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財務省委託研究

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Academic year: 2021

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(1)

財務省委嘱研究

わが国の国際収支における中長期的な分析

2003 年 3 月

(2)

研 究 組 織

(順不同・敬称略)

主 査:

伴 金美

(大阪大学大学院経済学研究科教授)

委 員:

若杉 隆平

(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授)

深尾 京司

(一橋大学経済研究所教授)

オブザーバー:

岩田

一政

(東京大学大学院総合文化研究科教授)

岡田 則之

(財務省大臣官房総合政策課調査企画官兼政策調整室長)

外部講師:

小野 善康

(大阪大学社会経済研究所教授)

大坪 滋

(名古屋大学大学院国際開発研究科教授)

事務局:

早坂 勉

(財団法人 財政経済協会 事務局長)

黒岩 美和子

(財団法人 財政経済協会 研究員)

杉村 和恵

(財団法人 財政経済協会 研究補助員)

(3)

平成14年度 「わが国の国際収支における中長期的な分析」研究会

第1回 平成14年9月30日 報告: 浅野 僚也 財務省国際局為替市場課国際収支室室長 「最近の国際収支の動向等について」 伴 金美 大阪大学大学院経済学研究科教授 「経常収支モデルによるシミュレーション」 第2回 平成14年10月25日 報告: 深尾 京司 一橋大学経済研究所教授 「東アジアの貿易パターンと直接投資」 第3回 平成14年11月29日 報告: 大坪 滋 名古屋大学大学院国際開発研究科教授 「日本の経常収支動向に関する諸考察:アジア開発途上諸国との関係に注目して」 第4回 平成14年12月17日 報告: 小野 善康 大阪大学社会経済研究所教授 「景気と国際金融−不況動学の視点」 第5回 平成15年1月28日 報告: 若杉 隆平 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授 「国際貿易とフラグメンテーション」 第6回 平成15年2月28日 報告: 伴 金美 大阪大学大学院経済学研究科教授 「経常収支モデルの推定とシミュレーション分析」 第7回 平成15年2月28日 報告: 岩田 一政 東京大学大学院総合文化研究科教授 「アメリカの経常収支について」

(4)

目 次

第 1 章 フラグメンテーションと国際貿易

−貿易理論の新たな視点−

・・・・・・・・・・・・

若杉 隆平 1 1−1 はじめに 1 1−2 国際貿易のパズル 2 1−3 フラグメンテーションと貿易拡大 3 1−4 フラグメンテーションとサービス・リンク・コスト 6 1−5 フラグメンテーションと中間財の需給 7 1−6 フラグメンテーションと産業・企業特性 11 1−7 フラグメンテーションと生産パターン・所得分配 13 1−8 むすび 18

2 章 東アジアにおける垂直的産業内貿易と直接投資

・・・・・・・・深尾 京司・石戸 光 21 伊藤 恵子・吉池 喜政 2−1 はじめに 21 2−2 東アジアにおける垂直的産業内貿易・概観 22 2−3 垂直的産業内貿易に関する理論分析 37 2−4 日本の産業内貿易の決定要因:電気機械産業のケース 46 2−5 むすび 52

3 章 日本の経常収支動向に関する諸考察:

アジア開発途上諸国との関係に注目して

・・・・・・・・・・・・大坪 滋 65 3−1 はじめに 65 3−2 S−I サイド(貯蓄・投資バランス)の議論 68 3−3 X−M サイド(貿易動向)の議論 74 3−4 S−I サイドと X−M サイドをつなぐ海外直接投資 86 3−5 むすび 94

(5)

第4章 日米景気の非対称な動きに関する理論的分析

・・・・・・・・・・・・小野 善康 97 4−1 はじめに 97 4−2 不況定常状態と経常収支 98 4−3 景気の国際波及 103 4−4 経済政策の国際的波及効果 105 4−5 結論 108

5 章 アメリカの経常収支赤字の是正策

・・・・・・・・岩田 一政・服部 哲也 111 5−1 はじめに 111 5−2 貯蓄・投資バランス論から見た米国の経常収支赤字の動向 115 5−3 米国の資本収支構造の変化 117 5−4 開放経済の下での成長論から見た日米経常収支の決定要因 119 5−5 米国の経常収支赤字の維持可能性 124 5−6 むすび 128

6 章 経常収支モデルの推定とシミュレーション分析

・・・・・・・・・・・・伴 金美 131 6−1 最近の経常収支の動向 131 6−2 経常収支モデルの推定 133 6−3 シミュレーションによる経常収支変動の要因分析 148 6−4 経常収支の中期展望 154

(6)

1 章 フラグメンテーションと国際貿易−貿易理論の新たな視点−

若杉 隆平*1

1−1.はじめに

近年の国際貿易を見ると、経済規模の拡大に対して世界貿易の規模が顕著に増加してい るという特徴が見られる。例えば、GDP に対する貿易額の比率は関税率が低下するに従い 増加するが、先進国においては、その変化幅は非線形に増加するという現象が見られる。 Yi(2003)は米国のデータを基にして「(図1−1が示すように)米国の関税率は 1980 年代 以降、6%から 3%の間で推移しており、大きな変化を示していないにもかかわらず、経済 規模に対する輸出、経済規模に対する製品輸出は、いずれも非線形に増加しており、関税 率の変化に対する貿易量の変化の弾性値は急激に高まっている。このような世界における 貿易量の非線形的な増加の一部は、関税率の低下によって説明することが可能であるが、 それは限定的であり、関税率の低下と最終財貿易の拡大を取り扱う伝統的な貿易理論によ って現在生じている現象を十分に説明することは困難である」旨を指摘している。また、 このような貿易拡大の要因は、「フラグメンテーション」によるものであることが、R. Jones やH. Kierzkowski をはじめ多くのエコノミストによって指摘されている。本稿では、近年 の国際貿易の拡大をフラグメンテーションという視点から捉え、そのメカニズムに関する 貿易理論面での意味を述べるとともに、日本の貿易データを基に、フラグメンテーション の進展がもたらす経済的影響について展望することを目的とする。 図1−1.米国の関税率に対する貿易の弾性値 (出所)Yi(2003) *1横浜国立大学大学院国際社会科学研究科

(7)

1−2.国際貿易のパズル

最初に、国際貿易において見られるいくつかの特徴を指摘しておきたい。図1−2は、 1950 年以降の世界の貿易の状況について示したものである。経済規模に対する世界全体の 貿易量は、1970 年中頃まではほぼ一定に推移していたが、1970 年代後半から 1980 年代中 頃にかけて緩やかに上昇し始め、1980 年代後半から 2000 年にかけて急激に上昇している。 世界のGDP に対する輸出額の比率(1990 年=1)の変化を時系列的に数値によって示そう。 1970 年から 1985 年までの 15 年間に 0.2 から 0.6 に緩やかに増加してきたが、1985 年か ら2000 年までの 15 年間には 0.6 から 1.6 に急激に増加している。マクロ経済学的に言え ば輸入は国民所得の関数であるため、貿易額は経済規模によって決定されると考えられる。 経済条件が変わらなければ、貿易量/国民所得の比率が極端に変化することはない。従って、 この比率が急激に高まっているのは、関税の引き下げなど経済規模の拡大以外の要因によ るものに他ならない。 図1−2.世界の貿易(Export/GDP)の変化 0 .0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 .0 1 .2 1 .4 1 .6 1 .8 1950 1952 1954 1956 1958 1960 1962 1964 1966 1968 1970 1972 1974 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 1 9 9 0 = 1 .0 (出所)UNCTAD 統計より作成。 ここで日本の貿易量の拡大と関税率の変化の関係を観察してみよう。1980 年以降の日本 の輸出入の変化と関税率の変化の関係を見ると、関税率は3%程度でそれほど変わっていな い。一方、2000 年の輸出入額は 1980 年の輸出入額のほぼ 3 倍に達しており、大きく増加 している。輸出額は世界経済の規模、輸入額は日本経済の規模の変化に伴って変化するこ とから、その影響を除去するために輸出入額の対GDP 比を観察すると、2000 年の輸出入 量の対GDP 比は 1980 年の約 1.5 倍に達している。このことは、近年の貿易額の増加は経 済規模の影響で説明することができないことを意味する。すなわち、近年の貿易の拡大に は、経済規模の増加や関税率の引き下げによる効果では説明しきれない部分があることに 注意しておきたい。

(8)

Yi(2003)と同様に、1980 年から 2000 年における日本の輸入額/GDP 比と関税率の相関関 係を見ることによって、上記のことをさらにはっきり確認することができる。図1−3 が示 すように、1980 年代には関税率は低下傾向にあるが、輸入の対 GDP 比はそれほど大きく 変化していない。逆に、1990 年代以降では、関税率に顕著な低下が見られないが、輸入の 対GDP 比は非線形的に増加している。こうした傾向は、Yi(2003)が示した 1960 年代から 1990 年代にかけてのアメリカの輸出の対 GDP 比と関税率の関係と類似している。 図1−3.輸入の GDP 比と関税率 4% 5% 6% 7% 8% 9% 10% 11% 12% 13% 2% 3% 4% 5% 6% 7% 8% 関税率 輸入/GD P (出所)財務省資料、国民経済計算、国際収支統計より作成。 この論文では、統計データ面から見られる近年の国際貿易の拡大について、貿易理論面 からどのように理解することができるかを論ずることにしたい。

1−3.フラグメンテーションと貿易拡大

1980 年代以降の貿易の拡大を説明するものとして、生産要素の賦存状況が類似した国と 国との間で生産要素集約度の類似した最終財が取引される「産業内貿易(intra-industry trade)」の理論がある。この理論は、財の豊富なバラエティーを求める消費者の嗜好と差別 化された財における生産の規模経済性・不完全競争を仮定して先進国間の貿易の拡大を説 明する。例えば、自動車を例に取り上げよう。大型車と小型車、高級車と大衆車という形 で、先進国間では生産要素集約度の類似した財が取引されている。しかも、このような財 の取引は世界貿易の中で大きな割合を占めることが指摘されてきた。こうした財の取引は いわば「差別化された最終財」の取引である。しかし、近年に見られる米国のメキシコ・

(9)

東アジアとの貿易の拡大、日本と中国・台湾、アジア諸国との貿易の拡大などは、生産要 素の賦存状況が類似した国と国との間で生産要素集約度の類似した最終財が取引される現 象と異なり、生産要素集約度が異なる部品・サービスが中間財として取引される現象と考 えられる。 このような現象を説明するものとして、産業内貿易に替わって、生産要素の賦存状況が 異なる国と国との間で生産要素集約度の異なる中間財・部品が取引される「製品内貿易 (intra-product trade)」が新たに指摘されている。現実に、資本豊富国・熟練労働豊富国で ある米国や日本における本社や生産プラントと未熟練労働の豊富なメキシコ、中国、東ア ジアなどの国に位置するプラントとは、同一最終財を生産する生産工程として連結されて いる。従って、それぞれの国の生産プラントは、最終財を生産する一つの生産工程として 理解される。米国・日本で生産された中間財は国際間で取引され、最終財の生産過程に投 入され、生産された最終財が再び国際間で取引されるという形で垂直的な国際分業が実現 し、貿易が拡大する。 図1−4.フラグメンテーションとサービス・リンク費用 日本 中間財 貿易統計 サービス・リンク費用 中国 労働集約財 資本・労働 国内販売 最終財 貿易統計 日本・その他 輸出 (出所)若杉(2003)

(10)

このように、生産工程が細かく分断されていくことにより垂直的な生産の特化が生じ、 それによってそれまでは国内でしか取引されていなかったものが国境を越えて取引される ようになる。その結果が、統計面から見ると国際間の貿易量が飛躍的に増加する現象とな って現れる。この点は従来の伝統的な貿易理論において十分に取り扱ってこなかった現象 である。 例えば、図1−4を用いて、フラグメンテーションの発生を最近の日本と中国との間で の輸出入の増加に当てはめてみよう。ここでは、日本において中間的な資本財を生産し、 それを中国に輸出し、中国の資本や労働、あるいは、中国国内の中間財を投入して最終財 を生産し、生産された製品を日本やアメリカに輸出するという生産プロセスを想定してい る。フラグメンテーション前では、中間財の生産から最終財の生産までの生産工程が1国 内で完結しているため、財生産の中間段階での国際的取引はなく、国際貿易の対象とはな らない。しかし、フラグメンテーション後には、日本から中国への中間財の輸出、中国か ら日本あるいはアメリカへの最終財の輸出が貿易統計に計上されることになる。つまり、 これまで計上されなかった取引が貿易統計に計上されることになる。近年の貿易量が非線 形的に増加するという現象は、フラグメンテーションが進展することによる結果と考える ことができる。 それでは、フラグメンテーションがなぜ近年になって注目すべき現象として生じている のだろうか。この要因として、サービス・リンク・コストの低下と規模経済性の実現の2 点を挙げておきたい。ある国から外国へ資本集約的な中間財が輸出され、輸出先国におい て中間財と現地での組み立てサービスが組み合わされて最終財が生産されることを想定し よう。その中間財に組み立てサービスを組み合わせるためには、中間財の輸送費用に加え て、中間財生産国との間で技術的・経営上の情報のやり取りが必要とされる。つまり、フ ラグメンテーションには、多国間にまたがって分断された中間財の生産工程と最終財の生 産工程を接続させるためのコスト(ここでは「サービス・リンク・コスト」と称する)を 伴う。このコストが高ければフラグメンテーションは生じないということになる。つまり、 近年のフラグメンテーションの増加の要因としては、情報化、グローバル化に伴うサービ ス・リンク・コストの低下が挙げられる。例えば、通信費用の低下、輸送費用の低下、関 税・非関税障壁の低減、法制度の調和などによる取引費用の低下などがサービス・リンク・ コストの低下をもたらす要因となっている。 さらに、サービス・リンク・コストの低下により生産工程が分断され、製品内の分業が 生ずると、中間財に関する世界市場が出現する。企業内でのみ行われてきた中間財の供給 がオープンな世界市場において需要されることになる。この結果、その中間財の生産に関 して規模の経済が実現され、生産コストが低下してゆく。このことは、例えば、自動車の エンジン、パソコンの液晶ディスプレーなどを想定するとわかりやすい。つまり、製品内 分業の進展に伴い実現される規模経済性が、フラグメンテーションを一層促進させる効果 を有する。

(11)

このようにサービス・リンク・コストの低下と規模経済性の相乗効果によりフラグメン テーションが進み、それが多層的な世界貿易を生み出していることが、貿易量を非線形的 に拡大している原因である。地理的に1国内あるいは1工場内で一貫した生産が行われる ときには、中間財が国際市場において取引されることはない。一旦、生産要素が投入され ると、生産工程を経て、最終財が財市場へ供給されることになる。しかし、フラグメンテ ーションが生じると、最初の生産工程に生産要素が投入され、中間財が生産される。それ が市場で取引されて次の生産工程に供給され、その生産工程で組み立てサービスなどと結 合されて最終財が生産され、最終財が財市場へと供給されることになる。サービス・リン ク・コストの低下と中間財に関する規模経済性の実現はフラグメンテーションの進展にと って重要なファクターである。

1−4.フラグメンテーションとサービス・リンク・コスト

ここで、サービス・リンク・コストが変化するに伴いフラグメンテーションがどのよう に決定されるかを、Jones and Kierzkowski (2001)に基づく簡単な部分均衡モデルによって 述べてみよう。 ある財を生産する第i 番目のプラントの総費用関数(TCi(q))を次のように記述する。 ここで、qは財の生産量を表す。 ) ( ) (q q S i TCi = bi + i=1,2,3 (1.1) 総費用関数は、固定的なサービス・リンク・コスト( )と生産に伴う可変費用部分 ( )から成ると仮定する。生産に伴う限界費用は一定であるが、プラント間でレベルに 差があると考える。ここで第 1 番目のプラントは一貫生産と仮定する。すなわち、S(1)=0 である。第2 番目のプラントは、国内ではあるが地理的に遠隔な地域に位置し、第 3 番目 のプラントは海外に位置すると仮定する。固定的なサービス・リンク・コストはS(2)<S(3) の関係があり、限界費用は となることを仮定しよう。すなわち、フラグメンテ ーションが進展すればするほど、つまり、生産拠点の数が増えれば増えるほど、限界費用 のレベルは小さくなる一方で、サービス・リンク・コストは増加すると考える。

)

(i

S

q i b 3 2 1 b b b > > 横軸に産出量、縦軸に総費用をとったグラフ軸で(1.1)式の総費用関数は図 1−5 で表され る。生産拠点が 1 の場合は、サービス・リンク・コストがゼロなので総費用関数は原点を 通るが、限界費用が高いため傾きが急な直線となる。生産拠点が 2 の場合は、サービス・ リンク・コストがゼロではないが、生産拠点が 3 の場合に比べると低いため、縦軸の切片 の位置は低い。他方、限界費用は生産拠点が 1 の場合よりも低いので、その傾きはややな だらかな直線になる。生産拠点が 3 の場合は、サービス・リンク・コストが高いので、縦 軸の切片の位置は高い。一方、限界費用は 3 つのケースの中で一番低いので、その傾きは 最もなだらかな直線となる。

(12)

図1−5.フラグメンテーションと総費用関数 総費用 TC(1) TC(2) TC(3) S(3) S’(3) S(2) 0 産出量 TC’(3) このグラフから、どのようなプラントを組み合わせて生産すればよいかは生産量に応じ て変化していくことがわかる。生産量が少ない場合は、国内 1 箇所のみに生産拠点を設け 一貫生産する方が総費用を低く保つことになるが、生産量が増えるに従って生産プラント を国内の限界費用の低い地域に移転する方が総費用を低くすることが可能となる。さらに 生産量が増えると、サービス・リンク・コストが高くても、限界費用が低い地域にプラン トを移転する方が平均費用を低くすることが可能となる。生産量が大きい場合には、限界 費用の低減効果が大きい第3 番目のケースが選ばれることになる。 ところで、プラント間を接続することに伴って生ずるサービス・リンク・コストは、輸 送手段・情報通信手段におけるイノベーションが進展することによって低下する。このこ とは、固定費用の低下によって示される。すなわち、第 3 番目のケースに関する総費用曲 線が下方へシフトすることで代表される。このとき、生産量が以前よりも少ない場合にお いても生産拠点のフラグメンテーションを進める方が総費用を低くすることが可能となる。 このように、サービス・リンク・コストが低下すればするほど、限界費用の安い海外に生 産拠点を設け、生産工程を分断する形で生産が行われることになる。

1−5.フラグメンテーションと中間財の需給

ここで、フラグメンテーションによって分断された生産工程に投入される中間財がどの 地域に立地するプラントから需要されるか、また、そのとき需要と供給の均衡はどのよう に決定されるかをChen, Qiu and Tan (2001)をもとに部分均衡分析の枠組みで考えてみた い。以下では最終財(例えば、繊維製品)を生産する日本企業が中間財(例えば、綿糸)

(13)

を調達するケースを念頭に置いて考えよう。 日本企業が中間財を国内企業から調達する場合、すなわち、国内で中間財を供給する企 業が存在するケースから出発する。中間財は国内の生産要素(労働( )のみと仮定する) を投入することにより生産され、生産量は一定の技術的関係を示す生産関数(

l

l

b

)の下 で決定されると仮定する。この場合、企業は中間財の市場価格、投入する生産要素の価格 (ここでは労働賃金)を所与として、利潤を最大化するように中間財の生産量を決定する。 こうした国内企業の利潤(

p

)は、国内の中間財の市場価格(

p

)、その供給量(

x

)、労 働コスト、固定費用(

c

)によって表される。ここでは国内の労働賃金をニュメレール財と 考える。

l

x

=

b

(1.2)

c

l

l

p

-

-= b

p

(1.3) 次に、中間財を外国から調達することを想定しよう。外国企業による中間財生産は、国 内企業と異なる生産性を表す生産関数( * l bb )の下で生産されると仮定する。外国企業の 利潤(p )は、中間財の市場価格、その供給量( )、外国における労働コスト( )、外 国におけるプラントの固定費用( )から求められる。この場合、国境を超えて中間財を 取引することに伴い、関税や輸送費用などの何らかの障壁があれば外国企業の中間財価格 はその分だけ低下することになる。ここでは、そうした費用を自国の関税( )によって代 表させることにしよう。この費用は外国で生産される中間財を国内の生産工程に投入する ことに伴って生ずるサービス・リンク・コストと理解することができる。 * x* * w *

c

t

* *

l

b

x

=

b

(1.4) * * * * *

)

1

(

t

w

l

c

l

pb

-+

=

b

p

(1.5) 次に、国内の企業が海外子会社を設立し、そこで生産される中間財を国内の最終財生産 工程に投入する場合を考えよう。この場合には、海外子会社は自国内の生産技術を基にし て海外生産を行うため、海外子会社の生産技術( ** l eb )は外国企業の中間財生産において 採用される生産技術よりも高い効率性を発揮すると仮定する。また、外国企業の生産する 中間財を投入する場合と同様、国境を超えて中間財を取引することに伴い、関税や輸送費 用などの何らかの障壁があれば中間財価格はその分だけ低下することになる。ここでは、 そうした費用を自国の関税( )によって代表させることにしよう。

t

(14)

* * * *

l

e

x

=

b

(1.6) * * * * * * * * *

)

1

(

t

w

l

c

l

pe

-+

=

b

p

(1.7) それぞれの企業が生産する中間財は同一の質を有していると仮定すると、自国市場におい て決定される価格は共通である。このとき中間財の総供給は以下のように表される。

)

(

)

(

)

(

)

(

p

x

p

x

*

p

x

**

p

x

S

=

+

+

(1.8) 各企業の中間財の供給量は、それぞれの企業の利潤最大化条件を満たすように決定され る。すなわち、労働賃金、サービス・リンク・コスト、中間財の市場価格により決定され る。ただし、労働賃金は労働市場において決定され、サービス・リンク・コストは制度的 要因によって決定されると考え、両者は外生変数と考えることができる。他方、中間財の 市場価格は中間財の需要との均衡条件によって内生的に決定される。そして、中間財の需 要は最終財の生産によって影響される。 ここで最終財(

y

)は、一定の生産関数の下で中間財(

x

)と資本財( )の両方を投 入することによって生産されると考えよう。最終財を生産する企業は、所与の最終財価格 ( )と資本財価格(

k

q

r

)の下で利潤( )を最大化するように、最終財の供給量、中間 財・資本財投入量を決定する。これは、以下のように表される。

Õ

a a

-=

=

1

)

,

(

x

k

x

k

f

y

(1.9)

rk

px

k

x

qf

-

-=

Õ

(

,

)

(1.10)

)

(

r

r

0

v

k

S

=

-

(1.11) なお、資本財の供給関数は利子率の関数と仮定しよう。 以上から、中間財の需給均衡は、中間財を生産する生産技術の効率性、固定費用、賃金 率、国際間で取引を行うときのサービス・リンク・コスト、最終財の価格、資本財の供給 に伴うパラメータによって表されることになる。

(15)

) , , , , (p q v r r0 x xD = D (1.12) ) , , , , , , , , (p b e c c* c** w* t x xS = S b (1.13) S D

x

x

=

(1.14)

)

,

,

,

,

,

,

,

,

,

,

,

(

* ** * 0

r

r

v

q

t

w

c

c

c

e

b

x

x

=

b

(1.15) ここで、生産技術の効率性、固定費用、国際間で取引を行うときのサービス・リンク・ コストに注目しておきたい。中間財の供給関数と最終財の需要から導出される中間財の需 要関数が均衡する中間財生産量は、これらのパラメータによって決定される。また、中間 財の価格は内生的に決定されるため、どの企業が供給主体となるかがあわせて決定される。 この関係を図1−6によって示すことができる。 図1−6.中間財の需給均衡

x*(p) x**(p) x(p)

x

s

(p)

P2

P1

x

D

(p)

中間財(x)

(16)

1−6.フラグメンテーションと産業・企業特性

フラグメンテーションは産業間あるいは同一産業内であっても企業間で異なる。これは 生産技術の効率性や固定費用において差異があることがその原因に挙げられる。 日本の貿易におけるフラグメンテーションの進展を産業別に概観してみよう。1960 年か ら2000 年にかけての日本の輸出入に占める機械機器と原燃料の構成比を見ると、機械機器 の輸入の比率が1980 年代後半以降上昇している。図1−7は、製造業に着目してアウトソ ーシング比率(売上高に対する外部企業からの仕入れの比率)を産業間で比較したもので ある。この比率は、一般機械、電気機械、輸送機械、精密機械において高まっている。こ のことは、それらの産業では生産工程の分断が進んでいることを示唆する。 図1−7.アウトソーシング比率 0.178 0.407 0.453 0.318 0.580 0.526 0.417 0.393 0.590 0.574 0.368 0.348 0.544 0.590 0.352 0.425 0.444 0.530 0.571 0.655 0.663 0.422 0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 食料品 繊維 木材紙パ 化学 鉄鋼 非鉄金属 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 その他 H5 H11 (出所)経済産業省『平成5 年度海外事業活動基本調査』及び『平成 11 年度海外事業活動基本調査』より 作成。 次に、図1−8により海外調達比率(外部からの調達額に占める海外からの調達額の比 率)の変化を産業間で比較しよう。電気機械、精密機械において高まっており、仕入先が 海外にシフトしている。これらのことは、これらの産業ではフラグメンテーションが起き ており、しかも、海外の生産工程との間でフラグメンテーションが進んでいることを示唆 している。

(17)

図1−8.海外調達比率 0.118 0.087 0.147 0.097 0.089 0.139 0.048 0.085 0.017 0.079 0.052 0.107 0.075 0.039 0.049 0.091 0.141 0.064 0.128 0.038 0.161 0.070 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 食 料 品 繊 維 木 材 紙 パ 化 学 鉄 鋼 非 鉄 金 属 一 般 機 械 電 気 機 械 輸 送 機 械 精 密 機 械 そ の 他 H 5 H 11 (出所)経済産業省『平成5 年度海外事業活動基本調査』及び『平成 11 年度海外事業活動基本調査』より 作成。 ここで、海外調達のうちで海外市場におけるarm’s length の取引による調達と海外子会 社からの調達を比較するために、多国籍企業内での調達の比率(海外調達額に占める海外 子会社からの調達額)の産業間格差を観察しよう。図1−9が示すように、海外調達にお ける多国籍企業内での取引は多くの産業で増加している。 図1−9.Arm’s length と多国籍企業内調達比率 0.016 0.017 0.033 0.013 0.003 0.007 0.024 0.028 0.006 0.025 0.016 0.031 0.041 0.020 0.016 0.004 0.038 0.055 0.074 0.017 0.156 0.040 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 食料品 繊維 木材紙パ 化学 鉄鋼 非鉄金属 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 その他 H5 H11 (出所)経済産業省『平成5 年度海外事業活動基本調査』及び『平成 11 年度海外事業活動基本調査』より作成。

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フラグメンテーションはこれらのパラメータや市場価格によって決定されるので、企業 が共通の生産関数や固定費用を有している場合には、企業間でフラグメンテーションの度 合いに差異はない。しかし、そうしたことは現実的ではなく、生産性のパラメータや固定 費用のパラメータは企業特性により異なっている。また、同じ企業にあっても時間の経過 につれて生産工程の分断に対する経験・学習効果が蓄積され、生産性に関するパラメータ、 固定費用などが時間の経過とともに変化する可能性がある。過去のフラグメンテーション の蓄積が次の時期のフラグメンテーションにどの程度影響を与えるのかについて試算を行 った結果では、当期の売上高に占める海外企業からの調達比率は、前期までの売上高に占 める海外企業からの調達比率に対して、多くの産業において明らかな正の関係が観察され る。このことは、ある期までのフラグメンテーションに関する経験やノウハウの蓄積が次 期のフラグメンテーションのコストを低下させる点で有効に作用することを示唆している。

1−7.フラグメンテーションと生産パターン・所得分配

フラグメンテーションの結果、国内生産パターンや生産要素価格比が変化することが容 易に想定される。この問題を議論するためには、部分均衡分析では不十分である。ここで は、フラグメンテーションの進行に伴う財生産のパターンと要素価格の変化を Arndt and Kierzkowski(2001)に基づいた一般均衡分析の観点から取り上げる。 最終財(「財H」と称する)は、2 つのパーツ(熟練労働集約的パーツと労働集約的パーツ) の固定的な投入係数(レオンティエフ型生産関数)の下で生産されると仮定する。すなわ ち、財H の生産は 2 つのパーツを生産要素と考えるときのレオンティエフ型生産関数に従 うものとする。均衡において、最終財の価格が国際市場において与えられ、2つのパーツ を生産するときのそれぞれの生産技術(熟練労働と労働の投入比率)及び両生産要素の要 素賦存量が与えられると、生産要素価格、パーツの費用が内生的に決定される。ただし、 フラグメンテーション前には、生産工程を2つの部分に分割することが出来ないものと仮 定しよう。 図1−10 は、財 H の生産に投入されるパーツの生産要素投入比率を示す。I 点は、財 H の1 万円相当の価値を生産するときに投入される 2 生産要素量の組み合わせを表す。財 H は 2 つのパーツの組み合わせによって生産されるが、この財の生産に要する費用は各パー ツの生産に投入される固定的な要素投入量とそれぞれの要素価格(熟練労働レンタル及び 労働賃金)によって決定される。均衡において、財の生産費用と財の市場価値(1 万円)と は等しい。図1−10 の A 点、B 点は、各パーツが1万円の価値を生み出すために投入され る生産要素量を意味する。I 点は、財 H が 1 万円の価値を生むときの各パーツ A と B の適 切な加重平均を表す。従って、両点を結ぶ線分AB 上でのどの点も等価値の財を生み出す生 産要素の組み合わせを表す。この場合、AB の傾きは熟練労働レンタルと労働賃金率の相対 比率を表す。

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図1−10.フラグメンテーション前の均衡 熟練労働 A I B 1 2 0 労働 次に、外生的条件が変化することによってフラグメンテーションが実現する場合を考察 しよう。この場合、生産工程を分割する費用、2 つのパーツから最終財を組み立てるための 費用は追加的に発生しないものと考える。すなわち、それぞれのパーツは国際的に調達が 可能であり、それ以外の追加的な費用を伴うことなく、2 つの部品を組み合わせて財 H を 組み立てることが出来るものとしよう。また、フラグメンテーション後であっても、最終 財を生産するときのパーツの投入係数に変化はないものと仮定する。 ここでは、フラグメンテーションによって、パーツの国際取引が可能となり、国際価格 に基づきパーツの輸入が可能となることを想定しよう。この場合、パーツの生産に関する 比較優位を以下のように仮定しておく。この国は、労働集約的なパーツ B の生産に関して は比較優位を有しておらず、熟練労働集約的なパーツ A の生産に比較優位を有すると考え よう。このような比較優位に沿って生産を特化することにより、規模経済性が発揮され、 生産効率が高まるという結果をもたらすことを併せて仮定する。すなわち、パーツA の市 場価格が不変のままで1 万円の価値を有するパーツ A の生産に投入される熟練労働と労働 の量は、相対的な投入比率が不変のままで減少することになる。仮に、パーツ B が外国か ら調達され、その価格が低下すると、それに対応して国内におけるパーツ価格が低下する。 例えば、1 万円に相当する価値のパーツ B を生産するためには、より多くの生産量、すな わち、より多くの熟練労働と労働量が必要となる。 このメカニズムは図1−11に示される。この国の生産者は同じ 1 万円を入手するため にパーツ A の生産に特化するのが効率的である。なぜならば、国際的なフラグメンテーシ ョンが生ずる結果、パーツ A の生産性が高まり、1 万円の等価値を生むために投入される 熟練労働・労働量は、フラグメンテーション前のパーツ A に投入される熟練労働・労働量

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よりも少なくて済むからである。 A’、B’はフラグメンテーションによって1万円の価値を 生み出す両パーツの生産要素の組み合わせであり、I’は A’B’との交点、すなわち、新たな世 界価格の下で 1 万円の価値の最終財を生み出すパーツの組み合わせを表す。この図から分 かるように、点I’は点 I の外側に位置するため、生産者にとってフラグメンテーション後に 最終財を生産することは利益にならない。フラグメンテーションによって生産された最終 財の価格は低下しており、価格の低下率はII’/OI によって表される。なお、財価格の低下は 生産に投入される熟練労働・労働の各要素価格の低下をもたらし、要素供給を行う者にと って不利益となる一方、財を消費する消費者の便益を高めることは言うまでもない。 図1−11.フラグメンテーション後の均衡 熟練労働 A A’ I’ B’ I B 2’ 1 2 O 労働 これまでの議論を要約すると、パーツA は、価格が不変の下で、フラグメンテーション の結果、生産工程の集約化により効率が高まり、1万円の価値を生み出すパーツ A を生産 するために投入される生産要素量が減少する。一方、パーツB は市場価格が低下すること、 すなわち、生産技術が一定のまま低い要素価格の下で生産されるため、等価値を生み出す ためには、より多くの要素投入量が必要となる。この場合には、この国では最終財に替え てパーツA に生産を特化することになる。このようなフラグメンテーションが生じた結果、 生産パターン・要素価格がどのように変化するであろうか。 ここで、この国は3 種類の財(財 H、財 1、財 2)を生産することが技術的に可能である と仮定しよう。これまでと同様に、各財の生産に投入される要素投入比率は固定的である とする。この国が完全特化していないと仮定すると、熟練労働豊富国であるときには財 H

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と財2、労働豊富国であるときには財 H と財 1 が生産される。このケースは図1−12 によ って表される。 図1−12.生産パターンの変化と経済厚生 熟練労働 2 A B” I” A’ I A” I’ B B’ 1 1 2 O 労働 このような生産の技術的条件の下で、この国が等価値(1 万円)を生み出すための財の組み 合わせを単位価値等量曲線によって表そう。フラグメンテーション前の単位価値等量曲線 は2−I−1で示され,フラグメンテーション後の単位価値等量曲線は2−A’−1で表され る。フラグメンテーション後には、この国で1万円の価値相当を生み出す生産パターンと して、国内で両パーツを組み合わせて財H を生産すること(点 I)は効率的でないため、選 択されない。パーツ B の生産に関してある程度の優れた生産技術を有し、1 万円価値のパ ーツB の生産が単位価値等量曲線(A’-1 線)上にある国が少なくとも 1 以上存在している と仮定するならば、この国は、自らのパーツの生産をパーツA に特化させ、パーツ B を他 国から調達し、最終財を組み立てる方が効率的な生産パターンと言える。 ここで、新たな生産パターンがフラグメンテーション後の単位価値等量曲線(2−A’−1) によって表される場合を考えてみよう。パーツA の生産が自国内で効率的に行われ、1万 円相当価値のパーツA は点 A’で生産される。この単位価値等量曲線は、以前の生産パター ンである点1、点 I、点 2 を結ぶ単位価値等量曲線の位置よりも原点に近づいている。すな わち、以前よりも少ない資源の投入量によって 1 万円の価値が生み出されており、こうし

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たフラグメンテーションによる生産の特化は経済厚生を改善させる。 しかしながら、フラグメンテーションによる経済厚生の改善は、パーツの組み合わせに よる。図1−12 における AB 線、A’B’線、A”B”線を比較しよう。A”B”線が意味するのは、 パーツA の生産効率は極めて高いが、パーツ B の生産効率が著しく低い場合である。この ケースよりも、全てのパーツが程々に高い生産効率を有している場合(A’B’線)の方が、最 終財(財 H)の生産効率が高い場合がある。フラグメンテーションによって生産の特化を 巧みに組み合わせることが出来れば、リカードの比較優位の利益をより広い範囲で実現す る道を開くことになる。 他の貿易財の価格に歪みが生じない限りフラグメンテーションは経済厚生を改善する可 能性を有しているが、一般的にはフラグメンテーションの結果、全ての貿易財の価格が再 調整される。この結果、その国の最終財の交易条件が悪化し、経済厚生が低下する場合が 起こり得る。図1−13 は、フラグメンテーションによって調達されるパーツ A とパーツ B の両方の価格が大きく低下する場合を表示したものである。 図1−13.フラグメンテーションと相対価格変化 熟練労働 2 A’ I’ A B’ I B 1 1 2 O 労働 図1−13 では、フラグメンテーション後に 1 万円相当のパーツ A の生産は点 A’、同じく 1 万円相当のパーツ B の生産は点 B’において行われることを示している。このような場合 には、パーツA とパーツ B の組み合わせによって 1 万円価値の最終財を生産することは、 フラグメンテーションが実現する以前の経済厚生よりも悪い結果をもたらす。生産者にと ってパーツA とパーツ B から最終財(財 H)を生産するよりも、財 1 と財 2 の生産の組み合

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わせによって、少ない資源の投入によって等価値の1万円を得ることが可能となる。ただ し、この場合でも、フラグメンテーション後の新しい単位価値等量曲線(1-2)は原点から 遠ざかっていることから、フラグメンテーションによって経済厚生はやはり悪化している。 このようにフラグメンテーションの結果、生産者にとっては財 H を生産することが不利 益となる場合がありうるが、この国の消費者が財H に偏向した消費をしているならば、フ ラグメンテーション後のパーツの価格が低下したことによる消費者の便益が生産面での不 利益を相殺する以上のものとなる可能性はある。

1−8.むすび

近年の国際貿易の拡大は様々な理由によって生じている。最終財を対象とする伝統的貿 易理論が示すように、関税率の引下げによる貿易の拡大がその一因であるが、それだけで は近年の経済規模の拡大に対して非線形に貿易量が増加する現象を説明することは困難で ある。近年の日本の貿易データは、(1)加工組み立て産業の貿易量の増大、(2)国内調達ネッ トワークから国際調達ネットワークへのシフト、(3)企業内での国際的取引の増加を示して いる。こうした現状は、企業の国際的フラグメンテーションが進行した結果であると理解 される。 フラグメンテーションは最近になって始まったことではない。しかし、フラグメンテー ションが生産工程を接続するサービス・リンク・コストと規模経済性の実現との相対的な 関係によって決定されることから考えると、近年のグローバル化が関税率の低下だけでな く、輸送費・通信費用の低下、各国の経済制度・法制度の透明化とハーモナイゼーション、 各国の制度に関する情報開示と相互理解の浸透をもたらし、広い意味での国際的取引費用 を低下させたことがフラグメンテーションを促進していると考えることが出来る。外部か ら与えられる条件の下で、企業は最適な生産工程の分割を行い、加工組立サービスを提供 する国際企業との取引を行う。その取引が多層的に積み重なった結果が、国際貿易量の拡 大となって表れている。フラグメンテーションは、個々の経済主体による生産費用の最小 化と最適生産立地の選択の結果であると言えよう。 フラグメンテーションが経済厚生に与える効果は、多様である。特に、非熟練労働を集 約的に投入する財の生産が他国における低コストでの生産に取って替わられ、その結果、 生産パターンが変化する方向は、その国の生産要素の賦存状況がどのようなものであるか、 フラグメンテーション後に特化する生産部門の効率性がどの程度高まるかなどの条件によ って影響されるため、結果は一様ではない。しかし、生産を特化した部門での生産の効率 性が高まる限り、生産面での利益は発生する。さらに、消費者にとって便益が発生するこ とは明らかである。仮に、フラグメンテーションの結果、非熟練労働者の賃金率が低下す る場合であっても、フラグメンテーションの進行を止めるのではなく、所得分配によって 対応することがより望ましい政策選択と考えられる。つまり、フラグメンテーションを阻

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c 害しないような経済的制度的環境を提供するための政策は、効率的な経済を生み出し、経 済厚生を高める上での必要条件であろう。 このような観点から、WTO・ドーハ閣僚会議を出発点とした様々な分野での貿易自由化 交渉を進展させることは、生産工程を接続するサービス・リンク・コストを低下させる上 で必要である。このためには、関税引き下げといった狭義の貿易自由化でなく、生産工程 の最適立地と接続コストを低下させるための広範な分野での国際的取組が必要である。 国際的に数多く見られる地域間での FTA は、その一環として位置づけられよう。WTO のフレームワークにおいて合意の困難であるアイテムであっても、経済環境の類似した諸 国間で合意に達することが出来るアイテムは少なくない。フラグメンテーションがある程 度経済環境が類似した諸国内で進行することを考えると、FTA の推進は新しいタイプの国 際貿易の拡大を後押しする上で、重要性を高めるであろう。その中で、特に留意すべきで あるのは、原産地規則である。フラグメンテーションの結果、財の貿易は多数の国の間で 生産工程を接続しながら多層的に行われる。この場合、複雑で厳しい原産地規則は、多層 的な貿易におけるサービス・リンク・コストを著しく高める恐れがある。 フラグメンテーションの拡大は、近年、日本・中国・東アジア諸国の間で顕著に見られ、 この地域は、いわば、フラグメンテーションの一大実験場になりつつある。この地域にお けるFTA や原産地規制の取り扱いは大きな意味を有している。 〔参考文献〕 若杉隆平「フラグメンテーション」『経済セミナー』2003 年4月, pp.16-17.

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2 章 東アジアにおける垂直的産業内貿易と直接投資

深尾 京司*1・石戸 光*2 伊藤 恵子*3・吉池 喜政*4

2−1.はじめに

近年、世界各国における貿易パターンの新しい潮流として、産業内貿易(同一貿易分類 内の双方向貿易)の中でも特に、貿易される財に質の違いが存在する(すなわち単価の乖 離を伴った)「垂直的」産業内貿易(Vertical Intra-industry Trade)が注目を浴びている1

Falvey(1981)が指摘したように、同一貿易分類に属する商品であっても質の差異が存在 する場合には、要素投入比率が異なる可能性がある。例えば、日本のような先進国が資本 集約的な「高級品」を輸出し、途上国から非熟練労働集約的な「低級品」を輸入する場合 には、2 国における生産要素需要や要素価格にそれぞれ大きな影響が生じている可能性があ る2 垂直的産業内貿易が要素賦存の差異によって生じているのだとすれば、途上国と先進国 間では活発な垂直的産業内貿易が行われることが予想できる。しかし、現実には、途上国 が先進国の主要輸出品(その多くは通信機器や高級事務用機器といった先端的な商品であ る)と同一の貿易分類に属する商品を生産するのに必要な技術を持っていることは稀であ ると考えられる。 近年の途上国にとって、先端的な商品の生産技術を入手する最も重要な経路は、先進国 からの直接投資の受入であろう。従って、垂直的産業内貿易の大半は、多国籍企業による 生産活動の国際分業の一環として行なわれている可能性がある。東アジアにおいては、主 に日本及び米国からの効率性を追求し、かつ、輸出指向の強い直接投資が、過去10 年ほど の間に急増している。従って、東アジアと日本及び米国との間では垂直的産業内貿易が近 年急増している可能性がある。 *1一橋大学経済研究所 *2日本貿易振興会アジア経済研究所 *3国際東アジア研究センター *4一橋大学大学院経済学研究科修士課程 1 欧州諸国及び米国については既に垂直的産業貿易に関する多くの先行研究がある。Greenaway, Hine and Milner (1994, 1995)は英国のデータを用いて垂直的及び水平的産業内貿易の規模が産業属性に左右さ れることを示している。Aturupane, Djankov and Hoekman (1999)は東欧諸国と EU 間の産業内貿易につ いて同様の分析を行っている。また、Fontagné, Freudenberg, and Péridy (1997)は EU 域内における貿易 パターンの詳細な分析を行っている。

2 生産工程の国際分業(フラグメンテーション)とそれに伴う中間財貿易の増加も同様な影響をもたらす

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垂直的産業内貿易が日本経済に与える影響は非常に大きい可能性がある。また、理論的 には水平的産業内貿易と垂直的産業内貿易の決定要因と影響は大きく異なり、区別して分 析を行う必要がある。しかしながら、東アジアの貿易パターンに関する従来の多くの実証 研究では、水平的産業内貿易と垂直的産業内貿易を区別していない3。このような問題意識 から、本論文では、まず、この両者を区別しながら、東アジア諸国の域内貿易パターンを 概観し、特に EU 域内貿易のケースと比較を行う。次に、理論モデルを使って、垂直的産 業内貿易と直接投資の関係を明らかにする。続いて導入した理論モデルに基づき、日本の 電気機器貿易に占める垂直的産業内貿易の割合を決定づける諸要因に関する計量分析を行 う。この計量分析においては、日本の相手国別・HS9 桁商品別データを用いる。

2−2.東アジアにおける垂直的産業内貿易:概観

2−2−1.東アジアにおける経済発展及び経済統合の主な特徴 はじめに東アジア諸国の貿易パターンについて概観を行うことにする。過去20 年間にお いて東アジア諸国が急速な経済成長を遂げたことは周知の通りである。図2−1に東アジ ア及びその他地域における輸出対GDP 比率及び輸入対 GDP 比率を示す。これによると、 1980 年代及び 90 年代にアセアン 4 及び香港を含む中国において貿易依存度が急速に高ま ったことがわかる。これに対し、EU 及び MERCOSUR においては同期間に貿易依存度の 高まりは見られない。東アジア諸国においては、衣服や革製品などに代表される労働集約 的な製品のみならず、電気機器や通信機器などの技術集約的な製品についても輸出を拡大 させたのである。すなわち「一足飛び(leapfrogging)」的経済発展が東アジアにおいては 実現したと言える。表2−2は世界の輸入合計に対する中国及び日本の輸入額のシェアを 比較している。これによると、通信機器やオフィス機器をはじめとした多くのハイテク製 品の貿易分類において、中国のシェアが日本のシェアに急速に近づいている様子が見て取 れる。 技術集約的製品分野においては、東アジア諸国が産業内貿易を活発化させている点も指 摘できる。1999 年には、日本の中国及び香港への通信機器・部品(SITC-R3 コード 764) の輸出は2,724 億円を、これら地域からの同製品の輸入は 2,218 億円をそれぞれ計上して いる。同様にして、テレビ受信機(SITC-R3 コード 761)については、1999 年に日本は中 国及び香港へ375 億円の輸出、及び 395 億円の同地域からの輸入を計上している4 3 Abe (1997)及び Murshed (2001)は垂直的・水平的といった区別をすることなく東アジアにおける産業内 貿易の研究を行っている。吉池(2002)及び石田(2002)は日本の HS9 桁貿易データを用いて叙述的分 析を行い、日本が過去10 年間に東アジア諸国との垂直的産業内貿易を飛躍的に増加させたことを指摘して いる。また、Hu and Ma (1999)は SITC3 桁という比較的集計された貿易データを用いて中国の産業内貿 易動向を分析している。

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表2−1.各国・地域の貿易依存度 1985-87 平均 1995-98 平均 1985-87 平均 1995-98 平均 米国 5.6 9.8 9.1 11.5 EU 18.0 17.0 17.4 16.7 日本 11.4 9.5 7.1 7.0 東アジア(日本を除く) 28.3 33.9 27.0 36.7 NIEs 3 45.8 41.1 42.1 45 ASEAN 4 28.3 41.6 21.1 40.3 中国(香港を含む) 18.9 32.4 23.3 35.1 MERCOSUR 10.2 7.6 5.8 8.0 輸出/GDP 輸入/GDP .5 (出所)磯貝・柴沼(2000) 表2−2.世界総輸入に占める日本及び中国(香港含む)の輸出額シェア 貿易商品名 世界総輸入に占める 日本の輸出額シェア 世界総輸入に占める 中国(香港含む)の 輸出額シェア 全貿易商品計 7.8 5.2 0-食料品及び動物 0.5 3.1 1-飲料及びたばこ 0.8 1.8 2-食用に適しない原材料(鉱物性燃料を除く) 1.9 2.8 3-鉱物性燃料、潤滑油その他これらに類するもの 0.4 1.0 4-動物性又は植物性の油脂及びろう 0.3 0.4 5-化学製品 6.0 2.2 6-原料別工業製品 5.6 5.0 7-機械類及び輸送機器類 12.5 3.9 71-原動機 11.0 2.0 72-産業用機器類 12.5 1.1 73-金属加工機械 20.4 1.3 74-その他の一般工業用機械及びその部品 11.2 2.1 75-事務用機器及び自動データ処理機械 9.7 6.5 76-通信機器、録音及び音声再生装置 11.2 9.3 77-電気機器およびその部品 13.3 6.4 78-道路走行車両 15.8 0.8 79-その他の輸送機器 7.7 1.4 8-雑製品 6.1 17.1 9-特殊取扱品 7.0 0.5 (注)貿易商品名の前の数字はSITC 分類コード

(出所)Statistics Canada, Wor d Trade Analyzer, 1980-1999l .

東アジア諸国の輸出主導型成長は輸出先として域内のみに依存したものではなく、域外 への輸出も顕著であったことが指摘できる。表2−3は日本、それ以外のアジア、米国及 びEU の IT 関連製品についての貿易マトリクスである。これを見ると、EU においては域 内市場への依存度が高いのに対し、アジア諸国においては米国及び EU 市場により依存し ている5IT 製品に関しては東アジアが世界市場への供給基地として機能していることがわ かる。 5 この点に関する詳細については Urata (2002)参照。

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表2−3. I T 関連製品の貿易マトリクス パネルA.1992−95 年平均 日本    アジア(日本を除く) 米国 EU  日本 - 32.7 32.7 19.9 輸出先 アジア(日本を除く) 11.4 53.4 51.9 29.3 米国 7.7 29.8 - 19.7 EU 1.3 12.1 8.7 78.7 輸入先   パネルB.1996−98 年平均 日本 アジア(日本を除く) 米国 EU 日本 - 36.8 30.7 18.9 輸出先 アジア(日本を除く) 22.4 79.0 82.2 50.0 米国 11.7 46.1 - 25.6 EU 3.3 19.7 12.9 124.9 輸入先 (出所)磯貝・柴沼(2000) 表2−4.各国・地域ごとの体内海外直接投資の対 GDP 比率(1999 年) (単位:%) 国・地域 対内海外直接投資の対GDP比率 EU 22.2 欧州途上地域 18.8 北米 12.2 ラテンアメリカ 25.6 南、東および東南アジア(日本を除く) 34.4 日本 1.0

(出所)UNCTAD, Wor d Investmen Report, 2001l t .

東アジアの発展において非常に重要な役割を果たしたのは、海外直接投資の流入である。 表2−4には対内直接投資のGDP に対する比率を地域ごとに示している。日本以外の東ア ジア及び東南アジアにおいては、EU、北米及びラテンアメリカに比して対内直接投資の GDP 比が極めて高いことがわかる。この点がおそらくアジアにおける最も重要な特質であ り、輸出指向型及び「一足飛び」的発展などの他の特徴は、活発な対内直接投資動向の帰 結として捉えるべきであろう。すなわち、例えば、アジアへの対内直接投資は非常に輸出 指向が高いのである。表2−5に日系及び米系多国籍企業の進出先別に見た販売先の動向 を示す。これより、日系及び米系の進出子会社は他の地域に進出した子会社よりも高い輸 出指向を有することが観察される。

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表2−5.日系・米系企業の進出先別販売先(1999 年) (単位:%) 東アジア (日本を除く) 米系企業 現地 39.6 50.4 90.1 56.7 - 65.1 57.7 第三国 60.4 49.6 9.9 43.3 - 34.9 42.3 米国 27.6 20.0 2.8 5.8 - 21.8 15.1 日系企業 現地 48.2 47.0 - 60.1 90.4 77.3 70.0 第三国 51.8 53.0 - 39.9 9.6 22.7 30.0 日本 26.0 31.2 - 3.6 2.3 5.0 9.6 進出先 販売先 中国 日本 ヨーロッパ 米国 ラテンアメリカ 計

(出所)Department of Commerce (U.S.), U.S. Direct Investment Abroad: Operations of U.S. Parent Companies and Their Foreign Affiliates;及び METI (2001)に基づき著者作成。

表2−6.中国における外国企業の生産額及びシェア (単位:100 万元) 総生産額 総付加価値額 外国企業の 総付加価値額 外国企業の シェア a b b 全産業 85673.66 25394.80 6090.35 24.0%/a 香港および台湾企業 3202.55 12.6% その他の外国企業 2887.80 11.4% 産業区分 鉱業および伐採 5455.17 3178.32 7.51 0.2% 食品加工 3722.70 835.29 172.76 20.7% 食品製造 1442.52 415.81 174.43 41.9% 飲料 1752.37 618.90 172.41 27.9% たばこ 1451.29 935.80 4.55 0.5% 繊維 5149.30 1272.84 263.80 20.7% 衣類 2291.16 592.02 289.07 48.8% 皮革 1345.17 323.62 176.77 54.6% 木材 656.77 157.53 44.10 28.0% 家具 370.18 94.86 41.62 43.9% 紙および紙製品 1590.36 412.62 118.71 28.8% 印刷 616.71 201.39 59.13 29.4% 文化・教育・スポーツ用品製造 617.94 155.30 92.34 59.5% 石油精製 4429.19 787.99 44.94 5.7% 化学素材・化学製品 5749.02 1415.81 305.00 21.5% 医薬品 1781.37 633.88 155.71 24.6% 化学繊維 1243.07 295.78 116.17 39.3% ゴム製品 812.70 218.98 77.92 35.6% プラスチック製品 1899.70 464.43 205.84 44.3% 非鉄金属 3692.85 1126.72 194.88 17.3% 鉄鋼精製 4732.90 1299.29 61.25 4.7% 非鉄金属精製 2180.23 512.69 57.18 11.2% 金属製品 2539.76 609.46 212.24 34.8% 一般機械 3046.95 840.75 186.46 22.2% 特殊機器 2192.63 580.97 86.70 14.9% 輸送機器 5361.83 1323.61 408.25 30.8% 電機 4834.68 1231.50 421.69 34.2% 電子通信機器 7549.58 1824.31 1192.97 65.4% 文化・事務用計測機器 867.91 214.36 105.88 49.4% 電力・蒸気・ガス・水道 5107.22 2514.24 370.33 14.7%

(出所)National Bureau of Statistics of China, China Sta istical Yea book 2001, China Statistics Press, Beijing, China 2001.

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以上で見たように、アジアにおける輸出主導型成長、及び「カエル跳び(もしくは一足 飛び)」的発展は海外直接投資によりもたらされたと言える。このことは中国の統計(表2 −6)を見ても確認できる。衣類、皮革製品、電機及び通信機器においては、現地におけ る総付加価値に占める外資系企業のシェアが非常に高い。このように、中国の目覚ましい 輸出主導型成長は実際には外国企業によりもたらされたと言うことができる。 2−2−2. 産業内貿易の計測:閾値に基づいた指数

垂直的及び水平的産業内貿易の動向を観察するために、以下ではGreenaway, Hine and Milner(1995)、Fontagné, Freudenberg, and Péridy (1997)、及び Aturupane, Djankov and Hoekman (1999)などの用いた手法を用いることにする。この方法は、それぞれの貿易品目 における輸出単価と輸入単価の格差が貿易を行う 2 国における輸出商品と輸入商品の質的 差異を反映したものであるとする仮定に基づいている。 この手法によると、まず詳細貿易分類ごとに見た2 国間貿易フローを以下の 3 つのタイ プに分類する。すなわち(1)産業間貿易(もしくは一方向貿易)、(2)水平的に差別化された産 業内貿易(すなわち商品属性により製品を区別)、及び(3)垂直的に差別化された産業内貿易 (品質により製品を区別)である。ここで以下の変量を導入する。 Mkk’j :k 国における k’国からの j 財の輸入額 Mk’kj: :k’国における k 国からの j 財の輸入額 UVkk’j:k 国における k’国からの j 財の輸入平均単価 UVk’kj:k’国における k 国からの j 財の輸入平均単価 すると表2−7に示すような判別基準により上記(1)、(2)、(3)の 3 つの貿易タイプを決定す ることができ、それぞれの貿易タイプ(表中のOWT、HIIT 及び VIIT)を表す添字を Z と した場合、各貿易タイプの貿易額全体に占めるシェアは

å

å

+

+

j kj k j kk j Z kj k Z j kk

M

M

M

M

)

(

)

(

' ' ' ' (2.1) で算出される。 本論文においては、水平的IIT の認定基準として輸出入の単価比率が 1/1.25(約 0.8)か ら 1.25 の範囲に収まっていることを条件とした。Abd-el-Rahman (1991)、 Greenaway, Hine, and Milner (1994)、及び Fontagné, Freudenberg, and Péridy (1997)などを含め、 他の大部分の研究においては水平的IIT と垂直的 IIT を判別する基準として 15 パーセント の閾値が用いられている。しかし本論文において25 パーセントの閾値を採用している理由 は以下の通りである。第1に貿易統計における数値は為替レートの変動によりしばしば影

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響を受けることが挙げられる。第2 に、本論文においては東アジアと EU の産業内貿易動 向の比較において貿易分類HS88(Harmonized commodity description and coding System revised in 1988)の 6 桁データを使用するため、Fontagné, Freudenberg, and Péridy (1997) が使用している8 桁レベルの貿易分類(Combined Nomenclature, CN)に比して、異なる 貿易商品の集計度合いがより高いためノイズもより大きくなり、15 パーセントという低い 閾値ではノイズの影響を大きく受けると考えられるためである。なお得られる結果の感度 を確認するため15 パーセント閾値に基づく計算も行った6 表2−7.貿易タイプの分類 貿易タイプ 貿易額の乖離による区分 単価の乖離による区分 一方向貿易 (One-Way Trade、OWT) ( , ) ) , ( ' ' ' ' kj k j kk kj k j kk M M Max M M Min

£

0.1 水 平 的 産 業 内 貿 易(Horizontal Intra-Industry trade、HIIT) ( , ) ) , ( ' ' ' ' kj k j kk kj k j kk M M Max M M Min >0.1 25 . 1 1

£

kj k j kk UV UV ' '

£

1.25 垂 直 的 産 業 内 貿 易(Vertical

Intra-Industry Trade, VIIT) ( , ) ) , ( ' ' ' ' kj k j kk kj k j kk M M Max M M Min >0.1 kj k j kk UV UV ' ' < 25 . 1 1 or 1.25< kj k j kk UV' ' UV 2−2−3. 産業内貿易指数の分析用データ 本論文では 2 種類の貿易統計を用いた。まず東アジアと EU の貿易パターン分析におい ては国連統計局(UN Statistics Division)発行の PC-TAS (Personal Computer Trade Analysis System)を使用した。このデータセットは 1996 年から 2000 年までの世界のほぼ 全ての国の2 国間貿易データを、上述のように貿易分類 HS88(Harmonized commodity description and coding System revised in 1988)の 6 桁レベルで提供している7。産業内貿

易指数の算出にあたっては、輸入データを用いることとした。次いで電気機器(HS88 の 2 6本論文においては、閾値に基づく指数の他に 2 種類の指数も算出した。1 つはグルーベル=ロイド (Grubel-Lloyd)指数であり、これは (1-å )により定義される。また閾値に対する連続的な指標として、 + -j kkj kkj kj k j kk M M M M ' ' ' ' | | å å + + -+ j kj k j kk kj k j kk kj k j kk kj k j j kk M M UV UV UV UV M M ) ( ) ln( ) ln( ) ln( ) ln( ) ( ' ' ' ' ' ' ' ' の計算も行った。この指標は平均単価乖離度を示すものであり、一方からの 輸出単価が相手国からの輸入単価に対して無限に大きい(小さい)場合に1(-1)をとる。また輸出単価と 輸入単価が完全に等しい場合には0 となる。 7 これ以前の期間についての PC-TAS データも存在するが、他の貿易分類(SITC-R3)に基づいており問 題がある。SITC-R3 に基づく 1992-1996 年までのデータを 1996-2000 年についての HS88 データと接続 しようと試みたが、整合的な接続結果が得られなかった。

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