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特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認

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特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認

著者 井関 涼子

雑誌名 同志社法學

巻 60

号 6

ページ 83‑118

発行年 2009‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011535

(2)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八三同志社法学 六〇巻六号

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認

井 関 涼 子

  (二五一九)

                         

(3)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八四同志社法学 六〇巻六号

  (二五二〇)

                          

一.はじめに

  特許権の存続期間延長制度は、医薬品につき薬事法による製造承認を受けるまでに相当の期間を要するところ、その

間、特許権者は特許発明を実施できず特許期間が侵食されるため、特許発明を実施できなかった期間、存続期間を延長するものとして、一九八七年に新設された。特許権の存続期間は、発明の独占的実施により開発投資を回収する特許権

者と、早く最新の技術を自由に実施したい公衆との利益の調和点として設けられており、存続期間満了後は、万人がその特許発明を自由に実施しうることは、特許制度の根幹をなすものである。また、存続期間の長さについて、発明の種

類や重要度に応じて差を設ける制度も考えられるが、現実にはそのような判断は極めて困難であるため、法は、すべて

(4)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八五同志社法学 六〇巻六号 の発明について一律に特許出願日から二〇年間を存続期間として定めている(特許法︹以下﹁特﹂と略称︺六七条一項

す当あり、かつ、個別的な妥性のよりも画一的処理を優先でものるように存続期間が公衆利こ益に大きな影響を与えの )。 1)

る制度を採用している趣旨に鑑みれば、特許権の存続期間を延長することは、本来、制度の根本に反する問題をはらむといえる。しかしながら、医薬品の製造承認に関する薬事法の規律により存続期間が侵食される場合は、看過し得ない

不公平が類型的に生じ、画一的処理や公示制度にもなじむため、例外的に存続期間延長制度を導入したものである

2)

  存続期間延長の要件として、特許法六七条二項は、特許発明の実施について安全性の確保等のために法律の規定によ

り処分が必要とされ、このため特許発明を実施できなかった期間について、特許権の存続期間を延長できると規定する。この﹁法律の規定による処分﹂は政令で定められ、薬事法及び農薬取締法による医薬品等の製造承認などを指している

が、立法に当たっては、薬事法、農薬取締法以外にも政令で適用分野を拡大する場合に対応し得るように、条文は一般的な規定となっている。このことが原因で、実際に延長登録出願がなされるのは、薬事法に基づく医薬品の製造承認に

基づく場合がほとんどでありながら、医薬品の製造承認の場合に適用する規定としては曖昧さを残しており、様々な解釈があり得るため、紛争が生じている。すなわち、延長登録の要件の一つは、その特許発明の実施に当該処分を受ける

ことが必要であったことであるが、類似する医薬品について複数の製造承認がなされた場合に、各医薬品について延長

登録を受けることができるかという問題である。

  これにつき裁判例は一貫して、医薬品に対して延長登録を受けることができる処分の単位は、有効成分と効能・効果

により定まると解してきた。そして、最近、異なる特許権を対象にした処分に基づく延長登録出願であっても、有効成分と効能・効果が同一の処分が過去になされていたことを理由に、延長登録を認めないという判決が出された。これに

よれば、有効成分以外に特徴を有する特許発明については、延長登録による保護を受けられないこととなる。

  (二五二一)

(5)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八六同志社法学 六〇巻六号

  ここで問われているのは、延長登録の可否の問題だけではない。発明内容により特許法上の取扱いを変えることや、

法律に規定しない事項をどこまで解釈により判断できるかという、特許法の解釈における根本的な問題にまで立ち返って考えることが求められているのである。また、類似の制度が国際的に広く存する中で、国際的に整合性をとるという

ことの意味を考えさせる問題でもある。

  そこで、本稿では、我が国における、裁判例の考え方や立法趣旨を分析し、欧米の制度との比較も交え、このような

問題を考察する。

二.複数の製造承認と存続期間延長登録が問題となった裁判例

  特許権の存続期間延長登録出願は、その特許発明の実施に当該処分を受けることが必要であったとは認められないときは、拒絶される(特六七条の三第一項一号)。そこで、類似する医薬品に対して製造承認が複数ある場合に、各製造

承認を受けるまでは、当該医薬品を製造することはできなかったとして、それぞれの製造承認について延長登録を受けることができるかというのが、本稿における問題である。次に述べるように、裁判例は一貫して、医薬品の有効成分と

効能・効果が同一である製造承認が複数ある場合は、延長登録出願は最初の処分のみに基づいて可能であると解釈している。最近の判決では、最初の処分によっては特許発明の実施が全くできなかった場合についても、特許発明の実施を

初めて可能にした処分に基づく延長登録を認めないと判示し、特許法の文言上、疑問であるとして議論が起きている。そこで、以下でこの問題を巡る裁判例を分析するが、最初の処分により当該特許発明を実施できた場合と、実施できな

かった場合では、問題状況が異なると考えられるため、これら二つの場合に分けて検討する。

  (二五二二)

(6)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八七同志社法学 六〇巻六号一.最初の処分により当該特許発明を実施できた場合

①   東京高判平成一〇 ・ 三 ・ 五判時一六五〇号一三七頁〔フマル酸ケトチフェン〕

  この事件では、当該特許権の通常実施権者が、有効成分をフマル酸ケトチフェン、効能・効果をアレルギー性鼻炎の

点鼻液とする製造承認を受けたことについて存続期間延長登録出願をしたが、同じ通常実施権者が、過去に同一有効成分につき、効能・効果をアレルギー性鼻炎の内服カプセル剤とする製造承認を受けていたことを理由として、延長登録

を認めなかった。判決は、薬事法上の製造・輸入承認が、有効成分、効能・効果のみならず、剤形、用法等を特定した品目単位で行われていても、当該医薬品の有効成分、効能・効果から、特許発明の実施と認めるために必要なその物及

び用途が特定されること、また、延長後の特許権の効力を定める特許法六八条の二から、同じ有効成分を含有する製剤であれば、剤形に錠剤、カプセル剤、点鼻液等の違いがあってもそれぞれ別の﹁物﹂﹁用途﹂とみることなく、いずれ

の剤形についても延長後の特許権の効力が及ぶとともに、既に特許発明の実施と認められる処分(傍線筆者)がなされている以上、剤形を異にする医薬品について薬事法の定める処分が必要とされるからといって、これを別の﹁物﹂﹁用途﹂

についての特許発明の実施とみるべきではないと判示した。また、この事件では、最初の処分がなされた時に存続期間延長制度が創設されていなかったため、一度も延長登録がなされていなかったが、判決は、遡及適用することは過去に

生じた具体的な権利義務関係に重大な影響を及ぼすから、本制度導入につき経過措置は設けられていないとして、この点を考慮しなかった。

  (二五二三)

(7)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八八同志社法学 六〇巻六号

②   東京高判平成一二 ・ 二 ・ 一〇判時一七一九号一三三頁〔塩酸オンダンセトロン〕

  この事件で特許権者は、塩酸オンダンセトロンを有効成分とし、抗悪性腫瘍剤投与に伴う消化器症状の軽快という用途について適用対象を成人に限る製造承認を受けていたが、二年後に、同じ有効成分、効能・効果につき小児をも適用

対象とする製造承認を受けたため、後者の承認を理由として延長登録出願をしたが、前者の承認を受けていたため延長登録は認められなかった。判決はまず一般論として、本制度に関する問題解決に当たっては、処分を受ける必要のため

に特許発明の実施が相当期間妨げられる事態が、特許期間内における実施を含む特許発明の独占的支配を保障した特許制度の基本と反する一方、存続期間経過後は特許発明の実施を万人に許すことも制度の基本の一つであって、期間経過

後、特許発明を利用しようとする第三者の側からは、存続期間延長は本来あってはならないことから、特許権者と第三者の双方の観点から考慮すべきであるとの前提を述べた。その上で、特許法六八条の二は、延長後の特許権の効力につ

き、一方で処分と無関係な範囲には及ぼさないとし、他方で、延長後の特許権者の権利主張の実効性確保のため、処分単位で認めるのではなく、処分対象の物と特定の用途についての実施全般にまで拡大して及ぼしたものであることを考

えると、処分対象そのものを単位に期間延長を認めれば、特許権者に浸食︹判決文ママ︺された以上のものを与える一方、第三者には存続期間経過後も特許発明の実施ができない範囲を不当に拡大することになるとし、よって、﹁所定の

有効成分、効能・効果を有する医薬品について製造承認を得た特許権者は、その有効成分、効能・効果を有する医薬品に関して、特定の品目に限ってであれ、特許発明を実施することができるようになっていたのであるから(傍線筆者)、

同じ有効成分、効能・効果の範囲内で、剤型、用法、用量等の変更の必要上、再度処分を受ける必要が生じたとしても、特許期間の登録延長を認めることはできない﹂とした。なお、この事件は、侵食期間が二年以上であるという延長登録

の要件が削除された平成一〇年特許法改正より前であったため、最初の承認では、侵食された存続期間が二年未満であ

  (二五二四)

(8)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認八九同志社法学 六〇巻六号 って要件を満たさず延長登録をなし得なかったという事情があったが、これによる不利益は、特許権者自身の処分取得の仕方における工夫により回避すべきものとされた。

③   知財高判平成一七 ・ 五 ・ 三〇判時一九一九号一三七頁〔ラミブジン及びジドブジン〕

  この事件で特許権の通常実施権者

、薬と法療用併のと品医てるすとンジブドジをし、成たに後り余年二、がい先てけ受を認承造製の分効、るけおに症染有 はブ医るすとンジ分ミラを品成効有、薬効にエ感VIH、ズイ、つを果効・能、き 3)

有効成分をジドブジン及びラミブジン、効能・効果をHIV感染症とする製造承認を受けた。いずれもHIV感染症の治療に対するものとして同一であり、相違点は、先の承認がラミブジン単剤であるが、後の承認はラミブジン及びジド

ブジンを含有する錠剤である点であった。原告は、特許法六八条の二の﹁処分の対象となった物﹂は、当該承認書の有効成分欄により特定すべきであると主張したが、判決は、承認書の効能・効果の欄の記載成分も例外的に﹁処分の対象

となった物﹂を特定する有効成分に含まれる場合があり、この事件における先の承認は、実質的にはラミブジンとジドブジンの両方を有効成分とする医薬組成物の製造承認と同一視でき、原告は、今回の承認を待つまでもなく、先の承認

によりこの特許にかかる発明を実施することができた(傍線筆者)と判示して、延長登録を認めなかった。

④   知財高判平成一九 ・ 一 ・ 一八平成一七(行ケ)一〇七二四号裁判所HP〔ピリジン誘導体潰瘍治療剤〕

  この事件では、延長登録を受けるためには、有効成分と効能・効果という観点から処分を受ける必要があり、先の処分における﹁物(有効成分)﹂と﹁用途(効能・効果)﹂が当該処分と同一である場合は延長登録は認められないという

点については争われていない。争点は、同一の有効成分に対する処分について、先の処分に係る効能・効果である﹁逆

  (二五二五)

(9)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九〇同志社法学 六〇巻六号

流性食道炎﹂が当該処分の﹁再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法﹂と同一かどうかであった。判決は、効能・

効果の異同は、製造承認書の形式的な記載により直ちに決するわけではないが、適用対象となる疾患名が同一の場合は、病態等に照らして実質的に異なる疾患であるとか、当該治療法における医薬品の薬理作用が異なるなどの事情がない限

り、その用途(効能・効果)は同一であると判示し、この事件ではそのような特別な事情は認められないから、先の処分と当該処分は同一であるとして延長登録は認められなかった。

二.最初の処分により当該特許発明を実施できなかった場合

⑤   知財高判平成一七 ・ 一〇 ・ 一一平成一七(行ケ)一〇三四五号裁判所HP〔水溶性ポリペプタイドのマイクロカプセ

ル化〕

  この事件は、最初の処分によって当該特許発明を実施することはできなかったケースに対する最初の判決である。原告は、水溶性ポリペプタイドを少なくとも一个月間にわたって持続的に放出させるように調節されているマイクロカプ

セル及びその製造方法の特許権を有し、有効成分を酢酸ブセレリン、用途を子宮内膜症等とする徐放性製剤について製造承認を受けたことに基づいて延長登録を出願したが、有効成分と用途が同一の点鼻薬について既に承認されていたこ

とを理由として延長登録を認められなかった。審決は、上記①東京高判平成一〇・三・五判時一六五〇号一三七頁︹フマル酸ケトチフェン︺及び②東京高判平成一二・二・一〇判時一七一九号一三三頁︹塩酸オンダンセトロン︺の両判決

に依拠して延長登録を否定したが、これらの判決は、最初の処分により延長出願にかかる特許発明の実施をできていた事案である点でこの事件とは異なるため、両判決で用いた論理のみによりこの事件の論理を展開するのは適当でないこ

とを判決は認めている。しかし、それにもかかわらず判決は、審決の基本的な推論と結論に誤りはないと判示した。す

  (二五二六)

(10)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九一同志社法学 六〇巻六号 なわち、当該第二処分を得るまで特許発明の実施をできなかったことは事実であるが、特許法の規定は、﹁物(有効成分)﹂と﹁用途(効能・効果)﹂という観点から処分の要否をとらえるものとして立法しているのであり、﹁物﹂と﹁用途﹂

の観点からは当該第二の処分を受けることが必要であったとはいえず、剤型を異にするという理由で第二処分が必要となったにすぎない。存続期間延長制度の立法趣旨は、新薬開発の保護が眼目とされ、具体的な剤型の発明の保護が念頭

にあったとは考え難いこと、特許発明が実施できないことから直ちに存続期間の延長を認める規定となっているものではないこと、もし、剤型レベルで実施できなかったことを理由に延長を認めるとすれば、パイオニア的な新薬の特許発

明ほど、各剤型を開発するごとに存続期間の延長は認められにくく、剤型レベルの特許としておくことで、個々の剤型ごとに延長を受けられる結果となることに鑑みても、審決の結論は正当であると判示した。

  判決は付言して、原告のような解釈が生じるのは、特許法の規定の曖昧さに起因していると述べている。すなわち、特許法の当該規定は、薬事法、農薬取締法以外にも政令で適用分野を拡大する場合に対応し得るように一般的な規定と

なっており、この判決が、延長の要件や拒絶事由に関する規定から直ちに説き起こすのではなく、特許権の効力に関する特許法六八条の二に依らざるを得なかったことも、薬事法の承認の対象となる医薬品に関する重要事項が、明文とし

ては他に見出されないからであり、このような重要な規律が実務の運用レベルでの指導に委ねられ、法律の規定として

は曖昧であることが問題の根源であると述べた。

⑥   知財高判平成一七 ・ 一一 ・ 一六判タ一二〇八号二九二頁〔眼灌流・洗浄液バッグ包装体〕

  この事件では、発明の名称を﹁眼灌流、洗浄液バッグ包装体﹂とし、発明の内容を、眼科手術時の眼灌流、洗浄等に 用いるグルタチオン溶液等を複室バッグに安定に収容し、上記液の炭酸ガス発生による

pH

変化を色調変化により目視

  (二五二七)

(11)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九二同志社法学 六〇巻六号

確認できる

pH

インジケーターを備えるものとする特許権に関し、有効成分をオキシグルタチオン、用途を眼科手術時

の眼灌流及び洗浄とする﹁オキシグルタチオン溶液含有キット﹂についての製造承認を理由として延長登録出願をしたが、有効成分、用途を同じくする先行処分を他社が受けていたことを理由として、延長登録は認められなかった。先行

処分によって当該特許発明の実施は可能ではなかった(原告は、先行処分は特定のガラス容器に含まれる液剤という形態についての承認であったと主張している

知判、概ね従前の決由、特に上記⑤は理録)。っかなめ認をた登長延が決判 4

財高判平成一七・一〇・一一平成一七(行ケ)一〇三四五号裁判所HP︹水溶性ポリペプタイドのマイクロカプセル化︺の理由付けを踏襲している。被告特許庁は、もし原告の主張を認めれば、パイオニア的な新薬についての広いクレーム

の特許発明であるほど存続期間の延長が認められにくく、剤型レベルの狭いクレームの特許発明であれば剤型の開発ごとに延長が認められることになるのは衡平を欠くと主張したが、原告は、剤型ごとに別出願とすれば重複特許の問題が

生ずる(特三九条)から、この議論は前提に疑義があると主張した。これに対して判決は、同日出願の場合は特許法三九条は問題とならず、上記不都合が生じると判示した。また、この事件における当該処分では、特許発明の本質的部分

である

pH

インジケーターに触れていないように、薬事法上の承認は、薬事法上の観点から重要でない部分は特定しないから、﹁物(有効成分)﹂と﹁用途(効能・効果)﹂の観点をいれずに特許発明の構成要件全部の実施のために処分が

必要か否かを判断するためには、特許発明の構成のうち薬事法上の観点から重要でない部分がどこであるかを判断しなければならなくなるが、これは法六七条の三第一項一号の予定しないものであると述べた。なお、判決は、前記⑤知財

高判平成一七・一〇・一一︹水溶性ポリペプタイドのマイクロカプセル化︺と同様に、紛争の原因は特許法の関係規定の曖昧さにあり、法規定の明確化を望む旨を付言している。

  (二五二八)

(12)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九三同志社法学 六〇巻六号

⑦   知財高判平成一九 ・ 七 ・ 一九判時一九八〇号一三三頁〔長期徐放型マイクロカプセル〕

  本件において原告は、﹁物﹂が﹁有効成分﹂を、﹁用途﹂が﹁効能・効果﹂を意味するという解釈を争ったにもかかわ

らず、この解釈が踏襲されたところに意義がある。原告は、二个月以上にわたってポリペプチドをゼロ次放出する長期徐放型マイクロカプセルの発明について特許権を有しており、酢酸リュープロレリンを有効成分とし、効能・効果を前

立腺癌とする、三个月製剤に対する製造承認に基づき延長登録出願をしたが、原告は、本件処分の一〇年前に、有効成分と効能・効果を共通にする、一个月製剤に対する製造承認を受けていたため、延長登録は認められなかった。

  判決は、特許権の存続期間延長制度と薬事法の製造承認の関係について、詳細な一般論を述べている。すなわち、薬事法上の製造承認は、名称、成分、分量、構造、用法、用量、使用方法、効能、効果、性能等を特定した品目ごとにな

されるが、特許法上、存続期間が延長された場合の特許権の効力は、処分の対象となった物(処分において特定の用途が定められている場合は、当該用途に使用される物)に対して及び(特六八条の二)、特許権の及ぶ範囲は処分対象と

なった品目には関係ない。そうすると、特許権の存続期間の延長登録出願を認めるかどうかの判断に当たっては、このような延長後の特許権の効力を定めた規定(特六八条の二)を考慮して、延長制度全体について統一的な解釈をすべき

であり、特許法は、延長登録出願は、処分の対象となった品目ごとにするのではなく、処分の対象となった物(処分に

おいて特定の用途が定められている場合は、当該用途に使用される物)ごとにすべきであるという制度を採用しているものと解される。すなわち、最初の処分は、その物(処分において特定の用途が定められている場合は、当該用途に使

用される物)について製造販売禁止を解除する必要があった処分であるから延長登録出願ができるが、(同じ物、用途についての)二度目以降の処分は、必要であったとは認められず、延長登録出願は拒絶される。そこで、特許法六八条

の二において、延長後の特許権の効力が、処分の対象となった﹁物﹂、処分において特定の用途が定められている場合

  (二五二九)

(13)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九四同志社法学 六〇巻六号

は当該﹁用途﹂に使用される物についての特許発明の実施に及ぶと規定するときの﹁物﹂及び﹁用途﹂が具体的に何を

意味するかが問題となるが、特許権の存続期間延長制度の立法経緯を検討すると、新薬の特許は﹁有効成分﹂又は﹁効能・効果﹂に与えられることが多く、薬事法上の医薬品の品目特定のための要素のうち、これらが新薬を特徴付けるこ

とが多いから、特許法は、﹁物﹂は﹁有効成分﹂を、﹁用途﹂は﹁効能・効果﹂を意味するものとして、﹁物﹂と﹁用途﹂という観点から存続期間延長制度を設けたと解される。そうすると、﹁物﹂及び﹁用途﹂の範囲は明確でなければならず、

これらを﹁有効成分﹂と﹁効能・効果﹂と解すれば範囲は明確であるが、そのように解さなければ範囲が極めてあいまいとなり、法的安定性を欠くことになる。

  原告は、﹁物﹂と﹁用途﹂が同一の医薬品であっても、最初の処分と後の処分が異なる特許権を対象としている場合は異なると主張するが、法は存続期間延長制度については﹁物﹂と﹁用途﹂の観点のみから規定し、特許権の個数につ

いては規定せず、また、原告の見解を採用すれば、特許請求の範囲が広い特許を取得すると一回しか延長は認められないが、特許請求の範囲が狭い特許を取得すると複数の特許権の延長が認められるということになり、特許権をどのよう

に取得するかによって延長が認められる回数が異なるという結果を招く。

  また、剤型、用法など﹁有効成分﹂と﹁効能・効果﹂以外により特徴付けられる新薬については特許権の存続期間が

延長されない場合が生ずることになるが、現行の延長制度は合理的な理由を有するものであるから、そのような場合が生じても、憲法一四条に違反するものではない。

  このように判示して、本件では有効成分と効能・効果を共通にする処分が過去になされていたことを理由として、本件特許発明を実施するためには当該処分を受ける必要があったにもかかわらず、﹁﹃物(有効成分)﹄と﹃用途(効能・

効果)﹄という観点からは﹂、当該処分は必要ではなかったとして、延長登録を認めなかった。

  (二五三〇)

(14)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九五同志社法学 六〇巻六号

⑧   知財高判平成一九 ・ 九 ・ 二七平成一九(行ケ)一〇〇一六号裁判所HP〔ベクロメタゾンエアロゾル製剤〕

  この事件では、発明の名称を﹁ベクロメタゾン一七、二一ジプロピオネートを含んで成るエアロゾル製剤﹂とする医

薬品特許について、有効成分をプロピオン酸ベクロメタゾンとする製造承認の、﹁気管支喘息﹂とする用途が、先の承認の用途である﹁気管支喘息全身性ステロイド剤依存患者におけるステロイド剤の減量または離脱、ステロイド剤以外

では治療効果が十分得られない患者﹂と同一かどうかが争われた。判決は、いずれの承認も適用対象は﹁気管支喘息﹂として同一の疾患であり、今回の承認が﹁ステロイド剤ではない薬剤で治療効果が十分得られる患者﹂をも対象とする

という相違は、重症度の違いに止まり、病態が異なる実質的に異なる疾患であるとはいえず、医薬品の薬理作用の点でも、先の承認の製剤のフロンを代替フロンに置きかえた新剤型医薬品であって薬理作用が異なるともいえないから、両

承認の用途(効能・効果)は同一であると判示した。原告の発明は、今回の承認を受けるまでは一切実施できなかったから延長要件を満たすという原告の主張については、特許法六七条の三第一項一号は、薬事法上の観点からではなく特

許法としての独自の観点(すなわち、物︹有効成分︺及び用途︹効能・効果︺という観点)から延長要件を定めているとして退けた。

三.裁判例の分析

  このように、裁判例は、医薬品の有効成分と効能・効果を等しくする製造承認ごとに延長登録を認める立場を採用し

ている。この解釈の根拠は、延長に係る特許権の効力が、処分対象と﹁物﹂及び﹁用途﹂を等しくする範囲で及ぶため(特六八条の二)、延長登録の範囲もこれと統一的に解釈する必要があると考え、医薬品において﹁物﹂は﹁有効成分﹂を、

﹁用途﹂は﹁効能・効果﹂を意味すると解するところにある。

  (二五三一)

(15)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九六同志社法学 六〇巻六号

  そもそも、類似する医薬品に対して製造承認が複数ある場合に紛争が生じる原因は二つある。第一に、延長登録の要

件を定めた特許法六七条二項、同六七条の三第一項の規定が曖昧であるため、延長された特許権の効力を定める特許法六八条の二に依拠して延長登録の要件を判断している点である。第二に、薬事法上の処分が品目ごとに行われるのに対

し、六八条の二は延長特許の効力を﹁物﹂と﹁用途﹂により画し、その﹁物﹂及び﹁用途﹂の意味も明確ではなく、処分の範囲と一致しないと解されている点である。そこで、次に、特許法六八条の二に規定する、延長登録後の特許権の

効力の及ぶ範囲をどのように解すべきか、そして、そこでいう﹁物﹂及び﹁用途﹂は何を意味するかについて、学説等を中心に検討する。

三.延長登録の対象となる薬事法の製造承認と、存続期間延長後の特許権の効力範囲

一.特許権の本質的効力と存続期間延長制度

  特許権の存続期間延長制度は、薬事法等の規制により特許発明の実施が妨げられることにより侵食された存続期間を回復する制度であると説かれるが、特許権の効力との関係で、﹁存続期間が侵食された﹂とは、そもそもどのようなこ

とを意味しているだろうか。これは、特許権の効力の本質をどのように考えるかにより、意味が異なると思われる。

  特許権の本質を巡っては、これを、特許発明を独占的に現実に実施することができる権利であると捉える専用権説と、 他人をして特許発明を実施せしめない権利であると考える排他権説との対立がある

つるら区別の実益がないと論じられこるばに明発用利、えと例、がい多もかうる者きし結果、特権許自ら独占的に実施 他我が国では、。人の実施を禁止で 5)

いて同日出願に係る特許権が成立した場合に、特許法七二条は同日出願について規定しないから、専用権説に立てば、

  (二五三二)

(16)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九七同志社法学 六〇巻六号 利用発明の特許権者も被利用発明についての特許権の制約を受けずに自らの特許発明を実施しうるが、排他権説に立てば、自ら実施する権原は持たないため実施できないことになるなど、結論を異にする場面もある。

  特許権の存続期間延長制度は、特許権の本質を如何に考えるかにより、解釈が相違する場面であると思われる。薬事法上の製造承認を得るまでの間は特許発明の実施が妨げられるとはいうものの、その間も他人の実施は変わりなく排除

できる。すなわち、特許権の排他的効力は些かも侵食されてはいない。したがって、侵食された特許期間を回復するというのは、自ら独占的に実施できる効力が侵食されたために、これを回復するということに他ならないのであり、この

ような考え方に立って存続期間延長制度を立法している我が国は、特許権の効力を専用権であると考えていると解される。

  一方、米国は、存続期間延長制度を世界に先駆けて導入したのであるが、米国特許法は、特許権を排他権であるとする立場に立っていることは、争いのないところである

すは施実を明発許特に者権許特、権許特もそもそ、てっがたし。 6

る権利を与えるものとは考えられていないから、米国における存続期間延長制度について、特許発明を実施する効力が妨げられた期間を回復するという趣旨は成り立たない。米国においては、後述するように、特許権者である先発医薬品

メーカーと、特許期間満了後の医薬を販売する後発医薬品メーカーとの双方の利益のバランスを図るための総合的な政

策立法の一部として、存続期間延長制度が導入されたのであり、日本法とは、立法の経緯も根拠も全く異なるものである。特許権の本質的効力をどのように考えるかという制度の根本に立ち返っても、両国の存続期間延長制度が、異なる

考え方に立って成り立っていることが理解できる。

  (二五三三)

(17)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九八同志社法学 六〇巻六号

二.延長登録後の特許権の効力の解釈

  このように、我が国では、薬事法の製造承認を得られるまで特許発明を独占的に自ら実施できる効力が妨げられていた期間について、存続期間を回復するという趣旨から設けられた存続期間延長制度であるところ、それでは、延長登録

後の特許権の効力は、どのように解されるだろうか。

  薬事法一四条一項の製造承認の範囲と、特許法六八条の二に規定する存続期間延長後の特許権の効力範囲の関係につ

いては、早くから論じられてきた。薬事法の承認の範囲は、﹁用法、用量﹂など細かな項目により極端に狭く特定されるが、これをそのまま期間延長後の特許権の効力範囲であるとすれば、延長後に特許権を行使できるのは、承認の対象

となった医薬品と全く同一の製品に限られ、第三者が当該特許物質を同一の効能・効果を有する医薬品として実施して

も、剤型などを少し変更するだけで特許権が及ばなくなる。これでは特許権の期間延長の実効性に欠けるため、特許法六八条の二において、延長後の特許権の効力は処分対象より広く、物と用途を共通にする範囲に及ぶと規定したという

のが、特許庁の解釈である。②東京高判平成一二・二・一〇判時一七一九号一三三頁︹塩酸オンダンセトロン︺における被告特許庁の主張によれば、延長登録制度導入に際しては、厚生省に承認された通りの品目単位の狭い範囲で実施不

可であったか否かを審査し、延長を認められた期間内は、その効力を厚生省の承認単位で認めるという制度も考えられ、これは一見明快であったが、例えばある医薬品に関し、一回につき一錠(一〇㎎)という﹁用量﹂を投与するという品

目に承認があり、これに基づいて効力が延長された場合、一回につき一錠(一五㎎)の﹁用量﹂を投与するという他者の製品に対しては権利主張できない、﹁粉剤﹂の承認に対し﹁錠剤﹂には権利主張できず、製造方法が異なっても権利

主張できない等、ほとんど実効が上がらないことが懸念され、この案は採用されなかったとされている

うじ方が広いという不一致が生る囲こととなり、この不一致に伴の範範よ薬事法の承認のの囲り、延長期間中の特許権 すそう。ると、 7)

  (二五三四)

(18)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認九九同志社法学 六〇巻六号 不利益は、特許権の効力範囲を広く認められる利益を受ける特許権者の側で甘受せざるを得ないことを承認すべきであるという見解が唱えられた

た製﹂と﹁用途﹂が、造﹁承認の対象となっ物のは二だし、この議論、。特許法六八条のた 8

医薬品より広い範囲を指すべきであるというにとどまり、それがなぜ﹁有効成分﹂と﹁効能・効果﹂を指すことになるかという根拠について論じられていたわけではない。このように考えられていた時期は、延長制度導入から日の浅い頃

であって、有効成分や効能・効果以外に特徴を有する特許発明、すなわち、近年開発が進んできた、いわゆる

D ru g

D eli ve ry S ys te m

と呼ばれる、有効成分の効力発現方法等にかかる技術が未だ知られていない時代の議論であったこと

に注意を要すると思われる。

三.最初の処分と特許発明の実施との関係

  このように、最初の処分により延長された特許権の効力が、処分の範囲を超えて物と用途を共通にする範囲で及ぶと

解釈すると、仮に、その同じ範囲でなされた後の処分を理由として再び特許権を延長するならば、既に延長済みの範囲について延長期間が増加する可能性が生じ不当であるから、このような延長を認めないとする帰結が導かれることは頷

ける。上の二一.で検討した裁判例が判決理由としているように、最初の処分により当該特許発明を実施できていた

のであるから、そもそも、後の処分があるまで特許発明の実施ができないことにより存続期間が侵食されていたともいえない。

  しかし、この論理が妥当するのは、最初の処分により特許発明の実施が可能になっていた場合に限られるであろう。すなわち、二二.で検討した、最初の処分により当該特許発明を実施できなかった事例については、このケースが問

題になった最初の事件である⑤知財高判平成一七・一〇・一一平成一七(行ケ)一〇三四五号裁判所HP︹水溶性ポリ

  (二五三五)

(19)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇〇同志社法学 六〇巻六号

ペプタイドのマイクロカプセル化︺において判決も認めるように、最初の処分により当該特許発明を実施できていたと

いう理由は存在しない。重複した延長の排除という論理は妥当しないのである。この類型にあって判決が根拠とするのは、特許法の規定は、﹁物(有効成分)﹂と﹁用途(効能・効果)﹂という観点から処分の要否をとらえるものとして立

法しているという解釈である。

四.学説

  しかし、特許法六八条の二にいう﹁物﹂を有効成分、﹁用途﹂を効能・効果と解釈する根拠は、説得力のあるもので

はなく、学説上、この点に関しては疑義が唱えられている。例えば、同じ有効成分について別の特許発明に関し既に処分がなされていれば、剤型について如何にパイオニア的な特許発明がなされようとも存続期間の回復は図られないのに

対し、剤型の特許発明に関し有効成分を異にする限り、何度でも延長が可能になるのは不合理であることが指摘されている

9

  また、上記⑦知財高判平成一九・七・一九判時一九八〇号一三三頁︹長期徐放型マイクロカプセル︺において、原告が、﹁物﹂と﹁用途﹂が同一の医薬品であっても、最初の処分と後の処分が異なる特許権を対象としている場合は異な ると主張したことに対して、そのように解すれば、特許請求の範囲の取得の仕方の広狭により延長が認められる回数が異なることになり妥当ではないと判示しているが、剤型ごとに別出願とすれば重複特許の問題が生ずる(特三九条

)。 10

したがって、対象となる特許権が異なる場合には延長登録を認めると解しても、判決のいう不都合は生じないと考えられる。現実問題としても、広い範囲の特許が取り得るのに狭い範囲の特許を取得するという前提に問題があるという指

摘もある

11

  (二五三六)

(20)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇一同志社法学 六〇巻六号   このような理由により、特許法六八条の二にいう﹁物﹂は有効成分を指すという解釈に反対し、同条の﹁物﹂は、処分の対象となった﹁医薬品﹂そのものを指すと解する主張がある

特長(囲範の力効の権許特延、ばれす解にうよのこ。 12

六八条の二)と、延長登録の要件としての処分の範囲に何ら不一致は生ぜず、処分の対象について延長登録を認められ、当該対象についてのみ延長後の特許権が及ぶことになる

13

  また、特許法六八条の二は、延長された特許権の禁止的効力の制限を規定するものであり、延長登録の要件に関し、権利者の実施が妨げられているかどうかを規定する特許法六七条の三は、独自に検討されるべきであって、物と用途を、

有効成分と効能・効果に読み替えることは、有効成分が特許発明である医薬品に限定し、剤型に関する特許発明は特許法上異なる物の発明として分けて考えるべきであるとする学説もある

14

四.検討

一.対立点

  この問題における対立点は、裁判例が、特許法六七条の二に規定する延長登録の要件である処分を判断するに際し、

延長後の特許権の効力を定める特許法六八条の二に規定する﹁物﹂を有効成分と解釈して、これと統一的に判断することの是非である。この解釈を認めれば、処分の対象より延長後の特許権の効力の範囲が広くなるため、特許法六八条の

二を、延長登録の対象となる処分を決定するに際しても考慮する必要が生じ、その結果、有効成分以外に特徴のある特許発明に関する処分については延長登録が認められない場合が発生する。反対説が主張するように、特許法六八条の二

の﹁物﹂を処分対象となった医薬品であると解すれば、処分対象と延長後の特許権の効力範囲に齟齬は生じないから、

  (二五三七)

(21)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇二同志社法学 六〇巻六号

延長登録の可否を判断する際に六八条の二を考慮に入れる必要もなく、すべての処分に対応した延長登録が可能になる

反面、延長後の特許権の実効性につき問題が生じる可能性がある。あるいは、第三の解釈の可能性として、登録要件の判断を、延長後の特許権の効力(特六八条の二)から切り離して考え、特許権ごとの単位で延長を認めるやり方もあり

得る。すなわち、当該処分を受けるまで特許発明の実施を全くできなかった場合の延長を認めるという観点から、特許法六七条の三第一項一号の﹁その特許発明の実施に処分を受けることが必要であったとは認められないとき﹂の﹁特許

発明の実施﹂を、文言通り、当該処分による品目や有効成分にも関係なく特許発明のあらゆる実施を指すと解し、当該特許権について最初の処分についてのみ延長を認めるのである。この解釈によれば、有効成分以外に特徴を有する特許

権についても延長登録の対象となる。しかし、﹁物﹂及び﹁用途﹂を如何に解するにせよ、特許法六八条の二により、これらを異にする特許発明の実施には延長後の特許権の効力は及ばないにもかかわらず、これを対象とした処分につい

ては延長が認められず、侵食期間を回復できなくなるという不都合が生じうる。理論的にはこれら三つの可能性が考えられるが、いずれをそのまま採用しても、何らかの問題が生ずることが分かる。

二.立法趣旨と﹁新薬﹂開発の保護

  裁判例が、﹁物(有効成分)﹂と﹁用途(効能・効果)﹂という観点から処分の要否を捉え、延長登録の可否を決すると解釈するのは、上記⑤知財高判平成一七・一〇・一一平成一七(行ケ)一〇三四五号裁判所HP︹水溶性ポリペプタ

イドのマイクロカプセル化︺が判示するように、立法趣旨が新薬開発の保護にあり、具体的な剤型の発明の保護が念頭にあったのではないと考えるからであろう。上記⑦知財高判平成一九・七・一九判時一九八〇号一三三頁︹長期徐放型

マイクロカプセル︺は、新薬の特許は﹁有効成分﹂又は﹁効能・効果﹂に与えられることが多く、新薬を特徴づけるも

  (二五三八)

(22)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇三同志社法学 六〇巻六号 のは﹁有効成分﹂と﹁効能・効果﹂であることが多いと述べている。しかし、﹁多い﹂だけでは、延長登録による保護を有効成分と効能・効果により限定する根拠にはならない。そもそも、﹁新薬﹂とは何を意味するか、その定義は我が 国の特許法上、明らかではない

いよ審の時法立、ばれに会緯経法立るいてし定議やが、に二の条八六法許特は両に録事議るけおに院認︺セプカロクル 一平・七・九一成知判高財九⑦記上、た一九判︹イマ型放徐期長頁時三三一号〇八。ま 15

う﹁物﹂が﹁有効成分﹂を、﹁用途﹂が﹁効能・効果﹂を意味する旨の記載はなく、特許庁審査部特許期間問題検討委員会の﹁特許期間の延長について﹂と題する文書の資料Gには、﹁承認医薬﹂の項に、﹁既承認医薬等と有効成分、投与

経路、効能等が同一だが、徐放化等の薬剤学的変更により原則として用法等が異なるもの﹂との記載があり、﹁延長候補特許のクレーム﹂に﹁新剤型医薬  徐放性カプセル剤F

1

○れらげ挙に共と載記の﹂﹁﹂に項の﹂否可の長延﹁がて

いる

。くの明発の型剤、なをはでから明は拠護保排なかいなはでの除いえいはと旨趣るす で根るすとるあ護旨料法立、ばれみ鑑に資保の時法立なうよの趣が。にの発開薬新るす関果有効・能効と分成効こ 16

  存続期間延長制度は、医薬品につき薬事法による製造承認を受けるまでの相当の期間、特許権者が特許発明を実施できずに侵食された特許期間の分を延長するものであるから、製造承認を待つため特許発明の実施がいかなる形態におい

てもできなかった場合には、延長を認めるべきではなかろうか。特許法六八条の二が、延長特許の効力を処分範囲より

広い﹁物﹂と﹁用途﹂により画するという前提に立てば、同じ効力範囲に対する延長登録の重複を排除する目的で、処分の﹁物﹂と﹁用途﹂における同一性を判断することには合理性があるが、この前提の下においても、最初の承認が特

許発明を対象としていない場合は、そもそも重複登録の虞は存在しないのである。

  条文上も立法趣旨からも、有効成分と効能・効果における発明をそれ以外の発明と区別する根拠は見出せない。特許

法は、発明の価値判断を行わない制度を採用し、進歩性(特二九条二項)の一定基準を満たした発明には、一律に同じ

  (二五三九)

(23)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇四同志社法学 六〇巻六号

効力を有する特許権を付与するのであり、特許発明の価値判断は市場に委ねているのである。剤型等について特許権が

付与されたことは、有効成分と効能・効果ではなく当該剤型の発明を保護しようとすることを意味するはずである。そのような特許法の体系に照らして考えると、特許法六七条の三第一項一号の﹁その特許発明の実施に処分を受けること

が必要であった﹂という条文上の要件は同じように満たしているにもかかわらず、何ら明確な根拠もなく、有効成分と効能・効果に関する特許発明については延長を認めるが、それ以外に特徴がある特許発明であれば認めないというよう

に、存続期間という特許制度の根幹に関わる判断を違えることは、特許法の趣旨に反して許されないと考える。

三.解決策

  しかしながら、特許法六八条の二の﹁物﹂を処分対象の医薬品と解した場合に、延長後の特許権の効力が狭すぎると

いう点も、看過できない。また、特許権ごとの単位で延長を認めるとした場合に、同一の特許権に属するが﹁物﹂と﹁用途﹂が異なる物についての処分に関して延長登録が認められず、先行処分に基づく延長登録による特許権の効力は及ば

ない結果、侵食期間を回復できないとする帰結も妥当ではない。

  したがって、これらの不都合を回避するためには、特許法六七条の三の登録拒絶理由は、文言通り、処分がなければ

当該特許発明の実施が不可能であった場合は該当しないことを原則としつつ、先行処分により特許発明の実施が可能であったため本拒絶理由に該当する場合であっても、当該後続処分が、先行処分に基づく延長登録後の特許権の効力が及

ばない、﹁物﹂又は﹁用途﹂を異にする製品に対する処分である場合は、﹁当該処分に係る﹃物﹄又は﹃用途﹄における特許発明﹂は先行処分により実施可能ではなかったとして延長登録を認めることにより、妥当な解決が図れるのではな

かろうか。このように解すれば、﹁物﹂を有効成分と解しても、有効成分以外の特許発明の延長登録を排除することに

  (二五四〇)

(24)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇五同志社法学 六〇巻六号 はならない。五.欧米の法制との比較   しかしながら、上記で検討した我が国の裁判例の立場について、欧米の制度と整合するとして評価する見解がある

。うるす討検をかるあでのもなよのどが度制の米欧、でこそ 。 17

一.米国における﹁薬価競争および特許期間回復法

18

⑴   立法趣旨

  米国は、特許権の存続期間延長制度を世界で初めて導入した国であり、その目的が、医薬品については、日本の薬事 法の製造承認に相当するFDA

、あ様同と本日、はのるにあろことういとるす復でるをうはで法許特国米、によ。たべ述に既、しかし回間効有の権許期 げ間の明発許特、つのでま施待を認承売実らがに特たれわ失りよれ妨こ、めたるれの販 19

特許権は排他的効力を有するにすぎず、これを超えて、特許権者自らが特許発明を実施できる権能を積極的に付与する

ものではないと解されているから、法的意味において特許権の排他的効力は侵食されていないのであり、﹁特許期間回復﹂というタイトルはあるものの、その立法趣旨は、﹁失われた特許期間の回復﹂ではあり得ず、特許権者が事実上被

った不利益の補填にすぎない。すなわち、特許権者が特許発明を実施できなかったことは、米国特許法においては法的意味を持たないという、日本法との相違に留意しなければならない。

  それでは、米国における存続期間延長制度の立法趣旨は何であっただろうか。それは、法律のタイトルも示すとおり、

  (二五四一)

(25)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇六同志社法学 六〇巻六号

二つの全く異なる法律がセットになって目的を達成しようとするものであり、第一に、後発医薬品許可手続を広げるこ

とにより、低価格の医薬品を入手しやすくすること、及び、第二に、医薬品の試験を行い、FDAの販売承認を待つ間に失われた特許期間を回復することにより、新薬の開発を奨励すること

、発はにーカーメ品薬医後、ちわなす。たっあで 20

簡略新薬申請(

A bb re via te d N ew D ru g A pp lic at io n, A N D A

)と称する、新薬より簡易な試験や手続により販売承認を得られる制度を導入することにより、市場の拡大を許す一方で、先発医薬品メーカーには、特許期間回復によって新薬開

発を保護する制度であり、日本法であれば薬事法改正と特許法改正を一つの法律で実現することに相当する性質のものである。このことから、法案段階で﹁抱き合わせ法案﹂とも呼ばれており、先発医薬品メーカーと後発医薬品メーカー

の、それぞれに利益を与えてバランスを取ることにより、全体として米国の医薬産業の発展を促進しようとするものであった。

  日本では、特許権の存続期間延長制度は、これのみ単独で導入されている。米国で同様の制度が導入されてから三年後のことであるから、米国の制度のことは十分知った上での立法である。しかるに、後発医薬品メーカーが、特許権の

存続期間中に、存続期間満了後の実施を目的として薬事法上の製造承認を得るために試験を行うことが特許侵害に当たるかどうかについて、米国法では大きな議論の末に新たに立法したが、日本では、存続期間延長制度導入に際しては全

く議論がなされず、後になって紛争が多発した

のす、はえ考ういとる整く調を益利のとーカ全なメに業産薬医、ていお国か米、りあでのたっー品医発後とーカーメ薬 米かりおとると分もらか日この、国本では、。のように、先発医薬品こ 21

政策のための制度として立法されたのとは極めて異なっていたといえよう。

  (二五四二)

(26)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇七同志社法学 六〇巻六号

⑵   日本の存続期間延長登録制度との相違

  では、次に、このような立法趣旨の相違から、米国では制度が具体的にどのように相違しているのかを検討する。   ①まず、一つの特許権につき、延長が認められるのは一回に限られる(米国特許法一五六条⒜⑵)。日本では、この点につき特許法上明記されていないが、特許法六八条の二で、延長登録後の特許権の効力が、処分を受けた﹁物﹂及び

﹁用途﹂以外には及ばないと規定されていることから、﹁物﹂及び﹁用途﹂が異なる処分を受けた場合は、同一の特許権であっても複数回の延長が認められると解され、そのように運用されていることは既に述べたとおりである。

  ②米国では、一つの販売承認につき一つ限りの特許権の延長しか認められない(米国特許法一五六条⒞

めす許権の対象となっていれば、べのての特許権について延長が認特数限かような制複はないらそ、一つの医薬品がの

、はで本日)。 22

られる。

  ③米国では、その製品について最初の承認に限って延長が認められる(米国特許法一五六条⒜⑸A)。ここで、﹁製品﹂ とは、﹁医薬品﹂及び﹁連邦食品・医薬品・化粧品法(FDCA

のD公び及、法ACF衛、はと﹂品薬医衆生)、意等薬新るよに味じ法同とのるけおに﹁⑴れ許さ(米国特法一五六条⒡ 医器機療色るす制規食、料品添加物、着)﹂と定義で 23

有効成分を意味し、単体又は他の有効成分との組合せにかかる有効成分の塩あるいはエステルも含むとされている(米

国特許法一五六条⒡⑵)。すなわち、医薬品の﹁有効成分﹂ごとに延長が認められることが、米国では特許法上明記されている。日本では、このような規定が存在しないことは、既に論じたとおりである。

  ④米国では、延長期間は、治験届(IND

)から新薬申請(NDA 24

⒞(間との合計である米国特許法一五六条 の期で、まの期間の半分と新)薬申請から承認迄 25

⑵ en du e dil ig ce

)がを果た(務義励精者さ請)。但し、政府規制期間中に申 26

なかった期間は削減される(米国特許法一五六条⒞⑴)。さらに、承認日に残存する存続期間が一四年を超える場合は

  (二五四三)

(27)

特許権の存続期間延長登録と薬事法上の製造承認一〇八同志社法学 六〇巻六号

一四年で打ち切られる(米国特許法一五六条⒞⑶)。なお、延長期間の上限が五年である点は、日本と同じである(米

国特許法一五六条⒢⑷A、日本特許法六七条の二第一項三号)。

  日本では、延長期間は、その特許発明の実施をできなかった期間である(特許法六七条の三第一項三号)。特許権の

効力のうち、特許発明を現実に実施できる効力が妨げられた期間を回復することが立法趣旨だからである。

  ⑤延長後の特許権の効力は、米国では、承認された製品に限るものの、用途は、後の新たな承認により認められた用

途も含む(米国特許法一五六条⒝)。すなわち、同じ特許権について、用途を異にする二度目以降の承認がなされた場合、改めて延長登録をすることなく、先の延長登録の効果として、当該用途にも延長後の特許権が及ぶのである。日本では、

延長登録が認められた処分の対象となった﹁物﹂及び﹁用途﹂に限られるため(特許法六八条の二)、そのような場合は、改めて延長登録をする必要がある。

  ⑥規定ぶりの違いとして、日本法では、処分を受けることが必要であるために、その特許発明の実施ができなかったことが延長の要件とされているが(六七条二項、六七条の三)、米国法にはその旨の規定はない。もっとも、延長期間が、

特許発行後に発生した政府規制期間と同一とするという規定(米国特許法一五六条⒞)が、実質的には同じ意味を有しているが、積極的に登録要件であるという位置づけにはなっていない。

⑶   判例

  米国においても、延長登録が認められる処分であるかどうかを巡って争われた判決は存在する。日本における議論と比較するため、検討する。

  (二五四四)

参照

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