英国におけるEU公開買付指令の国内法化 : 二〇〇 六年英国会社法におけるパネルの規制
著者 早川 勝
雑誌名 同志社法學
巻 61
号 2
ページ 47‑134
発行年 2009‑07‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011770
英国におけるEU公開買付指令の国内法化四七同志社法学 六一巻二号
英国におけるEU公開買付指令の国内法化 ―二〇〇六年英国会社法におけるパネルの規制―
早 川 勝
(五一七)
目 次第一章 はじめに第二章 EU加盟国における公開買付指令の国内法化とその状況 第一節 公開買付指令の国内法化に関する一般原則 第二節 公開買付指令の国内法化の状況 第三節 取締役会の中立義務とブレーク・スルー原則の国内法化
第四節 調査結果に関する評価 第三章 英国における公開買付指令の国内法化
第一節 公開買付指令の国内法化の実施とその経緯 第二節 二〇〇六年会社法におけるパネルの法制化 第三節 コードの改正 第四節 取締役会の中立義務︑ブレーク・スルー原則および相互主義の国内法化第四章 むすび
︿資料﹀ 二〇〇六年会社法 第二八編株式公開買付等︵九四二条〜九九二条︶の試訳
英国におけるEU公開買付指令の国内法化四八同志社法学 六一巻二号
第一章 はじめに 二〇〇四年四月二一日︑欧州議会で採択されたEU公開買付指令︵以下公開買付指令という (
︶は︑同年五月二〇日に 1)
発効した︒EU加盟国は︑二〇〇六年五月二〇日までに同司令を国内法化する義務を負っている (
バし験を大幅に採り入れたものとてな知られている︒経済のグロー経富︑の国が主導し豊同国公開買付に関する規制の 付公開買︒指令は︑英 2)
ル化が底流にあるとはいえ︑ロンドンの金融街シティで育まれた自主規制であるシティコード︵
C ity C od e
︶が︑ブリュッセルに進出し (︒展模の制定法に成長発しパたことは注目される規ッ︑け難産の末︑大陸で受入ロれられた結果︑ヨー 3)
公開買付指令は︑一九七四年に提出されたペニングトン準備草案 (
り運てっどたを命なた奇数どなるれさきが否ら繰くなとこるめき︑あが会員委UE決で欧に度は州議数会おいて賛否同 にですばかれえ数ら〇三り年も費やしてお︑また一 4)
返し公開買付規制を提案してきた︒それは︑とくに︑公開買付が︑会社の再編や統合を促進し︑グローバル化した市場ならびに統合された欧州市場における効率的競争条件を提供し︑経営の質と会社の業績を改善する︒さらには︑会社の
経営者に緊張感を与え︑競争を鼓舞し︑会社︑投資家︑ひいては欧州経済全体に対して利点をもたらすと判断したからである︒常に利点をもたらすというわけではないが︑公開買付の促進は︑長期的にはすべての株主と会社の最善の利益
になる︑と考えたからである︒そのような利点を欧州レベルで活用すれば︑欧州の会社支配市場の出現のために有利な条件を作り出すことによって欧州資本市場の統合を推進するのに役立たせることができるのである (
︒このような目的の 5)
下で︑公開買付指令には効率的な公開買付の仕組み︑共通の規制枠組み︑および︑少数株主を含む株主の強力な権利が定められている︒
既述したように︑公開買付指令の目的は︑加盟国間に公開買付規制について平等な水準︵
le ve l p la yin g fie ld
︶を確保(五一八)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化四九同志社法学 六一巻二号 することである︒その最も特徴的な規制として︑①取締役会の中立義務 (
︑②ブレーク・スルー原則 6)(
︑③相互主義 7)(
︑情の申込を決定したという報買を得た対象会社の経営者が付開役のれよう︒まず①取締公中立義務とは︑買付者がら あがげ 8)
事前に株主総会の承認を得なければ︑公開買付を阻止する行為をすることができない︑という内容の義務である︒ただし︑取締役は︑買付の競合者を探すことを例外として認められ︑また買付申込情報の入手前に決定した行為は︑阻止行
為となっても実施できることが例外的に許される︒つぎに②ブレーク・スルー原則というのは︑買付者は︑公開買付期間において︑対象会社が定めた株式の譲渡制限や議決権行使の拘束などに関する定款の規定や個別契約の効力を受けな
い︑また︑総会決議に際して︑複数議決権株は一票の議決権を有するにすぎない︒さらに︑買付者が公開買付により対象会社の議決権のある資本の七五パーセント以上を取得した場合︑買付者が招集した最初の総会においては契約上の議
決権制限や定款で定めた取締役の選解任の権利は効力をもたず︑複数議決権株は一票の議決権を有するにすぎなくなる︑というものである︒これに対して︑特別な権利を与えられていた株主は︑権利を失う代償として補償が与えられる︒さ
らに︑③相互主義は︑対象会社と買付者に同じ武器を与えるためのもので︑中立義務やブレーク・スルー原則を備える買付者に対してだけ対象会社も同じ義務に服するというものである︒後述するように︑選択条項を設けることによって
加盟国の間に異なる規制が生じることに対処したものである︒対象会社が防衛策を講じる場合には︑公開買付が公表さ
れる一八カ月前に株主総会が承認しなければならない (
︒ 9)
もっとも取締役の中立義務とブレーク・スルー原則に関する規制は︑加盟国にその導入を強制するものではない︒加 盟国には︑公開買付指令の国内法化に際して︑それらを採用するか︵
op t i n
︶または採用しないか︵op t o ut
︶の選択権が認められている︒また︑②のブレーク・スルー原則については︑たとえ国が採用しない場合でも︑あるいは採用した場合でも︑当該加盟国における会社が株主総会の特別決議によって個別に採用できる︒さらに︑会社が一旦採用して
(五一九)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五〇同志社法学 六一巻二号
も︑一定の期間後に︑その決定を変更することができる (
︒ 10)
このような選択制度が認められたのは︑当時のEU委員会の議長国であるポルトガルが公開買付指令を成立させるために妥協の産物として提案したことによる (
国て法化にあたっそ国れぞれの加盟内︑︒よしかし︑そのうてな妥協によっ 11)
がこの選択権を区区に行使するならば︑EU市場において国毎に異なるバラバラの公開買付法制が出現することになることは自明である︒そのことに対処するため相互主義原則を設けた︒この原則も加盟国が選択するのであるから︑公開
買付指令は︑産声をあげる前から片肺飛行で発進することも見込まれていたといえよう︒
それでは︑個々の加盟国はそのような選択権を実際にどのように行使したのであろうか︒公開買付法は世界最大規模
の市場において競争力を確保する役割を担うことができるのであろうか︒本稿では︑このような問題意識の下で︑まず英国色が濃厚な公開買付指令︑特に上述した指令の特徴をなす規制が欧州大陸諸国でどのように受け入れられたのかに
ついて最近のEU委員会の報告書における調査結果をみた後︑つぎに公開買付指令の本家本元であった英国で公開買付指令をどのように国内法化したのか︒とくに︑ロンドンの金融の中心地シティからEU連合の中心地ブリュッセルに向
けて発進した自由規制が︑ブーメランのようにブリュッセルからシティに舞い戻ったときに︑私的機関にすぎなかったシティコードパネル︵以下パネルという︶がどのように変わったのか︑あるいは変わらなかったのか検討する︒最後に︑
まとめとして自主規制時代の支柱であったパネルの機能について若干の検討を加えたい︒法的拘束力を持つことになったコードの規制も含めた英国の公開買付規制の総合的検討は他日に期し︑以下では︑会社法で定められたパネルに関す
る法制の検討にとどめる︒
︵
21ea0420. 4. 30Ul EBAe, otebngm14ahrnbe Ündffereet b0420. 4. L2/12. 開における公法買U規制﹂商事付﹁E史雅村北︑はていつに令指本 . v Aliaieofil ncou Chef t ondt aenmaril Pn eaopur Ehef t o25/0420pr21ivirelinhtic. R13D12/214LJ O04, 20cts bidr veeoakTn o0420e 1︵︶=︶
(五二〇)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五一同志社法学 六一巻二号 務一七三二号四頁以下︵二〇〇五年︶︑末岡晶子﹁EU企業買収指令における敵対的企業買収防衛策の位置づけとTOB規整﹂商事法務一七三三号三四頁以下︵二〇〇五年︶︑拙稿﹁株式公開買付に関するEU第一三指令における企業買収対抗措置について﹂ワールドワイドビジネスレビュー七巻一号二〇頁以下︵二〇〇五年︶︑野田輝久﹁株式公開買付規制の方向性︱EU第一三指令を素材として﹂神戸学院法学三五巻一号三頁以下︵二〇〇五年︶︑同﹁EUにおける企業買収︱EU公開買付指令︱﹂法時九八二号五八頁以下︵二〇〇七年︶︑飯田秀総﹁公開買付規制における対象会社株主の保護﹂法協一二三巻五号一四二頁以下︵二〇〇六年︶︑矢崎淳司﹃敵対的企業買収防衛策をめぐる法規制﹄一四一頁以下︵多賀出版二〇〇七年︶が詳細に論じる︒なお邦訳として︑拙訳﹁二〇〇四年四月二一日EU公開買付指令2004/25/EC L142/12︵試訳︶﹂前掲ワールドワイドビジネスレビュー七巻一号三四頁以下がある︒︵
︵ Article21.2︶ 公開買付指令 8919. と一健本吉︑てし邦訳新の書告報本︶=︵井社害障るす対収買に会E司る﹁修Uにおけ st torsriear, Bry Tendu Innd aderaf Tt oeoakn vemar, SO MHityunomrsCeaopurEe th intmepDたの早期採択に向け戦︵略を検討している︑令 3三現国英︑ていつに点題問と状の易収買社会るけおに国盟加UE貿産一指第たし案提に年九八九一︑てし業託委︶ 査調に所務事計会は省を
1︶︵
2︶︵
3︶︵
4︶︵
︵ ︒るあが︶年六 号頁三四〇一︶︑〇八一同下年五以二︑頁九九一︵下以七同八三号九八一九一六頁以下︑同一七︵号四〇五以六下︑一七九号九〇七頁以下頁 5八一号五七一学法大阪︶﹂完
︵ お規付買開公式株るけに﹂ツイドとUE﹁久田野制輝青頁山︶︒年八九一︵下以九八号二巻〇法四集論学五 okissions-D56ument XI//omm74-EKドーコの国英に的質︑は案実しを反映たものである︑参照︑同草草︒ト︵︶﹂︵ペニンたグン案︶を提出し Pennington4の大書︶ ︵ントグンニペの学ム報ガンミーバに年四七九一告付他受のそと付買開公式株︑﹁けを︶託買の会員委UEが授教委 28keveeoaks/toc/dnypaomt/caridml_naerntu/ia.eopurc.e://erb/. re0720, torepReraftinhe20. df/pent_orep_r02-07tpht3at8260720﹇﹈︵︵︶︶ kinn missioaffStg t, enum, CDoc20OruCE S0720y arebM. F21, C07 WomorTakeover Report on Implementation of the Directive on Bids5︵︶︶ Company Lawyer 179―180. 本報告書の紹介と検討については︑上田廣美﹁EC公開買付指令運用状況とその問題点―二〇〇七年欧州委員会報告書―﹂亜細亜法学四三巻二号一四五頁以下︵二〇〇九年︶参照︒︵
︵ Article9.6︶
︵ Article11.7︶ Article123.8︶ ︵︶
(五二一)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五二同志社法学 六一巻二号
︵
︵ Article125.9︶ ︵︶
︵ 10Article1212.︶ ︵︶︵︶ 11︶ 拙稿・前掲注︵
1ュ頁三二号一巻七ービ︶レドイワドルーワ︒
第二章 EU加盟国における公開買付指令の国内法化とその状況 第一節 公開買付指令の国内法化に関する一般原則 公開買付指令は︑加盟国が同指令を国内法化する場合に次の六つの原則を満たすことを要求する (
︒ 12)
⒜ 対象会社の同一の種類株式の株主は︑同等に扱わなければならない︵株主平等取扱原則︶︒また︑ある者が会社
の支配権を取得する場合には︑他の株主を保護しなければならない︒
⒝ 対象会社の株主 (
社れな情報を与えなけば必ならない︒対象会要とに関は︑株式の買付にし間て判断する十分な時 13)
の取締役会が株主に助言する場合︑公開買付の実施が就業︑就業条件および会社の営業の所在地に及ぼす影響について述べなければならない︒
⒞
︒与で判断する機会をえ自なければならない分
に社てめたの益利の体全会つ︑は会役締取の社会象いに行か為しなければならず︑つ点対株主が公開買付の利︑
⒟
機および市場の正常な能止の歪曲化を禁止するし禁公社開買付に関係する会のを株式について株価操縦︒ ⒠ 買付者は︑公開買付を公表する前に現金による支払いが確実であるか︑現金以外の対価の場合にはその給付義務
の履行が確実でなければならない︒
(五二二)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五三同志社法学 六一巻二号 ⒡ 公開買付によって対象会社の事業活動を不当に長く妨げてはならない︒
加盟国は︑公開買付指令の国内法化に際して指令が定める最低限の要件を満たす国内法を施行しなければならないが︑ 補足規定やより加重された規定を設けることは許されている (
︒ 14)
第二節 公開買付指令の国内法化の状況 EU委員会は︑昨年︑EU加盟国が公開買付指令を国内法化した状況と同指令が認めた選択権がどのように行使されたかについて調査報告書を公表した︒この報告書の付録に国内法化の状況を一覧できる図表がある︒その一部はつぎの
ようにまとめることができる︒
次頁の図表︵
1
法国が同指令を国内化加したかまたは必要な盟の︶年によると︑二〇〇六八七月現在において︑一枠 組みを導入している︒そのうち︑オーストリア︑デンマーク︑フランス (チ二法内国の日〇月期五年五〇〇二た化限らー︑スロプキ︑ギをルべ︑がたっ守れめ英公および国が︑開買付指令で定 リア︑ー︑ガンハルイブランド︑ルクセンルグ 15)
ェコ共和国︑エストニア︑イタリア︑オランダ︑ポーランド︑スペインは︑まだ完全には国内法化措置を完了していな
い (
ー行かの公開買付指令のルいルの実可く能性を保証しているだけであるつ ( お︑はダンラオ︑りて︒アよおドンラーポ︑ニイトスエ︑ちうのそびタっ部ま止にのもな的分はリ化法内国るけおにア 16)
て期し過経にですが限の︒化法内国のられこ 17)
いる加盟国に対してどのような措置が具体的に執られるのか報告書では触れられていない︒
以下では︑まず︑加盟国が公開買付指令をどのような基準に従って国内法化すべきかを定めている一般原則︵公開買
付指令三条︶に触れ︑つぎに公開買付指令の要である目玉商品の国内法化の状況を見た後︑その調査結果に対して簡単
(五二三)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五四同志社法学 六一巻二号
(図表 1 ) EU 公開買付指令の国内法化の状況(2007年 1 月現在)
国内法化 中立義務 ブレーク・
スルー原則 相互主義 上場会社数*
オーストリア ○ ○ × × 93
ベルギー × × × ○ 136
キプロス × ○ × ○ 140
チェコ共和国 × ○ × × 31
デンマーク ○ × × ○ 180
エストニア × ○ ○ × 16
フィンランド ○ ○(注1) × × 138
フランス ○ ○ × ○(注2) 647
ドイツ ○ × × ○ 650
ギリシャ ○ ○ × ○ 289
ハンガリー ○ ○ × ○ 44
アイルランド ○ ○ × × 55
イタリア × × × ○ 284
ラトビア ○ ○ ○ × 40
リトアニア ○ ○ ○ × 43
ルクセンブルグ ○ × × ○ 37
マルタ ○ ○ × × 13
オランダ × × × ○ 223
ポーランド × × × ○ 246
ポルトガル ○ ○ × ○ 47
スロバキア ○ ○ × × 214
スロベニア ○ ○ × ○ 107
スペイン × ○ × ○ 224
スウェーデン ○ ○ × × 269
英国 ○ ○ × × 2876
(出所:Report, supra note 5, Annex 1.)
* 2006年 8 月現在における数。OMX Nordic Exchange(スウェーデン、フィンランド、デン マーク、エストニア、ラトビア、リトアニア)で上場している会社を除いて、同一の国に おいて上場しかつ登記している国内会社である。
注 1 : 事後的防衛策の株主総会の同意に関して定める法律で中立義務を規定するのではなく、
フィンランドがEU委員会に報告した内容である。
注 2 :取締役会の中立義務についてのみ相互主義を導入する。
(筆者注) なお、EU加盟国として、2007年には、ブルガリア・ルーマニアが新たに加盟し、
2008年にモンテネグロおよび2009年 4 月にアルバニアがEUに加盟申請している。
(五二四)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五五同志社法学 六一巻二号 に総括したい (
︒ 18)
第三節 取締役会の中立義務とブレーク・スルー原則の国内法化 公開買付規制問題の核心は︑会社が用いることができる買収防衛策に対する規制である︒﹁事後的防衛策﹂も﹁事前の防衛策﹂も︑株式の取得または株主総会における支配権の行使を妨げることができ︑公開買付を困難にするかまたは
その費用を増加させる︒その結果︑現経営者および・あるいはある種の株主が自己の地位を保身することができることになる︒公開買付指令は︑取締役会の中立義務とブレーク・スルー原則の導入によってこのような事態に対処する︒
ア 取締役会の中立義務の採用 (
19)
取締役会の中立義務は︑公開買付期間の間は︑公開買付を妨げる行為をするには事前に株主総会の授権をえておかなければならないというもので︑事後的防衛策に関係する︒これについて︑二五カ国の加盟国のうち一八の加盟国が中立
義務を課している︒しかし︑一四カ国のうち︑一カ国を除いて︑英国︑フランス︑スペイン︑アイルランド︑スウェー
デンなど一三カ国においては︑中立義務は新しい観念ではなく︑同様もしくは類似の義務をすでに定めている︒中立義務は︑株主の利益を犠牲にして敵対的企業買収を阻止する取締役の権限を制限し公開買付を容易にする︒現経営者の日
和見的行為から株主を保護し︑会社の将来について決定する株主を保護するからである︒この義務の国内法化は︑幾つかの加盟国では株主の地位の明確化または強化に役立つ︒しかし︑報告書は︑この点についてさらに将来において分析
する必要があるとする (
︒ 20)
(五二五)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五六同志社法学 六一巻二号
イ ブレーク・スルー原則の採用 (
21)
公開買付される前に対象会社がすでに定款や個別の契約で議決権の制限などを定めていても︑買付者に対してその効力が及ばない︒さらに︑公開買付により七五パーセントの株式を取得した買付者が︑株主総会を開催して当該定款を改
正し︑取締役を解任できることを認めるブレーク・スルーの原則は︑事前に防衛策を設けても当該防衛策を機能させないことによって公開買付を容易にする︒これは︑資本と支配の均衡という原則に基づいている︒
ブレーク・スルー原則を国内法化したのはバルチック諸国の加盟国である︒導入しなかった大多数の国においては︑導入するかどうか会社の選択に委ねる︒EUにおいて上場会社の一パーセントが義務的に適用するにすぎない︒ドイツ
では︑会社法が複数議決権株式をすでに破棄している︒フランス︑イタリアは︑部分的なブレーク・スルーを適用する︒公開買付が容易になるかどうかは︑会社がこのルールを導入するかどうかによる︒その場合︑つぎの三つの問題がある︒
まず︑会社が任意にブレーク・スルー原則を導入するには︑総会において特別な権利を有する者または大多数の株主の同意が必要である︒しかし︑同意を得るのは容易でないため︑その採用は簡単ではない (
︒また︑会社がこのルールを 22)
採用してもすべての事前防衛策を突破できることにはならないため︑この原則が適用されない別の防衛策を備えることになる︒そうすれば︑相互主義ルールによるしっぺ返しは受けなくなる︒最後に︑会社が任意にブレーク・スルー原則
を採用しても︑買付者が対象会社を支配した場合は︑この決定を直ちに取り消すことができる︒会社が取り消せば︑市場を混乱させることになる (
︒ 23)
結局ブレーク・スルー原則を導入しても︑すべての事前防衛策を突破できることにはならない︒ (五二六)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五七同志社法学 六一巻二号 ウ 相互主義原則の国内法化 (
24)
相互主義のルールも妥協の産物である︒大多数の加盟国が相互主義を導入している︒しかし︑その理由は様々である︒
その一つは加盟国間の規制競争に対する懸念である︒経営者が公開買付に対して広範な権限を有することを認める国の会社が有利になることに対して自国の会社を保護することである︒さらに︑会社が公開買付の申込に対して柔軟に対処
できるという理由もあげられている︒
中立義務を取締役会に課す一三カ国のうち︑フランス︑ギリシャ︑ハンガリー︑ポルトガルとスロベニアの五カ国は︑
中立義務に関して相互主義を導入した︒これらの諸国では︑経営者が株主の承諾えずに公開買付を阻止できる権限を強化することになる︒しかし︑そのような展開は︑開かれた公開買付市場の出現を抑制することにつながる︒さらに︑相
互主義の下では︑株主が事前に防衛策について経営者に承認を与える場合︑公開買付期間中に経営者が提案してきたときに即座にその妥当性について判断するのが困難になる︒そのため︑相互主義は︑株主利益を犠牲にして経営者が潜在
的な濫用の可能性を与える (
︒ 25)
ドイツ︑オランダ︑ベルギー︑ルクセンブルグのように︑相互主義の導入の決議要件を中立義務やブレーク・スルー
原則の決議要件よりも軽減している国もある︒相互主義を国内法化する主要な利点は︑公開買付を失敗させる力を経営
者に与え︑中立義務やブレーク・スルー原則を導入しないことを会社に容易にさせることにある (
︒ 26)
第四節 調査結果に関する評価 EU委員会は︑加盟諸国の国内法化の状況に関する今回の調査報告書において︑一方では指令の影響について予測す
(五二七)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五八同志社法学 六一巻二号
ることが困難であると結論づけたが︑他方では公開買付防衛策に関する指令のルールを任意に国内法に組み入れる基準
を設けることができたものと評価した︒このことは︑防衛策の開示ルールについてあてはまる︒それに対して︑取締役会の中立義務の導入は︑かえって欧州の会社支配市場の出現を抑制する危険があることを指摘し︑さらに︑ブレーク・
スルー原則も短期的には大きな利点をもたらすことができないことを認める︒
調査によって判明したことは︑大多数の加盟国が公開買付を容易にすることを非常に嫌がっていることである︒さら
に︑取締役会の中立義務については︑会社支配市場について新たな障害をもたらすことに終わるかもしれない︒また︑公開買付指令を保護主義的と思われるような仕方で国内法化する国の数が大きかったことである︒このことは︑委員会
には意外であったとされる︒そのため︑指令のルールが適用され︑実務で機能する方法を慎重に検討し︑さらに︑加盟国が指令の基本的ルールを支持することを嫌がる理由を分析し︑二〇一一年に予定されている見直しの折りに指令を改
訂する (
早︒述とるあもとこるめをるれそ︑はてっよに合場べ 27)(
︒ 28)
公開買付指令で認められた選択権が行使されると︑EU市場には統一した法規制が生まれない︒そうなると︑長期的
には︑開かれたEU市場の競争力を強化する公開買付がすべての株主と会社の最善の利益であるというEU委員会の基本的構想と想定に狂いが生じることになる︒そのような方向性に向かう恐れが強いとして︑採用について選択権を認め
たときにすでに規制が骨抜きされたとする厳しい批判が浴びせられていた (
判っのそ︒るいてなととのもるすき書こはにつに的終最ていに︑付買開公が主株裏さうやこのよな冷やかな見通しをま 員調の会︒委UE結査限果は︑現状を見るり︑ 29)
断するという基本的構想を支える社会経済的な共通認識の存在︑またさらにはEU市場に︑全体として公開買付ルールの平等化を緊急に必要とする会社支配権市場がそもそも十分に成熟しているのか基本的な疑念を抱かせる︒次に︑これ
らの点についてはまったく疑問の余地がない英国の公開買付指令の国内法化の状況を照射しよう︒ (五二八)
英国におけるEU公開買付指令の国内法化五九同志社法学 六一巻二号 ︵
︵ 12Article3.︶
︵ e2でで下以︑でのるあ株式はのな的表代︒︶︶は宜便者︒るす記表と主株を有上保の券証価有︑式株︵ 13clertiAるされてい︒規定義規定によ定たとば者有保の券証価有はで文本れ有︑﹁れ渡可能な有価︶ 券である︵さ譲与付を権決議︑はと﹂券証価証
︵ 14Article32.︶ ︵︶
︵ 巻付規制の現状平成法政研究一〇﹂二〇号︒照参︶六年〇二︵頁七二一 七三〇〇二︵下以頁三四六一号二一巻五務︶︒年るなス買開公式株事けおにンおラフ﹁子樹眞口江︑法商おに国﹂施実の令指付買開公るけ際 15フ︒たし現実日を化法内国に二一三月三年六〇〇ン︑はスンラフラ︶ スつスンラフ﹁一栄田泉︑はていにに要概の況状法の法内国るけお化 , tzÜbernahmichtlinie-Umseerun. gs0620. 78. vtzsege年以七〇〇二︵下八頁三四六一号巻照︶参︒お︵法法内国るけ化にイドの令指同ツ 頁七号四二七二以下︵〇〇三一内法同﹂案草府政化法年国の令指付六令︶︑付五泉務法事商際国﹂施実の指三買イ開田一﹁ド栄ツおける公に E令指付買一開公三第U国のに内法化︱ドイツおける公開買稿﹁拙八化月日に﹁公開買付指︑の国内法令法法は﹂ていつに同︒たし定制を 八﹂︵同法二以六号三四四頁︱定制の律法るす関に収買びよお得︵下適二合七年六〇〇二︑にめたるせさ券〇に令指UEを︶照参︶年二〇取 16証た収買びよお法得取券証価有し︵定制に年一〇〇二︑はツイド法本価開有ツイド︱開展新の制規付買公法式株ツイド﹁稿拙はていつに︶
BGBl.1426.︶の邦訳として︑拙訳﹁ドイツ有価証券取得法と公開買付法﹂同法三二三号一七五頁以下︵二〇〇七年︶︑泉田栄一﹁ドイツの株式等の公開買付に関する規定﹂︵明治大学︶法科大学院論集三号三二三頁以下︵二〇〇七年︶がある︒︵
︵ teRept, supra noor5ara. 1.2., p案れた公式提いによってる︑出さ 17がるていつに料資報情の国盟加あ︑に階段の了未が化法内国だまは加E提U委員会にその過程におい︶ 供盟した国内法草案や議会に提国て ト議トンセーパ二もとくな少の決は取たま本資権決議にらさに内以を権得直︑セーパ〇三の接間はたま接ンの対権イツは︑ド象社の議決会 得ト上の取決よ︑おび︑議セン三ーパ三三・三の権決議はたま本権資ました一が者有保のトンセーパ〇五年い三は議決権の三パーセントな 利盟これを強用している︒範にの広は国盟加︑でるいてめ認に国的制つ義フ本資るあの権決議︑はスン務ラ︑の的公開買て付トリガーにい ep9t t aorRラと指令は強制的公開買付義異まなる内容を定めることを加︶︒務でパのがあるが︑多数の国は三〇キーてバツ︵いるしとトンセ A5clertiが変更少した場合に配数権主支︑りあで︶︵度制ういとう株値を盟保ンセーパ六六らか五二で間国ト加配はする︒支護権取得の閾の 支︑会社のたを配権獲得し務は強義付買開公的制︑ずま︑とみるは者を公る務義る取い買てべすを式株あ正の権決議の社会該当で格価な負 18て︑数少︑権し出締の主株配支付主買開公的制強︑は書告報査調株のい︶ つに点な要主︒るいでん及も況株状の化法内国の権求請取買式に
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