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国際経営における組織デザイン

~トランスナショナルマネジメントの意義と本質~

Organization Design in International Management

-The Meaning and Essence of the Transnational Management-

大 城 朝 子 Asako OOSHIRO

【要旨】

国際経営研究における組織的分析の視点から持続可能な競争優位について考察した際に、

Bartlett& Ghoshalの唱えたトランスナショナルマネジメントが今日のさまざまな研究に 大きな影響を与えている。本稿ではトランスナショナルマネジメント研究についての詳細 な整理を行うことにより、その意義と本質を捉える。その上で、国際経営における組織デ ザインの変化についても考察する。

キーワード:トランスナショナル、統合ネットワーク、世界規模の学習、組織学習、持続 可能な競争優位

はじめに

国際経営における持続可能な競争優位については、さまざまな視点から多くの研究がな されてきた。しかし、近年、国際経営の領域で長年研究されてきた段階的な国際化を短期 間で果たす、「ボーングローバルカンパニー」(以下BGC)の出現により、組織デザイン は大きな変化を遂げようとしている。

急速なICTの進歩と普及により、グローバル化が進展し、大企業だけでなく中小企業も 海外に立地し、製品やサービスを提供することが可能となった。まさに、これまでの国際 経営の分野で研究され続けてきた世界的価値連鎖が可能になる時代となり、BGCが出現 することにより国際経営研究に新しい扉が開かれた。BGCの研究にはさまざまな視点で のアプローチが採用され、それぞれのアプローチの中で研究が蓄積されてきている。

筆者はこれまで、国際経営における日本的経営の移転という視点から持続可能な競争優 位性について研究を行うなかで知識創造がその優位性の源泉なのではないかと考え考察を 深めてきた。その後、次の段階として、国際経営研究における持続可能な競争優位を裏打 ちする理論的枠組みや、「知識創造」と類似する概念を、膨大な先行研究の中に模索し組

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織学習(学習する組織)という概念に行きあたった。そこで、国際的な組織経営の分析に 強 い影 響を 与 えた Bartlett&Ghoshal (1989) の Managing Across Borders: The Transnational Solution (吉原英樹監訳『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナ ルマネジメントの構築―』)に注目した。

まず、本稿においてはトランスナショナルマネジメントの詳細な理解を試み、その意義 と本質を明らかにしていきたい。また、トランスナショナルマネジメントについては、実 現不可能な理想論であり、具体的な構築の仕方が示されていないという指摘もあるためそ の点については、トランスナショナルマネジメント研究をさらに発展させたGhoshal &

Bartlett(1999)の The Individualized Corporation: Fundamentally New Approach to Management (グロービス・マネジメント・インスティテュート訳『個を活かす企 業―自己変革を続ける組織の条件―』)の主張を参照して補足し、トランスナショナルマ ネジメントについての考察の時系列的な変化についても捉える。

その上で、これまでの先行研究で示された組織モデルを概観し、国際経営のための組織 モデルの変遷について整理をしていきたい。

1.国際経営における組織デザイン

国際経営についてはさまざまな観点から研究がなされているが、その論点を組織分析に 絞っている研究は意外に少ない。

そのような中で、多国籍企業の組織研究に大きな示唆を与えたといわれているのが、

Bartlett& Ghoshal(1989)の『地球市場時代の企業戦略:トランスナショナルマネジ メントの構築』である。

トランスナショナルマネジメントという概念はそれまでの多国籍企業の組織分析が、構 造的側面から行われていたのに対し、非構造的な側面に光を当て、世界的な知識創造のネッ トワークとして組織を捉えたものであり、研究の流れを大きく変えることになった。そこ で、本稿においても、それまでの先行研究とは一線を画すものであるということを意識し ながら組織の非構造的な側面に着目する。また、組織づくりに関する具体的な研究を整理 する際には、「組織デザイン」という表現を使用する。加えて、本稿の趣旨は多国籍企業 の組織分析であるが、多国籍企業やグローバル企業といった言葉は使用者によって定義が 異なるため、本稿では「多国籍企業における」ではなく、活動が国境を越えているという 広い意味を表す「国際経営における」という表現を用いる。

2.トランスナショナルマネジメント

2.1.トランスナショナルとは

Bartlett&Ghoshal(1989)はトランスナショナルマネジメントの研究の目的を、「経

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営環境の大きな変動に挑んでいる世界規模の企業の経営者が直面する組織上及び管理上の 業務の理解を深めることにあった。~中略~ より厳密に言えば、新しい環境下で要求さ れる組織の特性を発見することであり、最終的には、企業がその特性をどう伸ばし管理す ることができるかの指標を引き出すことであった。」と述べている。そして、その目的を 達成するために、実際に世界規模で経営を行っている多国籍企業9社を2年半にわたり調 査し、236人のマネジャーへのインタビューをもとに調査分析を行った末、その組織特性 をインターナショナル企業、グローバル企業、マルチナショナル企業、トランスナショナ ル企業という4つの類型に分類した。その4つの類型の違いを示したものが、以下の表1 である。

トランスナショナル企業はマルチナショナル企業、グローバル企業およびインターナショ ナル企業の3つの長所を兼ね備えている理想的な経営組織モデルとして説明されている。

表1に示されているトランスナショナル企業の3つの特徴は、本文において「統合ネット ワーク、子会社の役割と責任の分化、複数イノベーションの同時管理」という表現がな されている。それぞれについて以下に説明をする。

表1において、能力と組織力の構成のトランスナショナル企業の特徴は「分散、相互依 存、専門化」とされているが、これは、能力や組織力は本社に集中させるのではなく、分 散させ、専門化を図ることにより、各組織が必要な能力を相互に補うということである。

これは高度に専門化した組織能力を発揮できる組織を世界各国に配置して能力を分散し、

自組織に備わっていない能力を他の地域の組織によって補ったり、反対に自組織の能力に 表1.マルチナショナル企業、トランスナショナル企業、インターナショナル企業、トランス

ナショナル企業の組織の特徴 組織の特徴 マルチナショナル

企業 グローバル企業 インターナショナ ル企業

トランスナショナ ル企業 能力と組織力の

構成

分散型

海外子会社は自立 している

中央集中型 グローバル規模

能力の中核部は中 央に集中させ他は 分散させる

分散、相互依存、

専門化

海外事業が果たす 役割

現地の好機を感じ 取って利用する

親会社の戦略を実 行する

親会社の能力を適 応させ活用する

海外の組織単位ご とに役割を分けて 世界的企業を統合 する

知識の開発と普及

各組織単位内で知 識を開発して保有 する

中央で知識を開発 して保有する

中央で知識を開発 し海外の組織単位 に移転する

共同で知識を開発 し、世界中で分か ち合う

ケーススタディ

ユニリーバ フィリップス

ITT

花王 松下 NEC

P&G GE エリクソン

出所:バートレット, C.A., & ゴシャール, S.著、吉原英樹監訳(1990)『地球市場時代の企業戦略―トランスナショ ナルマネジメントの構築―』p.88、表42に筆者が加筆したもの。

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よって相手の組織が必要としている能力を補ったりするという機能的相互扶助である。

次に、海外事業が果たす役割については、「海外の組織単位ごとに役割を分けて世界的 企業を統合する」と説明されている。これは、前述の分散および相互依存により役割分担 を図りつつ全体を統率するという「統合ネットワーク」というトランスナショナル組織の 核となる考え方を表している。

知識の開発と普及について、「共同で知識を開発し、世界で分かち合う」ということは

「複数イノベーションの同時管理」を行い、世界規模の学習(組織学習)を実現すること である。

このトランスナショナル企業の特徴である、統合ネットワークこそが、トランスナショ ナル組織であるための根幹であり世界規模の学習はトランスナショナル組織の強みでもあ る。以下で、この統合ネットワークについての詳細を説明する。

2.2 統合ネットワーク

Bartlett&Ghoshal(1989)は次のように統合ネットワークを説明している。「世界中 にある非常に専門化した組織単位を結び付けて統合ネットワークとし、効率、適応性、イ ノベーションという多次元の戦略課題を達成させる機構である。この機構の強みは、分散、

専門化、相互依存という基本的特性の中にある。つまり、統合ネットワークが築かれる ことにより知識やコアコンピタンス、スキルを多方向に移転させることができ、その流れ は、本国から子会社間のみならず、子会社同士、子会社から本国へという方向にも可能と なる。

統合ネットワークについては、以下の図1のように示される。

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さらに、Ghoshal & Bartlett(1999)は次のようにこのモデルを説明している。「こ の組織モデルは、企業が部門ごとに能力やノウハウを育て、知識や情報、経営資源の横方 向の流れを通じて、その分散した能力を結合させる。さらにこのモデルは信頼を醸成し、

その信頼が組織をまとめる接着剤としての役割を果たす。こういった組織は、企業に学習 能力を根付かせるのに必要不可欠な、二つの原則に基づいて作られている。その原則とは

『分散した専門的な活動と能力を基盤とした構造』、そして『相互依存を基盤とした組織間 の関係』である

「分散した専門的な活動と能力を基盤とした構造」と「相互依存を基盤とした組織間の 関係」は、既述のトランスナショナル組織の特徴で示されていたものと同様である。さら に補足的な説明を加えると、分散とは、組織能力が集中してしまうと国際環境では経済的 危機を招いてしまうため、事業を専門化させて幅広く組織能力の高いユニットを配置する 構造のことである。相互依存を基盤とした組織間の関係というのは、「協調的な情報の分 担や解決、能力の共有、共同体制による経営の実行」のある関係である。

統合ネットワークが築かれている状態というのは、たとえば戦略的提携やジョイントベ ンチャーに類似している。これは資源や能力が世界中に分散されていても、経営目標や経 営課題について発揮される力は世界規模で統合されるという、現地適応とグローバル統合 をバランスよく同時追及することが可能な組織のネットワークである。

統合ネットワークについては、Bartlett(1989)が「組織全体の統合ネットワークをすで に築いている企業は一社もないし、必要とされる包括的ネットワークを持っている企業も ない。しかしわれわれは、そうした組織構造は、企業が世界的経営基盤を築く枠組みとな ると考える」としており、国際経営を行う上で目ざすべき組織デザインであるというこ とを示している。

2.3 世界規模の学習(学習する組織・組織学習)

世界規模の学習とは、分散したユニットの組織能力を統合ネットワークにより連結する ことによって、イノベーション起こしたり、資源や能力がどこにあっても利用できるよう にしたりするというものである。

Bartlett(1989)は、イノベーションの子会社間の移転や、統合ネットワークを利用して イノベーションが生み出されることをトランスナショナル・イノベーションと表現してい る。別にラーニング・ネットワークやユニット間での相互学習という表現も用いている。

また、国際経営を行っている企業は、さまざまな環境上の刺激にさらされているため、組 織内の学習やイノベーションが国内経営よりも誘発されやすく、統合ネットワークはトラ ンスナショナル・イノベーションを促進する最も重要な条件だとしている。

Ghoshal(1999)においては、組織学習という表現を用いており、統合ネットワークの上

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に組織(組織構造に関してはどのような組織であっても関係はない)が構築されているよ うな企業で組織学習が可能であることを事例により示している。また、組織学習について 次のように説明ている。

統合ネットワークの構造は情報や知識が横にもスムーズに流れることを可能にしている 組織デザインであり、その素となる知識や情報は個人が担っている。そのため、個人の能 力・ノウハウを養成する必要があるが、そのためにはさらに人材の採用を戦略的意思決定 と考えることが必要である。統合ネットワークを築き実績を上げている企業の事例では、

最も効果的な『学習する組織』(ラーニングオーガナイゼーション)のトップ・マネジメ ントは、優秀な人材を確保するシステムを取り入れることに力を入れている。10

また、Ghoshal & Bartlett(1999)はそのケーススタディのなかで、組織横断的な情 報の流れ(統合ネットワーク)が重要で、具体的には、「個人的な人間関係に基づいた横 方向の情報チャネルを築き、専門的な知識を日常的に交換できるようにしなければなら 11」としている。また、学習する組織を作るうえで困難なのは、企業の中に新しい文化 を築き上げることであるとし、それは、信頼に基づく企業文化でなければならず、組織の 価値観を共有することが非常に重要であるとした。また、その価値観の共有にも統合ネッ トワークが重要であり、統合ネットワークは社員の能力を養成することによって創り上げ るべきであるとして、人的資源管理の重要性についても触れている。

国際経営研究においては、どうすればトランスナショナルマネジメントを有効に遂行で きるかということが最も難しい課題の一つとなっている。Bartlett&Ghoshal(1989)は、

「トランスナショナル企業としての特色を備えた組織力を開発するには、一貫した多大な 努力が必要である12」と主張している。それでは、次にトランスナショナルの構築と運営 について整理してみていきたい。

2.4 トランスナショナルマネジメントの構築と運営

トランスナショナルマネジメントの構築と運営については、分散と相互依存という一見 すると矛盾するような特徴を備えていることと、統合ネットワークを築くためにはこれま での一次限的な組織を多次元的なものにしていかなくてはならないことから、非常に困難 であることは予想に難くない。Bartlett&Ghoshal(1989)もトランスナショナルな組織 を築くためには、「組織が分裂するかもしれないというプレッシャーを避けて通るわけに はいかない13」と、その構築の難しさについて触れており、企業は独自の組織モデルを作 り上げる必要があることを述べている。

次の表2はトランスナショナルマネジメントの構築と運営について示したものである。

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2.4.1 多様な経営見通しと能力の正当化

多様な経営見通しということについて、Bartlett&Ghoshal(1989)は「経営パースペ クティブ」という言葉を用いて説明している。経営パースペクティブ(ここではそれぞれ のユニットの経営課題や経営視点・見通しを指す)では、組織力に地理的な課題を加えて、

見通し・組織力・地理的な課題の3方向のバランスを保つという考え方をしなければなら ないとされている。

能力を正当化するということについて、Bartlett & Ghoshal(1989)は「トランスナ ショナル企業は、複次元的な組織を開発して組織内の各グループの実行力と効果を維持し なければならない。ある特定の事業や機能、地域経営を引き立てるような偏りがあっては ならないし、会社側は、たとえ影響力に差があったとしても、それぞれのグループの経営 パースペクティブが現れるような意思決定のプロセスを採用しなければならない14」とし ている。

2.4.2 複数の柔軟な調整法の開発

統合ネットワークという新しい複次元的な組織を目指す場合、経営の見通しはますます 多様化し、複雑な調整が必要となる。既存の管理体制では負担が大きくなるため、洗練さ れた調整力が必要となる。企業は独自に自社に合った調整法を開発することが求められる。

調整能力は非常に貴重な資源であり、慎重に開発・配分されるべきである。調整プロセ スを管理し、調整能力を増強する必要がある。トランスナショナルな調整方法では、コン トロールすることからコミットメントすることへの変化が求められる。

2.4.3 共通のビジョンと個人的コミットメントを構築

Bartlett & Ghoshal(1989)は共通のビジョンと個人的コミットメントを構築するこ とに関して次のように述べられている。

表 2. トランスナショナルの構築と運営

戦略能力 組織の特徴 運営上の課題

グローバルな競争力 組織力、 能力は分散し相互 依存する

多様な経営見通しと能力を 正当化する

マルチナショナル的柔軟性 子会社の役割は分化し専門 化している

複数の柔軟な調整法を開発 する

世界的学習 知識を共同で開発し世界中 で分かち合う

共通のビジョンと個人的コ ミットメントを構築する 出所:バートレット, C.A., &ゴシャール, S.著、吉原英樹監訳(1990)『地球市場時代の企業戦略:トラン スナショナルマネジメントの構築』p.91、表43

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「トップ・マネジメントは社内のすべての人々が会社の全体目標にコミットする状態を つくりださなければならない。他の機構や制度がどんなに洗練されたものであっても、こ れにはさらに大きな統合効果がある。このようなコミットメントを作り出すためには、企 業の各個人が社の目的と価値を等しく理解し、最終目標に大筋で共鳴し、基本的戦略を受 け入れて消化していなければならない。本質的に企業は、総括的な経営精神を築いて、自 社独自の経済的目標を超えたところにあるさらに大きな使命に視点を置かねばならない。

トランスナショナルが求める規範的統合に欠かせない基本条件は、洗練された人材による 経営システムである。つまり企業は自社の社員が多様性と複雑さにうまく対処していける ように、新入社員を獲得して訓練し、育成し、出世の道を与えるというシステムを用いる ことになる15

この共通のビジョンと個人的コミットメントの構築は、トランスナショナルマネジメン トを行う経営者にとって、本質的な課題である。Bartlett & Ghoshal(1989)は、個々 の従業員という基本的なレベルで組織を統合する実践例として、ケーススタディからさま ざまな取り組みを紹介し、具体的に明記している。そして、それらを実行するためにはマ ネジャーを経営に取り込み、コミットメントによる結合を図らなければならないとしてい る。

2.5 マネジャーの役割

Bartlett & Ghoshal(1989)は、統合ネットワークの構築にはマネジャーの役割が非 常に重要であり、マネジメントの方針をコントロールからコミットメントへと変化させる こと、すなわち、トランスナショナル型調整方法をとることが必要であると述べている。

「トップ・マネジメントは社員一人一人が良く理解できない組織システムに服従させるの ではなく、彼らを対等の存在として認め、企業理念を共有させるような経営精神を組織全 体に開発することができる。16」と述べ、さらに、共通の理念を確立させるためには目標 の明快性、持続性、一貫性が重要であり、目標の確立だけではなく、それを理解し受容す る各人の理解力と受容力が必要であるとした。トランスナショナル組織の核である統合ネッ トワークを実際に築き上げるには、洗練された人材が必要であるとしているところから、

当該研究の考察が人的資源管理論へと発展していることがわかる。

3.トランスナショナルマネジメントの意義と本質

以上でみてきたように、トランスナショナル組織というのは企業の構造的形態というよ りも、経営精神や企業コンセプト、経営哲学に近いものである。知識と能力をグローバル に共有し、それをイノベーションにつなげることが企業の競争優位を生む。それを実現す るための組織のデザインが統合ネットワークなのである。

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トランスナショナルマネジメントの意義はそれまでの国際経営における組織分析に関す る研究が企業の構造的な側面に焦点を置いたものであったのに対し、組織間に相互横断的 な流れを作り、組織全体を有機的に結びつけている状態を統合ネットワークと呼び、組織 が目ざすべき組織デザインを示したことにある。

また、その本質は、統合ネットワークを築くことにより、各ユニットの資源と能力を最 大限に引き出し、イノベーションを構築する戦略である。そこでは各ユニットの横断的な 流れを作る仕組みが重要になる。個人が知識を獲得し、その能力を発揮できるよう、それ に必要な情報や人材と結び付け、人材の能力を最も効果的に利用できる組織デザインがト ランスナショナル組織(統合ネットワーク)である。

トランスナショナルマネジメントの考え方が提唱された後の国際経営研究の流れについ ては、統合ネットワーク構築に必要な人的資源管理に目を向け、個人の能力を最大限に引 き出す組織デザインを持つ企業について述べた『個を活かす企業―自己変革を続ける組織 の条件』に示されている。

今日、企業経営活動は国際経営も含めたあらゆる側面で過酷な競争にさらされ、つねに 価値創造(イノベーション)の必要に迫られている。統合ネットワークを基盤として学習 した成果からイノベーションを生み出し、競争優位性を発揮するという、トランスナショ ナル組織の概念は、そういった状況を生き残ろうとしている企業に非常に重要な示唆を与 えるものである。

4.個を活かす企業-自己変革を続ける組織の条件-

Ghoshal & Bartlett(1999)は6年間にわたり、20社を超える企業のマネジャーを観 察し、企業経営が自分たちの考える新しい企業モデルに移行しつつあることを確認した。

トランスナショナルマネジメントを編み出したGhoshal & Bartlett(1999)の研究の 焦点は、トランスナショナル組織(統合ネットワークという理想的な組織デザインの提示)

→組織変革(統合ネットワークの構築)→経営者の役割と義務→個人のスキルと能力の開 発と、段階的に変化している。そこでは直接トランスナショナルという言葉は用いられて いないが、トランスナショナル組織の核となる統合ネットワークの概念は彼らの後の研究 に受け継がれている。同序文にはGhoshalが語ったとされる次のような言葉がある。「

『地球市場時代の企業戦略』は世の奥さんたちに、『個を活かす企業』は母親たちに献呈し た。次は子供たちの番だ。我々の子供たちに、最高の事業経営ができる力の感覚を与える ようなものを書こう17。トランスナショナルの統合ネットワークの考え方を中心に据え、

よりよい競争優位性を示すための研究が続けられていたことが伺える。

Ghoshal & Bartlett(1999)では、世界の企業経営は、グローバル競争の進展により、

組織階層の再編が迫られるなかで、「組織の中の個」から脱出して「個を活かす組織」の

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理念に基づいて実践されなくてはならないと述べている。そのためには、従業員の一人一 人が起業家精神を持ち、統合ネットワークを基にした横のつながりを重視した組織を形成 していかねばならない。組織は個人の潜在能力を信じてそれを引き出し、彼らの能力を縦 横に結び付け、新たな価値創造を行わなければならない。そのためには、各従業員が洗練 された専門能力を有した個であることが求められる。企業は教育現場であり、個人の能力 開発のためには投資が必要で、投資を行うことにより、人的資源としての価値の向上とと もに、組織に対する忠誠心の醸成も図られる。

個を活かす企業とは、社員が変わらなければ組織は変わらないという考え方に立ち、個 人の能力開発を行い、組織構成員の間で包括的な目的やビジョンが共有され、相互信頼に 基づいた自己規律が徹底される組織である。Ghoshal & Bartlett(1999)の中では、従 来の組織から自己変革型の個を活かす企業へと変わる道のりは長く、痛みを伴うものとし て、その様子を毛虫が蝶に羽化する姿になぞらえている。

また、個を活かす企業とは、会社と個人の間に新たな関係をもたらすものであり、企業 は価値創造者として社会に貢献しなければならないとしている。また、企業は従来の雇用 契約ではなく、新しい道徳契約として各個人のエンプロイアビリティ(雇用されるための 能力)を各個人に約束しなければならいとした。これは、単純な雇用保障ではなく、市場 成果による雇用の保証であるため、持続性があるとした。

5.国際経営における組織モデルの変遷

Bartlett & Ghoshal(1989)、Ghoshal & Bartlett(1999)の二つの書籍の整理だけ でも、トランスナショナル組織(理想の組織デザインとしての統合ネットワークの発見)

→組織変革(統合ネットワークの構築)→人的資源管理(統合ネットワークを築くための 人への投資)へと経営の競争優位の源泉が移行していることを読み取ることができる。

統合ネットワークという各企業間を結ぶ組織ネットワークという概念が導き出される前 の国際経営における組織的な分析研究は、組織の構造的な側面についての研究であった。

組織の構造的な側面から実証的に研究が行われている研究については、ストップフォード とウェルズによる「国際的組織機構の段階モデル」(1972)が代表として挙げられる。ス トップフォードとウェルズによる国際的組織機構のモデルは以下の図2のようである。

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Stopford & Wells(1972)は多国籍企業を実際に調査することにより、国際経営戦略 によって、組織構造が選択されることを明らかにした。すなわち、多国籍企業はその国際 化の初期段階では、国際事業部で国際経営を行うが、その後は、海外向け製品の多角化戦 略をとる場合は世界的製品別事業部制をとって海外事業を多角化せず、海外売り上げを伸 ばす戦略をとる場合には地域別事業部制へ発展する、ということである。彼らはまた、多 国籍企業はやがて製品数が増加し販売高が上昇してゆけば、その組織構造は最終的にグロー バル・マトリックス組織に変化する傾向にあることを明らかにした。

その後、Brooke &Remmers(1970)による、多国籍企業の類型や、多国籍企業の発 展段階を示すGalbraith&Nathanson(1978)の研究も行われたが、持続可能な競争優位 性を持つ組織のデザインという点では大きな発展はみられなかった。

組織デザインが単なる組織構造から統合的なネットワークに進化したのは、今回整理を おこなったトランスナショナルマネジメントやメタナショナルマネジメント18に関する研 究においてである。類似する研究成果としては、Hedlund. G(1986)によるへテラーキー モデルやPrahalad&Doz(1987)によるマルティフォーカルモデルなどが挙げられる。

そして、近年出現したBGCが短期間で国際化を成し遂げる原因を考察すると、そこに 組織デザインの変化を見出すことができる。

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以下にBGCについて簡単に説明する。

BGCの定義については、各研究により様々な定義づけがなされているが、Oviatt &

McDougall(1994)は「創業時から複数の国で資源を利用して製品を販売することによ り相当な競争優位性を発揮しようとする企業」と定義している。また、日本のBGCにつ いての研究の第一人者である中村(2008)はその定義を「創業と同時にあるいはその後 2・3 年内に国際事業を展開するベンチャー・ビジネスまたは中小企業19」としている。

総務省は「グローバルICT産業の構造変化及び将来展望等に関する調査研究」(2015)

で次のように述べている。「ボーングローバル企業とは、ベンチャー・中小企業、ハイテ クスタートアップ、グローバル企業の3つの要素が組み合わさることによって、起業後間 もない国際的な事業活動が開始できる。また、これまでの国際経営研究における国際化プ ロセスでは蓄積できなかった持続可能な優位性を有するものと考えられる。20

BGCやベンチャー企業、ハイテクスタートアップはグローバルマトリクスに類似した 組織からスタートしたり、国際事業部や地域別事業部制、フラットな機能別組織など、さ まざまな組織構造をとったりしている。また、ネットワークの構築には、ジョイントベン チャーやアウトソーシングなど外部のネットワークを活用している。つまりこれまでの国 際経営の組織的デザインでは、企業内の別ユニットとのネットワークしかなかったのに対 し、外部企業との統合的なネットワークを築くことにより、その競争優位性を発揮してい るということがわかる。

BGCには全世界でビジネスパートナーを探すことができる外部ネットワークとも呼べ る環境(ジョイントベンチャーやアウトソーシング、企業同士のマッチング、ICTの発展、

各支援施策等)を活用する能力が求められる。BGCにおける人的資源管理の在り方を考 察することにより、また統合ネットワークに匹敵するような新たな示唆が得られるのでは ないだろうか。

結び

本稿では、国際経営の視点から競争優位の源泉は何かを考察するという目的から、組織 デザインに注目し、Bartlett& Ghoshalのトランスナショナルマネジメントの研究につい て整理を行った。

Bartlett& Ghoshalの研究はそれまでの国際経営における組織的構造分析研究とは異な り、統合ネットワークという組織間の横断的な関係を築くことにより競争優位性が発揮で きることを主張していた。また、彼らの『個を活かす経営』についての整理も併せて行っ たことで、トランスナショナルマネジメント(理想の組織デザインとしての統合ネットワー クの提示)→組織再編(統合ネットワークの構築)→人的資源管理(統合ネットワークを 築くための人への投資)という、トランスナショナルマネジメントの考え方から派生した

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経営戦略を把握することができた。

トランスナショナルマネジメントと個を活かす経営は、一貫して統合ネットワークが核 となっており、統合ネットワークはグローバルに情報や知識を共有・活用し、価値創造を 行うのに優れた促進効果を発揮する組織デザインであることが理解できた。このことから、

現代のグローバル化時代において、構築された統合ネットワークは企業の競争優位の源泉 となり得ると考え、今後の研究における考察の枠組みとしていきたい。

その他、国際経営における組織デザイン研究の変遷として、組織構造に関する研究から、

組織のネットワークを活かす議論への変化が把握でき、外部企業との統合ネットワークの 構築という新しい視座を導き出せたことに、本稿の意義があるのではないかと考える。

この外部企業との統合ネットワークについて、今後、具体的な検証の方法として、BG Cにおいてグローバルマネジャーなどから長期的コミットメントが得られるような仕組み が構築されているか、個人の能力を引き出せるような人材教育への投資が図られているか、

また、外部ネットワークを築く際にどのように信頼関係を築いているのかなど、様々な視 点から実証的な研究を行っていきたい。

さらなる考察の対象としては、組織学習の研究からのアプローチや、類似する先行研究

(ダイナミックケイパビリティやO'Relly and Tushmanの両利きの組織体制)などがあ り、今後体系的に整理をしながらどのように理論を構築していくかを検討する必要がある。

【注】

1 以降、本稿においてBartlett & Ghoshal1989"Managing Across Borders: The Transnational Solution"を引用する際は、吉原英樹監訳『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナルマネジメン トの構築―』(日本経済新聞社, 1990)の日本語訳を用いる。

2 以降、本稿においてGhoshal & Bartlett(1999)"The Individualized Corporation: Fundamentally New Approach to Management"を引用する際は、グロービス・マネジメント・インスティテュート 訳『個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件―』(ダイヤモンド社, 1999)の日本語訳を用いる。

3 ゴシャール, S., & ウエストニー, D. E.,江夏賢一(監訳)IBIビジネスセンター(訳)『組織理論と 多国籍企業』(文眞堂, 1998)の「日本語版の発刊に寄せて」にも、「本書(原著1993年)が出版され てからこの方、多国籍企業を組織理論の観点から分析した研究面では、それほど顕著な進展は見られ なかった、というのが偽らざるところである」と述べられている。国際経営はまた、戦略論や人的資 源管理論などとともに研究されることが多い。

4『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナル・マネジメントの構築―』p.-Ⅲ。

5 前掲書p.89。

6 前掲書p.119

7『個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件』p.109-110。

8 前掲書p.124

9『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナル・マネジメントの構築―』.p.124。

10『個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件―』p.82-83を参照。

11 前掲書p.90。

(14)

12『地球市場時代の企業戦略―トランスナショナルマネジメントの構築―』p.77-78

13 前掲書p.95。

14 前掲書p.92

15 前掲書p.96。

16 前掲書p.239

17『個を活かす企業―自己変革を続ける組織の条件―』p.ⅷ

18 メタナショナルとは、Doz, Santos & Williamson(2001)『From Global to Metanational: How Companies Win in the Knowledge Economy』において、提示された概念である。本社(本国)の みならず、世界規模で協力体制を築き、世界各地のナレッジ(知識・智慧・情報)を結合することに よって価値創造を行い、競争優位を確保する戦略である。

19 中村久人(2013)『ボーングローバル企業(BGC)の早期国際化プロセスと持続的競争優位性』(東洋 大学経営学部・経営論集 (81) 1-14 p.1

20「平成27年版 情報通信白書 第2部 ICTが拓く未来社会」p.300-301。

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参照

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