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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 神 尸    崇

学 位 論 文 題 名

エンドウヒゲナガアブラムシの繁殖様式と 集団構造に関する分子生態学的研究

学位論文内容の要旨

  植物の師管液を吸って生活するアブラムシ類(昆虫綱、半翅目)は、単為生殖による高い増 殖カを持ち、植物病原ウイルスを媒介することも多いため、多くの種が栽培植物の害虫である。

一部の種では薬剤抵抗性を発達させ、防除が困難になるケースが発生している。このため、防除 には生活史や個体群動態、集団構造の解明が不可欠である。一方、生物学的には、アブラムシ類 は特異な繁殖・生活史特性を示し、進化学・集団遺伝学の観点からも数多くの研究が蓄積されて きた。

  一般的なアブラムシの生活環は、単為生殖期と有性生殖期が周期的に繰り返される周期的単 為生殖である。春に卵から生まれた世代(幹母)から胎生の単為生殖によって増殖する。アプラ ムシの単為生殖では親と全く同じ遺伝子セットが子に伝えられるアポミクシス型であり、その子 孫はクローンと呼ぱれる。秋には短日や低温に反応して有性世代(有性生殖を行うオスと卵生メ ス)が産まれ、それらが交配して耐寒性を有する卵を産む。多くのアブラムシでは、種レベルあ るいは集団レベルで有性生殖の二次的な消失が頻繁に見られ、単為生殖のみで増殖を続ける無性 生殖集団が存在する。秋に有性生殖を行う集団(有性生殖集団)と完全無性生殖集団との関係に ついては、寄主転換性のアブラムシで盛んに研究が進められてきた。しかし、無性生殖クローン が 起 源 し た メ カニ ズ ム やそ れ ら の出 現 ・ 消 滅の 頻 度 はほ と ん ど解 明 さ れて い な い。

  アブラムシにゎける無性生殖集団の遺伝的多様性、系統関係、および進化的起源を探る目的 で、非寄主転換性のエンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisum (Harris)を材料として調 査を進めた。本種は様々なマメ科植物に寄生し、汎世界的に分布している。本研究では、(1) 遺伝子マーカーを利用して日本における繁殖様式の地理的変異を明らかにし、(2)有性生殖集 団と無性生殖集団の遺伝的多様性を定量化し、さらに(3)種内系統樹構築を通じて、無性生殖 クローンが起源した進化要因を考察した。

  本研究では、2002年から2008年にかけて、有性・無性集団の混生地帯と予想される東北地方 を中心に、四国から北海道までの18地点で多様な寄主植物上からアブラムシを採集した。本州で の主要な寄主植物は越年草のカラスノエンドウであり、北海道ではクサフジとアルファルファで ある。これらのアブラムシからDNAを抽出し、7つのマイクロサテライト遺伝子の遺伝子型を調べ た。非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法とheteroduplex法によって、配列の違いに基づく 高精度な対立遺伝子の同定を行った。合計1010個体のアブラムシから245の異なる遺伝子型 (multilocus genotype)が検出された。北海道の集団とハ戸市の集団では多様な遺伝子型が見 っかり、年ごとに新たな遺伝子型が出現した。これらの集団では、集団遺伝学的解析によって、

有性生殖集団の特徴を持っことが示された。本州では13の遺伝子型が複数年にわたって見っかり、

(2)

これらは無陸生殖クローンと推定された。八戸市以外の本州の集団では遺伝子型の多様性は低く、

これら13の無性生殖クローンのうちのいくっかが集団の大部分を占めており、高い適応度を持っ スーパークローンと見なすことができた。その他の個体は稀な遺伝子型で構成されていた。

  遺伝子型間の遺伝距離に基づいて近隣結合樹を構築すると、北海道のアルファルファ、ハ戸 市などの東北地方北部のカラスノエンドウ、北海道と東北地方のクサフジから採集された遺伝子 型がそれぞれの寄主植物ごとに大きなクラスターを形成した。先の集団遺伝学的解析の結果から、

これらは有性生殖集団のクラスター(有性生殖クラスター)であり、それぞれが別個の繁殖集団

(ホストレース)を形成していると推定された。一方、1つの無性生殖クローンと少数の稀な遺 伝子型から成るクラスター(無性生殖クラスター)が多数形成され、それらのクラスター間は互 いに大きな遺伝距離で隔てられていた。

  遺伝子型グループの系統関係を別の手法から推定するために、マイクロサテライトより進化 速度 の遅いミ トコンドリアのcytochromecoxidase subunitI遺伝子(COI)の部分塩基配列を 用いた。その結果、無性生殖クローンからは6つのCOI/¥プロタイプが見っかり、無性生殖クラス ター内の稀な遺伝子型の個体もほとんどが無性生殖クローンと同じハプロタイプを持っていた。

稀な遺伝子型には、無性生殖クローンの遺伝子型と対立遺伝子1つのみが異なるものと、複数の 対立遺伝子が異たるものが含まれていた。前者はマイクロサテライト遺伝子で生じた突然変異に よって無性生殖クローンから派生したもので、後者は有性生殖によって生じたものと考えられた。

  有性世代の誘導実験をしたところ、有性生殖クラスターに属した北海道と東北地方の飼育系 統はいずれも有性世代を産出した。しかし、無性生殖クローンに属する飼育系統は単為生殖メス のみか、それに加えて有性世代の一方のみを産出し、完全にあるいは部分的に有性世代産出能カ を失っていることが明らかになった。以上の結果より、冬の気候の厳しさ(積雪や低温)と関連 して、北海道から東北地方北部には卵で越冬できる有性生殖集団が分布し、それより南ではほと んどが無性生殖クローンで構成される集団となることが明らかになった。東北地方は混生地帯で あり、南方からの無性生殖クローンの移住によって有性と無性のクローンの比率は季節により変 動することが示唆された。

  13の無性生殖クローンは、互いに遺伝的に大きく異擬ることから、13クローンそれぞれが独 立に起源したと考えられた。有性生殖集団には特定の寄主植物に特殊化したホストレースが見ら れるものの、いくっかの無性生殖クローンは複数の寄主植物を利用でき、広範に分布した。こう したスーパークローンは、カラスノエンドウやクサフジの有性生殖集団には見られないCOIハプ ロタイプやマイクロサテライト対立遺伝子を持っていた。近縁なアブラムシ種間で交雑を強制し た実験では、交雑個体は単為生殖で増殖できるものの、有性世代を産出できない例が報告されて いる。これらの事実から、スーパークローンは、いくっかのホストレース間の交雑によって起源 した可能性が考えられた。有性生殖集団と無性生殖集団の遺伝的多様性を比較すると、無性生殖 集団の方が対立遺伝子の多様性が有意に高かった。この現象は、1)無性生殖集団では減数分裂 に伴う遺伝的浮動がなぃこと、2)クローンの寿命が長いために突然変異が蓄積しやすいこと、3) 無性生殖クローンのいくっかは異なるホストレース間の交雑で生じたへテロ接合的なクローン であることに原因があると考えられる。

  本研究では、遺伝子マーカーを用いて、非寄主転換性アブラムシであるエンドウヒゲナガア ブラムシの日本における繁殖様式の地理的変異や無性生殖集団の遺伝的多様性を明らかにした。

無性生殖集団では、有性生殖集団に比べて、遺伝子型の多様性が著しく低いのに対して、対立遺 伝子の多様性は逆に高いことが明らかになった。この知見と推定された系統関係に基づぃて、無 性生殖クローンは、有性生殖クローン間の交雑をきっかけとして起源したとする仮説を提起した。

‑ 1411

(3)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 准教授 准教授

秋 元 齋 藤 長谷川 吉 澤

信一     裕 英祐 和徳

     学 位論文 題名

エンド ウヒゲ ナガアブラムシの繁殖様式と 集団 構造に関 する分 子生態学的研究

本論 文は 、図16、 表15、引 用文 献109編からなる総頁113頁の和文論文である。参考 論文1編 が添 えら れて い る。

  植物 の師 管液 を吸 っ て生 活す るア ブラ ムシ 類( 昆虫綱、半翅目)は、単為生 殖によ る 高い 増殖 カを 持ち 、 植物 病原 ウイ ルス を媒 介す ることも多いため、多くの種 が栽培 植 物の 害虫 であ る。 ア プラ ムシ 類の 防除 には 生活 史や個体群動態、集団構造の 解明が 不 可欠 であ る。 害虫 化 した アブ ラム シは 、ほ とん どの場合、有性生殖を失って おり、

単 為生 殖的 に増 殖す る 。し かし 、完 全単 為生 殖性 のアブラムシの起源に関して は、ほ とんど知見 が得られておらず、その究明が待たれていた。

  アブ ラム シに おけ る 無性 生殖 集団 の遺 伝的 多様 性、系統関係、およぴ進化的 起源を 探る目的で 、エンドウヒゲナガアブラムシAcyrthosiphon pisum (Harris)を材料として調 査 を進 めた 。本 種は 様 々な マメ 科植 物に 寄生 し、 汎世界的に分布している。本 州にお け る本 種の 主要 な寄 主 植物 は越 年草 のカ ラス ノエ ンドウであり、北海道ではク サフジ と ア ル フ ァ ル フ ァ で あ る。 これ らの アブ ラ ムシ からDNAを抽 出し 、7つ のマ イク ロサ テ ライ ト遺 伝子 の遺 伝 子型 を調 べた 。合 計1010個 体の アブ ラム シか ら245の異 なる遺 伝 子型(multilocus genotype)が検出された。北海道の集団と八戸市の集団では 多様な 遺 伝子 型が 見っ かり 、 年ご とに 新た な遺 伝子 型が 出現した。これらの集団では 、集団 遺 伝学 的解 析に よっ て 、有 性生 殖集 団の 特徴 を持 っことが示された。本州では13の遺 伝 子型 が複 数年 にわ た って 見っ かり 、こ れら は無 性生殖クローンと推定された 。八戸 市 以南 の本 州の 集団 で は遺 伝子 型の 多様 性は 低く 、これら13の無性生殖クロー ンのう ち の極 少数 が集 団の 大 部分 を占 めて おり 、高 い適 応度を持つスーパークローン と見な すことがで きた。

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(4)

  

遺伝子型間の遺伝距離に基づいて近隣結合樹を構築すると、北海道のアルフんルフ ア、八戸市などの東北地方北部のカラスノエンドウ、北海道と東北地方のクサフジか ら採集された遺伝子型がそれぞれの寄主植物ごとに大きなクラスターを形成した。こ れらは有性生殖集団のクラスターであり、それぞれが別個の繁殖集団(ホストレース)

を形成していると推定された。ー方、1 つの無性生殖クローンと少数の稀な遺伝子型 から成るクラスター(無性生殖クラスター)が多数形成され、それらのクラスター間 は互いに大きな遺伝距離で隔てられていた。

  

有性世代の誘導実験をしたところ、有性生殖クラスターに属した北海道と東北地方 の飼育系統はいずれも有性世代を産出した。しかし、無性生殖クローンに属する飼育 系統は単為生殖メスのみか、それに加えて有性世代の一方のみを産出し、完全にある いは部分的に有性世代産出能カを失っていることが明らかになった。以上の結果より、

冬の気候の厳しさ(積雪や低温)と関連して、北海道から東北地方北部には卵で越冬 できる有性生殖集団が分布し、それより南ではほとんどが無性生殖クローンで構成さ れる集団が分布していた。東北地方は混生地帯であり、南方からの無性生殖クローン の移住によって有性と無性のクローンの比率は季節により変動することが示唆された。

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の無性生殖クローンは、互いに遺伝的に大きく異なることから、13 クローンそれ ぞれが独立に起源したと考えられた。いくっかの無性生殖クローンは複数の寄主植物 を利用でき、広範に分布した。こうしたスーパークローンは、カラスノエンドウやク サフジの有性生殖集団には見られなぃCOI ハプロタイプやマイクロサテライト対立遺 伝子を持っていた。これらの事実から、スーパークローンは、いくっかのホストレー ス間の交雑によって起源した可能性が考えられた。有性生殖集団と無性生殖集団の遺 伝的多様性を比較すると、無性生殖集団の方が対立遺伝子の多様性が有意に高かった。

この現象は、1 )無性生殖集団では減数分裂に伴う遺伝的浮動がなぃこと、2 )クロー ンの寿命が長いために突然変異が蓄積しやすいこと、

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無性生殖クローンのいくっか は異なるホストレース間の交雑で生じたへテロ接合的なクローンであることに原因が あると考えられる。

  

本研究では、遺伝子マーカーを用いて、非寄主転換性アブラムシであるエンドウヒ ゲナガアブラムシの日本における繁殖様式の地理的変異や無性生殖集団の遺伝的多様 性を明らかにした。無性生殖集団では、有性生殖集団に比べて、遺伝子型の多様性が 著しく低いのに対して、対立遺伝子の多様性は逆に高いことが明らかになった。この 知見と推定された系統関係に基づぃて、無性生殖クローンは、有性生殖クローン間の 交雑をきっかけとして起源したとする仮説を提起した。これらの成果は、関連学会か らも高く評価されている。よって、審査員一同は、神戸崇が博士(農学)の学位を受 けるのに十分な資格を有するものと認めた。

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参照

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