九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
半導体性カーボンナノチューブシートの熱電変換材 料に関する研究
黄, 文莘
http://hdl.handle.net/2324/2236207
出版情報:Kyushu University, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
九州大学大学院工学府 化学システム工学専攻
博士論文
半導体性カーボンナノチューブシートの 熱電変換材料に関する研究
平成 31 年 1 月
黄 文莘
1
目次
第1章 緒言 ... 3
1-1. モノのインターネット(Internet of Things) ... 3
1-2. 熱電発電 ... 5
1-3. 従来の熱電変換材料 ... 7
1-4. SWNT熱電変換材料 ... 9
1-5. SWNTの半金分離 ... 13
1-6. 本論文の構成... 16
参考文献 ... 18
第2章 SWNT/R712プリンタブル熱電変換材料開発 ... 22
2-1. 序 ... 22
2-2. 実験 ... 25
2-2-1. 使用試薬 ... 25
2-2-2. 使用装置 ... 25
2-2-3. CNT/R712フィルムの作製 ... 25
2-2-4. CNT/R712フィルムの熱電特性評価 ... 26
2-2-5. eDIPS/R712アレイの作製 ... 27
2-3. 結果・考察 ... 27
2-3-1. CNT/R712フィルムの作製 ... 27
2-3-2. CNT/R712フィルムの熱電特性の評価 ... 29
2-3-3. eDIPS/R712アレイの作製 ... 34
2-4. 第2章のまとめ ... 34
参考文献 ... 35
第3章 SWNTシートの熱電変換率のs-SWNT純度依存性評価 ... 36
3-1. 序 ... 36
3-2. 実験 ... 37
3-2-1. 使用試薬 ... 37
3-2-2. 使用装置 ... 37
2
3-2-3. 異なる純度のs-SWNTシートの作製 ... 37
3-2-4. 異なる純度のs-SWNTシートの熱電特性評価 ... 39
3-3. 結果・考察 ... 39
3-3-1. 異なる純度のs-SWNTシートの作製 ... 39
3-3-2. 異なる純度のs-SWNTシートの熱電特性評価 ... 43
3-4. 第3章のまとめ ... 50
参考文献 ... 51
第4章 フラビン抽出法によるs-SWNTシートの熱電特性 ... 53
4-1. 序 ... 53
4-2. 実験 ... 54
4-2-1. 使用試薬 ... 54
4-2-2. 使用装置 ... 54
4-2-3. フラビン抽出法によるs-SWNTシートの作製 ... 55
4-2-4. s-SWNTシートの熱電特性評価 ... 57
4-3. 考察・結果 ... 58
4-3-1. フラビン抽出法によるs-SWNTシートの作製 ... 58
4-3-2. s-SWNTシートの熱電特性評価 ... 64
4-4. 第4章のまとめ ... 65
参考文献 ... 66
第5章 結言 ... 67
各章のまとめ ... 67
参考文献 ... 68
謝辞 ... 69
3
第 1 章 緒言
1-1. モノのインターネット(Internet of Things)
モバイルネットワークの発展により、様々なモノをインターネットに接続し、お互いに通信できる
「モノのインターネット(IoT)」の社会が来た。スマートに多様なモノ(Things)を接続し、より自 由かつ迅速的に情報のやり取りを実現するのが、IoTの目標である。つまり、IoTでは、モノに対し て各種センサーをつけて、モノの状態をインターネットを通してモニターとコントロールすること で環境・農業・災害現場・交通・物流・生活・娯楽・医療・福祉などあらゆる分野での利用が予想され ている[1](Fig. 1-1)。
1980年代に東京大学の坂村健氏が「どこでもコンピューター」という概念を提示している[2]。1990 年頃には、ゼロックスパロ・アルト研究所のマーク・ワイザー氏が「Ubiquitous computing」を提唱し 1990 年代を通じて「あらゆる場所であらゆるモノがネットワークにつながる」という、Ubiquitous
network のコンセプトへとつながっていった[3]。また最近では、機械同士が人間を介在させずに情報
交換するシステムを Machine-to-Machine(M2M)と呼んでいる[1]。M2MはIoTの1つの形態であり、
機器をネットワーク接続させるというのはIoTを実用方法である。
Cisco IBSG(Internet Business Solutions Group)の調査によれば、2003年では世界人口63億人に対 し、インターネットに接続されるデバイス数は5億台で1人あたりのデバイス数はわずか0.08台で あったが、2008~2009年頃に1.0を超え、2010年には68億人の人口に対し、125億台のデバイスが接 続されるようになった[4]。1人あたりのデバイス数が、わずか7年間で23倍になっている。この傾向 は今後も継続し、2020年の接続デバイス数は500億台に達し、1人あたり6.58台になると予測され ている[4]。
Fig. 1-1 Schematic image of internet of things (IoT). Adapted with permission. [1] Copyright 207, Elsevier
4
IoT における重要なコンポーネントは無線センサネットワーク・ノードである。無線センサネッ
トワーク・ノードは外界の情報を取り入れ、演算後離れた場所にデータを無線送信する機能を果たす。
無線センサネットワーク・ノードの電源には一般的には電池が用いられている。しかし、そのデバイ スが置かれている場所、たとえば体温や人体の運動、移動体構造の振動、排熱・電波などから電力を 得られれば、孤立した電源デバイスができ、電池補充の必要がなく、災害時においても利用できる。
近年の低消費電力化、無線技術の発達によって、10 µW程度の発電量が得られれば、デバイスを間接 的に動かすことが可能となり、適用可能な応用分野が広がっていくと考えられる[5]。無線センサネッ トワークの 90%は環境発電なしには実現が難しいとする報告[6]もあり、IoT の無線孤立電子デバイ
スの電源供給が課題となっている。
環境発電とは、環境の中に薄く広く存在するエネルギーから電力を取り出す技術である(Fig. 1-2)
[7]。環境発電は大容量の電源とは異なる概念で、環境光・排熱・電波・振動のような身の回りに存在 する未利用エネルギーを有効利用し1~10 µWオーダーの微小電力を供給することである。これは長 期間持続可能なメンテナンスフリーの電源として、さまざまな応用分野への適用が期待されている。
環境発電の導入のメリットは①ワイヤーレス、②長期メンテナンスフリー、③電池が使用できない厳 しい環境でも電源を供給可能、④電池の使用量を減らし、電池廃棄に伴う環境負荷を低減できる。一 般に環境発電デバイスのコストは、電池よりも高いと考えられ、単体でのコストの比較だけで導入の メリットを得ることは厳しい。そのため電池交換のための人件費を含めたコスト比較や、環境負荷な どを考慮したときのメリットを加味した検討が必要である[5]。また、環境発電デバイスのコストを減 らすため、シンプルなコンセプトで、簡単にデザインでき、安い材料でも完成できる環境発電法が重 要となっている。
Fig. 1-2 Schematic image of energy harvesting [7]
電磁波
振動
熱
熱
振動 熱 振動
振動 振動
熱 電位差
運動エネルギー
位置エネルギー
光
5 1-2. 熱電発電
体温や電子機器から生じる未利用熱を電気エネルギーに変換する熱電発電は、コンセプトがシン プルで、駆動部は化学反応を必要としないメンテナンスフリーな環境発電技術として注目されてい る。また大量生産であることから小型化にも適しておりIoTの無線孤立トリリオンセンサーの電源に も応用が期待できる。そのため、貼り付けや持ち運びができるように低コストで軽くフレキシブルな 熱電材料の必要性が高まっている。
熱電発電の中でもゼーベック効果を利用した発電が有望とされている。ゼーベック効果とは、半導 体の片側を加熱することで高温側でのキャリア密度が大きくなり両端で密度差が生じ、n型であれば 電子、p型であればホール、が低温側に拡散し電位差が生じる現象である(Fig.1-3)。したがって、n 型とp型をギリシャ文字のπの形をするπ型に並べて接続し(Fig.1-3)、抵抗に接続することで電流を 取り出すことできる。しかし、n型、p型片方の素子のみで発電を行うと熱伝導率のよい銅線を通じて 熱が伝わり、温度差をつけることが困難になる。効率のよい熱電発電を行うためには、n型とp型の両 方を組み合わせた構造が望ましい。熱電発電に用いられる物質の性能は無次元性能指数ZTで評価し、
式(1-1)のように表され、
𝑍𝑇 = 𝜎𝑆2/𝜅 ∙ 𝑇 (1-1)
(Z: 性能指数、σ : 電気伝導率(S m-1)、S : ゼーベック係数(V K-1)、κ : 熱伝導率(W m-1 K-
1)、T : 絶対温度(K))これに対して期待される最大のエネルギー変換効率は、式(1-2)とな る。
Fig. 1-3 Schematic image of the principle of thermoelectric (TE) generation.
n型 p型
高温側
ホール h
+電子 e
-移動 移動
電位差が発生
低温側
電流
6
(1-2)
(𝜂:エネルギー変換効率、TH:高温側の絶対温度、TL:低温側の絶対温度、ZT:無次元性能指数)
式(1-2)の第一因子は、理想的熱機関のカルノー効率であり、これが変換効率の上限を決定してい る。例えば人体を熱源とする場合、外気との温度差は10 K程度なのでZT=1のとき、エネルギー変換 効率は0.56%程度である。この値を具体的に考えると人体の発熱量は100 W程度なので、体表面積の うち0.56%(10 cm × 10 cm)での発電を考えた場合、3.1 mWとなる。これは最新のウェアラブルディ スプレイの消費電力が1 mW以下のため、用途によっては有効な値であると考えられる。
これよりZTが高いことは、熱電材料としての変換効率が高いことを示しており、ゼーベック係数 と電気伝導率を上げ、熱伝導率を下げることで、高いZTが得られることが分かった。輸送係数は材料 中のキャリアとフォノンの伝導機構に密接に関連しているため、バンド構造や物質界面のエンジニ アリングが必要となる。
熱電材料に半導体を利用する利点は、不純物の添加(ドーピング)でキャリア濃度を数桁にわたる 広い範囲で制御でき、電気的な特性である出力因子パワーファクター(PF = S2σ)をキャリア濃度の 調整により最適化することができる点にある[8]。なかでも縮退した半導体が良い熱電材料になるとさ れている。
ボルツマン分布がゼーベック効果を支配することから、ゼーベック係数が電子エネルギー準位の 分布や縮退度などを包括的に示す状態密度関数と密接に関係することが予測できる[9]。金属や半導体 などに対する近似によれば、ゼーベック係数は状態密度分布関数(DOS(E))のフェルミエネルギ ー近傍の(E = Ef)での傾きに比例する。縦軸にエネルギーE、横軸に状態密度DOS(E)を示すFig.
1-4ではフェルミエネルギーにおける接線の傾きが小さい材料では大きなゼーベック係数が期待され る。カーボンナノチューブや導電性高分子などの有機半導体は低次元性が高く、高い熱電発電性能が 期待される[10]。絶縁高分子のような完全に離散化した電子準位を有する材料では、より大きなゼーベ ック係数が期待される[9]。
Fig. 1-4 Schematic images of density of state of three-dimensional metals (a) one-dimensional semiconductors (b) and molecule or insulator polymer (c). Dashed line are tangent of Fermi Energy (Ef) in (a), (b), (c). [9]
7 1-3. 従来の熱電変換材料
無機半導体は、ナノ構造化することでフォノン散乱により高い電気伝導率を持ったまま、熱伝導率 を減らすことが可能である。様々な無機半導体の熱電変換材料への研究がされてきたが、その中で Bi2Te3は室温から150 ºCまでの温度領域において高いZTを示すことが報告されている[11](Fig.1-5)。
しかし、これらの材料には毒性をもつ元素が用いられており、一般的な環境下で使用するには問題 がある。また、原料が希少で高価であるため、より多くの熱を効率的に回収するための大面積化など は困難である。さらに重量が重く、柔軟性がないことからウェアラブル用途や、ポータブル用途には 適していない[10b]。
近年、無機半導体の欠点を安価で材料の加工が容易な有機半導体で克服しようと研究がなされて いる[12]。有機半導体は希少元素や毒性元素を含まず、低コストで大面積化が可能であり、また柔軟性 をもつため無機半導体に比べ有望である[13]。また有機半導体の中でも導電性高分子は無機系材料に 比べ、1~2桁低い熱伝導率を持つことや、その値は高分子の化学成分をわずかに変えてもあまり変化 しないことから、ZTの向上が期待できる。導電性高分子はpolyacetylene等の共役系高分子であり、
単体ではほとんど導電性を示さない。電子のドナーもしくはアクセプターをドーピングすることで 導電性が発現する。これはアクセプターの場合には共役系高分子から π 電子が引き抜かれて正の荷 電担体(ホール)が、ドナーの場合は電子が供給されて負の荷電担体ができるためである(Fig. 1-6)。
Fig. 1-5 Plot of ZT values of inorganic thermoelectric materials for p-type (left) and n-type (right) materials as a function of temperature. Adapted with permission. [11a] Copyright 2008, Springer Nature.
Fig. 1-6 Schematic image for doping effect on trans-polyacetylene.
+
アクセプター
8
1999年頃から山口東京理科大の戸嶋らによって、有機熱電材料の研究が進められた。2002年に戸嶋
らはポリアニリンの熱電性能を測定し室温でZT=1.0 × 10-4であることを報告した[14]。これは、無機 半導体と比較すると低い値であったため、当時は有機半導体を用いた熱電発電は難しいと思われた。
しかし、2007年にはポリフェニレンビニレンの延伸によって室温でZTは0.1に近づき[15]、有機半導体 においても熱電発電への応用が期待され始めた[16]。2011年にスウェーデンのBubnovaらはpolypyrrole、
polyaniline、polythiophene、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)(PEDOT)にトルエンスルホン酸塩をド ープし酸化レベルを制御し、電気伝導率を少し下げ、ゼーベック係数を大きくする方法でZT= 0.25を
実現した[17]。2013年には、米ミシガン大学のKimらは、市販のPEDOT:PSSを溶媒DMSO(ジメチルス
ルホキシド)と共に製膜後、エチレングリコール洗浄でドーパントのPSSの一部を除去し、ZT= 0.42 まで高めた[18]。これは現在、有機p型熱電材料で最も高い値であるとされている。
しかし、有機n型材料は空気中で酸化されてp型に変わりやすくn型の安定化が難しいという問題が ある。そのため、n型有機半導体の報告例はp型と比較すると非常に少ない。さらにPEDOT:PSSは強酸 性を示すため、実用化には不向きであるとされる。また、時間が経つにつれ界面にPSSが現れ、銀ペ ーストや電極を酸化し抵抗を増加させてしまうという問題も抱えている。
また、熱電変換材料の3つのパラメーターはキャリア密度と深くかかわり、キャリア密度の増加に つれて電気伝導率と熱伝導率は増加するが、ゼーベック係数が減少していく(Fig. 1-7)[11a]。このト レードオフ関係は熱電変換率の向上におけるチャレンジな問題点である。
Fig. 1-7 Electrical conductivity, Seebeck coefficient, PF, thermal conductivity and ZT of inorganic TE materials on the dependence of carrier density. Adapted with permission. [11a] Copyright 2008, Springer Nature.
9 1-4. SWNT熱電変換材料
1991年、飯島澄男によりカーボンナノチューブ(Carbon nanotubes, CNT)は発見された[19]。CNTは
グラフェンシートを継ぎ目なく円筒状に巻き上げた構造をしており、直径はnmオーダー、長さはμm オーダーと非常に高いアスペクト比(300~1000)を有することが特徴である。CNTにはグラフェン シートが単層のものからなる単層カーボンナノチューブ(Single walled carbon nanotubes、SWNT)と 多層のものからなる多層カーボンナノチューブ(Multi walled carbon nanotubes、MWNT)があり(Fig.
1-8)、典型的なSWNTの直径分布は0.4 nmから3 nmである[20]。直径0.4 nm以下のSWNTは炭素-炭素結
合による曲率歪みにより熱力学的に不安定である。一方直径3 nm以上のSWNTは側壁に働くファンデ ルワールス力が直径方向の剛性に打ち勝つために、つぶれてしまう。近年では長さが数cmにも達す るような長いCNTも合成されるようになり[21]、CNTの基礎的・応用的観点からも興味深い。CNTは電 気伝導性、熱伝導性、機械的強度などで従来の物質にない優れた特性を持っていることから、幅広い 用途への応用の可能性を持っている。例えば、SWNTはグラフェンシートを丸めた継ぎ目のない共有 結合性物質であるため、金属などに比べ引っ張りや曲げに対する機械的強度が非常に大きい。理論計 算によるとSWNTのヤング率は0.64-1.0 TPa(鋼鉄:約200 GPa)、引張強度は150-180 GPa、strain-to-
failureは5-30%である[22]。これらの優れた性質はグラフェンシートの優れた機械的特性と密接な関係
がある[23]。またSWNTは1.4-1.6 g cm-3程度と比較的低密度でありながら高強度という理想的な材料で ある。そのため、現在使用されている炭素繊維よりも優れた機能を有する材料を開発できると期待さ れている。CNTの電気伝導はバリスティック伝導により起こり、複数のグループから電気伝導率の報 告例があり、SWNTバンドルの電気伝導率は102~103 S cm-1程度であることが報告されている[24]。
Fig. 1-8 Schematic illustration of SWNT(left)and MWNT(right).
Fig. 1-9 Chirality of SWNT (n, m). Adapted with permission. [25] Copyright 2018, John Wiley and Sons.
10
SWNTには芳香環の並び方の異なる数多くの種類があり、それぞれのSWNTはカイラリティとよ ばれる指数(n, m)で表される。このカイラリティ(n, m)は円周方向にグラフェンシートを巻く際 の、始点と終点の炭素原子をつなぐベクトルの係数である(Fig. 1-9)[25]。電気的性質においては、n
-m(または2n+m、以下省略)が3の倍数のSWNTは金属性を示し、金属性SWNT (m-SWNT)
と呼ばれ、n-mが3の倍数でないSWNTは半導体性を示し、半導体性SWNT(s-SWNT)と呼ばれ る[26]。
1993年、HicksとDresselhausは低次元ナノ材料(例えば、SWNT)が量子閉じ込め効果により、高
いZTを示すと理論計算で証明した[10]。2002年、O`ConnellらはSWNTを界面活性剤ミセルに囲まれ る構造を利用して SWNT を水溶液に分散することに成功し、SWNT の熱電特性の実測及び、SWNT を電子材料への応用に重要なステップがかなえた[27]。
また、m-SWNTとs-SWNTは異なるバンド構造を持ち(Fig. 1-10)[25-26]、直径依存の光学、電気的 な特性がある[27-28]。SWNT の電気伝導率及びゼーベック係数はこのバンド構造に深くかかわってい る。低温で材料の固有あるいはバリスティックゼーベック係数(α)は材料の状態密度(DOS)の形 に影響され、以下の式(1-3)で表せる。
(1-3)
ここで、Eはエネルギー、µeは電子の化学ポテンシャル、κBはボルツマン定数、Tは絶対温度、e は電気素量である。
Fig. 1-10 Chemical structure and corresponding electronic properties of the semiconducting (9, 4) SWNT and metallic (8, 5) SWNT, illustrating that small changes in the chirality, SWNT diameter, and chiral angle can produce dramatic differences in the electronic DOS and predicted thermopower. Adapted with permission. [25] Copyright 2018, John Wiley and Sons.
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従来の研究では、SWNT混合物のゼーベック係数を測定し、11-65 µV K-1という値が得られた[29]。 この値の差は主に、サンプルの形状(SWNTロープかシートか)、サンプリングの違い、SWNTのド ーピング状況(空気中で酸素ドープも含め)に由来すると考えられる[29]。m-SWNT は比較的にフラ ットなDOSを持つため、小さいゼーベック係数を示すと予想され、実測値も10~20 µV K-1であった
[30]。これらのグループは同時にs-SWNTシートのゼーベック係数も測定し、80-160 µV K-1の値が得 られ、更に m-SWNTの純度に対して、s-SWNT の純度の増加につれて、ゼーベック係数も向上する という結果が得られた[30]。最近、Averyらは密度関数理論を用い[31]、Hungらはボルツマン方程式を 用いて[32]SWNT のゼーベック係数を理論計算した。Avery らは直径が同じ SWNT では、s-SWNTは
m-SWNT より固有ゼーベック係数の最大値が一桁大きいと報告した[31]。二つのグループはフェルミ
エネルギーがバンドの中心からずれると、s-SWNTのゼーベック係数は激しく増加することとゼーベ ック係数は直径の減少につれて増加することを報告した[30-32]。これらの理論計算により、s-SWNTの 固有ゼーベック係数は直径が大きい場合(1.5 nm)、400 µV K-1となり、直径が小さい場合(0.5 nm)、
2000 µV K-1という巨大な値になり(Fig. 1-11)[31-33]、従来の無機材料より大きなゼーベック係数が得
られる[34]。このようにs-SWNTが含まれるSWNTは優れた電気伝導率と耐熱性を示し、軽量で加工 性の良いフレキシブル材料であるため、熱電材料としての応用が期待されている[25]。
SWNT のバンド構造の電気伝導率への影響に関しても理論的及び実験的に報告された。ドープさ れていない s-SWNTはキャリアがないため、固有電気伝導率が極めて小さいが、m-SWNT はフェル ミエネルギーにキャリアがあるため、電気伝導率がより大きい。しかし、s-SWNTはヘビードープさ れた後、電気伝導率が急激に増加し、m-SWNTより電気伝導率が高くなる[35]。また、SWNT は直径 増加につれてキャリア移動度が増加するため、一定のキャリア密度の場合では、電気伝導率も増加す ると推測された[31]。
Fig. 1-11 (a) Experimentally measured thermopowers for networks composed of different loadings of s- SWNTs. The solid lines are theoretical models that consider the junctions between SWNT bundles in serial and/or parallel conducting pathways.[30] Nakai et al.’s data reused with permission.[30a] Copyright 2014, IOP Publishing. Piao et al.’s data reused with permission. [30b] Copyright 2014, American Chemical Society. (b) Theoretically predicted peak thermopowers for SWNTs with the defined chiral indices. Adapted with permission. [31] Copyright 2016, Springer Nature (c) Theoretically predicted diameter dependence for the peak thermopower for various s-SWNTs. Reproduced with permission. [32] Copyright 2015, American Physical Society.
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先ほど説明したように、従来の熱電変換材料は電気伝導率、ゼーベック係数とPFがキャリア密度 と深くかかわることが分かった(Fig. 1-7)。そのためSWNTも電気伝導率、ゼーベック係数とPFが キャリア密度の依存性を調べる必要がある。従来の無機材料と有機ポリマー材料では、ドーパントで キャリア密度を制御する際に、材料の構造の変化または相分離などの問題点が生じ[25, 36]、熱電特性の ドーピング依存性を評価しにくかった。一方、SWNTネットワークは多孔構造で広い表面積を示し、
またSWNTネットワークはドーパントの溶液に含浸してもモルフォロジーが変わらないため、SWNT はドーパントで物理吸着により簡単にキャリア密度を制御できる[25]。SWNT は空気中で酸素ドーピ ングされてp型(ホールがキャリア)半導体だが、ドーピングにより、SWNTネットワークをp型の ままで、電気伝導率の向上ができ[35a, 37]、またn型(電子がキャリア)半導体にもなれる[38]。本論文 では、主にp型SWNT材料について述べる。キャリア密度を制御の研究うち、Averyらは異なる濃度 のtriethyloxonium hexachloroantimonate(OA,、一電子酸化剤)を用いてs-SWNTネットワークをドー ピングすることにより、分散剤PFOラッピングしているs-SWNTネットワークのキャリア密度を精 密に制御し、電気伝導率とゼーベック係数を系統的評価した[31]。OAの量が増え、フェルミエネルギ ーがバンドギャップの中心からシフトするとともに、s-SWNT ネットワークの電気伝導率が増加し、
ゼーベック係数が減少していく。このトレンドは一般的に SWNT ネットワークで見られ、既報の窒 素ドープしたSWNTネットワークも同じ傾向であった[33b]。電気伝導率とゼーベック係数のトレード オフ関係で、ドーピングによりPFの最大値が見られる(Fig. 1-12(a、b))[31, 33b]。また、Norton-Baker
らとMacLeodらは除去可能ポリマー(水素結合超分子PFO)[39]でs-SWNTを抽出し、抽出剤なしの
s-SWNT ネットワークの熱電特性を評価した[40]。抽出剤なしの s-SWNT ネットワークがキャリア移
動の阻害がなくなり、電気伝導率が向上されたため、PFが向上されたと報告された(Fig. 1-12(c))
[40]。しかし、このポリマーを除去するため、トリフルオロ酢酸で水素結合を破壊し、モノマーにする Fig. 1-12 (a) the corresponding dependence of the thermopower and TE power factor on electrical conductivity for s-SWNT. Adapted with permission. [25] Copyright 2018, John Wiley and Sons.(b) The dependence of the thermopower on electrical resistivity in mixed (natural) SWNT and enriched s-SWNT networks doped by nitric acid (HNO3). Adapted under the terms of the CC BY 4.0 license. [33b] Copyright 2016, The Japan Society of Applied Physics. (c) Universal enhancement of the peak TE power factor by removal of the selective polymer from the enriched s-SWNT network, showing also that the peak TE power factor can be correlated to the maximum electrical conductivity in a fully doped network. Reproduced with permission. [40] Copyright 2017, The Royal Society of Chemistry.
(a) (b) (c)
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必要があり[31, 33b, 39]、抽出剤なしのs-SWNTの作製に煩雑なプロセスを増やした。また、このポリマ ーを再利用する際に、分解されたモノマーは再ポリマー化する必要もある。そのため、簡単に除去で
きるs-SWNTの抽出剤が要望される。
また、フェルミエネルギーをシフトする方法は、化学ドープのほかに、SWNTをトランジスターに して、ゲート電圧により、キャリア密度を制御できる。この手法により、s-SWNTネットワークのPF 最大値はフェルミ準位がDOSの第二サブバンドにある時に現れることが分かった[41]。
熱電変換では、熱伝導率は重要なパラメーターだが、SWNTの熱伝導に関してわからないことがま だたくさん残っている[42]。理論計算により、一本のSWNTの熱伝導率は長いフォノン平均自由行程 があるため、グラフェンと同じで6600–9500 W m−1K−1(300 K)という高い値であった[43]。Honeらは 低密度SWNTマットを測定し、0.7 W m−1K−1という値が得られ、この値からSWNTロープ或はファ イバーの熱伝導率を推測し、1800-6000 W m−1K−1という値が得られた[44]。また、Honeらは高密度SWNT マットを測定し、SWNTがランダム配置する場合では、熱伝導率は30 W m−1K−1であり、SWNT長さ 方向に配列する場合では、熱伝導率は220 W m−1K−1になる[45]。他のグループがSWNT水溶液をろ過 で得られた高密度 SWNT マットの熱伝導率を評価し、25 W m−1K−1より大きいという結果であった
[46]、SWNT の熱伝導率はサンプルのモルフォロジーや作製方法にも影響されるという結論も付けた
[46b]。
また、熱の担い手は帯電キャリアとフォノンであり、材料の熱伝導率は κ= κe+κphで表せ、ここで κeは電子伝導由来する熱伝導率で、κphはフォノン伝導由来する熱伝導率である。Wiedemann–Franz
(WF)法則は電子伝導由来する熱伝導率を表し、κe= LσTで示す。Lはローレンツ定数であり、金属 または縮退半導体の場合、L= 2.44 × 10−8 W Ω K−2である。HoneらはSWNTファイバーの熱伝導率は WF法則から計算した値より何桁高いことが分かって、SWNTの熱伝導はフォノンの伝導に支配され ると示唆した。これは実験的にも確認でき、SWNTフィルムのκeは1.1 W m−1K−1という測定結果が
得られた[46b]。Lianらはm-, s-SWNTシートを作製し、それぞれの熱伝導率を評価し、m-, s-SWNT及
び未分離SWNTの熱伝導率が大きな差がないと報告した[46b]。この結果により、SWNTの熱伝導は電 子の寄与が小さく、フォノンに支配されるとさらに証明し、既報の理論計算の結果と一致した[47]。 SWNTネットワークでは、熱伝導率はSWNTバンドルの長さ、接点の数に支配されると考えられる。
SWNTを優良な熱電変換材料にするため、さらに熱伝導率を抑制する必要がある。
1-5. SWNTの半金分離
SWNTはm-SWNTとs-SWNTの混合物として合成され、純度が高いs-SWNTを得られるため、s-
SWNTの抽出、或いは半金分離が必要となる。近年、様々な半金分離技術(Fig. 1-13)、ゲルクロマ トグラフィー法[48]、密度勾配遠心法(DGU)[49]、polyfluorene(PFO)ポリマーラッピング法[50]、DNA 認識法[51]及び水性二相分離法[52]などの発展のため、s-SWNT を比較的に大量抽出することが可能と
なり(約22±3%抽出率[50b])、s-SWNT薄膜、s-SWNTシートの熱電特性パラメーターが実測でき、s-
SWNT熱電変換材料の研究も盛んできた[25]。
14
カラムクロマトグラフィー法は Kataura らによって考案された。アガロースゲル電気泳動による SWNTの分離を達成した[48b]。彼らは、絞るだけでも分離できることを発見し[53]さらにゲルを用いた クロマトグラフィー(Fig. 1-13(a))にまで発展させた[54]。この手法でも半金分離、単一カイラリテ ィの分離、エナンチオマーの分離[55]に成功した。この手法の特徴としては大量に分離できるが、いく つものカイラリティを分離するために多層で行い、分離後それぞれの層で溶媒を流して SWNT をカ ラムから分離しなければならないため操作が煩雑で時間がかかってしまうという問題がある。
DGU 法は、まず iodixanolやスクロースなどの分子量の大きい物質を含む溶液で密度勾配を作り、
そこに試料を加えて超遠心分離を行うことで、試料の密度や大きさの違いを利用して分離を行う方 法である。Hersamらはこの手法をSWNTへと応用し半金分離、カイラリティの分離に成功している
(Fig. 1-13(b))[49b]。この方法は純度が高く、さらにはエナンチオマー(右巻き、左巻き)の分離 も達成されている[49c]。しかしながらコストが高く少量しか分離できないという欠点もあり、大量生 産には向かない。
Fig. 1-13 Conceptual diagram of the separation based on (a) gel chromatography method. Adapted under the terms of the CC BY 4.0 license. [54] Copyright 2009, The Japan Society of Applied Physics.(b) DGU method, (c) two-phase system separation method. Adapted with permission. [52b] Copyright 2013, American Chemical Society. (d) PFO wrapping method.
(a)
(b)
(c)
(d)
Solubilization
=
Polyfluorene (PFO) wrapping
s-SWNT m-SWNT
Fig. 1-14 Chemical structures of s-SWNT selective polymer solubilizers.
トルエン溶媒
polyfluorene polythiophene polycarbazole Polytriarylamine
15
また水性二相抽出法は、2種類の水溶性高分子(デキストラン、ポリエチレングリコール)を用い て相分離させ、半金を選択的に抽出する手法である(Fig. 1-13(c))[52b]。この手法の特徴として、
超遠心分離やクロマトグラフィーを用いない簡単な操作で大量に分離できる点が挙げられる。しか しこの手法も高コスト、多段階での分離といった課題がある。
一方、最もシンプルなカイラリティ分離の手法として選択的可溶化法が注目されている。この手法 は可溶化剤によって特定のカイラリティを選択的に抽出する分離法である。これまで polyfluorene
(PFO) に始まり、さまざまなs-SWNT選択的高分子可溶化剤がtolueneといった非極性溶媒中でs- SWNTを選択的に可溶化できることが報告されている[56](Fig. 1-13(d)とFig. 1-14)。この手法に は、低コストであり、SWNTの応用に不可欠な可溶化を行いながら分離を行うので操作が簡単で少な いという利点がある。しかし可溶化剤として高分子を用いているために、可溶化時に SWNT に巻き ついた可溶化剤を取り除くことができないという課題を有している。そのため s-SWNT 選択的に可 溶化後取り除けるような可溶化剤が求められている。
そのような中、注目すべき可溶化剤として、フラビン誘導体が挙げられる。Papadimitrakopoulosらは、
フラビン誘導体であるFlavin mononucleotide(FMN)にはカイラリティ選択性があることを報告して いる[57]。他にも彼らはフラビン誘導体(Fig. 1-15)がSWNTの可溶化剤になりうることを報告してい
る[58]。さらにこのFC12について、当研究室がトルエン中で用いることで、s-SWNT選択的可溶化に 成功している[59]。このFC12の特徴として、s-SWNT選択的高分子可溶化剤と同様に簡単な操作で分 離できるのに加え、さらにFC12は低分子であるので可溶化後に取り除くことも可能であることがあ げられる。他にもさまざまな低分子可溶化剤が水中、有機溶媒中でs-SWNT選択的可溶化できること が報告された[60]が(Fig. 1-16)、FC12の合成の簡便さを考えると、FC12によるs-SWNT選択的可溶 化は実用的なs-SWNTの分離法であると考えられる。
Fig. 1-15 Chemical structure of flavin derivative (FC12)
Fig. 1-16 Chemical structures of s-SWNT selective solubilizers.
トルエン溶媒
hexaaza pentacene
octabenzo circumbiphenyl
水溶媒
the potassium salt of coronene tetracarboxylic acid porphine
THF溶媒
16 1-6. 本論文の構成
1-4節で説明したようにSWNTは高い熱伝導率を示し、熱電変換材料として利用する際に、熱伝導 率を抑制する工夫が必要となる。高い電気伝導度を維持しつつ、熱伝導性を抑え更に高い加工性を付 与する工夫としてポリマーとの複合化が考えられる。SWNTの強いバンドを解いてSWNTを均一に 分散できた場合、電気伝導度は保持しつつ、一方でフォノンの拡散を抑制できるため、熱伝導を抑え ら れ る 。 当 研 究 室 は 硬 化 性 モ ノ マ ー で あ る R712 (2,2'-methylenebis[p-phenylene poly(oxyethylene)oxy]diethyldiacrylate)(Fig. 1-17(a))がSWNTを高度に分散し、光重合開始剤(Fig.
1-17(b))存在下でUV光を照射することでフィルム(SWNT/R712フィルム)が作製できることを
報告した[61]。また、福丸は R712 へのSWNT 添加で電気伝導性は効率的に向上するのに対し、熱伝 導率は増加しないことを示し、熱電材料への可能性を報告している[62]。この手法の重要なメリットは 溶媒フリーのため、溶媒除去過程における SWNT再凝集の問題がないことである。そこで第2章で は、R712分散SWNTの熱電変換材料への展開を検討する[63]。硬化前のR712分散SWNTは流動性が あるため優れた加工性があるというメリットが持っているため本実験では、まず撹拌方法や用いる SWNTの選択を工夫することでより電気伝導性が高いSWNT/R712フィルムを作製する。また、異な
る種類の CNT でCNT/R712 フィルムを作製し、その熱電特性を評価することにより最適な CNTを
決める。最後に、最適な作製法及び最適なCNTを用い、スクリーンプリント法で対面積SWNT/R712 アレイを作製した。
また、1-4節で説明したようにs-SWNTは高いゼーベック係数を示すため、熱電変換材料として期 待されている。s-SWNTの電気伝導率、ゼーベック係数を実験で系統的に調べられ、s-SWNT純度の 増加(つまり、m-SWNT 純度の減少)につれて電気伝導率が増加し[64]、ゼーベック係数が減少する ことが分かったが[30]、ZTはs-SWNTの純度依存性がまだ報告されていない。そこで第3章では、市 販のDGU法で抽出したm-, s-SWNTを一定の重量比で混合し、純度が異なるs-SWNTシートを作製 する。それらのシートの電気伝導率、ゼーベック係数及び熱伝導率を測定し、ZTを計算し、s-SWNT の熱電特性の優位性を解明する(Fig. 1-18)[65]。
Fig. 1-17 Chemical structure of (a) curable monomer and (b) photoinitiator.
17
また、1-4節でも説明したように高収率、抽出剤なしのs-SWNT熱電変換材料は必要となる。1-5節 で紹介したように当研究室が開発したフラビン抽出法は高収率で s-SWNT を抽出でき、フラビンは 小分子のため、良溶媒含浸により除去可能である[59, 66]。そこで第4章では、フラビン抽出法でs-SWNT を大量抽出し、s-SWNTシートを作製する。s-SWNTシートの熱電特性を評価して、抽出剤除去前後 の熱電特性を比較することで抽出剤なしのs-SWNTシートの優位性を解明する(Fig. 1-19)[67]。
第5章では、本論文のまとめについて論述する。各章で得られた結果を踏まえた将来展望を示す。
Fig. 1-19 Schematic illustration of the fabrication process of s-SWNT-F1, s-SWNT-F2, and s-SWNT-F3. [67]
Filtration 1) Sonication
2) Centrifugation
s-SWNT-F1
s-SWNT supernatant SWNT + FC12
Washing in CH2Cl2
s-SWNT-F2
Dipping in FC12
s-SWNT-F3 Fig. 1-18 s-SWNT sheets with different s-SWNT purity
Unsorted SWNT m-SWNT s:m=1:2 s:m=2:1 s:m=4:1 s-SWNT
m-SWNT
s-SWNT
ZTの評価
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22
第 2 章 SWNT/R712 プリンタブル熱電変換材料開発
2-1. 序
第 1 章で述べたように、SWNT の熱伝導率を抑制し、また大量な熱電変換素子を簡単に作製可能 のため、SWNTと樹脂を複合することでプリンタブルな熱電変換材料SWNT/R712フィルムの開発が 必要となる。フィルムの作製方法は当研究室が報告し[1]、Fig. 2-1のように示す[2]。まず、バルクSWNT
(HiPco, Unidym)を光開始剤の存在下で硬化性モノマーであるR712に分散して、SWNT/R712ペー ストが得られる。このペーストを脱泡し、PET(polyethylene terephthalate)のスペーサに添加して、
光(365 nm)照射することによりSWNT/R712フィルム(以下SWNT/R712で省略)を作製した。こ のフィルムの作製プロセスでは、SWNT を R712 の分散は一番大切であり、均一に分散した
SWNT/R712は不均一に分散する場合より低い表面抵抗を示す[1]。既報の方法はSWNTを加熱超音波
の条件で R712 に分散した。この方法で SWNT を均一に R712 に分散できるが、R712 の粘度(650
mPa・S)が高いため、超音波で分散する際に加熱が必須、そしてR712が1 g以下しかできないとい
う問題点があった。本章では、まず分散における問題点を克服するため、3種類の市販のスケールア ップ可能の攪拌機を用いて、SWNTをR712に分散して、SWNT/R712の作製条件を検討した[2]。得ら
れたSWNT/R712の表面抵抗値を測定し、最適なSWNT分散法を決定した。また、CNTにも製造法
により長さ、結晶性、純度の異なるものが入手可能である。この中から最適なCNTを選ぶことでも 熱電性能を向上できる可能性がある。特に長いCNTを用いることで電気伝導率を向上させられるこ とを期待した。これまで当研究で使用してきた最も代表的なHiPco SWNT(Unidym、以下HiPcoで省 略)と呼ばれる一酸化炭素を高圧で熱分解することで得られる SWNT と現在大量合成が可能になっ ている、2種類のCNTを比較検討した。1つはeDIPS(Meijo、以下eDIPSで省略)と呼ばれる気相 流動法で作製した SWNT で、HiPco より長いのが特長である。またもう1 つは気相流動法により合 成される多層CNT(Nikkiso、以下MWNTで省略)であり、チューブの長さが長いのが特長である。
HiPco、eDIPS と MWNT を用いて先ほど最適化した撹拌条件を用いて、HiPco/R712、eDIPS/R712、
MWNT/R712を作製して、表面抵抗値を測定し、最適なCNTを決定した[2]。
Fig. 2-1 Fabrication of CNT/R712 film [2]
CNT/R712フィルム Bulk
CNT
CNT/R712 インク 分散
脱泡
光重合
スペーサにインク の添加 光開始剤
とR712
23
第1章でも述べたように、熱電変換(Thermoelectric generation)は熱電発電とも呼ばれ、ゼーベッ ク効果(Seebeck effect)を用いることで、温度差を電力に変換することを示す。ゼーベック効果とは、
物体の温度差が電圧に直接変換される現象である。物質中の帯電したキャリア(例えば、金属中の電 子、半導体中の電子と正孔、イオン導体中のイオン)は、導体の一端が異なる温度を示す際に拡散が 起こる。高温部のキャリアは低温部へ拡散し、同様に低温部のキャリアは高温部へ拡散する。導体を 平衡状態に達するまで放っておくと熱は導体全体に一様に分配され、帯電したキャリアが動き、これ が電流になる。また、熱を電気に変える熱電変換の性能は、無次元熱電変換性能指数 ZT で示され、
式(2-1)で表される。
ZT = (σS2/κ)・T (2-1)
ここで、Z:性能指数、σ:電気伝導率、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導率、T:測定温度である。
式(2-1)から、ゼーベック係数と電気伝導率が大きく、熱伝導率が小さいと高いZTを示し、高い 熱電変換効果が得られることが理解できる。一方、Tの影響を除くため、(パワーファクターPF=σS2) を用いて熱電材料の性能を評価する場合もある。ZT=1で実用化されるといわれているが、それでも 変換効率でいえば 10%足らずの効率しかない。そのため、熱電変換材料の性能を評価する際に、ZT を計算する必要がある。熱電材料の電気伝導率とゼーベック係数はFig. 2-2に示すZEM-3(ULVAC)
により評価する。サンプルに電圧をかけて、電流値から体積抵抗を求める。得られた体積抵抗の逆数 は電気伝導率となる。そして、サンプルの温度差をつけて、測定した電圧からゼーベック係数を計算 する。
また、熱伝導率は式(2-2)により求める。
Κ = Cpαρ (2-2)
ここで、Cp:サンプルの比熱容量、α:熱拡散率、ρ:密度である。
Cpは式(2-3)により求める。
Fig. 2-2 Schematic illustration of ZEM-3 measurement.
Cold
Hot
Thermocouple 1 Measurement set-up
Thermocouple 2
24
ここで、Cps:サンプルの比熱容量であり、サンプルの示差走査熱量測定(DSC)の熱量から計算す る、Cpr:レファレンス(アルミナ、0.7788 J g-1 K-1, 300 K)の比熱容量、Mr:レファレンスの質量(9.836 mg)、Ms:サンプルの質量、Ve:空パンの熱流、Vr:レファレンスパンの熱流、Vs:サンプルパン の熱流である。
密度は式(2-4)により求める。
ρ = m/V (2-4)
ここで、m:サンプルの質量、V:サンプルの体積である。
本章では、作製したCNT/R712 フィルムの熱電特性を評価し、それぞれの ZTを計算する。また、
今までよく使用されている熱電材料である CNT シートはCNT が1次元構造を有していることに起 因する面内方向と厚み方向で熱伝導率は 25 倍もの差があることが明らかとなった[3]。これは面内方 向より厚み方向の方が、熱抵抗となる接点の数が多いことに起因すると考えられる。厚み方向の熱伝 導率が測定されやすいため、今まで報告された CNT シートや CNT ポリマー複合体による熱電材料 の論文はほとんど、面内方向の電気伝導率とゼーベック係数および厚み方向の熱伝導率を用いて ZT を計算してしまった[4]。従って、これまでのZTの値は大幅に過大評価していた可能性がある。そこ でCNTを樹脂に分散した系であるCNT/R712の熱伝導率の異方性を確認するため、第2章で作製し
たCNT/R712フィルムの面内及び厚み方向の熱伝導を評価する。面内の熱拡散率は周期加熱放射測温
法、即ち、レーザーでサンプルを周期的に加熱して、放射測温位置を移動させ、距離ごとの位相を求 め、水平方向の熱拡散率を求める(Fig. 2-3)。また、厚み方向の熱拡散率は温度波熱分析法、即ち、
表面で発生させた温度波が厚さ方向へ拡散して裏面に達した時,振幅の減衰と位相の遅れを生じる。
これらを厳密に解析することで熱拡散率と熱伝導率が算定できる。
(2-3)
Fig. 2-3 Schematic illustration of thermovave analyzer measurement.
レーザー IR
放射測温
周期加熱
サンプル厚さ 距離
25 2-2. 実験
2-2-1. 使用試薬
・SWNT(HiPco、Unidym)
・SWNT(eDIPS、Meijo、2.0±0.5 nm)
・R712(KAYARAD、日本化薬)
・光開始剤(Bis (2,4,6-trimethylbenzoyl)-phenylphosphineoxide、Ciba Specialty Chemicals)
・SWNT(SO、Meijo、1.4 nm)
・MWNT(日機装、20 nm)
・N-メチルピロリドン(NMP、SIGMA-ALDRICH HPCL用、99%以上)
2-2-2. 使用装置
・バス型超音波照射機(BRANSON 5510)
・交換ランプ(HLR100T-2, SEN LIGHTS CORP.)
・自転・公転方式ミキサーあわとり練太郎(AR-100 CONDITIONING MIXER、THINKY)
・表面抵抗率計(Lorensta-GP、MITSUBISHI CHEMICAL CORPORATION)
・ULTRA-TURRAX Tube Drive control(DT-20ホモジナイズチューブ、IKA)
・プローブ型顕微ラマン分光測定装置(RXN System、カイザー社)
・熱拡散率測定装置(ai-Phase Mobile 1、アイフェイズ社)
・熱電特性評価装置(ZEM-3シリーズ、ADVANCE RIKO)
・DSC6220(SII EXSTAR6000、Seiko Instruments)
・熱物性測定装置(サーモウェーブアナライザTA3、Bethel)
・加熱炉(FULL TECH)
・熱重量分析装置(EXSTAR 6000 TG/DTA 6300、SII)
・原子間力顕微鏡(AFM)(Agilent5500、Agilent Technologies)
2-2-3. CNT/R712フィルムの作製
0.1 wt% HiPco/R712の作製
Fig. 2-1に示すように、HiPco(10 mg)とR712(10 g)を混合し、ULTRA-TURRAX羽根式攪拌機
(6000 rpm 3分間と6000 rpm 27分間)で分散した。その後光開始剤(100 mg)を加えて8分間撹拌 した。得られた0.1 wt% HiPco/R712インクを脱泡してPETスペーサに添加した。HL100Gランプに よりフィルムの両面を2分間ずつ照射してフィルムを硬化して 0.1% HiPco/R712が得られた。
26 0.1 wt% eDIPS/R712の作製
上記と同じ操作で、eDIPS(10 mg)を使用した。
0.1 wt% MWNT /R712の作製
上記と同じ操作で、MWNT(10 mg)を使用した。
0.5 wt% HiPco/R712の作製
上記と同じ操作で、HiPco(50 mg)を使用した。
0.5 wt% eDIPS/R712の作製
上記と同じ操作で、eDIPS(50 mg)を使用した。
0.5 wt% MWNT /R712の作製
上記と同じ操作で、MWNT(50 mg)を使用した。
2.0 wt% eDIPS/R712の作製
上記と同じ操作で、eDIPS(200 mg)を使用した。
比較するため、eDIPSをNMPに分散してろ過による得られたeDIPSシートも作製した。CNTの長 さを比較するため、HiPco、eDIPSとMWNTのAFMで観察した。
2-2-4. CNT/R712フィルムの熱電特性評価
熱電特性測定により、0.5 wt% HiPco/R712、eDIPS/R712、MWNT/R712フィルムの電気伝導率、ゼ ーベック係数を測定した(30~100 ºC)。DSC測定(-10~80 ºC)をして、比熱容量を式(2-3)により 計算した。また、サンプルを長方形の形を切り、重量と体積から密度を式(2-4)により計算した。サ ンプルの熱拡散率は周期加熱法で測定した。サンプルの熱伝導率は式(2-2)、ZT値は式(2-1)によ り計算した。
比較するために、2.0 wt% eDIPS/R712及びeDIPSシートの熱電特性も同じく評価した。
27 2-2-5. eDIPS/R712アレイの作製
プリンタブルな熱電変換素子のコンセプトを生かすため、0.1 wt% eDIPS/R712インクを用いて、Fig.
2-4[2]のマスクテンプレートでスクリーン印刷により 144 個熱電変換素子をポリイミドフィルムの上 にプリントした。
2-3. 結果・考察
2-3-1. CNT/R712フィルムの作製
Fig. 2-4 Design of the stainless steel mask (150 μm thickness) used for the screen printing of the eDIPS/R712 ink. The mesh count of the stainless steel mask is 144 (12×12) as described. Adapted with permission. [2] Copyright 2016, The Chemical Society of Japan.
Fig. 2-5 Schematic image of the shear stress for the mixer.