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平成22年度我が国経済構造に関する競争政策的観点からの調査研究,アジアを中心とした新興国における企業統合規制の運用実態に関する調査研究報告書

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アジアを中心とした新興国における

企業結合規制の運用実態に関する調査研究

-報告書-

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はじめに アジアを中心とした新興国の台頭に伴い、グローバルな需要構造が変化し、新興国等は 生産分業を行う「世界の工場」から、巨大な中間層の購買力を生み出す「世界の市場」として 台頭し、世界全体の経済成長を牽引するほどに、その存在感を高めている。 新興国を含めた苛烈な国際競争が展開される中で、我が国企業が生き残るためには、戦 略的なM&A を展開するなど、グローバル市場を見据えた事業展開の重要性が高まっており、 特に爆発的な需要を求めて、新興国に進出する企業が増加している。このように、新興国 に進出し事業展開したり、新興国である程度の存在感のある企業が企業結合をしたりする 際には、当該新興国の競争法における企業結合規制が関わってくる可能性がある。 他方で、新興国における企業結合規制は、欧米などの先進国に比べ情報が尐なく、制度 や適用事例について我が国企業が調査をすることが困難な状況にある。そのため、我が国 企業が新興国に進出し事業展開するにあたり、企業結合規制に抵触する否か判断すること が難しかったり、知らないうちに企業結合規制に抵触し、罰則等を適用され不利益を被っ たりするおそれがある。 以上の背景に基づき、本調査報告書は、中国、ベトナム、インドネシア、インドの四つ の新興国における競争法の内容、及び適用例、実務上の問題点等の実態について調査を行 い、とりまとめたものである。本報告書の内容が、今後の日本企業の上記の新興国におけ るM&A の際に参考となれば、幸いである。

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目 次 I. 中国 ... 1 1.競争法の概要 ... 1 1)競争法導入の背景、導入までの経緯 ... 1 2)根拠法 ... 2 3)競争法の目的 ... 2 4)企業結合 ... 3 5)民事訴訟手続 ... 10 2.競争法の企画・執行等の体制 ... 11 1)体制の概観 ... 11 2)企画などに関する機関 ... 11 3)執行機関 ... 12 3.企業結合審査 ... 14 1)企業結合審査の考え方 ... 14 2)企業結合審査の手続き ... 21 3)企業結合審査の状況 ... 24 4)個別事例の審査結果 ... 26 5)企業結合審査の現状の評価と課題 ... 40 Ⅱ.ベトナム ... 47 1.競争法の概要 ... 47 1)競争法導入の背景、導入までの経緯 ... 47 2)根拠法 ... 47 3)競争法の目的 ... 47 4)企業結合 ... 47 2.競争法の企画・執行等の体制 ... 50 1)体制の概観 ... 50 2)企画などに関する機関 ... 51 3)執行機関 ... 51 3.企業結合審査 ... 52 1)企業結合審査の考え方 ... 52 2)企業結合審査の手続き ... 56 3)企業結合審査の状況 ... 57 4)個別事例の審査結果 ... 57

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5)企業結合審査の現状の評価と課題 ... 58 Ⅲ.インドネシア ... 60 1.競争法の概要 ... 60 1)競争法導入の背景、導入までの経緯 ... 60 2)根拠法 ... 60 3)競争法の目的 ... 60 4)企業結合 ... 61 2.競争法の企画・執行等の体制 ... 63 1)体制の概観 ... 63 2)企画などに関する機関 ... 63 3)執行機関 ... 63 3.企業結合審査 ... 65 1)企業結合審査の考え方 ... 65 2)企業結合審査の手続き ... 70 4.審査の実績 ... 74 1)KPPU 審査の実績 ... 74 2)企業結合に関する近年の実績 ... 75 3)企業結合審査の現状の評価と課題 ... 77 Ⅳ.インド... 79 1.競争法の概要 ... 79 1)競争法導入の背景、導入までの経緯 ... 79 2)根拠法 ... 81 3)競争法の目的 ... 81 4)企業結合 ... 82 5)企業結合における違反に対する処罰 ... 87 2.競争法の企画・執行等の体制 ... 89 1)体制の概観 ... 89 2)企画・執行機関の体制 ... 89 3.競争法の現状の評価と課題 ... 90 1)現状の評価 ... 90 2)課題 ... 92 参考 1)外国投資家による国内企業 M&A の安全審査制度確立に関する通知(仮訳) ... 93 参考 2)VCA 決定通知の英訳(現地法律事務所による仮訳) ... 97

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I. 中国

1.競争法の概要

1)競争法導入の背景、導入までの経緯 中国は、1970 年代の改革開放以降、外国投資家に対する規制は、中国の投資家と外国 の投資家の間のジョイントベンチャー設立といった対中投資をその対象としてきたが、 1980 年代半ば以降の対中投資の増加に伴い、中国における企業結合へと規制対象が移行 した1 1992 年以降、市場経済化の進展を受け、競争政策の導入と関係立法化の作業が進めら れた。1993 年には「中華人民共和国反不正等競争法」が公布されたが、当時は企業規模 の拡大を重視する産業政策を採っており、独占禁止法による企業結合規制の必要はない と言う意見が強かったため、包括的独占禁止法の立法はなされなかった。 包括的独占禁止法の起草作業は1994 年より始められていたが、2005 年以前は中国の 企業規模が小さく、国際競争力も乏しかったため、国内企業間の結合による規模拡大が 重視された。そのため、起草作業はあまり進展しなかった。2005 年以降、中国経済のグ ローバル化によって市場経済立法の必要性が生じたこと、外国資本による国内企業の合 併買収に対する規制強化の必要性が生じたことから、独占禁止法の起草作業が加速し、 2006 年の全人代常務委員会において、独占禁止法草案が初めて審議された。2007 年 8 月30 日には、全人代常務委員会を通過、同日制定公布された。 当該独占禁止法は、抽象的な概念を用いて原則を規定するのみにとどまり、また、執 行機関の指定など運用上直ちに必要となるいくつかの点について、国務院に決定を委任 しているなど、不透明な部分が尐なからずあった2。その後、法律を補完するはずの施行 規則やガイドラインも出揃わないまま2008 年 8 月 1 日に施行された3 施行後、2009 年 1 月に入り、商務部独占禁止局が企業結合審査手続に関する一連の実 施規定草案と「関連市場の画定に関するガイドライン(草案)」を公表した。 1 「中国における M&A 取引に関する独占禁止法上の事前届出および審査:届出手続きに係 る実務上の留意点」 2 川島富士雄「中国独占禁止法~執行体制・実施規定・具体的事例~(上)」国際商事法務 3 ネイサン G ブッシュ、内藤裕史「中国独占禁止法の施行と今後の課題」国際商事法務

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2 2)根拠法 「中華人民共和国独占禁止法」(以下、中国独禁法) なお、中国の企業結合に関する関連文書としては、以下のものがある。 図表 1 中国における企業結合に関する規定・ガイドライン 文書名(仮訳) 原文 日付 中華人民共和国独占禁止法 中华人民共和国反垄断法 2008 年 8 月 1 日施行 国務院の企業結合の届出基準に関 する規定 国务院关于经营者集中申报 标准的规定 2008 年 8 月 3 日施行 企業結合届出に関する指導的意見 (事業者の集中にかかる届出規準 に関するガイドライン) 关于经营者集中申报的指导 意见 2009 年 1 月 5 日公表 企業結合届出文書資料に関する指 導的意見(事業者の集中にかかる 届出書類に関するガイドライン) 关于经营者集中申报文件资 料的指导意见 2009 年 1 月 5 日公表 国務院独占禁止委員会の関連市場 の画定に関する指針 国务院反垄断委员会关于相 关市场界定的指南 2009 年 5 月 24 日公表 企業結合審査弁法 经营者集中审查办法 2010 年 1 月 1 日施行 企業結合届出弁法 经营者集中申报办法 2010 年 1 月 1 日施行 企業結合独占禁止審査事務ガイド ライン 经营者集中反垄断审查办事 指南 2009 年 1 月 1 日公表、 2010 年 3 月更新4 企業結合の資産或いは業務剥奪の 実施に関する暫定規定 关于实施经营者集中资产或 业务剥离的暂行规定 2010 年 7 月 5 日発布5 3)競争法の目的 中国独禁法では、第一条(立法目的)において以下のように規定。 「この法律は、独占行為を予防及び防止し、市場の公平な競争を保護し、経済の運営効 率を高め、消費者の利益及び社会公共の利益を保護し、社会主義市場経済の健全な発展 を促進することを目的として制定する。」 4 出所は、川島富士雄「中国独占禁止法企業結合届出に関する指導意見および暫定弁法(草 案)等 日本語仮訳」及び商務部独占禁止局ホームページ。 5 商務部独占禁止局ホームページ上では、暫定規定を改定した正式な規定は発布されていな い。(2011 年 3 月時点)

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3 中国独禁法は、①独占行為を防止し及び禁止し、公平な市場競争を保護し、経済運営 効率を向上させ、②これによって消費者利益と社会公共利益を維持及び保護し、③最終 的には、「社会主義市場経済」の健全な発展を促進するという 3 段階の法の目的が規定 されている。 第一条には、法律が求める価値または達成すべき社会目標が規定されている。独占禁 止法の規制対象は、「独占行為」と明瞭に定められており、これは中国独占禁止法が構造 的規制ではなく、行為的規制を採用していることを意味する。独占禁止法の中心的価値 は、独占行為を防止又は禁止することであるが、独占行為の「防止」とは、事前規制を 意味しており、企業結合規制がそれに当たる。独占禁止法の冒頭で「独占行為」の防止 及び禁止を規定したことは、法が行為的規制を採用し、国の産業政策との一致を確保す るためである。 中国では市場経済化改革が進められてきており、市場メカニズムの導入が重要な任務 となっているが、いまだ国有企業・公共企業、行政機関の行政権力の濫用によって競争 制限行為が行われ、市場の公平な競争を害している。そのため、独占禁止法によって公 平な市場競争を保護することは、民間企業や中小企業の経営機会の確保に繋がる。中国 では、市場経済化改革において、経済効率の向上を目的に掲げてきたものの、近年、中 国政府は環境悪化や経済格差の問題を背景に「効率」から「公正」への政策転換を迫ら れている。独占禁止法は、このような国の政策転換を反映し、公平な市場競争の保護と 経済効率の向上の両方を直接の立法目的としている。 中国独占禁止法は「消費者利益と社会公共利益を維持し、社会主義市場経済の健全な 発展を促進すること」を目的として規定しているが、当初は消費者と事業者の利益を保 護すると書かれていた。最終的には「事業者」という文言が削除され、消費者利益のみ を保護することになった。 一方で、中国独占禁止法は目的として「社会公共の利益を保護する」ことも規定して おり、これが社会主義中国の特徴的規定である。「社会公共利益」をどう定義するかにつ いて立法過程で委員から質問があったものの、結局、社会公共利益を保護することは社 会主義制度の本質的要求であるため、概念が未定義のまま規定されている6 4)企業結合 (1)独占行為の規定 中国独禁法第三条(三)において、予防又は防止される企業結合を以下のように規 定。 「競争の排除若しくは制限する効果を有し、又はそのおそれのある企業結合を行 6戴 龍「中華人民共和国独占禁止法調査報告書(抜粋)」

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4 なうこと」 中国独禁法では、第五条(企業結合)において以下のように規定。 「事業者は、公平な競争及び任意の提携を通じて、法に基づき企業結合を行い、 事業規模を拡大し、市場競争力を高めることができる」 (2)企業結合の類型 中国独禁法では、第二十条(企業結合の類型)において企業結合の類型を以下のよ うに規定している。 ・事業者合併 ・事業者が株式又は資産の取得を通じて他の事業者に対する支配権を取得 ・事業者が契約などの方式を通じて他の事業者に対する支配権を取得し、又は他 の事業者に対して決定的影響を与えることができる状況 ここで「支配権」や「決定的影響」の定義がどのようなものであるかが非常に重要 であるが、独占禁止法ではそれを明確に定義していない。 2008 年 3 月 27 日に国務院法制弁公室が「企業結合届出に関する規定(意見徴集稿)」 を公表し、その中で、「他の事業者の支配権の取得」について下記の四つの類型を規定 しているが、同年 8 月に最終的に公布された「国務院の企業結合の届出基準に関する 規定」では削除された。 ①他の事業者の50%以上の議決権のある株式また資産の取得、 ②他の事業者の議決権のある株式また資産の筆頭持主になること、 ③実際に他の事業者の多数の議決権を支配できること、 ④他の事業者の取締役会において半数以上の役員の選任を決定できること また、2009 年 1 月にパブリックコメントに付された「企業結合届出暫定法案」第 3 条においては、「他の事業者に対する支配権の取得」には、下記が含まれるとされた7 ①他の事業者の50%以上の議決権付き株式あるいは資産を取得すること。 ②他の事業者の50%以上の議決権付き株式あるいは資産を取得するにはいたらな いものの、株式あるいは資産の取得及び契約などの形で、他の事業者の 1 名以 7戴 龍「中華人民共和国独占禁止法調査報告書(抜粋)」

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5 上の役員の任命、財務予算、経営販売、価格設定、重要投資、その他重要な管理・ 経営方針策定などの決定を行えるようになること しかし同年11 月に公布された「企業結合届出弁法」の第三条には、独占禁止法に記 載されている内容以上のことは記されていない。 (3)企業結合の届出手続の概要 a)届出が必要となる基準 中国独禁法第二十一条(企業結合の届出)では、前述の企業結合の類型にあたる 場合、事業者は事前に国務院独占禁止法執行機構8に対して届出を提出しなければな らないとされている。 国務院の企業結合の届出基準に関する規定(第三条)によれば、企業結合が下記 のいずれかに該当する場合、事業者は国務院商務主管部門へ届出なければならず、 届出なしに企業結合を実施してはならない。 ①企業結合に関わるすべての事業者の全世界での前会計年度売上高の合計が 100 億人民元を超え、且つ、尐なくともそのうち 2 つの事業者のそれぞれの中国国 内での前会計年度売上高が4億人民元を超える ②企業結合に関わるすべての事業者の中国国内での前会計年度売上高の合計が 20 億人民元を超え、且つそのうち尐なくとも 2 つの事業者のそれぞれの中国国 内での前会計年度売上高が4億人民元を超える また、同規定は、売上高の計算は、銀行、保険、証券、先物等の特殊な産業・セ クターの状況を考慮しなければならず、具体的な方法は国務院商務主管部門が他の 関連する部門と共同で制定するとしている9 8 国務院が規定する独占禁止法執行の職責を担当する機構で、企業結合の場合は商務部独占 禁止局が該当する。 9国務院の企業結合の届出基準に関する規定(第三条) (一)参与集中的所有经营者上一会计年度在全球范围内的营业额合计超过 100 亿元人民币,并且其中至 少两个经营者上一会计年度在中国境内的营业额均超过 4 亿元人民币;(二)参与集中的所有经营者上一会计 年度在中国境内的营业额合计超过 20 亿元人民币,并且其中至少两个经营者上一会计年度在中国境内的营业 额均超过 4 亿元人民币。营业额的计算,应当考虑银行、保险、证券、期货等特殊行业、领域的实际情况, 具体办法由国务院商务主管部门会同国务院有关部门制定。

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6 また、企業結合届出弁法第四条~第七条で営業額についてに詳しく規定している。 ただし、中国独禁法第二十二条(企業結合の届出の免除)によれば、以下に該当 する場合には届出を要しない。 ①企業結合に参加する事業者の一つが、他の事業者の議決権付き株式又は資産の 50%以上を保有している場合 ②企業結合に参加する各事業者の議決権付き株式又は資産の50%以上が、企業結 合に参加していない同一の事業者によって保有されている場合 なお、届出基準については、企業や法律事務所から売上基準、支配基準が不明瞭 だという意見が多く、企業や法律事務所が支配基準については広く解釈して届出を 行うことになることが多いようである。 国内の専門家、法律事務所、企業に対するインタビューでは、届出基準について 以下のような意見、指摘等があった。 ・ 売上基準が低いことや支配の概念が広いことから、簡単に届出の基準に該当 してしまう。10 ・ 世界での売上も基準に含まれているので、中国市場においてシェアが小さく 競争上の影響がない場合も届出が必要になるが、中国の届出に関して企業の 事業部門の協力が得られないことがある。 ・ 中国企業との合弁の場合でも、中国企業に届出を納得させることには労力が かかる。中国企業は、商務部独占禁止局を軽視しており、届出の協力を得に くい。 ・ 売上基準、支配基準が不明瞭である。特に、支配の定義があいまいである。 日本の感覚では「支配」は過半数取得だろうと思うが、中国はこの基準がど んどん低くなってきていて、20%出資、役員一人派遣であれば届出が必要と 言われてしまう。 ・ 売上高の基準は、急成長しインフレも進行している中国の経済状況からする と、短期間で低い水準になってしまう。 ・ 届出基準関係のガイドラインも作成してほしい。 b)届出に必要となる書類 中国独禁法では、第二十三条(結合の届出に必要な書類)において企業結合の届 10 EU の届出基準は、当時会社すべての全世界売上高の合計が 50 億ユーロ(2011 年 3 月 19 日時点のレートで約 466 人民億元)超で、中国の 4.7 倍程度である。米国では、議決権 付き証券及び資産の合計で売上だけでないため、中国との比較が困難である。

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7 出に必要となる書類を規定している。また、企業結合届出弁法で詳細な解説がなさ れている11 ①届出書 結合に参加する事業者の名称、住所、連絡方法、経営範囲、結合の実施予定日 などの情報を記入する。届出人の身分証明又は登記証明、国外の届出人は現地 の関係機関の公証・認証書類、代理人による届出は届出人の署名のある授権委 託書が必要。 ②企業結合による関連市場の競争に及ぼす影響に関する説明 企業結合による関連市場への影響について事業者が自己説明するもの。取引状 況、企業結合の理由、事業者の関連市場における市場占有率及び市場に対する 支配力、主要な競合とその市場シェア、市場独占の度合い、産業発展、技術進 歩、国民経済発展、消費者およびその他の事業者への影響、企業結合による関 連市場の影響の評価及びその根拠などについて、自己判断などを説明する。 ③企業結合に関する協定 各種形式の結合協定文書(協定書等)、企業結合を支持する各種の報告(結合の 事業性調査報告、産業発展の研究報告、今後の発展予測報告等) 取引の対象、価格、時間、具体的取引方式(吸収合併・新設合併・株式の買収・ 資産の買収等)などの結合に関する協定の中核的内容を記載する。 ④企業結合に参加する事業者の、前会計年度の公認会計士による監査済み財務会 計報告書 企業の資産負債表、利潤率、資金流量などの関連財務資料。これをもって、国 務院独占禁止法執行機構が結合の市場効果を判断する重要な参考とする。 ⑤国務院独占禁止法執行機構が規定するその他の文書及び資料 11 企業結合届出弁法第十条、戴 龍「中華人民共和国独占禁止法調査報告書(抜粋)」 (一)申报书。申报书应当载明参与集中的经营者的名称、住所、经营范围、预定实施集中的日期。申报人 身份证明或注册登记证明,境外申报人须提交当地有关机构出具的公证和认证文件。委托代理人申报的,应 当提交经申报人签字的授权委托书。(二)集中对相关市场竞争状况影响的说明。包括:集中交易概况;相关 市场界定;参与集中的经营者在相关市场的市场份额及其对市场的控制力;主要竞争者及其市场份额;市场 集中度;市场进入;行业发展现状;集中对市场竞争结构、行业发展、技术进步、国民经济发展、消费者以 及其他经营者的影响;集中对相关市场竞争状况影响的效果评估及依据;有关方面的意见,如地方政府和主 管部门的意见等。(三)集中协议。包括:各种形式的集中协议文件,如协议书、合同以及相应的补充文件等; 支持集中协议的各类报告,如集中交易的可行性研究报告、尽职调查报告、行业发展研究报告、集中策划报 告以及交易后前景发展预测报告等。(四)参与集中的经营者经会计师事务所审计的上一会计年度财务会计报 告。 (五)反垄断局要求提交的其他文件资料。

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8 ①~④以外の資料に対する受け皿規定であり、国務院独占禁止法執行機構が状 況に応じて事業者に必要な文書及び資料を提出させる。 上記の書類で不十分である場合は、中国独禁法第二十四条(届出書類の補充提出) において、届出書類を補充提出することが規定されている。この規定のためか、書類 不備等を理由に届出の受理までに時間がかかるケースが多く、国内の専門家、法律事 務所、企業に対するインタビューにおいて、以下のような声、意見、指摘等があった。 ▪ 受理までに時間がかかる。受理後に、追加的な資料・情報提供の要請がある ことが多く、それによりある程度内容が充足されると受理となる。しがたっ て、審査がなかなかスタートしない。 ▪ 届出から追加質問に答えて受理されるまでの期間は、最近は商務部独占禁止 局の対応がシステマチックになり、短くなってきている。 ▪ 補充質問は中身をきちんと精査した上で、分からない所や詳細な説明がほし いところについて聞いてくる。質問が来るのは、提出後1週間~10 日である。 ▪ 追加的な質問等のアクションがしばらく無かったケースもあるので、正式に 受理されているかについて確認することが必要である。 なお、上述のうち、関連市場のデータについては、商務部独占禁止局からは第三者 機関のデータに基づくことを要求され、当事会社の推計では認められない傾向にある。 これに対応するために、中国のコンサルティング会社が活用されることが多いようで ある。関連市場のデータに関する要求が厳しい背景には、商務部独占禁止局が市場に 関連するデータをできるだけ収集・蓄積したいと考えていることがある。関連市場の データに関しては、国内の専門家、法律事務所、企業に対するインタビューにおいて、 以下のような声、意見、指摘等があった。 ▪ 当事会社による推計ではなく、第三者機関によるデータの提出を求められた。 ▪ 第三者機関の資料として、中国のコンサルティング会社のレポートを活用する ことが多い。 ▪ 第三者機関を起用し、コンサルティングレポートを元に市場データを提出して スムーズにクリアランスに入れた。 ▪ コンサルティング会社のデータと日本側が財務諸表から作成してデータが整合 せず説明を求められたことがある。多尐の説明が必要だったが、大きな問題に はならなかった。 ▪ 独禁法上の問題が想定されない案件でも、データを細かく求められる。 ▪ 最近では、当時会社の推計データを受け入れることもある。

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9 c)事前相談 商務部独占禁止局「企業結合届出に関する指導意見」では、正式な届出に先立って 事前相談をできることが明記されている。 国内の専門家、法律事務所、企業へのインタビューでは、事前相談の活用につい ては、企業・法律事務所によってその活用は様々で、届出の要否を確認するだけの ものから、書類の作成方法や関連市場の画定の相談をしている例まであり、活用の 是非についても事前相談はしっかり活用すべきという意見と事前相談には時間をか けない方がよいという意見がある。インタビューにおける個々の意見、指摘等は、 以下のとおりである。 ・ 現地の法律事務所からは、届出の是非について事前相談を行なうと、「とりあえ ず届出してほしい」というアドバイスしかしないと聞いている。 ・ 事前相談のタイミングは、M&A の発表を行なう前の方が良い。事前に相談し てから資料を提出した方が、受理が早くなる。 ・ 事前相談では届出の要否のみの議論を行う。事前相談で1 カ月かかるよりも、 早く届出を行って30 日の中で終わらせる方が早いと思う。 ・ 事前相談では、書類・資料の形式、必要となる公正証書の種類等の手続きに関 するものだけではなく、関連市場の画定の相談も行うことができる。ただし、 書類受付と審査では担当者が異なるので、市場の画定等の考えが異なることが ある。 ・ 資料を提出するのはいわゆる窓口だが、事前相談はもっと上のリーダークラス の人にアポをとって直接話をする機会である。その際にはパワーポイントの資 料を作成して、案件概要を説明した。 ・ 以前は、届出の要否については「とりあえず届出してほしい」という回答しか無 かったが、審査部の業務量が多いため、最近では必ずしも届出を行なうように は指導していない。ただし、届出不要の判断基準はなく、届出の要否は当時会 社の判断に任せている。 (4)企業結合の審査手続きの概要 中国独禁法第二十五条によれば、国務院独占禁止法執行機構は、事業者の提出した 書類・資料を受け取った日から30 日以内に、企業結合に対する初期審査を行い、更な る審査をするか否かの決定を下し、書面にて事業者に通知することとされている。国 務院独占禁止法執行機構が決定を下す前に、事業者は企業結合を実施してはならない。

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10 国務院独占禁止法執行機構が更なる審査を実施しない決定をし、或いは期限を過ぎて も決定が下されていない場合は、事業体は集中を実施してよい。 第二十六条には、実質審査について規定がなされている。国務院独占禁止法執行機 構は、更なる審査の実施を決定した場合、決定日から起算して90 日以内に審査を完了 させ企業結合を禁止するか否かの決定を出し、書面にて事業者に通知しなければなら ない。また、事業者は、審査の期間内に企業結合を実施してはならない。 国務院独占禁止法執行機構は、以下の場合、書面での通知により、第二十五条に定め た審査期間を延長できるが、60 日間を超えてはならない。 ・事業者が審査期間の延長に同意した場合 ・事業者が提出した書類・資料が正確ではなく、更に確認する必要がある場合 ・事業者が申請書を提出した後、関連状況に重大な変化が生じた場合 なお、期間を過ぎても決定が出ない場合、事業体は集中を実施してよい。 5)民事訴訟手続 中国独禁法第五十条(民事責任)において、事業者は独占的行為を実施することによ り、他に損害を与えた場合には、法に従い民事責任を負うとされている。 独占禁止法第五十条および中国民事訴訟法の関連条項によると、個人または法人は、 以下の要件を満たす場合、事業者に対して民事責任を追及する権利を有する12 ①個人または法人が損害を被ったこと。 ②事業者が独占禁止法に反する独占的行為を行ったこと。 ③個人または法人の損害がかかる独占的行為に起因すること。 すなわち、要件①として、現実に損害を被った者のみが訴訟を提起する権利を有する。 また、要件②として、原告は、被告が独占禁止法における「事業者」としての資格を有 し、かつ、被告の行為が独占禁止法で禁じられる独占的行為の三態様(事業者による 独占協定、事業者による市場支配的地位の濫用、競争を排除又は制限する効果を有し、 またはそのおそれがある企業結合)13の一つに該当することを立証する必要がある。要 件③として、行為と損害の因果関係の立証を必要とする。 2008 年 7 月に最高人民法院が出した独占禁止法の施行に関する通知において、人 12 木内潤三郎、マイケル・ハン「中国における独占禁止案件に関する民事訴訟 13 中国独禁法第三条に規定。

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11 民法院への独立した訴訟の提起を認め、これにより、個人及び法人による民事訴訟は 事前の関連当局による独占禁止法違反の行政決定を経ることなく提起することが可能 となった。

2.競争法の企画・執行等の体制

1)体制の概観 中国独禁法の執行等の体制は、国務院、商務部独占禁止局、国家発展改革委員会、国 家工商行政管理総局といった関係主体によって構成される。 まず中国独禁法第九条で、国務院に独占禁止委員会を設立することが規定されている。 中国独禁法は、第十条において独占禁止法執行業務の責任を負う主体は「国務院が規 定する独占禁止法執行の職責を担当する機構(以下、「国務院独占禁止法執行機構」と 総称する。)」としており、国務院にその判断を委任している。この背景には、それま で独禁法関連の規制権限を部分的に担当してきた商務部独占禁止局、国家工商行政管 理総局、国家発展改革委員会の間で新独禁法の執行権限をめぐる争いがあったとの指 摘もあり、中国独禁法の施行に伴って「主要職責、内設機構および人員編成規定」に それが明記された14 具体的には、商務部独占禁止局が企業結合の審査を、工商総局が独占協定、市場支配 的地位の濫用、行政独占(価格独占行為を除く)の規制を、国家発展改革委員会が価 格独占行為の規制をそれぞれ担当する。 2)企画などに関する機関 中国独禁法第九条(国務院独占禁止委員会)により、国務院独占禁止委員会は、独 占禁止業務を組織し、調整し及び指導し、次に掲げる職責を負う。 ①競争関連政策を研究し、策定すること ②市場全般の競争状況の調査及び評価を組織し、評価報告書を公表すること ③独占禁止ガイドラインを制定し、公布すること ④独占禁止に関する法執行を調整すること ⑤国務院の定めるその他の職責 14 川島富士雄「中国独禁法~執行体制・実施規定・具体的事例~(上)」国際商事法務

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12 3)執行機関 (1)執行機関の権限 a)情報収集の権限 (i)調査権限 中国独禁法第三十九条(国務院独占禁止法執行機構の調査権限)により、国務院 独占禁止法執行機構は独占と疑われる行為の調査にあたり、以下の措置を講じる権 限を有している。 ① 調査対象者である事業者の営業場所又はその他の関連場所に立ち入り検査を 実施すること ② 調査対象者である事業者、利害関係者、又は他の関係組織若しくは個人に対し て質問し、関連する事情の説明を求めること ③ 調査対象者である事業者、利害関係者、又はその他の関連組織若しくは個人の 伝票、協定、会計帳簿、業務上の通信文書、電信データなどの文書及び資料を 閲覧し、複写すること ④ 関連証拠を封印し、又は押収すること ⑤ 事業者の銀行口座を調査すること (ii)守秘義務 中国独禁法第四十一条(守秘義務)により、国務院独占禁止法執行機構及びその 職員は、法執行の過程で知り得た企業秘密について、守秘義務を負う。 b)企業結合における違反に対する処罰 違反に対する処罰は、中国独禁法第四十八条(企業結合の処罰)により規定して いる。国務院独占禁止法執行機構は、集中実施停止命令を発し、指定期間内に株式 或いは資産を処分させ、指定期間内に営業譲渡をさせ、又はその他の必要措置によ り集中前の状態に回復させる。また50 万元以下の罰金を処することができる。 (2)国務院独占禁止委員会 中国独禁法第十条(国務院独占禁止法執行機関)により、国務院独占禁止法執行機 関は、独占禁止の法執行に責任を負う。 なお、業務上の必要に応じて、省、自治区及び直轄市の人民政府の対応機関に対し、 この法律の規定により独占禁止関連の法執行を授権することができる。 実際上の執行は、商務部独占禁止局、国家工商行政管理総局、国家発展改革委員会

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13 の間で分担されているが、国務院独占禁止委員会はそれらの間の業務調整を担当する 新設の組織であり、執行する3機関の上層に位置する。独占禁止委員会の具体的業務 は商務部独占禁止局が担当し、商務部独占禁止局の副部長が秘書長を兹任するなど、 商務部独占禁止局と国務院独占禁止委員会は同一の人員が兹務している状況である。 (3)商務部独占禁止局 商務部独占禁止局は、担当官が24 名程度、そのうち 3 分の 2 が法律学、残りが経済 学の教育歴をそれぞれ有する。商務部独占禁止局は、企業結合審査のほか、国内企業 の海外独占禁止訴訟対応を指導する業務、多国間・二国間競争政策の国際交流・協力 の展開、および独占禁止委員会の具体的業務を担当する。さらに、商務部独占禁止局 は対外貿易法に基づき対外貿易における独占行為の取り締まりに関し、国家工商行政 管理総局と国家発展改革委員会と協調してこれに関与する権限も持つ15 商務部独占禁止局には 6 つの下部組織(弁公室、競争政策所、商談所、法律所、経 済所、監察執法所)がある。 企業結合審査は、商務部独占禁止局という産業政策を担当する商務部の一つの局が 担当しており、国内の専門家、法律事務所へのインタビューでは、以下のように審査 の中立性の観点から問題視する意見があった。 ▪ 企業結合審査は商務部の一つの局が担当することになっており、局の上に立つ次 官にあたる役人もいる。また、企業結合審査において他の政府機関の発言も認め ている。中長期的には、省庁の一つの局ではなく、独立した組織になり、中立性 を確保することが求められる。 (4)国家発展改革委員会 国家発展改革委員会では、価格監督検査司が中国独禁法第2 章、3 章、5 章の価格独 占行為に対する法執行を担当する。価格監督検査司は総員20 数名からなる。中国独禁 法第十条第 2 項に基づいて各省・特別区・直轄市の価格主幹部門に対し法執行が授権 された模様である。 国家発展改革委員会はマクロ経済政策、価格政策、産業政策、エネルギー政策等を幅 広く担当してきた官庁であり、現在ではハイテク産業振興等を担当している。国家発 展改革委員会は従来から価格法体系を主管している。 15川島富士雄「中国独禁法~執行体制・実施規定・具体的事例~(上)」国際商事法務

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14 (5)国家工商行政管理総局 国家工商行政管理総局においては、独占禁止・反不正等競争法執行局が中国独禁法第 2 章、3 章、5 章(価格独占行為を除く)の法執行を担当する。職員は 24 名程度で、 独禁法執行を担当する職員は 8 名程度の模様。各地方工商局は、従来から商業登記、 営業許可、商標登録等の権限を有し、反不正等競争法や消費者権益保護法関連業務も 担当している。

3.企業結合審査

1) 企業結合審査の考え方 (1) 企業結合に関するガイドライン 中国において企業結合に関連するガイドラインには、以下が存在している。 図表 2 中国における企業結合に関する規定・ガイドライン(再掲) 文書名(仮訳) 原文 日付 中華人民共和国独占禁止法 中华人民共和国反垄断法 2008 年 8 月 1 日施行 国務院の企業結合の届出基準に関 する規定 国务院关于经营者集中申报 标准的规定 2008 年 8 月 3 日施行 企業結合届出に関する指導的意見 (事業者の集中にかかる届出規準 に関するガイドライン) 关于经营者集中申报的指导 意见 2009 年 1 月 5 日公表 企業結合届出文書資料に関する指 導的意見(事業者の集中にかかる 届出書類に関するガイドライン) 关于经营者集中申报文件资 料的指导意见 2009 年 1 月 5 日公表 国務院独占禁止委員会の関連市場 の画定に関する指針 国务院反垄断委员会关于相 关市场界定的指南 2009 年 5 月 24 日公表 企業結合審査弁法 经营者集中审查办法 2010 年 1 月 1 日施行 企業結合届出弁法 经营者集中申报办法 2010 年 1 月 1 日施行 企業結合独占禁止審査事務ガイド ライン 经营者集中反垄断审查办事 指南 2009 年 1 月 1 日公表、 2010 年 3 月更新 企業結合の資産或いは業務剥奪の 実施に関する暫定規定 关于实施经营者集中资产或 业务剥离的暂行规定 2010 年 7 月 5 日発布

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15 (2) 中国におけるガイドラインの位置づけ 載龍「中華人民共和国独占禁止法調査報告書」によると、中国におけるガイドライ ンは以下のとおり位置づけられる(ある程度法的拘束力を有するもの)と考えられる。 「中国法のどこにも、ガイドラインという概念は見当たらないようである。そこで、 独占禁止委員会が制定・公布する独占禁止ガイドラインは、国務院の一つの委員会に よる規範性文書としての部門規章、規定、方法等に過ぎない。だが、中国においては、 政府部門が公布した部門規章、規定、方法等でもある程度法的拘束力があり、これが 日米欧における法的な拘束力を持たないガイドラインとは異なる。したがって、国務 院独占禁止委員会が制定する独占禁止ガイドラインは、日米欧の独占禁止関連ガイド ラインとは実質的な効力が違うと想像される。」 (3) 市場の画定 国務院独占禁止委員会「関連市場の画定に関する指針」16では、合理的な市場の画定 は、競争者や潜在的競争者を識別し、事業者の市場シェア及び市場集中度を判定し、 事業者の市場における地位を認定し、事業者による行為が違法性やその法律上の責任 等を判断するために重要な役割を果たすものとされている。 関連市場とは、事業者が一定の期限内に特定の商品又はサービスについて競争を行う こととなる、商品範囲及び地理的範囲である。関連市場を画定する際には、商品市場 と地理的市場の両方を画定しなければならないとしている点においては、諸外国の競 争法制と同様な原則を採用している。 中国独禁法において興味深いことは、第三条第四項が、商品の生産周期、使用期限、 季節性、流行性又は知的財産保護期間等が商品の重要な特徴の一部になっている場合 には、関連市場を画定する際に「時間性」を考慮しなければならないとしている点で ある。 a)代替性分析 「関連市場の画定に関する指針」第四条においては、市場の画定の理論的根拠と して「代替的分析」を規定し、市場の画定のために主に需要の代替性を考慮し、必 要に応じて供給の代替性を考慮するものとしている。 市場の画定に際して、需要の代替性と供給の代替性の両方で検討するという点に ついては、日本及びEU で現在用いられている手法に近い。 16 KLO 投資コンサルティング(上海)有限公司(著作権者)の日本語訳が JETRO のホーム ページに掲載されている。 (http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/law/pdf/invest_058.pdf)

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16 (i)需要の代替性 「関連市場の画定に関する指針」第五条では,需要の代替性とは、以下のような 要素を根拠に、需要者の側からみた異なる商品間の代替性を決めるものと定義され ている。 ・商品の機能や用途に対する需要 ・需要者の価格に対する満足度 ・(代替品の)取得の難しさ 他 原則として、需要者の側から見て商品間の代替性が高いほど、競争関係が強く、 同一の市場に属する可能性が高くなるとされている。 (ii)供給の代替性 「関連市場の画定に関する指針」第六条では、供給の代替性とは次ぎのように定 義されている。比較的大きな生産設備の改造や調整、又は比較的大きなリスクを負 うことなく、事業者が、短い期間で、現在供給している商品を市場競争力のある代 替品に切り替えて提供できる可能性のことである。原則として、生産設備の改造や 調整がより尐なく、リスクがより尐なく、代替商品への切り替え及び提供がより迅 速であるほど、当該商品の市場における競争力がより強く、代替性もより高いので、 同一の関連市場に属する可能性が高くなる。 b)関連市場の画定における考慮すべき要素 「関連市場の画定に関する指針」第八条では、商品市場、地理的市場の画定につ いては、需要の代替性、供給の代替性の双方の観点から、以下のような考慮すべき 要素を検討するとされている(しかしながら、これらに限定されるわけではない。)

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17 図表 3 関連市場の画定における考慮すべき要素 需要者側からの考慮要素 供給者側からの考慮要素 商品市場 ・商品価格又はその他の競争要素の変化に より、他の商品の購入の切り替え、又は 切り替えを考慮していることの証拠 ・商品の外形、特性、品質及び技術的な特 徴等の総合的特徴及び用途 ・商品間における価格差異 ・商品の販売ルート ・その他の重要な要素(例:需要者の好み、 依存度など) ・他の事業者の商品価格等の競争要素の 変化に対する反応の証拠 ・他の事業者の生産フロー及び技法 ・生産転換の難易度、必要な期間 ・生産転換における想定外の費用及びリ スク ・生産転換後に提供する商品市場におけ る競争力、販売ルート等 地理的市場 ・商品価格又はその他の競争要素の変化に より、その他の地域での商品の購入の切 り替え、又は切り替えを考慮しているこ との証拠 ・商品の運送コスト及び運送特徴 ・多数の需要者が商品を選択する実際の区 域及び主な事業者の商品の販売分布 ・関税、地域制法規、環境保護要素、技術 的要素等を含む地域間の貿易・取引障壁 ・その他の重要な要素(例:特定地域の需 要者の好み、商品の当該地域内及び輸送 数量) ・その他の地域の事業者の商品価格等の 競争要素の変化に対する反応の証拠 ・その他の地域の事業者の関連する商品 の供給又は販売における即時性及び 実行可能性(例:注文書をその他の地 域の事業者に切り替える場合の転換 コスト等) 出所)国務院独占禁止委員会「関連市場に画定に関する指針」 c)仮定的独占者テスト(SSNIP テスト) 「関連市場の画定に関する指針」第十条では、仮定的独占者テストを次のように 規定している。 (i)商品市場 仮定的独占者テストは、一般的にまず関連する商品市場を画定する。最初に、企 業結合審査の当事者である事業者が提供する商品(目標商品)を画定した上で、当 該事業者が利益最大化を経営目的とする独占者(仮定的独占者)であると仮定した 場合、その他の商品の販売条件が変化しないという状況において、仮定的独占者が 目標商品の価格を小幅(一般的に、5~10%)であるが、持続して(一般的に、一

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18 年)引き上げることができるか否かを分析する。目標商品が値上げされると、需要 者は密接な代替関係を有するその他の商品に切り替えて購入することになり、これ により仮定的独占者の販売量が減尐する。目標商品が値上げされた後、仮定的独占 者の販売量が減尐しても、なお仮定的独占者が利益を得ることができる場合、目標 商品は関連する商品市場を構成する。 値上げにより、需要者が密接な代替関係を有するその他の商品に切り替えること により、仮定的独占者の値上げ行為によって仮定的独占者に利益がもたらされない 場合、当該代替商品を関連する商品市場に加える必要があり、当該代替商品と目標 商品は、商品集合を形成する。さらに、当該商品集合が値上げされた場合、仮定的 独占者はなお利益を得ることができるか否かを分析する。分析の結果、利益を得る ことができるのであれば、当該商品集合は関連する商品市場を構成しており、利益 を得ることができないのであれば、前述の分析仮定を引き続き行う必要がある。 商品集合が大きくなればなるほど、集合内の商品と集合外の商品の代替性が小さ くなるため、最終的にある商品集合が出現し、仮定的独占者は値上げにより利益の 獲得を実現できることとなる。このようにして、関連する商品市場が画定される。 (ii)地理的市場 関連する地理的市場の画定方法は、商品市場の方法と同様である。まず、企業結 合審査の当事者である事業者の経営活動地域(目標地域)から始め、その他の地域 の販売条件が変化しないという状況において、仮定的独占者が目標地域内の関連す る商品に対して、小幅(一般的に、5%~10%)であるが、持続して(一般的に一 年)値上げを行った場合、利益を得ることができるか否かという問題を分析する。 分析の結果、利益を得ることができるのであれば、目標地域は関連する地理的市場 を構成する。他の地域的市場の激しい切り替えにより、値上げしても利益を得るこ とができない場合、値上げにより最終的に利益を得ることができるまで、地理的範 囲を拡大する必要があり、当該地域が関連する地理的市場となる。 (4) 考慮要素 中国独禁法第二十七条(企業結合審査の考慮要素)により、企業結合審査において は以下の要素が考慮されることとなる。 ①企業結合に参加する事業者の関連市場における市場占拠率及び市場に対する支配 力 ②関連市場の市場集中度 ③企業結合が市場参入及び技術進歩に与える影響 ④企業結合が消費者及び他の関連事業者に与える影響

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19 ⑤企業結合が国民経済発展に与える影響 ⑥国務院独占禁止法執行機構が市場競争に影響すると考えるその他の考慮要素 (5)問題解消措置 中国独禁法第二十九条(企業結合の制限)により、企業結合を禁止しない場合でも、 企業結合による競争への不利な影響を軽減するような制約的条件を付加することを決 定できるとしている。 これにおいて、構造的問題解消措置あるいは非構造的問題解消措置(行為的問題解 消措置)が講じられることとなる。 a)構造的問題解消措置 企業結合に参加する事業からの一部の資産あるいは事業を分離する等の措置が講じ られる。例えば、パナソニック-三洋電機の事例では、工場の売却が命じられている。 b)非構造的問題解消措置 企業結合に参加する事業者によるエッセンシャル・ファシリティの開放、コア技術 の許諾、独占的契約の終了等の措置が講じられる。 問題解消措置は、商務部独占禁止局と当事会社の間で第二次審査(特に後半)にお いて議論されている。日本国内の法律事務所へのインタビューによると、以下のよう に進められているようである。 ▪ 初期段階では、問題解消措置の必要性に関する心証を話さない傾向があり、問題 解消措置の議論が出るのは、二次審査の最後の方である。 ▪ スケジュールが切迫している時期なので、企業の上層部の人に北京に滞在しても らい、一日おきぐらいで商務部独占禁止局とのやり取りを集中的に行なう必要が ある。 ▪ 早期に審査を終結させたい場合には、その旨を担当官に伝え、問題解消措置の必 要性の心証を聞きだすコミュニケーション能力に優れた人を現地で採用するこ とが重要である。 ▪ 商務部独占禁止局に対しては、しっかりと反論をした上で、妥協点に落とし込む という交渉方法をとるべきである。初めから妥協的では、より悪い条件を受け入 れざるを得なくなる。 複数の競争政策当局で異なる問題解消措置が認められると、企業結合計画を大きく 修正しなければならなくなるため、競争政策当局間で調整してほしいという意見があ

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20 った。 日米欧の競争当局については、基本的に問題解消措置について連携しているようで あるが、商務部独占禁止局は主要国の競争政策当局との間のパイプが無いため、当事 会社に対し異なる問題解消措置を要求する可能性がある。 (6)外資の扱い a)中国独禁法における規制 中国独禁法では、第三十一条(外資による企業結合の国家安全審査)により、外資 による企業結合の場合は、企業結合審査のほかに、国家の関連規定に従って安全審査 を行わなければならない、とされている。 b)「外国投資家による国内企業 M&A の安全審査制度確立に関する通知」17 外資に対する規制については、2011 年 2 月 3 日に国務院弁公庁より「外国投資家に よる国内企業M&A の安全審査制度確立に関する通知」が発せられている。本通知第 一項(一)では、以下の産業に関連する企業に対し、国家安全を維持する目的で、国 務院による審査を行うという内容になっている。 ・重要な農産品 ・重要なエネルギー及び資源 ・重要なインフラ設備 ・重要な運輸サービス ・核心的な技術 ・重大な装備の製造 本通知第二項では、上記に関連する企業に対し、安全審査において次のような検討を 行うことになっている。 ・M&A 取引の国防安全(国防に要する国内製品の生産能力、国内サービス提供能力 及び関連設備施設等)に対する影響 ・M&A 取引の国家経済の安定的運営に対する影響 ・M&A 取引の社会の基本的生活秩序に対する影響 ・M&A 取引の国家安全核心技術の研究開発能力に対する影響 本通知においては、通知公表の日から30 日後(2011 年 3 月 5 日)に公布となり、2011 年3 月 7 日の商務部独占禁止局ホームページにおいて本通知の暫定規定が発表されパ 17 巻末に仮訳を掲載している。

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21 ブリックコメントにかけられている。なお、本通知による審査が、中国独禁法第三十 一条に基づくものになるのか、それとは別のものになるかについても現時点では明確 にはなっていない。18 (7)国有企業の扱い a)中国独禁法における規制 中国独禁法第七条(根幹業種及び専売事業)第一項では、「国有経済が支配的地位 を占める、国民経済の根幹及び国家安全に係る業種並びに法に基づき独占経営及び 独占販売を行なう業種については、国は当該事業者の適法な事業活動を保護し、か つ事業者の事業行為並びにその商品及びサービスの価格に対して、法に基づき監督 管理及びコントロールを実施し、消費者の利益を保護し、技術進歩を促進する。」 となっている。これを受け、第一項に規定される業種の当該事業者は、法に基づき 事業活動を行い、誠実に信用を守り、厳格に自己を規律し、社会民衆からの監督を 受けなければならず、その支配的地位又は独占経営及び独占販売の地位を利用して 消費者の利益を害してはならないとされている。ただし、何が第一項に規定される 業種であるかは、中国独禁法では具体的に記述されていない。 日本国内の専門家へのインタビューにおいても、競争法上の国有企業の扱いは、 民間企業とは異なり規制の対象とすべきかは判断が難しいという意見もあった。 b)現状 中国連合通信・中国網絡通信の国有企業のM&A(2008 年 10 月 1 日)の際には企 業結合審査の届出がなく、商務部独占禁止局がこれは違法であると発言(2009 年) したが、その後、本件に関し届出がなされた旨の報道はされていない。また、中国 の法律事務所に対するインタビューにおいても、国有企業は商務部独占禁止局に対 するM&A に関する届出を行っていないという噂があるという話があった。 実際のところでは、中国の国有企業は商務部独占禁止局には届出を行っていない 可能性がある(上述のように、国有企業は競争法適用から除外されているとも考え られる)。 2)企業結合審査の手続き (1)企業結合審査の流れ 中国の企業結合審査においては、商務部独占禁止局「企業結合届出に関する指導的意 見」では書類提出などに関する手続きは、以下にようになっている。 18 複数の中国の法律事務所に対し 2011 年 3 月上旪にインタビューを行ったが、手続き等に 関する公表はなく、対応に関する意見も分かれていた。

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22 ・正式な届出に先立って事前相談を行うことができる。(第一条) ・提出に不備がある場合に商務部独占禁止局が規定する期限内に19補充又は修正が なければ未提出として取り扱われることになる。(第六条) ・届出書や計算書類に加え、「企業結合関連市場の競争状況に対する影響の説明」や 「企業結合に関する合意」、「商務部独占禁止局が提出を要求したその他の文書及 び資料」等を提出する必要がある。(第八条) ・提出する文書及び資料は中国語と外国語原文の双方である必要があり、紙媒体と 光ディスクでの提出が求められる。(第九条、第十条) ・届出企業は、公開版と秘密保持版を提出し、商業秘密を明示する必要がある一方 で、当局は商業秘密保持の義務を負う。(第十一条、第十二条) 中国独禁法第二十五条、中国独禁法第二十六条により企業結合審査は、次のような 流れとなっている。 19 補充又は修正しなければならない期限については、「企業結合届出に関する指導的意見」 において日数は明記されておらず「商務部独占禁止局が規定する期限内」と記載されている。 この意味は、当事会社からの提出資料を見て商務部独占禁止局が規定した期限内に補充又 修正を行なうということと考えられる。

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23 図表 4 企業結合審査の流れ 出所)森脇章「中国独占禁止法 事業者集中規制動向」 以上が審査の流れであるが、一般に企業結合審査のスピードについては遅い、時間 がかかり過ぎるという意見が多い。日本国内の企業、法律事務所へのインタビューで は、以下のような声、意見、指摘等があった。 ▪ 審査は厳格に行なわれているようで、そのために時間がかかっている。マン パワーは尐ないので、時間切れということで、二次審査に突入する割合は高 い。 事前相談 届出書類の提出 正式受理 正式受理 補充質問への回答 意見の照会 (主管部門、同業、川上企業、川下企業等) 公聴会 第一次審査期間期限 反論の機会 第二次審査期間期限 30 日 90 日(60 日を超えない範囲で延長可)

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24 ▪ 上層部の官僚の都合(例:出張など不在)で、審査が遅れることがあるよう である。審査において国家発展改革委員会等の政府機関に対してヒアリング が行なわれるが、その過程で遅れることがある。 ▪ 特に、国家発展改革委員会は、対応が悪い。現地の弁護士で気が利く人は、 進捗をフォローするにあたり、商務部独占禁止局だけではなく、国家発展改 革委員会にも連絡する。 スピードアップを求める観点から、案件による軽重をつけることや簡易審査・ 簡易届出を求める声が多い。ただし、商務部独占禁止局は簡易審査・簡易届出 については当面検討する予定はないようである。 また、以下のように、商務部独占禁止局から十分な情報提供がないため、企業結 合審査がどのような進捗状況にあるかが分からないという意見もある。 ▪ 審査がどのような進捗状況にあるかは、分かりにくい。商務部独占禁止局の 担当官もどうなっているかは説明してくれないことが多い。 ▪ 状況が分からない場合や審査が進んでいないと思われる場合は、担当官との コンタクトし、催促することが必要である。 (2)不服申立 a)行政不服審査 中国独禁法第五十三条(行政不服審査及び行政訴訟)において、独占禁止法執行 機構が第二十八条(企業結合審査の決定)、第二十九条(企業結合の制限、問題解消 措置による承認)に基づき行なった決定に対して不服がある場合には、行政不服審 査を申し出ることができる、とされている。 b)行政訴訟 中国独禁法第五十三条(行政不服審査及び行政訴訟)において、行政不服審査の 決定に不服がある場合には、法に基づき行政訴訟を提起できる、とされている。 3)企業結合審査の状況 (1)企業結合審査の実績 商務部独占禁止局ホームページで公表されている企業結合審査の実績に関するデー タは以下の通りであるが、2009 年 6 月時点までのものであり、それ以降に更新はさ れていない。

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25 ▪ 商務部独占禁止局の企業結合届出の受理件数:58 件 ▪ 審査終了案件数:46 件 ▪ 無条件で承認した企業結合事例:43 件 ▪ 条件付きで承認した企業結合事例:2 件 ▪ 禁止した企業結合事例:1 件 「全国商務系統第二次反垄断工作会議在北京召開」20によると、2010 年の年間実績は 以下のようになっている。 ・届出の正式受理 120 件弱 ・正式受理前相談21100 件以上 ・届出件数 100 件以上 中国の法律事務所へのインタビューによると、2010 年末までに、企業結合の届出受 理件数は200 件に達したようである。 (2)企業結合審査の事例リスト 中国独禁法の施行以来、条件付き承認又は禁止となった事例は、次のとおりであ る。 20 2011 年 1 月に開催された、競争政策について商務部独占禁止局系の機関が集結して行な われる第二回会合において企業結合審査の実績が公表されている。商務部のホームページ では、以下で実績が示されている。 (http://www.antimonopolylaw.org/article/default.asp?id=2587)。 21 事前相談と提出したがその後に書類の内容についてやり取りしたものを含む。

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26 図表 5 中国における企業結合審査の事例 審査結果 事例 公表日 条件付き承認 InBev 社(ベルギー)によるアンハイザーブッシュ社(米国) の買収 2008.11.18 禁止 コカコーラ社(米国)による匯源果汁社(中国)の買収 2009.3.18 条件付き承認 三菱レイヨン(日本)によるルーサイトインターナショナル 社(英国)の買収 2009.4.24 条件付き承認 ジェネラルモータース社(米国)によるデルファイ社(米国) の買収 2009.9.28 条件付き承認 ファイザー(米国)社によるワイス社(米国)の買収 2009.9.29 条件付き承認 パナソニック(日本)による三洋電機(日本)の買収 2009.10.30 条件付き承認 ノバルティス(スイス)によるアルコン(スイス)の買収 2010.8.13 4)個別事例の審査結果 (1)個別の審査結果の公表内容及び交渉過程 a)InBev 社(ベルギー)によるアンハイザーブッシュ社(米国)の買収 (i)条件付き承認に至った理由 買収後の新企業の市場シェアが比較的大きく、競争力が明らかに増強されること に鑑みて、中国ビールの将来の市場の競争に対し及ぼしうる悪影響が予想される。 悪影響を減尐させるため、以下の問題解消措置を講じた。 (ii)問題解消措置22 ① アンハイザーブッシュ社が青島ビール有限公司に対し保有する 27%の持ち株 比率を増加させてはならない。 ② もしも InBev 社による支配株主又は支配株主の株主に変化が生じた場合は、 すみやかに商務部独占禁止局に通報しなければならない。 ③ InBev 社が珠江ビール株式有限公司に対し現在保有する 28.56%の持ち株比率 を増加させてはならない。 ④ 華潤雪花ビール(中国)有限公司と北京燕京ビール(中国)有限公司の株式保 22 川島富士雄「中国独占禁止法 ~執行体制・実施規定・具体的事例~ [下]」より引用。

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27 有を求めてはならない。 (iii)評価 本件に関し、競争法学者や法律事務所が評価を下している。 川島富士雄「中国独占禁止法 ~執行体制・実施規定・具体的事例~ [下]」では、 本件の判断と根拠を明確に説明していない点について、次のとおり批判している。 本件公告は、本件買収を禁止しない旨を決定したが、本件買収の規模が巨大 で、買収後の新企業の市場シェアが比較的大きく、競争実力が明らかに増強さ れることに鑑みて、中国ビールの未来の市場の競争に対し及ぼし得る悪影響を 減尐するため、審査決定に上記の制限性条件を附加したと説明している。しか し、本件公告はどのようなデータや市場状況に基づいて、このような判断を下 されたか明らかにしておらず、運用の透明性、予測可能性の観点から問題なし としない。 また、フレッシュフィールズブルックハウスデリンガー法律事務所23は、次のよ うに、「純粋な」競争法の審査に典型的には付随しないアプローチであると批判し ている。 独占禁止法下における商務部の是正政策を一見すると、これらの制限条件 は、「純粋な」競争法の審査に典型的には付随しないアプローチであることがわ かる。 ▪ 第一に、本件決定は、本件買収が中国において競争に関する懸念を生じさ せないことを明示している。よって、当事者に対して、その将来における 行為を左右する義務を課する必要性は、競争法の見地から正当化すること は、困難であるように思われる。 ▪ 第二に、InBev の将来における中国での買収の可否をコントロールするこ とで、独占禁止法に基づくかかる潜在的買収行為自体の事前届出または分 析に先立って、商務部は、当該業界における整理統合に了承を得るための 指標を提示し、独占禁止法の規定(同法によれば、いずれにせよ、かかる さらなる買収について届出が要求される)を超えた監督を加えているよう に見受けられる。このことから、商務部のアプローチは、競争の点での評 23 2008 年 11 月に公表されたブリーフィング資料「中国商務部がインベブによるアンハイ ザー・ブッシュの買収につき条件付き承認」 (http://www.freshfields.com/publications/pdfs/2009/aug09/26475.pdf)において批判して いる。

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28 価とともに、産業政策とも大いに関係があることが示唆される。 独占禁止法の下において商務部が初めて公表した決定は、事業者集中審査の 手続的側面および絶え間なく発展を続ける意思決定プロセスに関して、重要な 見解を明らかにすると同時に、中国の事業者集中監督当局が、国際的基準とは 明らかに異なる是正手法を進んで採用していることを示している。 クリフォード・チャンス法律事務所も24、次のとおり批判的な見解を示してい る。 インベブとコカコーラの件により、中国の当局は中国の有名消費財ブランド が国際的企業に買収されることについての世論を気にしていることを示してき ている。 (中略) 純粋に競争的な視点からは、インベブに課された条件について妥当性は見つ からない。 b)コカコーラ社(米国)による匯源果汁社(中国)の買収 (i)禁止に至った理由 ① 果汁類飲料と炭酸ソフト飲料との間の需要代替性と供給代替性を検討した結 果、本件関連市場を果汁類飲料市場(100%果汁、濃度 26~99%の混合果汁お よび濃度 25%以下の果汁飲料を含む)と画定した上で、コカコーラ社のみが 生産する炭酸ソフト飲料の市場をこれに緊密に隣接する市場と位置付けた。 ② コカコーラ社は、その炭酸ソフト飲料市場における市場支配的地位(60.60% の市場シェア等)を利用して、果汁類飲料と炭酸ソフト飲料を抱き合わせて販 売するなどし、他の果汁類飲料生産者の競争を行う能力を弱体化し、又は奪い、 ひいては飲料消費者の合法権益を損なうこととなると判断した。 (ii)問題解消措置 コカコーラ社から問題解消措置について申し出があったが、商務部独占禁止局が 競争に対する悪影響を軽減できないと判断して、最終的に禁止に至っている。

24 2009 年 6 月に公表されたConsumer goods and Retail Industry Competition Bulletin,

Global Antitrust Group Jun 2009”,

(http://www.cliffordchance.com/publicationviews/publications/2009/06/consumer_goods_ andretailindustrycompetitio.html) において批判している。

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