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博士(地球環境科学) 萬屋 宏

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Academic year: 2021

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(1)

博士(地球環境科学)   萬屋   宏

    

学位論文題名

    Top

―down effeCtSOfparaSitoidSOn

    myCOphagouSdrOSOphilidCOmmunity

(キノコ食ショウジョウバェ群集に対する寄生蜂のトップダウン効果)

学 位 論 文 内 容 の要 旨

  キノコ、落下果実、糞など比較的短い時間しか利用できず、パッチ状に分布する資源を 生息場所、繁殖場所に利用する昆虫群集は、しばしぱ非常に高い種多様性を示すことが知 られている。これらの昆虫群集では、個々のパッチでは時に、激しい種内・種問競争が生 じることが知られており、多種共存を維持する機構として、捕食者・寄生者によるトップ ダウン効果が種問の競争を緩和し共存を促進させることが挙げられる。また、競争種の空 間的集中分布や資源分割などがこれらの昆虫群集の多種共存に寄与していると考えられて いる。本研究では、寄生蜂がキノコ食ショウジョウバェ類の共存にどのような影響を与え て いるか を調べる ために、この3栄養段階システム(キノコ・ショウジョウバェ・寄生蜂 群集)の年次変動を考慮に入れて、共存を促進する効果である disproportionate parasitism と共存を阻害する効果である apparent competition を同時に評価した。 disproportionate

parasitism とは、優占する宿種の個体群密度を下げることで、宿種間の競争を緩和し、共存

を促進する間接効果であり、 apparent competition"とは、優占する宿種が寄生者を増加させ ることを通して、優占種と寄生者を共有している非優占種の宿種を群集から排除し、多種 共存を阻害する間接効果である。なお、ショウジョウバェ類の寄生蜂とその効果について は、欧米でかなりの知見が蓄積されているものの、日本を含むアジア地域においては、こ れまで全く研究されたことがなかった。

  調 査 は、 北 海道 大学苫小 牧研究 林におい て、2000年 から2003年 の4年 間、6月から10 月まで決まったコース上に発生したキノコの種類、発生量などを記録し、そのキノコ上の ショウジョウバェ及び寄生蜂を採集するというセンサスをほば毎日行った。また、朽ちた キノコは実験室に持ち帰ってショウジョバェと寄生蜂を飼育した。その結果、5種の寄生蜂

( コマユ バチ科4種、 ツヤヤド リタマバ チ科1種)が見っかり、寄生は、7月初旬から8 初旬に集中して起こることがわかった。また、キノコの出現パターンのクラスター分析結 果から、各年は、5つの季節に分けられ、各季節ごとにキノコ・ショウジョウバェ・寄生蜂 の三者間の量的食物網を作成した。得られた量的食物網の構造をMantel testによって比較し たところ、2000年と他の年の群集構造は、統計的に有為に異なっていることがわかった。

これは、2000年に発生したキノコが他の年と異なり、優占するショウジョウバェと寄生蜂

1610

(2)

の種 類が変 化した ためで ある。 また、Rott&Godfray (2000)やLewis et al. (2002)が用いた量 的なParasitoid overlap diagramを改良 して、 ある年 に受け た寄生 は、前年 の他の ショウジョ ウ バ ェ 種 か ら発 生 し た 寄生 蜂 に よ るも の か 、 同じ シ ョ ウ ジョ ウ バ ェ 種か ら の 寄 生峰 に よ る ものかを区別し、それぞれの大きさを、寄生率で表すことにより、 disproportionate parasitism apparent competition の効果 を同時に評価できるようにした。その結果、群集構造の変化 が あ って も 、 優 占す る シ ョ ウジ ョ ウ バ ェに 対 す るself‑loop効 果 ( 前年に 同じ宿 主種の ショ ウ ジ ョ ウ バ ェか ら 発 生 した 寄 生 蜂 によ る 寄 生 )に よ っ て 、優 占 種 の 寄生 率 が 非 常に 高 く な り、 disproportionate parasitism は、安定的にキノコ食ショウジョウバェ類の共存に寄与する こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 年 次 間 の 群 集 組 成 の 変 化 ( 特に 優 占 寄 生蜂 種 の 交 代) の た め に、 apparent competition による共存を阻害する効果は、非優占種のショウジョウバェには、

持 続 的 に 働 かず 、 軽 減 され る こ と がわ か っ た 。以 上 の 結 果か ら 、 寄 生蜂 の ト ッ プダ ウ ン 効 果 は 、 餌 資 源が 変 動 す るた め に 、 年に よ っ て ショ ウ ジ ョ ウバ ェ 群 集 の構 造 が 変 化す る に も か か わ ら ず 、 こ の2つ の 過 程 に よ り、 安 定 的 に共 存 を 促 進し て い る 可能 性 が 示 唆さ れ た 。   本 研 究は 、 様 カ な共 存 機 構 が提 唱 さ れ てい る シ ス テム を 用 い て、 今 ま で 詳細 な 研 究 がな さ れ て い な かっ た 群 集 レベ ル で の 寄生 者 の 効 果を 評 価 す ると と も に 、宿 主 の 利 用す る 資 源 の 変 動 が 寄 生 者 の ト ッ プ ダ ウ ン 効 果 に 与 え る 間 接 的 な 影 響 も 明 ら か に し た 。

1611

(3)

学位論文審査の要旨

     学位論文題名

  Top ―down effeCtSOfparaSitoidSOn myCOphagouSdrOSOphilidCOmmunity

( キノ コ 食 ショウ ジョウバ ェ群集に対 する寄生 蜂のトッ プダウン 効果)

  

キ ノ コ、 落 下果実、 糞など比 較的短期間 しか利用 できず、 バッチ状 に分布す る資 源 を 生息 場所、 繁殖場所 に利用する 昆虫群集 は、非常 に高い種 多様性を 示 すこ と が 知ら れてい る。これ らの昆虫群 集では、 個々のパ ッチでは 、激しい 種 内・ 種 間 競争 が生じ ることが 知られてお り、多種 共存を維 持する機 構として 、 捕食 者 ・ 寄生 者によ るトップ ダウン効果 が種間の 競争を緩 和し共存 を促進さ せ るこ と が 挙げ られる 。申請論 文は、寄生 蜂がキノ コ食ショ ウジョウ バエ類の 共 存に ど の よう な影響 を与えて いるかを調 べるため に、この 三栄養段 階システ ム

(キ ノ コ ・シ ョウジ ョウバ工 ・寄生蜂群 集)の年 次変動を 考慮に入 れて、共 存 を促進する効果である

disproportionate parasitism

と共存を阻害する効果である

apparent competition

を同時に評価することを目的としている。前者は、優占す る宿 主 の 個体 群密度 を下げる ことで、宿 主間の競 争を緩和 し、共存 を促進す る 間接 効 果 であ り、後 者は、優 占する宿主 が寄生者 を増加さ せること を通して 、 優占 種 と 寄生 者を共 有してい る非優占種 の宿主を 群集から 排除し、 多種共存 を 阻害する間接効果である。

  

成 果 とし て 、まず、 日本を含 むアジア地 域では、 全く知見 のなかっ たショウ ジョ ウ パ エ類 の寄生 蜂のファ ウナ、宿主 範囲、寄 生率を明 らかにし た点が挙 げ られ る 。 また 、キノ コ・ショ ウジョウバ ェ・寄生 蜂の三者 間の量的 食物網を 各 調査 年

(2000

年 か ら

2003

年 ま での

4

年 間 ) の季節ご とに作製 し、Mantel testを 用い て 、 得ら れた量 的食物網 の構造を比 較した結 果、

2000

年の 量的食物 網の構 造は 、 他 の

3

年の も のと 比 べ て全 く 異 なっ ており 、

2000

年とそ の他の年 とは、

三栄養段 階群集構 造が大き く異なっていることを明らかにした。量的食物網は、

潜葉 性 昆 虫と その寄 生蜂群集 でも報告さ れている が、本研 究のよう に長期間 の 群集 構 造 の変 化を示 したもの は無く、ク ラスター 分析によ る季節分 けや

Mantel test

によって 食物網構 造の違い を統計的に示すなどこれまでの先行研究では、行 われなか った独自 の解析方 法が用いられている。また、

Rott

Godfray (2000)

Lewis et al. (2002)

が用いた量的なParasitoid overlap diagramを改良して、ある年に 受け た 寄 生は 、前年 の他のシ ョウジョウ パェ種か ら発生し た寄生蜂 によるも の

憲 人

正 正

田 村

戸 木

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

か 、同 じ ショ ウ ジ ョウ パ エ種か らの寄生 蜂による ものかを 区別し、 それぞれ の 大きさを、寄生率で表すことにより、

disproportionate parasitism

apparent

competition

の効 果を同時に評価できる新しい方法を考案した。それにより、群

集構造 の変化が あっても、優占するショウジョウパェに対する

self‑loop

効果(前 年に同 じ宿主種 のショウジ ョウパェ から発生 した寄生蜂による寄生)によって、

優占種の寄生率が非常に高くなり、

disproportionate parasitism

は、安定的にキノ コ 食シ ョ ウジ ョ ウ パエ 類 の共存 に寄与す ること、 また、年 次間の群 集組成の 変 化(特に優占寄生蜂種の交代)のために、

apparent competition

による共存を阻 害 する 効 果は 、 非 優占 種 のショ ウジョウ バェには 、持続的 に働かず 、軽減さ れ ること を明らか にした。以 上の結果 から、寄 生蜂のトップダウン効果は、餌(キ ノコ)資源の変動に起因するショ.ウジョウパ工・寄生蜂群集の年次変化を介して、

こ の

2

つの 過 程に よ り 、安 定 的に シ ョ ウジ ョ ウパ 工 群 集に おける多 種共存を 促 進 して い る可 能 性 を示 唆 してい る。本研 究は、様 々な共存 機構が提 唱されて い る シス テ ムを 用 い て、 今 まで詳 細な研究 がなされ ていなか った群集 レベルで の 寄 生者 の 効果 を 評 価す る ととも に、宿主 の利用す る資源の 変動が寄 生者のト ッ プ ダウ ン 効果 に 与 える 間 接的な 影響も明 らかにし た点で、 非常に高 く評価で き る。また、

apparent competition

に関する過去の研究は、群集構造の変化を考慮 せ ずに 評 価し て い たた め 、この 効果を過 大に評価 してきた 可能性が ある。本 研 究 は、 長 期間 の 膨 大な デ ータを 利用し、 三栄養段 階システ ムの変動 性を考慮 に 入れて、

apparent competition

について新たな視点を提供したことは、特に大き な意義があると思われる。

  

審 査 員一 同 は 、こ れ ら の成果を 高く評価 し、また 研究者と して誠実 かつ熱心 で あり 、 大学 院 課 程に お ける研 鑽や取得 単位など も併せ、 申請者が 博士(地 球 環 境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 断 す る 。

参照

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高村 ゆかり 名古屋大学大学院環境学研究科 教授 寺島 紘士 笹川平和財団 海洋政策研究所長 西本 健太郎 東北大学大学院法学研究科 准教授 三浦 大介 神奈川大学 法学部長.