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近世・近代期における「はず」の変遷 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 菅    由 美 子

学 位 論 文 題 名

近世・近代期における「はず」の変遷 学位論文内容の要旨

  この論文では、(1)名詞「はず」からモダリテイ形式「はずだ」へという文法化の過程を 明らかにすること、(2)「はず」の変遷を通して、近世・近代期から現代にいたるモダリテ イ体系を考察すること、(3)現代語モダリテイ形式「はずだ」の包括的な記述のために、「は ず」に関わる変遷の全体像をとらえることを目的としている。

  第1章では、上に述べた三つの 研究の目的を示し、文法化・モダリテイという概念に関す る本論文の立場を明らかにした。また、本論文が、用例を集計し、独立性の検定を行うなど、

計量 的手法を用いていること、そして、現代語と古語を対照させて説明を行う、史的対照と いう方法をとっていることを述べた。

  第2章では、「はずではない」の減少と、「はずだ」の意味(当該の「はずだ」が推論過程 を含むものであるか否か)に着目し、「はず」の文法化の過程を論じた。モダリテイ形式「は ずだ 」は近世の寛永から元禄の頃に出現するが、これは、抽象概念を表す形式(はずだ/は ずがない[機能動詞結合]→はずだ/はずではない[文末名詞十だ])→モダリテイ形式(は ずだ /はずがない)という変化を提示する。また、近世期にさかんに用いられ、そののち衰 退した、詠嘆を表す「はずのことだ」、単独で用いられる「そのはず」、近世期末における用 法 上 の 制 約 の 変 化 な ど 、 「 は ず 」 の 意 味 ・ 用 法 に つ い て 包 括 的 に 記 述 し た 。   第3章では、「はずではない」について、近世期から現代までの変遷を記述した。初期には 直接 否定だけであった「はずではない」の用法は、そののち、反語表現・連体法などの用法 を加え、現代語では、@直接否定「はずではない」、◎非過去形反語表現「はずではないか」、

◎非過去形連体法「はずではない十N」、@過去形否定「はずではなかった」、◎「こんなは ずではない」、◎過去形反語表現「はずではなかったか」、◎「こんなはずではなかった」、◎

過去 形連体法「はずではなかった十N」のハつの用法であることを示した。そして、これら ハつ の用法は、近世期には直接否定、近代期には非過去形反語表現、現代語では非過去形反 語表現・過去形反語表現.「こんなはずではなし〕」「こんなはずではなかった」が、それぞれ 主な 用法となっていることを計量的に示した。さらに、過去形連体法「はずではなかった十 N」は、ごく近年に出現した可能性があることを指摘した。

  第4章では、「はず」のニつの否定表現「はずではない」「はずがない」の慣用的用法であ る、「こんなはずではない/こんなはずではなかった」「そんなはずはない」をとりあげ、こ のニつの用法がほぼ同時期、明治後期(1888‑1911)に出現していることを示した。また、「こ んな」「そんな」が交替した、「そんなはずではなかった」「こんなはずはない」などの類型が 存 在 す る こ と を 示 し 、 そ れ ら の 類 型 の 出 現 理 由 に つ し ゝ て 考 察 し た 。

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  第5章 で は 、近 世 ・近 代期 にお け る、 「は ず」 に上 接 する 「う (む )」 に つい て論 じた 。 第 一 に、「う(む)」は、「はず だ」「はずがない」「はず の」などの「はず」形式のうち、「はず が な い 」 に ほ ぼ 専 用 に 上 接 す る 、 と い う先 行研 究の 指 摘を 計量 的に 確認 し 、そ の働 きが 「 事 態 が現実ではないことを示す」 ものであることを論じた。第二に、「はず」に上接する「う(む)」

は 、 近 世 期 か ら 近 代 期 末 に か け て 出 現 率が ゆる やか に 下降 して いる が、 こ れは 助動 詞「 う 」 の 連 体法 が減 少し た結 果 、起 こっ たものであることを論じた 。第三に、「はず」に上接 する「う

( む )」 は、 近代 期に 入 ると 、意 志性のない述部に下接する 、「あろう」「できよう」 などの例 が 多 くな るが 、こ れは 「 食べ よう 」「 行 こう 」な どの 「意 志 性の ある 述部 十う 」に対 して、推 量 で は な く 、 意 志 の 解 釈 が 優 先 す る よ うに なっ たた め であ るこ とを 論じ た 。さ らに 、現 代 語 で は 、近 世・ 近代 期に は 用例 のな しゝ 「 だろ う」 が「 はず 」 に上 接す る例 が出 現して いること を 指摘した。

  第6章で は 、近 世‐ 近代 期に お ける 、「 はず 」に 上 接する 、「べき」「べからざる」 「なけれ ば な らな い」 「て はい け なし ゝ」 等の当為・禁止の表現にっ いて論じた。第一に、当為 ・禁止の 表 現 が 「 は ず 」 に 上 接 す る 例 は 、 近 世 期か ら近 代期 初 めに かけ て増 加し 、 その のち 減少 に 転 ず る が、 近世 期か ら近 代 期初 めに かけ て の増 加は 、そ の時 期 の「 はず 」か ら当 為を表 す意味・

用 法 が失 われ かけ た結 果 生じ たも ので あ り、 その のち の減 少 は、 「べ き」 が単 独でそ れまでの

「 べ き十 はず 」の 意味 を 表す よう になったからだと考えられ ることを論じた。第二に、 「はず」

に 上 接す る「 なけ れば な らな い」 は近代期にはまだ少なく、 「べき」の用例がはるかに 多いが、

「 な け れ ば な ら な い 」 の 割 合 は 、 明 治 前 期 (1868‑1887)か ら 大 正 期 (1912‑1926)に か け て 増 加し てお り、 これ は 、「 はず 」の上接位置で当為を表す 新旧モダリテイ形式が混在 しつつ、

や が て交 替へ 向か う状 況 を示 して いる こ とを 論じ た。 第三 に 、近 代期 には 、「 べき」 「べから ざ る 」が 連体 法「 はず の 」に 上接 する 割 合が 増加 して いる が 、こ れは 、旧 形式 である 「べき」

が 、 ま ず 終 止 法 「 は ず だ 」 で 失 わ れ て い っ た こ と を 示 し て い る と 論 じ た 。   第7章 で は 、「 は ず」 とい う個 別 の言 語現 象を 越え た 、モ ダリ テイ 体系 ・ 名詞 から モダ リ テ イ 形 式 へ の 変 化 の 過 程 な ど 、 原 理 と し て の 文 法 記 述 が 今 後 の 課 題 で あ る こ と を 述 べ た 。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

近世・近代期における「はず」の変遷

  日本語史研究にお いて古くから自立語(内容語)から付属語(機能語)への変化は注目さ れていたが、近年、「文法化」という新たな研究方法の枠組みの中で、この問題の理論的・実 証的研究がより深化 ・発展している。このような研究状況を踏まえて、この論文では、事柄 を当然そうであるに違いないと推定する「はずだ(筈だ)」をとりあげて、近世初期から現代 にいたるまでの日本語資料を詳細かつ丹念に調査して、その変遷を記述したものである。「は ずだ」は、これまで の日本語史研究では「推量の助動詞」に相当するが、この論文では、近 年の現代語研究の成果との対照を意図して、モダリテイ形式「はずだ」として論述を進める。

  「はず」は、弓の弦を受けるところ(弓筈)、矢の上端で弓の弦をかけるところ(矢筈)の 意味を表す名詞であったのが、矢筈と弦とはよく合うところから物事が当然そうなること(道 理・筋道)の意味を 表すようになり、転じて予定・手筈・約束の意味になったとされる。

  この論文では、(1)名詞「はず」からモダリテイ形式「はずだ」へという文法化の過程を 明らかにすること、(2)「はず」の変遷を通して、近世・近代期から現代にいたるモダリテ イ体系を考察すること、(3)現代語モダリティ形式「はずだ」の包括的な記述のために、「は ず」に関わる変遷の全体像をとらえることを目的としている。

  「はずだ」は、「っもりだ」「わけだ」などと同様に、名詞からモダリテイ形式への変化の 様相が観察できる好 個の事例であり、これまでにも関心を持たれていたが、とりわけ、山口 尭二(2002)によって 、近世期における「はず」の比喩的意味がひろがり、「はず十だ」の 述語の用法、さらに 「はずだ」の推定辞化(モダリティ形式への変化)のおおよそが概観さ れた。この論文では それを詳細かつ徹底的に再検討して確固たる用例を多数収集・記述する とともに、特に「はずでは剏い」「はずがない」との関連からモダリテイ形式を論じた点に大 きぬ特色があり、こ の方面の研究を格段に前進させたと言える。また近世期を4期に、近代 期を3期に区分して、数千例に及ぶ用例を収集・整理し、計量言語学的手法で分析した点も 特 色で ある。例文の豊富 さと説明の丁寧さにも特色があり、第2章では246例、第3章では 104例 、 第4章 で は57例 、 第5章 で は24例 、 第6章 で は19例 を 例示 し、 懇切 に論 述し て いる。近世語の研究 は、前期上方語と後期江戸語とに区分し、階層・年齢・性別等の位相を 勘案して分析するの が常套であるが、この論文ではその方法を取らない点が問題として指摘 はできるものの、「はずだ」に関しては、その方法はあまり有効でないことを示唆するもので、

    ‑ 73―

壽 之

証 康

田 田

池 冨

授 授

   

   

教 教

査 査

主 副

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今 後 、 「 っ も り だ 」 「 わ け だ 」 な ど と 対 比 し た 分 析 が 期 待 さ れ る も の で あ る 。   この論文の中核をなすのは第2章であるが、そのもととなった論文は日本語文法学会の機 関誌『日本語文法』に掲載され、高い評価を受けており、「はずだ」に関する研究論文として 必読の位置を占めている。「はず」の用例の収集に数年を要し、論文完成への道は険しかった がそれに見合う成果をあげていると評価できる。

  以上のように、この論文は近世・近代期における「はず」の変遷を論じて、そのモダリテ イ形式の成立と展開を詳細に解明したものと評価でき、当委員会は全員一致して、本論文を 博士 (文学)の学位授与に相応しいと判断した。

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参照

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