99
厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興研究事業研究事業)
分担研究報告書
複数の医療施設から分離されたメタロ -β- ラクタマーゼ産生 Enterobacter cloacae に関する分子疫学的検討
研究分担者 氏 名 舘田 一博 (東邦大学医学部微生物・感染症学講座)
研究協力者 氏 名 石井 良和 (東邦大学医学部微生物・感染症学講座)
青木弘太郎 (東邦大学医学部微生物・感染症学講座)
研究要旨
カルバペネム系薬耐性腸内細菌科細菌の分離頻度が諸外国で増加しており、社会的な問題と して捉えられている。都内
3
医療施設で、イミペネム低感性あるいは感性であってもオキシ イミノセファロスポリン系薬に耐性を示す、メタロ-β-ラクタマーゼ (MBLs)を産生するEnterobacter cloacae
の分離頻度が上昇したことから、これらの菌株の関連性の解明を試みた。全
71
株のMBL
産生E. cloacae
の薬剤感受性検査、MBLs型別および分子疫学解析を実施した。さらにインテグロン構造の解析を実施した。イミペネムおよびアミカシンに対す る耐性率はそれぞれ
22.5%および 0%であった。供試した 71
株のE. cloacae
が産生するMBLs
はすべてIMP-1
型であった。供試菌株はPFGE
により7
クラスタに大別された。インテグロン構造解析対象
12
株がインテグロン内に保有していた遺伝子カセットは、bla IMP-1
、aac(6’)-IIc
およびbla IMP-1
、aac(6’)-Ib
であった。PFGE解析の結果、分離施設毎に個別の クラスタが存在したことから、同一菌株の院内伝播が示唆された。また、同一遺伝子カセッ トを有するインテグロン構造が複数施設で分離されたE. cloacae
菌株において確認された ことから、同一起源のインテグロンあるいはプラスミドがMBLs
をコードする遺伝子を伝 播している可能性が示唆された。A. 研究目的
Enterobacter cloacae
は院内感染の病原菌として、注目されている。近年、グラム陰性菌による感染症 治療に使用されるカルバペネム系薬に耐性を示す腸 内細菌科細菌が増加しており、諸外国で問題視され ている。東邦大学医療センター大森病院で、イミペ ネム(IPM)に低感性あるいは感性であってもオキシ イ ミ ノ セ フ ァ ロ ス ポ リ ン 系 薬 に 耐 性 を 示 す
E.
cloacae
が特定期間に分離された。同時期に、都内の2医療施設でも同様の薬剤感受性を示す菌株が分 離頻度されていた。そこで、3 施設が保存していた
71
菌株のE. cloacae
を対象に分子疫学的手法を用 いて、これらの菌株間の関連性について検討した。B. 研究方法
都内
3
医療施設の検査材料から約4
年間に分離さ れたメタロ-β-ラクタマーゼ(MBLs)産生E. cloacae
全71
株を供試菌株とした(表1)。薬剤感受性検査は
微量液体希釈法、MBLs産生の確認はメルカプト酢 酸ナトリウムSMA
ディスクとセフタジジムディス クを用いたダブルディスクシナジーテスト、MBLs のグループ型別はPCR
法により決定した。分子疫 学解析は、パルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を実施し、大別された
7
つのクラスタから1
株ずつ、さらに同一クラスタ内でも
IPM
もしくはセフォタ キシム(CTX)、アミカシン(AMK)のMIC
値が2
管以 上乖離している菌株を合わせた12
菌株をインテグ ロン構造の解析対象とした。5’側および3’側に存在
する共通の塩基配列を基にインテグロン構造の全長 を増幅し、その増幅産物の塩基配列を直接決定した。倫理面への配慮
東邦大学医学部「病原微生物の取り扱いの標準
表
1,
供試菌株の材料別分離頻度材料
医療施設
A B C
血液
0(0%) 0(0%) 4(36.3%)
喀痰
9(45%) 6(15%) 1(9.1%)
尿
5(25%) 7(17.5%) 3(27.3%)
便
0(0%) 18(45%) 0(0%)
咽頭・鼻腔
3(15%) 1(2.5%) 1(9.1%)
気管吸引物0(0%) 5(12.5%) 0(0%)
その他
3(15%) 3(7.5%) 2(18.2%)
計
20 40 11
化に関わる倫理的規範構築に関する見解」(東邦 医倫発第
25
C. 研究結果
保存された
CTX
、モキサラクタム ったのに対し、2)
。アミカシンの耐性率は 菌株はMBLs
のその産生が確認された。保存株は クラスタに大別された
スタはそれぞれ同一の施設で分離された菌株であっ た。インテグロン構造解析の結果、対象の
のインテグロン構造内の遺伝子カセットは、
ら
bla IMP-1
、bla IMP-1
、aac(6’) た(図2
)。パターンその他のクラスタの代表株は全てパターン るインテグロン構造を有していた。
表
2. E. cloacae
抗菌薬IPM CTX CFPM AZT PIPC/TAZ MOX AMK CPFX
IPM;
イミペネム, CTX;トレオナム, PIPC/TAZ;
ム, AMK; アミカシン 濃度
化に関わる倫理的規範構築に関する見解」(東邦
25-2
号)に準じて対応研究結果
保存された
71
菌株は、薬剤感受性検査の結果、、モキサラクタム
(MOX)
ったのに対し、IPM
の耐性率は。アミカシンの耐性率は
MBLs
確認検査の結果、全ての菌株において のその産生が確認された。保存株はクラスタに大別された(図
スタはそれぞれ同一の施設で分離された菌株であっ た。インテグロン構造解析の結果、対象の
のインテグロン構造内の遺伝子カセットは、
、
aac(6’)-IIc aac(6’)-Ib(パタ
。パターン
B
その他のクラスタの代表株は全てパターン るインテグロン構造を有していた。
E. cloacae
の薬剤感受性検査成績MIC
レンジ(μg/mL)
MIC (μg/mL)
≤0.125-64 8 16-512 >512
1-512 128
0.25-512 256 2/4->512/4 256/4 512->512 >512
1-16 8
0.25-64 2
, CTX;
セフォタキシム, PIPC/TAZ;
ピペラシリンアミカシン, CPFX; シプロフロキサシン
化に関わる倫理的規範構築に関する見解」(東邦 号)に準じて対応している
菌株は、薬剤感受性検査の結果、
(MOX)
の耐性率は 耐性率は22.5%
。アミカシンの耐性率は
0%であった。それら
確認検査の結果、全ての菌株において のその産生が確認された。保存株は(図
1)
。そのうちスタはそれぞれ同一の施設で分離された菌株であっ た。インテグロン構造解析の結果、対象の
のインテグロン構造内の遺伝子カセットは、
IIc
(パターン(パターン
B)の B
はクラスタ その他のクラスタの代表株は全てパターン るインテグロン構造を有していた。の薬剤感受性検査成績
MIC
90(μg/mL) MIC
50(μg/mL)
8 2
>512 256
128 32
256 16
256/4 32/4
>512 >512
8 2
2 2
セフォタキシム, CFPM; セフェピム ピペラシリン/タゾバクタム, MOX;
シプロフロキサシン, MIC;
化に関わる倫理的規範構築に関する見解」(東邦 している。
菌株は、薬剤感受性検査の結果、
の耐性率は
100%
であ22.5%であった(表
であった。それら 確認検査の結果、全ての菌株において のその産生が確認された。保存株はPFGE
で7
つの。そのうち
5
つのクラ スタはそれぞれ同一の施設で分離された菌株であっ た。インテグロン構造解析の結果、対象の12
菌株 のインテグロン構造内の遺伝子カセットは、5’側か(パターン
A
)あるいは)の
2
種類であっ はクラスタ6
のみであり、その他のクラスタの代表株は全てパターン
A
に属す るインテグロン構造を有していた。50
(μg/mL)
耐性率(%)22.5 100 52.1 54.9 29.6
>512 100 0 46.5
セフェピム, AZT; アズ, MOX;
モキサラクタ, MIC;
最小発育阻止100
化に関わる倫理的規範構築に関する見解」(東邦菌株は、薬剤感受性検査の結果、
であ
(表 であった。それら
71
確認検査の結果、全ての菌株において つの つのクラ スタはそれぞれ同一の施設で分離された菌株であっ 菌株 側か)あるいは 種類であっ のみであり、
に属す
供試菌株の
ンドログラム。解析係数は ラメータは
性がある菌株を同一クラスタとした。
図
2.
5’CS, 5’ conserved segment intI1,
コードする遺伝子
site, 59 IMP-1
(aminoglycoside acetyltransferase は酵素名
第四級アンモニウム塩耐性に関与する遺伝子の一部 遺伝子
(%)
アズ 最小発育阻止
供試菌株の
PFGE
バンドパターンに基づいて ンドログラム。解析係数はラメータは
optimaization: 1.50%
性がある菌株を同一クラスタとした。
2.
インテグロンに含まれる遺伝子カセット5’CS, 5’ conserved segment
,
クラス1
インテグロンの部位特異的組換え酵素(クラス コードする遺伝子;attI1,
site, 59-base element
とも呼ばれる薬剤耐性遺伝子カセット組換え部位1
型MBL
をコードす る遺伝 子aminoglycoside acetyltransferase
は酵素名、ローマ数字は酵素型、カッコ内の数字は修飾部位をそれぞれ示す。
第四級アンモニウム塩耐性に関与する遺伝子の一部 遺伝子
. 71
バンドパターンに基づいて ンドログラム。解析係数は
Dice、デンドログラムタイプは
optimaization: 1.50%、position tolerance: 1.50%
性がある菌株を同一クラスタとした。
インテグロンに含まれる遺伝子カセット
5’CS, 5’ conserved segment
(5’保存領域); 3’CS, 3’ conserved segment
インテグロンの部位特異的組換え酵素(クラス,
インテグロンに関連する遺伝子カセット組換え部位 とも呼ばれる薬剤耐性遺伝子カセット組換え部位 をコー ドす る遺伝子;aac(6’)
aminoglycoside acetyltransferase)をコードする遺伝子。小文字のアルファベット
、ローマ数字は酵素型、カッコ内の数字は修飾部位をそれぞれ示す。
第四級アンモニウム塩耐性に関与する遺伝子の一部
PFGE
バンドパターンに基づいて
Fingerprinting
Ⅱ、デンドログラムタイプは
UPGMA position tolerance: 1.50%のとき、
インテグロンに含まれる遺伝子カセット
; 3’CS, 3’ conserved segment
インテグロンの部位特異的組換え酵素(クラス1
インテグロンに関連する遺伝子カセット組換え部位 とも呼ばれる薬剤耐性遺伝子カセット組換え部位
aac(6’)-IIc,
アミノ 配 糖体 アセ チル化酵 素)をコードする遺伝子。小文字のアルファベット
、ローマ数字は酵素型、カッコ内の数字は修飾部位をそれぞれ示す。
第四級アンモニウム塩耐性に関与する遺伝子の一部; sul1, サルファ剤耐性に関与する
TUM
1 10671 1 1 10689 1 10699 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 10887 10682 10688 10660 10661 10697 10698 10683 10686 10687 10672 10674 10675 10677 10691 10692 10680 10695 10696 10662 10670 10678 10679 10694 10676 10690 10665 10685 10693 10666 10684 10664 10673 10663 10667 10669 10668 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
Ⅱを用いて描画したデ
UPGMA
を用いた。解析パのとき、85%以上の相同
; 3’CS, 3’ conserved segment
(3’保存領域); 1
インテグラーゼ)を インテグロンに関連する遺伝子カセット組換え部位;attC
とも呼ばれる薬剤耐性遺伝子カセット組換え部位;bla
IMP-1,
アミノ 配 糖体 アセ チル化酵 素
)をコードする遺伝子。小文字のアルファベット
、ローマ数字は酵素型、カッコ内の数字は修飾部位をそれぞれ示す。
; qacEΔ1,
サルファ剤耐性に関与するTUM
11136 C
10671 B
11137 C
11044 A
10689 B
11053 A
10699 B
11043 A
11046 A
11047 A
11049 A
11050 A
11041 A
11045 A
11042 A
11048 A
11140 C
11141 C
11143 C
11139 C
11134 C
11135 C
11142 C
11144 C
10887 B
10682 B
10688 B
10660 B
10661 B
10697 B
10698 B
10683 B
10686 B
10687 B
10672 B
10674 B
10675 B
10677 B
10691 B
10692 B
10680 B
10695 B
10696 B
10662 B
10670 B
10678 B
10679 B
10694 B
10676 B
10690 B
10665 B
10685 B
10693 B
10666 B
10684 B
10664 B
10673 B
10663 B
10667 B
10669 B
10668 B
11058 A
11059 A
11060 A
11061 A
11063 A
11052 A
11057 A
11055 A
11131 C
11051 A
を用いて描画したデ を用いた。解析パ 以上の相同
;
インテグラーゼ)をattC ,
ア ミノ 配糖体ア セ チル化酵 素)をコードする遺伝子。小文字のアルファベット
,
サルファ剤耐性に関与する101
D. 考察
MBLs
を含むカルバペネマーゼ産生腸内細菌科 に属する菌株は、カルバペネム系薬に耐性を示すこ とは稀であると報告されている。本研究で対象とし たMBLs
産生E. cloacae
菌株は、IPMに耐性を示 した菌株が22.5%であったことから、カルバペネム
系薬の薬剤感受性検査成績のみを頼りにMBLs
産 生菌株を検出することは困難であることが再確認さ れた。また、PFGEによる解析の結果、特定の期間 内に分離されたMBLs
産生E. cloacae
菌株は、分離 施設毎に個別のクラスタが存在した。このことは、同一菌株が院内で伝播したことを示唆すると考えら れた。すなわち、特定の
MBLs
産生E. cloacae
菌株 が都内に拡散しているのではないことが明らかとな った。一方、本研究では複数施設の分離株から、同 様の遺伝子カセットを持つインテグロン構造が確認 された。この結果から、都内の医療施設で同一起源 のインテグロンあるいはプラスミドがMBLs
をコ ードする遺伝子の伝播に関与した可能性が示唆され た。E. 結論
IMP-1型MBLs
産生E. cloacae
は、オキシイミ
ノセファロスポリン系薬である CTX
やオキサセフ
ェム系薬のMOX
に対しては全株が耐性を示したが、
カルバペネム系薬の