〔特 別 掲 載〕
(東京女医大回第30巻第10号頁2051−2061昭和30年10月)
窒息時における鼓膜の研究
東京女子医科大学法医学教室(主任吉成京子教授)
日
ヒ
浦
ウラ
イ ワ
(受付昭和35年8月29日)
第1章 緒 言
窒息に関する研究は古くからおこなわれており,こと に最近はその文献も数多くみられる。しかしその業績の
中で聴器に関するものは多いとはいえない。有名なHo−
fmanni)の成書において,すでに鼓膜,中耳腔,外耳道 に盗血班のあることが記載されており,さらに経死者の 耳から出血のあった例が記載されている。その他聴器と 酸素欠乏との関係については,内耳に関するものがあ
る2)3)4)c
法医学領域で,絞殺の揚含耳から出血の認められるこ とがある乙とは,すでに浅田5)により詳述されておると ころであり,また溺死の場合,鼓膜穿孔の有無が問題に なるなど,窒息死についてその三内所見には,従来多く の関心がよせられてきた。しかしこれに関する実験的研 究は少ないようであるので,著者は窒息時の聴器の変化 について重点的に研究を行い,いさSか知見を得たので
こSに報告する次第である。
第正章実験材料ならびに実験方法
第1節 実験材料
体重2kg前後の雄ウサギ30匹を使用した。
第2節 実験方法 第1項耳鏡検:査
Brllnings鼓膜拡大鏡を用い,術前の鼓膜を観察し,
ついで窒息時の鼓膜を観察した。
第2項 窒息致死手段
気管圧閉,絞頚および気管注水の3種の方法を採用し た。各ウサギの窒息実験に際して耳鏡所見と同時にでき るだけ一般所見も観察した。
1。気管圧閉窒息
ウサギを頭部より上部を外に出し固定箱に入れ,その 鼓膜を観察した。次に箱から出し,固定台に仰臥位に頭 部および四肢を固定し,前頚部の毛を刈り,正中の皮膚
に縦切開をくわえ,気管を露出し,周囲組織から剥離 し,木綿糸を気管の周囲に纒豪し,随時気管を引き出し 得るようにした。次に頭部および四肢の固定を去り,再 び固定箱に入れ頚部より上部を露出させ固定した。次い で前記の木綿糸を引くことにより気管を引き出し,コッ ヘル氏鉗子で急激に気管を圧閉し,窒息を開始し,置時 にBrUnings拡大鏡を用い鼓膜および外耳道の所見を観 察した。一方一般所見の把握につとめた。観察は死後10 分まで続けた。また死後15時聞以上を経て,その耳内所 見を観察したものもあった。
2.絞 頚
直径3mm程度の細い麻紐を数本合わせたものを固定 箱のウサギの頚部に巻き手力で強く絞嘉し,その全経過 における耳鏡所見および一般所見を観察した。
3.気管注水による窒息
ウサギを固定箱に入れ,まずその鼓膜所見を把握した 後,固定台に移し,頭部および四肢を固定し,頚部正中 線の皮膚に縦切開を加え気管を露出した、ついで甲状軟 骨下端より1cmの部位において,気管輪に切開を加 え,ガラス製丁字型気管カニューレの一端を挿入し,気 管と共に絹糸で結紮固定した。再びウサギを固定箱に移 し,別に一定:量の水を充たしたイルリガートルのゴム管 の先端を気管カニューレの他の一端に連絡した。イルリ ガrトルのゴム管の末端をコッヘル氏鉗子で閉鎖してお
き,これを外せば気管内に水が注がれるように準備し た。気管カニューレの残りの一端には短いゴム管をつ け,実験開始と共にこのゴム管はコッヘル氏鉗子で閉鎖
した。
上記の準備完了後,気管注水を始め実験的溺死におけ る耳鏡所見と共に一般所見を観察した。
4.対照実験
対照実験として,ウサギの項部を一挙に打撲致死さ Iwa HIURA (Depertment of Legal Medicine, Tokyo Women s Medical College): Studies on the
tyrnpanic membran under asphyxia.
せ,その際の鼓膜所見および一ケ所見を観察した。
第3項組織学的検査および解剖検査
窒息死および項部打撲致死のウサギの聴器を解剖し出 血の有無その他の変化を検査した。また一部のウサギ の聴器は,耳後部骨壁を中耳根治手術のときのように削 除しつS中耳腔を露出し,鼓膜外輪をその骨壁に附着さ せたまs耳小骨と共に入手することが出来た。ついで鼓 膜切開刀で鼓膜を剥離した。
この鼓膜をパラフィン包理法で固定した後ヘマトキシ リン,エオジンで染色した。
また数匹のウサギにつき窒息致死直後断頭し,鼓膜を 周囲の骨質をつけたま》取り出し,これをエポセメント で固定し,フaルムレプリカで型をとり,クn一ム蒸着 でカーボン被膜し,光錐の表面を電子顕微鏡で観察し
た。
対照としては非窒息時のウサギの鼓膜について同様に 観察した。
第皿章 実験成績 第1節 非窒息時鼓膜所見
第1項 正常鼓膜(第1,上図,写真12)
鼓膜は天候により所見を異にする。こSに正常所見ど してあるのは,健康ウサギの晴天時の鼓膜所見である。
ウサギの鼓膜は,薄い竹紙様の膜で,全体は楕円形で あり,その中央は深く凹んでいる。そこを麟という。こ の楕円形は縦軸が横軸より長い。長軸は後上方より前下 方に向う。著者が実験に使用したウサギの鼓膜は,長軸
が4.5mmないし6mm,短1軸は3mmないし4.4mmで
あった。鼓膜の周囲ま鼓膜線維軟骨輪である。外耳道よりこれをみれば,上方の弛緩部と下:方の緊張部に大別さ れる。その中央にツチ骨条がある。その根部に外側突起 がある。鼓膜は全体として下方が内前方に傾斜して,下 端の後縁は外方に,内縁は内側に傾いている。上端弛緩 部と外耳道壁とのなす角は人のように6)鈍角でなく,ほ
とんど水平に近く,下端緊張部と外耳道壁とのなす角は 鋭角である。弛緩部は桃色を帯び,やS肉厚である。そ の下端中央のツチ骨条は人のように7)長くないようにみ える。すなわち賢聖に達していないようにみえ,光錐は 膀部においてツチ骨条を離れて始まるようにみえる。
これを中耳腔から解剖的に詳細にみれば,ツチ骨柄は 鼓膜の中央下部に達している。ツチ骨が小さいため鼓膜 はこれを透視し得ないのか,まだはツチ骨が内方に向っ ているので短かくみえるのかもしれない(第1図,写真
12)e
緊張部は灰白色の竹紙ようの膜で,淡い真珠光沢を帯 び,その中央部を騰という。後方に陥凹し,ツチ骨柄の 端に附着している。興部から光錐が始まり,鼓膜の下方 を経てその後部におわる。光冠は光を反射させ銀白色の 光輝をもつている。その形はウサギにおいては人に似た
ものは少ない。多くは不定三角形をなし,または,羽毛 状,浮雲状である(第11図)。視軸の変化に伴い変化し てみえるものもある。黄班はウサギの鼓膜では比較的少 なく皿図No.皿右の他はみられ難い。
光一は銀黒色に記載したが実物は銀白色である。
以上の晴天時鼓膜所見においても往々異常所見があ
る。
1図No. M, No. Vは炎症で前日は雨天で,強い炎症 があった。No.1は綿棒で鼓膜を刺戟したための弛緩部 の充血である。
第2項異常条件時の鼓膜所見
ウサギの鼓膜は高気圧,低気圧などの気圧の変化,気 温および雨,曇,嵐などの気象の変化により客易に所見 が異る。また鼓膜を刺戟したときや,ウサギが激動,興 奮したときも同様に所見が変化する。それらの鼓膜の変 化は次のようである(皿,皿図)。
1.充血=弛緩部およびツチ骨条に甚しい。次に前・
後ツチ骨ヒダにみられる。充血が強くなると盗血とな る。緊張部は充血しない。
但し炎症の場合は緊張部にも充血が起り,炎症が強く なると鼓膜は腫歯し光錐は消失する。聾唖No. diは緊張 部の充血を示している。
2.光錐の変化:舞錐は形,大きさ,位置,光の強さ などが種々に変化する。
3.内陥:巫図No.皿b右は内陥である。鼓膜の透過 性が変化しツチ骨柄が透視できる。ツチ骨柄の充血も加 わっているためであろう。
このように,外界の気象状況により鼓膜所見が異ってい る。そこでff図,僻説における実験当時の外的条件をみ ると次のようであった(ee 1,2表)。
第1表はIII図作製当時の外的条件である。第2表は皿 図作製当時の外的条件である。
これによってみると,湿度が多く,気圧の低い雨天,
曇天時には鼓膜に充血が強いようであったので,窒9実 験は主に晴天の日をえらんでおこなった。
第2節 窒息実験成績
第1項気管圧閉窒息の一般経過および耳鏡所見
第2節窒息実験成績
第1項 気管圧閉 第1表
酬天気1気温幽幽(劇気圧(MB)
1 晴 13 7 1018
1r 晴 16 7 1019
皿 晴 15 8 1015
w
晴 11 7 1016V
晴 13 6 1021VI 晴 13 7 1022
顎 晴 13 7 1016
第2表
・司天罰気温呵澱(劇気圧(M…)隣考
1 (a)
1 (b)
[ 盈(a>
皿(b)
V
曇 雨 曇 曇 曇 雨 小雨
曇 15 14 16 12 14 16 15 11
7 10 8 9 8 8 10 7
窒息の一般経過および耳鏡所見 ウサギ10匹を用いた。
1. 一般経過
1010 1012 1005 780 1009 906 1005 987
激動
激動
前駆期:窒息開始後,約30秒ぐらいの間で,この間動 物は平静である。ついで徐々に軽度の呼吸困難がはじま り,やがて軽く一過性に痙:攣様運動がおこり痙攣期に移 行する。
痙攣期:実験開始後ユ分7秒ぐらいから痙攣期に入 る。持続時間は50秒ぐらいである。始めは交替性痙攣で あるが,次第に強縮性i痙攣となった。同時に努力性呼吸 運動も強く起り,眼球突出も現われた。
末期前呼吸停止期:今迄盛んに起っていた痙攣も呼吸 困難もしずまり動物はグツタリとなる。この期間はほshh
1分ぐらいで次の末期呼吸期に移行する。
末期呼吸期:多くの例において末期呼吸が現われたが 稀にこれの現われないものもあった。呼吸もなく仮死の 状態にあった動物に突然深い吸気運動が起り,これを数 回くりかえし,以後呼吸運動は停止する。
死亡時間は2分45秒,遅いものは5分55秒,平均4分 25秒であった。
2.耳鏡所見(W図)
窒息前ウサギの気管露出の目的で前頚部の操作をお こなうと全部の例ではないが往U弛緩部に充血が起るこ とがあった。それは外側突起およびツチ骨条において甚 しく,まれに濫血糊になった。また外耳道深部にも高度 の充血をみることもあり,血管拡張の認められたことも あった。光錐も大きくなることがあった。(図IV, V図 の半月四部は外耳皮膚を示す)
前駆期:この時期には変化が少ないが,外耳道深部お よび鼓膜弛緩部の局所性充血は消退しはじめることが多 かった。またまれには一過陸の充血をみるものもあっ
た。
痙1攣期:痙攣期の初期には,鼓膜および外耳道は次第 に蒼白となった。光錐は次第に小さくなった。またこの 時期には往π弛緩部および外耳道深部に出血がみられ
た。痙攣最強期で,連続痙攣がはじまると弛緩部は更に 蒼白になった。鼓膜および外耳道は暗紫色謂が強くなり 小溢血が起つた。その大きさは蚤刺大,粟粒大であっ
た。弛緩部ことにツチ降場,外側突起の周辺に薯明で,
稀には血腫状となるのもあった。外耳道の動脈は糸のよ うに細く収縮してみえ,静脈は怒張し充盈した。緊張部 には出血は起らない、光錐はますます小さくなり変形
し,あるいは数個に分裂し,全例の70%は消失した。30
%のものは極めて小さくなるが残留した。
末期前呼吸停止期;大体上記の所見を呈し,血管の色 調は暗赤色となった。
末期呼吸期および死亡時:鼓膜および外耳道の色調は ますます暗紫色となり,したがって弛緩部と緊張部が判 ヒ比し難くなった。出血は増加し,その色は暗赤色であ
るqその他一血管の充盈が強く残り,出血のみられた例も あった。
光錐は多くは消失している(70%)。残っているもの は点状で小さく辛じて認められた。
鼓膜破裂はみられなかった。
死後10分では,光臨は残留した点状のものの中,消失 するものがあった。
第2項 絞頚による窒息の一般経過および耳鏡所見 ウサギ5匹を用いた。
1. 一般経過
前駆期:余り変化がない。僅かに呼吸困難がみられ た。早いものは20秒,遅くも1分55秒,平均1分42秒で 一過性の痙攣様運動が起り痙攣期に入った。
痙攣期:絞頚においては痙攣は弱く,持続時間も短 く,回数も少なかった。眼球突出も軽度であった。それ は平均2分13秒で現われた。
末期呼吸期:早いものは2分30秒で末期呼吸が始ま り,遅いものは6分で始まった。
死亡時間は,早いものは4分2秒,遅いものは6分5 秒,平均4分40秒であった。
2. 耳鏡所見(V図No.5)
前駆期:著明な変化は少ないがや〉貧血性となるもの が多かった。
痙攣期:初鯨こ充血の加わるものもあったが多くは外 耳道および鼓膜弛緩部に貧血が強くなり間もなくッチ骨 面に充血または点状浴血が起った。同時に前・後ツチ骨
ヒダに充血または静脈の怒張が起つた。
連続した痙攣が起る頃には,鼓膜および外耳道皮膚は 浮腫状貧血性となった。溢血,充血のみられることは少 なかったが稀に弛緩部および外耳道の深部に出血が起つ た。また静脈の怒張は増した。ツチ骨柄には濫血の増す のもあり充血のみのこともあった。暗紫色調は極めて軽 度であった。
光輝は前駆期から小さくなりはじめてますます小さく なるが,痙攣期に入ってからは余り変化がなかった。す なわち縮小はするが消失例は20%であった。
末期前呼吸停止期:ほず痙攣期と同様所見であるが出
血は暗赤色となった。
末期呼吸期および死亡時:鼓膜は蒼白となり,軽度に 暗紫色調をおび,浴血点も暗赤色である。光錐は多くは 消失しなかった。
第4項気管注水による窒思の一般繹過および耳鏡 所見
ウサギ5匹を用いた。
L 一般経過
前駆期:余り変化は認められない。
痙攣期:前駆期についで軽度の呼吸困難が起り,間も なく一過性に痙攣様運動が起る。その時間は早いものは 実験開始後25秒,遅いものは1分5秒目あった。痙攣期 には呼吸困難は増強し,痙攣運動は初めは聞激的である が,漸次その回数も強さも増し,後半期には連続性とな った。同時に烈しい呼吸運動と共に気管カニェーレの一 端からは白色の泡沫が噴出するに至った。
痙攣が連続性となる時聞はおよそ1分25秒であった。
また連続性痙攣をみないものもあった。眼球突出も平均 1分1秒で起つた。
末期前呼吸停止期:この持続時間はおよそ30秒程度で ある。この時期には痙1攣も呼吸運動も停止し,動物は仮 死の状態となっている。
末期呼吸期:窒息開始後平均1分47秒で起つた。
2.耳鏡所見(V図,No.2)
窒息前:外耳道深部,鼓膜弛緩部に気管操作後暗紫色 の局所性充血が起った。
、前駆期:上記の充血は消退し,回錐は縮小しはじめ
た。
痙攣期:痙攣期の初期には,鼓膜および外耳道皮膚に 貧血がはじまり,ツチ骨条に充血が起つた。痙攣が連続 性となる頃には静脈は怒張し,弛緩部および外耳道深部 に濫血点のあらわれることも充血であることもあった。
光一はますます縮小し,中には2〜3コに分裂するの もあったが死亡までには80%消失した。残留したものも 点状で極めて小さい。
外耳道の血管の色調は暗紫色調を増し静脈は怒張充盈
した。
末期前呼吸停止期:痙攣期と始んど同様所見である。
末期前呼吸停止期および死亡時:末期前呼吸停止期の 所見と余り変らない。
第4項 対照実験および死後硬直時鼓膜所見 1.対照実験としてウサギの項部を打撲し死亡させ,
死亡直後の鼓膜を耳鏡で観察した。
その所見は第3表のようである。
次表のように項部打撲死では死亡時光錐は点状にみえ る程は縮小しない。
2.死後硬直時の鼓膜所見
気管圧閉および絞頚による窒息致死後15時間で死体硬
第3表
・唄糎・・瞬訓
光 錐x皿
2.1
1. 9
1.9 十
十
(左)小(軽度)
大 小(軽度)
(右)小(軽度)
左の%
小(軽度)
直が三明に発現し,全身が硬直状態になっている時に鼓
「膜の特に光錐について観察した。
第4表に示すように死亡時光錐の消失していた気管圧 閉窒息の揚合は,死後15時闇て硬直がたけなわな時期に おいても勿論光錯は消失していたが,絞頚の場合は死亡 時に光錐は残存していたのが,全身に硬直が薯明に発現
した時期に光錐は消失していた。
第4表
・引一門剰死塒維陣干網
xw xv
気管圧閉
絞 頚 十
第5項組織学三所見および解剖所見 1.組織学的所見(写真1,2,3,4)
鼓膜を切り出し,フォルマリン固定,パラフaン包理 法,5μ前後の切片とし,ヘマトキシリン・エオジン染 色法を行った結果,
ウサギNo.皿, X三二の鼓膜組織内に出血が認めら れた。 (写真1,2)
なお,No.顎, Xのツチ骨組織のハヴァース管に血球 が充満している所見を得た.(写真3,4)
2.解剖所見
気管圧閉窒息例で3例,側頭筋に出血が認められた。
(No. IX, X, XII)
中耳腔に出血が認められたのは3例であった。 (No.
m, x)
また窒息例では,ツチ骨静脈の血管充盈が認められた が,断頭によって得た対照例でも軽度に同名静脈の充盈 が認められた。 (写真12)
第W章 総括ならびに考按 第1節 非窒息時ウサギの鼓膜について 第1項晴天時のウサギ鼓膜(∬図)
ウサギ鼓膜正図は晴天時のものである。正常鼓膜所見 が多数を占めているが中には病的のものもある。例えば No. 1, No. Nは炎症をおこしている。充血は緊張部に
あり光錐は消失している。No. II右の弛緩部充血は綿棒 で鼓膜を刺激したための充血である。
一般にウサギの光錐は人のような7)8)定型的な三角円 錐は少ないがこれに似たものもあった(No. V, No. M)
B
しかし大部分は不定形で羽毛状,浮雲状をなすものが多
かつた。
光耀こついて久保9)は光が垂直に反射する鼓膜面が光 錐としてみられ,それは人7)においては組織学的に凹ん でいるために起る異常反射であるという。したがってそ の条件が変化すれば光錐も変化するはずである。鼓膜の 面と光源の関係が通常と異なる状態になったときに光錐
も変るということがいえる。したがって視軸の変化によ っても光錐は変化する。
ウサギの鼓膜の観察時に視軸は鼓膜面に常に垂直をな すとは限らない。ウサギの外耳道は人の外耳道より長い ため鼓膜を正視し易い位置は後上外方から眺めている時 である。ウサギの鼓膜は下方が前内方へ傾斜しているた めに視軸は常に鼓膜面に平行とはい》がたいが,膀以下 の鼓膜面の傾斜はその上部よりは視軸に対し直角に近い ということができる。このときたとえ垂直に光が反射す る位置においてウサギの鼓膜を観察し得たとしてもウサ ギの光錐は人のそれとくらべて如何なる差異をみるかは 推定し難い。
第2項異常条件時のウサギ鼓膜
ウサギの鼓膜は日常おこりうる異常条件に敏感に反応 して異常鼓膜所見を示すことが多い(図皿)。すなわち 次の変化を起す。
充血:弛緩部および外耳道に高度の充血がみられる。
盗i」血のこともある(No.1,NQ.皿)。 弛緩部は肉厚で 血管に富むためであろう。緊張部は充血を起し難いが炎 症などにより腫塾する。それは弾力性があるが血管に乏
しいためといえる。
林1G)はウサギもアレルギー性鼻炎にかsることを発表 している。したがってウサギも中耳炎または中耳カタル を起し得るものと考える。
著者の所見で悪天候の場合に鼓膜に充血のみられたの は,天候の変化による身体的異常の部分現象てはないか
と思われるf,t
またウサギの鼓膜も激痛,興奮,人為的鼓膜刺戟など に反応して充血し,その時はツチ骨柄が最も敏感であっ
た。
内々:鼓膜の透視性が増したとき,ツチ骨柄がみられ た(No.皿左)。
予算:人の病的車身像よりも8)はるかに多種多様に変 化した。大となり,小となり,また消失したりした。点 状となるのも,分れて多数となるのも花火状となるなど がある。光も強いのも弱いのもあった(皿図)。
以上の異常鼓膜所見の解説に役立つ諸文献は次の通り である。
気象変化が聴器におよぼす影響についてlrk豊島i1),坂 田12),桜井13)の他に根本14)がある。
また寒冷や温度の変化が聴器に与える影響について は,田上19),豊島i6)の研究があり,ウサギも中耳炎にか
sりやすく治り難いという。猿渡17),仁保18)および近藤 19)はその低温との関係を発表している。岡野20)は温度較 差の中耳=炎に対する影響を発表している。
航空時中耳の異変については,今井21),久保22),高橋 23)の研究がある。豊島24)は航空時異常を訴えるものの多
くに耳鼻疾患,たとえば副鼻腔炎,耳管カタル,扁桃肥 大などがあるという。
鼓膜の特殊圧力による障害に,その破裂がある。次の 各ユ例報告がみられた。中島25)は外耳道へ指を入れて急 に抜いたときの陰圧によりポンと音をたてて破れたとい
うことを報告し,野田は落雷により,石丸は炭抗内で火 薬の爆発のために鼓膜破裂をおこしたとい〜,西山は爆 風による障害を述べている。また広瀬は高圧と聴力の関 係を発表し,田上は聴器に人工圧力を加えてその出血を 観察している。
特発性出血について岡野,西端は人の鼓膜について報 告している。
すなわち鼓膜は,外界の変動が直接鼓膜に波及し障害 をうけることもあり,気象温度などの変化により起っ た身体的異変まで鼓膜に充血その他の変化の起ることは すでに報告されているところである。
第2節窒息実験について
窒息開始より死亡までに至る急性窒息死の本態につい てPonsold26)は炭酸ガス中毒,ウッ血のための組織中 毒,および酸素欠乏の要素をあげている。
死までの一般経過を古畑27)は,前駆期,痙攣期末戸 前呼吸停止期,末期呼吸期の4期に分けている。著者は 実験にあたり窒息前および死後も観察した。
第1項気管圧閉窒息の一般経過および耳鏡所見に ついて
1. 一般経過は第5表にまとめた。
極めて定型的な窒息経過が観察できた。
前駆期;薯変なく,わずかに呼吸困難がある。
痙攣期:は1じめ吸気性,後に呼気性の呼吸困難があ る。また一過性の痙攣様運動で始まる。痙攣はその強さ と回数を増し遂に連続性となる。その頃に瞳孔散大,眼 球突出が起る。
末期前呼吸停止期=呼吸も痙攣もやみ静かになる。
末期呼吸期:特有の大きい吸息が起る。次に静かに呼 気が起りこのような呼吸運動が数回繰返され,間隔も段
々のび,ついに呼吸が停止する。
2.耳鏡所見
i.窒息前および前駆期
窒息実験準備のために野饗気管露出操作を行うと往々 鼓膜所見は変化した。その変化は弛緩部の充血で,なお その周辺の外耳道にも充血をみた。時には盗血が起っ た。しかしこの充血は緊張部には起らないので外傷性局 所性充血である。ウサギの体質,実験手技または外的条
件などに関係があるが,主に実験時動物が興奮激動し て,固定台の金具が耳根部を圧迫あるいは傷つけたため であろう。この時光錐は大きく見えるものがあった。
前駆期はコッヘル氏鉗子で気管を圧閉すると,はじめ は変化が少ないが,まず上述の局所性充血が去りはじめ る。また充血のない正常鼓膜は一過性に充血を示すのも あるが(皿図No. V)漸次貧血を示した。
ii.痙攣期:
痙攣期:前駆期のあとのウサギは一過性に痙攣様運動 を起す。その回数,強さを増す。鼓膜および外耳道は次 第に貧血が加わった。これはこの頃血液中にアドレナリ
ン分泌増加が起り,末梢血管収縮により鼓膜および外耳 道皮膚が貧血性に見えたのであろう。なおこの頃は血中 Q2量は減少し,血液は暗赤色になるため,鼓膜緊張部 は暗紫色を帯び暗くな、りはじめる。
この時光錐は縮小しはじめる。痙攣は漸次連続性にな
第5表 窒息所見と時聞の関係
気毫Pt肉
Nl,
工
1[[
皿
v
X
、ト吸停止期H旨
{蘭セ盆
00 E銘ダ
、
A紬 十三 3セグ 〃 245
2㌻5 325
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疋 〃 ウ.〃
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@ 〃
^3〃
/塗3〃
m建 1
@ /4〆
^45
◎
クa5
一
^ン〃
/ ρ m∂5
2 33
@ 〃
Q3〃 3/
@ ⑤
2≧〆
S355
言明
野耳隠購島・1アる勘1初才気瀬戸その購誌面蜘牧
?池雛分裂 (⑳回錐縮 激字・碗躯・数
一〇〇S6一一
り,鼓膜および外耳道は暗紫色を増し貧血も加わる。こ れらの所見は吉成28)がウサギの窒息時の眼底検査で,眼 底血管の色調が,この頃暗紫赤色となったというのと軌
を一にしている所見である。眼底では検眼鏡検査で,出 血は認められなかったが,著者の実験では鼓膜弛緩部お
よび外耳道深部の皮下に浴血点が多数現われた。それは 点状または短い線状であった。緊張部には出血は見られ なかった。頓興は縮小し,変形するもの,消失するも の,分れて数個となるものがあった。また静脈は怒張し 充盈し捧状に太くなった。この静脈の怒張は鼓膜弛緩 部,外耳道深部にみられた。外耳道に赤く絹糸のように 細くみえるのは動脈と老える。 (N図参照)
iii.末期前呼吸停止期:この時の所見は痙攣期の所 見の延長であり,ほとんど痙攣期と同様であった。
iv.末期呼吸期および死亡時
前期に続いて鼓膜は弛緩部も緊張部も暗紫色を呈し,
そのために旧弊部と緊張部の差が判然としなくなった。
出血は増しその色は暗赤色である。鼓膜および外耳道深 部皮膚が暗紫色となり貧血性にみえるのは死期が近くな
り血圧は0に近く,血中02欠乏が甚だしく,.血液が暗 紫赤色となるためであろう,
光町は70〜80%消失し,消失せずに残留しているもの も極めて小さかったQ
死後数分間の観察では,鼓膜および外耳道の粘膜がす っかり蒼白になったため,その部の充盈した静脈および 溢血点がかえって明瞭になったものもあった。またこの 時期に光錐の消失,分裂などの変化がみられたものもあ
った。
第2項 出1血について
窒息時粘膜下,漿膜下に浴血点の起ることはPonsold 26),Hofmann1)の成書にも述べられている。 Ponsoldは 顔,眼結膜,肺,甲状腺および心膜に起ると記載し,
Hofmannはその他中耳腔,鼓膜,咽喉粘膜,気管,食 道,胃腸粘膜および外耳道をあげている。外耳道の出血 は入において外側にみられるというが,著者のウサギの 実験では外側とは限らなかった。しかしその出血場所は 外耳道深部すなわち鼓膜周辺の皮下であった。
鼓膜および外耳道の出血状況は主として蚤刺大から粟 粒大の点状盗血としてみられ,中には桿状形のものもあ ったが,稀には麻実大の血腫のこともあった。
揚所は鼓膜弛緩部に最:も多く,ことにツチ骨条端が最 も多かった。これについで前後ツチ骨ヒダが多い。最:も 少いのは外耳道である。緊張部は出血しない。これらの 出血の部位的関係は一般的出血の原因の他にこの場所の 解剖的根拠も加わることが考えられる。すなわち弛緩部 は肉厚で,鼓膜の血管幹が存在する。
それはツチ骨動静脈29)である。また外耳道深部も血管 に富んでいる。そしてまた痙攣に際し耳小骨の関節運動
が弛緩部を刺戟してその血管を破損しやすいことが考え られる。緊張部は弾力性に富み血管が少なく細いために 破損し難く出血しないのであろう。
田上30)が人工的気圧上昇を聴器に作用させた実験にお いて三者の実験と共通性のあることは弛緩部の出血であ
る。さらに耳小骨周囲には出血はなく,緊張部にも出血 しないという。中耳腔の出血は存在したといっている。
著者の実験においては緊張部に出血のないことは田上 と共通しているが,耳小骨周辺すなわち弛緩部の出血が 多く,外耳道にも皮下出血がみられた。また組織学的検 査で耳小骨においてツチ骨内ハヴァース管に血球充盈を みた(写真3,4)。
なおツチ骨端には最も多く盗血をみた。ツチ骨静脈に 充盈もみられた。さらにツチ群峰先端に血腫のみられた 例もあった(No. X)。これがその度を増せば破れて大出 血となり得る可能性があると考える。Hofmannの成書 にある経死体の外耳道出血例はこれに.相当することと考
えられる。
出血に関連のある変化は当時の血管の所見である。動 脈は収縮し,静脈はウッ血,拡張した。それは外耳道お
よび鼓膜弛緩部においてみられ出血を起す前に始まり,
出血とともに増強した。そしてその所見は気管圧粉にお いて最も強く現われた。それはおそらく気管圧閉におい ては頭部へゆく血管・神経が頚部で圧迫されるというこ とがなく,窒息時に血圧上昇と共に起る頭部充」血の部分 現象であろうと思われる。
第3項 絞頚および気管注水による窒息の一般経過 および耳鏡所見について
1. 絞 頚
i. 般経過は第6表にまとめた。
絞頚は死亡迄の時開が他の2方法よりも長く平均5分 13秒であった。絞頚が他の2:方法に比べ死亡迄の時間の 長いことは既に高岡3ユ),吉成32)の報告したところで,絞 頚は気管圧閉,溺死よりアドレナリン分泌が多く,窒息 前半期がのびるためである。縮瞳,散瞳も起つた。眼球 突出は著明ではない。窒息時の眼球突出の原因は,副交 感神経麻酔および球後血管のウヅ血が主因であると平形 33)は述べている。斜頚の場合人では椎骨動脈が埋草され ないため頭部に著明にウッ血の起るのが特長であるが,
ウサギは頚部組織がセン弱なため強力絞頚により頭部へ の血行が全部杜絶し,頭部は貧血性になることは既に吉 成が証明したところである。薯者の牛合の絞頚において は頭部に貧血をきたし,眼球突出は軽度であった。
ii.耳鏡所見
外耳道および鼓膜の皮膚は浮腫状となり貧血が強い。
溢血班は少なく出血しないものもあった。出血しないも のは充血の程度にとS まった。血管の暗色化の軽度であ ったことも吉成の眼底所見と一致していた。
第6表 窒息所見と時間の関係
絞頸
N o.
o 2 O 0 G
( /)
(2)
(3)
(4)
〈5)
輸入己期
寝 攣 餌
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/(箔諺O晦瞳麟帆燗曝竣助□瞭勤姻轍
』尤雛ヲ歌,(Pt 19鏑三園,㊥)幽駆雛叡
光錐は,はじめは他の方法のように縮小するが,痙攣 む
期以後は変化がなく,残留するものが多い。残留した光 錐の大きさは他の方法による窒息例に此して最も大であ った。この理由については,ウサギの実験では,二二の 際痙攣が弱い。したがって中耳腔に関する筋肉,たとえ ば鼓膜張筋6)その他の痙攣も弱いことが考えられ,ため に痙攣期以後において他法にみられた鼓膜弛緩部の出血 や光錐の変化は絞頚においては著明ではなかったのであ ろう。光錐の変化については後述する。
2.気管注水による窒息、
i.一般経過は同じく第6表にまとめた。
気管注水による窒息では一一般窒息死と異なり初期無呼 吸期がないから全経過はそれだけ短くなる。
痙攣は強く,顔面のチアノーゼも薯明であった。実験 中ガラス製気管カニa一レから白色の気泡が痙攣時の呼 気と共に噴出し気管内は気泡で充満している。これは水 が肺胞まで入り,水,空気粘液が呼吸運動で携拝され て生じた気泡で,水が肺胞に達した証拠である。
ii・耳鏡所見
所見は気管日野窒息に似ているが,気管圧閉の揚合よ りやs貧血陸である。
痙攣期には鼓膜弛緩部および外耳道深部の皮下に静脈 の怒張,出血が起り,血管の色調の暗紫色化も著明であ
った。
光錐も窒息初期から縮小し,または数個に分裂し,全 例の80%は痙攣期以後急速に消失した。残留したものも 点状に小さく,大きさ,場所共に気管圧閉窒息に似てい
た。
気管圧閉窒息および気管注水による溺死とでは,痙攣 が両者共に強いこと,頚部において血管,神経が圧迫さ れないことなどが両老に共通した点である。このことが 鼓膜および外耳道皮膚の血管所見および光錐の消長に類 似した所見を与えたのではないかと思われる。
第4項光錐の消長について
回錐は光の集結によって生じ,それは鼓膜表面の凹み から反射された光であるといs,久保9)は人のそれは鼓 膜面が組織的に凹んでいるためという。そして鼓膜面に 垂直に光が反射する所が光錐であるという。
またウサギの聖意と人の光錐との差はすでに述べた が,人のそれは定型的な三角円錐をなし,他の鼓膜表面 から境界が明瞭に区別されている。病的8)鼓膜といえど
も消失しないかぎりその基本型が見出される。
ウサギの光錐は人に似たのもあるが(i図)多くは不 定の羽毛状,浮雲状をしている。それは鼓膜の騰に始ま
るが,その中間帯を後方へ向って走る。また中間帯に雲 状に止まるのもある。光錐の境界は人のように明瞭を欠 き漠然としている。この光錐は外科的条件によって変化
する。
光錐は解剖学的にはその発生部位の鼓膜の組織的所見 と,光学的には光軸と鼓膜面の関係が直角ということに おいて成立する。すなわち物部を頂点としてツチ骨柄で 鼓膜は内方へ陥凹させられている(写真12)。 したがっ
て鼓膜の下方緊張部の麟以下の鼓膜面が光軸に対して直 角であり得る面が見出される。それが光錐の一要素であ る。ツチ骨柄は外的条件によって微妙に変化するので,
それに従って鼓膜面も変化する。これがウサギの光錐の 変化であると思われる。ウサギの光錐は,人のように判 然とした定型的なものではなく,組織学的にもウサギ特 有の所見を見出した(写真5〜8,後述)。耳鏡所見で 窒息時の光弾は例外なく縮小する。外方より小さくなり はじめ途中で2〜3個に分裂するものもある。縮小した 光錐は多くは円形で光は強くなる。気管圧閉窒息,気管 注水窒息では痙攣期以後その変化が強く,死期にいたる 闇に大部分は消失し,残留するものも極めて小さい。残 留する禁所は多くは鼓膜の中心で,その形は円形であ
る。例外として前下辺縁に半月状をした光錐もあった
(No.17右)。絞頚では窒息初期には,他の方法による 窒息と同様であるが痙攣期以後は変化しないので,他方 のそれより大きいまs全例の80%は残留した。
光町の消失機転を知るために,非窒息時の鼓膜および 気管圧閉致死直後,絞頚致死直後の鼓膜を周囲の骨質を つけたまS取り出し,鼓膜表面の光錐部をフaルムレプ
リカで型をとり電子顕微鏡で観察した。それによると鼓 膜表面光錐部の電子顕微鏡所見(写真5〜11)は次のよ
うであった。
ウサギの正常畦畔の多くは円形または晴円形の陥凹と して鼓膜面上に存在する,写真は実物の陰像であるため 突隆として現われた所見は実物では陥凹である。
写真5は耳鏡検査で虹図No.皿のように光錐の形が 横構型のもので横弧重壁錐と仮称したが,電子顕微鏡写 真では円形または楕円形の隆起が散在している。
写真6は人の無窮と似たもの(垂直光錐と仮称)の電 子顕微鏡写真で,光錐は断層状をしており,またその中 小さい球状の隆起がある。
写真7には耳鏡検査で淡い光錐として認められるもの で,電子顕微鏡写真では,小さい隆起が散在するのが認 められる。
写真8は肉眼的に淡い浮雲状の光錐であるが,電子顕 微鏡写真では小さい隆起の散在するのが認められる。
写真9は絞頸致死直後の光錐を同様に検したもので,
耳鏡検査で光錐は縮小しており,電子顕微鏡写真で光錐 の隆起はわずかにみられる。
写真10は気管圧閉致死直後のもので,耳鏡検査で光錐 は消失しており,電子顕微鏡写真で鼓膜面の隆起は消失
している。
写真11は気管注水致死直後の光錐部で,耳鏡検査では 光錐は消失し,電子顕微鏡写真で光錐の隆起は消失して
いる。
このように立錐はみな鼓膜面の突隆であることにおい て共通しているが(レプリカ法での突隆は,実際は表面 の陥凹であるため,鼓膜面に陥凹があることになり,入 の壷錐に比して,ウサギの光画は,形,大きさ,数は色 々であって,肉眼的に異る光錐はそれに相応して異った 写真像を有していた。
窒息後光錐の消失した鼓膜は,電子顕微鏡的にも正常 ウサギの鼓膜とは異った所見を呈しているのであった。
窒息時光錐の変化の起る理由:この現象は次のように 説明される。窒息によって,その初期に1図No.正の
ような横弧四光錐は小さくなる。これは鼓膜が緊張し,
光錐部鼓膜表面の陥凹が小さくなるためであろう。窒息 が進み痙:攣が増し,鼓膜張筋もi痙攣を起し,そのためツ チ骨柄は上内:方に挙上され,その程度が強くなると横弧 型光錐は消失し,ツチ骨柄の挙上はますます強くなり,
これに附着した鼓膜は縦に凹みをつくるにいたり鼓膜に
ひだが多発する。:戯れが光錐の分裂する理由と老える。
分裂光錐の各位置とツチ骨柄との関係で説明される。
その他の変化については,ツチ骨柄は上内方に転位 し,それによって麟以下の鼓膜の位置に変化がくるため に光錐の変化となるものと考える。
絞頚において光錐の変化が少ないことは,この方法に よる絞頚では一般に痙攣が弱かったので,鼓膜帯筋,ア ブミ骨筋の緊張も弱く,したがって鼓膜の変化が少なく 光錐も変化が少なかったのであろう。
要するにウサギの鼓膜は弾力性に富み,緊張しないと きは主として横弧型の回錐を作り,ツチ骨柄が内陥して 鼓膜の緊張が増せば垂直型となり,その緊張が更に高度 になれば分裂戦勢または点状の光町をつくるのであろ
う。これらの混合型もみられた。
窒息初期において,痙攣のまだ起らない時期にも大部 分の光錐が小さくなったのは,鼓膜張筋,アブミ骨筋の 痙攣によっては説明がつかないが,この時期に既に鼓膜 は緊張しはじめ,鼓膜表面に変化を与え,視軸に対し鼓 膜面のなす角度も変化するわけであると考える。すなわ ち鼓膜の位置の変化,緊張度の変化も光町の変化の一 一 ・つ の原因であろうと思われる。
以上電子顕微鏡による正常光三部の鼓膜表面観察,各 種窒息死直後の鼓膜の表面観察,正常ならびに窒息経過 中および死後の耳鏡検査所見を綜合して窒息時の光錐の 変化について解説した次第である。
結 論
1.窒息開始後,前駆期には,鼓膜弛緩部および外耳 道深部の皮膚はやS貧血性となる。
2.痙攣期には,鼓膜弛緩部および外耳道の皮膚は著 しく暗色となり,該部の静脈の怒張,蚤刺大ないし麻実 大の浴血が起り,血管の色謂の暗紫色化も著明であっ た。溢血点の最も多く認められた三所はツチ骨条先端で あった。光錐は窒息初期から縮小しはじめ,痙攣期以後 は急速に縮小または分裂し,死亡頃までには多くの場合 消失した。
3.末期呼吸期に入ると,血圧も低下し,鼓膜面の暗 色化は著しく,鼓膜弛緩部と緊張部との区別も明瞭を欠
くにいたった。
4.光錐の変化ならびに消失過程については,鼓膜面 の位置の変化,鼓膜の緊張度の変化が関係し,組織的に も鼓膜の陥凹に変化が起るためと推定する。.
したがって,窒息痙攣の強い気管圧閉窒息,気管注水 による窒息においては多くの場合消失し,痙攣の弱い絞 頚においては残留することが多かった,
稿を終るに臨み,終始御懇切なる御指導と御校閲を賜 わりました吉成京子教授,御教示と御校閲を賜わりまし た本学耳鼻咽喉科学岩本彦之蒸教授に深謝を棒げ,組織 標本作製にあたり御援助いたS きました解剖学教室およ
び電子顕微鏡室の諸氏,ならびに御協力いた越ました 教室の諸氏に感謝いたします,
本文要旨は昭和35年10月,第26回東京女子医科大学々 会総会にて発表した。
文 献
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1図人とウサギの鼓膜の比較
人の鼓膜(左)
弛緩部 ,一7/;k
後ツチ骨ヒダ
が\ 緊張部
光町
ウサギの鼓膜(左)
前ツチ骨ヒタ ツチ骨条
鼓膜線維軟骨輪
外側突起
砥
緊張部
一2063一
弛緩部
後ツチ骨ヒダ
光錐
H図解説 非窒息時ウサギの耳鏡所見 (その1)
No.1 弛緩部軽度充血。前後ツチ骨ヒダおよびツチ骨条は充血。
No. H(左右) 光錐大
No. ll(左)綿棒でツチ逐条を刺激したことによる充血。
No.皿,1V 緊張部の軽度の充血。
No.1,V,V[, VI[ 正常鼓膜所見。
No.1(右), V(右), W(右), W(右)垂直型光錐 No.皿(左右), V(左), VI(左), W(左)横弧型光錐
一2065一
H図 ウサギの耳鏡所見(非窒息時 その1)
No. 1
No.皿
No.皿
No. IV
No. V
No. VI
No. V旺
左\
竃
轟麹
、\く懸
t//P1 11h 一 xx
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丈竺.
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右
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皿図解説 非窒息時ウサギの耳鏡所見 (その2)
No.皿 弛緩部 緊張部 軽度充血
No.皿(a>弛緩部充血軽度 ツチ骨条充1血
No.皿(b)弛緩部充血軽度 左前ツチ骨ヒダおよび右前後ツチ骨ヒダ充血 ツチ骨条充血 右緊張部にツチ骨透視をみる。
No。 N 弛緩部および緊張部充血 前後ツチ骨ヒダやs充血 三光錐消失 三光錐小 No. V 両側弛緩部充血著明 左血管充血 前後ツチ骨ヒダおよびツチ骨条充血 光錐変 形をみる。
No, W 弛緩部充血,光錐変形
一2069一
皿図 ウサギの耳鏡所見(非窒息時 その2)
No.1曇激動
(a)
No.1雨
(b)
No. ll曇
No.皿曇 (a)
No.皿曇激動
(b)
No. IV雨
No. V雨
No.皿曇
左
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響
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!/v一 淡桃色 罐
./一一一N一一一一一x
血
直血
齢 序
暗紫色
小出血 暗紫色
・三色
碓 銀灰色
・磯灘充血
照 欝
・充血消退
克虹
.〆 {・、} 重力脈
ζア\誉狭小
出」血
緬
饗饗欝光一
婦L繋,
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/鯨・ が
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が
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出血
光錐園丁
ゼ
自
溢血
充血溶退
光錐消失
⑱ 欝/蝉\ t
癌静賑充盈 真状出血
境不明
蕎事賑充盈
光錐回状
出血蓄
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難
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# e t
光錐小
溢血
ct//・
斉畢賑充盈
光錐残留
窒 息 前
】V図
No. ll(左)
〆二...
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気管圧閉窒息耳鏡所見
同 上捨罪強
(処置後)
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磁:}いノ.鍮
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∫㌃・、
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痙 攣 期 ∩靹』〜、
(。) い』タ・
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末期呼吸期 Y卿ノ:
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No. V(左)
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浮腫状 出血
ノ1\
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拶
高度充血
充血消退
賭
劉
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辞賑充盈 暗紫色
一克血
軽度 一暗紫色
(う…
eEg.・,
〈lbG
@J)iteggsa.n
瀞 臭状 出血.
斉弔賑充盈
出血
継・
轡ぐ戦
真状出血
青畢賑充孟
光金甚遺失
V図絞頸(N・・5)および気盤水時聯所見⑳2)
No.(5)(左)
一前
・v・ r j・・,x
同(処置後)上
@¥ice ,,t
No.(2) (左) (右)
馨響1ワ
,」 ・一.盆 幽
、、e…;韻
義.:、轡い前駆期
痙攣期
(a)
同
(b)
上
末期呼吸期
死
後
諭曝診趨琶 験 ・幽
豪、
ぐひ
ノ》
1く鐸}
gi/iil/ttti,..i
、.噸ljl マ ノ剛集.一㌧ノ
て:>
1セ驚).1
醤ご..グ,1ノ
一2079一
1へ・ d
∵.野。ノ \・ψ
ζ識、
糧ソ
・・心 遭 急
薫 ,
・酬輔く灘 噛㌦虻㍗
コニアトコ
・寧・
×印は出血部
写真2 (No. X窒息後左鼓膜)(2600×)
×印は出血部
一2083一
, − ,.・し ♂
.こ撫,・
㍉L 冨
ヨ ヒ の
鑛.1,1
Q084一
(2600×) ハヴァース管血球充盈あり
写真4(窒息後ツチ骨No. X)
(2600×) 同左所見
写真5正常(非窒息時)光錐
電子顕微鏡写真 (5200×)
光 錐 線 維
光 讐 難
光 讐 疑
写真6正常(非窒息時)回錐
電子顕微鏡写真 (5200×)
写真8正常(非窒息時)光錐
(5200 × )
光錐
一v...一一.一
獣.
光錐
ξン
奪
写真9 絞頸致死直後の光錐の電子顕微鏡写真 (5200×) ウサギ番号No.19
光錐ゐ隆起は小さい
S tc eeYkee
SVItltili vie一 ・
写真10 気管圧閉致死直後の光錐部(5200×)
ウサギ番号No.20
光錐の隆起消失
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写真11 気管注水致死直後の光錐部(5200×)
ウサギ番号No.21
光錐の隆起消失
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紅・臓・ 蜜∴・
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