厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業))
「我が国の貧困の状況に関する調査分析研究」
分担研究報告書
日本における貧困率の推移-先行研究レビューから-
研究分担者 渡辺久里子(国立社会保障・人口問題研究所 研究員)
研究要旨
【目的】
長引く不況や非正規労働者の増加を背景に日本の貧困問題が顕在化し、特に 2000年代 に入って、橘木・浦川(2006)や小塩(2010)など多くの実証研究が蓄積されている。本研究 では先行研究レビューから、日本の貧困率がどのように推移し、何が要因となっていたか、
どのような影響があったか整理する。
【方法】
本研究では、先行研究のレビューから全人口平均および年齢階層別の貧困率について、
その要因と影響について整理を行った。
【結果】
先行研究の整理から、日本の貧困率の推移とその要因・影響については、以下に挙げる 4点が明らかとなっている。
第1に、統計調査によって相対的貧困率の水準は異なるものの、時系列での推移やリス クグループについては共通した結果が得られている。すなわち、全人口平均の貧困率は上 昇傾向にあること、高齢者の貧困率は下落傾向にあるものの他の年齢階層と比べると、最 も貧困率が高いグループであることが分かっている。
第2に、子ども期に貧困である場合将来においても貧困となるかどうかについては、先 行研究において一致した結果は得られていなかった。しかしながら、子ども期に貧困であ ると大卒の学歴を有する確率が統計的に有意に下がることは、複数の先行研究の結果から 支持されていた。
第3に、現役世代の貧困は他の年齢階層と比較して低い水準にあるものの上昇傾向にあ り、特に若年者においてワーキングプア率が上昇していること、親と同居している未婚者 の増加は、将来において深刻な問題になることが予測されている。
第4に、高齢者の貧困は低下傾向にあった一方で、未婚の子と同居している場合は高齢 者本人が貧困に陥る確率が高まると指摘されている。また女性の場合、婚姻状況(=未婚・
離別・死別)や配偶者の職業によって貧困状況が異なり、特に未婚や離別の場合は将来にお ける貧困率が大きく上昇することが指摘されている。
A.研究目的
長 引 く 不 況 や 非 正 規 労 働 者 の 増 加 を 背景に日本の貧困問題が顕在化し、特に 2000年代に入って、橘木・浦川(2006)や
小 塩(2010)な ど 多 く の 実 証 研 究 が 蓄 積 されている。表 1では、先行研究や府省 で 推 計 さ れ た 相 対 的 貧 困 率 の 推 移 を 一
覧 に し て い る1。 こ れ を み る と 相 対 的 貧 困 率 の 水 準 は 統 計 調 査 や 論 文 に よ っ て 違 い は あ る も の の2、 増 加 傾 向 に あ る と いうことがみてとれ、2000 年代後半は 9~17%程 度 で あ る 。ただ し 、 相 対 的 貧 困 率 の推 移は 年齢 階 層に よ って 異な る 。
表 2~4は、子ども、現役、高齢ごと に 相 対 的 貧 困 率 を 示 し て い る3。 子 ど も の 相 対 的 貧 困 率 は 一 貫 し て 上 昇 し て お り4、厚生労働省(2014)によれば 1985 年 に 10.9%で あ っ た の が 2012 年 に は 16.3%となっている。現役世代の相対的 貧困率も、1980 年代から上昇傾向にあ り、2000年代後半は 8%~15%程度であ ったが、ほかの 2つの年齢階層と比べる と最も低いグループとなっている。高齢 の 相 対 的 貧 困 率 は 下 落 傾 向 を 示 し て い たものの、いずれの測定結果においても 全人口平均、子ども、現役世代の相対的 貧困率より高い水準にあり、年齢階層別 に み れ ば 最 も 貧 困 リ ス ク の 高 い グ ル ー プである状況が続いている。
このように、先行研究や府省で推計さ れた結果を比較すると、相対的貧困率の 水準そのものは異なっているが、時系列 推 移 の 傾 向 や リ ス ク グ ル ー プ は 共 通 し ていることが分かる。では、相対的貧困 率 の 水 準 や 変 動 に は 何 が 影 響 し て い た であろうか。また現時点で貧困である場 合、どのような影響が出てくるであろう か。本稿では、先行研究の結果から全人 口 平 均 お よ び 年 齢 階 層 別 の 貧 困 率 に つ
1 表1で は 相 対 的 貧 困 線(= 中 位 等 価 可 処 分 所 得 の50%)を 用 い て 推 計 さ れ た 貧 困 率 の み を ま と め て い る 。
2 舟 岡(2011)、 大 沢(2014)、 佐 野 他(2015)、 四 方(2015)な ど が 指 摘 す る よ う に 、 日 本 の 所 得 分 布 が 統 計 調 査 に よ っ て 異 な る こ と が 原 因 で あ る 。 こ れ は サ ン プ リ ン グ の 違 い や 回 答 者 の 偏 り が あ る こ と に よ る 。
3 注1に 同 じ 。
いて、その要因と影響について整理した い。
B.研究方法
本稿では、先行研究レビューより、日 本 に お け る 貧 困 率 の 推 移 お よ び そ の 要 因と影響について整理した。
(倫理面への配慮)
該当なし
C.研究結果 D.考察 (1)全人口平均
日 本 に お け る 貧 困 率 は 長 期 的 に 増 加 傾向にあったが、その背景には日本の所 得分布において低所得層が増え、全体と し て 貧困 化し てい る こと が 指摘 され る 。 再分配前後で貧困率をみると、高齢者層 においては 30%近く改善しているもの の、若年者層・中年者層ではほとんど改 善がなく、さらには 1997 年から 2003 年にかけて貧困にある若年者層・中年者 層 の 所 得 の 落 ち 込 み が 大 き い こ と が 分 かっている(小塩・浦川[2008])。
また橘木・浦川(2006)では、1995年か ら 2001年の貧困率の変化に最も大きな 影 響 を 与 え た の は 、 単 身 世 帯(高 齢 者 を 除 く)の 貧 困 率 で あ っ た と し て い る 。 同 期間において、貧困世帯に占める高齢者 世帯の割合も増えており、90 年代半ば
4 た だ し 、 総 務 省 が 2014年 の 『 全 国 消 費 実 態 調 査 』 を 用 い て 測 定 し た 結 果 は 7.9%で あ り 、2009年 か ら 2%ポ イ ン ト 低 下 し て い た 。 こ れ に つ い て 田 中(2017)は 、 ア ベ ノ ミ ク ス の も と で 子 育 て 世 帯 の 家 計 の 平 均 的 な 状 況 は 改 善 し て い た と は 言 え ず 、 児 童 手 当 の 給 付 改 善 や 、 調 査 票 の 記 入 例 変 更 が 影 響 し て い た 可 能 性 を 指 摘 し て い る 。
以 降 、「 仕事 を 引退 した世 代 の貧 困」 に 加 え て、「働 き 盛り 世代の 貧 困」 が表 面 化してきたと考察している。
加えて、貧困の動態分析からは、一度 貧 困 に 陥 る と そ こ か ら 抜 け 出 す 確 率 が 有意に低下していっていること、ただし 常 に 貧 困 層 に 留 ま っ て い る わ け で は な く出入りをしていること、一時的貧困を 含め貧困を経験している世帯が、全体の 4分の 1~3 分の 1 程度いることが指摘 さ れ て い る(岩 田[1999]、 岩 田 ・ 濱 本 [2004]、濱本[2005])5。岩田・濱本(2004) では、世帯の資産や耐久消費財の保有状 況からも分析を行っており、貧困 を経験 し て い る グ ル ー プ は 貯 蓄 残 高 お よ び 住 宅ローン残高が低いこと、借家層のうち お よ そ 半 数 が 貧 困 を 経 験 し て い る こ と を明らかにしている。
石井・山田(2009)では世帯主の就業状 況別に貧困動態を分析しており、世帯主 が非正規労働(請負・内職を含む)の場合、
正規労働と比べて 20%以上一時的貧困 に陥る確率が高いことを示している。
以上のことから、日本全体の所得水準 が低下する中で、その影響を最も受けた のは現役世代であり、非正規労働者の貧 困率が高いこと、貧困から脱出しにくく な っ てい る状 況が 明 らか と なっ てい る 。
(2)子どもの貧困
前節で述べたように、子どもの貧困率 は上昇傾向をみせている。上昇要因につ いて四方(2016)では、子どものいる世帯 の う ち ひ と り 親 世 帯 が 占 め る 割 合 が 上 昇したことを指摘している。
子どもの貧困は、将来にわたって貧困 が 継 続し その 子ど も 世代 も 貧困 とな る 、
5 い ず れ の 分 析 に お い て も 家 計 経 済 研 究 所
「 消 費 生 活 に 関 す る パ ネ ル 調 査 」 が 用 い ら れ
世代間連鎖の影響が懸念される。しかし ながら、日本においては子ども期から数 十年を追跡した長期のパネル・データは まだ構築されておらず、貧困の世代間連 鎖を直接的に捉えることは難しい。その ため阿部(2007)、大石(2007)、Oshio et.
al. (2009)、Abe(2010)、 阿 部(2011)は 、 15 歳時点の状況を尋ねる回顧調査デー タから、子ども期の貧困が将来どのよう な影響を与えるか分析を試みている。
阿部(2007)と大石(2007)は 2006 年の 国立社会保障・人口問題研究所「社会生 活 に 関 す る 実 態 調 査 」、Abe(2010)は 同 調査の 2008年の後続調査を用いて、15 歳 時 点 の 主 観 的 な 生 活 の 苦 し さ と 現 在 の 経 済 的 状 況 に 統 計 的 に 有 意 な 相 関 は 見られないとしている。一方で、Oshio et. al. (2009)では「日本版総合的社会調 査(JGSS 調査)」2000 年~2003 年およ び 2005 年~2006 年の 6 年分のプール データを用いて、回顧的評価の内生性を コントロールしない場合は、15 歳時点 の 主 観 的 な 貧 困 と 現 在 の 貧 困 に は 統 計 的に有意な相関が見られないが、制御し た 場 合 は 統 計 的 に 有 意 な 相 関 が 見 ら れ た と 結 論 付 け て い る 。 し か し な が ら 、 Oshio et. al. (2009)と同じ手法を用いて、
国立社会保障・人口問題研究所「社会保 障実態調査」(2007 年)から分析した阿部 (2011)では、15歳時点の主観的な生活の 苦 し さ と 現 在 の 貧 困 に は 統 計 的 に 有 意 な相関は観察されていない。また、藤井
(2013)では 2011 年に実施された「くら
しと仕事に関する調査」から、Oshio et.
al. (2009)と 同 じ く学 歴の み を 制御 し た 場合は、15 歳時点の貧困と現在の貧困 は統計的に有意に相関しているが、子ど
て い る 。 同 調 査 は 、1993年 時 点 で 24歳 ~34 歳 で あ っ た 女 性 と そ の 世 帯 を 対 象 と し て い る 。
も 期 に 形 成 さ れ た 社 交 性(= 非 認 知 能 力)に 関 す る 変 数 も 含 め て 制 御 す る と 、 相関は有意でなくなっている。このこと は、15 歳時点の貧困と現在の貧困の相 関は、学歴と社交性で説明できることを 意味している。
唯一、山田他(2014)は回顧調査ではな く 東 京 都 健 康 長 寿 医 療 セ ン タ ー 研 究 所
「全国高齢者パネル調査」を用いて、親 世 代 と 子 世 代 の 所 得 情 報 か ら 貧 困 の 世 代間連鎖を推計している。その結果、子 世 代 全 体 で は 統 計 的 に 有 意 な 相 関 は 見 られず、子どもの学歴を考慮しなければ、
親 と 息 子 間 に の み 統 計 的 に 有 意 な 相 関 が見られたが、子どもの学歴を考慮する と統計的に有意でなくなっている。これ は、親と息子間における貧困の世代間連 鎖は、息子の学歴で説明できることを意 味している。
こ の よ う に 日 本 の デ ー タ を 用 い た 実 証研究からは、子どもの貧困が将来にお いても継続しているかどう か、貧困の世 代 間 連 鎖 が 起 き て い る か ど う か に つ い て、確定的な結果が得られているとはい えない。
しかしながら、子ども期の貧困と本人 の学歴に関しては、ネガティブな相関が 確認されており、子ども期の暮らし向き が 苦 し か っ た あ る い は 世 帯 年 収 が 低 か った場合、大学卒業以上の学歴となる確 率 が 有 意 に 下 が っ て い る(大 石[2007]、 阿部[2007]、Oshio et. al. [2009]、藤井 [2013]、山田他[2014])。総務省「就業構 造基本調査」をみると、学歴が高卒以下 の 場 合 は 大 卒 以 上 よ り も 収 入 が 低 い た め、相対的に低収入の状況が続く可能性 はある。
6 通 常(3か 月 以 上)有 業 で あ る か あ る い は 通 常(3か 月 以 上)無 業 で あ る が 仕 事 を 探 し て い
ただし、繰り返しとなるが、既存研究 の 結 果 か ら は 子 ど も 期 の 貧 困 と 現 在 の 貧 困 に つ い て 統 計 的 に 有 意 な 相 関 が あ るとは言えず、また因果関係も解明され ていない。
(3)現役世代の貧困
現 役 世 代 の 相 対 的 貧 困 率 も 上 昇 傾 向 に あ る。 この 背景 に はバ ブ ル崩 壊以 降 、 若年失業率が悪化したこと、雇用の非正 規化が進んだこと、また家族構成の変化 が あ っ た こ と が 指 摘 さ れ て い る(村 上 ・ 岩 井[2010]、 村上[2016]、 四 方[2016])。
村上・岩井(2010)・村上(2016)は1992 年、
1997 年、2002年の総務省「就業構造基 本調査」を用いて、ワーキングプアの分 析を行っており6、特に若年層(=15~24 歳)の ワ ー キ ン グ プ ア 率 が 上 昇 し て い る ことを明らかにしている。また時期を同 じ く し て 現 役 世 代 の 家 族 構 成 に も 変 化 がみられ、貧困リスクの大きい単身と親 同 居 未 婚 者 が 占 め る 割 合 が 高 く な っ て いる。現役世代全体の貧困率は、若年(=
20~34 歳)は 親 同 居 未 婚 者 の 貧 困 が 悪 化したこと、壮年者(=35~49 歳)は単身 と 親 同 居 未 婚 者 の 貧 困 が 悪 化 し た こ と が 要 因 で あ る と 指 摘 さ れ て い る(四 方 [2016])。
若 年 の 親 同 居 未 婚 者 の 貧 困 に つ い て は、稲垣(2009)や四方他(2011)でもその 問題が報告されている。稲垣(2009)では 将来の貧困率を予測しており、35 歳時 点 に お い て パ ー ト 等 ま た は 非 就 業 で あ った親同居未婚者は、老後の貧困率が極
めて高く2060年では66.3%になると予
測している。四方他(2011)では、親と同 居している若年未婚者はパラサイト・シ
る に も か か わ ら ず 、 世 帯 所 得 が 生 活 保 護 基 準 未 満 で あ る 場 合 に ワ ー キ ン グ プ ア と 定 義 し て い る 。 な お 、 学 生 は 除 か れ て い る 。
ングルを謳歌しているのではなく、本人 収入が低いことが背景にあり、仮に親と 別 居 し た 場 合 お よ そ 40%の 若 年 未 婚 者 が貧困に陥ると分析している。
こ の よ う に 現 役 世 代 の な か で も 若 年 者 に つ い て は い く つ か の 研 究 が 蓄 積 さ れているが、相対的に貧困リスクが小さ い壮年者を対象とした分析は、管見の限 り四方・駒村(2011)のみである7。四方・
駒村(2011)では、2002 年の総務省「就業 構造基本調査」を用いて、失業した場合 の貧困率について分析しており、中年齢 層(=40~59 歳)男 性 は 失 業 時 の 貧 困 率 が 同 年 齢 層 女 性 や 若 年 層 よ り も 際 立 っ て高く、失業状態が長期化するほど貧困 率が上昇するとしている。この背景には、
中年齢層男性は扶養義務者であり、女性 の よ う に 失 業 時 に 被 扶 養 と な る 選 択 肢 がないこと、世帯内に他の就労者がいな い 場 合 が 半 数 程 度 で あ る こ と が 指 摘 さ れている。
以 上 の こ と か ら 、 現 役 世 代 の 貧 困 は
「家族福祉」の機能とも密接に関係して いることが分かる。四方他(2011)で指摘 されるように、若年層の貧困の悪化は 親 との同居という「家族福祉」に覆い隠さ れている状況にある。しかしながら、同 居 し て い る 若 年 者 の 本 人 収 入 は 低 い ま まに止まる可能性も高く、また親の退職 や死亡によって、将来の世帯所得は低下
7 た だ し 、 石 井(2010)で は 現 役 世 代 全 体 を 対 象 と し た 分 析 を 行 っ て お り 、 世 帯 主 が 非 正 規 で 働 い て い る 場 合 、 正 規 で 働 い て い る よ り 統 計 的 に 有 意 に 貧 困 に 陥 る 確 率 が 高 い こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 ま た 世 帯 内 の 就 業 人 数 の 減 少 は 有 意 に 貧 困 か ら の 脱 出 及 び 突 入 に 影 響 を 与 え る 一 方 で 、 就 業 人 数 の 増 加 は 貧 困 か ら の 脱 出 及 び 突 入 に 有 意 な 影 響 を 与 え な い こ と を 明 ら か に し て い る 。
8 な お 、1990年 よ り 前 の 分 析 と し て は 原 田 他 (2001)が あ る 。 原 田 他(2001)で は 東 京 都 老 人
す る こと が予 想さ れ 、「家 族 福祉 」の 持 続可能性は低い。また中高年層の男性に ついては、扶養家族を一人で支えている 場合が多く「家族福祉」に期待できない ため、失業すると貧困に陥る確率が高く なっている(四方・駒村[2011])。
(4)高齢者の貧困
高齢者の貧困率は、1990 年ごろから 下 落 傾 向 を 示 し て い る 。 山 田 ・ 四 方 (2016)ではその要因について、高齢単身 と 夫 婦 の み 世 帯 に お い て 貧 困 率 が 大 幅 に低下した効果が、貧困率の低い「有配 偶 の 子と 同居 」世 帯 が減 少 した 効果 と 、 貧 困 率の 高い 「配 偶 者な し の子 と 同 居 」 世 帯 が 増 加 し た 効 果 に よ っ て 相 殺 さ れ ていたことを指摘している8。
なお、この傾向は将来においても続く ことが予測されている。すなわち、いず れ の 世 帯 に お い て も 貧 困 率 の 低 下 は 見 られるものの、貧困率の高い単独世帯の 割 合 が 上 昇 す る こ と に よ っ て 高 齢 者 全 体の貧困率は押し上げられること、貧困 率の低い「有配偶の子と同居」世帯が減 少し、貧困率の高い「配偶者なしの子と 同居」する世帯が増えると推計されてい る(稲垣[2009])。
高 齢 者 の 貧 困 の 規 定 要 因 を 分 析 し た 研究としては、原田他(2001)、清家・山 田(2004)、山田(2010)、山田他(2011)が
総 合 研 究 所 「 全 国 高 齢 者 の 生 活 と 健 康 に 関 す る 長 期 縦 断 調 査 」 を 用 い て 、1987年 か ら 1990年 に お け る 高 齢 者 貧 困 の 動 態 分 析 を 行 っ て い る 。 そ の 結 果 、 各 調 査 時 点 の 貧 困 率 は ほ ぼ 同 水 準 で 、 観 測 期 間 中 に 継 続 的 に 貧 困 で あ っ た の が 22.9% で あ り 、 貧 困 転 落 層(8.8%)と 貧 困 脱 出 層(11.8%)が 入 れ 替 わ る こ と に よ り 、 平 均 貧 困 率 が 横 ば い で あ っ た こ と を 明 ら か に し て い る 。 こ の こ と か ら 、 ク ロ ス セ ク シ ョ ン デ ー タ に 基 づ く 貧 困 層 よ り 多 く の 高 齢 者 が 貧 困 リ ス ク を 抱 え て い る こ と を 指 摘 し て い る 。
ある。これらの結果をまとめると、高学 歴 で あ る 場 合 は 貧 困 に 陥 る 確 率 が 下 が ること、女性の場合は配偶者との死別に よ っ て 貧 困 に 陥 る 確 率 が 上 が る こ と が 挙げられる。特に高齢単身女性について は、貧困に陥る最大の要因は夫との死別 に伴う就労収入の喪失であること、また 喪 失 を 埋 め 合 わ せ る だ け の 公 的 年 金 給 付 水 準 が 十 分 で な い 可 能 性 が あ る こ と が指摘されている(清家・山田[2004]、山 田他[2011])。
こ れ ら の 研 究 が 配 偶 者 と 死 別 し た 高 齢女性に焦点をあてていた一方で、稲垣 (2015)および稲垣(2016)は未婚・離別の 高齢女性を対象に分析を行っている。稲 垣(2015)では、シミュレーションの手法 を使った分析から、有配偶や死別の場合 は夫の年金や遺族年金があるため、貧困 線以下になることは少ない一方で、未婚 や 離 別 の 女 性 の 場 合 は 貧 困 線 以 下 に な ることが多くと指摘している。この背景 に は 女性 の場 合は 給 与水 準 が低 いこ と 、 厚 生 年 金 へ の 加 入 率 も 低 い こ と か ら 本 人の年金額が低くなることから、結果と し て 高 齢 男 性 よ り も 貧 困 率 の 上 昇 が 大 きくなる。
将 来 に お い て 未 婚 や 離 別 の 高 齢 女 性 が急増することが見込まれる中、未婚・
離 別 の 高 齢 女 性 の 貧 困 は 深 刻 な 問 題 に 発 展 す る 可 能 性 が あ る9。 稲 垣(2016)で は第 3号被保険者制度を廃止し、専業主 婦も保険料を納付することによって、将 来 の 貧 困 率 が ど の よ う に 推 移 す る か 分 析している。その結果、改革を行うこと によって基礎年金水準が上昇し、未婚・
離 婚 の 高 齢 女 性 の 貧 困 率 が 改 善 す る こ とを明らかにしている。
9 稲 垣(2013)。
E.結論
本稿では貧困率の推移とその要因・影響 について、先行研究の整理を行った。バ ブ ル 崩 壊 以 降 の 長 引 く 不 況 と 雇 用 の 非 正規化を背景に、日本における貧困問題 が顕在化し、それに伴って貧困に関する 実証研究の蓄積も増えてきた。年齢階層 別 に 分析 され た先 行 研究 を まと める と 、 次の 4点に要約される。
第1に、統計調査によって相対的貧困 率の水準は異なるものの、時系列での推 移 や リ ス ク グ ル ー プ に つ い て は 共 通 し た結果が得られている。すなわち、全人 口 平 均の 貧困 率は 上 昇傾 向 にあ るこ と 、 高 齢 者 の 貧 困 率 は 下 落 傾 向 に あ る も の の他の年齢階層と比べると、最も貧困率 が 高 い グ ル ー プ で あ る こ と が 分 か っ て いる。
第2に、子ども期に貧困である場合将 来 に お い て も 貧 困 と な る か ど う か に つ いては、先行研究において一致した結果 は 得 られ てい なか っ た。 し かし なが ら 、 子 ど も 期 に 貧 困 で あ る と 大 卒 の 学 歴 を 有 す る 確 率 が 統 計 的 に 有 意 に 下 が る こ とは、複数の先行研究の結果から支持さ れていた。
第 3に、現役世代の貧困は他の年齢階 層 と 比 較 し て 低 い 水 準 に あ る も の の 上 昇傾向にあり、特に若年者においてワー キングプア率が上昇していること、親と 同居している未婚者の増加は、将来にお い て 深 刻 な 問 題 に な る こ と が 予 測 さ れ ている。
第 4に、高齢者の貧困は低下傾向にあ った一方で、未婚の子と同居している場 合 は 高 齢 者 本 人 が 貧 困 に 陥 る 確 率 が 高 まると指摘されている。また女性の場合、
婚姻状況(=未婚・離別・死別)や配偶者 の職業によって貧困状況が異なり、特に 未 婚 や 離 別 の 場 合 は 将 来 に お け る 貧 困 率 が 大 き く 上 昇 す る こ と が 指 摘 さ れ て いる。
F.健康被害情報 該当なし
G.研究発表 1.論文発表 なし
2.学会発表 なし
H.知的所有権の出額・登録状況(予定 もふくむ)
1.特許取得 2.実用新案登録 3.その他
該当なし
参考文献
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表1 全人口平均の相対的貧困率の推移(%)
注:総務省の結果は、各年版「全国消費実態調査」に掲載されているものである。
厚生労働省 (2014)
小塩 (2010)
阿部 (2006)
橘木・浦川 (2006)
西崎他 (1998)
駒村他 (2017)
総務省 (各年)
1983 10.1
1984 7.3
1985 12.0
1986 10.7
1987
1988 13.2
1989 13.2 7.5
1990
1991 13.5
1992 13.1 15.2
1993
1994 13.7 8.1 7.9
1995 13.5 15.2
1996
1997 14.6 17.0
1998 14.9 16.2
1999 8.5 9.1
2000 15.3 16.8
2001 14.8 17.0
2002
2003 14.9 17.0
2004 8.7 9.5
2005
2006 15.7 17.2
2007 2008
2009 16.0 8.9 10.1
2010 2011
2012 16.1 2013
2014 9.9
国民生活基礎調査 所得再分配調査 全国消費実態調査
表2 子どもの相対的貧困率の推移(%)
注:子どもの年齢は、厚生労働省(2014)、駒村他(2017)および総務省(各年版)は18歳未満、阿部(2006)は 20歳未満である。
国民生活 基礎調査
所得再 分配調査 厚生労働省
(2014)
阿部 (2006)
駒村他 (2017)
総務省 (各年)
1983 10.1
1984
1985 10.9
1986 10.2
1987
1988 12.9
1989 12.8
1990
1991 12.8
1992 13.2
1993
1994 12.1 7.3
1995 13.5
1996
1997 13.4
1998 15.1
1999 8.3 9.2
2000 14.5
2001 15.0
2002
2003 13.7
2004 8.9 9.7
2005
2006 14.2 2007
2008
2009 15.7 8.5 9.9
2010 2011
2012 16.3 2013
2014 7.9
全国消費実態調査
表3 現役世代の相対的貧困率の推移(%)
注1:現役世代の年齢は、OECDおよび駒村他(2017)は18歳~64歳、小塩(2010)は世帯主の年齢が40~
59歳、阿部(2006)は20~59歳である。
注 2:OECD には厚生労働省「国民生活基礎調査」に基づく推計結果が、OECD Income Distribution Databaseに登録されている。
所得再分配 調査
全国消費 実態調査
OECD 小塩
(2010)
阿部 (2006)
駒村他 (2017)
1983 10.3
1984
1985 10.6
1986 9.1
1987 1988
1989 11.0
1990 1991
1992 10.3
1993
1994 11.9 6.7
1995 11.0
1996
1997 10.2
1998 12.1
1999 7.2
2000 13.6 11.0
2001 11.9
2002
2003 12.3 10.8
2004 7.7
2005
2006 13.4 11.3
2007 2008
2009 14.4 8.2
2010 2011
2012 14.5 2013
2014
国民生活基礎調査
表4 高齢者の相対的貧困率の推移(%)
注1:高齢者の年齢は、OECDおよび駒村他(2017)は65歳以上、小塩(2010)は世帯主の年齢が60歳以上
である。橘木・浦川(2006)では男65歳以上、女60歳以上の者のみで構成するか、または、これに18 歳未満の者が加わった世帯と定義されている。
注 2:OECD には厚生労働省「国民生活基礎調査」に基づく推計結果が、OECD Income Distribution Databaseに登録されている。
全国消費 実態調査
OECD 小塩
(2010)
阿部 (2006)
橘木・浦川 (2006)
駒村他 (2017)
1983 9.1
1984 1985
1986 16.7
1987 1988
1989 20.2
1990 1991
1992 20.4
1993
1994 14.8
1995 19.6 33.0
1996
1997 23.5
1998 20.7 30.9
1999 11.9
2000 22.0
2001 20.1
2002
2003 21.7
2004 11.7
2005
2006 21.7 21.7
2007 2008
2009 19.4 10.9
2010 2011
2012 19.0 2013
2014
国民生活基礎調査 所得再分配調査