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書評 川瀬光義著『基地維持政策と財政』

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書評 川瀬光義著『基地維持政策と財政』

来 間 泰 男

本書は、2013 年 9 月に、日本経済評論社から刊行されたもので、総ページは 228 である。

著者は、宮本憲一主宰の「沖縄持続的発展研究会」のメンバーで、『沖縄論 ―平和・環境・

自治の島へ―』(岩波書店、2010 年)を刊行し、宮本とともに編者となっている。その 時のテーマは、宮本が「〈沖縄政策〉の評価と展望」を、川瀬が「基地維持財政政策の変 貌と帰結」を書き、また本学の佐藤学、砂川かおりも、執筆に加わっていた。

1.目次

序 章 本書の課題

第 1 章 在日米軍基地と財政 第 2 章 沖縄の基地と地域経済 第 3 章 基地と自治体財政 第 4 章 基地維持財政政策の展開

第 5 章 嘉手納町にみる基地維持財政政策の実態 第 6 章 名護市にみる基地維持財政政策の実態 第 7 章 沖縄振興(開発)政策の展開と帰結 第 8 章 沖縄市にみる振興政策の実態

     ―中城湾港泡瀬沖合埋め立て事業を中心に―

終 章 ルールなき財政支出の帰結

2.本書の課題

「日本における基地を維持するための財政支出、とくに 1990 年代半ば以降のその展開 が意味することについて、地域差別という点を据えて、原子力発電所の場合とも比較して 分析すること、これが本書の課題である」(P.8-9)。

「本書では、日本の軍事費の 1 割ほどをしめるにすぎないが、基地の提供という日米安 保条約にもとづく日本側の義務を履行する際に重要な役割をはたしている経費、さらに普 天間飛行場撤去の条件として沖縄県名護市辺野古への新基地建設計画がすすめられ始めて 以降、質量ともに重大な変質をとげた基地を維持するための財政支出の特質を、〈地域差別〉

という視点を据えて問うことにしたい」(P.11)。

3.「思いやり予算」

いわゆる「思いやり予算」については、次のようにまとめている。

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「“思いやり予算” は金丸信防衛庁長官(当時)の提唱により、1978 年度から始まった とされている。しかし、沖縄返還交渉に係る密約をスクープした、元毎日新聞記者の西山 太吉は、1972 年の沖縄返還協定発効にともなって実施されていたと指摘している」。沖 縄返還協定第 7 条で、3 億 2 千万円の負担、また「基地の移転に関する費用、従業員の待 遇に関する費用が日本側の負担となった」。「その後アメリカの求めるままに対象を拡大し て膨張していった思いやり予算の沿革をみるにつけ、沖縄返還協定が思いやり予算の始ま りという西山の指摘は正鵠を得ているといえる」(P.29-30)。

「当初の思いやり予算は、〈基地従業員対策等〉(表 1-5 の「労務費」の一部)と〈提供 施設の整備〉だけであった」。「このようにして始まった思いやり予算の次の大きな転機は、

1987 年の特別協定である」。それは「暫定的」「特例的」「限定的」とされ、5 年間の期限 付きであった。しかしその 5 年後に、さらに 5 年間の延長が決められただけでなく、「訓 練移転費」の対象が国内のみならず、グアム島までも含められたし、「提供施設の整備」

の対象は軍事施設のみならず、娯楽施設や教会の建設にまで対象とするようになった。さ らに、「基地従業員」という費目の中に、これらの娯楽施設のそれをも含められた(P.30- 34)。

4.原子力発電所立地自治体との比較

もともと沖縄のアメリカ軍基地は、占領直後と 1950 年代初頭に強権で作られ、その後 1960 年前後に在日海兵隊が沖縄に移動することによって、主に国・県・市町村有地を加 えることによって拡張されたものであり、沖縄県民が誘致したり容認したりしてできたも のではない。そこは原発の立地とは異なっている。しかし、「90 年代半ばの転換」によっ て、両者の性格は近寄った。

例えば、自治体財政に占める「基地関係収入」の比率が最も高い(34%)宜野座村と、「浜 岡原子力発電所が 5 基立地している(うち 1・2 号機は廃炉が決定)静岡県御前崎市」の 場合を比較してみると、「迷惑施設立地の〈代償〉として過分な財政収入を得ているのは 同じである」(P.83)。ただ、違いもある。

「第 1 に、地方税の占める割合が、御前崎市は 52.4%と過半を占めているのに対し、宜 野座村は 7.4%にすぎない。これは、原子力発電所にかかわる最大の収入源が固定資産税 の償却資産分[地方税とされる―来間]であるのに対し、軍用地料は財産収入[26%]に、

基地交付金は国庫支出金[15%]に計上されているからである」。宜野座村のこれらの合 計は、7 + 26 + 15 = 48%となり、御前崎市の 52%と同様になる。そのかぎり、その違 いは、財源の性格の違いからくる形式的なものである。ただ、原発には核燃料税[地方税 とされる―来間]もあるが、停止中は出ない。「そして最大の税源である固定資産税償却資 産分は、減価償却により着実に減少していくのである」。「他方、基地所在自治体の 2 種 類の基地交付金」も、軍用地料も「増加している」(P.84-85)。

「第 2 に、地方税収入が多くをしめる御前崎市は」、財政力指数が高く「富裕団体」とされ、

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「普通交付税の不交付団体」である。これに対して宜野座村は、財政力指数は低く、普通 交付税を受け、その割合は 17%にもなっている。「これは基地交付金、軍用地料とともに 一般財源であり、かつ地方交付税の基準財政収入額算定の対象外となっていることによる ものである」(P.85)。

著者は、原発と基地という「迷惑施設」が立地することへの「代償」が「過分な財政収 入」を得ているという共通性を指摘するのであるが、そのような一般的な共通性も、詳し く見ていくと、基地の方が優遇されているということを示唆している。

5.まとめ

本書は、基地と財政の問題を、主として沖縄に即して、一部は原発問題と重ねて、解明 している。

著者は、1990 年代半ばを転換点ととらえている。沖縄振興策は、それまでは主として

「日本復帰」という異常事態に対応するための「特別」な位置づけであったし、その基地 に関わる支出も、いわば基地があることから生ずる諸問題への対応としての「迷惑料」の 性格のものにとどまっていた。しかしその後は、単に「沖縄振興策」と名づけられていて も、基地を容認してくれるから出す、基地の移設を受け入れてくれるから出す(受け入れ なければ出さない)という、基地がらみの性格を持つようになっていった。著者は、ポイ ントであるこの転換を正しく認識している。

そして、その転換が「基地維持政策と財政」(本書の表題)への転換であり、原子力発 電所の立地に対応する財政支出と同じ性格を持つことにつながったのである。

「日米地位協定」でアメリカ側負担となっているのに、協定外に特別に支出されるいわ ゆる「思いやり予算」は、沖縄の復帰と絡まって始まったが、これもその内容が 1987 年 に大きく転換し、しかも急速に増大した。そうなると、単に「思いやり」とするにははば かられてきたために、近年は「地位協定」とは別の、時限的な「特別協定」をくりかえす ことによって、対応するようになった(第 1 章)。

著者は第 4 章で、95 年ころを境にして「基地維持財政政策」といえるものに変質して いった経緯をくわしく追求している。キーワードを挙げれば、95 年の「少女乱暴事件」

とそれへの県民の反発、SACO 合意、「普通交付税の算定項目に安全保障への貢献度を加 え」たこと、沖縄に特定した「基地所在市町村に関する特別事業費」の支出、いわゆる「島 田懇談会事業」、普天間飛行場の移設先とされる沖縄本島北部地区に関わる「北部振興事 業」、「米軍再編交付金」等々である。そして「質的な変化」が指摘される。「質的な変化 とは、従来の基地関連の財政支出は、沖縄の人々が合意して基地を引き受けているわけで はないという点も考慮された、補償金ないし迷惑料的な性格が主だったのに対し、普天間 飛行場撤去の条件として新基地建設が政策課題となってからの財政支出には、新たな負担 を引き受けることへの見返り的な性格が濃厚となってきたことである」(P.118)。

さらに、第 5 章では嘉手納町の、第 6 章で名護市の、「基地維持財政政策の実態」が解 書評 川瀬光義著『基地維持政策と財政』

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明され、第 7 章では「復帰財政経済政策 40 年」が「検証」されている。そこでは、当初 の目標であった「格差是正」が達成されてもなお 40 年間も続いている「沖縄振興(開発)

特別措置法」とそれに基づく「沖縄振興(開発)計画」の必然性にも、「沖縄振興一括交付金」

にも疑問が出され、「今、沖縄だけを対象とする特別な財政措置を講じることに全国的な 共感が得られる施策があるとしたら、やはり基地返還跡地利用に関するそれではないだろ うか」という(P.182)。的確な指摘といっていい。

本書が明らかにし、秩序立てて説明したことは、他にもいろいろとあるが、省略する。

細かいことであるが注文をつける。①「軍用地料は、民間の地権者にとっては地代所得 となり、毎年確実に増収となるので、格好の利殖手段となっている」という、また「最近 では、確実かつ利回りの高い不動産として、県外の購入者も増加しているという」(P.59- 62)。このように論ずるのは、マスコミなどによる報道に影響されているものであろう。

確かにそのような報道もあったが、しかし、近年はその上昇率が 1%程度に抑えられてき たので、今やそうではなかろう。私が集計している『タイムス住宅新聞』『かふう』(いず れも週刊)に掲載される軍用地の売り広告は、近年その件数が激減している。②「もし仮に、

今米軍基地が撤去され、これら軍関係受取が消滅したとしても、沖縄本島中部の優良地が 活用できることからして、マクロ経済レベルでは容易にその回復は可能と言えよう」とあ り(P.63)、そうではあるが、返還跡地の利活用は数々の難問を抱えており、そうスムー スに運べるものではないことを見通す必要があろう。

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