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大石雅彦氏学位申請論文

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Academic year: 2022

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(1)大石雅彦氏学位申請論文 『マレーヴィチ考——「ロシア・アヴァンギャルド」からの解放にむけて』審査報告要旨 本論文(正確には単行本で刊行された著作・人文書院・2003年4月刊・A5版・806頁) は、20世紀ロシア芸術を代表する画家、理論家、デザイナー、教育者、美術行政家として 多面的な活躍をしたカジミール・マレーヴィチ(1878-1936)の生涯と作品、理論と実践 を、文化記号論の視座から綜合的に論考したものである。 第一章「マレーヴィチという問い」は20世紀の抽象画史におけるマレーヴィチの独自な 位置を明らかに示すもので、「無対象絵画」と「崇高の提示」の二節からなり、この章で の問いかけが本全体のモチーフとなっている。 第二章「『スタイル』の交替——現代美術史」と第三章「スプレマチズムへ/からの生 成変化」は、本論文の圧巻であり、合わせて350ページを越える。それぞれ、マレーヴィ チの理論的側面と制作的側面に焦点を合わせたもので、この二章だけでも、無対象絵画の 制作を中心とするマレーヴィチの芸術活動の全貌を明らかにする説得力のある文章となっ ている。 第二章では、マレーヴィチの構想する「現代美術史」が主題となり、その対象となるの は、印象主義、セザンヌ、キュビズム、イタリア未来派、そしてスプレマチズムである。 第一節では、スタイルのシステムの原基となる「付加的要素」「スタイル」「システム」 などの概念を、第二節では印象主義からイタリア未来派などのスタイルの交替を、第三節 では、「無対象」のスタイル、存在論、認識論が展開され、第三節ではスプレマチズムの 基点をなす《白地の上の黒い正方形》(1915)がとりあげられる。 第三章では、習作時代からポストスプレマチズムまでのマレーヴィチの制作の歴史が時 系列に沿って考察されている。第一節は、習作時代を対象とし、この時期には、印象主義、 象徴主義、アール・ヌーヴォーなどのスタイルが含まれるが、マレーヴィチ自身が初期の 作品として認めていたものを1920年代後半から30年にかけての作品と判断したのは画期的 なことである。もちろん、ダグラス、マルカデ、ナーコラ、シャーツキイの近年の研究を 踏まえ、2000年に出版された『ロシア美術館のマレーヴィチ』に依拠するものだが、1990 年までの定説をくつがえすものである。第二節は、ロシアのイコン(聖像画)、ルボーク (民衆版画)などの前近代的なものとヨーロッパの前衛スタイルとを綜合することで実質 的にロシア・アヴァンギャルド芸術のはじまりを記述したネオプリミティヴィズム。第三 節はキュビズムと未来主義を接合する立体未来主義の分析に当てられている。第四節は本 質と活動、潜勢態と現勢態、可能態と現実態といった概念を援用し、《白地の上の黒い正 方形》にはじまり、「白のスプレマチズム」をもって完結するスプレマチズムの展開が跡 づけられ、第五節では、1928年ごろからはじまるポストスプレマチズムが対象となる。 1990年以降のロシアを中心とする世界の最新の研究を踏まえて展開される論は、説得力が ある。 第四章は、未来主義オペラ《太陽の征服》(1913)上演を中心とする立体未来派ギレ ヤ・グループの活動にあてられている。マレーヴィチにとって未来派の詩人たちとの交流 は重要な意味をもち、詩と絵画の共同作業としての詩画集(アーティスト・ブック)の刊 行は、詩と絵画の新しい言語の探究のはじまりであった。クルチョーヌイフのザーウミ.

(2) (超意味言語)による台本、マチューシンの四分音音楽による作曲、マレーヴィチの舞台 美術で上演された《太陽の征服》は、未来派のパフォーマンスの集大成であり、ザーウミ の刺激が無対象絵画への飛躍を準備したと論じられる。 第五章「思想としての無対象」では、絵画の枠内にとどまらないスプレマチズムの思想 的側面に照明があてられ、とりわけロシア革命後、のちに全体主義としてまとめられる社 会主義体制のすぐれた批判になりえたことが強調されている。 第六章「世界の造形」では、十月革命後、絵画からデザインに移るマレーヴィチの活動 が、美術学校、さまざまな研究所での研究、教育、行政との関係で論じられている。 このように本論文は、20世紀初頭からのロシア・アヴァンギャルドのジャンルを越えた 芸術運動との関連で、マレーヴィチの活動が広い展望と深い奥行をもって検討されている。 900点近い先行研究、とりわけここ10年間に発表された最新の成果を踏まえた本論文は、 わが国ではもちろん、世界でも最初の本格的なマレーヴィチ研究といえる。 博士(文学)を授与するにふさわしいものと認める。 2004年1月31日 主任審査委員. 早稲田大学教授 水野忠夫 早稲田大学教授 桑野 隆 筑波大学教授 博士(芸術学)筑波大学五十殿利治.

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