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PM
2.5の生成メカニズムについて
坂本 和彦 (埼玉大学大学院理工学研究科)
1.はじめに
浮遊粒子状物質(SPM)濃度は、1974年以来継続測定されており、その濃度は1980年頃までは低 下して行ったが、1990年代に入ってからも環境基準達成率は低い状況にあった。1990年代は大都 市地域、特に交通過密な道路沿道における大気汚染は深刻な状況にあり、SPMや後述の微小粒子 への曝露による健康影響が懸念されていた。そのため、大都市における大気汚染の改善(NOx対策 とディーゼル車排出粒子(PM)対策)は課題となっており、1992 年からのディーゼル車排ガスの単 体規制の強化に加えて、2001年からは自動車NOx・PM法が施行されていった。このような時期 に、6 都市研究(Dockery et al., 1993))に代表される疫学調査により、微小粒子(PM2.5)濃度と死亡率 などの健康影響との関係が報告されるようになっていった。このような状況を受けて、米国では それまでの PM10の環境基準(年平均値 50μg/m3、24 時間平均値 150μg/m3)より低い濃度で生ずる 2.5μm以下の微小粒子(PM2.5)による健康影響が考慮されて、1997年にPM10に係わる新しい環境基 準(PM2.5: 年平均値15μg/m3、24時間平均値65μg/m3)が設定された。また、2006年に改定が行われ、
24時間平均値が35μg/m3に強化されて、現在にいたっている。ここでいうPM2.5とPM10の2.5と 10は空気力学カットオフ粒径が、それぞれ2.5、10μmで50%であることを表している。なお、我 が国のSPMの環境基準では10μmで100%カットと定義されており、およそPM7に相当すると考 えられる。
わが国でも、1999年以来環境省において「微小粒子状物質暴露影響調査研究」が開始され、2008 年4月に8年にわたるその研究成果が報告書として取りまとめられ、「微小粒子状物質は総体とし て人々の健康に影響を与えることが疫学知見ならびに毒性学知見から支持される。」と要約された。
その後中央環境審議会大気環境部会、そのもとに設置された微小粒子状物質リスク評価法専門委 員会、微小粒子状物質環境基準専門委員会と微小粒子状物質測定法専門委員会の報告を受けて、
2009年9月の大気環境部会において、PM2.5の環 境基準が答申され、米国と同様な環境基準の設定 にいたっている。
本講演では、演者が関わってきたこの前後の調 査研究等に関連して、最近の微小粒子組成の変化 とそれらを考慮した微小粒子生成メカニズムに 関わる観測結果をまとめることとする。
2. 近年における微小粒子組成の変化と PM2.5の測 定
微小粒子組成の変化
図 1(a) は、都内(九段)における 2 週間ごとの LVAにより採取されPM2.1、PM2.1-7の炭素成分濃 度の年平均値の推移を示したものである(高橋ら, 2008)。図 1(b) に示したPM2.1中のECの多くは
Concentration (μg m-3) 0 2 4 6 8 10
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
EC2.1 OC2.1 EC2.1-7 OC2.1-7 (a)
EC2.1
OC2.1 EC2.1-7 OC2.1-7
Fiscal year
Carbon content (%)
0 5 10 15 20 25
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
(b)
図 1 (a) 都区内におけるPM2.1と PM2.1-7
中のEC とOC濃度の経年変化 (b)
PM2.1とPM2.1-7 中のEC とOC含
有率の経年変化(高橋ら, 2008).
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自排局(N=5)
EC 13%
OC 18%
Mg2++Ca2++K+ +Na++Cl-
5%
NH4+ 13%
SO42- 26%
NO3- 11%
その他の成分 14%
非都市部(一般局 N=4)
EC 6%
OC 17%
その他の成分 24%
NH4+ 12%
SO42- 30%
NO3- Mg2++Ca2++K+ 6%
+Na++Cl- 5%
都市部(一般局 N=10)
EC 7%
OC 18%
その他の成分 16%
NH4+ 13%
SO42- 30%
NO3- 11%
Mg2++Ca2++K+ +Na++Cl-
5%
(PM2.5質量濃度:15.6µg/m3) (PM2.5質量濃度:19.1µg/m3) (PM2.5質量濃度:21.2µg/m3)
図2 PM2.5(SASS)の成分別組成(2008年度の平均値) (環境基準専門委員会報告、平成21年度7月)
ディーゼル自動車由来と考えられるが、その含有率を見ると,1994年から1998年までは 20 % 前後で推移していたが、1998年以降は一貫して低下傾向となっていた。このEC含有率の変化は、
1998年のディーゼル自動車の長期規制開始以降であり、傾向として一致していた。
東京都23区内の一般局と自排局のSPM年平均濃度差は、1994年の15 μg/m3から次第に小さ くなり、2004年には4 μg/m3とり、2004年の全国の自排局と一般局の濃度差6 μg/m3より小さ くなっていた。この EC 濃度等の低下要因として、自動車単体からの排出量の低下と自動車交通 量の低下の両方の可能性が考えられるが、1994年度のデータで規格化して2004年までの変化を 調べた結果、交通量の変化は極めてわずかであり、EC 濃度はディーゼル自動車からの排出量の 低下によるものと推定された。この濃度低下はディーゼル自動車の単体規制と 2003 年秋からの 八都県市によるディーゼル車の運行規制によるものと考えられる。なお、2004、2005、2006 年 度の全国のSPMの環境基準達成率は一般局、自排局いずれも92%以上と向上していた。
2001年から測定開始された都市部一般環境測定局と自動車排ガス測定局のPM2.5濃度は、最近 になって急激に近づいており、一次排出成分である自動車排ガス由来の元素状炭素(EC)濃度が急 激に低下しており、2008年度ではその差は1μg程度となっている(図2)。図2より、存在状態が 変化しやすいものや吸湿性の高いものから構成されている二次生成無機成分と高極性成分をも含 む有機粒子はPM2.5の7、8割を占めていることがわかる。したがって、PM2.5質量濃度の低減に は、二次生成無機成分と高極性成分をも含む有機粒子濃度の低減が不可欠と言える。
PM2.5 質量濃度の測定
このような最近の組成変化 を考慮すれば、PM2.5をフィル タ上に採取し、高い再現性をも って質量濃度を測定するには、
粒径の分離条件以外に、吸引流 量、試料採取中ならびに秤量の 前後における温度・湿度など、
多くの条件を厳密に定義する 必要があることを示している。
現在の PM2.5の主要成分は、
二次生成無機成分や有機粒子となっており、それらは気温や湿度、粒子組成に依存するガス/粒子 平衡など複雑な挙動をとるため、その正確なモニタリングには多くの困難が伴う。PM2.5環境基 準の設定に伴う課題として、「1. 大気汚染の状況を的確に把握するための監視測定体制の整備の 促進と、体系的な成分分析が必要、2. 固定発生源や移動発生源に対するこれまでの粒子状物質全 体の削減対策の着実な推進、3. 微小粒子状物質や原因物質の排出状況の把握、排出インベントリ ーの作成、大気中の挙動や二次生成機構の解明、4. 近隣諸国等との間での大気汚染メカニズム等 に係る共通理解の促進と汚染物質削減に係る技術協力の推進」、が挙げられている。
PM2.5の質量濃度の測定法としては、上記の課題等を考慮しFRMに相当するろ過捕集からなる 標準法、それに対する等価法としての自動測定機の基本的な条件や標準法との等価性を評価する ために、新潟と川崎において冬季と夏季に並行測定が実施され、10/15に結果が公表された。
3. バイオマス起源炭素
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図3 さいたま市における2001年冬季のNR-PM2.5とレボグルコサン濃度 (萩野ら, 2006)
content ratio (%)content ratio (%)
date 0
5 10 15 20 25
8/2 8/30 9/27 10/25 11/22 12/20 BC
FC
(b) 0
5 10 15 20
8/2 8/30 9/27 10/25 11/22 12/20 EC
OC
(a)
図4 九段におけるPM2.1中の(a) EC、OC含有率の変化、
(b) 化石燃料由来炭素(FC)とバイオマス由来炭素 (BC)含有率の変化(Takahashi et al., 2007)
都市部の微小粒子中の炭素成分発生源はディーゼル自動車燃料などの化石燃料由来が主体と考 えられてきた。しかし、都心やその郊外では、これまで述べてきたディーゼル自動車の単体規制 の相継ぐ強化や八都県市による運行規制などの効果により、微小粒子中のEC、OC濃度は大きく 低下してきた。そのため、自動車以外の炭素粒子発生源として、バイオマス燃焼や調理、植物由 来の炭化水素からの二次生成にも注目する必要が生じてきている。
図3は、2001年冬季のさいたま市におけるPM2.5とOC中の植物燃焼の指標物質であるレボグ ルコサンの日日変化を示したものであるが、夏季の PM2.5からは微量しか検出されないレボグル コサンが冬季にはかなり存在していることが分かる。バイオマス燃焼時のレボグルコサンと TC の平均組成比から、このTCの約30%程度はバイオマス由来と推定される(萩野ら, 2006)。
これらとは、別個に、図1に炭素成分濃度の長期変化を示した都内の九段で、2003年の夏から 冬にかけて採取したPM2.1の14C分析から、植物由来炭素の割合が検討されている。図4に2003 年度のPM2.1中の(a) EC、OC
含有率の変化、(b) 化石燃料由 来炭素(FC)とバイオマス由来 炭素(BC)含有率の変化を示し て い る (Takahashi et al., 2007)。この図4 (b)から、PM2.1
に対するFCの含有率はECと 同様に季節変動がなく、安定し て存在しているのに対して、
BCは9月下旬から含有率が増 加し、初冬季にはFCに匹敵す
るほどであり、レボグルコサンの冬季の濃度 増加と一致する傾向であつた。これらの結果 は、バイオマス由来の炭素の寄与が冬季に高 くなり、TC に対して 30~40%の寄与をして いることを示唆している。
上記では、冬季の一次排出のバイオマス由 来炭素の存在を指摘したが、VOCとしてイソ プレンがかなりの寄与(佐々木ら, 2007)をし ており、夏季の二次生成有機粒子に対しても バイオマス由来の寄与が推定されている。
4. 有機酸の二次生成
図5は、2008年夏季のJATOP調査時にお けるAMSによる有機成分を含酸素有機粒子 (OOA)と炭化水素様有機粒子(HOA)とに区 分し、OOA と AD-FP 法でガス/粒子を正確 に分別測定した、二次生成粒子と考えられる
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0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0
0 500 1000 1500 2000 2500
7-29 7-30 7-31 8-1 8-2 8-3 8-4 8-5
OOA mass concentraion (μg/m3) Total concentration of organic acids (ng/m3)
Date Gas
Particle OOA
図5 ガス/粒子状二塩基酸類とOOAの日内変化 (Bao et al., 2009)
二塩基酸類の日 内変化 (Bao et al., 2009)で あ る。ここに示し た OOA と粒子 状二塩基酸類の 挙動の高い類似 性は夏季の二次 生成有機粒子の 大きな寄与を推
定させる。同様に、2008 年夏季の OOAはO3と性の相関を示していた が、2009年の冬季調査では、OOA とレボグルコサンの間に高い相関 がみられ(図6)、むしろOOAに対す るバイオマス燃焼の寄与が考えら れる。
これらと同時期に測定された二 塩基酸であるマロン酸(C3)とコハ ク酸(C4)について、C3/C4濃度比に
よる夏季と冬季における二次生成粒子影響の評価を行なった。C3とC4は化石燃料の不完全燃焼 ならびに二次生成過程において生成するが、C3はC4と比較すると熱分解しやすい成分であるた
め、C3/C4の値が低い場合には一次排出が、大きい場合には光化学反応による二次生成影響が高
いと考えられている(Ho et al., 2006)。さいたま市で測定したC3/C4値は、冬季の0.8と比較して 夏季の5.3はかなり大きく、夏季には二次生成がほとんどであることが分かる。
これまでは、OOAや極性有機粒子(POC)は主として、二次生成と考えられていたが、一次排出 がそれぞれに寄与していることも考慮する必要がある。さらに、バイオマスから排出されるVOC であるイソプレンやものテルペン類からも極性の高い有機粒子が生成しており、バイオマス燃焼 による一次排出POCの生成に加えて、光化学反応を経て生成する極性の高い二次生成有機粒子が 存在している(Hu et al., 2006; Hu et al., 2010)。特に有機粒子の生成機構を考える上では、成分の詳 細分析に加えて高い時間分解能での測定が望まれるところである。
5. おわりに
二次生成/一次生成機構や成分の動的挙動の把握には、高い時間分解能での成分別のフィールド 測定データが必要であり、対策効果の予測にはシミュレーションは不可欠であり、高い時間分解 能での成分測定データは、モデルの作成やその検証のために必要な極めて有益なデータである。
したがって、対策効果の評価や効率的な削減対策を検討するために、PM2.5の組成分析は不可欠 であり、それらのデータがあってはじめて、発生源の推定、大気中挙動や二次粒子生成機構の解 明が可能となるため、今後は多くの機関や組織それぞれの単独ではなく、互いに連携して、目的 を明確にした調査研究が望まれる。
図6 さいたま市における2008年夏季と2009年冬季の(a) O3 と OOA (b) レボグルコサンとOOAの関係(岡本ら, 2010)
OOA[µg/m3]
levoglucosan[ng/m3]
y = 0.0356 x + 1.76 n = 16, r = 0.670, p < 0.005
y = -0.0287 x + 3.73 n = 7, r = 0.120, p > 0.5 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0
0 50 100 150 200 250
summer winter OOA[µg/m3]
levoglucosan[ng/m3]
y = 0.0356 x + 1.76 n = 16, r = 0.670, p < 0.005
y = -0.0287 x + 3.73 n = 7, r = 0.120, p > 0.5 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 9.0 10.0
0 50 100 150 200 250
summer winter (b)
y = -2.87x + 30.3 n = 15, r = 0.80, p<0.001
y = 4.01 x + 22.3 n = 7, r = 0.762, p < 0.05
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
summer winter
OOA[µg/m3] O3[ppb]
y = -2.87x + 30.3 n = 15, r = 0.80, p<0.001
y = 4.01 x + 22.3 n = 7, r = 0.762, p < 0.05
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
summer winter
OOA[µg/m3] O3[ppb]
(a)