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能登のフロ鍬

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Academic year: 2021

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能登のフロ鍬

著者 上井 久義

雑誌名 阡陵 : 関西大学博物館彙報

巻 43

ページ 2‑3

発行年 2001‑09‑30

URL http://hdl.handle.net/10112/00024058

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能登のフロ鍬

鍬は、農耕を考える場合に、重要な役割りを はたしてきた。近年、木製品の出土例が増加し て、その実態がより明らかにされるようになっ た。その形態は、板状の一部に孔があり、ここ に柄となる棒をさしこんでいる。板が薄いと柄 をさしこんだ場合の強度が保てないので、孔の 部分だけに厚みをもたせる形になっている。板 に厚みをもたせる凸部は、板の一方の面のみに つくりだされ、表裏の凸部をつくりつけた例は ない。したがってこれを復原する場合には、鍬 を使用する形で手に持つと、手前に凸部を付け た形と、裏面にこれをつけた形に類型化される。

板に柄を通すとT字型になるが、耕作に適した 角度を持たせるために孔に傾斜がつけられてい る。さらに表面よりも裏面の孔が大きくあけら れ、柄を持って耕した鍬をひきよせても、板が ぬけおちないような仕口になっている。しかし その保存状態がよくないこともあって、どちら 側から柄を挿入したのか、また板に対してどの 程度の角度をつけて柄がとりつけられていたの かがきめがたい場合も多い。ときには板と柄が 鈍角になる形に復原されて、鋤の形態にされて

いる例もある。

和歌山県粉河の鍬

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上 井 久 義

かつて長野県の東北部に位置する秋山郷で民 家の移築作業に参加したおり、木製の鍬が数本 残されていた。フロという板の部分に柄がとり つけられているが、金属の刃が装着されていな い。木質もやわらかい材質が使用されていたよ うである。使用された痕跡もない。この民具が どの様な理由で保管されていたのか不明であっ た。これと併せて柄の部分だけも数本残されて いた。形態は柄なのであるが、実用として柄に

なるものではなく、板に柄の形状をうつしたも

のと見えた。これはおそらく鍬を作る場合の型 見本として保管されていたのではないかと思わ れる。フロ鍬は、一般には型木屋によって製作 され、流通していたと考えられる。したがって 型見本のようなこのフロ鍬は、かつて型木屋が 保持していた品であったと考えられる。フロ鍬 に型見本が存在したとすれば、その流布によっ て、一定地域に共通の型の鍬が使用されたこと を示している。また使用者の好みや使い勝手に あわせて製作されたものではなかったようであ る。ある一定の地域で使用されるフロ鍬が同一 の類型であるのはこうしたことによるのであろ

c

フロ鍬は使用方法から見て概ね二つの型があ る。一つは耕作用、他は知の畝の溝土をけずっ て畝をたてる鍬である。耕作用に比べて溝土を すくう鍬は柄が長く、 フロと柄の角度が鋭角に できている。民具として鍬をとりあげる際には このことに注意をはらい、フロと柄がどのよう な角度でとりつけられているかを計測して報告 されるっしかし実態としてはその鍬が使用され ている状態が知りたいことになる。そこで耕作 用の鍬を地面に打ち込んだ形で、地面と柄の角 度を示すことに意味があるのではないかと考え られる。溝の土をすくう鍬は、地面と柄の角度 がそのままフロと柄の角度を示すことになる。

したがって鍬の柄の先端を揃え、柄の長さの差 によって生ずる地面への打ちこみ角でその使用 形態を理解する方法を考慮する必要があるので はないかと思う。

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石川県の能登半島の北部では、 12月にアエノ コトと称する農耕儀礼が伝承されている。家の 主人が羽織袴姿で鍬をかたげて田に出向く。家 にほど近い田で一銀土をおこし、 EEiの神様を扇 子にいただくようにして家に招ぎ入れ、イロリ のヨコ座まで案内する。次いで風呂に案内する。

このとき、神様がいかにもお風呂を使っている ょうに「湯加減はいかがですか」と声をかけた りしている。次は床に祭埴をもうけ、この前に ならべられた供物の前に神を案内し、一品一品 それが何であるかを説明しながら神にすすめ る。この供物の両側に、先ほど使用したのと同 型の鍬が置かれている。その形が特長的であ る。

フロ鍬の板状部分の断面は三角形状になるが 能登と近畿地方で一般に使われているフロ鍬と は逆の形で使われている。使用する側から見る と手前が平板で、裏側に三角形の凸部がでつば っている。どちらでも同じことのようではある が、裏に出張りがあると、鍬を打ちこんだ際に この部分が強くあたって土地に打ちこみにくい はずである。手前に出張りのある場合は、手前 の足もとに土がくずれ落ちるので、使用上の不 都合は生じない。

同じことであれば使い勝手のよい道具である のがよいから、能登のフロ鰍の形式は典味深い。

農耕儀礼に使用する鍬であるが、かつては実用 で使用されていたものである。近畿各地の神社 で御田植祭を伝承する例が多いり神社によって は、古いフロ鍬を祭具として使用している。ま たそれが祭具専用となって伝承されている例も ある。大阪杭全神社で使用されている御田植祭 のフロ鍬もその一つである。この場合は、鉄の 刃がとり付けられておらず、フロの先端部を鉄 の刃のように黒く着色している。高野山丹生神 社の御田植祭用の鍬もほぼ同じである。これら

能登の鍬

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アエノコト 高野山丹生神社の御田植

は、現在使用されている祭具としてのフロ鍬が 近世の実物の姿を間接的に写したものと見るこ

とができる。いずれもフロの厚みは手前につく りだされているから、能登のフロ鍬とはその生 い立ちが分れてから長い期間があったように思 われる。使い勝手からみれば近畿地方で一般に 見るものが便利である。これが一般化したのも 使い勝手の便利さからであると考えられる。と すればこれから能登型のフロ鍬が考案されたと は考えにくい。この両者の形式を時代的に前後 関係に置いて考えることに問題があるかもしれ ないが、能登のフロ鍬がより古い形式を現在に 伝えたものと考えてみることがでぎないだろう かと思っている。

和歌山県下でいくつかのフロ鍬を見たが、い ずれも近畿地方各地で一般に見られるものと同 じであったが、板の部分の厚みを持たせる部分 で肉海に削りこまれ、三角形の断面のうち内側 になる部分を削りこんで、三角形の上部が鋭角 になる形になっていた。強度が保てればできる だけ削りこんで、フロ鍬をより使いやすく加工 した結果と考えられる。より工夫の施された鍬 が作られた地域ということになろう。

「延喜式神名帳」には、神社名に加えて鍬と か鋤と注記された社がある。これは中央より記 載の神社に対して農具が支給されたことを示し ている。この鍬がどのような形状であったか不 明であるが、畿内で製産された鍬が、画ー的に 各地に流布した契機となったと考えられる。こ うした流れのなかで能登地方の北部で現在も使 用されている鍬の形態には、興味深いものを感

じさせられる。

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