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人間科学研究 Vol. 29, Supplement(2016)
修士論文要旨
精神的充足尺度の作成
Development of Mental Energy Scale
山田 達人(Tatsuto Yamada) 指導:桂川 泰典
問題と目的
応用行動分析では,介入効果だけでなく,介入手続きの 受け入れやすさ(社会的妥当性)の検討が求められる(山 本・渋谷,2009)。つまり,適応行動の増加や不適応行動の 減少だけでなく,介入手続きの内容に対して社会的評価が 伴うこととなる。
菅野(1989)の教育臨床経験から導かれた概念である精 神的充足は,子どもの心の中にやる気を生起させ,行動化 するために必要な環境条件と定義されており(菅野,1989,
2004,2007,2011,2012),教育臨床現場において親和性の 高い概念となっている。そのため介入効果を検討する際は,
この精神的充足の変化を示すことで,多角的な社会的妥当 性の評価が可能になると考えられる。しかし,精神的充足 を測定する既存の尺度(「精神的充足・社会的適応力」評価 尺度)は,(1)統計上の問題,(2)質問項目が多い,と いった理由から,測定の精度や簡易さが求められる場面に 適しているとは言い難い。
そこで本研究では,応用行動分析による介入を前提に,新 たな精神的充足尺度の作成を試みた。
質問項目作成のための予備的研究
首都圏の小学生3名(2014年9月から10月),および大学 生2名(2014年11月から12月)に対してインタビュー調査 を実施した。その後,インタビューデータをコーディング し,首都圏の小学生11名に項目の数量的な再評価を求めた。
分析の結果,精神的充足尺度を作成する場合,(1)集中し て努力した体験,(2)成功した体験,(3)周囲に承認さ れた体験,の3つに関連する質問項目を集めることが妥当
であると考えられた(山田・桂川・藤井・菅野,投稿中)。
妥当性の検討
山田他(投稿中)に基づいた,精神的充足尺度の作成,お よびその妥当性を検討することを目的とし,2015年7月に 首都圏の小学校4校に通う5,6年生(分析対象:622名)
を対象に,探索的因子分析,確認的因子分析,クロンバッ クのα係数の算出,項目反応理論によって,構成概念妥当 性の証拠を検証した。因子分析の結果,想定した2つのモ デル(1因子モデル,2次因子分析モデル)で,統計学的 な許容水準を満たした。クロンバックのα係数は,1因子 モデルにおいて十分な値を示していたが,2次因子分析モ デルでは検討の余地が残される結果となった。また,1因 子モデルを仮定した場合,項目反応理論による検討では,テ スト情報曲線によって,幅広い対象者において高い測定精 度を示すことが確認され(Figure 1),中程度以上の能力
(θ)をもつ回答者が,各質問項目に対して「3:あった」
「4:よくあった」に回答する傾向であることが確認された
(Table 1)。
総合考察
本尺度は,構成概念のドメインを限定したため,「精神的 充足・社会的適応力」評価尺度(菅野・綿井,2002)と比 べて構成概念の測定範囲が狭い。しかし,構造的側面から の証拠が担保されており,反復測定が求められるアウトカ ム尺度として有用であると考えられる。また,構成概念妥 当性の証拠の観点から総合的に1因子モデルでの活用が望 ましいと考えられた。
項目 a b1 b2 b3
4 1.367 -2.379 -.163 1.689
5 1.665 -2.410 -.913 .787
7 1.038 -3.654 -2.138 -.304
8 2.074 -2.608 -1.217 .386
22 1.048 -3.292 -1.849 -.049
1 1.795 -2.706 -1.614 .652
12 1.943 -2.386 -1.288 .199
15 1.420 -2.901 -1.380 .280
2 1.576 -2.116 -.669 1.469
9 1.595 -2.179 -1.174 .393
10 1.133 -2.265 -.982 .608
36 1.429 -2.405 -1.416 .070
a:識別力 bi:境界特性値
項目パラメータ
Figure 1 テスト情報曲線
Table 1 段階反応モデルにおける項目パラメータ