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Asian and African Languages and Linguistics, No.5, 2010

はじめに

中 山 俊 秀

(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

この特集は、アジア・アフリカ言語文化研究所における共同研究プロジェクト

「言語の構造的多様性と言語理論

:

『語』の内部構造と統語機能」における

2009

年度の共同研究の成果物の一つとして編集された。本共同研究プロジェクトでは、

形式的単位としての「語」が通言語的に見せる構造的多様性および機能的多様性 の幅を確認しつつ、文法システムにおける形態法の位置づけ、形態法と統語法と の関係という一般言語理論上の問題を考えてきたが、研究期間最終年度である

2009

年度は形態的構造形成と統語的構造形成の区別とその境界領域に焦点を当て 議論した。

言語構造を捉える上で、「語」と「文」はこれまで比較的はっきりと区別して 考えられてきた。これは、それぞれに形態論と統語論という別の下位研究領域が あることを見ても明らかである。これに対して、形態法と統語法は一つの文法シ ステムの中で密接に関連した構造化ドメインであることも確かで、特に形式統語 論では、形態法と統語法の間に意味のある構造的な差異を認めず、形態法を統語 法に還元して捉える見方も強い(

Baker 1988

など)。たとえば、複統合的な語は 文に匹敵する意味内容を表しうるが、その構造(作り)は統語法に沿って作られ ており、統合的(語形成による)表現と分析的(文レベルの)表現の間の差異は 表層的である(複統合的語形成は「語に押し込まれた統語法」に過ぎないのか)、

といった捉え方である。

しかしこれには議論の余地がある。文のような意味を一語で表現できる複統合 的な語形成を許す言語では、「文のような語」と同等の意味を複数の語からなる 文として分析的に表現することもできるものだが、そこには生産性・構造的自由 度の違いや語用論的な差異が明確に見られる

(Mithun 1984)

。また、「語」は、形 態的類型の広がりに明らかであるように、構造的に非常に多様である。それに伴 って、語形成が文法の中で負うことができる意味機能の幅も言語によって大きく 異なる。そうした実態を踏まえると、形態構造と統語構造という二つのドメイン の性質、機能的役割分担が通言語的に全く同じであるとは考えにくく、「語」の レベルの構造化(形態的構造化)と「文」レベルの構造化(統語的構造化)の間 に重要な違いが見られることも十分に予想される。

形態と統語という二つの構造ドメインが別の構造的特性を見せることは様々な 面から確認できそうではあるが、その一方で、それらの境界領域の問題も興味深 い。言語の歴史的変化の中で統語的(迂言的)表現が形態的(統合的)表現に変

(2)

アジア・アフリカの言語と言語学 5

わっていくというプロセスは幅広い言語で観察される

(“Today’s morphology is yesterday’s syntax,” Givón 1971)

。本特集所収の論文でも扱われているが、文法化に よって節や句が「非節化」「非句化」してしまい、それに伴い統語的構造があた かも形態的まとまりをなすかのような振る舞いをするようになるケースは決して 少なくない。こうしたドメインをまたいだ構造の変化からも、形態法と統語法の 特性に関する多くの示唆を得ることができそうである。

形態法と統語法の相互関係は言うまでもなく大きな問題であり、限られた期間 の共同研究で結論が得られるものではないが、議論を続けていく基盤の整理はで きた。この特集に収録した論考はその一端であるが、この大きな問題に関する読 者の方々の関心を刺激することができれば幸いである。

参 考 文 献

Baker, Mark. 1988. Incorporation: A Theory of Grammatical Function Changing. Chicago: University of Chicago Press.

Givón, Talmy. 1971. “Historical syntax and synchronic morphology.” Chicago Linguistic Society 7. pp.413.

Mithun, Marianne. 1984. “The evolution of noun incorporation.” Language 60(4). pp.847-894.

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参照

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