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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 高 橋 有 美

学 位 論 文 題 名

日本人 X 染色体連鎖精神遅滞における SL の班ぢ遺伝子変異の意義および役割

学位論文内容の要旨

く背景と目的>精神遅滞(MR)は人口の約3%に認められ、中等度以下のMRの20〜 25%は 遺伝学的要因により発症すると考えられている。中でも精神遅滞を来す遺伝子の約10%が X染 色体 上に 見っかっている。X染色体が全ゲノムの4%を占 めるに過ぎないことを考え ると 、他 の常 染色 体よ りも 相対 的に 大きな意味を持つと言 える。本研究で対象とする SLC9A6遺伝子変異は、2008年にGilfillanらがAngelman症候群(AS)類似の表現系を持つX 染色体連鎖精神遅滞(XMR)の家系で4例を報告し、日本人ではまだ報告がない。Gilfillan らは4つ の機 能喪失型と考えられる変異を報告しており、そ の後Schroerらがさらに1つ の新規の変異とGilfillanらの報告と同じ変異を1例報 告した。SLC9A6遺伝子はXq26.3に 存在 し、Na/H+交換輸送体NHE6をコードする遺伝子である。NHE l‑5は細胞膜、NHE 6‑9 は細胞小器官の形質膜に存在する。NHE6蛋白は全身のearly recycling endosomesで発現し ており、early recycling endosomesはLTP刺激下で脳樹状突起棘の成長に関与していること がわかっている。ASのモデルマウスでは、すでに樹状 突起棘の形態変化が報告されてお り、本遺伝子異常と表現型が似る一要因と類推できる。本研究の目的は、本変異の日本人 XMRにお ける 頻度を明らかにすること、また、精神遅滞にお いて果たす役割を分子遺伝 学的 ある いは生化学的に解明す ることである。さらに、診断の難しいXMRの原因検索に おいて、臨床的に意義のある情報を提供することも目指している。く対象>ASが疑われ、

既存の遺伝学的異常(15q11‑q13の欠失、メチル化異常、UBE3A変異)が否定された男児 22例 をGroupA、 国立 精神 ・神 経セ ンタ ーに て集 積さ れたXMR家 系の 児104例をGroupB とする。ただし、研究の途中で染色体異常、既存の遺伝子異常が診断された症例は除外し てあ る。 なお、ASの遺伝学的解 析およびXMRの解析は北海道 大学医学研究科医の倫理委 員会で承認され、書面の同意を得ている。く方法>GenBankで得られた塩基配列を基に、

16個の蛋白コード領域に対するプライマーを作成した。患者らから抽出された末梢血由来 ゲ ノ ムDNAを 鋳 型 に 、 上 記 の プ ラ イマ ーを 用い てPCR法に より 目的 とす るDNAを増 幅 した。エクソン1はPhusionHotSt眦High_FideliぢDNAP01ymerase(FinnZymes)を用い、推奨 の5xGCBu贓 、3%DMSO添 加 の 上PCRを 行 っ た 。PCR産 物 は3% ア ガロ ース ゲル 電気 泳 動とエチジウムブ口マイド染色により確認した。これをWizardPCRPrepsDNAPuriflcation SyStem(Promega)で精製し、BigDyeKjtを用いて直接シークエンス法にて塩基配列解析を行 った。解析にはAB13130シ ークエンサーを用いた。さらに、患者、正常コント口ール(男 女各2名 ずつ )の りン パ 芽球 由来 培養 細胞からRNA(lueousKit(AppliedBiosystems) でtotalRNAを 抽 出 し 、High.CapacitycDNAReverseTranscriptionKit(Applied Bi08ystems)を 用い て各 々のcDNAを作 成し た。 このcDNAか ら、5乞a鮒ぢ 遺伝 子の エ クソ ン2から エクソン5を増幅す るよう設計したプライマーを用いて、PCR法により増幅

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して転写産物の発現量を解析した。また、nonsense‑mediated mRNAdecり(NMD)による 転写産物の除去を避けるため、各々の細胞 をNMDの阻害物質であるcycloheXimide(CHX) で処理した。Carterらの報告の通り、患者 から抽出したRNAと正常コントロール(男女各 2名 ず っ ) か ら 抽出 したRNAを、CHX100pgんmと 、コ ント ロー ルと してCHXの 調整 に用 いた0.1%DMSOで4時間ずつ処理した(C甜ereta1.,1995)。その後上記と同様の方法でtota1 RNAを 抽出 してcDNAを作 成しtr缸scriptvariant1およびvariaDt2の発現量を解析 した。

から同様に転写産物の発現量を解析した。さらにこれらを定量化するため仕anscriptvariant 1んariant2そ れぞ れに特異的なプライマーとTaqManMGBプローブを作成しquantitative R1坤CR(qPCR冫を行った。各々のプ口ープは、vむant1の3 側とエクソン3の5 側、variant 2の3 側とエクソン3の5 側でエクソン‐エクソンジャンクションにかかるように設計し、

異な るisofonnの配列特 異的に発現量を検出し得た。さらにNHE6蛋白の発現を確 認する ため 抗NHE6抗 体を 用い たWもstemb10仕ing(WB)を 行っ た 。く 結果 >GroupAのAS疑い 男児22例中1例にエクソン2の一塩基欠失変異(c.516Gdel,p.S147fs)を見出した。この変異 は、一塩基欠失によルアミノ酸7残基の後にエクソン3内に停止コドンが入り、以降の蛋 白は失われる機能喪失型変異と考えられる。母親はこの変異のヘテ口接合体であった。本 変異はェクソン2のaltemativesplicingによって生じる2種類のisofonnのうち、%塩基対 長いtranscriptvariant1によるiSofbnnaで のみ見られる。GroupBは104例の解析を行い、

変異は同定されなかった。R.T−PCRでは、患者の検体でvariant1の発現量低下、variant2 の発現量増加を認めた。qPCRでは、正常コ ントロールと比較してこれらの変化が有意差 を 持 っ て 証 明 され た。 またCItK処理 によ っ てvmant1の発 現量 が増 加す るこ とか ら、

nonsensemediat{甜mRNAdecり(NMD)が関 与していることが推測された。患者のv刪ant2 に関 して は明 らか な変 化を 認 めな かっ た。WBでは、患者においてNHE6isofonnaおよび iSofbnnbいずれの発現も認めなかった。く 考察>上述の通り、本変異は駈c9H6variant1 でしか見られない。しかし患者の表現型はこれまでの報告例と重症度において変わらない。

この ため 、自 験例 の変異はMR発症に有意に関わるも のと考えられ、さらにNHE6isofonn aが発達脳にお いて重要な役割を担っていることが示唆された。この例は、重度の精神運 動発達遅滞、全身の筋緊張低下、身体発育不良、内斜視、音声言語が未獲得であること、

難治性てんかん、色白、毛髪が褐色、容易に誘発される笑いなど、Gilf111anらの報告例と 同様にASと酷似する臨床像を呈した。またGilf111anらの報告では、ASでは成長に伴い肥 満が見られるのに対して、本遺伝子異常ではやせてしゝくことや、加齢に伴い重症化すると いう進行性の経過、MR亅で小脳萎縮が進行するなど画像上の相違点も指摘されており、今 後も本児の成長に合わせた表現型の比較が 必要である。またNHE6isofonnaの発現が見ら れないWBの結果から、本変異が機能喪失型 変異であることが証明された。く結論>既知 の遺伝学的異常のないAS疑い例で、皿C.鮒6遺伝子の一塩基欠失によるフレームシフト変 異を 同定 した 。母 親はこの変異のへテロ接合体であ った。XMR疑い例の解析では 変異は 同定 し得 ず、XMR家系に おける本遺伝子変異の頻度は大きくないと考えられた。 本患者 の臨床像はGilfl11anらによる報告例とほば一致していたが、彼らが指摘した相違点の内、

進行性の経過、小脳萎縮に関しては患者の経過を追う必要がある。また、駈C鮒6transmpt vadant1の発現 量低下にNMDが関与している ことを証明し得た。variant2に関しては、本 変異がaltemativesplicingに影響を与えた可能性があった。今回同定した変異は、R.T―PCR、 qPCR、WBの結果から機能喪失型変異であった。

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学位論文審査の要旨 主 査    教授    田中伸 哉 副 査    教授    福田    諭 副 査    教授    有賀    正 副 査    教授    石田    晋 副査   教授   佐々木秀直

学 位 論 文 題 名

日本人 X 染色体連鎖精神遅滞における SLC9A ぢ遺伝子変異の意義および役割

  精神 遅滞(MR)の20〜25% は遺 伝学 的要 因と 考え られ てお り、 中で も精 神遅 滞を 来 す 遺 伝 子 の 約10% が 、X染 色 体上 に存 在しX染色 体連 鎖精 神遅 滞(XMR)と 呼ぱ れる 。 本 研 究 で は2008年 にGilfillanら が変 異を 報告 したSLC9A6遺伝 子を 対象 とす る。 本 遺 伝 子 はNa+/H+交 換 輸 送 体NHE6を コ ー ド し 、 こ の 蛋 白 は 全 身 の 初 期 エ ン ド ソ ー ム に局 在し て、 脳で は神 経 伝達 物質 やグ ルタ ミン 酸受 容体 など の輸 送に 関与 する と 考えられる。

  対 象 はASが 疑 わ れ 、 既 存 の 遺 伝 学 的 異 常 (15qll‑q13の 欠 失 、 メ チ ル 化 異 常 、 UBE3A変 異 ) が 否 定 さ れ た 男 児22例 をA群 、 国 立 精 神 ・ 神 経 セ ン タ ー に て 集 積 さ れ たXMR家 系 の 児104例 をB群 と し た 。 末 梢 血 由 来 ゲ ノ ムDNAを 鋳 型 にPCR法 を 行 い 、 直 接 シ ー ク エ ン ス 法 で 塩 基 配 列 解 析 を 行 っ た 所 、AS疑い 男児 の一 例で エ ク ソン2の一 塩基 欠失 によ るフ レー ムシ フト 変異 を同 定 し、premature termination codon(PTC)に より蛋白翻訳が停止すると予想し得た。この変異はalternative splicing に よ る2種 類 の 転 写 産 物 の う ち 、variant1の み で 認 め た 。B群 では 変異 は同 定さ れ な かった。R:I、‑PCR、定量的リアルタイムPCRでtranscript variant1の発現量低下を 証 明し た。variant2は発 現 量増加した。nonsense‑ mediated mRNA decay(NMD)を阻害 す るCHXで 処 理 し た 患 者 の 細 胞 で はvariant1の 発 現 量 が 回 復 す る こ と か ら 、NMD に よ るmutant mRNAの 排 除 が 起 こ っ た こ と が わ か っ た 。 抗NHE6抗 体に よるWestern blottingの 結 果 、 患 者 で はNHE6蛋 白 の 発 現 は 全 く 認 め な かっ た。 この 患者 はASに 臨床的に酷似 し、重症度はこれまでの報告例と同等だった。

  この研究結果に関して、石 田教授よりtranscript variant2の増加の機序に関して質 問があり、変 異によりalternative splicingの変化が起こったものと推察した。本例の 臨 床症 状はvariant2の蓄 積 によ るも ので はな いか と質 問が あり 、こ れま での 報告 例

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は全て機能喪失型変異と考えられ、本例は実際にNHE6蛋白を発現していないこと、

2種類の転写産物の意義は全く分かっていないことを回答した。モデルマウスの有 無にっいて質問があった。

  佐々木教授から、膜電位の変化、他の組織への影響は報告されているか質問があ ったが 、変異例 に関する 論文では記載はない。NHE6蛋白の2種類のisoformにどの ような意義があるか再度質問があった。

  福田教授から、全身で発現している蛋白が精神遅滞を来す理由に関する考えを求 められ、他の調節因子などの影響を受けて、組織特異的または発生特異的な発現の 違いがあるのではないかと回答した。また、様々な蛋白の輸送に関わるので、脳で は、受容体などを輸送し脳の可塑性に関与するのではなしゝかと推察した。モデルマ ウスに関して再度質問があった。ユピキチン化との関連を含めた生化学的な研究は 今後可能かと質問があった。最後に、変異のある家族への説明について意見を求め られ、臨床的な立場を交え意見を述べた。

  田中教授からは、この検体を用いた大規模な精神遅滞の研究が存在するのか質問 があったが、当施設では行っていない。抗体を用いた病理組織学的な新しい知見の 有無を 質問され 、今はま だないが今後成果が期待される分野と回答した。また、

Western blottingで重合体が多いことをご指摘頂いた。

  有賀教授から、本研究では脳でvariant1が重要という新しい発見の可能性がある が、既知の知見はあるか質問があった。一方で、母のX染色体不活化に関する情報 が重要とご指摘いただ。ゝた。B群はAS様の表現型ではないのか質問があり、なけ ればもっと対象を絞り込むことによって変異の頻度が上がるのではとご指摘頂いた。

同様に 佐々木教 授より追 加として、MLPAを行って全長を解析すると変異の頻度が 増えるのではないかとご指摘を頂いた。しかし既知の遺伝子変異の頻度は1%以下 がほとんどであり、対象数からは妥当と考えた。

  以上より、AS疑い男児22例のうち1例にSLC9A6遺伝子変異を同定し、そのmRNA、 蛋白の発現量低下より機能喪失型変異であることを証明し、転写産物の生体内での 意義に 示唆を与 えたとし て高く評 価され、今 後のXMR研究やシナプス研究のモデ ルとして期待される。審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程にお ける研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十分な資 格を有するものと判定した。

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参照

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