小学校における受動歩行模型の製作実践
著者 松永 泰弘, 芹澤 沙季
雑誌名 技を媒介とした学びに熱中する子どもの育成プログ
ラム ; 2010
ページ 19‑26
発行年 2010‑03‑31
出版者 静岡大学教育学部
URL http://hdl.handle.net/10297/7176
小学校 における受動歩行模型の製作実践
技 術 教 育 講 座
松 永 泰 弘
芹 澤 沙 季
1.は
じめ に「科学技術基本計画」では
,も
のづ く りを担 う人材 を養成・確保す るため,幼
い頃か ら ものづ く りの面 白さに馴染み,創
造的な教育 を行 い,子
ども自らが知 的好奇心や探求心 を 持 って,科
学技術 に親 しみ, 目的意識 を持 ちなが らものづ く り,観
察,実
験,体
験学習 を 行 うことによ り,ものづ くりの能力,科
学的に調べ る能力,科
学的な ものの見方や考 え方,科学技術 の基本原理 を体得で きるよ うにす ることが強調 されてい る。
この よ うな背景の下、小学校学習指導要領理科 の物質・エネル ギーの分野では、振 り子 の運動 にかかわ る条件やて この要因や規則性 に 目を向けなが ら調べ
,見
いだ した問題 を計 画的に追究 した りものづ く りを した りす る活動 を通 して,物
の変化 の規則性 についての見 方や考 え方 を養 うことを 目指 してい る。本実践 では、振 り子 の運動や て この原理 、位 置エネル ギー な どを簡 単 に、感覚的 に試行 錯誤 しなが ら学ぶ ことのできる教材 として、木材 とペ ッ トボ トル の
2つ
の材料 を使 つた受 動歩行模型 を用 いた授 業 を行 い、子 どもた ちの道具や材料 に対す るものの見方 の変化 、教 材 としての可能性 を探 る とともに、教材 を開発 し、実践 に TAと して参加す る学生の教材 開 発能力、教育力、観 察力 の育成 につなげる。2.受
動 歩 行 模 型 の 製 作使用する材料・道具の異なる2つの受動歩行模型(図 1,2)の製作を小学校理科5,6年の授 業で実施 し、技術的要素、学習内容が適切であるか、材料や道具の違いによる影響な どに ついて考察、検討する。
図
1
木製受動歩行模型図
2
ペットボ トル受動歩行模型2.1
木製模 型15×45× 1511111の木 片
(2個
)、【材料】82× 60×1511111の木片、25× 45× 15111111の 本片
(2個
)、洗濯ばさみ、金属の棒、黒いゴム
(2個
)【工具】ボン ド、工作マ ッ ト、小刀
【製作手順】
1.2組
の木片で2本
の足をつ くる。2.後
ろ足をシャフ トとゴムを使 って取 り付ける。3.前
足をボン ドで取 り付ける。4.足
の底がなめらかにカーブす るように小刀で削る。5。 洗濯ばさみを取 り付ける。
2.2
ペッ トボ トル模型、15×45× 15 11ullの本片、ね じ、
15×25× 15 nIIlの木片
(2個
)【材料】5× 15× 15 mmの木片、
金属の棒、黒いゴム
(2個
)、 鉛筆、ペ ッ トボ トル図
1
木製 受動歩行模 型【工具】ボン ド、工作マ ッ ト、小刀、キ リ、
ドライバー
【製作手1員】
1
小型木片の指定位置にキ リで深 めに穴をあける。2 2組
の本片で2本
の足をつ くる。3
ペ ッ トボ トルの指定位置3か
所にキ リで穴をあける。4
足の底がなめらかにカーブす るように小刀で削る。5
穴が左上になるように後ろ足を取 り付ける。6
前足をね じで取 り付ける。7
鉛筆 とキャップを取 り付ける。3
実 践31
実践概要【場所・対象】
浜松テクノフェスタ 由比小学校
千代田東小学校 大河内小学校
(PowerPoint)
小学校第3〜
6学
年 小学校第6年
生 小学校第5学
年 小学校第4〜6学
年 計 189名【総時間数】
1時
間程度 (浜松テクノフェスタ)45分
×2(由
比小学校・千代 田東小学校・大河内小学校)【題 目】自分だけのアシモ くんをつ くろ う!
「
2組
の本片で2本
の足をつ くる。」 とい う工程で、他の工程 をしているときに、ボン ド の接着が遅ため木片が とれて しまい、困難 さを感 じる生徒がた くさんいたので、本片を先 に削った後、ボン ドで取 り付けるとい うように、手順を変えて製作を行つた。それにより、作業がスムーズに行われた。
【場所・対象】 折戸生涯学習公民館
小学校第4〜
6学
年 賤機 中小学校小学校第5・
6学
年計 27名
【総時間数】
2時
間程度 (折戸生涯学習公民館)45分
×2(賤
機 中小学校)【題 目】ペ ッ トボ トルを歩かせ よう!
図
3
ペ「ペ ッ トボ トルの指定位置
3か
所 にキ リで穴 をあける。」 とい う工程 でペ ッ トボ トル が不 安定なため、穴があけに くく、また、「 ペ ッ トボ トル の4つ
穴が開いてい る ところか らカ ッターで切 つて大 きな穴 を開ける。」 とい う工程 では、カ ッターナイフの差 し込みに力が必要 であ り、印通 りに切 り抜 くことが難 しいので、失敗 しやす く危険 とい うことがわかつたので、キ リでペ ッ トボ トル に穴 をあける際 には、ペ ア制 に し、ペ ッ トボ トル を抑 えて もらつた。
さらに、カ ッターで大 きな穴 をあけるのは、失敗 しやす く危険 なため、あ らか じめ穴 をあ けたペ ッ トボ トル を用意 した。 その結果、ペ ッ トボ トル を抑 えて もら うことに よ り、ペ ッ トボ トルが安定 し、穴があけやす くなった。
また、カ ッター を使 わないので、スムーズに 作業で きるよ うにな り、大幅 な時間短縮 になった。
図
5
完成 した木材製模型図
6
ドライバーで前足を固定図
7
完成したペットボ トル模型3.2
製作 中の児童の様子(1)導
入まず 、「歩行」 について意識 して もら うために、「学校 に どの よ うに して登校 したか」「二 足歩行す るものは人 間のほか に何 があ るのか」 を尋ね、三足歩行 ロボ ッ ト「アシモ」 につ いて説 明 し、アシモが歩行 した り走 る動画、様 々な受動歩行模型 の歩行動画 を提示 した。
生徒か らは、「ス ゴイ !」 「こんなもので も歩 くの?」 な どの声 があが り、三足歩行 に対 し ての関心が見 られ た。 その後 、色 々な もの を歩 かせ るこ とがで きる とい うことを理解 して もらった上で、模型 の製作 に取 り組 んだ。
(a)アシモの歩行 日走行動画 図8
(b)モアイ像模型の歩行動画 導入 で提 示 した歩行動画
図
4
ノ1ヽ刀による製作図
7
完成 したペ ッ トボ トル模型r L
L
︲ ■F F
A●
(2)製
作活動【足 をボ ン ドでつ ける作業】
ボ ン ドをつ ける とい う工程 では、生徒 のほ とん どがボ ン ドをつ けす ぎて、乾かない うち に触 って しま っていた ので、足 がす ぐに とれ て しまっていた。 しか し、少量 のボ ン ドのほ うが乾 きは速 く、上手 に くつつ くとい うの に気付 いた生徒 は、多 く出 しす ぎて しまった時 に、テ ィ ッシュな どで余分 なボン ドをふ き とってい る姿がみ られた。
【小刀 を使 う作業 】
使 用頻度 の少 ない小刀 を使用 した削 り作業 では
,道
具 の扱 い に くい様 子 が見受 け られ た が,使
い'貫れてい く うちに うま く削 るこ とができていた。【ね じを取 り付 ける作業 】
ね じを取 り付 け る穴が小 さいた め、つ けるの に苦労 してい る生徒 が多 くいた。 しか し、
ドライバー を使 つて工夫 して取 り付 けてい る生徒 がみ られた。
(3)歩
行 の観 察完成 した模型 を斜 面 (坂
)に
乗せ 、歩 かせ るこ とで歩行 の様子 を観 察 して も らった。 お も りの位 置 を変 える とど うな るか、 ど うした らもつ と速 く歩行す るこ とがで きるのか、斜 面 の角度 を変化 させ る とど うな るか、 な ど各 自で観 察 し、 どの よ うな仕組 み で歩行 してい るのかを感覚的 に理解 しよ うとす る様子 が見 られた。模型 が歩 いた ときには、「す ごい !歩 いた
!Jや
「かわいい !」 とな ど、喜ぶ生徒 が大勢 いた。 また、 うま く歩 かない生徒 に ど うすれ ば歩 くかア ドバイ ス してい る姿 もみ られ た。(4)アンケー トの実施
ア ンケー トの質 問に選択式 、記述式 で答 えて も らった。危 ないや怖 い な どの漢字 が読 め ない生徒 が多 くみ られ た。 そ のため、小学生 の学習 レベル を理解 し、仮名 を使用 しなけれ ばな らない と感 じた。
33
ア ンケー ト結果授業後 にア ンケー トを行 つた。 ア ンケー ト項 目と生徒 の意見 を以下に記す。
① ど うや つて歩 くか、なぜ歩 くか、家族 に説 明 してみま しょう。
「支点・力点・作用点が関係 してい るJ、 「て この原理が関係 しているJ、 「振 り子の運動 が関係 してい る」、「重心が関係 してい るJ「坂 (位置エネル ギー
)が
関係 してい る」(図 9)(b)支
点 、 力 点 、作 用 用 いた の記 述②全体の感想 を述べて ください。
「楽 しかった」、「難 しかった」、「うまくできてよかつたJ、 「歩いて うれ しかったJ、 「作 るのが大変だつたJ、 「こんなものでも歩 くなんてびつ くりした、す ごい と思ったJ、 「おも しろかつたJ、 「歩 く仕組みについて理解 したJ、 「また作 りたい」、「小刀が怖い・危ない と 思つた」
④他の物 を使つて何かつ くりたいですか。具体的に書いて ください。
今回はロボ ッ トとい う記述があるものに着 目した。(ロボ ッ トは車、船、ロケッ トを含む。)
→・ ― り
/・ょ ,マ
らご‐ イζ
エネルギーに関する記述
図
9
生徒の回答1■ 、 ■ ・ .,` キ
:、ここ■
=.==卜 ず │か 、 ■摯 fち ヽ ` マ
【木製模型】
「ペ ッ トボ トル」、「缶J、 「木」、「い らなくなったもの」、「段ボール」、「紙J、 「電気 (電池)J
「牛乳パ ック」、「モーター」、「フィルムケース」、「箱」
【ペ ッ トボ トル】
「缶J、 「ペ ッ トボ トル (今回作つたものとは違 うもの)J、 「箱J、 「牛乳パ ック」、「いらなく なったものJ、 「木」、「モーター」
③飲み終わつたペ ッ トボ トルについて、 どのような使い道が考えられますか。
児童の回答か ら、大きく 「ロボ ッ トJ、 「リユースJ、 「リサイクル
Jの 3つ
にわけてアン ケー トの集計を行つた。集計結果を図 10に 示す。本製模型 とペ ッ トボ トル模型 を使用 した 実践を比較す ると、やは リペ ッ トボ トル模型の実践のほ うがペ ッ トボ トル をロボ ッ トにす るとい う回答が多 く、使用す る材料 を意図 して選ぶ ことにより、子 どもたちの身近なもの に対する見方に変化が現れると思われる。(a)木
製模型を製作 した生徒(b)ペ
ットボ トル模型を製作 した生徒 図10 使用済みペットボ トルの使い道また、授業仝体 についての印象 を知 るために 「楽 しく作 るこ とができた」「作 るのが難 し かつたJ「歩 かせ ることがで きた」「また参加 したい」とい う問いに対 し、そ う思 う 。思わな い を
5段
階で評価 して も らった (図 11)。「楽 しく作 ることができたJ「また参加 したい」とい う問いに対 しては
9割
を超 える生徒 がそ う思 う、ややそ う思 うと回答 した。 また、「作 るのが難 しかったJと
い う問い に対 して 約 半数 の生徒 がそ う思 うと回答 してい る点か ら、難 しい製作で あつた とい える。しか し、「歩 かせ ることがで きたJと い う問い に対 しては、約8害Jの生徒 がそ う思 う、ややそ う思 うと回 答 した こ とか ら、難 しい製作で も歩行 させ ることは可能 であつた こ とがわか る。次 に、小刀 を使 つた ことがあ るか ないか を問い、ガヽ刀 の印象 を、「危 ない」、「肺い」の観 点か ら、
5段
階で評価 して もらつた。楽 し く作 る ことがで きた 作 るのが難 しか った
歩 かせ ることがで きた また 参 加 した い
甕宅 う思 う 獲や やそ う思 う
●ど ちらでもない 際,多 ま り思わない
●Iわない
図 11 実践に対する評価
生徒 の約
6割
が「4ヽ刀 を使 つた ことがあるJと 回答 し、思 った よ りも多い結果 となった。また、危 ない と思 ってい る人 が
7割
、 昨い と思 つてい る人が5割
程度 となった。小刀 を使 つた こ とのある、ない に関係 な く、危 ないや怖 い と思 つてい る人が多い と感 じた。 だが、授 業が終 わった後 は、危 ない と思 ってい る人 は約
6割
、怖 い と思 つてい る人 は4割
程度 に 減 っていた (図 12)。使用 目的や使用方法 を誤れ ば他人 を傷つ けるよ うな危 険 な道具で あつて も、危険 とい う 意識 を持 ちなが ら怖 さを克服 してい く過程 が見 られ 、道具の使用経験 が重要 な役割 を果 た す と考 え られ る。
危 ない く授業前〉 危 ない (授業後)
怖 い (授業前 〉 怖 い (授業後)
緩ら そう思 う 躍・Lや やそ う思 う
7=ど
ちらでもない 華::あ ま り思わない 婆:思わない図12 小刀 に対す る感情
ざ
︐ ・
硬ヽ 争 隷油載 が` し ` ` tけ と ― 、 〕 く
34
考察実践中の生徒の様子お よびアンケー ト結果 を参考に
,実
践に対 して以下のよ うな考察を 行つた。(1)導
入により、「アシモ」や様々な受動歩行模型の歩行 を見てもらうことで、今回の実践 内容のイメージが しやす く製作意欲がわいた と考えられ る。(2)「
楽 しくつ くることができた」、「また参力日したいJが
多いことか ら、二足歩行模型ヘ の興味関心を持つて取 り組 めた。(3)「 作るのが難 しかつた」、「歩かせ ることができた」の項 目か ら、少々難易度はあるが、
誰でも製作可能な模型であることがわかつた。
(4)授
業前は大半が 「危ない」「怖い」 と思つていたが、授業後はその数が減 り、小刀な ど の危険な道具 も適切な使い方 を覚えれば、小学生でも安全に使用できることがわかつた。また、道具の使用経験が道具に対す る見方の変化に重要な役割を果たす と考えられる。
(5)道
具に対す る経験回数を増やす ことで、慣れ とともに危険に対す る対処への理解が進 み、使いこなす ことができるようになつている。(6)身
近なものを利用 したものづ くりを体験す ることで、いままで捨てていたものを何か に利用す ることができないか と思 うようになるなど、子 どもたちのものに対す る見方・考 え方に変化が現れるといえる。4
ま とめ実践は、216名 に実施 し、アンケー トや授業の様子か ら子 どもたちの興味関心、製作前後 の変化について比較・考察 し、以下の結論 をえた。
【木材 とペ ッ トボ トルの比較】
・木製模型 は、製作が簡単だが、コス トがかかるとい う問題点がある。ペ ッ トボ トルは、
本材 と比べ ると製作が難 しいが、アンケー ト結果か ら、小学生の感 じる難易度は、本材 と あま り変わ らなかった。
・材料にペ ッ トボ トルな どの普段な ら捨てて しま うよ うなものをものづ くりに活用できる ことがわかった。ペ ッ トボ トルに対す る子 どもたちの意識に、製作後、違いがあらわれた。
・コス トがかか らない、難易度があま り変わ らない とい う面で、新たに取 り組んだペ ッ ト ボ トル模型が、教材 にな り得 る可能性があることがわかった。
・時間の都合か ら、材料 をある程度加工 して、実践を行つた。ペ ッ トボ トルの模型は、精 度が要求 され るので、準備 に時間を要す る。それ をすべて、生徒が製作す るとなると、中 学生でも難 しい教材 となる。
【二足歩行模型について】
・改良 したペ ッ トボ トル模型 は、重心の位置 をかえることができるので、小学生が歩行 さ せやす くなったことを示 した。
・二足歩行模型は、製作が簡単なので、小学校高学年でも十分に製作ができる模型である が、振 り子の運動やてこの原理、位置エネルギーな どを利用 した動作原理 も感覚的に理解 が可能であることを示 した。
・ この模型 は安価で手軽 な素材 を使用 しているが、小学生の興味関心 を十分 にひ くもので あ り、 ものづ く りの教 材 として有用 であ るこ とを提示 した。
最後 に、本実践 の一部 は科学研 究費補助金 (21500869)の 助成 を受 けた ものである。
製 作 実 践 に 取 り組 ん で (総合科学専攻
2年
芹沢沙季)受動歩行教 材を改良 。開発 し、実践 に取 り組 んでみて、子 どもた ちに対す る観 察力 な ど、
感想 も含 め 自分 の中に以下の よ うな変化 があつた と感 じています。
・ 準備 をす る段階で、
1時
間程度 で子 どもた ちが完成 で きる教 材にす るた めに、 どこまで 準備 すれ ば よいのか を考 える力 がついた。・何 回かの実践 を経て、子 どもたちが難 しい と思 うところがわかるよ うにな り、子 どもの 反応 が予測 できるよ うになった。
・ 生徒が興味を持 ちかつ、新学習指導要領理科の内容 にそ うよ うに教材を開発 しなければ な らない ことがわかった。
・適度な難易度があつて誰で も歩かせ ることができる教材 にす るために改良をした。
・授業の進 め方について、 どうして も個人の進度がバ ラバ ラになつて しま うので、ちゃん とした確認 が必要 だ と思 つた。そのた めには、生徒 同士が とな りの人 の進度 をみてあげる よ うにす るな どの工夫 が必要 である と感 じた。
・子 どもた ち と接す る時には、同 じ目線 で、顔 を見なが ら話 をす ると、子 どもたちに意見 が伝 わ りやすい と感 じた。
・ ど うや つた ら、児童たちが答 えやす く見やすいアンケー トをつ くれ るのか、考 えるのが 大変 だった。