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「情」に関する表現 明示 的表 現 非 明示的表現

「情」以外 の表現

動作表現 の分類35

さらに、全ての教科書 に掲載 され てい る文学教材 において、「情」に関す る動作表現、 と りわ け 「笑 う」に着 日し、分類・ 整理 を行 つた。まず、「笑 う」 に関す る動作表現の分類 を 表 14に示す。

表14において、明示的表現 と非明示的表現 を独 自に 自発的・作為的の二つ に細分化 した。

自発 的 とは動作主が 「笑 う」 とい う行為 を無意図的 に行 つている場合 を指す。例 えば、「く す くす笑 う」「け らけ ら笑 う」な どの動作表現が これ に相 当す る。一方、作為的 とは動作主 が 「笑 う」 とい う行為 を意 図的 に行 つてい る場合 を指す。例 えば、「ニタ リとほ くそ笑む」

「鼻で笑 う」などの動作表現が これに相 当す る。

縦軸 には、「A.明 示的 ノ自発的」「B.明 示的 ノ作為的」「C.明示的 /NA」 「D.非 明示的 /自 発 的」「E.非 明示的

/作

為的」の五つ に整理 した もの を示 してい る。 さらに横軸 には、五つ の項 目それぞれ について動作主の性別 ごとに分類 を行 つた。 なお、表 中の

NAと

は、教科 書 の文脈 に よつて も判断のつかない ものを指す。

35 図

8は

「笑 う」以外 の動作表現にも該 当 し得 るが、本稿 では「笑 う」に限定 して分類 し、

議論 を進 める。

14 

動作表現 「笑 う」の分類

NA 合 計

A.明

示的 ノ自発的 20 13 4 (30

B.明

示的

/作

為的 12 3 5 (20)

C.明

示 的 ノ

NA

0 3

(a

D̲非

明示的 ノ自発 的 0 0 (1)

E.非

明示的

/作

為的 2 0 (3)

合 計 35 21 10 66(60

全五社の教科書における文学教材 の中で、動作表現 「笑 う」は全

64例

(動作主 は全 66 人36)見受 け られ た。 この うち、明示的表現 は計

60例

で全体 の約94%37、 非明示的表現 は 計

4例

で全体の約

6%で

あった。 さらに、自発 的な動作表現は計37例で全体の58%、 作為 的 な動作表現 は計

23例

で全体の約

36%を

占めてい る。また、明示的表現

60例

の うち 自発

的 な動作表現は計36例で全体の 60%、 作為的な動作表現は計

20例

で全体の約

33%で

あつ た。 この結果か ら、「笑 う」 とい う動作表現は明示的表現が大半 を占める一方、作為的な表 現 も約

3割

を占めてい る。 また、非明示的な表現が少ない ことか らも、「笑 う」 とい う動作 表現 は明示的 に表現す るこ とが効果的である と言 える。

一方、横軸 には動作表現 の動作主の性別 ご とに整理 した ものを示 してい る。性別 の観 点 か ら見る と、男性 の動作表現

35例

の うち、明示的表現 は計

32例

で約 91%、 非明示的表現 は計

3例

で約9%、 自発的表現 は

21例

で 60%、 作為的表現は14例で

40%で

あった。また 女性 の動作表現

21例

の うち、明示的表現 は計 19例で約 90%、 非明示的表現は計

2例

で約 10%、 自発 的表現 は計13例で約 62%、 作為的表現 は計

5例

で約

24%で

あった。 この結果 か ら、男性 女性 ともに 「笑 う」 とい う動作 を明示的 に表現す る場合 が圧倒的多数 を占めて い ることがわか る。 しか し、女性 よ りも男性 のほ うが作為的 に表現す る場合 が多い ことも 窺 える。

本節 で は 「情」 に関す る動 作表現 「笑 う」 につ いて分類・ 整理 を試 みた。 この分類結果 を踏 まえ、「情」 に関す る動作表現 「笑 う」について作品や登場人物 を取 り上 げ、表現 キャ ラクタの特徴 (「品」「格」「性 」「年」

)と

い う観点か ら具体的に検討 を加 える。表現 キャラ クタの 「笑 う」に関す る明示的な動作表現 については第

2節

、「笑 う」以外 の動 作表現 につ いては第

3節

で論 じる。なお、「笑 う」に関す る非明示的表現 については考察対象外 とす る。

2節  

「 笑う」に関する明示的動作表現

本節 では、表現 キャラクタの 「笑 う」 にお ける明示的な動作表現 について考察す る。特 に代表的な動作表現、

4作

品計

4例

を取 り上 げて検討 を加 える。その際、10代か ら

40代

の 大学生229名 (男性 56名、女性 173名

)に

対 してア ンケー ト調査の協力 を要請 し、動作表 一つの動作表現を複数の動作主が共有 している場合があるため、動作表現の用例数 と動

作主の数は一致 しない。なお、用例については別紙の資料1を参照のこと。

小数点第一位 を四捨五入 した値を示 している。以下、同様 とする。

42

現か ら受ける人物のイメージについての回答を得た。 このアンケー ト結果 を基に、作 中の 動作表現が表現キャラクタの特徴にどのよ うな影響 を与えるかについて論 じる。

まず、「くす くす笑 う」 とい う動作表現について、作品 と登場人物 とともに次に示す。

①少年はときどきおもしろそ うに くす くす笑つたけれ ど、私は結局一度 も笑えなかった。

『 デューク』 少年 (男 。19歳)

② どんな有名店のケーキよ り、真奈たちとくす くす笑つた り、お しやべ りした りしなが ら、日いっぱいに頬張つたパンのほうがずっとおい しい。

『 み どり色の記憶』

 

千穂 (女 。中学三年生)

①②において、下線部の 「くす くす笑 う」 とい う表現の動作主の 「年」の値は、論者独 自の分類規定38に従 うと、ともに

<若

>に

該当す る。この「くす くす笑 う」とい う動作は、

少な くとも「年」の値が高い老人キャラクタが用いる表現であるとは考えにくい。む しろ、

上品な女性、あるいは幼児キャラクタを想起 させ る表現である。

では、この 「くす くす笑 う」 とい う動作表現について、大学生 を対象 としたアンケー ト 結果のデータを別紙の資料

2に

示す。なお、調査項 目は表現キャラクタの特徴の うち 「品」

「性」「年」の三項 目に限定 した。「格」の値については前述 したように他者 と比較 しなけ れば特定できないため、今回のアンケー トでは調査対象外 とした。

アンケー ト結果によると、「くす くす笑 う」 とい う動作表現は 「品」の値 こそ回答数は拮 抗 しているが、「性」の値は女、「年」の値 は若者 とい うイメージを抱いている人が圧倒的 多数であることがわかる。 この結果は、②の登場人物である千穂 (女 。中学三年生

)の

特 徴 と一致する。 しか し、①の登場人物である少年 (男

19歳 )の

ように男性が用いること により、「品」の値が高 く中性的であ り、かつ 「年」の値の低いキャラクタを想起 させ る役 割語 とな り得 る。一方、「品」の値については、男性が

<上

品>と回答 している世代が多い のに対 し、女性は全世代で

<下

品>と回答 している人の方が多い。これは、「くす くす笑 う」

とい う動作表現が男性 と女性で捉 え方が異なっていることを示 してお り、全体 としてみた 場合にも「品」の値は

<下

>で

あるとい うイメージを持 っている人が多い。

以上のアンケー ト結果 をま とめると、「くす くす笑 う」 とい う動作表現は 「年」の値が低 い下品な女性キャラクタを想起 させ る役割語であると言える。

次 に、「けらけら笑 う」 とい う動作表現について、作品 と登場人物 とともに示す。

③私が言 うと、娘 (シ

)は

けらけらと笑つた。 『 小 さな手袋』シホ (女・小学二年生)

③ において、「けらけ ら笑 う」 とい う動作表現は少な くとも「年」「格」の値が高いキャ ラクタが使用するもの とは考えにくい。む しろ、「年」の値が低い幼児 キャラクタを想起 さ せ る表現である。実際、下線部の「けらけら笑った」とい う表現の動作主の 「年」の値は、

論者独 自の分類規定に従 うと

<幼

>に

該 当す る。 しか し、この動作表現か ら「性」の値 について特定することはできない。

「年」の値に関する分類規定については、第

3章

1節において詳述 している。

では、 この 「け らけ ら笑 う」 とい う動作表現 について、大学生 を対象 としたア ンケー ト 結果 のデー タを別紙 の資料

3に

示す。アンケー ト結果 によると、「け らけ ら笑 う」 とい う動 作表現 は、「品」 の値 は

<上

>、 「年」の値 は

<若

者>とい うイ メー ジを抱いてい る人が 大多数 を 占めてい る こ とが分か る。 しか し、「性」の値 については回答数が措抗 してい る。

この点について、定延001つの「観点 どうしの連動」とい う考えに則つて考えると、③は「年」

(若者

)と

い う観点の値が 「性」(無指定

)と

い う観点の値 を決定 した例 を示 している。

この結果か ら、③の登場人物であるシホのように、「年」の値の低い幼児キャラクタが「け らけ ら笑 う」 とい う動作表現を使用す ることにより、実際 よりも 「品」の値が上品なキャ ラクタを想起 させ る役割語 として機能 し得 ることがわかる。

次に、「しわがれた声で低 く笑 う」とい う動作表現について作品 と登場人物 とともに示す。

④「ばかな。 」と暴君は、しわがれた声で低く笑つた。    『走れメロス』 国王

(老

)

④ の国王 の動作表現 は、「品」 の値 は下品、「性 」の値 は男、「年」 の値 は老人のキャラク タを想起 させ る。実際、下線部 の動作主である国王は男性 かつ老人である。

で は、 この 「しわがれ た声で低 く笑 う」 とい う動作表現 について、大学生 を対象 とした ア ンケー ト結果のデー タを別紙 の資料

4に

示す。ア ンケー ト結果 による と、「しわがれた声 で低 く笑 う」 とい う動作表現 は、「性」 の値 は

<男

>、 「年」の値 は

<老

>あ

るいは

<年

>が

圧倒 的多数 を占めてい る。 しか し、「品」の値 については

<下

>が

わずかに優勢で

あるが、上品 と下品の回答数 は拮抗 してい る。特 に、男性 は全ての年代 において

<下

>

と回答 してい る人が多いのに対 し、女性 は

10代

30代

<上

品>と回答 してい る人が多 い。 これは、「しわがれ た声で低 く笑 う」 とい う動作表現が、男性 と女性 で捉 え方が異なっ てい ることを示 してい る。

ここで注 目すべ きは、「性」 の値 が

<男 >で

あるに も関わ らず、「品」の値 が

<上

>で

ある と回答 した人 が多い点である。 この点 について、 日本語社会 には 「女性 は男性 よ り品 が上」 とい う通念 。期待 が存在 してい る。(正宗 。1998,金 水̲2010,定延.2011)つま り、「し わがれた声 で低 く笑 う」 とい う動作表現 は三者 の主張 に反 してお り、上 品な男性 キャラク タを想起 させ る役割語 としての機能 を果 た してい る と言 える。一方、「年」の値 を

<老

>

<年

輩>と回答 した人 が大多数 を占めてい るに も関わ らず、「性」の値 を

<男

>と回答 し た人が大多数 に及 んでい る。この点 について、定延0011)の「観点 どうしの連動」とい う観 点 に照 らし合 わせ ると、「年」の値 (老人や年輩)力`「性」 の値 を無指定 にす る とい う主張

とも矛盾 した結果 を招 いている。

以上 よ り、「笑 う

Jと

い う動作表現か ら動作主の 「品」「性」「年」の値 について整理す る と、次の表 15と表

16の

よ うにな る。 なお、表 15の値 について は論者独 自の分析 を、表 16の値 については大学生 を対象 に行 つたア ンケー トの結果 をそれぞれ示 してい る。

作 中にお ける表現 キャラクタの特徴

動作主 動作表現 「笑 う」 「品 」 │」ヒ」 「年」

①少年 くす くす笑つた 上 品 NA 若 者

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