いたキャリア教育実践
著者 坂本 旬
出版者 法政大学キャリアデザイン学会
雑誌名 生涯学習とキャリアデザイン
巻 12
号 2
ページ 3‑11
発行年 2015‑03
URL http://doi.org/10.15002/00010735
はじめに
本実践は法政大学FD推進センターと情報メ ディア教育研究センターおよびキャリアデザイ ン学部が2012年度より実施する「大規模講義に おけるアクティブ・ラーニング」の共同プロジェ クトである。本プロジェクトは次のような特徴を 持っている。第一に、入学したばかりのキャリア デザイン学部生全員が履修しなければならない 半期必修科目「キャリアデザイン学入門」で行わ れる初年次教育実践であること、第二に、300人 を超える大規模講義でオンライン教材と上級生に よるピアサポーターを活用しながら、全受講生が デジタル・ストーリーテリング制作を行う学習で あること、そしてeポートフォリオ・システム Maharaを活用した実践であることの3点である。
本学ではMaharaによるeポートフォリオ・シ ステムをHOPSと名付け、本学部を含む複数の 学部で活用している。なお、デジタル・ストーリー テリングとは、静止画にナレーションを加えて1
〜3分程度の動画にしたものである。
本実践はまずFD推進センターFD開発プロ ジェクトが主導して学部に提案を行い、2012年 度より、同プロジェクトメンバーであり、本授業 担当者の一人であった筆者が本実践を進めること となった。また、HOPSの活用に際しては、法政 大学情報メディア教育研究センターがサポートを
行うと同時に、支援機器としてiPad miniの貸し 出しも行っている。FD推進センターと学部が連 携するプロジェクトを情報メディア教育研究セン ターが支援するという形態は、本学におけるFD 普及の一つのモデルである。
キャリアデザイン学部「キャリアデザイン学入 門」は、再履修者を含めると毎年約330人が受 講する大規模講義である。2013年度まではビジ ネス、ライフ、発達・教育の三領域に所属する3 人の教員によるオムニバス方式を取っていたが、
2013年度に学部FDの一環として本授業の改善 案を検討した結果、翌年度より坂本がデジタル・
ストーリーテリング専任となり、現在の4人体制 となっている。そのうち、一人がコーディネーター となって全授業に参加し、随時授業担当者会議を 開いて進行状況の確認や授業内容の調整を行って いる。
2014年度のシラバスでは、「授業のテーマ」を
「キャリアデザインとは何かを本学部の三領域(発 達・教育キャリア、ビジネスキャリア、ライフキャ リア)の視点から提示し考察」することとした。
「授業の到達目標」は、「キャリアデザイン学(部)
を理解することにより、激動する時代を生きるた めの生涯学習の意義を自覚し、自立・自律的学習 の主体となること」「それらは、他者とかかわり、
ともに学び自己変容するためでもあること、ひい ては社会をよりよく変革する主体としての意志と 法政大学キャリアデザイン学部教授
坂本 旬
初年次における
デジタル・ストーリーテリングを用いた
キャリア教育実践
能力を養成することにつながるということを理 解」することである。
また、「授業の概要と方法」 として、「自らの人 生を設計し、他者の人生設計を支援する専門家(エ キスパート)を目指すために①自己分析により自 己理解を深め、②自己と他者との関係性および③ 自己と社会(家族、地域、国、世界)とのかかわ り(コミットメント)の必要性を自覚し、④自立・
自律的である覚悟の下に⑤「キャリア」や「キャ リアデザイン」をめぐる概念を学び、⑥キャリア デザイン学が提唱され本学部が創設された時代的 背景を理解し、⑦その意義や特徴を自らの言葉で
説明できる」ようにすること、および「⑧大学生 としての「学び」について考察」することとして いる。さらに、「2年時以降の学びについて、発達・
教育キャリア、ビジネスキャリア、ライフキャリ アのそれぞれの領域を知り、自らの学びの体系化」
をめざすものとしている。
そして、「授業外に行うべき学習活動(準備学 習等)」として、「受講学生全員がデジタル・ス トーリーテリング(内容については第2回に説明)
の制作」を行うことを明記している。「授業計画」
は以下のとおりである。
第1回 オリエンテーション1
学部での学び方、キャリアデザイン学部とは,キャリアデザイン学とは(1) 第2回 オリエンテーション2
キャリアデザイン学とは(2)、キャリアデザインする個とは デジタル・ストーリーテリングについて
第3回 ライフキャリアと「文化」
「文化」をどう捉えるか、ライフは「生活」か「人生」か 第4回 アイデンティティ、ライフコース、「時代」
アイデンティティとは、アイデンティティと時代背景、生き方・幸福観の変遷について 第5回 コミュニティ
社会的存在としての人間(コミュニティ論、集団相互の関係、グローバルコミュニティ)の考察 第6回 キャリアデザインという時代
思想的・経営的にキャリアデザインの時代となった「君たちにとっての今」についての解説 第7回 知識経済社会とキャリアデザイン
知識経済とは何か、その時代のキャリアとキャリアデザインについての考察 第8回 企業社会と個人
市場と個人,仕事と企業社会,そして日本の雇用問題についての考察 第9回 能力、発達・成熟と学習、教育
「発達・教育キャリア」を考えるうえでの基礎用語である「能力」「発達・成熟」「学習」「教育」とその 相互関係について考える
第10回 学力、リテラシー、コンピテンシーと学校
「能力」の内実である、「学力」「リテラシー」「コンピテンシー」と「学校」との関係、「学習のパラドッ クス」について考える
第11回 生涯学習社会とグローバルコミュニティ
「生涯学習」「キャラデザイン」「社会的教育」をふくむ、生涯学習社会について、グローバルコミュニティ、
アジア・太平洋学習権共同体を展望する 第12回 キャリアデザインと希望1
キャリアデザイン学における労働論・希望論 デジタル・ストーリーテリング発表1 第13回 キャリアデザインと希望2
デジタル・ストーリーテリング発表2 第14回 まとめ・振り返り1 総括1 第15回 まとめ・振り返り2 総括2
実際の授業日程は、担当者会議の結果、若干の 変更を行った。2014年度では、第12回のデジタル・
ストーリーテリング発表1を取りやめ、第13回 を「まとめ・振り返り1」として各担当教員から の振り返りとデジタル・ストーリーテリングの中 間発表会を行った。これにより、デジタル・ストー リーテリング中間発表会には全担当教員が参加・
鑑賞することとなった。そして第14回で「まとめ・
振り返り2」を行い、最後の第15回は授業日程 の関係で、補講として実施し、デジタル・ストー リーテリング最終発表会に充てている。
この授業日程を見ればわかるように、デジタル・
ストーリーテリング制作の解説に充てる時間は2 回目の授業時に30分のみである。筆者が担当す るコマは中間発表および最終回で行う発表会ま で、制作支援はほぼすべてHOPSを用いたオン ライン学習と上級生のピアサポーターによる個別 支援を中心に行っている。
このように講義内では決してデジタル・ストー リーテリング制作に時間をかけていないにもかか わらず、2014年度の作品提出者は全履修生354 人のうち、338人であり、率としては95.5パーセ ントであった。未提出者16人のうち、2年生以上 の再履修者は8人である。このような高い提出率 が可能になったのは、先に書いたようにオンライ ン学習とピアサポーターの活躍に負うところが大 きいと考えられる。
ま た、 作 品 提 出 の 方 法 は2013年 度 ま で はHOPSを 用 い て い た が、2014年 度 か ら は YouTubeに変更している。その理由はHOPSが 動画管理に向いておらず、HOPSに直接動画を アップロードさせる方法をとるとサポートが極め て煩雑になるからである。なお、2015年からは 情報メディア教育研究センターの支援を受けて、
学内のメディアサーバーを使用する方向で検討し ている。
キャリア教育とデジタル・ストーリー テリング
デジタル・ストーリーテリングは1993年米カ リフォルニア州バークレイに設立されたデジタ ル・ストーリーテリング・センターを中心に、全 米で初等教育から高等教育までさまざまな学校種 へと普及していった一つの学習方法である。ス トーリーテリングとは文字通り「物語ること」で あり、それをデジタル化したものがデジタル・ス トーリーテリングである。
デジタル・ストーリーテリング・センターを設 立したランバートは「なぜ、物語るのか」という もっとも基本的な質問を自ら提示したうえで、次 のように述べている。
私たちは人間として世界を意味あるものにす るために物語る。私たちは永遠の物語る者で ある。私たちは物語ることによって、心の中 に蘇った情景の出来事や、自分にとって意味 のある筋道そして人物、実感へと導いてくれ る行動を再現するのである。しかし、物語と 物語ることについて私が話しているときに耳 を傾けているあなたの脳は、単に私の話を聞 き流しているときのあなたの脳とはまったく 違うものだ。(中略)私があなたにお願いし たいのは、私の経験をあなた自身の経験に関 係づけてほしいということである。1)
筆者が本実践で意図したのは、デジタル・ストー リーテリング制作をICT教育ではなく、キャリ
ア教育として位置付けることであった。デジタル・
ストーリーテリングは動画の形式をとるが、その 形式に本質があるのではない。ランバートが書い ているように、自分を物語り、他者の物語に耳を 傾けることに本質がある。一つの人間の物語を語 ること、そして耳を傾けることを通して、静かな 内的対話を作り出し、他者の人生と自分の人生を 重ね合わせる学習は、広い意味での人生について 学ぶキャリア教育にふさわしい学習方法であると いえる。
本実践は、上記のような観点から、シラバスに 書かれているように、自己分析による自己理解を 深め、自己と他者との関係性および自己と社会(家 族,地域,国,世界)とのかかわり(コミットメ ント)を考察するための学習方法なのである。具 体的には、デジタル・ストーリーテリングは入学 したばかりの大学生にとって、自分を振り返り、
何のために大学で学ぶのか、自ら問い直すと同時 に、同じ学びのステージに立つ他者の人生を理解
する契機となると考えられる。
次に、実際の授業の内容について紹介したい。
本授業でデジタル・ストーリーテリングについて 解説した第2回目であるが、最初の60分で3領 域の各教員がキャリアデザイン学の基本的な考え 方の解説を行い、残りの30分で筆者が「キャリ アデザイン学」における自分を物語る方法として のデジタル・ストーリーテリングの意義と制作方 法の概要を解説した。
制作するデジタル・ストーリーテリングのテー マは「未来の私へ」とし、制作する作品は未来の 自分へのメッセージであることを説明した。そし て、昨年の受講生の作品と海外の学生が作った作 品を数本上映した。海外の作品は筆者が中国の大 学で行ったワークショップで作った作品である。
これによって、受講生に制作する作品のイメージ を与えることができると同時に、デジタル・ストー リーテリングが異文化対話のツールとして活用で きることを理解させている。
作品制作にあたって十分に著作権やプライバ シーに留意することも重要である。同時に受講生
の中には、ありのままの自分を表現することを望 まない場合もあることも配慮しなくてはならな い。そのために、自分自身が登場しない表現の仕 方についても具体的な実例を見せながら教えるこ とが必要である。例えば、過去の提出作品の中に は不登校に苦しんだ受講生が作った作品があった が、その作品には一切本人は登場せず、自分をサ イコロで表現したものであった。同じ悩みを抱え ていた別の受講生はこの作品を見て、作りたくな いと思っていた気持ちを変え、自分を本に見立て た作品を提出している。象徴的な作品の許容は、
結果として作品の多様性・芸術性を高めることに 寄与している。マンガで表現する受講生もいれば、
写真の表現技法を駆使した作品もある。
また、音楽は自作のもの以外一切使わないこと をルールとして決めているが、著作権への配慮だ けではなく、音楽が映像に対する印象を大きく左 右させてしまうことに対する歯止めとしての意味 もある。自作自演の音楽は自己表現の一つである が、安易に他者の作った音楽に頼る作品を許容す ると、作品の質の低下を招いてしまう。
もう一つ重要な点は、作った作品をオンライン で公開するか、あるいは学部内での閲覧にとどめ るか、それを決めるのは受講生自身であることを はっきりと確認することである。本授業で作成し た作品はオンラインで一般公開しておらず、原則 として学部外者は閲覧することができないように 設定している。なぜならば本実践は映像制作が目 的なのではなく、自分を物語り、他者の物語に耳 を傾けることによって、キャリアを学ぶ意味を考 えさせることが目的だからである。
次に基本的な制作の解説を示すと同時に、制作 方法を解説したオンライン教材を入手するための 方法、ピアサポートの日程と予約方法を伝え、さ らにその内容をプリントでも配付している。また、
ピアサポートのイメージがつかみやすいように、
昨年度のピアサポートの様子を映像でも見せてい る。
この日の受講生の感想文を見ると、昨年の受講 生の作った作品に感動した、この機会に自分を見
つめ直したいといった内容のものが多かった。一 方、難しそうだという感想も多く、ぜひやってみ たいが自分にできるか不安があるといったところ であろう。感想文にははっきりとは現れないが、
「厄介な宿題」が出されたという印象を持つ受講 生も多いと思われる。不安を払しょくするために も徹底したサポートの存在をしっかり認知させて おくことが重要である。
制作の実際と受講生の反応
多人数講義におけるデジタル・ストーリーテリ ング制作実践事例としては、須曽野仁志(2009) による実践2)があるが、これはコンピュータ教 室を利用したものであり、本実践のように300人 を超える大講義で行った実践事例はこれまで確認 されていない。
コンピュータ教室を使用しないため、学生は スマートフォンからパソコンまで多様な機材を 使ってデジタル・ストーリーテリングを制作 することが予想される。そのため、Windows、 Macintosh、iOS、Androidの4種 類 のOSご と のチュートリアルを用意し、質疑応答にはHOPS の掲示板を用いた。実際には、プレゼンテーショ ンのデータから作った動画とPDFファイルを掲 載し、自由にダウンロードできるようにした。
最終授業でとった匿名によるアンケート(有効 回答数197)によると、実際に受講生が制作に使っ た機材は、Windows系のパソコンが半数近くを 占めており、もっとも多い。マック系はその半数
である(質問1)。また、iPhoneおよびAndroid 系を合わせると約3割の受講生がスマートフォン で制作している。これはスマートフォンでも制作 できることを前提に説明したことによる効果であ ろう。一方で、タブレットを利用している受講生 は思ったほど多くはなかった。
次に制作にかかった時間を見てみよう(質問 2)。およそ半数が1〜3時間未満で制作している ことがわかる。一方、4分の1の受講生が3時間 以上の時間をかけており、中には11時間以上か けている受講生もいることがわかる。このような 受講生への支援が重要であることが推察される。
「単位の実質化」というFDの観点から見れば、
本実践はその課題に十分に答えたといえるのでは ないだろうか。
質問3は制作に役立ったものである。複数項目
質問1
質問 3 質問 2
21%
44%
4% 7%
22%
3%
マック Windows系PC タブレット アンドロイド系ス… iPhone 無回答
人数(%)
使用機材
42 25
69
5 47
7 20
4 31
3
ピアサポート HOPSのフォーラム(Q&A) HOPSに掲載された制作用… ピアサポーター以外の先輩の支援 友達の支援 家族の支援 大学の先生の支援 その他 サポートを受けていない 無回答
のべ人数
制作に役立ったもの
使用機材
制作に役立ったもの
6%
16%
46%
15%
5% 2% 1% 1% 1%
9%
30分未満 30分~1時間未満 1~3時間未満 3~5時間未満 5~7時間未満 7~9時間未満 9~11時間未満 11時間以上 制作していいない 無回答
人数(%)
制作にかかった時間制作にかかった時間
への回答を用意したため、縦軸にのべ人数をとっ た。これを見ると、オンライン教材がもっともよ く使われており、それに次いでピアサポートが役 に立ったと答えている。表面的には見えないが、
授業の背後では友達同士や先輩からの支援が活発 に行われていたことがわかる。
質問4は制作する上で気をつけたことを尋ねた ものである。もっとも多かったものがメッセージ 性であり、次によい写真、ストーリー展開、ナ レーションの声、ナレーション原稿が続く。これ らの注意点はすべて物語性に深くかかわるもので あり、制作にあたって、昨年度の作品を見せ、心 に深く残る作品がどのようなものであるかという ことを受講生が十分に理解していることをうかが わせる結果となっている。また、まだ十分とはい えないが、著作権・プライバシーについてもある 程度意識されていることも読み取れる。
質問5は苦労したことを尋ねた質問への回答で ある。もっとも多いのは内容や構成の決定で、そ れに次いで多いのが素材の確保であった。ソフト
やアプリケーションの使い方が突出して多いわけ ではないことがわかる。この傾向は図4の質問へ の回答と関係性があると思われる。受講生がもっ とも頭を使って努力したのは、制作方法ではなく、
コンテンツそのものだということが読み取れるだ ろう。これらのことから、ICT教育ではなく、キャ リア教育としてのデジタル・ストーリーテリング 制作という本実践の意図が達成されているといっ てもよいのではないだろうか。
質問6は本実践の結果、身についたこと・役に 立ったことを尋ねた質問への回答である。もっと も多いのは、人生や学習の振り返りであり、次に 映像制作のスキルが続く。3番目が今後の人生や 学習の考察であった。1番目と3番目は本実践の 目的そのものであり、実践の目的にかなったもの であることがわかる。副次的効果として、映像制 作のスキルが身についたといえる。
質問7は支援をした経験を尋ねたものである。
他者への支援をしていない受講生がもっとも多い
質問 4
質問 6
質問 5 質問 7
77 61
43 47 51
27 26 18
メッセージを明確にする よい写真 よいナレーション原稿 ナレーションの声 ストーリーの展開 プライバシー・個人情報に配… 著作権に気をつける 無回答
のべ人数
制作する上で気をつけたこと 71
18 20
96
23 60
13 37
18 4
映像制作のスキル 学ぶ楽しさ 困難を乗り越える経験 人生や学習の振り返り 学部で学ぶ意義の理解 今後の人生や学習の考察 他者への理解 表現力 創造力 その他
のべ人数
身についたこと・役に立ったこと
49 68
13
82
3
友達にアドバイスした TwitterやFaceBook、LINE等で教えあった。 友達の制作を手伝った 特に支援していない 無回答
のべ人数
支援をしたか
70 87
62
43 31
18 7
素材の準備 内容や構成の決定 パソコンやスマホの操作 作成ソフト・アプリの使い方 制作時間の確保 eポートフォリオの使い方 その他
のべ人数
苦労したこと
身についたこと・役に立ったこと 制作する上で気をつけたこと
苦労したこと
支援をしたか
が、友達にアドバイスをしたり、制作を手伝った りした受講生もかなり多かったことがわかる。こ れは筆者が、本実践の目的の一つとして、デジタ ル・ストーリーテリング制作を通して、支援を受 けたり、支援をしたりする経験も大事な本学部の 学習の一部であることを指摘したことへの反映を 意味しているのかもしれない。
学習支援を担うピアサポート制度の効果
すでに述べたように、本実践では上級生による ピアサポートが大きな位置を占めている。2012 および2013年度は坂本ゼミ所属学生が担当した が、2014年度から学部公式のCALS(キャリア・
アクティブ・ラーニング・スタジオ)ピアサポー ト制度を作り、「メディアリテラシー実習」受講 生が中心となって、本学部施設のCALSを用い てサポートを行った。CALSはもともと「フィー ルドワーク準備室」と呼んでいた学部のPC教室 をアクティブ・ラーニング教室に変更したもので あり、現時点では6台のコンピュータと大型ディ スプレイ、小規模のワークショップが可能なス ペースがある。
ピアサポーターは「キャリアデザイン学入門」
におけるデジタル・ストーリーテリング制作支援 だけを目的にした制度ではなく、CALSを学部と して有効に活用するために、学生間や授業への自 主的な支援活動を目的にしている。「メディアリ テラシー実習」では映像を制作していることから、
週に一回程度10人程度がCALSに集まって、映 像制作を自主的に学び、学内外のコンクールへの 応募作品制作をめざしている。
キャリアデザイン学部の学生は、「キャリアデ ザイン学入門」の履修を通じて、全員が映像制作 経験者である。そのため、映像制作の面白さを実 感した学生がこの授業を履修し、さらにピアサ ポーターになり、新入生を支援するという循環が 生まれている。
「キャリアデザイン学入門」での具体的な支援 方法は、ピアサポーター会議で支援の日程を決め、
HOPSでサポート希望者を募るという形を取っ た。実際にはピアサポーターの活動日をサポート の日にあて、それでも足りない場合はゼミ活動時 間をあてている。実際には、予約を取らずに直接 参加する受講生もいたため、CALSに入りきらな いほど受講生が集まった日もあった。受講生は使 用する画像とナレーション原稿を持参し、サポー ター1人が1〜2人の映像制作をサポートする。
また、どうしても時間が合わない受講生について は、筆者もサポートを行った。
受講生のアンケートではピアサポーターへの感 想も書かせた。その内容を見ると、実際にサポー トを受けた受講生から、「みなさん優しく支援を して下さってすごく安心しました」「助けてもら えた。本当にありがとうございます」「とても優 しくて自分のことのように教えて下さいました。
とても感謝しています」「デジストを作るとき、
本当に助かりました!1年生にとってとても良い 制度だと思う」といった感謝の言葉が並んでいる。
ピアサポート制度は受講生にはもちろんのこ と、サポートを行った上級生にとっても好評で あった。新入生から感謝されることでサポート自 体が楽しかったという。彼らもすでにデジタル・
ストーリーテリング制作経験者であるため、本実 践の目的をよく理解していることも背景として挙 げられる。
ピアサポーターは映像制作のサポートだけでは なく、発表会で上映する映像作品の選出にも関わ る。最終回に行われる発表会では、20〜25程度 の作品を選んで上映するが、その選抜は一定の基 準を設けるだけではなく、男女比や留学生への配 慮も勘案し、多様性を損なわないよう留意してい る。
まとめにかえて
本実践を通して受講生は何を感じ、何を学んだ のだろうか。アンケートには自由記述欄を用意し た。そこに書かれた受講生のコメントをいくつか 挙げておこう。
「最初は作るのが嫌だったけど、作っていってだ んだん楽しくなってきた。」
「自分が過去にどのように夢を見つめ、これから の自分はどうしていくのかを考えられる良い機会 になりました。」
「映像制作をしたことがなかったのでいい経験に なった。HOPSはやり方が書いてあってよかっ た。」
「デジタル・ストーリーテリングを通して自分が どういう人生を過ごしてきて、それを通してどう 生きていけばいいか考えるいい機会になった。」
「機械音痴なので、自分でデジタル・ストーリー テリングを制作できるかとても心配だったのです が、友達の支援などをしてもらいながら、なんと か制作できました。自分の過去を振り返りながら、
本当の自分について深く考えることができて、よ かったです。」
「大学入って3か月って、自分が納得いくところ に進めたのに目標を見失っていた中、このデジタ ル・ストーリーテリングの制作を通して、目標を 再び思い出せて、また頑張ろうと目を覚ませた。」
「パソコンの使い方がわからなかったので基本的 な操作から理解する必要があり、とても大変だっ た。一人暮らしなので母に電話で聞いたりして、
ずいぶん迷惑をかけてしまったように思う。完成 したときは達成感でいっぱいだった。」
「学部で学ぶ意識を入学後一度いい加減になって もこれを通して取り戻せる。」
「パソコンのファイルの仕組みがわからなくてと ても苦労しましたが、良い経験ができて良かっ たと思います。『これが今の自分』ということで、
大切にしていきたいです。」
「難しかったけど他人の作品を見てもっと良い作 品を作りたいと思った。」
「デジタル・ストーリーテリングは自分でサポー トなしに作るのは難しいと思いました。でもサ ポートを受けて作り終わった後は誇れるものにな りました。」
「自分の人生を振り返ってみていろいろと苦難が あったと思い、そういった時に友人が助けてくれ
たと感じた。」
「真剣に自分と向きあって見つめ直して、わかり やすく表現して他人の発表も見ることで、とても 刺激になりました。」
「色々な経験をしている人がいて、つらい思いや 苦しい思いなどをしているのは自分だけではない と思いました。」
「また卒業の時にやりたい。」
「最初は面倒くさいと思いましたが、作り終わっ てみたら、自分が本当にしたいことが分かりまし た。そういう意味でもやってよかったと思いま す。」
「キャリアデザイン学部の生徒は個性に溢れてい るのが、デジストでわかった。」
「約2分の映像作りだけでも、12時間もかかって 大変だった。」
「正直振り返りたくない過去とかあったのですが、
自分を見つめる良い機会になりました。」
「作るのは楽しかったです。ナレーションとかつ けたりするのも初めてでした。つたないデジスト だったと思いますが、誰かに何か伝わればいいな
〜と思います。」
「この課題がなかったら、自分を見失ったままだっ たと思う。明確な目標もないまま、てきとうな夏 休みを過ごすところだったが、デジストを制作し て、前向きな気持ちになった。」
「制作することはすごく良いと思うが、発表会で 先生が選ぶのではなくみんなで投票制にすればい いと思います。」
「まさか、自分が選ばれるとは思いませんでした。
めちゃくちゃ恥ずかしかったけど、少しでも思う ところがある人がいればうれしいです。」
「HOPSは 正 直 使 い に く い 気 も し ま し た。
Facebookのように個人発信しづらい空気感も。
より多くの生徒に使ってほしいのであれば改善が 必要だと思います。」
自由記述の感想を読むと、最初は難しそうだと 感じたが、実際に作ってみると、自分を振り返る きっかけになったというものが多かった。デジタ
ル・ストーリーテリング制作は、入学したばかり の受講生にとっては決して楽な課題とはいえない が、家族や友人、上級生に助けてもらいながら、
自分の物語を見つめ直し、他者の物語に耳を傾け る契機になったといえるだろう。
アンケートには「卒業するときにもう一度作り たいか」という問いも設けている。回答を見ると、
「はい」「いいえ」「わからない」がそれぞれほぼ 3割となった(無回答は1割)。もし、大学4年次 に再び同じ課題を与えることができれば、4年間 の成長の軌跡を学生自ら振り返る機会になるだろ う。これは今後の課題である。
一方、問題点として指摘されることが多かっ た問題はHOPSの使いにくさであった。今回の 実践ではHOPSの本来のeポートフォリオ・シ ステムとしては用いていない。2012年度の実践 はeポートフォリオの導入を意識したものであっ た3)。しかし、本授業だけでは時間が足りない ため、2013年の実践では、「基礎ゼミ」でHOPS の導入を行い、本来のeポートフォリオとして の使い方を学生に教えることになった。しかし、
「基礎ゼミ」ではほかにも教えなければならない ことが多いため、2014年度から「基礎ゼミ」で のHOPSの導入授業を取りやめている。現在は、
一部の授業での活用にとどまっている。この点も また今後の課題である。
最後に、最終発表会に参加した本学部のキャリ ア・アドバイザーがニュースレターの記事を書い ているので下にその一部を掲載しておきたい
私達キャリアアドバイザーの役割として、
授業支援をしたり、授業に参加させていただ くことがあります。本学部キャリアデザイン 学入門の春期最後の授業では、学生が制作し たデジタル・ストーリーテリング(撮影した デジカメ画像、古い写真、自分自身で描いた
絵などを、自分のナレーション録音でつなげ て制作する物語)の最終発表会がありました。
私も拝聴させていただいたのですが、流れ る映像とともに語りかける学生の声に、思い のほか感動してしまったのです。涙をこらえ るのに、何百回、瞬きをしたことでしょう!
もちろん、課題提出となると学生たちは必 死に取り組んだはずです。単位取得のため、
作品を提出しなきゃと考える学生も多いにい たことでしょう。
しかし、私が目にした作品はどれも情熱的 で、学生1人ひとりの強い意志を感じました。
学生たちは物語を制作するにあたり、なぜ大 学に入ったか、大学で何を学びたいか、大学 生活で叶えたいこと、ポリシー、軸、大切に してきたもの、何かをきっかけに気づいた ことを必死にみつめ直し、自分自身について 深く振り返ったのではないかと感じられまし た。4)
注
1) Joe Lambert,
Digital Storytelling Capturing lives, creating community (4th edition)
, Routledge, 2013, pp.6-7.2) 須曽野仁志、鏡愛、下村勉(2009)、「大学生に よる「読書」をテーマとしたデジタルストーリー テリングの実践」『三重大学教育学部附属教育 実践総合センター紀要』29号、pp.89-92 3) 2012年度の実践については以下の文献を参照。
宮崎誠ほか(2012)、「大規模クラスにおけるe ポートフォリオ活用の試み」日本教育工学会研 究報告書『eポートフォリオの活用と普及/一 般』,pp.25-28.
4) 法政大学キャリアデザイン学部『CA通信』
(2014年8月号)