博 士 ( 医 学 ) 荒 浪 利 昌
学 位 論 文 題 名
同系混合リンパ球反応(SMLR) 性T 細胞 サブセットの解析
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
T細 胞 は 胸 腺 内 で 正 , 及 び 負 の 選 択 を 受 け , 末 梢 リ ン バ 組 織 に 到 達 す る 段 階 で 自 己 抗 原 に 反 応 し な い よ う に コ ン ト 口 ー ル さ れ て い る . し か し , ヒ ト や マ ウ ス に お い て , 末 梢 成 熟T細 胞 をin vitroで 自 己 , 又 は 同 系 の 非T細 胞 と 培 養 す る と , 増 殖 反 応 を 起 こ す こ と が 知 ら れ て お り, 自己 又は 同系 混合 リン パ球 反応(AMLRまた はSMLR)と 呼ば れる .
SMLRは 健 常 人 , お よ び 正 常 マ ウ ス に お い て 認 め ら れ る が , 生 体 内 に お け る 生 理 的 意 義 は 未 だ 不 明 で あ る . 但 し , 一 部 の 自 己 免 疫 疾 患 患 者 や , 自 己 免 疫 自 然 発 症 マ ウ ス 系 統 に お い て .SMLRが 減 弱 し て い る と の 報 告 が あ り , 免 疫 系 の 制 御 に 何 ら か の 役 割 を 果 た し て い る こ と が示 唆さ れて いる .
最 近 , 刺 激 細 胞 で あ る 非T細 胞 の う ち 樹 状 細 胞(DC)が ,T細 胞 刺 激 活 性 の 高 い ユ ニ ー ク な 能 カ を 持 つ こ と が 判 明 し た . 本 研 究 で は , 末 梢T細 胞 と 同 系DCに よ るSMLRを 行 い , SMLRに 関与 するT細 胞 亜群 を解 析し た.
最 初 に ナ イ 口 ン ウ ー ル 精 製 脾T細 胞 を 反 応 細 胞 , 脾 臓DCを 刺 激 細 胞 と し てSMLRを 行 い , ま た 同 時 にCD4(十)T細 胞 と ,CD8(十)T細 胞 サ ブ セ ッ ト の 反 応 性 を 調 べ た .SMLR4日 後 に , 未 分 画T細 胞 は , 有 意 な 増 殖 反 応 を 示 し た が ,CD4(‑)T細 胞 分 画 を 反 応 細 胞 と す る と 明 ら か に 増 殖 反 応 は 低 下 し た . 一 方 ,CD8く‑)T細 胞 分 画 は , 未 分 画T細 胞 の 場 合 と 同 等 , 或 い は そ れ 以上 の増 殖反 応を 示し た.
SMLRの 増 殖 反 応 は , 抗MHCク ラ スH単 ク □ ー ン 抗 体(mAb) に よ り 約40% に 抑 制 さ れ た ,一 方, 抗CDlmAbはSMLRに 対し て影 響を 示さ な かっ た.
次 にSMLR4日 目 の 時 点 で の 活 性 化 マ ー カ ー お よ び 細 胞 分 裂 の 状 態 を 解 析 す る と ,CD4( 十 ) T細 胞 に 比 べ ,CD8( 十 )T細 胞 中 に , 活 性 化 マ ー カ ー を 発 現 し , 分 裂 し て い る細 胞の 割合 が高 か っ た . し か し , 2日 目 で は CD4( 十 ) T細 胞 中 に 活 性 化 細 胞 が 多 か っ た . ヒ トAMLRに お い て ,CD4( 十 )CD62L( 十 )T細 胞 が 顕 著 に 反 応 す る と の 報 告が あり ,マ ウス SMLRに お い て こ の 点 を 検 討 し た .CD62L( 十 )T細 胞 は 単 独 で 増 殖 可 能 で , 未 分 画T細 胞 よ り も 高 い 反 応 性 を 示 し た が ,CD62Lくl)T細 胞 で は 増 殖 反 応 が 有 意 に 低 下 し て い た , し か し , 固 相 化 抗a/pT細 胞 受 容 体 (TCR)mAb刺 激 の 場 合 は ,CD62Lくl)T細 胞 の 増 殖 反 応 が , 他 分 画 に 比 べ 常 に 高 か っ た .SMLR4日 目 で 見 る と ,CD62L( 十 )T細 胞 サ ブ セ ッ ト で 分 裂 し て い る細 胞の 大部 分が ,CD8(十 )T細胞 であ った .
近 年NK亅T細 胞 が 自 己 免 疫 制 御 に 関 与 し て い る こ と が 示 唆 さ れ て い る .SMLRに お い て , NK1.1(十 )細 胞を 除く と, 未分 画のもの に比べて高反応性を示した.しかし,NK1.1(十)細胞
をNKl.1(‑)脾T細胞に加えてSMLRを行ったところ,直接の抑制効果は確認できなかった.
こ の結果は,NK−・T細 胞の拘束分 子に対する抗CDl mAbが,SMLRに何ら影響を与えな かった結果と一致する.
最 後にD○11.10トラン スジェニッ クマウス(tg)(BALB/c/¥ックグラ ウンド)を用い てSMLRを行った.このマウスのT細胞は全て,I―Acl拘束性,OVAベプチド特異的TCRを発 現 す る.BALB/cマ ウスではC57BL/6と同じくT細胞 の増殖反応(SMLR)が 見られたが , D011.10 tgT細胞においては増殖が全く見られなかった.
SMLRの生理的意義については不明だが,MHC不適合骨髄キメラより得たT細胞は,骨髄 ド ナ‑MHCに対 す るSMLRを 欠 く. 又 この キ メラT細胞は ,ホストMHCに対してMHC拘束 特異性を獲得し,SMLR様の反応性を示すことが報告されている.従って,SMLRは胸腺上 皮 に 発現 し て いるMHC分 子に よ る正 の 選択 を 遺 残的に示 す反応系と も考えられ る.
本研究では,未知の自己抗原に対する反応と考えられるSMLRに関与するT細胞亜群につ いて検討した.そしてCD4(十)T細胞は単独で増殖出来るが,CD8(十)T細胞はCD4(十)T細胞 非存在下では増殖が弱いことが判明した.
しかし,活性化マーカー及び細胞分裂状態の解析により,SMLR4日目の時点では,むし ろCD8(十)T細胞が活性化し,分裂していることが判明した.これまでSMLRにおいて主とし て増殖するのは,CD4(十)T細胞であり,長期間の培養が必要と報告されている.現在のと ころ,今回の結果とこれらの報告との違いの理由は不明だが,刺激細胞としてDCを用いた ことが影響しているかもしれない,CD8(十)T細胞の増殖がCD4(十)T細胞に依存することを 考えると,SMLR3日目以前に反応増殖するCD4(十)T細胞によるへルプ,恐らくサイトカイ ン , の 存 在 下 で , 3− 4日 目 に CD8(十 )T細 胞 が 増 殖 す る と 考 え ら れ た . 次 にSMLRにおけるCD62L(十)T細胞と,CD62L(−)T細胞の反応性の解析より,SMLR早 期において単独で増殖可能なのは,CD4(十)CD62L(十)T細胞サブセッ卜であり,SMLR後期 で分裂・増殖している細胞はCD8(十)CD62L(十)T細胞サブセッ卜であることが示唆された.
ア口MLRでは,CD4(十)CD62Lく‑)T細胞が反応することから,SMLRが他の反応系と全く異 なる免疫応答であることを示すものと考えられた.
最 後にD011.10 tgT細胞はSMLRで全く反応しなかった.このtgT細胞はH―2dマウスの 胸腺内で正の選択を受ける.従って,上で述べたように,SMLRがT細胞の正の選択を反映 するならば,BALB/c (H−2d) DCに対してtgT細胞も反応すると考えられたが,逆の結果 が得られた. D011.10 tgT細胞の正の選択には特定のりガンドが必要であり,DCはこのり ガンドを提示できなかったか,あるいは,胸腺内の正の選択で働くりガンドとは異なるべプ チ ドが,末梢T細胞の増殖には必要という可能性も考えられる.さらにD011.10 tgでは CD8(十)T細胞の正の選択が誘導されない,今回示したように,CD4(十)T細胞に続くCD8(十)
T細胞の反応が,SMLRには重要なのかもしれない,
今回,ア□MLRと異なり,SMLRを誘導するT細胞の中でCD8(十)CD62L(十)T細胞が重要 な役割を果たすという結果を得た.これは,SMLRの生理的意義を考える上で貴重な手がか りとなると考える.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
同 系 混 合 リ ン パ 球 反 応 (SMLR) 性 T 細 胞 サ ブ セ ッ ト の 解 析
T細胞は胸腺 内で正, 及び負の 選択を受 け,末梢 リンパ組 織に到達す る段階においては自 己抗原に反 応しない ようにコ ント口ー ルされている.しかし,ヒトやマウスにおいて,末梢 成熟T細胞をin vitroで自己, 又は同系 の非T細胞と培養すると,増殖反応を起こすことが知 ら れ て お り , 自 己 又 は 同 系 混 合 リ ン パ 球 反 応(AMLR, ま た はSMLR)と 呼 ば れ る . 最 近, 刺 激 細胞 で ある 非T細 胞 のう ち 樹状 細 胞(DC)が,T細 胞 刺激 活性 の高いユ ニーク な能 カ を持 つ こ とが 判 明し た . 本研 究 では, 末梢T細胞 と同系DCに よる改良 型SMLRを開発 し,SMLRに関与 するT細胞 亜群を解 析した,
脾 臓よ り 得 た未 分 画T細胞 は , 同系DCに対して有 意な増殖 反応を示 したが,CD4陽性T細 胞除 去 分画 を反応 細胞とす ると,明 らかに増殖 反応は低 下した. 一方,CD8陽 性T細胞除 去 分画 は ,未 分 画T細 胞の 場 合と 同 等 ,或 いはそ れ以上の 増殖反応 を示した .また,SMLRの 増 殖 反 応 は , 抗MHCク ラ スII単 ク □ ー ン 抗 体(mAb)を 加え る こと で 有 意に 抑 制さ れ た . こ れ よ り ,SMLRに お い て ,CD4陽 性T細 胞 は 単 独 で 増 殖 可 能 で あ る が ,CD8陽 性T細 胞 は ,CD4T細 胞 依存 性 で ある こ と が示 唆 され た . また ,CD4陽 性T細 胞 は,MHCクラ スII分 子を 認 識し て い ると 考 えら れ た .次 にSMLR4日目の 時点での 活性化マ ーカー, および細 胞 分裂 の 状態 を 解 析す る と,CD4陽 性T細胞 に 比べ ,CD8陽性T細 胞 中に ,活 性化マー カーを 発現し,分 裂してい る細胞の 割合が高 かった.
近 年NK−T細 胞が 自 己免 疫 制 御に 関 与 しているこ とが示唆 されてい る.SMLRにお いて,
NKl.1陽性 細 胞 を除 く と, 未 分 画の も の に比 べ て高 反 応 性を 示 した . しかし,NKl.1陽性 細胞 をNKl.1陰 性T細胞 に 加え てSMLRを 行っ た とこ ろ , 直接 の 抑制 効 果は確 認できな かっ た.
ヒ トAMLRに お い て ,CD4陽 性CD62L陽 性T細 胞 が 顕 著 に 反 応 す る と の 報 告が あ り, マ ウスSMLRに おい て こ れを 検 証し た .CD62L陽性 分 画 は未 分 画T細胞 よ りも高 い反応性 を示 した が ,CD62L陰性 分 画は 増 殖 反応 が 有 意に低下し てしゝた .しかし ,固相化 抗a/BT細胞 受 容 体(TCR)mAb刺 激 の 場 合 は ,CD62L陰 性 分 画 の 増 殖 反 応 が , 他 分 画 に 比 ベ 常 に 高 かっ た ,そ こで再 び細胞分 裂の状態 を解析する と,CD4陽性T細胞に関 しては, それほど 差
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が 無 いが ,CD8陽 性T細 胞ではCD62L陽性分画に 比ベ,CD62L陰性分画の 分裂が弱く , SMLRにお いてCD62L陰 性T細胞 の増殖が弱 いのは,主 としてSMLR後期 におけるCD8陽性 CD62L陰性T細胞の増殖が弱いことに依ることが判明した,
最後 にD011.10トラン スジ工二ッ クマウス(tg)(BALB/cバックグ ラウンド) を用い てSMLRを行った,このマウスのT細胞は全て,I―Acl拘束性,○VAペプチド特異的TCRを発 現 す る.BALB/cお よびD011.10のT細 胞をBALB/cのDCと培養 すると,BALB/cマ ウスで はC57BL/6と同じく 増殖反応(SMLR)が 見られたが ,D011.10 tgT細胞に おいては,Iー Ad分子に対して増殖が全く見られなかった.
口頭発表に際し,副査の上出教授から,自己免疫疾患における免疫反応の異常を検出す る手 段としてAMLRを行う場合,CD4陽性,CD8陽性T細胞のどちらが重要かとの質問があ り,また,副査の西村教授からは,ここでのSMLRは,培養液中に存在するウシ胎児血清中 の蛋白が関与しているのではないのか,今回の結果では,CD8陽性T細胞の増殖が目立っ が,過去の報告との関連をどう考えるかとの質問があった.主査の小野江からは,今回の結 果とは逆に,ア口MLRの場合は,CD62L陰性分画の増殖が強いのをどう考えるかとの質問 があった,これらの質問に対して,申請者は,自分の実験結果,過去の報告などを引用し,
おおむね適切に回答した.
本研究は,SMLRに関与するT細胞亜群を解析し,時期により反応細胞が異なること,ま たCD8陽性CD62L陽性T細胞が,後期の反応には重要な役割を果たすことを初めて明らかに した.これらの結果はSMLRの生理的意義を明らかにする上で,貴重な手がかりとなると考 えられる.
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や単位取得なども 併せ 申請者が博 士(医学) の学位を受 けるのに十分な資格を有するものと判定した,