史料紹介 『女實語教寶箱』
著者 「女實語教寶箱」を読む会
雑誌名 関西大学博物館紀要
巻 21
ページ 103‑123
発行年 2015‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/11158
一〇三
史料紹介 ﹃女 實 語 教 寶 箱﹄
﹁女實語教寶箱﹂を読む会
はしがき ここに翻刻して紹介するのは︑教訓を主題とした江戸時代の女子用往
来︵手習い教本︶﹃女實語教宝箱﹄である︒
この書は︑大本︑二段組で︑下段に﹁女實語教﹂本文が
6行割・
10字
を標準として刻字され︑上段には﹁女堪忍記﹂が挿絵と共に載せられて
いる︒刊記はない︒
本文である﹁女實語教﹂は︑弘法大師作の﹃實語教﹄になぞらえたと
いう﹁女實語教﹂︵
1丁表〜
8丁裏︑四七ヶ条︶と︑安然和尚作の﹃童子
教﹄になぞらえたという﹁女童子教﹂︵
9丁表〜
30丁表︑一二八ヶ条︶か
ら成っており︑作者は︑女性の往来物作者として数々の作品を残した居 いそめ初
つな︵津奈・生没年不詳︶である︒﹁女實語教﹂は元禄八年︵一六九五
年︶の初刊の後
︑改編されて
︑江戸時代後期まで
﹃女實語教寶箱﹄
﹃女 おんなじつごきょうこがねぶくろ
實語教
䌓嚢﹄を初めとする様々な体裁の版が作られ出版された︒
頭書部分および巻頭
・巻末頁の
﹁女堪忍記﹂の記事は
︑﹃
女 おんなかんにんき
堪忍記 大 やまとぶみ倭文﹄︵長谷川妙躰書︑正徳三年・一七一三年初版︶から採られたもの
である︒﹁女實語教﹂と﹁女堪忍記﹂を併せることで︑﹃女實語教寶箱﹄
は女子のための教養・実用を兼ねた書となっている︒ この翻刻は最初︑関西大学大学院文学研究科の藪田貫教授ゼミで教授所蔵の本書をテキストに授業の一環として始まり︑その後院生の勉強会でこれを継続し︑関西大学非常勤講師吉川潤氏の助言を得ながら翻刻を進めた︒今回の史料紹介に当たっては﹃女實語教寶箱﹄全体の内容を知ることが重要と考え︑﹁女實語教﹂を下段に全文翻刻して載せ︑上段と巻
頭・巻末には︑一部抜粋した﹁女堪忍記﹂を図版入りで掲載した︒﹁女實
語教﹂の文頭には丁数を記した︒漢字・ルビはできるだけ原文通りとし
たが︑読点・並列点の補足や改行は適宜行った︒意味の取りにくい語に
ついては傍線をつけ︑︵ ︶内に語を補うか文末に註を付けた︒註は︑広
辞苑と日本国語大辞典に依った︒酒田市立光丘文庫がほぼ同本と思われ
る版本を所蔵し︑国文学研究資料館のデータベース上で公開しているの
で︑適宜この画像を参照させていただいた︒
﹁ ﹃ 女
實
語 教
寶
箱 ﹄
を
読 む
会 ﹂
の メ
ン バ
ー
は ︑
仲 田
侑 加
・ 山
本 久
美 子
︵ 以
上︑関西大学大学院博士課程前期課程在籍︶︑古林小百合・水上哲治・安
藤久子︵以上︑関西大学大学院博士課程前期課程修了︶の五名である︒末
筆ながらご指導頂いた藪田教授と吉川講師に心よりお礼申し上げます︒
参考文献 小泉吉永編﹃女筆手本解題﹄︵青裳堂書店︑一九九八年︶
一〇四
秋
あきの野七
しちしゆ種
萩
はぎ 和名 しかなぐさ︑唐名 天 てんちく竺花 くわ︑万葉 芽 ハき子咲ましる のへのあき風吹ミたし おきなか袖も はきか花すり
葛
くず花
はな 唐名 葛 くつ露なから いろかはるより秋風の ふくをうらむる のへのくすはら
女
をミなへし郎花
唐名 敗 はいしやう醤 なひくとや 人は見るらん女郎花 思ふかたにそ かせもふきける
撫
なでしこ子
和名 とこなつ︑唐名 瞿 くばく麦やまかつの かぎほなりとも をり〳〵は あはれをかける なてしこの花
( 題 簽 )
此 このほん書は︑弘 こうはふ法大 たいし師御 おんさく作の實 じつごきょう語教︑安 あんねん然和 わうしやう尚の著 あらはす述童 とうしきやう子教と︑
二 にほん本に准 なぞらへ作れるなり︑女 によし童の教 をしへ艸随 ずいいち一の文 ふミなり 朝 あさゆふ夕にこの書 ほんを讀 よミ給ふならば︑仁 じん義 ぎ礼 れい智 ち信 しんの道 ミちを心 こゝろえ得︑
必 かならず貞 ていれつ烈賢 けんぢよ女と后 のちの代 よ迠 までも仰 あほがれ人 ひとの鑑 かゞミとも成給ふになむ
板元敬白
一〇五
小
をのゝ野小
こまち町
小町ハ出 ては羽の郡 くんし司小野吉 よしさね實か女 むすめにて︑仁 にん明 めう天皇承 せうわ和のころの人なり︑数 す
十年在 さい京して好 こうしよく色の名 なあり︑歌ハ衣 そとほり通姫 ひめの流 りうなり︑扁 へん昭 せう・業 なりひら平・安 あへの倍清 きよ
行 ゆき・文 ふんや屋康 やすひて秀なと歌よみかハせしなり︑後 こせんしう撰集にいそのかミといふ寺 てらに
まうでゝ日のくれにけれは︑夜明てまかりかへらんとて︑とゝまりて︑
此寺に扁 へん昭 せう侍ると人の告 つけけれは︑ことのいゝこゝろミんとていひ侍りけ
る 〽岩のうへに旅ねをすれはいとさむし 苔 こけの衣をわれにかさなん
返し 扁昭
〽世をそむく苔の衣ハたゞ一重 かさねはうとし いさふたりねん 又玉つくり小町といふハ別 へつにん人のことなるへし︑能 のういん因の説 せつに屍 かバね八 やそしま十嶋にあ
りといへり︑なり平︑小町のどくろにすゝきおひ出たるが︑秋風のふく
につけねてもあなめ〳〵といひけるに︑おのとハいはじすゝきおひけり
とつけ給ひけるよし見たり︑世に七小町といふこと侍り︑此ことたしか
ならす︑あるひハ観 くわんをん音の化 けしん身といへり
一〇六
女
をんなじつごきやう實語教
︵
1オ︶
一︑品
しな勝
すぐれれたるが故
ゆへに貴
たつとからず︑心
こゝろ正
たゞしきを以
もつてよしとす
一︑容
かたち姝
うるはしきが故
ゆえに貴
たつとからず︑才
さいあるをもつてよしとす
︵
1ウ︶
一︑富
とミハ是
これいける内
うちのたから︑身
ミまかる時
ときハ 則
すなハち退
しりそく
一︑智
ちゑ恵ハこれ万
ばんだい代の宝
たから︑命
いのちおは終る時
とき魂
たましゐに従
したがふ
一︑心
こゝろを慎
つゝしまざれバ義
ぎなし︑義
ぎなきハ畜
ちくるい類に等
ひとし
︵
2オ︶
一︑勤
つとめ学
まなバされば才なし︑才
さいなきは草
くさ木に等
ひとし
一︑眉
み目
めかたちハ衰
おとふれ共
ども︑貞
ていぢよ女の名
なハ朽
くつることなし
一︑幾
いくばくの金
こがねを積
つむといへ共︑心
こゝろの直
すぐなるにハしかず
︵
2ウ︶
一︑同
はらから胞つねにあはず︑ 䭬
あひよめ娌を姉
おとゝい妹のごとくすべし
一︑かたちを色
いろどることなく︑こゝろざしを慎
つゝしむべし
一︑姿
すがたは日
ひゞ々ニかじけ︑たましゐハ年
とし々
〳〵に衰
おとろふ
䭬娌︵あいよめ︶⁝相嫁︑兄弟の妻どうし︒
かじけ︵悴 かじける︶⁝やつれる︑生気を失う︑やせ衰える︒
一〇七
孝
こうふ婦米
こめ袋
ふくろを得る
もろこし常 しやう刕 しうの東 とうかう窩村 そんといふ所に元 けんせきふ石夫といふものあり︑母一人をもつ︑としおひ両 りよう眼 かんしいたり︑此よめ姑によくつかふることたくひなし︑ある
時飯 いゝを炊 かしきておきて︑おつとをよびにゆくるすに︑しうとめ︑飯をうつさ
んとて手にあたるうつハ物にめしをうつしをくを︑よめかハりてみれは︑
子共の大小便 へんをとる物に食をうつしたりけれ共︑よめ何ともいはす又炊 かしき
なをすへきこともならす︑その飯のまん中のよき所をしうとめにまいら
せ︑次 つきをおつとにあたへ︑きたなき所をミづからくひてけり︑ときに門
のまへに物のおちたる音す︑よめおどろきてミれは︑ふくろ也︑中に米
三︑四升ほと入てあり︑姑これをさぐりけるに︑両眼 かんたちまちにひらき
たり︑さて此米をあしたと
る に
︑ 夕 ハ も と の ご と く つ ︿尽くる︶くることなく︑ついにう
とくの身と成けると也 ︵
3オ︶
一︑ 幼
いとけなきとき時
手 習
ならふことをせざれば︑年闌
たけて悔
くやめどもかひなし
一︑ 故
かるがゆへに物習
ならふに飽
あくことなかれ︑ぬひ針
はりに怠
おこたること勿
なかれ 一︑眠
ねむりを除
のぞて讀
よミかき書を学
まなべ︑飢
うゑを忍
しのんで績
うミつむき綜を習
ならへ
︵
3ウ︶
一︑姑
しうとめにあひて業
なりハひを学
まなばざれは︑家
いへを修
をさめ持
たもつことかたし
一︑夫
おつとに従
したかふといへ共 勤
つとめ疎
をろそかなれバ︑身
ミをたつることあたハず
一︑姑
しうとめはよめを愛し︑嫁
よめは舅
しうと姑
しうとめをうやまへ
︵
4オ︶
一︑冨
とめる家
いへにとつぐといふ共︑奢
をごりたかぶこと勿
なかれ
一︑貧
まつしき人
ひとの妻
つまとなる共︑夫
をつとを恨
うらミ罵
のゝしるべからず
一︑父
ちゝはゝ母は天
てんち地のごとし︑舅
しうと姑
〳〵めハ日
じつけつ月の如
ことし
績 うむ⁝麻・苧 からむしなどを細く裂き︑長くつないでより合わせる
一〇八
宋
そう鮑
はう蘇
そか妻
つまちよそう女宗
もろこし宋 そうの鮑 はうそ蘇といふ人︑衛 ゑいの国に行きて︑つかへてミとせの間かへ
らす︑衛 ゑいの国にてこと妻のむかふ︑宋 そうの妻は此ことを聞といへとも少も
うらミす︑姑をやしなひてます〳〵孝をつくし︑たよりをもとめて衛 ゑいの
国の妻のかたへさま〳〵物をゝ ︵送る︶くる︑宋 そうの妻のあね︑此ことをきゝて︑は
やく家をのきて帰るへしといゝけれは︑妻こたへていふやうハ︑女の道
ハ二たひ心をあらためす︑夫 をつとしすれともかさねて人にゆかず︑織 をり績 つむきをし︑
姑につかへて︑をこたる心なくたゞ一筋 すちなるを貞 ていといふ︑よくしたかふ
てわたくしなきを順 しゆんといふ︑天 てんし子に十二人・国 くにたいめう大名に九人・さふらひに
二人のつまあり︑女に七ツのさらるゝことあり︑おつとをさるのことな
し︑みづからがあねな
くは︑おつとの家をま
もり道をおしへ給ふへ
きにとて︑ます〳〵し
うとめにつかへけり
︑
宋のミ ︵帝︶かときこしめし
て
︑ 大にかんじ給ひ
︑
女 ちよそう宗とて女のつかさと
いふ名をそ給はりける ︵
4ウ︶
一︑夫
をつとは主君
くんのごとし︑妻
つまハ従
じうしや者のごとし
一︑父
ちゝはゝ母にハ朝
あさゆふ夕に孝
かうを尽
つくし︑ 舅
しうとしうとめ姑 に
は 日
にちや夜に 事
つかふまつれ
一︑夫
ふうふ婦争
あらそひ嗔
いかること勿れ︑理をまげて夫
をつとに従
したがへ
︵
5オ︶
一︑嫂
あによめにハうやまひを致
いたし︑弟
をとゝよめ娌には愛
あいをあつくせよ
一︑女
をんなとして愛
あいきやう敬あらざるハ︑岩
いハもく木の情
こゝろなきに異
ことならず
一︑嫁
よめとして孝
かうの心
こゝろなきハ︑鳥
とりけだもの獣に異
ことならず
︵
5ウ︶
一︑三
ミつの教
をしへを守
まもり慎
つゝしままずんば︑なんぞ五
いつゝの障
さハりを免
まぬがれん
一︑四
し恩
おんを報
はうずる心
こゝろなくんば︑誰
たれか八
はつく苦の身
ミを保
たもたん
一︑女
をんなは地
ぢごく獄のつかひ也︑よく仏
ほとけの種
たね子をたつ
三の教⁝ 三従の道︒女性が従うべき三つの道︒
家にあっては父に︑嫁しては夫に︑老いては子に従う︒
五の障⁝ 五障︒女人が持つ五種の障 しょうげ礙︵障害︶︒ すなわち梵天王・帝釈天・魔王・転輪聖王・仏身となりえないこと︒
四恩⁝ 衆生がこの世で受ける四種の恩︒心地観経では父母・国王・衆生・三宝︒
八苦⁝人生上の八種の苦難︵四苦八苦︶︒人生の苦の総称︒
生・老・病・死の四苦に愛 あい別 べつり離・怨 おんぞうえ憎会・求 ぐ不 ふとく得・五 ご陰 おん盛 じょうを加えたもの︒
一〇九
妾
てかけの子を狗
いぬとなしてうくるむくい
もろこし唐 とうの歙 かやう懸 けんといふ所に︑他 た国にかよふあき人ありて︑二︑三年も
かへらさることあり︑妾 てかけをゝ ︵置きて︶きて子をまうけたり︑妻ハてかけの子をに
くミて︑夫他国へ行きたる跡にて︑其子を庭 にハの土のうへにおひをろし︑
くひものをもなげてくらわせ︑名 なを狗 ゑのこ児と付てよぶ︑妾 てかけかなしミてたき
あくれは︑うちおとす︑その子三歳 さいなれとも立あがらず︑はらばひて食
をくふさま狗 いぬのことし︑おつとかへりければ︑妻 つま︑子のありさまをかた
る︑おつときゝてためしミるに︑いふかことし︑おつといかりて︑その
子をふミころす︑妾ハおそれま ︵惑い︶とひ︑くびくゝりて死せり︑いくほども
なく︑その妻にはかに狂 きやうらんし︑地にたふれて腰 こしぬけて立もあからす︑
たゞ狗のありさま也︒おつ
と︑是ハいかなる因 いんくハ果とか
なしミけれは︑となりの人︑
日ころのありさまをかたり
けれは︑はしめてむくひの
ほとをしりぬ︑妻も七日め
に死せり ︵
6オ︶
一︑面
おもてはぼさつに似
にたれども︑心
こゝろは夜
やしや叉なりと説
とく
一︑姑
しうとめを敬
うやまふハ母
はゝのごとく︑継
まゝこ子は子
この如
ごとく愛せよ
一︑夫
をつとを恭
したひ
事
つかふまつれば︑夫
をつとまた妻
つまを愍
あハれむ
︵
6ウ︶
一︑己
おのれをつと夫の親
おやを敬
うやまへば︑夫
をつとまた己
おのれが親
おやを敬
うやまふ
一︑わが身
ミを錺
かざりお
︵奢︶こらんより︑まづ夫
をつとの衣
ころもをす
︵濯け︶け
一︑他
たの妻
つまの邪
よこしまなるを見て︑みづから慎ミ嗜
たしなべし
︵
7オ︶
一︑他
たの夫
をつとの正
たゞしきを見てハ︑ひそかに夫
をつとを諌
いさむべし
一︑善
よきこと事を見
ミてハ速
すミやかに進
すゝめ︑悪
あしきこと事を聞
きいてハ吾
わか身
ミを慎
つゝしめ
一︑情
なさけふかき人
ひとは福
さいはひを蒙
かうふる︑こゑに木
こたま魂の答
こたふるがごとし
一一〇
漢
かんの鮑
はうせん宣か妻
つまの賢
けん漢 かんの鮑 はうせん宣がつまハ︑桓 くわん氏 しかむすめなり︑はじめて其家にきたりけるとき
ハ︑その衣ふくきらびやかきにして︑うつくしう出たちたり︑鮑宣すこ
しもよろこふ色なく︑物もいはず︑つまその心をしりて︑めしつれきた
る女をミなわ ︵我が親︶かおやのもとへかへし︑ミづから身のかざりうるハしき衣 い
ふくをぬぎすて︑すそみしかき袖せはきものを着 ちやくして鮑宣とゝもにいと
なミ︑水をくミ飯をかしきて︑おつとをうやまふこと君につかふるがこ
とくにせり︑これよりその者天下にきこえて︑ともにたかき官にあづか
りけり︑さのミに︑おつとをせ ︵虐げ︶たけ︑そらうたがひして︑物ねたミふか
くこゑたかく口こたへして︑我かおつとをあなどりかろしむる︑是すで
におつとにうとまるへきもと
ゐなり ︵
7ウ︶
一︑妬
ねたミふかき人
ひとは禍
わざハひを招
まねく︑身
ミにかげのはなれざるがごとし
一︑富
とめるといふとも貧
まづしきを忘
わすれず︑賤しき人を謾
あなどるべからす
一︑或
あるひは始
はじめハ栄
さかへ終
をハりおとろへ︑又
またハ
は先
さきに貴
たつとく後
のち賤
いやしきあり
︵
8オ︶
一︑夫
それ習
ならひ勤
つとむべきハ︑讀
よミかき書う
︵績み︶み
紡
つむぎ縫
ぬひはり針の業
わさ一︑又学
まなび心得
うべきは︑敷
しきしま絲
いとたけの道
一︑但
たゞし品に従
したがひ法
はふあり︑また身
ミに応
おうじて程
ほどあり
︵
8ウ︶
一︑いとけなきときハ父
ちゝはゝ母に従
したがひて教
をしへをうけ
一︑嫁
よめいりては夫
をつとにしたがひ︑老
おひては子に従
したがふべし
一︑これ女
をんなの三
さんしゆう従なり︑身
ミを終
をわるまで忘
わするる事
こと勿れ
敷しま⁝﹁敷島の道﹂の略︒和歌の道・歌道︒
絲たけ︵糸竹︶⁝楽器の総称︒糸は琴・三味線などの弦楽器︒
竹は笛・笙などの管楽器をいう︒糸竹の道⁝音楽の道︒
一一一
ねたまずして歌よむにかんず
むかしある男︑そのつまに心さしうすらき︑めつらしき女をよひいれて︑
あさからすち ︵契り︶きりけり︑此妻いさゝかも心にかけず︑うらミたるけしき
もなく︑日かずふるまゝに︑秋乃夜のながきにいとゝねられもせす︑とも
しびをかゝけ︑かたぶき給けるに︑折ふし鹿の音 こゑかすかにきこえければ
〽われもしかなきてそ人に恋られし
いまころによそにこゑをきけども
とし ︵忍び声︶のひこゑに詠しけるを︑かのおとこ聞てかきりなくあはれにおほへ
て︑今の女をハい ︵出だし︶たしやりて︑もとの妻に二心なくして過にけり︑〽そ
れ世の妾 てかけハおつとをたふろかし︑なくさめ︑身をたしなミ︑かほかたち
をつくろひ︑心をうばへ
とも︑そと心ハまことす
くなけれは︑家にあるつ
まのまことあるにハ︑つ
ゐに心ひるがへるへし
︑
それをまたで︑かんにん
心なく︑いひのゝしるハ︑
ながく思ひすてらるゝこ
とそかし ︵
9オ︶
一︑夫上つかたの御
ごせん前には︑起
たちい居を恭
うや〳〵しうせよ
一︑途
とちう中におひてハ慎
つゝしんんて礼
れいを為
なし︑仰
おほせ事
ことハ敬
うやまひて聞
きけ
一︑手
てをつきしとやかに向
むかかひ︑そゝろに外
ほかを見
ミるべからず
︵
9ウ︶
一︑問
とひたまハずば答
こたへざれ︑宣
のたまふ事
ことハつゝしミて聞
きけ
一︑三
さんぼう寶にハ三
ミたび礼
れいをなし︑神
しんめい明をば再
ふたゝび拝
はいすべし
一︑御
みさゝき陵を過
すぐるときハ恐
おそれつゝし慎ミ︑屋しろを過
すぐる時
ときハ深
ふかく敬
うやまへ
︵
10オ︶
一︑宮
ミやてら寺に詣
まうづるときは︑けがらはしきを慎
つゝしむべし
一︑内
うちと外の書
ふミをあつかふに︑おろそかにいたすべからず
一︑客人はよくあひしらひ︑夫
をつとにはよく 事
つかふまつるべし
三宝⁝仏教で信仰の対象となるもの︒仏・法・僧の三つ︒
神明⁝神︒神祇︵天神と地神︑天つ神と国つ神︑かみがみ︶︒
一一二
やまとの国弥太郎が妻物語
中ころ︑ならに︑ミめよきむすめあり︑三条いづミや平六といふ者︑ぬ
すミとりてつまとしけり︑二とせすきて︑平六は ︵患い︶つらひて︑いまはの時
つまをよびて︑われハはやし ︵死ぬ︶ぬへし︑思ひのこすことハ︑我むなしくな
るとも︑二たびおつとをもち給ふな︑此やくそくたがへ給ハゝうらむべ
しといふ︑つまかミをきりてちかひしかば︑よろこひてしゝぬ︑一周 しうき忌
も過て︑こほり山のさかいや弥太郎といふ者︑親にいゝて︑もらふ︑女
もぜひなく行しに︑平六三年忌 きにあたりけるころ︑弥太郎ハ河内国にゆ
きける跡にて︑夕たちしたるゆふくれ︑いなびかりのうちに︑平六あり
〳〵と見えけれは︑女ハきもをけし︑うつふしにたふれけるを︑何かハ
しらす首のほとりにく
らひつくこと恐々て
︑
くひちぎりたるあとあ
り︑百日ばかりなやミ
い ︵癒え︶ゑたり︑さきのおつ
とのし ︵執心︶うしんなり︑此
こと弥太郎妻みつから
袋 たいちうちようろう中長老へさんず物か
たりしけるとなり ︵
10ウ︶
一︑婦
ふじん人礼
れいを正
たゞしうすれバ︑舅
しうと〳〵め姑にも義
ぎあり
一︑嫁
よめとして礼
れいぎ義なけれバ︑名
なをくだす事あり
一︑他
よそに往
ゆきて徒
あだこと言いはず︑事
こと調
ととのひたらば帰
かへるべし
︵
11オ︶
一︑何
なににふれても友
ともに違
たがハず︑いかり恨ミて中
なかあしく悪すべからず
一︑言
ことば葉多
おほき女
をんなハ品
しなすくな少し︑遊
ゆふちよ女の諂
へつらひ淫
たハむるゝごとし
一︑懈
おこたる女
をんなは酒
さけをこのむ︑淫
うかれめ女の客
まろうどになるごとし
︵
11ウ︶
一︑あだしき女は危
あやふきこと事あり︑いさきよく貞
ていちよ女の道
ミちを守
まもるべし
一︑鈍
にぶき女
をんなハ家
いへを治
おさめがたし︑すみやかに勤
つとめ営
いとなむべし
一︑詞
ことばは梱
しきミより出
いだすべからず︑密
ひそかにしても譏
そしること勿
なかれ
あだしき︵徒しき・空しき︶⁝空しい︑実がない︒徒 あだし女⁝情婦︒浮気な女︒
梱⁝ しきみ︵余・こん︶︒とじきみ︒門の中央に立てるくい︒門の内側のしき
り︒
一一三
諸
しよし寺 略
りやく縁
えんき起 和
わしう州長
はせてら谷寺
長 はせてら谷寺ハ昔 むかし洪 こうすい水ありて︑近 きん刕 わう高 たかしま嶋郡 こほり三 ミを尾の崎 さきよりながれ出る木 きあり︑
そのいたる所災 わざハいあり︑和 わしう刕の葛 かつしも下の郡 こほり
︑出 いつも
雲の大 たいまん満といふ者︑木のこと
をきゝ︑霊 れいさい材ならんことを思ふて願 くわんを発 をこし︑十一面の像 そうを刻 きさまんとほっす
れ共︑大木なれは︑たやくす動かすへからすと思ひ︑こゝろミに縄 なわをか
けここれをひく︑かろきこと
いふはかりなし︑しかもいく
ばくならす大 たいまん満せんげし給ふ
によつて︑はせの川 かいかみ上にすた
りて︑としをふること百年に
およへり︑沙 しゃ弥 み徳 とくれん連といふ者︑
養 やうろう老四年にうつしをく仏を刻
んとすれとも︑力なし︑時に
藤原の房 ふさゝき前︑勅 ちよくを奉 ほうして米を
あたへて︑その料 りうとす︑神 しんき亀
四年に仏 ふつそう像なれり︑行 きやうき基僧 そうせう正
の開 かいけん眼也︑いまに霊 れいけん験あらた
にして︑もろこしまでも聞へ
たりと也 ︵
12オ︶
一︑身
ミは住
すむべき所
ところにありて家
いへわざ業を暫
しハらも怠
をこたることなかれ
一︑男
おとこハ三
さん徳
とくを治
をさめて迷
まよふことなく︑愁
うれふる事
ことなく恐るゝことなし
一︑女
をんなハ三の従
したかひありて五
いつのさハり障の罪
つミことにふかし
︵
12ウ︶
一︑物
ものいふときハ静
しつかにいひて︑唇
くちひるをひらき顕
あらハすべからず
一︑ 悦
よろこバしきことにもいたく笑
わらハず︑ はら立
たつにも甚
はなハゞしく怒
いかるべからず
一︑一
ひとたび度ことばを過しては︑世
よの譏
そしり舌
したをかへさず
︵
13オ︶
一︑白
はくけい珪は人を褒
ほめて冨
とミ︑離
りけい珪ハ人
ひとを謗
そしりて悔
くひ有
一︑禍
わさハひと福
さいはひにハ門
かどなし︑ただ人
ひとの招
まねくにあり
一︑天
てんの災
わざハひハ免
まぬがるゝ事有︑自
ミづからの災
わざハひは遁
のがれがたし
三徳⁝ 三つの徳目︒﹇中庸﹈智・仁・勇︒﹇書経﹈正直・剛克・柔克︒
﹇周礼﹈至徳・敏徳・孝徳︒︹大戴礼︵四代︶︺天徳・地徳・人徳
一一四
南
なんと都興
こうふくじ福寺
興福寺ハ和 わ銅 とう三年︑藤 ふちハらの原不 ふひとう比等︑和 わしう刕平 へいしやう城においてこれをたつ︑大 たいてん殿の像ハ大 だい織 しよく冠 くわんの造る所也︑はじめ皇 くわう極 きょく天皇の御時︑蘇 そか我入 いるか鹿︑山 やま背 しろ王 わうじ子
の弟を弑 ころすの後︑奢 おこり侈は ︵甚だ︶なはたし︑中の大 をゝえ兄王 おうし子と鎌 かまたり足これをうれひて︑
軽 かるおうし王子と帝 ていと共に入 いるか鹿を誅 ちうすんと欲 ほつす︑鎌 かまたり足大願 くわんを発 をこして丈 てうろくのしやか六釈迦の像 そう
をつくらん思ふ︑つゐに入 いるか鹿
を宮 きうちう中に刺 さしころす︑これより
藤 ふちハら原氏 うち繁 はんしやう昌し給ふ︑こゝにお
いて寺をいとなミ仏像を安し
給ふハ︑鎌足の御意 こころなり︑弘
仁四年諫
かんぎ議大
たいふ夫・藤 とう
の冬
ふゆつく嗣︑
寺において南 なんえんとう円堂をたて荘 そう厳 ごん
美 びをつくし︑四天王等の像を
安 あんし給ふ︑此時藤原の家やゝ
すいびするゆへに︑南 なんえんとう円堂を
構 つくり給ふ︑それより富 とみ栄 さかへ給ふ
となり ︵
13ウ︶
一︑それ善
ぜんを行
おこなふ家
いへには︑よろこばしきこと餘
あまりあり
一︑又悪
あくを作
なせる處
ところには︑わざハひ猶
なをあまりあり
一︑人
ひととして陰
いんとく徳を行へバ︑かならず陽
やうの報
むくひあり
︵
14オ︶
一︑夫
をつととしてハ外をつとめ︑女
をんなは内
うちの営
つとめをすべし
一︑信
まことある人のかどには︑災
わさハひの雲
くもおこらず
一︑慈
じひ悲深
ふかき人の家
いへにハ︑幸の月
つきほがらかなり
︵
14ウ︶
一︑心
こゝろの等
ひとしからざるハ面
おもての如
ことし︑水
ミづの
器
うつハものにしたかふがごとし
一︑他
よその男
をとこを褒
ほむること勿
なかれ︑他
ひとの女をそしらざれ
一︑姑
しうとめのこゝろバせを見て︑よめのいましめとせよ
︵
15オ︶
一︑嫂
あによめのおとなしきを︑弟
をとうとよめの師
しとすべし
一︑善
ぜんしん心つもりて幸
さいハひを蒙
かうふり︑悪
あくねん念極
きハめて災
わざハひおほ多し
一︑善
ぜんにん人は死
しゝて誉
ほまれを残
のこし︑悪
あくにん人ハ死
しして譏
そしりを残
のこす
一一五
祝
しうげん言ニ遣す文
御祝 しうけん言し ︵首尾︶ゆひよく御とゝのひ︑千 せんしう秋万 ばんぜい歳めてたくそんしまいらせ候︑御
二かた様︑さそ〳〵うれしく思しめし候ハんと︑をしはかりまいらせ候︑
御祝 しう義 ぎのしるしまてに︑御樽 たるさかな進 しんしまいらせ候︑幾 いくひさ久しくいわいま
いらせ候︑めてたくかしく
結
ゆひいれ入の方へ遣文
一筆申上まいらせ候
そもし様御縁 えん
組 くみ御きまり候て
御しるしまて
首 しゆび尾よく御すませ
られ候よします〳〵
めてたくそんし
まいらせ候そ ︵粗相︶さうに
御さ候へともきぬ
二たんいわいにて
し ︵進じ︶んしまいらせ候
御祝 しうぎ義の印 しるしまてニ候
めてたくかしく ︵
15ウ︶
一︑貴
きにん人の妻
つまとなるとも︑孀
やもめをあなとる事
ことなか勿れ
一︑よき人をもあ
︵露わ︶らはに誉
ほめざれ︑よからぬ人ねたミを含
ふくむ
一︑家
いへに入
いつてハ作
さはふ法をとへ︑夫
をつとにあふては心
こゝろばせをとへ
︵
16オ︶
一︑舅
しうとに逢
あふてハ舅
しうとに従
したがひ︑姑
しうとめにあひては姑
しうとめにしたがへ
一︑親
しんるい類に行
ゆきてハ子
ことも供を問
とへ︑愛
あいきやう敬あらんがためなり
一︑女
をんなは三
さんがい界に家
いへなし︑夫
をつとの家
いへを家
いへとするなり
︵
16ウ︶
一︑愚
おろかにして 慮
おもんばかりなくんば︑必
かならず近
ちかき愁
うれひあるべし
一︑管
くだを用
もつて天
てんを窺
うかゞふがごとく︑針
はりを用
もつて地
ちを刺
さすに等
ひとし
一︑神
かミは悪
あくにん人を罰
はつし給ふ︑苦
くるしむるに非
あらず 懲
こらさしめんがため也
︵
17オ︶
一︑師
ししやう匠弟子
しを戒
いましむること︑悪
にくむに非
あらず直
なほからしめんと也
一︑生
うまれなからにして知
しるもの者なし︑習
ならひ勤
つとめて心
こゝろをつゝしめ
一︑貴
たつとき女
をんなハおとなしやか也︑賤
いやしき女
をんなはをごる 心
こゝろはなハだ甚
し
一一六
誕
たんじやう生のかたへの文
やす〳〵と御平 へいさ ︵産︶んあそはし︑ことに御若 わこ子様ニて︑御二 ふたかた方様ともに御
そくもしのよし︑かす〳〵御めてたくそんしまいらせ候︑御悦 よろこひのしる
しまてに産 うぶぎ衣一重 かさね進 しんじやう上いたしまいらせ候︑かす〳〵いわいまいらせ候︑
めてたくかしく
髪
かみ置
おき祝
いわひの文
ふミ御そくもし様︑御髪 ぐし置 おき遊 あそはしてのよし︑めてたくそんしまいらせ候︑御
いわいのしるしに︑しら髪 が綿 わた并末 すへひろ廣しんしまいらせ候︑御そく才にて雪 ゆき
を御いたゝき︑すへひろく御繁 はんじやう
昌
遊 あそ
ハし候やうにとの︑心はかりに御入
候︑めてたくかしく
宮
ミや参りの文
御若 わもし様︑御みやまいりあそはされ︑こなたまて御祝 いわい下され︑かたし
けなく︑いわい入まいらせ候︑まことに御成 せいじん人のほどねかひまいらせ候︑
後ほと参︑おめもし様に御礼 れい申上候べく候︑幾 いく千 ちよ代の御よろこひと︑め
てたくかしく
髪置祝い⁝ 幼児が頭髪を初めてのばす儀式︒すが糸で作った白髪をかぶせ︑頂に
おしろいをつけて祝う︒近世︑公家は二才︑武家三才︑あるいは男子
三才・女子二才︑庶民は男女三才の時︑多く陰暦十一月十五日に行っ
た︒かみたて︒櫛置き︒ ︵
17ウ︶
一︑富
とむといふとも 貧
まつしきこゝろおほき心 多 は︑貧人に劣
おとるべし
一︑貧
まづしといふとも 楽
たのしむ心
こゝろあらば︑冨
とめる人
ひとにまさるべし
一︑邪
よこしまなる女
をんなをめとれば︑家
いへを亡
うしなふに遠
とをからず
︵
18オ︶
一︑よろしき女
をんなをめとれば︑富
とミさかふるにほどなし
一︑夫
をつとに従
したがはさる女
をんなをば︑早
はやく里
さとへ帰
かへすべし
一︑和
やはらがざる女
をんなを宥
なためんとすれバ︑仇
あだを生
しやうじて罵
のゝしることあり
︵
18ウ︶
一︑心
こゝろにまかせて頑
かたくななるハ︑野
のら等猫
ねこの人
ひとに順
したがハざるがごとし
一︑心
こゝろをつゝしミて和
やハらかなるハ︑飼
かい鳥
とりの人
ひとになるゝがごとし
一︑善
ぜんにん人に従
したがひて直
すなほなるハ︑麻
あさの中
なかの蓬
よもぎのごとし
︵
19オ︶
一︑悪
あしき人にしたしみて曲
まがれるハ︑薮
やぶの中
なかのいばらのごとし
一︑親
おやにかたり姑
しうとめに付
ついても︑績
うミつむき縫
ぬいはり針を習
ならへ
一︑生
うまれつき愚
おろかなりといふ共
とも︑習
ならはゞ自
おのづから手
て利
きゝとならん
一一七
伊
いせ勢参
まいりの方への文
御参 さんぐう宮遊 あそハされし道 みちすから︑御息 そくさい災ニて御下 げかう向なされ︑めてたく存まい
らせ候︑殊 ことニかす〳〵御みやけ送 おくり下され︑かたしけなく存まいらせ候︑
御苦 くらう労ニ思 おぼし召 めし候ハんづれとも︑御さしあひも御さなく候ハゝ︑明 みやうにち日
さ ︵坂迎い︶かむかひ致 いたし参 まいらせたく候︑御慰 なぐさミなから御出 いでまち入まいらせ候︑めて
たくかしく
とふらひの文
誰 たれ様︑御いたハり御へ ︵平癒︶いゆふなく御過 すぎあそバ遊され候よし︑驚 おとろきまいらせ候︑わ
けて︑そもしさま御なけきおしはかり︑御いとをしくそんしまいらせ候︑
さりながら世のならひニて御さ候へは︑御なけきを御やめなされ候て︑
よく〳〵御とふらひあそばされまいらせ候
湯
たうぢ治見まひの文
有 ありま馬へ御湯 たうぢ治あそばされ︑湯 ゆも御相 そうをう応なされ候よし︑めでたくそんしま
いらせ候︑めつらしからず候へとも哥 かちん賃百︑肴 さかな三し ︵種︶ゆおくり進 しんしまいら
せ候︑いよ〳〵御本 ほんぶく復と悦 よろこひ申候御事ニて︑なをあかりの時 とき︑くハしく申
まいらせ候︑めでたくかしく
坂迎へ・境迎へ⁝遠い旅から帰る者を村境に出迎えて酒宴をすること︒酒迎︒
哥 かちん賃︵かちん︶⁝女房詞︒搗飯︵カチイイ︶から︑餅 ︵
19ウ︶
一︑一
いちにち日に一
ひとはり針ならへば︑三
さんびやくろくじう百六十はり
一︑ひと針
はりは綻
ほころびをおぎなひ︑一
いつたん端仕
したつれ立ハ虜
はたへを隠
かくす
一︑ひと色
いろの師
しをも疎
おろそかにせざれ︑況
いハんやよろつの習へるをや
︵
20オ︶
一︑趙
ちやう孝
かう婦
ふは︑姑
しうとめのために子
こを賣
うつて棺
ひつきを調
とゝのふ
一︑京
けい伯
はくの母
はゝさいし催氏は︑子
このために九
きうきやう経を教
をしゆ 一︑朝
あしたには早
はやく起
おきて髪
かミを削
けづり︑舅
しうと〳〵め姑につかふまつれ
︵
20ウ︶
一︑夕
ゆうべにハおそく寝
いねて身
ミを治
をさめ︑心
こゝろの正
たゝしからん事
ことを願
ねがふべし
一︑所
しょ帯
たいを麁
そ末
まつにするハ︑酔
ゑひふし伏て本
ほんしん心を失
うしなふがごとし
一︑義
ぎり理をかき禮
れいを背
そむくハ︑よろづの畜
ちくるい類に等
ひとし
一一八
女
ちよちう中文
ふミの封
ふうじやう様の事
消 せうそく息・腰 こし文・立 たて文ともに二枚に書へし︑日付の判 はん形 ぎやうあるべからす︑
立文ハ二枚なるゆへに畧 りやくして一枚を二ツに折て用るなり︑らいしあるべ
からず︑奥 おくを四五折ふかく折かへすべし
上々⁝上 ︵まい︶る人々申給へ︑
上中⁝申給へ︑
中⁝⁝人々申給へ
下⁝⁝上 ︵まい︶る︑
下々⁝まいらせ候
右脇付の詞上中下の品
腰文⁝ 書状の上包の端を縦に細く切り︑これを巻いて帯封とし︑先を挟んでその
上に墨で封じ目をつけたもの︒
立文・竪文⁝ 書状を礼紙で巻き︑更に白紙で縦に包み︑包紙の上下を筋違いに左
右に折り︑これを更に裏の方に織り込む︒ひねりぶみ︒
礼紙︵らいし︶⁝ 他人に送る書状などを巻き包む上包みの紙 ︵
21オ︶
一︑女
をんなの酒
さけに酔
ゑひたるハ見
みぐるし苦し︑食
しよくに飽
あきぬるもはしたなし
一︑心
こゝろを慎
つゝしまざれバ眠
ねふりを生
しやうず︑身
ミ安
やすけれバおこりを好
このむ
一︑恭
きやうこう公の后
きさき伯
はく姫
きハ︑節
せつぎ義を守りて焼
やけうせ失たまひぬ
︵
21ウ︶
一︑鄭
ていハ行 義乱 さずして︑終 に夫 人の位 に昇 給ふ
むぎやうぎミたついぶじんくらゐのほり一︑聞
ぶん氏
しの女
むすめハ孝
かうの 志
こゝろざし深
ふかく︑姑
しうとめの両
りやうかん眼をねぶりて治
ちす
一︑張
ちゃう氏
しが妻
つまハ若
わかうして孀
やもめと成
なり︑貧
まづしく営
いとなミて姑
しうとめをやしなふ
︵
22オ︶
一︑顧
こ徳
とく謙
けんが妻
つまハ姑
しうとめに孝
かうを盡
つくして︑雷
かミなりの難
なんを遁
のかるる
一︑此
これ等
らの婦
ふしん人は皆
ミな昼
ちう夜
や孝
かうぎ義を守
まもり︑名
なを後
こうだい代に留
一︑仮
たとひ令綿
わたを曳
ひき苧
をを績
うむ共︑忠孝の 志
こころさしを忘るべからず
︵
22ウ︶
一︑又
また︑物
ものを縫
ぬひいと糸をつむぐ共
とも︑心
こゝろに節
せつき義守
まもるべし
一︑才
さいある人は賤
いやしけれども︑やんことなき人に交
まじハる
一︑愚
おろかなる人
ひとは貴
たつとけれとも︑賤
しづの女
めにいやしめらる
一一九
(右から)
板
いた
の物 帯
をひ
打
のし
鮑 扇
あふき
墨
すミ
、筆
ふて
草
くさ
、花
はな
木
き
、花
(右から)
板
いた
の物 粉
こ
るい 経
きやうくわん
巻のるい
其外念の入たるニ用へし くけ帯
おひ
、かうがい、くし さげ緒るい
かう包
つゝミ
、まき物るい 奉
ほうしよ
書、まき物、紙
かミ
るい
︵
23オ︶
一︑父
ちゝの恩
おんハ須
しゆミせん弥山のごとく︑母
はゝの徳
とくは巨
おほひなる海
うミのごとし
一︑恩
おんを請
うけて恩
おんを忘
わするゝは︑木
きの鳥
とりの枝
えたを枯
からすに等
ひとし
一︑徳
とくを蒙
かうむりて徳
とくを思
おもハぬハ︑鹿
しかの草を損
そんずるごとし
︵
23ウ︶
一︑或
あるをんな女ハ親
おやのために僧
そうを請
しやうじ︑手
てばこ箱に歌
うたをそへて布
ふせ施とす
一︑獨
ひとりの貧
ひん女
ぢよハ父
ちゝはゝ母の魂
たま祭
まつりに︑一
ひとへ重の衣
きぬに歌
うたそへて供
くよう養す
一︑南
ミなミ筑
つくし紫か女
むすめハ父
ちゝのあとを慕
したひ︑尼
あまと成
なりて孝
かうよう養す
︵
24オ︶
一︑微
ミ妙
めうハ遠
おんる流の父
ちゝを慕
したひ︑白
しらびやうし拍子と成
なりて行
ゆく来
ゑを求
もとむ一︑孝
かう貞
ていある人は仏
ぶつしん神の憐
あハれミにより︑願
ねがひ満
ミたざるハことなし
一︑生
しやうじ死の命
いのちハ常
つねならず︑早
はやく菩
ぼだい提を求
もとむべし
︵
24ウ︶
一︑煩
ほんのう悩の身
ミハ浄
きよからす︑速
すミやかに浄
じやうと土をねがふべし
一︑厭
いとふへきハ堪
かんにんかい忍界也︑逢
あふものは別
わかるゝの苦
くるしミ有
あり一︑恐
おそるべきハ六
むつの巷
ちまたなり︑生
うまるゝ者
ものハ死
しする悲
かなしミ有
六の巷⁝ 六道の辻︑分れ道︒六道とは︑仏教で衆生が輪廻の間にそれぞれの業
の結果として住む六の境遇︒地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天︒