NotApphcable)の

略称である。 ここで

NAと

記 しているのは、ハクに対する リンのキャラクタを特定することができないためである。

(16)

キャラとは、 ≪二枚 目》キャラを演 じよ うと意 図 し、その意図ゆえに≪二枚 目≫キャラ と して破綻す ることによつてできた破綻 キャラである。 リンの場合 、本来 は 「オ レ」使用女性 キャラクタであるが、上 司で あるハ クに対 して言 葉遣 いに揺れ が生 じ、「破綻 キャラクタ」 としての側 面が露見 して しまつてい る。 この破綻 して生起 されたキャラクタが、いわゆる 「チ ャキチ ャキ娘5」 キャラクタである。 これ らを 踏 まえた うえで、表

3を

改 めて整理す る と次 の表

4の

よ うになる。 表

4

リンのキャラクタ と役割語 の関係性 キ ャラクタ 役割語 具体的表現 対 「ハ ク」 チ ャキチ ャキ娘 女言葉 「アタイ」「∼ね」 男言葉 「∼か よ」 対 「千尋 」 「オ レ」使用女性 キャラクタ 男言葉 「オ レ」「∼ (する

)な

よ」 表

4に

おいて、 リンの 「チ ャキチ ャキ娘」 キャラクタ とは、ハ クに対 して別 のキャラク タを演 じよ うとす る意図が露見 した結果生 じた ものである。 この よ うな破綻 キャラクタは 「複合的なキャラクタ」 とも呼ばれ(定延.2011)、 あ る程度 自由にキャラクタを創 造す るこ とができる とい う特徴 を有 してい る。 この よ うな複合的な女性 キャラクタは、言葉遣 いの揺れ が生 じてい る とい う点において キ ャラクタ と役割語 の結びつ きが弱い。一方、西澤桃華や 「オ レ」使用女性 キャラクタ と して見た場合 の リンは、それぞれ のキャラクタが固有の言葉遣い を使用 してお り、結果 と して言葉遣 いに揺れ は生 じていない。 そのため、キャラクタ と役割語 の結びつ きも強い と 百 える。 本 章 では、アニ メや漫画 に登場す る女性 の発話 に着 日し、女性 のキャラクタの変化 と役 割語 の観 点 か ら議論 を進 めて きた。女性 のキャラクタが変化す る過程 において、男性表現 と女性表現 の混在 が見受 けられた。 この点においてキャラクタの常用性 がある とは言 えず、 結果 的 にそ のキャラクタが本来有す るもの とは異 な る 「破綻 キャラクタ」が生起 され るこ とにな る。 さらに、 この言葉遣 いの揺れ は、社会的上下関係 な どの環境 的な要 因によって 程度差 があ る とい うこ とを示 した。 一方、役割語 とキャラクタの変化が一対一 で対応 して い る場合 、変化後 のキャラクタに言葉遣 いの揺れ は見受 け られ なかった。つ ま り、変化後 の キャラクタにはそのキャラクタに応 じた役割語 が付与 され てい るため常用性 がある と言 うこ とがで き、結果 と して 「破 綻 キ ャラクタ」が生起 され ることもない。 そ して、言葉遣 い の揺れ の有無 にかかわ らず 、女性 キ ャラクタが変化す る過程 おい て は何 らかの引 き金 CtriggeDが存在す るこ とについて も言及 した。 このような女性のキャラクタの変化 とい うものは、マンガやアニメな どのよ うに、ある 程度 自由にキャラクタを設定す ることが可能な場面で多 く見受けられ る。では、教科書の 15「 チ ャキチャキ娘」の 「チャキチ ャキ」 とは 「生粋 の」 とい う意味であ り、いわゆる「江 戸 つ子」 に使用 され る枕詞 で ある。「江戸 つ子」の特徴 としては、「向 こ う見ず」「喧嘩 つ早い」な どが挙げ られ るが、 この特徴 は 「チ ャキチャキ娘」にも該 当 し得 る。 14

(17)

文学教材における登場人物にもこのよ うなキャラクタの変化 とい うものは生 じ得 るのか、 とい うことについて次章以降で検証す る。 第

3章

文学教材における発話キャラクタの役割語 この第

3章

では、中学校国語科の文学教材 を用いて、発話キャラクタの役割語について 論 じる。なお、使用す る教科書は、平成 13.17.23年検定の中学校国語 (1∼

3年

)で

あ り、 三省堂 。光村図書・学校図書・ 教育出版・東京書籍の五社である。 第

1節

く私たち〉タイプの発話キャラクタ 第

1章

3節

において、「発話キャラクタ」の特徴 を述べた。「発話キャラクタ」につい て、定延0011)は次のよ うに指摘 している。

<現

代 日本語 (共通話

)社

会の住人

>タ

イプ、つま り

<私

たち

>タ

イプ と、

<異

>タ

イプ、つま り

<架

空社会の住人タイプ

>に

分類 している。 さらに、

<私

たち

>タ

イプの 発話キャラクタの大体の特徴 は、「品」「格」「性」「年」 とい う四つの尺度により分類が 可能である。 例 えば、「わ しが発明 したの じゃ」 とい う発話か らは、我々は博士キャラクタとい うもの を思い浮かべるだけでな く、この博士キャラクタが 「格」の高い老人で 「性」が男である とい う特徴まで想起す ることができる。その うえで、定延0011)は、「品」「格」「性」「年」 の値 を次のように定義 している。 「品」とは、当該社会が課す文化的制約か ら逸脱せず、その中にお となしく、慎み深 く、 控 え日にお さまるが、その行動はあ くまで 自由で美 しく見え、制約 を感 じさせ ない、 とい うのが 「上品」で、そ うでないのが 「下品」である。 定延Q011)が定義する 「品」について、金水(2011)は次のように詳述 している。16 上品な話 し方をす るか どうかは、社会的地位・ 教育程度・ 地域・性差・年齢・世代 とは 一応独立の尺度であるが、それぞれの因子に対する相関はある。まず、社会的地位が低 く、また教育程度が低いほ ど、話 し方の品位 も期待度が低い。周縁地域 に育つた人は中 央・都会に育つた人に くらべて品位 の期待度が低い。同 じ共同体 。社会的地位 でも、女 性 は男性 より高い品位が期待 され る。若い世代の方が老人 よりも品位の期待度が低い。 金水0011)は、ある人物の「品」の値が 「上品」か 「下品」かの判断基準は、周辺環境 に 起因することを指摘 している。さらに、「品」の値は「性」や 「年」との結びつきにおいて、 ある程度ステ レオタイプ化 されて特定 され得 るものである。 次に、「格」 とは経験や力や地位 な どか ら総合的に醸成 されたものであ り、「格」の値 は

“金水0011)第

1章

p.12

(18)

上か ら

<別

><格

><格

><ご

まめ

>の

四つ に分類す ることができる。 ここでい う

<別

>と

は 「神様 キャラクタ」 なるものを指すが、本研 究 においてはその よ うなキャラ クタは存在 しないため、考察対象外 とす る。 次 に、「性 」 においては伝統的 な通念 。期待 が依然 として存続 してお り、「男 は女 よ りも 格 が上」、そ して 「女 は男 よ りも品が上」 とい うものである。 これ は、前述 した金水(2011) の 「品」 についての定義 とも密接 に関連 してい る。 最後 に、「年」 の値 は四つ に分類 され てお り、その最上域 を 「老人」、最 下域 を 「幼児」 とす る。 これ らの間に 「年輩」 と「若者」が順 に位置 している。定延(2011)は 「年」の値に 関す る具体的 な数値 を設定 していない。 そのため、本稿では便宜上、「老人」の値 を

60歳

以上 、「年輩」の値 を

30歳

以上

60歳

未満 、「若者」の値 を

10歳

以上

30歳

未満 、「幼児」の 値 を

10歳

未満 に規 定 して議論 を進 めるこ とにす る。 以上、四つ の値 「品」「格 」「性 」「年 」 の 中で、「品」「性 」「年」の二つの値 については 個人 に よって決定 され るものであ る と言 える。 しか し、「格」 の値 については他者 との比較 に よって しか特定す ることはできない ものである。 教科書 に掲載 され てい る文学教材 において、 この (私た ち〉 タイプの発話キャラクタの 特徴 である 「品」「格」「性」「年」 とい う値 は会話文 中において判断す ることができ、人称 代名詞や文末表現 がその判 断の基準 とな り得 る。 そ こで本節では、文学教材 の『 空 中ブ ラ ンコ乗 りのキキ』(中学校 国語一年 。三省堂

)を

例に挙げ、登場人物の「品」「格」「性」「年」 の値について検討 を加 える。なお、「品」「格」「性」「年」の値については、前述 した定延(2011) の分類規定に従 う。 考察に先立ち、『 空中ブランコ乗 りのキキ』の作品設定について説明す る。本作品の主要 な登場人物は、サーカスの団員で主人公のキキ、サーカスの団長、キキが街で偶然出会 っ たおばあさん、キキの同僚で ピエ ロのロロ、の四人である。 この四人には社会的地位が付 与 されてお り、発話キャラクタの 「格」の値 を特定す る際の根拠 とな り得 る。最 も地位が 高いのはサーカスの団長であ り、次に団員で同僚のキキとピユ ロのロロが並ぶ。最下層 に は、一般市民 として描かれているおばあさんを位置づけることができる。 この四人の登場人物の発話 において、(私たち〉 タイプの発話キャラクタの特徴である 「品」「格」「性」「年」の値が見受けられる。そこで、これ らをモデル化すると、次の表 5 のようになる。なお、「格」の値については他者 との比較によつて特定 したものを示す。

5

『空中ブランコ乗りのキキ』の登場人物の特徴

口 m 「格」 「性 」 「年」 キ キ 団 長 おばあさん ロ ロ 上記の表

5に

、「品」「格」 のキキの特徴 について論 じる。 「性」「年」の値 を代入 しなが ら議論 を進 める。 まず、主人公 次の(1)は、団長 に対す るキキの発話 の一部 を示 してい る。 16

(19)

(1)「 みんな、一生懸命、練習を していますもの。そ うしたら、■ の人気は落ちて しまう で しょう。」 (1)において、主人公であるキキの 「練習を しています もの」 とい う発話か らは、キキ自 身の 「性」を判断することはできない。 しか し、キキの一人称は 「私」であることか ら、 読み方 としては二通 りの解釈が可能である。 一つは、「私」を「わた くし」 と訓読みす る場合 である。 この場合、一人称 「わた くし」 や文末詞「∼もの17」 とぃ ぅ表現か ら、キキは「品」のあるお嬢様キャラクタを想起 させ る。 もう一つは、「私」を 「わた し」 と訓読みする場合である。一般的に 「わた し」は女性が用 いる一人称である。 しか し、「私 (わた し)」 とい う表現は男性 も使用す るため、キキは大 人の男性 キャラクタであると考 えることもできる。 この場合、一人称 「わた し」や文末詞 「∼もの」 とい う表現か ら、キキは上品な男性キャラクタをも想起 させ得る。 作中において、他の発話か らキキの 「性」の値を判断す る十分な根拠は無い。そのため、 「私」の読み方次第では、キキの「性」の値 を男女双方に解釈することができる。そこで、 次の② の発話に着 目したい。(2)は、同僚のロロに対す るキキの発話を示 している。 (2)「 人気が落ちるということは、きつと寂 しいことだと思 うよ。お客 さんに拍手 して もらえない くらいなら、私は死んだ方がいい。J (1)の発話において、キキの「性」は男女双方に解釈することができると述べた。しか し、 0)の発話において、「∼いい」とい う断定的な表現が用いられている。さらに、下線部の「思 うよ」とい う表現は、金水

0000が

提唱す る「普通体

+よ

」の形をとる男性専用表現に当て はめることができる。これ らのことを加味す ると、キキの「性」の値は男である。さらに、 (1)の発話 より、キキは「品」の値の高い上品なキャラクタであると判断す ることができる。 次に、キキの 「格」の値について考察する。② において、キキは格上である団長に対 し、 「∼ (して

)い

ます もの」のよ うな丁寧かつ上品な表現を使用 している。一方、キキは同 僚の ロロに対 し、断定的な表現を使用 している。 これは、キキが相手に応 じて言葉遣いを 使い分けているため、スタイルの変化であ リキャラクタの変化ではない と言える。つま り、 キキの 「格」の値 は団長 に対 して

<格

>と

なる。一方、ロロに対 しては

<格

>の

物言 いではなく同等程度に しかな らない。そのため、ロロに対す るキキの 「格」の値 を特定す ることはできない。また、「年」の値についても、キキの発話から特定することはできない。 ここまでの考察をまとめると、キキの特徴は次の表

6の

ようになる。なお、「格」の値に ついては、団長に対す るものを示 している。 表

6

発話 キャラクタ としてのキキ 「品」 「オ孝争」 「性 」 「年」 キ キ 上 品 格 下 男 NA 17

金水

(2000は

、「∼もの」という文末詞が女性専用表現であることを示唆している。

17

(20)

一方、『 空中ブランコ乗 りのキキ』以外の作品において、「∼もの」 とい う文末詞を使用 する登場人物は数多く存在する。以下、それ らを列挙する。 ① ② 「だってえ、あた しが行かないと、おばあちゃんは泣きた くなるんだそ 『 小 さな手袋』 シホ (女 。 「今 日もまた雨か…。 しかたないわね。菜種梅雨だもの。」

『私の好きな春の言葉』

『ベンチ』

フリー

『デューク』

『みどり色の記憶』

真奈

(女

うだ もの。」 小学三年生) 俵万智 (女) ドリヒ (男) (女 。

21歳

) 高校

2年

生)

③「彼女は収容所行きなんだもの。

④「水着もつてないもの。

⑤「ほんと忙しいもの。

教科書五社の中で、文末詞 「∼ もの」を使用する登場人物は、上述 した五人である。「∼ もの」使用者の特徴 として、年齢の比較的若い女性が多い ことが挙げられ る。 金水

0009は

、「∼もの」 とい う文末詞は女 性専用表現であると指摘 している。 この指摘 に従 うな らば、③のフ リー ドリヒ以外の登場人物は女性であるため、文末詞 「∼もの」を 使用す ることに問題は無い。 しか し、③のように、男性であるフ リー ドリヒが文末詞 「∼ もの」を使用する事例 も存在 している。 この点か らも、『 空中ブランコ乗 りのキキ』に登場 す る男性のキキが 「∼もの」 とい う文末詞 を使用す ることで、中性的なキャラクタを想起 させ る効果があると言える。 次に、団長の特徴について考察す る。次の(9は、キキに対する団長の発話を示 している。

(9「

おまえさんは、世界一のブランコ乗 り査。だつてどこのサーカスのプランコ乗 りも、 二回宙返 りしかできないんだからね。」 (3)において、団長は二人称に 「おまえさん」、文末に 「∼ さ」「∼だか らね」 とい う表現 を使用 している。 この発話が団員であるキキに対す るものであることを考慮す ると、「おま えさん」のような言い方か らも、団長の社会的地位 に比例 し、「格」の値 も

<格

>で

ある ことを示唆 してい る。しか し、(うにおいて、その他の値について特定す ることはできない。 そこで、次の発話に注 目したい。

0も

同様 に、キキに対す る団長の発話 を示 している。

(0「

心配 しな くてもいい。誰にも三回宙返 りなんてできや しないさ

pそ

れに、もし、誰 かがや り始めたら、おまえさんは四回宙返 りを してみせればいい じゃない力ゝ」 ④ において、傍線部の 「∼いい」「∼ さ」「∼か」 といつた断定的な表現は、一般的に男 性のもの と考えることができる。つま り、 この段階では、団長の 「性」の値は男であると 考えるのが妥当である。また、キキのよ うに上品かつ丁寧 な物言いは見受 けられず、団長 の 「品」の値は下品と考えることができる。 ところで、④ の発話か らでは、団長の 「年」の値について特定す ることができない。そ こで、(3)と④ の発話において、団長が使用す る二人称 「おまえさん」 とい う表現に着 目す る。 この 「おまえさん」 とい う呼称は、おばあさんの発話 にも見受けられる。次の(5)と③ 18

(21)

は、キキに対するおばあさんの発話を示 している。 (5)「 おまえさんは知っているかね?」

G)「

おまえさんは、お客 さんから大きな拍手をもらいたいという、ただそれだけのため に 死 ぬ の か ね 。」 おばあさん とい うキャラクタは事実上、「性」は女性、「年」は老人であるとい うことが 特定できる。③ と③ において、そのおばあさんが二人称に「おまえさん」を使用 している。 このことか ら、団長は男性表現 を用いた女性キャラクタである可能性 も否定できない。女 性であるおばあさんと発話形態の類似点が多いことか ら、団長は女性であるとも考 えられ る。他方、おばあさんのような老人キャラクタには中性的な表現が多いため、一概 に団長 とおばあさんの「性」の値 を比較す ることはできない。しか し、団長が男性であるな らば、 両者の発話 に共通点が多いことか ら、おばあさんの老人キャラクタは女性 よ り男性 に近い ものであると言 える。 このよ うに、団長 とおばあさんには類似表現が多 く見受 けられ る一 方、団長の 「性」「年」の値については特定することができない。おばあさん と同様、団長 の 「性」の値 は 「女」であ り、「年」の値 も高い老人キャラクタとい う可能性 もある。 以上より、発話キャラクタとして見た場合の団長の特徴を整理す ると次の表

7の

よ うに なる。なお、「格」の値については、キキに対す るものを示 している。 表

7

発話 キャラクタ としての団長 「品 」 「格 」 「`性」 「年」 団 長 下 品 格 上 NA NA 次 に、お ばあ さんの特徴 につ いて考察す る。「おばあ さん」 とい う事実か らも、発話 キャ ラクタ として見た場合、おばあ さんの「性」は女性 、「年」は老人であることが期待 され る。 ここでは、上記の

Oと

Oの

発 話 よ り、お ばあ さんの 「品」「格 」の値 について考察す る。 ⑤ とお)において、「∼かね」 とい う文末詞 は老人 キャラクタを想起 させ 、おばあ さんのキ ャラクタ と一致す る。一方 で、「∼かね」 とい う表現 は権威 のあ る男性 キ ャラクタを も想起 させ 、同時 に相手 (こ こではキキ

)を

見下 した よ うな印象 を読み手 に与 える。この こ とは、 キキ よ りもおばあ さんの 「格」の値 が格上であることを示 してお り、「年」の高 さと「格」 の高 さの間には、ある程度 において相 関関係 がある と言 える。 また、「格」の高 さに反比例 し、キキの よ うな上品かつ丁寧 な表現 は見受 け られ ない。 そのため、おばあ さんの 「品」 の値 については下品である と言 える。 以上 よ り、発話 キャラクタ として見た場合 のお ばあ さんの特徴 を整理す る と次 の表

8の

よ うになる。 表

8

発話 キャラクタ としてのお ばあ さん 「品」 「格」 「`性 「年 」 おばあさん 下 品 格 上 NA 老 人

表 9 発話 キャラクタ と しての ロロ 「品 」 「格」 「 1」 L」 「年」 ロ ロ 下 品 格 上 NA 若者 or老 人 表 9に おいて、 ロロの 「年」の値 に幅が生 じる要因 としては、 ロロと同様 の言語体系を 「年」の値が低いキャラクタと「年」の値が高いキャラクタの双方が使用 したためである。 そ して、 このよ うな言葉遣いの揺れが ロロの破綻 したキャラクタを形成 しているのである。 以上 よ り、全 ての登場人物 の特徴について整理す ると次 の表 10の よ うになる。なお、
表 14  動作表現 「笑 う」の分類 男 女 NA 合 計 A.明 示的 ノ自発的 20 13 4 (30 B.明 示的 /作 為的 12 3 5 (20) C.明 示 的 ノ NA 0 3 (a D̲非 明示的 ノ自発 的 0 0 (1) E.非 明示的 /作 為的 9 2 0 (3) 合 計 35 21 10 66(60 全五社の教科書における文学教材 の中で、動作表現 「笑 う」は全 64例 (動 作主 は全 66 人 36)見 受 け られ た。 この うち、明示的表現 は計 60例 で全体 の約

参照

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