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第9章東北・北海道における共通語化の現状

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(1)

第9章東北・北海道における共通語化の現状

9.1.目的

 第2部では,『方言文法全国地図(GAJ)』のデータを対象として,さまざまな手法で 共通語形の分布パターンを考察してきた.しかし,GAJデータは,1920年ごろの日本 語の状況を示しており,現代に至る共通語化の過程を調べるには,通時的な調査デー

タが必要である.そのため,第9章からは,世代別の調査をおこなった「グロットグ ラム調査」を利用して,共通語化の進展についての分析をおこなう.

 本研究では,GAJの項目も含む文法項目を中心とした方言調査である「東北・北海 道グロットグラム調査(TH調査)」のデータを用いる.第10・11章ではGAJのデータ

と重複する30項目についての分析をおこなうが,TH調査の質問数は第1調査票だけ でも193項目ある.そのため,本章では,THグロットグラムのデータのみでの分析を おこない,現代の東北・北海道方言の共通語化の現状について考察する.

9.2.東北・北海道グロットグラム調査

9.2.1.グロットグラム

 グロットグラム(glottogram)は,「地理×年齢図」として説明される.地域差と年齢 差をそれぞれの軸として,各地点における各世代の結果を平面にプロットする図法で ある.本研究で使用する「東北・北海道グロットグラム」を例に挙げると,図9−1の ように調査地点を線上にとり,各地点で10,30,50,70代の話者に対して調査を実施し た結果を,図9−2のように表形式で示したものである.なお,図9−2には「90代」が あるが,これは『方言文法全国地図』の結果を「90代」の回答とみなして統合してい

るためである.

 図9−2のグロットグラムは「雨が降っているから」(GAJ第33図)というときの接続 助詞「から」の使用について,地域別,世代別の調査結果を示している.地域差と年       191

(2)

齢差を同時に観察できるため,言語変化の効率的な分析が可能である.

 このようにグロットグラムには,地層の断面図をみるように,言語の層を分析する ことができる反面,地域を一次元で表現しなければならない制約がある.そのため地 域の選定に調査者側の意図を介在させることになる,という批判もある(江端2001).

これに対して,本多(2005)のように,複数の隣接地域のグロットグラムの対照を試み るなど,問題点を克服しようとする動きも出ている.

(3)

滝川○

餓後津 禰涼酌

   仙北町●鍵岡     日詰㊨矢幅     花翻花巻空港     北噛村崎野     鷹惨中折居

   織議

    石越●

     蹴.

   愛宕

仙台●畿 汕王

  東

福島

旧・ 道県 地点 10代30代50代70代90代

,亀1

小樽

北海道 余市

ェ雲

●● ●● ●● ●● ●●

大沼公園 × 函館

津軽浜名

今別

大川平

津軽二股

津軽 郷沢

NR

奥内

津軽宮田

青森 青森 シ平内

●▽

▽●

小湊

●▽ X X

千曳 X ×

乙供 X

向山 X

下田 x

八戸

剣吉 X X

一  一 × X ×

金田一温泉 ●×

斗米 φ

Q _  一 ★▽

南部

一一 小鳥谷

X★▽

小繁 X

奥中山(高原)

好摩

盛岡

仙北町 ●★

矢幅

岩手 日詰

花巻空港

花巻

村崎野 北上

陸中折居

前沢

平泉

山ノ目

一ノ関

花泉

石越

伊達 瀬峰

シ山町

●● ●●

松島

陸前山王

宮城 仙台

長町

館腰

槻木

大河原

白石

藤田

福島 桑折

ノ達

●●

東福島

〜1985〜 1965 1945 1925 〜1905 〜老

●★x▽#

カラ ガラ

スケー/スケ/スケァ/スキャー ハンデ/ハデ/ヘンデ/ヘデ     貿£

図9−1・本研究における対象地点一覧 図9−2・グロットグラムの例

      ・(雨が降っている)カラ

193

(4)

9.2.2.調査概要

 本研究で使用する「東北・北海道グロットグラム調査(以下,TH調査)」は,文部科 学省科学研究費基盤B「現代東北方言の地理的・社会的動態の研究」(研究代表者・井 上史雄)によって実施されたものである.

 この地域における先行研究としては,井上(1985.3)による「SFグロットグラム」が ある.1982年11.月ら1983年2月にかけて,東京都世田谷区成城より,千代田区神保 町,東武鉄道浅草駅〜幸手駅,東北本線栗橋駅〜南福島駅までの45地点で,7世代(10

〜70代),計307名に対して実施された.

 TH調査は, SFグロットグラムの延長として,2001年1月から2002年12月にかけ て実施された.東北本線4福島駅〜津軽線三厩駅間の63駅と,函館本線函館駅〜滝川 駅間の6駅の,合計69駅の周辺において,それぞれ10,30,50,70代の4世代,計 229人を対象に面接調査をおこなった.

 SFグロットグラムの終点である南福島駅の隣駅である福島駅を始点としているた め二つの調査は地点の連続性はあるものの,調査時期に約20年の開きがある(SF調 査の10代がTH調査の30代に相当)ため,比較には注意しなければならない.

 TH調査の調査員は35名で,筆者も調査計画と一部地点の調査に参加している.調 査員の多くは東京外国語大学,東北大学の大学生,大学院生から構成されているため,

方言調査の経験の差は大きい.また,調査者は共通語によって調査をしている.

 調査環境としては共通語形が出やすく,方言形を十分に引き出せたかについては疑 問が残るが,本研究では得られたデータをそのまま使用した48.

 調査対象地域は,図9−1で示されたものである.図9−2のグロットグラムには地点 に対応する道県,ならびに江戸時代の旧藩の対応が示されている.

 47調査後の2002年12月に,盛岡〜八戸間の東北新幹線開業によって,この区間がJR東日本か ら第三セクターの鉄道会社に移管された,現在は,盛岡〜目時が「IGRいわて銀河鉄道」に,目時

(5)

 調査は第1調査票と第2調査票からなり,調査時間の都合上,第1調査票193項目 が優先的に実施されたため回答率が高い.調査項目は以下の5種類からなる.予備調 査の段階で語彙項目の共通語化が著しかったことから,年齢的・地域的差異が多く残

っている文法項目に重点をおいた.

(1)場面差調査 「家」と「テレビ」の二つの場面での使い分けを調査したものである.

(2)語彙項目調査 LAJの項目(「河西データ」項目が中心)と,新方言的な項目がある.

(3)文法項目調査 GAJや,その準備調査の項目が中心である.

(4)敬語項目 待遇表現に関する項目である.

(5)新方言項目(YN項目) 主に新方言や若者ことばのような新しい語形について「言     う」「聞いたことがあるが言わない」「聞いたことがない」の3段階で選択す    る項目である.

 TH調査の全体的な結果は,井上・玉井・鑓水(2003)によって報告された.刊行され たグロットグラムは,186地点以上の回答がみられた項目のみを対象とし,残りは

CD−ROMのデー・一・・タ形式で配布された.

 また,玉井(2003)は各方言形の言語境界線を集計して,旧藩領域の影響の残存を指

摘した.

9.2.3.分析の視点

 本研究における調査地域は,東北地方太平洋側の東北本線と青森県内の津軽線に沿 っている.この東北本線・津軽線は,ほぼ江戸時代の奥州街道に沿っており,古くか ら物流の主要道として,中心都市である江戸(現在の東京)に連なっているという点で,

本研究の共通語化を考える上での趣旨に合致している.

 その反面,東北地方においては奥州街道がもっとも江戸からの文化を受けやすいと いうことになる.すなわち,現代においても各県の大都市が存在し,それだけ県内の 他の地域より共通語化が進んでいることは意識する必要があるだろう.

 また,江戸時代の旧街道だけでなく,旧藩領域についても重要視する.現代よりも 195

(6)

人々の移動が困難であった時代の行政境界の影響は大きいためである.ただし,福島 県内の旧藩はやや複雑なのでそのまま県単位で扱い,北海道もまた松前藩地域の地点 は少ないのでそのまま道単位で扱った.

 本研究では,出力されたグロットグラムを読み取ることによって分析するのではな く,グロットグラム調査における方言調査データを地域別,世代別に集計することに よって数量的分析を試みた.そのため,地域別,といっても,元のデータはあくまで グロットグラム調査であるため鉄道沿線の調査地点が道・県を代表することになる.

9.3.集計結果

9.3.1.共通語の中心の変化

9.3.1.1.全体の集計

 GAJデータと組み合わせたデー一・・タ(rTH−GAJ統合データ」)30項目の分析については,

第9章と第10章でおこなった.本章では,TH調査の第1調査票193項目中,共通語 形の判断が困難なもの(待遇表現などの表現法項目)を除外した168質問について集 計する(以下,TH調査というときには,この168質問を指す).

 まず,TH調査全体の共通語使用率を示す.同一の結果を,地域別(図9−3),世代別

(図9−4)の二つのグラフによって表現した.地域は,前章までと同様に,青森県を旧 津軽藩地域と旧南部藩地域に,岩手県を旧南部藩地域と旧伊達藩地域に分割して集計

した.地域分割については,前章までのグロットグラムを参照してほしい.

 図9−3をみると,全部の地域で,10代の回答が最も共通語化が進んでいる.しかし 50%以下であり,あまり高いとはいえない.第10章でとりあげるTH−GAJ統合デv・・一・・タに

おける地域別共通語使用率のグラフ(図10−4)と比較すると,グラフの形状自体に大き な違いはないものの,全体として10〜15%程度低くなっている.これは調査項目を地 域差の現れやすいものに絞ったことも影響していると思われる.

(7)

 北海道は東北4県とは異なり,すでに高年層の段階で共通語化が進んでいたが,共 通語化の進展はあまり進んでおらず,若年層では他の地域に追いつかれている.その ため世代による差は非常にわずかである.その一方で,青森県旧津軽藩地域は,他の 地域に比べて共通語化が進んでいない.10代でも30%を割り込んでいる.

 図9−4の年齢差のグラフをみると,全体としては,年代が下るにつれて使用率の増 加が見られるものの,東北地方で共通語化が進むのは30代以降である.70代の共通 語化率は低いが,50・30代になる伊達藩地域を中心として共通語化率が高くなりはじ

めている.

一一一

F一 一,一一  一

    〆

Z…一 二◎^≦.

5ニィニ≦

70代  50代  30代  10代

一一一一一   『一一  一二=一二二.『____一

@      ◎  10代一一一一一一

@    一魂}−30代

D_@ .    一▲一一50代

@    一■◆一一70代       『『一一1− 一一一 }一一〔

    ρ一一〇一一Q、、一     、°「

口\

両卸緬 峠漸嵐

図9−3・168質問の地域別共通語使用率 図9−4・168質問の年代別共通語使用率

9.3.1.2.場面差項目

 つづいて個別の項目の結果をみる.図9−5は場面差項目の結果である.場面差項目 では,11項目について家場面(私的場面)とテレビ場面(公的場面)の2場面での使

用を尋ねた.

       197

(8)

 テレビ場面における共通語使用率は,多くの地域で70代がもっとも低く,30代で ピークとなる.共通語と方言との使い分けの能力が向上したものと思われる.10代の 使用率が高くならないのは,公的場面という経験が少ないことが考えられる.家での 共通語使用率が世代中最も高いことを考えると,家とテレビとの使い分け意識も低い

と思われる.

 地域による違いを見ると,家場面では共通語化は図9−2同様30代で岩手県,宮城 県を中心に進んでいるのだが,10代になると福島県が高くなり,ほぼ東京に近いほど 共通語化する傾向を示す.さらに福島県の10代では,家場面とテレビ場面とでの差が わずかであり急速な共通語化がうかがわれる.

 逆に,青森県旧津軽藩地域では,テレビ場面の共通語使用率はさほど低くないのだ が,私的場面での使用率が非常に低い.この地域が佐藤(1996)の指摘する「方言主流 社会」であることを示している.

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

   ..。   》\_詮

 /−Q:一

       …一 ㎜ ……〒万だ一

ξ一2≡≧\:_一一

雌刊緬(苗醐嗣)

並刊罰(珊書潮)

剛荊緬(画曹謝)

蹄塘緬(籍韻謝)

詩滴嵐 岡菖緬(商痴醐) 両即緬 持滴面 蹄襯獅(擁禰嗣) 剛端緬(珊書謝) 雄刊緬(珊胞嗣) 雄弔罰(宙崩謝) 叫蓮罰(噛臨謝) 両即緬

図9−5・場面差項目の共通語使用率

(9)

 図9−6は,動詞の活用についての46項目の共通語化率である.全体的に共通語化 が進んでいるが,これも岩手県を中心に普及しつつあった状況が,10代で福島県,青 森県での使用率の急増によって,地域差を少なくしている.これは全国的な共通語化 の結果であろう.

 このように,東北地方の共通語化は,岩手県・宮城県の旧伊達藩地域という東北地 方の中核を中心とした構造から,東京からの直接の影響下におかれるという構造へ変 化しつつあるようにみえる.

▲ 

ρ一一一〇        、、、

◆㍉)一一つ  \.メ)

一竃嫉〉ぐ

    一一一一 『一}一一}

   一 一『

@     一黶c−n−一一10代 一『

鼈鼈鼈黹ー一一30f℃     _一一__一

」−50代一

ヒ一一70代  一一 

@一 A−一一一一 一一}一

恥緬

薄緬(曹禰嗣)

弔麺(商醐嗣)

刊瓶(副雲謝)

端緬(到嬰謝)

業緬(禰韻醐)

滴嵐

9−6・動詞項目の使用率

99

(10)

9.3.2.関東地方との地理的連続性と「東京新方言」

9.3.2.1.東北地方南部で方言形が優勢な項目

 しかし,項目の中には,東北南部での共通語化が北部より遅れている例もみられる.

第5章のGAJの活用形項目において,関東方言の特徴とされた2つの項目について述

べる.

 一つは,否定辞ナイについての結果である.TH調査では,31項目の否定表現の質 問をしている.集計結果を図9−7に示す.31項目の共通語形ナイの使用率である.図 を見ると,70代から30代までは,伊達藩を中心として共通語形の使用の山があるこ とがわかる(北海道は除く).しかし,東京に近い福島県や宮城県では,30代以下で は共通語化が進んでいない.10代をみると青森県旧津軽藩地域を除けば,東京から遠 くなればなるほど使用率が上がっていることがわかる.

0

0 1

AUO%%

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0

7

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0

3

000%%%

酷弔緬(苗臨謝)

酷相緬(珊啓謝)

碑端緬(圏書醐)

略塘緬(擁撒潮)

詩滴嵐 呵薄罰(商禰謝) 壷卸緬

図9−7・ナイ(31項目の平均)の使用率

(11)

 もう一つは,前項と同様の推量の助動詞ダローについての質問である.TH調査では 9項目あり,図9−8に,集計結果を示す.9項目の推量のダローの使用率である.これ

も30代までで伊達藩地域で使用率が高くなるにもかかわらず,10代では,福島県,

宮城県で使用率が延びず,全体として,福島県から青森県旧南部藩にかけて徐々に共 通語形使用率が上昇するグラフになっている.

 共通語化が進んでいない東北地方南部での上記の項目の方言形は,否定辞ナイでは アイ連母音が融合化しネーとなる.また,推量のダローはかわりにベシを起源とする,

べ,べ一,ぺ等が用いられている.これは,いずれも有力な関東方言とされる.北関 東に近い東北地方においては,こうした言語的な力のある関東方言の影響で,非共通 語であるにもかかわらず,切り替えないという傾向があるのではないだろうか.しか し,これは実証が必要である.また,調査地点の端の部分で起きた現象を解明するた めには,それと隣接地域との地理的連続性についても考慮する必要がある.

       100%

       90%

       80%

       70%

       60%

       50%

       40%

       30%

       20%

       10%

      0%

       オ÷ 剛  コ蝸 劃E 雄  呵  甜        滴 端 描 ・柵 ・IH 萬 伽        面 Xm Xm Tm Tm 獅 緬        楠 到 到 ⑰ ⑰        韻 嬰 襲 崩 醐        謝 謝 潮 醜 醐

      図9−8・ダロー(9項目の平均)の使用率

一一一一Z…10代

一一香[−30代 鼈黶」−50代

■一◆ロー70代

一一一

一一一 一一一一 一〔一一

 一一一『一一 氏uご} 一一一 一一『一一『一

@ o−一一 o−

@ \Q    ㌔

    /         べ、  \、

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̲と⊇函ム≦慧。

丹       ニヤ_

201

(12)

9.3.2.2.東京新方言の進出

 前項で,関東と連続した方言形が残る場合について論じた.これは有力な関東方言 の場合には,共通語化の速度が落ちる可能性があるため,関東地方との連続性という 観点が必要になる.

 しかし,この調査は福島県以南では実施されていないため,直接的に東京からの地 理的連続性をデータから確かめることはできない.そこで,東京中心の共通語化を,

東京との地理的連続性との観点からも論じるため,いわゆる「東京新方言」と呼ばれ る項目の東北地方への進出について考察する.

 TH調査では,認知度調査項目において東京新方言の項目が多く調査されている.ま た,それ以外の項目でもいくつかの東京語形の回答がみつかる.回答方式は異なるが,

以下の21項目を集計対象とした.

アオタン,イイジャン,イエテル,ウザッタイ,カイチャウ,カッタルイ,ケンケン,

ゴムダン,シアサッテ,ジャッタ,ズルコミ/ヨコハイリ,チガカッタ,チガクナッタ,

チゲー,チャッタ,ナニゲニ,(牛)ミタク,ミチャッタ(家/TV),ヤッパシ,ヨサゲダ

 図9−9は「東京新方言」にあたる21項目の使用率を平均した結果である.北海道を 除けば,ほぼどの世代も,綺麗に東京からの距離に反比例していることがわかる.

 共通語化では,地域差が薄れる形での普及が目立ったが,東京新方言項目では東京 からの地伝いを示す形の普及になっている.

 ただし,東京新方言自体,元々周辺地域の方言形を取り入れて出来る例が多くみら れる.「違う」の形容詞化であるチガカッタのように,北関東から都内に流入したとさ れる新方言などは,東北地方との連続性で考えると,逆に東北南部から北関東方言に

も影響を与え,それが東京に伝播し,そして東北へ逆輸入されている可能性もある.

この場合には,むしろ東北南部のほうが東京よりも使用率が高いことになる.

(13)

代においてメッチャ(大変),チャウ(違う)等の関西方言の使用率の増加がみられる が,これもマスメディアの影響と考えられる.

       一一一一一一一

@       .,.o_10代一

黶ァ一

@       ……ロ…−30代

Q____一

@      ▲    50イコヒ

@      ー■◆一一70代       一一一一一一

一一一一

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q       / Oノ

\一一一二竺三廿』       〆〆        …{r

▲      ▲\▲◆  】≧乏』∠一

粛耶緬

叫蓮緬(商醐嗣)

酷刊緬(商醐謝)

雌弔叛(到嬰謝)

魂端麺(到雪謝)

剛端緬(純韻謝)

苦漸溝

図9−9・「東京語・東京新方言」使用率

9.3.3.「東北新方言」の衰退

 公的場面での共通語化を「上からの共通語化」とするならば,前節の「東京新方言」

をはじめとする私的場面での東京語化は「下からの共通語化」に相当する.この現象 は,図9−5における「家」の場面での共通語化の進展からもわかる.

 このように共通語化と東京語化の二面からの「攻撃」にさらされることで,東北地 方で伝統的方言形から独自に発展させた「東北新方言」にも影響を与えると考えられ る.ここでは小林(1994)などで指摘されている助詞サの使用率の変遷をみる.TH調査 においては,以下の9項目が該当する

203

(14)

東の方へく行け〉,見にく行った〉,取りに〈行く〉,

飲みにく行く〉,ここにく有る〉,家に〈いる〉,

〈おれ〉にく貸せ〉,〈犬〉に〈追いかけられた〉,〈蚊〉に〈刺された〉

 図9−10は,上記9質問においてサが回答された割合を平均したものである.割合 が高いほど,サの使用範囲が拡大していることになる.図をみると,福島県と旧伊達 藩地域では50〜70代がピークになっていることがわかる.旧南部・津軽藩地域では 70代で使用していなかったものが50代,30代と急速に普及している.特に岩手県旧 南部藩地域以北では,30代でピークとなっている.それだけ最近普及した現象だった

のだろう.

 しかし,10代になると,青森県旧津軽藩地域以外の東北地方では使用率は全世代で もっとも低く,共通語化がそれまでの流れを遮断するよう広がっていることを示して いる.ただし,サの用法拡大自体は,共通語の二の用法に近付くという点では,むし ろ共通語化の途中段階だったという解釈もできる(小林1994).「ネオ方言」の例とも いえるため,非共通語的な方向に向いているとは限らない.しかし急速に方言形を失 っているという点は変わらない.

 青森県旧津軽地方では,若年層でも依然として方言形を多く使用している.これは,

方言使用が多い地域ということもあるが,サの普及が他の地域より遅かったことも関 係していると思われ,この地域でも10代では減少傾向にある.

 井上(2002.6)では,現代若年層の方言では,大きく東西の二つ方言に分かれること を示しているが,東京を中心とした「東日本方言」に,東北方言も組み入れられる可 能性を示唆している.

(15)

1

一一…n…10代

一一o:}一一30代

一▲一 50代

■一◆−70代

掾E\

呵薄緬(苗楠嗣)

酷湘緬(商醐謝)

酷布緬(到書謝)

剛襯緬(珊聖醐)

咄辮緬(滴韻潮)

詩滴耐

      図9−−10・サの使用率

 このほか,福島県における否定の二(高年層のニェから変化)や,仙台周辺のジャ ス(ジャージ)なども50代以下で一時は勢力をのばしたが10代では減少傾向にある.

ただし福島での二は,ネに変化したため共通語化には至っていない.

205

(16)

9.4.多変量解析による分析

9.4.1.共通語形使用に関する分析

 以上,東北・北海道における共通語化・東京語化に関して概観してきた.これらを 総合的に把握するために,多変量解析による分析を試みた.

 共通語形を使用しているか否かというデータを用いて,共通語形からみた東北・北 海道方言の分類を試みる.調査の都合により,無回答者の多い質問や無回答項目の多 い回答者を除くと,167質問,140人となった.TH調査では地点数が少なかった福島 県は,30代,70代で1人,50代では0人となった点は,注意する必要がある.

 分析には数量化3類を用いた.第3軸までの固有値,相関係数を以下に示す(表9・1).

固有値 相 ,、

1 0,201 0,448 2 0,071 0,266 3 0,066 0,257

表9−1・数量化3類における固有値・相関係数

9.4.2.共通語化の度合い

 第1軸と第2軸の話者の値を,地域別に平均して出力した散布図を図9・9に示す.

同じ地域同士は世代の順に線で結んでいる.福島県の30,70代についても参考までに

表示した.

 第1軸は,プラス側に北海道全世代と,青森県旧津軽藩地域以外の10代が位置す る.対して,マイナス側に津軽の全世代や,各地域の高年層が分布している.そのた め年齢をあらわすようにも,また地域差を表すようにもみえる.今まで述べてきたよ

うに,共通語化が年齢とも,東京からの距離とも関係があるためであろう.

 このため,図9−12の項目の分布から分析する.語形の前に示されている記号は,

その項目の共通語形の使用率を5段階で記号化したものである.全体としては第1軸

(17)

は共通語化の度合いを表しているといえる.

 ただし,最もマイナス側では使用率がやや低い回答がみられる.これらは,「ヨン デシマッタ」,「サムイケレドモ」といった文章語的な語形や,「カタアシトビ」「ジテ

ンシャ」のような「ケンケン」「チャリ(ンコ)」といった非共通語形が優勢な項目が位 置している.また,回想をあらわす「〜ッケ」の不使用といった,方言形の不使用に ついても含めており,こうしたことが,図9−11における世代の動きの複雑さにつなが っているものと思われる.

 一方で,プラス側では否定形「ナイ」や願望の助動詞「タイ」における,「ネV−・一・」「テ

ー」といったai連母音の融合形が多く回答される項目のほか,「テイル」や「ダロー」

における「テル」「べ一」のように方言形が多く回答される項目が位置しており,共通 語使用率が低いことと対応している.

 第1軸の相関係数は決して高くはないが,第2軸以降にくらべて突出している.第 1軸は総合的な共通語化をあらわすものと考えられる.

207

(18)

北:北海道 青:青森県 岩:岩手県 宮:宮城県 福:福島県

(津):旧津軽藩

(南):旧南部藩

(伊):旧伊達藩

1:10代 3:30代 5:50代 7:70代

岩(南)5

青(南)7青(津)5  禽s

一2

宮(伊)5

7

宮(伊)7 3

2

\岩(南)7

−一一一

  ー1

青(南)3

 1

宮(伊)

1//ヨ

1//6c福3

一2

部N欝

岩(伊)3

青(南)1

北』7

北5 竅i嵩1伊)1

 /  冨1

第1軸 一A

 1

北3 北1

図9−11・数量化皿類の第1軸x第2軸の散布図(話者の分布)

(19)

      第1軸x第2軸

       6 ・]・・

       漬

       i      ・アルダロー        i       ・アルダロー        5 1

       i ・オキラレル

       i       ・キテイル       ・イッタデショー        ・ミラレル       4…1・.

       i .⇔レル      .シンデイル       ・家hSアシトビ       i

       i       ・カイテイル

       i       ・キイテシマッタ        ・ダP・一

       ㍉   .朽レル   ・イーダ・一ウルダnyムイYp−

      Xシテワ i      ・家サムイケレドモ

       字ノンデオイタ        tキラけイ.シマ。デおじテイル        i      ・鋤ひラナイ ミテイル

       i       ・イクケレドモ

      惚艀トビ     21        ・タカ椥一・ミタイ

       i       ・コラレナイ        i       Xノリタイ       ・ノミタイ

       xヨンデシマツタ   .カ  i       ・・モー・ワカラナイ

       ・ジテンシ・_,ケ.,モ  、i…テシ・:だ   .繍 オイ 

       i       ・コシラエナイ    ・シラナイ

       i       xソーダネ

       xオ     i  ・クワナイ      xハケナイ        i       ・シナナイ

       ・・i・       xカカナカツ2・・霧ナイ        i      xオヨゲナイ        ■80%以上      i

       ★60%以上      i

       ◎40%以上      i        x20%以上       ・3・i・

       ・20%未満      i      .tキガェル

       ー4↓

図9−12・数量化皿類の第1軸x第2軸の散布図(項目の分布)

209

(20)

9.4.3.分布パターンと旧藩領域

 さらに図9−11において,各地域の世代を結んだ直線の分布パターンをみてみる.

すると,宮城県と岩手県の場合,県単位でまとまるのではなく,宮城県と岩手県の旧 伊達藩地域,岩手県と青森県の旧南部藩地域とが,ともに似たような位置にあること がわかった.図9−4,図9−5などでは,旧伊達藩地域の中でも,宮城県より岩手県の 側で共通語化が進んでおり,異なる印象を与えたが,同じ旧伊達藩として,共通語化 するパターンは類似しているようである.

 多変量解析から,東北地方の共通語化の中に,旧藩の枠組みが未だに残っているこ とがわかったが,各地域の10代の位置関係を見る限り,今後の東北方言は青森県の旧 津軽藩地域とそれ以外の二つだけに分かれる状態が予想され,この枠組みも近い将来

もっと崩れた状態になる可能性が高い.

9.4.4.年齢差と地域差

 第2軸以降についても考える.図9−9から,第2軸は年齢差が示唆されるが,第1 軸での変動が大きく,分析しづらいため,第3軸との散布図(図9−13)から分析する.

 図9−13をみると,まず第3軸の特徴が明確である.第3軸のプラス側を見ると,

だいたい値の大きい順に,北の青森県旧津軽藩地域から南の福島県へと地域が並んで いる.このことから第3軸が地域差をあらわしていると考えられる.

 一方,第2軸は,原点をはさんで,およそプラス側の高年層から,マイナス側の若 年層へと年齢順に並んでおり,年齢差を示していると思われる.

 なお,北海道については,第2軸,第3軸ともにマイナス側に位置している.これ は北海道での共通語化が高いために,東北地方とあわせた分析では,地域としては宮 城県あたりに位置づけられてしまい,年齢層としては全世代が若年層と位置づけられ てしまうことがわかる.

(21)

部ω

トー一・一一一一 一2

1

青(津)5 青(南)

嘆二 一輪

ツ(南施\,

   青(津)7 ツ(南)7

岩(南)3_臨     青(津) 竺繋南)5α(南)7 青(南)1

岩(伊)5 岩(南)1

 一1  北5

k1     岩(伊 1 岩(伊)7     V @/ ノ  /C  宮(伊)7

     北北3

@/C 

一〇.5 D/

^ 宮(伊)5

青(津)1宮(伊)1  ,   /C 

@/m  宮(伊)3

福3

     

@    /

、、

̲ ㌔

、へ 、

、\̲ 福1  \   、   、

℃ −1.5

      ,t。福7       /      /     /    /  /  /

2

北:北海道 青:青森県 岩:岩手県 宮:宮城県 福:福島県

(津):旧津軽藩

(南):旧南部藩

(伊):旧伊達藩

1:10代 3:30代 5:50代 7:70代

第2軸

3

図9−13・数量化皿類の第2軸×第3軸の散布図(話者の分布)

211

(22)

9.5.結論

以上,本章では,TH調査のデータを用いて,東北・北海道方言を,主に共通語化の 観点から考察した.その結果,

共通語化の中心は旧伊達藩域ではなく,直接東京の影響下におかれつつある 若年層では東京からの強い影響がみられる

北海道と東北地方は共通語化の過程が大きく異なる

共通語化のパターンは,旧藩領による方言の枠組みを反映している

などが明らかになった.

 本稿では,関東地方との連続性について言及はしたものの,調査データから関東地 方との連続性の例を多く示すことはできなかった.今後は地域が連続している井上

(1985.3)のSF調査や,「日本海調査」と組み合わせた分析をおこなう必要もあるだろ う.SF調査の場合は,調査から20年間が経過しているため,世代内での共通語化も 進んでいると思われる.

 また,グロットグラムという南北の関係のみでみてきたため,本多(2001, 2005)に あるような,同一地域内の東西の関係も考慮にいれる必要があるだろう.東北本線沿 線は東北地方太平洋側の中心地域といえるため,周辺部である沿岸部や山間部の調査

と対比することは今後の課題である.

 第9章から本章まで,TH調査を概観してきたが,東北方言が30代の世代から共通 語の方向に大きく変化をはじめていることがわかった.新方言化や北関東方言との連 続性で方言形が生き延びる面もみられたが,多くは10代では急速な衰退をみせている.

その代わりに普及が進むのが東京新方言であり,これは非共通語形ではあるものの,

東北地方が言語的に東京に従属する形になりつつある.

東北方言の将来を予測する意味でも,今後も調査を継続し,分析していく意義は大き いと思われる.

参照

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