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挫折経験が肯定的な意味づけに至るまでのプロセスについて

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Academic year: 2021

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挫折経験が肯定的な意味づけに至るまでのプロセスについて

PTG 生起モデルからの検討 根 岸 裕 美

(神奈川大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学領域)

The Process of Frustration Experience Changing to Positive Meaning In View of PTG Occurrence Model

 キーワード:挫折経験,コーピング,ソーシャルサポート,反すう,意味づけ

問題 ・目的

 青年期における挫折経験は大学生のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼすが,他方で成長 を遂げる大きな要因にもなりうることが報告されており(加藤・高木,1997;大石・岡本,

2010;神原,2010),阿部・田嶌(2004)は単に悩みの有無や内容だけではなく,青年本人 が悩みをどのように体験しているかという視点で研究をすることの意義を指摘している。さ らに,独立行政法人日本学生支援機構(2007)は「学生相談は,個々の学生の人間的成長を 支援する」と述べており,成長促進の考え方は今日の学生相談の基本となっている。

 このようなストレスフルな体験からの成長を扱う心理学研究の中で多く用いられている概 念が心的外傷後成長(posttraumatic growth)(以下 PTG とする)である。ストレスフルな 個人が成長を遂げるまでのモデルとして,「情緒的苦痛」→「侵入的反すう(考えたくなく てもいつの間にか体験した出来事について考える思考)」→「情緒的混乱のコントロール」

→「意図的反すう(体験した出来事によって揺るがされた個人の信念を,今の状況に適応す る形で再構築しようとする思考)」が挙げられており,「情緒的混乱のコントロール」と「意 図的反すう」にはソーシャルサポートが影響を与えることが述べられている(宅,2016)。

しかし,PTG モデルは広く使われているものの,未だ完全なものではないことに加え,本 邦では死別以外のストレス領域では PTG の研究が十分にされていないことが指摘されてい る(飯村,2016)。実際に「経験に対する意味づけ」がストレス体験からの成長を促す上 で,重要な概念であるという報告がいくつか行われている(松下,2005;堀田・杉江,

2013;宅,2004)。さらに,「ソーシャルサポート」が PTG を促すことが明らかになってい るが(神原,2009;開,2006),どのような他者の支えがストレスフルな経験の捉え方に影 響をおよぼすのかという質的な研究がされていないことも指摘されている(大石・岡本,

2010)。ストレスを感じた時に軽減しようとする認知的・行動的努力として「コーピング」

があるが(Folkman & Lazarus, 1980),コーピングと PTG との関連を示唆する文献が多く 見られる(武富ら,2016;藤元・津川,2012)ことからは,コーピングを PTG のモデルに

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組み込んだ検証を行うことの意義があると考えられる。

 以上より,既存の PTG モデルに新たに出来事経験時のコーピング,出来事に対する意味 づけを組み込んで大学生の挫折経験が肯定的な意味づけに至るまでの過程を検討することの 意義が挙げられる。さらに,ソーシャルサポートがストレスフルな経験の捉え方に影響を及 ぼす質的な研究を行う意義があると考える。このことによって挫折経験をした個人が肯定的 な変容を遂げる過程が明らかにされ,挫折経験を体験した学生への支援の手がかりにするこ とで,学生相談の目標に沿ったアプローチの考案や心理的サポートの考案につながることが 考えられる。そこで本研究では以下の目的に沿って研究 1,2 を行った。

 研究 1:挫折経験時のコーピング,ソーシャルサポートを PTG のモデルに当てはめて挫 折経験をした個人が PTG を獲得する過程を検討することを目的とする。

 研究 2:挫折経験後に得られたソーシャルサポートの影響を検討することを目的とする。

方法(研究 1)

(1)調査協力者 神奈川県内の私立大学の学生を対象に質問紙調査を実施した。282 部回収

した後,回答に不備のない有効調査回答数 222 名(男性 89 名,女性 133 名)を分析対象と した。平均年齢は 20.07 歳,標準偏差は 1.26 であった。

(2)調査手続き 本研究における挫折経験の定義を提示し,挫折経験時を想起してもらい,

質問紙の回答を求めた。以下は分析に反映した主な尺度である。カッコ内は確認的因子分析 において抽出されたα係数。

① コ ー ピ ン グ 尺 度(GCQ):佐 々 木 ・ 山 崎(2002)に よ っ て 翻 訳 さ れ,「感 情 表 出(α

=.90)」,「情緒的サポート希求(α=.91)」,「認知的再解釈(α=.92)」,「問題解決(α=.91)」

の 4 因子 32 項目からなる。5 件法での回答を求めた。

②ソーシャルサポート尺度:福岡(1997)によって作成され 9 項目からなる。4 件法での回 答を求めた(α=.93)。

③日本語版 - 出来事に関連した反すう尺度:Taku et al.(2015)によって翻訳され,「侵入 的反すう(α=.93)」「意図的反すう(α=.90)」の 2 因子 20 項目からなる。4 件法での回答 を求めた。

④ストレスに対する意味の付与尺度:宅(2005)によって作成された 3 因子 13 項目からな る尺度を本研究では「経験の意味づけ(α=.90)」の 1 因子に設定した。

④ストレス体験を通じた自己概念の変化尺度:福岡(2008)によって作成された 3 因子 20 項目からなる尺度を本研究では「自己概念のポジティブな変化(α=.90)」「自己概念のネガ ティブな変化(α=.85)」の 2 因子に設定した。

結果(研究 1)

 性差の検討を行ったところ,コーピング尺度における「情緒的サポート希求(t(222)=

3.69, p<.01)」,「ソーシャルサポート(t(222)=3.42, p<.01)」は女性より男性が高く,「自己

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概念のポジティブな変化(t(222)=1.98, p<.05)」において男性が女性より高い結果となった。

 以上の結果から,以降の分析は性差を考慮して行うこととした。挫折経験後に肯定的な意 味づけを経た自己概念の変化を検証するために共分散構造分析を行った。なお,有意でない パスは削除した。男性,女性どちらの分析においても適合度は許容範囲といえる結果となっ た(男性モデル;GFI=.95,AGFI=.89,RAMSEA=.042:女性モデル;GFI=.94,AGFI

=.88,RAMSEA=.076)。

 (紙面の都合上,主な結果のみ記述する。)男性モデルでは,意図的反すうに対して認知的 再解釈が正の弱い影響を,侵入的反すうが中程度の正の影響を与えることが示された。ま た,経験の意味づけが媒介されないと意図的反すうは,自己概念のネガティブな変化に正の 弱い影響を与えることも示された。

 女性モデルでは,挫折経験時のコーピングが与える影響として,認知的再解釈が侵入的反 すうに弱い負の影響を与えること,問題解決が意図的反すうと侵入的反すうに正の影響を与 えることが示された。また,侵入的反すうが自己概念のネガティブな変化に弱い正の影響を 与えることも示された。

 男女共通としては,意図的反すうが経験の意味づけに正の影響を与えること(男性:弱 い,女性;中程度),経験の意味づけが自己概念のポジティブな変化に正の影響を与えるこ と(男女共に中程度)が示された。

方法(研究 2)

(1)調査協力者 神奈川県内の私立大学の学生を対象に半構造化面接を実施した。8 名に実

施した後,本研究の対象者として適切と判断した 6 名(男性 3 名,女性 3 名)を分析対象と した。平均年齢は 20.07 歳,標準偏差は 1.26 であった。

(2)調査手続き 挫折経験後から回復に至るまでの知覚されたソーシャルサポートについて

尋ねた。

結果(研究 2)

 分析は以下の手順で実施した。①知覚されたソーシャルサポートとソーシャルサポートを 得た後の状態の発言それぞれに小見出し(オープン・コード)をつけた。②本研究ではソー シャルサポートの種類の観点からの検証を行うために,知覚されたソーシャルサポートの種 類として片受・大貫(2014)を元に【評価的サポート】,【情報・道具的サポート】,【情緒・

所属的サポート】の 3 つを設定した。③心理学を専攻する大学院生および学部生とともに各 コードをサポートの種類,ソーシャルサポートを受けた後の状態に分類した。以下,オープ ン・コードを《》と示す。

 まず,他者からの《助言》により《情報源の提示》や《新たな視点の提示》がされる【情 報・道具的サポート】を受けることにより,《新しい視点の獲得》や《思考の切り替え》が 起きることで《混乱の鎮静》や《楽になった》という感覚が得られることが確認された。

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 次に,《プレッシャーを与えない》関わり方や《本人に合わせる》《待つ》といった関わり 方がされる【情緒・所属的サポート】を受けることにより《負担の軽減》が行われ,《安心 感》が得られることで《自尊心が保たれる》という感覚が得られることが確認された。

考察

 研究 1 より,大学生の挫折経験が肯定的な意味づけに至るには,男性に対しては侵入的反 すうを抑制させないこと,女性に対しては問題解決行動を促すこと及び侵入的反すうを抑制 させることが示唆された。しかし,女性の問題解決行動は侵入的反すうの生起要因にもなり 得るため,扱いには留意することの必要性が窺える。男女共通として,認知的再解釈を促 し,意図的反すうを促して経験の意味づけをさせることが PTG の獲得につながることが示 唆された。意図的反すうが経験の意味づけを生成し,自己概念のポジティブな変化につなが ることは既存の PTG モデルと同様の結果となったが,挫折経験時のコーピングが侵入的反 すうや意図的反すうに与える影響に関しては,本研究で得られた新たな知見である。

 研究 2 より,情緒・所属的サポートによって情緒的混乱のコントロールが促され,情報・

道具的サポートによって認知的再解釈が促され,侵入的反すうから意図的反すうへの転換が 生起されやすくなる可能性が示唆された。これは近藤・宮戸(2015)と同様のことが示唆さ れる結果となった。

 これより,挫折経験をした個人に対するアプローチとして,挫折経験直後は情緒・所属的 サポート的な関わり方が,侵入的反すうが治まり始めた後は情報・道具的サポート的な関わ り方をし,意味づけを促す関わり方が有効であることが示唆された。

 本研究ではコーピングに有意なパスが確認されたが,標準回帰係数は十分な値とは言えな い箇所がいくつかあった。しかし,挫折経験後の過程に影響を与えるコーピングに男女差が あることが示唆されたことから,今後はより精緻化したモデルの検討を行う必要があるだろ う。

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Figure1 男性モデル(N=89)

Figure2 女性モデル(N=133)

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