九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
母娘関係イメージとエゴグラムからみた女子大学生 の自己像・母親像
川辺, 裕佳
九州大学大学院人間環境学府
高倉, 那々実
九州大学大学院人間環境学府
古賀, 聡
九州大学大学院人間環境学研究院
https://doi.org/10.15017/4774164
出版情報:九州大学総合臨床心理研究. 12, pp.55-61, 2021-03-15. 九州大学大学院人間環境学府附属総 合臨床心理センター
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Ⅰ 問題と目的
青年期後期の親子関係のなかでも母娘関係は,依存的な親密 性の高さが見られ,距離の近さが指摘される(水本,2018)。そ の一方で,娘が母親との関係の親密性と自立の間に葛藤を生じ ること(水本,2016)や,母親との共依存関係が娘の心理的適 応に影響すること(藤田・岡本,2009)など,母娘関係は心理 臨床場面でも注目される。当事者である娘は優しく包み込んで くれる母親を理想とするも,母親に依存し自立できなくならな いよう一定の距離を保ちながらもお互いを支え合うという関係 を望んでおり(市東,2018),母親との関係を適度に保つことは 青年期後期の娘にとって重要な課題であると考える。藤田・岡 本(2010)は,母親を肯定的に捉える娘は母親との相互交流が 多く,中には母子未分離な面を有する者もいる一方で,否定的 に捉える娘は母親に対して過去に葛藤や対立を経験した者や,
母親の干渉・支配的な関わりに不満を抱いている者が多く早期 に分離している事例を報告した。このことから,母親に対する 評価が母親との関係性に関連していると言える。また,斎藤
(2008)が青年期の娘と母親の関係を論じたなかで,青年期の発 達課題であるアイデンティティ形成に母親との同一化・差異化 が必要であると述べていることから,青年期女子は自己と母親 の人物像を比較し理解していく必要があると考えられる。これ らのことから,青年期の娘と母親の関係を考えていく上で,娘 が母親をどのように理解しているのかについて着目することは 重要である。また,青年期は親から自立する時期とされるが,
大学生は経済的に依存しており親から完全に自立していると言 えない時期であるため,自立に向けて親との関係や親について 理解することは重要であると考える。本研究では女子大学生で ある娘が,母親との関係や母親をどのように理解しているのか 着目する。
筆者らは,他者という人物を理解することと,自分と他者と いう関係性を理解することは異なるものであると考える。篠原
(2012)は,両親に葛藤を抱く青年期女子との面接において,ク ライエントが自分と母親が別人格であると自覚し母親を客観視 できたことで,自己理解と母親理解が進んだことを報告した。
それにしたがって当初抱いていた嫌悪的な母親像が親和的なイ メージに転換したことも合わせて報告し,自己理解と母親理解 が母親との関係性の検討と再構築に寄与したと考察した(篠原,
2012)。この事例から,母親を理解することとその関係の中にあ る自分を理解していくことが関係性の理解を促したと考えられ る。しかしながら,関係性の理解において,当事者である自己 と相手を理解することに関連があるのか不明瞭である。そこで,
本研究では自己と母親への理解を深めることが,母娘関係の理 解に影響があるかを検討する。
自己理解と母親理解を促す方法として本研究では,東大式エ ゴグラム第 2 版(以下,TEGⅡ)に着目した。TEGⅡは,臨 床場面でよく用いられる心理検査で,交流分析理論に基づいた 5 つの自我状態を把握することが出来る質問紙である。具体的 な行動と外的な態度という本人が意識化出来る内容で質問項目 は構成されている。また,結果を可視化でき,自身が回答した ものであるため納得しやすいという特徴から,フィードバック を行い支援に活用される(平出ら,2018)。そして,本来の用い 方とは異なるが,他者について回答を行いフィードバックする ことで,他者理解の手がかりとして援助的活用も可能である(吉 岡,2001)。TEGⅡの他者評価は,親子など長期に生活を共有 する関係では意味を持つとされ,司法領域では関係調整や相互 理解のために活用される(東京大学医学部心療内科TEG研究会,
2018)。そのため,対象者にとって母親への回答も取り組みやす く,対象者が理解している人物像が結果に反映されるため結果 も理解しやすいと考えられる。
次に,母娘関係を捉える方法として円環イメージ画に着目し た。自分と母親に見立てた 2 つの円の大きさ,位置,包接の描 かれ方から母親の存在の大きさ,関係性やつながりの深さを捉 えることが出来る投影的手法である。松尾・小川(1999)は,
円という抽象度の高いモチーフを用いるからこそ対象者にとっ ての母親の存在や関係のイメージが 2 つの円の描かれ方に表わ れると述べた。また,投影的手法で母子関係イメージを捉える ことは母子間の雰囲気という関係のニュアンスも反映される(松 尾・小川,1999)。本研究では,娘が認識する母娘関係を捉える ため,関係に対する感情的側面も含めて扱うことのできる円環 イメージ画を用いることとした。
以上より,本研究では,女子大学生を対象にエゴグラムの結果 のフィードバックを行い,その前後で円環イメージ画を実施する。
自己像と母親像へ理解を深めることが,母親との関係イメージに どのような影響を与えるのか事例的に検証することを目的とする。
母娘関係イメージとエゴグラムからみた女子大学生の自己像・母親像
川辺裕佳
九州大学大学院人間環境学府/高倉那々実
九州大学大学院人間環境学府/古賀 聡
九州大学大学院人間環境学研究院要約
本研究は,女子大学生が,自己像と母親像へ理解を深めることが母親との関係イメージにどのような影響を与えるのか検証することを目 的とし,調査を行った。 5 名の女子大学生を対象に,自分と母親について回答したエゴグラムの結果のフィードバックを行い,その前後に て円環イメージ画の描画を実施した。その結果, 1 回目と 2 回目の円環イメージ画で,描画に変化があった者となかった者がみられた。各 事例を検討するなかで,エゴグラムのフィードバックを行うことは対象者が自己像と母親像の捉え方への再確認や気づきを得る機会となり,
この機会が自己像と母親像への理解を深めたと考えられた。また,円環イメージ画を描くことは,母親との関係性を視覚化し俯瞰的に見る 機会になったと考えられた。エゴグラムのフィードバックを通じて自己像と母親像の捉え方に対する理解を深めた上で円環イメージ画を実 施したことで,対象者が母親との関係を多面的に理解していくことが可能となった。
キーワード:母娘関係,関係理解,人物像,エゴグラム
九州大学総合臨床心理研究 第12巻 2020
Ⅱ 方法 1 .調査対象者
X年12月に,A県内 4 年制大学の女子大学生 5 名に調査を行っ た。講義前の時間やSNSにて協力者を募り,調査への同意を得 られた者を対象者とした。
2 .調査手続き(図 1 )
調査は, 1 人につき 2 回に分けて実施した。 1 回目の調査は,
まず〔①調査に関する説明・承諾〕を行い,研究の目的と心理 検査を用いること,結果のフィードバックを行うこと,倫理事 項等の説明を行った。〔②円環イメージ画の描画〕では,対象者 にA 4 の白紙とコンパスを渡し,「今からあなたとお母さんをイ メージして 2 つの円で描いてください。」と教示を伝えた。突 然の描画課題の提示に対象者が混乱しないよう,20個の円環パ ターンが一覧で描かれた紙を提示し「円の描き方はこのように 様々あり描き方に良し悪しはありません。自分自身とお母さん についてイメージされた通りに描いてください。」と例を示し描 画を求めた。描画後,円のどちらが自分か母親であるか示すよ う求めた。その後,描画についてのコメントの記入を求めた。〔③ TEGⅡの実施〕では,対象者自身への回答を求めたのちに,母 親への回答を求めた。〔④感想の記入〕では,調査に関して自由 記述形式で感想の回答を求めた。
2 回目は,調査の流れと再度フィードバックを行うことを確 認し開始した。〔⑤エゴグラムの説明〕では,エゴグラムの概要 や各尺度の説明を記載した紙を対象者に渡し,説明を行った。〔⑥ 結果のフィードバック〕では,調査として心理検査のフィード バックを行うため,対象者に対し診断的・治療的な側面が働か ないよう十分配慮する必要があると考えた。そのため,調査者 から結果に対する言及や指摘は行わず,対象者が自ら結果を確 認するように促した。この際,対象者から結果の見方について 質問があった場合は,〔⑤エゴグラムの説明〕で渡した紙を用い て説明を行った。フィードバックでは,先に対象者自身のエゴ グラムを返却し対象者が結果を確認する時間を設けた。次に,
母親のエゴグラムを返却し結果を確認する時間をとった後,対
象者と母親のエゴグラムを並べて確認する時間を設けた。その後,
〔⑦円環イメージ画の描画〕では,対象者に紙とコンパスを渡し
「もう一度ご自身とお母さんをイメージして 2 つの円で描いてく ださい。」と教示を伝え, 1 回目と同じ手順で描画とコメントを 求めた。〔⑧感想の記入〕では,自由記述形式で感想の回答を求 めた。
3 .分析方法
円環イメージ画は松尾・小川(1998)の分類基準である円の 関係性(図 2 ),位置関係(図 3 ),大きさの比という点から検 討を行った。エゴグラムの結果は,パーセンタイル値に基づき
5 段階にコード分類し,パターン分類を行った。
4 .倫理的配慮
調査依頼時と調査実施前に,対象者に対して調査の目的と内容,
データの取り扱い方,同意撤回の自由等の説明を書面と口頭に て行った。そして,書面にて同意を得た者を対象に調査を開始 した。また,エゴグラムの結果のフィードバックは事前に臨床 心理士有資格者から結果のフィードバックや説明の仕方に関し て指導を受け,臨床心理学を専攻する大学院生と練習を行った のちに開始した。エゴグラムの結果に偏りがある者,調査者が 結果の見方に悩む者,調査 1 回目の感想において調査に関する 不安や母親に対するネガティブなコメントの記入があった者の フィードバックを行う前は,臨床心理士有資格者に相談をし,
説明時の表現や調査者の態度について助言を得た。本研究は,
筆者らの所属する大学の倫理委員会の許可を得て実施した。
Ⅲ 結果
以下,対象者ごとに描画した円環イメージ画,その際に記述 した円環イメージ画のコメント,エゴグラムの結果,フィード バック後の感想を提示する。
1.A氏(大学 1 年生/19歳)
( 1 )円環イメージ画の結果 (図 4 ): 1 回目は,関係性が<交
図1.調査実施の手順
図2.円の関係性の分類(松尾・小川,1998を基に作成) 図4.A氏の円環イメージ画
図3.円の位置の分類 (松尾・小川,1998を基に作成)
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錯>,位置が[横],A氏を表す左円より母親を表す右円を大き く描いた。 2 回目は,A氏を表す左円と母親を表す右円を同じ 大きさで描いた。関係性と位置は, 1 回目と同じであった。
( 2 )円環イメージ画のコメント: 1 回目の描画後は,「人柄の 面や家事のスキル,人生経験などどの面においても母の方がす ごくて自分の中で大きな存在なので大きな円で表しました。母 から大きな影響を受けているので私の円の半分くらいに重ねて います。」と記した。 2 回目の描画後は,「TEGを受けて,自分 と母はよく似ている部分がある一方で違う部分もちゃんとある ことに気づけました。前回同じように描いたときには,母への リスペクトを前面に表現していたけど,母にも子供っぽい部分 や頑固すぎる一面があったことを思い出したので同じサイズの 円にしました。」と記した。
( 3 ) エ ゴ グ ラ ム の 結 果( 図 5 ): A 氏 の 結 果 は,CP= 8 , NP=20,A=10,FC=16,AC=20であり,N型Ⅰのエゴグラム が考えられた。したがって,A氏の自己像は他者に共感的で協 調性に富むが自己犠牲的な面もあることが推測された。また,
A氏が回答した母親の結果は,CP=10,NP=20,A=13,FC=20,
AC= 8 であり,M型のエゴグラムが考えられた。したがって,
A氏の母親像は他者に共感的な関わりをする一方,天真爛漫に 衝動的な行動をすることが推測された。
( 4 )エゴグラム・フィードバック後の感想:「 1 回目に描いた ときに,今離れて住んでいることもあって良い部分やすごいと 思う部分だけをイメージしていたけど,エゴグラムの結果から そうでない部分もあったことを思い出しました。NPが高い点で 一致しているのは納得しました。FCやACに関しては自分にあっ て母にはない部分や母にあって自分にはない部分があることを 感じました。」と記した。
2 .B氏(大学 4 年生/22歳)
( 1 )円環イメージ画の結果 (図 6 ): 1 回目は,関係性が<分 離>,位置が[横],B氏を表す左円より母親を表す右円を大き く描いた。 2 回目は,関係性が<交錯>,位置は[斜め下]であっ た。円の大きさの比は, 1 回目と同じくB氏を表す右円より母 親を表す左円を大きく描いた。
( 2 )円環イメージ画のコメント: 1 回目の描画後は,「母の方 が経験も年齢も上回るという意味で大きな丸。でも私も大人に なって考え方等,母のことが分かるようになってきたので円の 中心は同じ横一直線上に。くっつかず遠すぎず適度な距離感」
と記した。 2 回目の描画後は,「母のNPが最高値だったことを 受けて,私が気付いている/認識している以上に,きっと母親 から守られている部分/母親に育ててもらった部分があるんだ ろうなと思った。守られているという意味で私の円を母の円に かぶせた。私のはみ出している部分は,母で低く私で少し高かっ た“FC”の部分を表している。母に守られながらも,外の世界に チャレンジしにいっているという意味で」と記した。
( 3 ) エ ゴ グ ラ ム の 結 果( 図 7 ):B氏 の 結 果 は,CP= 8 , NP=14,A= 6 ,FC=12,AC=14であり平坦型のエゴグラムが 考えられた。したがって,B氏の自己像はバランス感覚が取れ ており心身や社会面での適応性や健康度が適度であることが推 測 さ れ た。 ま た,B氏 が 回 答 し た 母 親 の 結 果 は,CP= 4 , NP=20,A= 8 ,FC= 6 ,AC=14であり,NP優位型のエゴグラ ムが考えられた。したがって,B氏の母親像は友好的で他者肯 定の側面が強いことが推測された。
( 4 )エゴグラム・フィードバック後の感想:「納得する部分が 多かったです。私と母とけっこう似た回答をしたと思っていた のですが,違いがちゃんと表れていておもしろかったです」と 記した。
図7.B氏の回答したエゴグラム 図5.A氏の回答したエゴグラム
図6.B氏の円環イメージ画
九州大学総合臨床心理研究 第12巻 2020
3 .C氏(大学 2 年生/20歳)
( 1 )円環イメージ画の結果 (図 8 ): 1 回目は,関係性が<分 離>,位置が[斜め], C氏を表す右円より母親を表す左円を大 きく描いた。 2 回目は,位置が[横]であった。B氏を表す右 円と母親を表す左円の大きさの比と関係性は, 1 回目と同じで あった。
( 2 )円環イメージ画のコメント: 1 回目の描画後は,「母のこ とは嫌いではないと思っている。一方で,母の離れて住んでいて 成人もしている娘に過干渉気味なところや私よりは子どもっぽ い?無邪気な?一面も併せ持つところが嫌だったり私自身親に対 して素直になり切れない時期でもあったりして母にすごく嫌悪感 を覚え避けてしまう。ただやっぱり私自身本当に困った時は母を 頼りにするし,段々似てきたなと思うこともあって母の影響は大 きいと感じるのでこの円の距離感にした。」と記した。 2 回目の 描画後は,「以前と変わらない気持ちで描いた。同一直線上にお いたのはTEGの結果を見たからで,似ていないところが逆に親子,
私たちの関係をよく表していると思ったから。ただ私が少し距離 を置いているので中心から離れている。」と記した。
( 3 ) エ ゴ グ ラ ム の 結 果( 図 9 ):C氏 の 結 果 は,CP= 9 , NP=20,A=12,FC=13,AC=19であり,N型Ⅰのエゴグラム が考えられた。したがって,C氏の自己像は他者優先の振る舞 いが多く遠慮の強い行動をとりやすいことが推測された。また,
C氏が回答した母親の結果は,CP=20,NP=14,A=11,FC=18,
AC= 2 であり,CP優位型のエゴグラムが考えられた。したがっ
て,C氏の母親像は他者否定の構えがあり衝動的な行動をする ことが推測された。
( 4 )エゴグラム・フィードバック後の感想:「TEGの結果が対 照的であったので,逆に因縁というか切っても切れない親子の 縁を感じた。普段の実感や前回回答しているときの感じから対 照的になりそうだとは予想していたが想像以上にはっきりと正 負が逆に出ていて面白かった。」と記した。
4.D氏(大学 3 年生/21歳)
( 1 )円環イメージ画の結果 (図10): 1 回目は,関係性が<交 錯>,位置が[横],D氏を表す左円と母親を表す右円は同じ大 きさで描いた。 2 回目の円の関係性,位置,D氏を表す左円と 母親を表す右円の大きさの比は, 1 回目と同じであった。
( 2 )円環イメージ画のコメント: 1 回目の描画後は,「まだま だ母に頼っている部分もあるが,一応自分も 1 人の大人として 母と対等な感じになったという想いで同じ大きさの円にしまし た。母子家庭で育ったということもあり特別な存在なのでつな がりを表すために円を少しだけくっつけました。今までは母の 考えがすべてみたいなところがあったけど,自分自身の考え方 が出来るようになったなと言うのを描きながら考えました。」と 記した。 2 回目の描画後は,「前回は,自立した大人同士で,つ ながりはあるというのを表現しようと思った。今回は,エゴグ ラムを見て母から受け継いだもの,似ているところはあるけれ どそれぞれ違うものを持った一人一人の人間ということを表そ うと思いました。前回と書いたものは同じだけど思いは少し違
図9.C氏の回答したエゴグラム 図11.D氏の回答したエゴグラム 図8.C氏の円環イメージ画 図10.D氏の円環イメージ画 58
うものになりました。唯一,対等な存在という思いは変わらな かったと思います。」と記した。
( 3 ) エ ゴ グ ラ ム の 結 果( 図11):D氏 の 結 果 は,CP=13,
NP=20,A=17,FC=12,AC=13であり,NP優位型のエゴグラ ムが考えられた。したがって,D氏の自己像は他者へ非常に共 感的である一方,合理的で冷静沈着な面もあることが推測され た。また,D氏が回答した母親の結果は,CP=18,NP=20,
A=11,FC=20,AC=0であり,M型のエゴグラムが考えられた。
したがって,D氏の母親像は他者に共感的な関わりをする一方 自己中心的で協調性を欠く面もあることが推測された。
( 4 )エゴグラム・フィードバック後の感想:「まさに 2 人とも 自分のイメージ通りだという感じがしました。NPが高いのは共 通して持っていると思うし,母はFCが高いという結果にすご く納得がいきます。」と記した。
5 .E氏(大学 4 年生/22歳)
(1)円環イメージ画の結果 (図12):1回目は,関係性が<外 接>,位置が[横],E氏を表す左円より母親を表す右円を大き く描いた。 2 回目の円の関係性,位置,E氏を表す左円と母親 を表す右円の大きさの比は,1回目と同じであった。
( 2 )円環イメージ画のコメント:1回目の描画後は,「母を尊 敬しているし,信頼している。母は私にとって一緒にいると安 心できる存在。そこまで日常的に母に依存している訳でもないが,
困ったことや自分ではどうしようもないことなどは真っ先に母 に助けを求めるだろう。そう思っている反面母と全く同じよう に生きたいとも思っていない。」と記した。 2 回目の描画後は,
「私は母の言うことを信じている。母は私よりもしっかりしてい て,小さいときから母みたいにしっかりしなくちゃいけないと 思っている。母に憧れはありつつも自分の人生は自分のものだ から母と同じでなくていいと思っている。心の中では親離れし きれていない部分があるのかも。1回目とあまり形自体は変わ らなかったが,母に頼っていたい部分と干渉されたくない部分 が自分の中に両立しているのを感じた。」と記した。
( 3 ) エ ゴ グ ラ ム の 結 果( 図13):E氏 の 結 果 は,CP= 8 , NP=17,A=13,FC= 2 ,AC=17であり,FC低位型のエゴグラ ムが考えられた。したがって,E氏の自己像は自己主張が少な く他者に遠慮がちであることが推測された。また,E氏が回答 した母親の結果は,CP=20,NP=15,A=17,FC= 9 ,AC= 2 で あり,CP優位型のエゴグラムが考えられた。したがって,E氏 の母親像は理知的であるが支配的な面も強いことが推測された。
( 4 )エゴグラム・フィードバック後の感想:「自分と母は全然 違うものとして自分がイメージしていたんだなと改めて思いま した。母のCPが高くて自分はACのスコアが高かったので,あ
まり意識はしていませんでしたが厳しいイメージを母に対して 持っていたんだなと思いました。」と記した。
Ⅳ 考察
1 .円環イメージ画の変化について
本研究では,自己像と母親像へ理解を深めることが,母親と の関係イメージにどのような影響を与えるのか事例的に検証す ることを目的として調査を行った。その結果,円環イメージ画 の 1 回目と 2 回目で異なる描画をした者と同様に描いた者がい た。また,円環イメージ画のコメントには描画への説明や母親 に対する想いに関する記述がみられ,フィードバックの感想に は対象者がフィードバックで感じたことや考えたことに関する 記述がみられた。各事例の円環イメージ画を比較し,検討を行う。
A氏,B氏,C氏は,円環イメージ画に変化があった事例で ある。まずA氏について, 1 回目の描画では,A氏が母親の存 在と影響を大きいと感じており,母親を強く尊敬していること が考えられた。そして 2 回目の描画では,「母にも子どもっぽ い部分や頑固すぎる一面があったことを思い出した」ことから 円を変化させたと言及しており,A氏はフィードバックにおい て母親と違いのあったFC得点に着目をしたと推測される。そ こでA氏の母親像が「良い部分」「すごいと思う部分」だけで はなく「そうでない部分」もある母親像に変化したと考えられる。
松尾・小川(2000)は,円の大きさが等しいこと・横並びであ ることは親と対等であるという意識を示すと述べており,A氏 の 2 回目の円環イメージ画はこの特徴を備えている。A氏が母 親の完璧ではない部分に着目し母親像が変化したことが,円環 イメージ画の変化につながったと考えられる。
次にB氏について, 1 回目の描画では,B氏は母親を自分よ り上回る存在と感じる一方,成長したことで母親を理解できる ようになったことに言及した。そして,B氏が近すぎない母親 との距離を適度と感じていると考えられた。 2 回目の円環イ メージ画のコメントから,B氏はフィードバックにおいて母親 のNP得点に着目したことで,「母親から守られている」「育て
図13.E氏の回答したエゴグラム 図12.E氏の円環イメージ画
九州大学総合臨床心理研究 第12巻 2020
てもらった」ということが意識されたと考えられる。また,B 氏はFC得点の差に着目したことで,母親の安全基地のような 働きがB氏の成長の背景にあると気づきを得たと考えられる。
松尾・小川(2000)は,交錯の円について,重なりは母親に依 存している部分で重なっていない部分は自分を表すという子ど もの独自性が意識された円であると述べている。したがって,
B氏がフィードバックにおいて母親は自分を守り育ててくれて いる人物であるという認識を持ったことが,母親の円を大きく B氏に重ねるという円の変化につながったと考えられる。
最後にC氏について, 1 回目の描画では,C氏は母親を否定 的に感じている一方で母親から大きな影響を受けており完全に 分離はしていないと感じていると考えられた。 1 回目の描画で は,紙の端に母親の円を描いているがC氏の円は端から母親に 少し近づけて配置されている。それに対して 2 回目の描画は,
1 回目と同じ気持ちで描いたと言及するも円の位置に変化が あった。エゴグラムの結果から,C氏は自己と母親を対照的に イメージして回答し,そのイメージがフィードバックで明確化 されたと推測される。そして,自分と母親は対照的であるけれ ども親子というつながりがあるという意識が,線対称に配置す る円の変化につながったと推測される。
さてD氏とE氏は, 1 回目と 2 回目で円環イメージ画の変化 がなかった事例である。D氏について, 1 回目の描画では,D 氏が「母親と対等」の関係であり,母親を特別な存在と感じて いることがうかがえた。D氏は,エゴグラムの結果を「イメー ジ通り」と記し,D氏の持つ母親像と自己像が結果と一致した と推測される。 2 回目の描画で「対等な存在という思いは変わ らなかった」と言及していることから, 1 回目と同様の関係性 のイメージを 2 回目でも描画したと考えられる。
次に,E氏は,自分と母親を<外接>という描き方で表した。
外接について,松尾・小川(2000)は母親から離れて居られな いこと,そして母親との距離を縮めたい願望が表されると指摘 している。外接は円同士が接するよう意図的に描画する必要が あり,重ならないが離れることはない関係の緊張感を感じる描 画と考える。E氏は 2 つのコメントの両方に母親を尊信してい ることを記しており,E氏にとって母親は大きな影響を与える 人物であると推測される。その一方で,E氏は「母親と全く同 じように生きたいとも思っていない」と断言しており,母親と 自分を重ねたくない思いを強く感じられる。エゴグラムの結果 では母親をCP優位のエゴグラムで回答していることから,E氏 は母親の言動を権威的・支配的に感じていると推測される。2回 目のコメントにおいて「頼っていたい部分と干渉されたくない 部分が両立している」と記していることから,そのような母親 に対してE氏はアンビバレントな想いを持っていると考えられ る。E氏は,フィードバックにおいて自身が抱いていた母親像 に気づきを得たが,自分と母親との関係イメージに影響は示さ れなかったと考える。
以上より,円環イメージ画に変化のあった事例では,フィー ドバックを行ったことで自身の母親像の捉え方に別の視点が加 わり, 2 回目の描画では自分と母親の関係を異なるイメージで 表現したと考えられる。一方,円環イメージ画に変化がなかっ た事例は,母親との関係を再度描くにあたって 1 回目と同様の イメージを浮かべたと言える。 2 回目の描画が同じイメージで あっても,描画時の想いは異なっていたというコメントがみら
れたことから,フィードバックを行ったことで自己像と母親像 への理解が深まったと捉えることができる。そのため,フィー ドバックされた自己像と母親像を対象者はどのように感じたの かということが, 2 回目の描画で母親との関係をイメージする 際,影響を与えたと考えられる。
2 .イメージを視覚的に外在化することについて 1 )エゴグラムのフィードバックの施行について
フィードバックの感想では「似た回答をしたと思った」や「対 照的になりそうと予想していた」という回答時の感覚に言及し た内容がみられた。母親に関しても同じ質問項目の回答をした ため,対象者が自己と母親で共通する部分と異なる部分を比較し,
自己と母親の結果が類似しているか否かという予想を立てるこ とが出来たと推測される。清島・古賀(2017)は,アルコール 使用障害者にTEGⅡを実施した事例において,フィードバック の前に行った予想エゴグラムを作成するプロセスで対象者が自 己内省を深めたことを報告した。また,予想と検査結果が当たっ ていたという感覚が,検査結果への関心を高め主体的な自己の 振り返りにつながったと述べた(清島・古賀,2017)。本研究で は,対象者がTEGⅡの回答に取り組むことで自己像と母親像の 類似性や差異性を検討し,フィードバックで回答時に考えた予 想と結果を照らし合わせたと考えられる。TEGⅡは,口頭で尋 ねるなど直接的に引き出された人物像と異なり,瞬時に意識出 来ない側面も含めた人物像を視覚的なデータで示すことを可能 にさせたと考える。予想と結果が近似していた対象者は,自己 と母親に対する認識を再確認することにつながったと考えられ る。また,予想と結果が異なっていた対象者は,意識していなかっ た側面に対する気づきを得ることにつながったと考えられる。
本研究では,円環イメージ画描画後にエゴグラムの回答を求め たことから,対象者は母親との関係の中での自己像と母親像を 考えたと推測される。そのため,自己像と母親像がフィードバッ クされたことは,再度円環イメージ画を描くにあたって自分と 母親の関係を考える際の手がかりとして大きく働いたと考える。
2 )円環イメージ画の施行について
女子大学生が置かれている対人関係の中でも,母親との関係 の実相は他人には見えにくいため他の家庭と比較することや,
その関係における当事者故に改まって振り返る機会は少ないで あろう。そのため,円環イメージ画は,自己と母親の関係を視 覚化し,第三者のように俯瞰的に捉える機会となったと推測さ れる。また,D氏のように 1 回目の描画において,今までの母 親との関係を振り返って描画を行った者もみられた。そのため,
円環イメージ画を描くという作業は,昔から続いている母親と の関係を統合的に検討する時間としても機能したと考えられる。
また, 2 回目の円環イメージ画のコメントでは 1 回目の描画に 言及し比較する内容も示されたことから, 2 回目の描画では 1 回目とは異なる母親との関係イメージが意識化されたと考えら れる。円環イメージ画のコメントでは母親の人物像や母親への 想いなど母親個人に言及するコメントが多く示された。このこ とから,母娘関係をイメージする際に母親の人物像も合わせて イメージをしたと考えることができる。特に 2 回目の描画では,
TEGⅡの回答とフィードバックを通じて自己像と母親像への理 解を深めた上で行ったため,対象者は母親との関係について多 面的にイメージすることができたと推察できる。円環イメージ 画やエゴグラムのように目に見えるデータや図を用いて人物像 60
と関係イメージを外在することは,そのイメージを意識的に扱 うことを可能にさせる有効な方法であったと考える。
3 .まとめ
本研究では,女子大学生にエゴグラムのフィードバックを行 うことで自己像・母親像への気づきや再確認を促すことが示唆 された。ここでの気づきは人物像に対して新たな視点を与える ものではなく,本人が意識していなかった側面を想起させ振り 返りを与えるものであったと推測される。また,再確認は,エ ゴグラムで示された人物像がやはり自分の思っていた通りで あったと情緒を伴い腑に落ちる感覚があったと推測される。こ のような気づきや再確認によって自己像・母親像を多角的に捉 えることが可能となり,自己理解と母親理解につながったと考 える。今回は,調査研究として治療的・診断的側面が働かない よう配慮を重ね検討を行った。本研究でのアセスメントツール の用い方は本来と異なるものであるが,関係理解の一助として 臨床場面において治療的な活用が出来るか検討していくことも 重要であろう。親子関係に葛藤を抱く学生の学生相談では親を 客観視することや別の関係性を模索していくことが重要であり
(日本学生相談学会50周年記念誌編集委員会,2010),親をどう 理解していくか,親との関係についてどう折り合いをつけるか など思案する上で関係理解は大きなテーマになると考える。今 後は,臨床事例の中で自己理解・他者理解を深めることが関係 理解の変化にどのようにつながるか,さらなる検討を加えてい きたい。
引用文献
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金子書房
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How Self-image and Mother-image assessed by Egogram connected to Mother-daughter relationship image.
Yuuka KAWABE Nanami TAKAKURA
Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University Satoshi KOGA
Faculty of Human-Environment Studies, Kyushu University
This study aimed to examine how deepening the understanding of one’s self-image and image of their mother affects the image of one’s relationship with their mother. To this end, the results of an egogram were shared with five female college students, but before and after this, subjects had to draw images of their mother-daughter relationship, which were projected on two circles. As a result of these two drawing, there were those who changed and those who did not. The egogram feedback can therefore be said to have provided an opportunity for the subjects to reconfirm and become aware of how to grasp their self-image and mother-image. In addition, drawing circular images became an opportunity for the subjects to view their relationship with their mother from a bird's-eye view. It also became possible for the subjects to view their relationship with their mother from multiple sides via carrying out the circle image drawing after deepening their understanding of how to grasp their self-image and mother-image through the egogram feedback.
Keywords: Mother-daughter relationship, Image of interpersonal relationships, Image of others, Egogram