INTERNATIONAL CHEMISTRY OLYMPIAD / SLOVAKIA & CZECH REPUBLIC, 2018
問題
28.
核酸遺伝情報は糖
-
リン酸骨格に結合した核酸塩基の配列に書き込まれている。デオキシリボ核酸(DNA)
はアデニン(A)
、シトシン(C)
、グアニン(G)
、チミン(T)
を含み、一方リボ核酸(RNA)
はチミ ンの代わりにウラシル(U)
を含む。最も一般的な核酸塩基の構造式を図
1.
に示した。ただしこれらが唯一の構造式という訳では なく、核酸塩基はいくつかの二重結合を含むため、いくつかの異なる互変異性体を取る可能性 がある。双性イオン型の互変異性体も原理的には可能であるが、ここからの問題では電荷を帯 びていない分子構造のみを扱うことに注意せよ。図
1.
糖-
リン酸骨格(R)
に結合した核酸塩基A, C, G, T, U
の構造式28.1
シトシンの電荷を帯びていない互変異性体の全ての構造式を描け。核酸塩基は糖-
リン酸骨格に結合しているとする。あらゆるイミノ基の
E/Z
異性体は異なる互変異性体とみなす。DNA
は、2
本のDNA
鎖がらせん型の複合体を形成する現象を起こす。この現象はハイブリダ イゼーションと呼ばれる。核酸塩基間の水素結合が、二本鎖DNA(dsDNA: double-stranded DNA)
中の相補的な2
本のDNA
鎖間で、核酸塩基が正しくペアを作るために役立っている。シト シンはグアニンとペアを作り、アデニンはチミンとペアを作る(
図2.)
。しかし、一方のDNA
鎖 中の核酸塩基に出現頻度の低い互変異性体が現れることによって、標準的でない塩基対合が可 能になる。図
2.
標準的なDNA
塩基対28.2
標準的でない塩基対T–G*, T*–G, A–C*
とA*–C
の構造式を描け。ここで、一般的でないINTERNATIONAL CHEMISTRY OLYMPIAD / SLOVAKIA & CZECH REPUBLIC, 2018
互変異性体(電荷は帯びていない)にアスタリスクで印をつけた。塩基対に対する糖-リン 酸骨格の方向が標準的な塩基対と同じになるようにし、核酸塩基間の水素結合の本数が最 も多くなるようにせよ。
分光分析は核酸を分析する上で特に有用な実験的手法の
1
つである。核酸塩基は芳香族化合物 であるため、紫外領域の電磁波を吸収する。260 nm
において、未知濃度のアデニンを含む核酸 サンプル1
は11%
の紫外光を透過させた。27 μmol L
-1のアデニンを含む標準溶液は同じ波長で57%
の紫外光を吸収する。28.3
サンプル1
中のアデニンの濃度を計算せよ。260 nm
における他の核酸塩基による吸収は無 視し、標準サンプルとサンプル1
の測定は全く同じ測定条件において行われたと考えてよい(
セル長、緩衝液の組成、温度など)
。近紫外領域での分光分析は、
DNA
鎖のハイブリダイゼーション状態が温度依存的に変化する様 子を検出するのに有用な手法である。融解温度T
mは、最初のdsDNA
のうち50%
が2
本のssDNA
に 解離する温度として定義される。dsDNA
中の核酸塩基はssDNA
中の核酸塩基より吸収が弱いた め、吸光度の増大によってdsDNA
の解離を検出できる。下図のプロットは2
つの異なるDNA
サン プル(DNA1, DNA2)
について260 nm
での吸光度を温度の関数として示したものである。2
種類のDNA
は等しいモル吸収係数を持ち、サンプル以外の測定条件(
初期濃度、セル長、緩衝液の組成 など)
は全く同じだとみなしてよい。訳注
: ssDNA
はsingle-stranded DNA
の略で、一本鎖DNA
のこと。absorbance:
吸光度arb. u.:
任意単位28.4
上のプロットを見て、次の文章が正しいか誤りか、もしくはこのプロットだけでは判断できないか、答えよ。
a) 320 K
ではdsDNA1
の濃度はdsDNA2
より低い。INTERNATIONAL CHEMISTRY OLYMPIAD / SLOVAKIA & CZECH REPUBLIC, 2018
正しい 正しくない 判断できない
b) DNA1
の融解温度T
mはDNA2
のT
mより高い。正しい 正しくない 判断できない
c) ssDNA
と比べたときのdsDNA
の熱力学的安定性は、DNA1
の方がDNA2
よ り高い(
より安定である)
。正しい 正しくない 判断できない
d) dsDNA1
はdsDNA2
よりも多くの塩基対によって構成されている。正しい 正しくない 判断できない
ラウス肉腫ウイルスはレトロウイルスであり、その遺伝情報は
dsDNA
ではなく一本鎖RNA
に 保存されている。ここでRNA
はチミンの代わりにウラシルを含むことを思い出しておこう(
図1)
。このウイルスは逆転写酵素を用いて相補鎖DNA(cDNA)
を合成する。次にこのcDNA
はメッ センジャーRNA(mRNA)
に転写される。最後にこのmRNA
は感染した細胞のリボソームにより ポリペプチド鎖へと翻訳される。このウイルス
RNA
より次の8
塩基断片の配列が決定された。5’-CCCCAGGU-3’
28.5
この8
塩基のRNA
に対するcDNA
とmRNA
の塩基配列を書け。核酸分子の向きに注意し、5’
末端と