• 検索結果がありません。

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 75

有料老人ホームの取引の適正化と

不当表示規制

! 問題の所在 有料老人ホームの取引の適正化が問題となる局面は,二つある。一つは,契 約締結過程であり,もう一つは,取引開始後である。前者にあっては,不適正 な表示により,入居希望者の選択が妨げられること,契約を締結した入居者の 利益が侵害されること,などが問題になり,後者にあっては,一方的不利益行 為1)により,取引上の地位が不当に利用されること,取引関係にある入居者の 利益が侵害されること,が問題になる。なお,後者の場合,一方的不利益行為 を反映しない表示が行われていれば,同時に契約締結過程の問題となる。 こういった有料老人ホームの問題に対し,競争政策はどのように対応すべき か。考えられ得るのは,景表法4条1項(不当表示)の適用と,不公正な取引 方法の一般指定14項(優越的地位の濫用)の適用であるが,有料老人ホームの 取引の本質を捉えたトータルな規制となることが不可欠である。もっとも,今 日,消費者取引に「優越的地位の濫用」を適用することには異論があり,また 新たな法的枠組み(特殊指定,特別法)の設定には検討すべき事項が多いとし 1)一方的不利益行為とは,「消費者の事業者に対する交渉力が限定されていたり,事業者 の選択が事実上,取引開始時点においてしか働かず,消費者の取引先(事業者)の変更可 能性が制約されている……状況において,事業者が消費者に対し,その情報・交渉力の格 差に乗じて,消費者の利益を不当に害する契約条項を定めたり,取引開始後に消費者に一 方的に不利益となるように契約内容を変更する行為」をいう。例えば,「資格取得講座の 受講契約に際して,1年以内の解約を制限する条項や高額な解約金を支払う条項」を定め ること,「『24時間体制での医療・介護サービス』という広告を行い,広告どおりの介護サー ビスを提供していた有料老人ホームが,正当な理由なく,医師の常駐及び看護婦の夜間配 置を廃止する行為」がそうである。消費者取引問題研究会「消費者政策の積極的な推進へ 向けて―消費者取引問題研究会報告書―」(平成14年11月)参照。

(2)

76 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 て,まず,不当表示規制を積極的に推進するアプローチが選び取られている(詳 細は後述Ⅱ)。実際にもこの間,有料老人ホームの不当表示規制は大きく進展 した。 そこで本稿で有料老人ホームの不当表示規制を取り上げ,それが有料老人 ホームの取引の本質を捉えたトータルな規制となり得るか,解明を図る2)。叙 述は,以下の順による。まず,規制の二つのアプローチ(不当表示規制,優越 的地位の濫用規制)をめぐる公取委の検討状況を紹介するとともに,簡単なコ メントを付す(Ⅱ)。次に,有料老人ホームの不当表示規制について紹介・検 討する(Ⅲ)。そして最後に,不当表示規制は有料老人ホームの取引の適正化 にとって限界があることを明らかにし,本稿のむすびとする(Ⅳ)。 ! 規制の二つのアプローチ 二つの報告書,すなわち,消費者取引問題研究会「消費者政策の積極的な推 進へ向けて―消費者取引問題研究会報告書―」(平成14年11月),有料老人ホー ムの表示に関する検討会「有料老人ホームの表示の適正化に向けて―有料老人 ホームの表示に関する検討会報告書―」(平成15年10月)を手がかりに,有料 老人ホームの取引の適正化に向けた規制の二つのアプローチ(不当表示規制, 優越的地位の濫用規制),特にその施策としての優先順位をめぐる公取委の検 討状況を紹介するとともに,簡単なコメントを付す。 1.消費者取引問題研究会報告書 研究会は,「消費者が適正な選択を行える意思決定環境の創出・確保を担う 消費者政策を競争政策と一体のものとして積極的に取り組む必要があるとの認 識の下」,公取委が「消費者取引において取り組むべき問題について検討する ため」,開催された3)。公取委は,「本報告書を踏まえ,消費者取引における取 2)なお,民間高齢者介護サービス分野における消費者利益の確保と競争条件の整備を図る 必要性を説くものとして,本城昇「民間高齢者介護サービスの取引適正化の必要性」公取 564号14頁(1997)がある。 3) 以下,「消費者取引問題研究会報告書について―消費者政策の積極的な推進に向けて―」 (平成14年11月13日,公正取引委員会)参照。

(3)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 77 組に的確に反映していくとともに,所要の法制度の整備が必要な事項について は,検討を進める予定である」ことを明らかにしている。検討項目は多様であ るが,本稿と関わりを持つ一方的不利益行為への対応のみ取り上げる。一方的 不利益行為の規制には,不当表示規制と優越的地位の濫用規制の二つのアプ ローチがあるとする。 不当表示規制に関わっては,次のように叙述する。「契約締結過程において 説明・表示されたサービスの内容と契約締結後に提供されるサービスの内容が そもそも異なっている場合には,不当表示として景品表示法により規制するこ とができる。したがって,消費者に対する一方的不利益行為については,まず, 契約締結過程において消費者に誤認される表示が行われないよう,景品表示法 を積極的に適用していくべきである。」 次に,優越的地位の濫用規制に関わって,次のように叙述する。「しかし, 消費者に誤認される表示が行われていない場合には,現行の景品表示法では対 応できない。このため,そのような消費者に対する一方的不利益行為規制につ いては,独占禁止法第2条第9項第5号(取引上の地位の不当利用)の問題と して独占禁止法が適用可能か,また,独占禁止法で十分対応できないとすれば どのような法的枠組みが適切かを検討することが必要となる。」そして結論と して,次のように言う。「消費者に対する一方的不利益行為について,独占禁 止法の一般指定第14項を適用する余地があり,適切な事案に対しては,同項を 適用することを検討していくことが考えられる。」また,「有効に対応するため には,独占禁止法第2条第9項第5号(取引上の地位の不当利用)の規定を根 拠として特殊指定を定めたり,特別法を立案するなど,新たな法的枠組みを設 けることも適当であると考えられる」が,「更に議論を深め,考え方を整理す る必要がある」として,検討事項を提示する。 ここでは,一方的不利益行為への対応として,次のことを確認することがで きる4)。一つは,「契約締結過程において説明・表示されたサービス内容と, 4)前掲(注3)の公表文の別添「消費者取引問題研究会報告書(概要)―消費者政策の積 極的な推進に向けて―」参照。

(4)

78 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 契約締結後に提供されるサービスが異なっている場合には,不当表示として景 品表示法を積極的に適用」することが,最優先の施策とされたことである。二 つは,「独占禁止法の一般指定第14項(優越的地位の濫用)の適用や独占禁止 法第2条第9項第5号(取引上の地位の不当利用)に基づく特殊指定,特別法 の立法」については,「引き続き検討」することとされたことである。このこ とは,公取委の施策の策定,とりわけ有料老人ホームの取引の適正化にとって, 大きな意味を持った(次の2.)。 2.有料老人ホームの表示に関する検討会報告書 検討会は,「有料老人ホームが提供する各種サービスの内容に係る,消費者 に誤認されるおそれのある表示を明確にすることにより,不当表示を未然に防 止するとともに,不当表示に厳正に対処する観点から,景品表示法第4条第3 号〔現4条1項3号〕の規定に基づく指定告示の制定等について検討するため」 開催された5)。報告書は,「はじめに」,「有料老人ホームの概要等」,「有料老 人ホームの表示に対する景品表示法による規制方法について」,「規制対象とす べき表示項目」,「結語」からなる。公取委は,「本報告書を踏まえ,有料老人 ホームにおける消費者取引の適正化のために,消費者に誤認されるおそれのあ る表示について,景品表示法第4条第3号〔現4条1項3号〕の規定に基づく 指定告示の制定に向けた所要の手続を進める予定である」と明らかにした6)(実 際の指定につき,後述Ⅲ1.(3))。 ここでは,有料老人ホームにおける消費者取引の適正化のためには,不当表 示規制の積極的推進が必要であるということが検討の出発点とされており,し かも検討は,景表法4条3号〔現4条1項3号〕の規定に基づく指定告示の制 定に局限されていることに着目する必要がある。検討会報告書にも,公取委の 公表文にも,有料老人ホームにおける消費者取引の適正化の問題範囲や,有料 老人ホームの一方的不利益行為を優越的地位の濫用として規制するアプローチ 5)「有料老人ホームの表示に関する検討会報告書について―有料老人ホームの表示の適正 化について―」(平成15年10月1日,公正取引委員会)参照。 6)前掲(注5)の公表文参照。

(5)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 79 については,何らの言及もない。しかし,不当表示規制には限界があるのであ り,このことを自覚するためにも,検討に際しては,有料老人ホームにおける 消費者取引の適正化の問題範囲の画定,優越的地位濫用規制の有用性について, 一応の整理をしておく必要があったのではなかろうか。 ! 有料老人ホームの不当表示規制 1.不当表示規制の概要 (1) 要件 景表法4条1項は,「事業者は,自己の供給する商品又は役務 の取引について,次の各号に掲げる表示をしてはならない」と規定し,次の三 つを掲げる。一つは,優良誤認表示であり,「商品又は役務の品質,規格その 他の内容について,一般消費者に対し,実際のものよりも著しく優良であると 示し,又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るもの よりも著しく優良であると示すことにより,不当に顧客を誘引し,公正な競争 を阻害するおそれがあると認められる表示」である(1号)。二つは,有利誤 認表示であり,「商品又は役務の価格その他の取引条件について,実際のもの 又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に 著しく有利であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正 な競争を阻害するおそれがあると認められる表示」である(2号)。三つは, 公取委が指定する表示であり,「前2号に掲げるもののほか,商品又は役務の 取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であっ て,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取 引委員会が指定するもの」である(3号)。 この規定からは,次のことが分かる。一つに,禁止されるのは,不当表示で あるということである。二つに,1号では「著しく優良であると示」すことが, また2号では「著しく有利であると……誤認される」ことが問題とされるのに 対し,3号では,「誤認されるおそれがある」ことが問題とされるということ である。三つは,表示の訴求対象あるいは誤認(のおそれ)の対象は,「一般 消費者」であるということである。四つは,3号の「誤認されるおそれがある」

(6)

80 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 ことを問題とする場合,公取委の指定を待たなければならないということであ る(後述(3)参照)。 問題は,こういった規定振りを前提として,具体的にどういった表示が不当 表示となるかである。本稿の問題関心に即して言えば,有料老人ホームの不適 正な取引をどこまでカバーすることができるかである。 (2) 排除措置 景表法6条1項は,次のように規定する。「公正取引委員 会は,……第4条第1項の規定に違反する行為があるときは,当該事業者に対 し,その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために 必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることが できる。その命令(以下,『排除命令』という。)は,当該違反行為が既になく なっている場合においても,することができる。」 この規定からは,次の二つのことが分かる。一つは,排除措置の内容は,文 言上は,①4条1項の規定に違反する行為の差止め,②4条1項の規定に違反 する行為が再び行われることを防止するために必要な事項,③上記①・②の実 施に関連する公示その他必要な事項,に限定されるということである7)。二つ は,既往の違反行為に対する排除命令は,独禁法の排除措置命令(独禁法20条 2項)とは異なり,文言上,「特に必要があると認めるとき」との限定がなく, また排除措置の内容,命令の時期にも限定がないということである。 問題は,こういった規定振りを前提として,具体的にどういった内容の排除 措置を命じることができるかである。この点,消費者取引問題研究会報告書(前 出)は,次のように叙述する。排除命令により命じている事項は,「訂正広告 命令」(「誤認される表示である旨を,速やかに公示しなければならない。」),「不 作為命令」(「今後,同様の誤認される表示をしてはならない。」),「将来の広告 7)今村成和ほか(編)『注解経済法〔下巻〕』791頁〔山田昭雄〕(青林書院,1985)参照。 なお,菅久修一(編著)『景品表示法』236頁(商事法務,2005)などは,①行為の差止め, ②違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項,③これらの実施に関する公 示,④その他必要な事項,とする。この立場が公取委の実務に影響を及ぼしている可能性 は大きいが,条文解釈としては疑義がある。「その他」の条文解釈につき関連して,ゆう パック不当廉売等差止請求事件(東京地判平18・1・19判タ1203・81)参照。

(7)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 81 の提出命令」,「訂正広告についての報告」が一般的であるが,最近では,「違 反行為の再発防止のために必要な措置を講じて役員・従業員に周知徹底するこ とを命じたケースもある」。景表法6条によれば,排除命令により命じる事項 については,「訂正広告命令等に限らず様々なものとすることが可能であるの で,公正取引委員会は,誤認の排除及び違反行為の再発防止の効果を高め,排 除措置を一層実効性のあるものとするため,事案に応じて柔軟に,必要かつ適 切な措置を命じることを検討すべきである。」そして,排除命令として命じる ことを検討すべき事項として,「流通過程にある商品の速やかな回収」,「一定 期間の販売停止」,「購入者への周知」,「法遵守体制(コンプライアンス)の整 備」,「実証データ等の一定期間の保管」を挙げる。なお,本稿と関わる「購入 者への周知」については,「誤認の対象となった商品・契約内容の特性により, 特に必要があると認められる場合,訂正広告のみならず,不当表示に係る商品 を購入した消費者に対して直接,不当表示を行っていた旨を事業者から個別に 通知するよう命じること」との説明が付されている。もっとも,「商品・契約 内容の特性」,「特に必要があると認められる場合」への言及はなく,また「購 入者への周知」が排除措置として命じられ得る法的根拠も,6条1項の文言と の関わりで明らかにされているわけではない。 本稿の問題関心に即して言えば,不当表示の排除を手がかりとして,有料老 人ホームの取引の適正化にどこまでアプローチできるかである。具体的には, 講じている改善措置の内容の入居者への通知,改善措置を講じること・改善措 置内容の入居者への通知が,排除措置として命じられ得るかが問題になる。 (3) 有料老人ホーム等告示 有料老人ホームについては,「優良老人ホー ム等に関する不当な表示」が制定され(平成16年4月),また「『優良老人ホー ム等に関する不当な表示』の運用基準」が策定・公表されている(平成16年6 月,平成18年10月一部変更)。運用基準は,告示の運用に当っての基本的な考 え方を定めるものである。告示の狙いは,有料老人ホームが提供するサービス の具体的内容を予め表示しないこと(不表示)に起因する後日のトラブルが多 発していることに鑑み,消費者に誤認されるおそれがあるサービス内容を明瞭

(8)

82 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 に表示させることにより,不当表示を未然に防止し,かつそれに厳正に対処す ることにあるとされる8)。 告示の対象となる表示は,①土地・建物についての表示,②入居者の利用に 供される施設・設備についての表示,③入居者の特定の用途に供される施設・ 設備についての表示,④設備の構造・仕様についての表示,⑤入居者の居室に ついての表示,⑥終身にわたって入居者が居住し,または介護サービスの提供 を受けられるかのような表示,⑦医療機関との協力関係についての表示,⑧入 居者に提供される介護サービスについての表示,⑨保険給付の対象とならない 介護サービスについての表示,⑩介護職員等の数についての表示,⑪介護に関 する資格を有する介護職員等についての表示,⑫管理費等何らの名義をもって するかを問わず,入居者から支払を受ける費用についての表示,である。①∼ ⑤は,「有料老人ホーム等における居住空間の基礎となる土地・建物や居室そ の他の設備などハード面の表示」に,⑥∼⑨は,「提供される介護サービスな どソフト面の表示」に,⑩・⑪は,「提供される介護サービスの内容に関連す る介護職員等についての表示」に,⑫は,「取引に当たって一般消費者が対価 として支払う費用についての表示」に分類することができる9)。 不当表示となるのは,表示において「記載されている」とする事項が,「明 りょうに記載されていないもの」である。①を例にとれば,「有料老人ホーム 等の土地又は建物についての表示であって,当該土地又は建物は当該有料老人 ホーム等が所有しているものではないにもかかわらず,そのことが明りょうに 記載されていないもの」である。なお,平成18年10月の運用基準の一部改正で 明確化が図られ,「記載されて」いるとする事項が明りょうに記載されていて も,「記載されて」いる内容が事実と異なる場合には,「明りょうに記載されて いないもの」として,原則,不当表示に該当するものとして取り扱うこととさ れた(13(2))。 8)景品表示法研究会(編著)『景品表示法質疑応答集』1211―12頁(第一法規出版,2006. 12現在)参照。 9)菅久修一「有料老人ホーム等に関する不当な表示について[上]∼景品表示法指定告示 と運用基準の解説∼」公取645号38,39頁(2004)による。

(9)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 83 検討会報告書で規制対象とすべき表示項目・内容とされたものは,告示に取 り入れられており,一般に問題となる表示の多くは,カバーされていると見る ことができよう(カバーされないものについては,下記の具体的事件⑦・⑨参 照)。 2.具体的事件 (1) 取り上げる事件 取り上げるのは,次の9事件である10)。排除命令 の時期に着目すれば,①∼③,④,⑤・⑥,⑦∼⑨事件に分けることができ11), ⑤∼⑨事件は,有料老人ホーム等告示を適用した点に特徴がある。排除措置に 着目すれば,①∼③,④,⑤∼⑨事件に分けることができる。誤認排除のため 入居者への通知が命じられている点では共通しているが,講じている改善措置 の内容の入居者への通知(④事件),改善措置を講じること・改善措置内容の 入居者への通知(①∼③事件)が命じられているか否かで,違っている。 ① 石川ライフクリエート事件(平15・4・16排除命令,排除命令集24・3) ② 伊豆ヘルス・ケア事件(平15・4・16排除命令,排除命令集24・9) ③ サンリッチ三島事件(平15・4・16排除命令,排除命令集24・13) ④ クリスタル介護施設センター事件(平16・10・18排除命令,排除命令集24・197) ⑤ 川島コーポレーション事件(平18・3・13排除命令) ⑥ ライフケアサービス事件(平18・3・13排除命令) ⑦ 原弘産事件(平19・2・8排除命令) ⑧ ディア・レスト三次事件(平19・2・8排除命令) ⑨ ハピネライフケア事件(平19・2・8排除命令) 10)なお,排除命令に先立ち,14件の警告が実態調査等を踏まえて行われていた。①平成9 年5月13日,関係人5法人。②平成11年6月30日,シルバーびゅう。③平成12年11月10日, 首都圏・近畿圏に所在する4事業者。④平成13年6月29日,近畿地方に所在する4事業者。 ③につき,富田勝典「有料老人ホームの不当表示について」公取604号62頁(2001),④に つき,的場敏文・原田正典 「有料老人ホームの不当表示について」 公取611号59頁 (2001) 参照。 11)なお,解説としては,①∼③事件につき,葛西文二・黒河健一郎「中部地区における有 料老人ホームを営む事業者3名に対する排除命令について」公取641号67頁(2004),④事 件につき,的場敏文・木尾祐一「株式会社クリスタル介護施設センターに対する排除命令 について」公取652号56頁(2005),⑤・⑥事件につき,岩堀吉一・清水敬「有料老人ホー ムを営む事業者2社に対する排除命令について」公取670号62頁(2006),⑦∼⑨事件につ き,高野雄二・道下正子「有料老人ホーム等の施設を営む事業者3社に対する排除命令に ついて」公取679号78頁(2007)がある。

(10)

84 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 (2) 事件の概要 ①∼⑥事件については,公取委の公表文にも依拠しな がら,やや詳しく紹介する。⑦∼⑨事件については,排除措置のみ紹介する。 紙幅に余裕がなく,また本稿の関心が,特に排除措置にあることによる。 ①事件は,石川ライフクリエートが,自ら作成のパンフレット・重要事項説 明書,全国有料老人ホーム協会の「会員ホームガイド 輝」と称する冊子にお いて,!ア介護サービスについて,介護一時金等を徴収することによって,あた かも,介護保険給付金により提供する介護サービスの対象とならない個別具体 的な介護サービスを付加して提供するかのように表示し,!イ医療・健康管理体 制について,あたかも,施設内に医師を配置して充実した医療サービスを実施 し,当該医師による健康相談が毎月4回実施されているかのように表示し,!ウ 機能回復訓練について,あたかも,機能回復訓練室において担当者の指導によ りリハビリテーションを実施しているかのように表示し,!エ居室の方位につい て,あたかも,全居室が南向きであるかのように表示しているのが,優良誤認 として,景表法4条1号(現4条1項1号)違反とされたものである。排除措 置としては,!ア誤認される表示である旨を,一般消費者に対して公示するとと もに,入居者に通知すること,!イ提供するサービス内容・施設内容について表 示した内容と,実際のサービス内容・施設内容とが適合するように改善措置を 講じるとともに,入居者に当該改善措置の内容を通知すること,!ウ今後,同様 の表示を行わないこと,などが命じられた。 ②事件は,伊豆ヘルス・ケアが,自ら作成のパンフレット・重要事項説明書 において,!ア医療体制について,あたかも,隣接する協力医療機関が入居者の ために24時間の医療体制を採っているかのように表示し,!イ看護職員の配置に ついて,あたかも,常勤の看護職員を1名配置しているかのように表示してい るのが優良誤認として,景表法4条1号(現4条1項1号)違反とされ,また, !ウ入居者の健康管理体制に必要な費用について,あたかも,入居者に対する定 期健康診断と定期健康相談を無料で実施しているかのように表示しているのが 有利誤認として,4条2号(現4条1項2号)違反とされたものである。排除 措置としては,!ア誤認される表示である旨を,一般消費者に対して公示すると

(11)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 85 ともに,入居者に通知すること,!イ提供するサービス内容・価格についての表 示内容と,実際のサービス内容・価格とが適合するように改善措置を講じると ともに,入居者に当該改善措置の内容を通知すること,!ウ今後,同様の表示を 行わないこと,などが命じられた。 ③事件は,サンリッチ三島が,自ら作成のリーフレット・重要事項説明書, 全国有料老人ホーム協会の「会員ホームガイド 輝」と称する冊子において, !ア介護居室の利用料について,あたかも,一般居室から介護居室へ移る場合, 別途料金を負担することなくすべての介護居室が利用できるかのように表示し ているのが有利誤認として,景表法4条2号(現4条1項2号)違反とされ, また,!イ夜間の介護体制について,あたかも,要支援者・要介護者6名当たり 介護職員1名を配置しているかのように表示し,!ウ居室の方位について,あた かも,全居室が南向きであるかのように表示しているのが,優良誤認として, 4条1号(現4条1項1号)違反とされたものである。排除措置としては,!ア 誤認される表示である旨を,一般消費者に対して公示するとともに,入居者に 通知すること,!イ提供するサービスの取引条件,サービス・施設内容について の表示内容と,実際のサービスの取引条件,サービス・施設内容とが適合する ように改善措置を講じるとともに,入居者に当該改善措置の内容を通知するこ と,!ウ今後,同様の表示を行わないこと,などが命じられた。 ④事件は,クリスタルが,自ら作成のパンフレット,ホームページ,重要事 項説明書等において,!ア介護サービスについて,あたかも,入居者が医療機関 に入院中には,有料老人ホームの職員が,入居者に対して食事介助・身体清拭 を行うかのように表示し,!イ夜間の看護体制について,あたかも,ホームにお いて,常時,24時間の看護体制を採っているかのように表示し,!ウ健康管理体 制について,あたかも,入居者に対する健康診断を定期的に実施するかのよう に表示していたのが,優良誤認として,景表法4条1号(平成15年改正法施行 後の表示にあっては,4条1項1号)違反とされたものである。なお,公取委 が調査を開始したところ,クリスタルは,夜間の看護体制,健康管理体制等に ついて,改善措置を講じている。排除措置としては,!ア著しく優良であると示

(12)

86 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 すものである旨12)を,一般消費者に対して公示するとともに,入居者に通知 すること,!イ提供するサービスの内容についての表示内容と,実際のサービス 内容とが適合するように講じている改善措置の内容を,入居者に通知すること, !ウ今後,同様の表示を行わないこと,などが命じられた。 ⑤事件は,川島コーポレーションが,自ら作成のパンフレットにおいて,!ア 土地・建物は同社が所有していないにもかかわらず,そのことを明瞭に記載す ることなく,建物外観の写真を大きく掲載しているのが,有料老人ホーム等告 示1項に該当し,!イ入居者に対する介護サービスは同社とは別の事業者が提供 しており,同社は,自ら介護サービスを提供するものではないにもかかわらず, そのことを明瞭に記載することなく,「介護施設の充実はもちろん,携わる介 護スタッフのスキルアップを常に図り,介護に対する最新のカタチとノウハウ を追求しています」などと記載しているのが,有料老人ホーム等告示8項に該 当し,景表法4条1項3号違反とされたものである。排除措置としては,!ア誤 認されるおそれのある表示である旨を,一般消費者に対して公示するとともに, 入居者に通知すること,!イ今後,同様の表示を行わないこと,などが命じられ た。 ⑥事件は,一つに,平成16年10月ころから平成17年9月ころまでの間,ライ フケアサービスが,自ら作成のパンフレットにおいて,ライフケアサービスの 取締役である個人が所有する高齢者向け賃貸マンションにおける看護体制につ いて,あたかも,常時,24時間看護師が常駐する看護体制を採っているかのよ うに表示していたのが,優良誤認として,景表法4条1項1号違反とされ,そ してもう一つに,平成17年10月以降,ライフケアサービスが,神奈川県のホー ムページに掲載されている自ら作成の重要事項説明書において,有料老人ホー ム(前記高齢者向け賃貸マンションの借受け,県知事への届出の上,転用した もの)における夜間の最小の介護職員等の数について,あたかも,夜間におけ 12)なお,④事件の違反行為は既往と認定されているにもかかわらず,主文では「著しく優 良であると示すものである旨を速やかに公示する」ことなどが命じられており,特異であ る。

(13)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 87 る最小の介護職員等の数が8人であり,また,夜間における最少の看護職員の 数が2人であるかのように表示しているのが,有料老人ホーム等告示10項3号 に該当し,景表法4条1項3号違反とされたものである。排除措置としては, !ア前者に関わっては,著しく優良であると示すものであった旨を,また後者に 関わっては,誤認される表示である旨13)を,一般消費者に対して公示すると ともに,入居者に通知すること,!イ後者に関わって,今後,同様の表示を行わ ないこと,などが命じられた。 なお,⑦∼⑨事件では,排除措置として,!ア著しく優良であると示すもので ある旨(⑦・⑨事件),著しく有利であると誤認される表示である旨(⑨事件), 誤認されるおそれがある表示である旨(⑦∼⑨事件),誤認される表示である 旨(⑧事件)を一般消費者に対して公示するとともに,入居者に通知すること, !イ今後,同様の表示を行わないこと(⑦∼⑨)事件,などが命じられている。 ! 不当表示規制の限界 不当表示規制は,有料老人ホームの取引の適正化にとって限界があるように 思われる。以下,要件面と排除措置面に分けて,限界を見る。その後,取引の 特質を捉えた規制のあり方を探るとともに,残された検討課題を明らかにし, 本稿のまとめとする。 1.要件面から見た限界 有料老人ホームの取引の適正化が問題となる局面(前出Ⅰ参照)のうち,要 件面から見て不当表示規制がカバーできるのは,契約締結過程における不適正 な表示による入居希望者の選択の妨害と,取引開始後になされる一方的不利益 行為の内容を反映しない表示による新規入居希望者の選択の妨害である。契約 締結過程にあっても取引開始後にあっても,不当表示規制は,入居者の利益侵 害を直接カバーすることはできない。 13)なお,主文において,「誤認されるおそれがある表示である旨」ではなく,「誤認される 表示である旨」を速やかに公示することなどが命じられたのは,表示が事実と異なるとの 判断が前提とされているように思われる。実際のところ,介護職員等の数は2人,看護職 員の数は0または1人であった。また⑧事件参照。

(14)

88 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 また,不当表示規制が,取引開始後になされる一方的不利益行為をどの範囲 でカバーすることができるかも,問題になる。表示が一方的不利益行為の内容 を反映するものとなっていれば,そもそも不当表示の問題とはならない。取引 開始後に表示が行われていない場合など,遡って当初の表示を不適切とするこ とができる範囲はありそうであるが,カバーできない範囲が大きいであろう。 これらは,不当表示規制の明らかな限界である。もっとも,取引開始後も新規 の入居者を求めて従来の表示をし続けることが多いということであれば,この 限界は大きくないと言えるかもしれない。 なお,取引開始後になされる一方的不利益行為を不当表示に着目して規制す ることは,有料老人ホームの取引の特質を捉えた規制とは言えそうにないが, 規制の実を挙げることができればよいとする立場からは,本質を捉えた規制で あるか否かは問題とならないであろう。 2.排除措置面から見た限界 有料老人ホームの取引の適正化が問題となる局面(前出Ⅰ参照)のうち,排 除措置面から見て不当表示規制がカバーできるのは,契約締結過程における不 適正な表示の排除である。限界は,排除の時間的範囲と内容に関わって問題に なる。 (1) 排除の時間的範囲 契約締結過程における既往の違反行為をどこま で遡って排除することができるかは問題になる。この点,④事件では約4か月, ⑥事件では約6か月遡っているが,有料老人ホームの取引の性質,経営形態の 変更(⑥事件のみ)を勘案すれば,問題はなかろう。もっとも,遡及には,自 ずから限界がある。 なお,取引開始後になされる一方的不利益行為からどこまで遡って当初の表 示を不当として排除することができるかも問題になる。これについては,要件 面から見た限界として簡単に触れた。 (2) 排除の内容 排除の内容は,一般消費者の誤認を排除するための公 示を超えて,どこまで拡張することができるか。また,契約を締結した入居者 の利益侵害,取引関係にある入居者の利益侵害の除去にどこまでアプローチす

(15)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 89 ることができるか。この点,問題になるのは,①一般消費者の誤認を排除する ための入居者への通知(①∼⑨事件),②講じている改善措置内容の入居者へ の通知(④事件),③改善措置を講じること・改善措置内容の入居者への通知 (①∼③事件),である。これらは,有料老人ホームの不当表示事件の排除措 置の大きな特徴となっている。以下,各別に検討するが,⑤∼⑨事件の排除措 置として,改善措置を講じること・改善措置内容の入居者への通知が求められ ていない理由についても,併せ検討する。 (a) 一般消費者の誤認を排除するための公示・入居者への通知 例えば, 次のような命令がそうである(それぞれ,①事件,⑤事件)。石川ライフクリ エートは,「有料老人ホームの入居者募集に関し,一般消費者の誤認を排除す るために」,所定の表示は,「いずれも事実と異なるものであり,かかる表示は, 同老人ホームにおいて提供するサービスの内容及び同老人ホームの施設の内容 について,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示 である旨を速やかに公示するとともに,同老人ホームの入居者に通知しなけれ ばならない。」川島コーポレーションは,「有料老人ホームの入居者募集に関し, 一般消費者の誤認を排除するために,次の事項〔所定の表示が一般消費者に誤 認されるおそれがある表示である旨〕を速やかに公示するとともに,同有料老 人ホームの入居者に通知しなければならない」。 この点,一般消費者の誤認を排除するため,誤認表示である旨の公示を命じ ることは,不当表示事件の通例である。それに対し,併せ入居者への通知を命 じることは, 有料老人ホームの不当表示事件の大きな特徴である14)。 問題は, 入居者への通知が併せ求められる理由であり,それが法的に許容され得るか否 かである。入居者への通知の有用性は理解できるが,それが一般消費者の誤認 を排除するためになぜ必要か,そもそもその論理が分からない。回りまわって, 将来の不当表示の抑止となるとでも言うのであろうか。説明が必要である。 14)なお,がん保険のがん入院給付金についての表示が問題とされた事件では,一般消費者 に誤認される表示である旨の公示とともに,期間中にがん保険を契約した者への通知が命 じられている。日本生命事件(平15・5・9排除命令,排除命令集24・47)参照。

(16)

90 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 (b) 講じている改善措置内容の入居者への通知 ④事件では,次の命令 がなされている。クリスタルは,「有料老人ホームの提供するサービスの内容 についての表示内容と実際の同老人ホームの提供するサービスの内容とを適合 するように講じている改善措置の内容を,同老人ホームの入居者に通知しなけ ればならない」。なお,この命令に関わっては,「一般消費者の誤認を排除する ため」などの文言は付されていない。 ここでも,講じている改善措置の内容を入居者に通知することが求められる 理由と,それが法的に許容され得るか否かが問題になる。入居者への通知が有 用であることは理解できるが,それが法的に許容される論理が分からない。将 来の不当表示の抑止となると言うほかなさそうである。説明が必要である。 (c) 改善措置を講じること・改善措置内容の入居者への通知 例えば, 次のような命令がそうである(①事件)。石川ライフクリエートは,「有料老人 ホームの提供するサービスの内容又は同老人ホームの施設の内容についての各 表示内容と実際の同老人ホームの提供するサービスの内容又は同老人ホームの 施設の内容とが適合するように改善措置を講じるとともに,同老人ホームの入 居者に当該改善措置の内容を通知しなければならない」。 この排除措置については,「景品表示法違反事件の排除措置として実態の改 善まで視野に入れて言及したのは本件が初めてである」として,次のような解 説がなされている15)。「本件不当表示を排除するために,表示を実態に合わせ るよりもむしろ,実態を表示に合わせることを期待したものと思われる」。「不 当表示は表示と実態との乖離から生ずるものであり,不当表示を是正するため には,表示内容を実際のものに合わせて改定したり,表示自体を取りやめたり することのほか,実際のものを表示内容に合わせることによって対応する方法 がある。」「有料老人ホームのように,消費者が長期にわたってサービス供給を 受け,かつ,取引相手の変更可能性が制約されているような取引においては, 表示を是正するのみでは実質的には新たに取引する消費者の誤認を排除するに すぎないため,既に誤認して入居した者の誤認を排除する手段としてできる限 15)葛西・黒河・前掲(注11)71−72頁参照。

(17)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 91 り実態を表示に合わせることを求めたものであり,排除措置をより一層実効性 のあるものとするために命じたものと思われる。」なお,「今回不当表示として 指摘された事項のその後の改善状況をみると,看護職員を採用配置(……), 全介護居室の利用を無料化(……)など一部であるが,実態を表示に合わせて 改善されたものがある」ことが付言されている。 この排除措置をめぐっても,改善措置を講じること・改善措置内容を入居者 に通知することが求められる理由と,それが法的に許容され得るか否かが問題 になる。確かに,この種の排除措置が有用であることは理解できるが,それが 法的に許容される論理が分からない16)。将来の不当表示の抑止となると言う ほかなさそうであるが,将来の不当表示の抑止のために必要とされる理由は示 されていない。説得的な説明が必要であろう。 (d) ⑤∼⑨事件に固有の排除措置の限界 直近の⑤∼⑨事件では,排除 措置として,改善措置を講じること・改善措置内容の入居者への通知は命じら れておらず,①∼③事件とは違いを示している。⑤∼⑨事件でこの種の排除措 置が命じられなかった理由は,事案の違いに求めることができるのかもしれな い。しかし,ここで問題とするのは,不当表示の要件の違いが,排除措置の内 容に影響を及ぼす可能性である。4条1項の規定に違反する行為のうち優良誤 認の場合には,「著しく優良であると示」すことが,有利誤認の場合には,「著 しく有利であると……誤認される」ことが,不当表示とされる。それに対し, 有料老人ホーム等告示違反の場合には,表示において記載されているとする事 項が「明りょうに記載されていないもの」が,不当表示とされ,要件がより特 定的に明示されている。他方,排除措置の内容は,文言上,①4条1項の規定 に違反する行為の差止め,②4条1項の規定に違反する行為が再び行われるこ とを防止するために必要な事項,③上記①・②の実施に関連する公示その他必 要な事項,に限定されているので,有料老人ホーム等告示違反の場合,違反行 16)白石忠志『独占禁止法』180頁(有斐閣,2006)は,「需要者が更地から新たな取引をす ることのできない事例においては,実際の商品役務にあわせた表示を命じても手遅れであ るため,発想を逆転させたものである」とする。

(18)

92 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 為を字義通りに,「明りょうに記載されていない」ことと捉えれば,排除措置 は大きく制約されることとなる。改善措置を講じること・改善措置内容の入居 者への通知は,明瞭に記載されていないことの排除措置としては,あまりにも 間接的で遠い。⑤∼⑨事件では,このことが全般に影響している可能性は否定 できないであろう。 (e) 小括 有料老人ホームの不当表示事件の排除措置として,①一般消 費者の誤認を排除するための入居者への通知,②講じている改善措置内容の入 居者への通知,③改善措置を講じること・改善措置内容の入居者への通知がな されるのは,有料老人ホームの取引の特質(次の3.(1)参照)からして,一般 消費者の誤認の排除にとどまらず,入居者への不利益の除去に可能な限り接近 したいという強い願望の表れと見ることができる。しかし,①・②は不当表示 の通例の排除措置に近接したものとは言え,法的根拠には不分明なところが残 る。他方,③は,入居者への不利益の除去に大きく踏み込んだ排除措置である が,不当表示事件でこの種の排除措置を命じることができるか否か,大いに疑 問である。加えて,有料老人ホーム等告示違反の場合,要件面に由来する制約 もあり,③の排除措置を採ることには大きな限界があると言える。 3.取引の特質を捉えた規制のあり方 以上の検討から明らかになるのは,要件面から見ても排除措置面から見ても, 有料老人ホームの不当表示規制には大きな限界があるということである。それ で有料老人ホームの取引の特質を捉えた規制と言えるのか。また,不当表示規 制でカバーできない部分は,優越的地位の濫用として規制すればよいとするの か。以下,取引の特質を捉えた規制はどうあるべきか,模索する。 (1) 取引の特質とその捉え方 有料老人ホームの取引の特質としては, サービス取引一般の特質と,有料老人ホームに固有の特質がある。前者は,商 品とは異なり,あるいはそれ以上に,提供を受けるまでその内容が分からない ということである。他方,後者は,サービス取引一般の特質を前提として,サー ビスの種類ごとの,したがってここでは有料老人ホームの取引に固有の特質と いうことになる。

(19)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 93 有料老人ホームの取引に固有の特質は,契約締結過程における表示の適正化 の観点から次のように整理される17)。①「取引開始に当たって高額の費用が 必要となることが多い」。②「提供されるサービスの性質上取引は長期にわた り,かつ,いったん取引が開始されると入居者側からの契約解除がしにくい」。 ③「介護サービスが未経験のサービスであり,また,利用者の将来の心身の状 況に応じて提供されるサービスの内容が変化することから,契約段階で将来を 見通したサービス全体の内容が把握しにくい」。また,取引主体に着目した特 質も挙げられる。④「入居希望者は高齢者であり,重要事項説明書等の内容を 十分理解しないまま契約するおそれもある」。⑤「入居後は日常生活や介護の 世話になっているという『負い目』があるせいか,表示内容に虚偽があっても 我慢してしまう傾向があり,入居者にとって不利益な状況があっても外からは 分かりにくい」。そして,「有料老人ホームの取引においては,有料老人ホーム を選択する時点における表示が,消費者に誤認されるおそれのないものとなっ ているとともに,入居者に不利益となる情報も含めて,有料老人ホームを選択 する際の判断の基となる重要な情報について適正な表示が行われることが極め て重要である」とする18)。 確かにそこには,有料老人ホームの取引に固有の特質が挙げられていると一 応言うことができる。しかし,取引先変更可能性が制約されている状況の下で, 取引開始後に入居者に一方的に不利益な行為が行われ得るということは,正面 から押さえられてはいない。有料老人ホームの取引をめぐる問題の一半がこの 一方的不利益行為に起因することからすれば,その適正化は,一方的不利益行 為をも,特質として正面から捉えた上のものでなければならない。 (2) 優越的地位の濫用としての一体的規制 有料老人ホームの不当表示 規制には大きな限界がある。それでは,不当表示として規制できる部分は不当 表示規制により,規制できない部分は優越的地位の濫用として規制すればよい 17)葛西・黒河・前掲(注11)71頁によった。また,的場・木尾・前掲(注11)57頁,岩堀・ 清水・前掲(注11)64頁など参照。 18)葛西・黒河・前掲(注11)71頁。

(20)

94 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 のか。この点,①∼③事件の解説は,次のように叙述する19)。「ホームの入居 者は,生活のほぼ全般にわたってホームに依存しており,そのため,入居後の 取引内容・取引条件が変更され,入居時よりも悪化する場合(……),たとえ 入居者の同意を要件としていても,同意しないということは事実上難しく,ホー ム側の措置に従わざるを得ない状況にあり,ホームは入居者に対し,取引上優 越した地位にあると考えられる。このような中で,有料老人ホームが入居者に 対し,取引条件を一方的に不利益に変更する場合には,優越的地位の濫用とし て,『不公正な取引方法』(一般指定)第14項に当たる可能性があるのではない かと考えられる。」「これまで,消費者向けの取引について,一般指定第14項を 適用した審決例はないが,将来,消費者向け取引について一般指定第14項を適 用することがあれば,それはまさに有料老人ホームのようなケースではないか と思われる。」 有料老人ホームの不適正な取引に対して優越的地位の濫用規制を及ぼすこと に異論はない20)。問題は,不当表示規制が及ばない部分にのみ優越的地位の 濫用規制を及ぼすことが,有料老人ホームの取引の特質を捉えた規制と言える かである。特質を捉えた規制と言えるためには,不適正な取引の全部を一体と して,優越的地位の濫用として規制するものでなければならない。 4.残された検討課題 有料老人ホームの不適正な取引を一体として捉え,優越的地位の濫用として 規制することが,その取引の特質を捉えた規制のあり方であると一応いうこと ができる。もっとも,断定的な結論を下す前に,なお,次のことが見極められ なければならない。問題関心を提示し,本稿のむすびとする。 (1) 不当表示規制の事実上の効果 不当表示規制により,意図する取引 の適正化が事実上達成できれば,改めて優越的地位の濫用規制を及ぼす必要は 19)葛西・黒河・前掲(注11)72―73頁。また,本城昇「情報の不完全性と優越的地位の濫 用行為」稗貫俊文(編)『競争法の現代的諸相(上)』605頁(信山社,2005)参照。 20)一般指定14項が消費者取引にも適用でき,また公取委による適用が十分あり得ることに ついて,根岸哲「優越的地位の濫用規制に係る諸論点」経法27号21,29―30頁(2006)参 照。

(21)

有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制 95 ないとも言える。この点,④事件では,公取委が調査を開始したところ,「夜 間の看護体制,健康管理体制等について,改善措置を講じている」とされる。 また,①∼③事件に関わっては,公取委は,全国有料老人ホーム協会に対し, 会員に排除命令の内容を周知徹底させるとともに,会員が適正な表示を行うよ う指導することを要請しており,この指導を通じて,表示の適正化だけでなく, 取引全般の適正化が図られることも考えられる21)。その限りで,意図する取 引の適正化は事実上達成されることになる。 (2) 消費者契約法による救済の可能性 消費者契約法によれば,消費者 は,不実告知の提供による誤認,不利益事実の不告知による誤認などの場合, 消費者契約の申込み・承諾の意思表示を取り消すことができる(4条)。また, 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等,消費者の利益を一方的に害す る条項は,無効とされている(9・10条)。実際のところ,①∼③事件の解説 は,有料老人ホームが入居者に対し,取引条件を一方的に変更する場合,「〔入 居者にとって極めて不利益な〕条件があらかじめ明記されていれば,直ちには 景品表示法及び独占禁止法の問題は生じないと考えられるものの,消費者の利 益を一方的に害するものとして,消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的 に害する条項を無効とする規定)に該当し,無効となる可能性も考えられる」 とする22)。 もっとも,有料老人ホームの場合,契約当事者は,入居する高齢者であると いう特殊性があり,また,自ら入居して介護サービスの提供を受けて生活して いる場合,サービスを提供している事業者に対して権利要求をすることが容易 であるか,訴訟を提起することが現実に期待できるか,という被害回復の困難 性もある23)。この点,適格消費者団体による差止請求訴訟制度は,適格消費 者団体が,不実告知の提供・不利益事実の不告知,不当条項に対し,差止請求 21)小野明信「有料老人ホームの入居案内に係るパンフレット等の表示の適正化に関する要 望等について」公取521号77頁(1994),本城・前掲(注2)17―18頁もまた参照。 22)葛西・黒河・前掲(注11)73頁。 23)『有料老人ホームをめぐる消費者問題に関する調査研究―有料老人ホームの暮らしが快 適であるために―』15―17頁(国民生活センター,2006)参照。

(22)

96 彦根論叢 第367号 平成19(2007)年7月 をすることができるとするものであり(12条1・3項),新たな消費者被害の 発生・拡大の防止にとって極めて有用となることが期待できる。施行されたば かりであり(平成19年6月),運用実績を待たなければ正確な評価を下すこと はできないが,公取委による規制との「棲み分け」は,大きな課題となろう。 また将来,独禁法に団体訴訟制度が導入されれば24),それとの「棲み分け」 も課題となる。 24)検討が進行中であることにつき,「団体訴訟制度に関する研究会について」(平成19年4 月25日,公正取引委員会)参照。

参照

関連したドキュメント

平成25年3月1日 東京都北区長.. 第1章 第2章 第3 章 第4章 第5章 第6章 第7 章

第1条

3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月

1に、直接応募の比率がほぼ一貫して上昇してい る。6 0年代から7 0年代後半にかけて比率が上昇

添付資料-4-2 燃料取り出し用カバーの構造強度及び耐震性に関する説明書 ※3 添付資料-4-3

2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月

いわゆるメーガン法は1994年7月にニュー・ジャージー州で起きた当時7