要 旨 未承認薬利用制度を積極的に導入してきた米国で,Right to try (RTT)連邦法が成立した.本法下では, FDAなどの審査を経ずに,患者が製薬企業に未承認薬利用を要望できる.患者の治療選択肢が拡大したよ うに思える一方,患者の身体・生命の保護が不十分との指摘や,未承認薬利用の費用補助について定めが なく,患者が未承認薬を「試す権利」の保護が不十分という指摘がある.患者や家族の間では,資金調達 手段としてメディカルクラウドファンディングが注目されている.手軽に資金を募れる一方で,医療への 不平等なアクセスが解消されない,患者や家族のプライバシーが過度に損なわれるなどの課題もある.日 本では,欧米の制度を参考に,拡大治験と患者申出療養制度が導入された.これらの制度は「臨床試験の 実施を求める権利」を患者に与えるが,個人の治療として未承認薬を「試す権利」を与えてはいないよう にみえる.患者個人の治療選択肢の拡大とエビデンス集積のバランスのとり方は引き続きの検討が必要で あろう.
1.はじめに
医学研究が日進月歩で発展する中で,新しい医薬品や医療機器などの研究開発が進められている. 関係者の努力にもかかわらず,まだ治療方法が見つかっていない疾患が多数存在する.また,ある 国では医薬品として認められて広く使われているものでも,別の国では医薬品として認められてい ないものがある. 医薬品などの医療技術が患者の手元に届くまでには,一般的に以下のような流れをたどる.まず, 製薬企業が各種の実験を経て医薬品の候補物質を同定する.その後,候補物質を人に投与する臨床 試験を実施し,候補物質の有効性と安全性のデータを収集する.そのデータを用いて医薬品や医療 機器の規制をつかさどる当局に薬事承認を申請し,当局から承認が下りれば,候補物質を「医薬品」中田はる佳
* 短報 ■科学技術社会論研究 第 18 号 (2020)■患者が未承認薬を「試す権利」は保障されるのか
米国未承認薬利用制度の概要から
2020年1月9日受付 2020年1月25日掲載決定 *国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター生命倫理・医事法研究部・研究員,hnakada@ ncc.go.jpとして上市し,広く用いることができる.この一連の流れを完遂するには膨大な費用と時間がかか る.例えば,2017年の日本の製薬企業大手10社の平均研究開発費は1,414億円であった(日本製 薬工業協会2019,60).これだけの費用を投資することを考えると,製薬企業は研究開発の優先順 位をつけねばらならず,研究開発の手が行き届かない領域もあることは容易に想像できる. 自身の疾患に対して,薬事承認された治療選択肢が国内に存在しない場合,患者はどのような手 段をとりうるか.ここでは個人輸入は除き,一定の制度のもとでの未承認薬の利用を考える.一つ は,自身の疾患に効く可能性がある治療薬(医薬品候補物質)の臨床試験に参加することである.自 身の身体を提供して,開発途上にある治療薬の有効性と安全性の確認作業に協力すると同時に,自 身に対するその治療薬の効果を期待する.臨床試験は,個々の患者に対する治療ではなく,患者集 団を用いて医薬品候補の安全性や有効性に関するデータを収集することが目的であり,患者にとっ ては一種の「賭け」ともいえる(Locock and Smith 2011, 308).もう一つは,薬事承認前の医薬品 候補を患者本人の治療に用いる仕組みを利用することである.国によって呼称は様々だが,人道的 使用(compassionate use)や拡大アクセス(expanded access),特別アクセス(special access)など と呼ばれる制度で,まだ研究開発段階(あるいは審査段階)にある医薬品候補を,一定の条件下で例 外的に利用できる.例えば,欧州(European Union:EU)では,欧州医薬品庁が人道的使用に関す る勧告を出しており,EU加盟国は各国の状況に合わせて具体的な規制を導入している1).また, オーストラリアでは,特別アクセス2),米国では,拡大アクセスの枠組みが設けられ,運用が進め られている.中でも,米国は未承認薬利用制度の導入に先進的に取り組んできた国の一つであり,
1987年からFDA(Food and Drug Administration,米国の薬事規制担当庁)の許可に基づいて,一 定の条件を満たす患者に未承認薬を提供するプログラムが開始された.このプログラムは,改訂 を繰り返しながら現在もExpanded Accessプログラム(EAプログラム)として運用されている.こ れに加えて,2018年5月30日に,いわゆるRight to try連邦法が成立した.これは,FDAやIRB
(institutional review board,機関内倫理審査委員会)の関与なく,一定の条件を満たした患者が製 薬企業に未承認薬利用を求めることを認める法律で,未承認薬利用制度の拡大と捉えられる. 治療の手段が尽きようとしている患者にとっては,未承認薬利用制度は最後の希望となりうるが, 他方で,倫理的・社会的な課題も含んでいる.本稿では,米国の未承認薬利用制度の概観を示し, 患者が未承認薬にアクセスする権利と倫理的・社会的課題について検討する.
2.米国の未承認薬利用制度の概要
米国の未承認薬利用制度は大きく2種類に分けられる.一つは,EAプログラムであり,FDAの 規制下に置かれる.もう一つは,連邦法と州法を含むRight to try法制であり,FDAの規制の対象 外である.ここでは,それぞれの制度の成り立ちと概要を示す. 2.1 Expanded Access プログラム 2.1.1 成り立ち 米国で未承認薬利用制度が検討されるきっかけとなったのは,1980年代のエイズパンデミック である(寺岡・津谷2011,13―6).米国の薬事規制は1938年に制定された連邦食品・医薬品・化粧 品法に基づいている.1962年に改正された同法では,臨床試験を実施する前に研究対象の新薬をFDAに申請する仕組みが導入された(IND:Investigational New Drug 申請.臨床試験で用いる薬 に関してこの申請を行わなければならない).1962年から1980年初頭までは,研究用新薬を治療
利用する際は,主に研究者がFDAに電話で個別に相談し,担当官が承認するという流れがとられ ていた.しかし,この方法は明文化されておらず,未承認薬のアクセス方法を明確にする必要性が 議論されていた.これに加えて,エイズが大流行し,治療薬を求める患者や支援者の声が大きくなり, FDAは対応の一つとして,有望な未承認薬へのアクセスを促進する制度を検討せざるを得なくなっ た.そして,1987年からFDAの許可に基づく研究用新薬の治療使用が制度として確立されたので ある.この制度の下で用いることができる研究用新薬は,原則として第3相試験実施中かまたは 完遂したものとされていた.この制度に基づいて多くの未承認薬アクセスがあった一方で,不公平 で一貫性がない・手続に手間と時間がかかるため末期患者が恩恵を得られないなどの批判があった (Dresser 2015, 1635―7). 次に大きな転機となったのは,2003年に提起された,いわゆるアビゲイル訴訟である(Abigail Alliance for Better Access v. von Eschenbach, 495 F.3d 695 (D.C. Cir. 2007)).これは,第一相試 験終了後の未承認薬の利用を認めないFDAの規制は,合衆国憲法で保護されている未承認薬にア クセスする権利を侵害しているとして,アビゲイル連盟が当時のFDA長官を訴えたものである. 訴えを起こすきっかけとなったのは,当時21歳だったアビゲイル・バローズの死であった.アビ ゲイルは頭頸部がんを患っており,既承認薬では治療選択肢がなくなっていたところ,主治医から 当時開発中のセツキシマブかゲフィチニブで治療できる可能性があることを知らされた.アビゲイ ルはこれらの薬剤の治験に参加することを希望するが,セツキシマブの治験は大腸がんが対象であ り,ゲフィチニブの治験はすでに予定登録者数に達していたため参加がかなわなかった.また,い ずれの製薬企業もEAプログラムに基づく医薬品提供を拒否した.アビゲイルは,別の薬剤の治験 に参加できることになったが,その直後,2001年に死亡した(ベンダリー 2008, 63). アビゲイルの死後,2001年に父親がアビゲイル連盟(Abigail Alliance)を設立し,未承認薬の利 用拡大を求める活動を展開する.アビゲイル連盟は,新たな薬事制度の創設を定める法案の成立を 目指して(ACCESS Actと呼ばれる(Okie 2006, 439))市民請願を行ったのち,上記の訴訟に踏み切っ た.ACCESS Act(“S.1956 - Access, Compassion, Care, and Ethics for Seriously Ill Patients Act”) の中では,製造販売承認を三段階に分けることが提案された.第一相試験と前臨床試験の結果に基 づき,末期状態の患者に利益があると思われるものには第一段階承認を与え,製薬企業が販売で きるようにするものである.この法案に対しては,臨床試験学会(Paper 2006, 154―7)や患者団体 (Mayer 2006, 149―153)から反対が表明された.
結局,アビゲイル訴訟では,末期状態の患者は未承認薬にアクセスする憲法上の権利を有さない と判断され,ACCESS Actも成立しなかった.しかし,この訴訟を受けて,2009年にFDAの制度 が改正され,より早期の開発段階の未承認薬を使える現在のEAプログラムが開始されたのである. 2.1.2 概要 現行のEAプログラムでは,3種類の未承認薬利用方法—個人患者(緊急使用を含む)による使用, 中規模患者集団による使用,広範囲での使用—が認められている.EAプログラムを利用できる患 者の条件は,①重大な疾患または症状がある,または,死が切迫していること,②他の治療選択肢 がないこと,③臨床試験に入れないこと,④予想される利益が予想されるリスクを正当化できるこ と,⑤実施中の臨床試験の遂行を妨げないこととされる(Patient Fact Sheet : Expanded Access).
2004年から2014年の実績をみると,個人患者による未承認薬使用が97%を占めており(Jarow et al. 2017),一患者の治療選択肢拡大のためにEAプログラムが活用されている実態がみえる.以下 では,個人患者による未承認薬使用について述べる.
本稿では,未承認「薬」として薬剤に限定して制度の紹介や議論を展開するが,EAプログラム は生物学的製剤や医療機器にも適用される.また,旧来のEAプログラムでは,対象の未承認薬が 第3相試験に進んでいることが求められていたが,2009年の改正によりこの制限はなくなった. 患者は,EAプログラムによる未承認薬利用を希望する場合には,まず主治医に相談し,主治医 を通じて各種手続を進める.主治医は,未承認薬を製造している企業に協力を要請し,それが得ら れればFDAに対して申請を行い,自施設でIRB申請を行う. EAプログラムにおける第三者機関の関与として,FDAとIRBが挙げられる.EAプログラム下 で未承認薬を利用するには,未承認薬を投与する機関のIRBによる承認と,FDAによる承認が必 要である.前者は,IRBの委員長または委員長が指名する一人の委員による審査でよく(Gottlieb 2018),IRBの申請から決定までにかかる時間は1日以下のところが多く,長くても5日以内で決 定が下される(Chapman et al. 2019, 92).また,FDAに対する申請様式の簡素化が進められている. 患者が未承認薬を使えるかどうかの判断において,最も重要な権限を持っているのは未承認薬を製 造している企業である.患者が条件を満たしていて,IRBやFDAの承認が得られたとしても,企 業が未承認薬の提供に同意しなければEAプログラムによる未承認薬利用は実現しない.
IRBやFDAが関与する目的は,患者の安全を保護するためとされる.IRBでは,必ず患者への 説明文書の内容が審査され,説明項目は連邦行政規則(Code of Federal Regulations: CFR)で規定 されている.CFR 50.25では,説明文書に含める項目として,必須項目8つと追加項目6つが挙げ られている(ただし,これらの項目は研究参加者への説明を念頭に置いている).また,安全措置と して,未承認薬の利用は原則として1コースとされている(21 CFR 312 Subpart I).
EAプログラムによる未承認薬利用の申請件数は,2014年から2018年の間に1000件前後で推移 しており,約99%が承認されている(Expanded Access (Compassionate Use) Submission Data).
2.2 Right to try 法制 2.2.1 成り立ち 未承認薬利用の拡大を求める人々にとっては,EAプログラムにおけるFDAやIRBの関与はその 道を阻害するものであった.終末期患者が未承認薬を使用する憲法上の権利が裁判上否定されたの ち,支持者たちは法的措置の改革に注力し始めた.この動きはやがて,政策系シンクタンクである Goldwater Institute (GI)による国家キャンペーンに発展する.GIは,がん治療病院の民間ネット ワークであるCancer Treatment Centers of America (CTCA)と連携し,既承認の治療選択肢が尽 きたがん患者が未承認薬を試すことや,患者の主治医が未承認薬を用いた治療計画を立案すること がFDAによって妨げられていることを指摘した(Folkers, Chapman, and Redman 2019,28; Olsen 2015a,19).GIはFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを駆使して,既承認の治療で 救われなかった患者が未承認薬で救われた経験談などを拡散し,未承認薬利用制度の拡大を国民 に訴えるとともに,各州議会に強く働きかけた.GIは,自らの主張を実現するためのモデル法案 (Goldwater Institute 2016)を作成し,ウェブサイトで公開した.各州では,このモデル法案を参 考にしてRTT州法がつくられていった.2014年5月のコロラド州を皮切りに,2018年7月には 41番目の州法がアラスカ州で成立した.約4年間の間に,圧倒的な支持を得て(Olsen 2015b), 41の州にRTT法制が広まったのである.41の州法は,GIの方針を多く採用しているものの,詳 細規定は異なっている(例えば,対象患者の要件である“terminally ill”の定義など)(Kearns and Bateman-House 2017, 171).
RTT連邦法案(H.R.3012 Right to Try Act of 2015)が2015年9月に下院に提出され,のべ4つの法 案が検討された.最終段階では,S.204法案とH.R.5247法案をめぐって議論され, RTT連邦法が 適用される対象患者の定義と,インフォームド・コンセントにおける説明内容に関する規定が主な 論点となった.S.204法案の対象患者の定義では,死が切迫していなくても慢性状態にある難治性 疾患の患者が含まれ,RTT連邦法の適用範囲をできるだけ限定したい論者との間で争いになった. また,S.204法案では,インフォームド・コンセントにおける患者への説明内容について規定がなく, 患者の安全や権利保護という観点から激しい議論が行われた(Folkers,Chapman,and Redman
図1 Expanded Access(EA)プログラム(個人患者)の流れ 出典:https://med.nyu.edu/pophealth/sites/default/files/pophealth/SPEA_Infographic.pdf https://www.janssen.com/sites/www_janssen_com/files/jj_paa_infographic_061818_single_patient_exapnded_access.pdf を改編(閲 覧日:2019年9月24日) 治療選択肢を検討する 既承認の治療選択肢がなく,登録できる臨床試験も ないと主治医が判断した場合,主治医と患者とで未 承認薬を治療選択として検討する. 治療選択肢を確定し製薬企業に利用を申請する 未承認薬を治療に用いることを決めたのち,主治医 はその未承認薬を製造している企業に利用を申請す る.EAプログラムへの対応方針は各社で異なる. 企業が申請を審査する 未承認薬を製造している企業が,利用申請を認めた 場合,主治医に“Letter of Authorization(*)”と必要書類 が送付される. *企業がEAのための未承認薬利用に合意し,薬剤を提供する旨を 記した書類 FDAに申請する 企業の承認を得たのち,主治医は指定の申請書 (Form 3926)と必要書類を添えてFDAに未承認薬利 用の審査を申請する.承認されると,FDAから主治医 に研究用新薬番号(*)が送付される. *承認されていない薬剤を人に用いるための申講
施設内倫理審査委員会(institutional review board:IRB) に申請する 主治医は,EAプログラム計画書と説明文書に,FDAと 企業のEAプログラム承認書類を添えてIRBに申請する. 企業から主治医に未承認薬が輸送される 必要な情報がすべてそろったのち,企業から主治医 に未承認薬が輸送される.輸送に際しては関連ガイ ダンスに従う. 治療と治療後の対応 主治医は患者を治療し,必要情報を企業や FDA に提供 する(治療後の成績など).
2019,29―31).この論争には,議員のみならず,生命倫理学者や弁護士,FDA長官も関係者とし て参加した.
一方,議会の外でも激しい論戦が繰り広げられていた.アビゲイル連盟を含む18の患者団体 等は2017年8月に,8つのポイントを挙げてRTT連邦法を支持する声明3)を発表した.しかし, 州法を含めたRTT法制に対しては,米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:
ASCO)が 安 全 性 の 観 点 か ら 懸 念 を 表 明 す る 声 明 を 発 表 し た り(American Society of Clinical Oncology 2017),38の患者団体や学会などの連名でRTT連邦法反対声明4)が発表されたりと,
RTT連邦法案は患者団体を含めた関係者による厳しい批判にさらされた.また,様々なジャーナ ルやニュースメディア等でもRTT連邦法を批判する記事が多くみられた.
こうした状況でありながらも,トランプ政権の圧力もあって2018年5月30日にS.204法案が 連邦法として成立した.2018年5月30日,トランプ大統領は,署名台の周りに難治性疾患の患 者・家族を招き,本法の正式名称(Trickett Wendler,Frank Mongiello,Jordan McLinn,and Matthew Bellina Right to Try Act of 2017)に名前が刻まれたFrank Mongiello氏(ALS(筋萎縮性側 索硬化症)患者),Jordan McLinn君(9歳の筋ジストロフィー患者),Matthew Bellina氏(ALS患者), 妻のTrickettさんをALSで失ったTim Wendler氏などが見守る中,RTT連邦法成立の署名をした.
RTT連邦法成立後の演説で,トランプ大統領は,本法の成立によって多くのアメリカ人に希望を 与え,多くの患者が救われることを強調した(The White House 2018).
2.2.2 概要 上述のように,議論がある中で成立したRTT連邦法はどのような内容なのか.以下では概要を 確認する.主な項目として,対象患者の定義,対象となる医療技術の条件,インフォームド・コン セントを中心に述べることとする. まず,対象患者は,4つの条件で規定される.1) 生命が脅かされる疾患または症状があること, 2) 既承認の治療が尽きており,参加できる臨床試験がないこと,3) 1)と2)を医師免許発行機関 の会費を納入しており,当該未承認薬の製造販売業者からの支払がない医師が保証していること, 4) 本人または法定代理人が,当該未承認薬の使用について主治医に対して書面で同意しているこ とである.1) でいう「生命を脅かされる」の内容は,連邦行政規則でより詳しく定められており,「そ の疾患の経過が中断されなければ,死の見込みが高い疾患または症状」または「臨床試験の評価項 目が生存であり,致死的転帰をたどると思われる疾患または症状」とされる. 対象となる医療技術は医薬品に限られ,本法は医療機器には適用されない.対象医薬品の開発状 況の条件として,第一相試験が終了していること,いかなる適応についてもFDAの承認がないこと, 薬事申請がFDAに出されている,または,それを目的とした臨床試験が行われているか,臨床試 験登録がFDAに申請されていること,積極的な開発・製造段階にあることが求められる. インフォームド・コンセントについては,原則として患者本人の署名がある書面による同意が必 要であるが,法定代理人による代諾でもよい.主治医に対しては,患者からの同意を得る義務が課 されている.インフォームド・コンセントにおける説明の内容については,特段の定めがない.研 究のインフォームド・コンセントにおける説明内容に関しては,連邦行政規則で必須項目8つと追 加項目6つが定められているが,RTT連邦法ではこの規定の適用を除外している.後述するように, RTT連邦法では未承認薬利用に際してIRBによる審査がないため,説明内容は主治医にゆだねら れる. RTT連邦法では,未承認薬利用に際してIRBやFDAの審査が不要とされる.図1で示したEA
プログラムの流れと図2を比較すると,前者では7工程だったのが後者では5工程になり,特に 時間と手間がかかるとしてGIなどから批判されていたIRBとFDAへの申請が削除されていること がわかる.RTT連邦法においても,患者が未承認薬を使えるかどうかの判断において,最も重要 な権限を持っているのは未承認薬を製造している企業である.企業が未承認薬の提供に同意しなけ れば,患者はそれを使うことができない. 本法が成立して本稿執筆時点までの間,約1年が経過した時点で公にされているRTT運用実 績は2例である.1例目は,2019年1月に報告されたグリア芽腫という脳腫瘍患者の例である (Brennan 2019).患者は,米国で第2相試験中であったERC―1671というがんワクチンでの治療 を希望したが,実施中の臨床試験の適格基準を満たすことができなかったため,RTT連邦法ルー トで利用を申請したという.2例目は,2019年2月に報告されたALS患者の例である(Tiedemann 2019).患者は,米国で第3相試験中であったNurOwnという物質での治療を希望したが,同じく 適格基準を満たすことができなかったため,RTT連邦法ルートで利用を申請したという.この患 者は,連邦法にも名前が冠されたMatt Bellina氏であり,治療の経過などを自身のFacebookで積 極的に発信している5).法成立から約1年で実績が2例であることについては,関係者が想定して いたよりも少なく,トランプ大統領が署名後の演説で述べたように「多くの患者が救われる」こと 図2 Right to Try (RTT)法による未承認薬利用の流れ 出典:https://med.nyu.edu/pophealth/sites/default/files/pophealth/SPEA_Infographic.pdf https://www.janssen.com/sites/www_janssen_com/files/jj_paa_infographic_061818_single_patient_exapnded_access.pdf を改編(閲 覧日:2019年9月24日) 治療選択肢を検討する 既承認の治療選択肢がなく,登録できる臨床試験も ないと主治医が判断した場合,主治医と患者とで未 承認薬を治療選択として検討する. 治療選択肢を確定し製薬企業に利用を申請する 未承認薬を治療に用いることを決めたのち,主治医 はその未承認薬を製造している企業に利用を申請す る.RTTへの対応方針は各社で異なる. 企業が申請を審査する 未承認薬を製造している企業が,利用申請を認めれ ば薬剤に関する手続はほぼ完了する. 企業から主治医に未承認薬が輸送される 必要な情報がすべてそろったのち,企業から主治医 に未承認薬が輸送される. 治療と治療後の対応 主治医は患者を治療し,必要情報を企業や FDA に提供 する(治療後の成績など).
を支持する証拠はないと指摘されている(Kiely 2019). RTT連邦法による未承認薬の利用は,FDAが関与しない仕組みになっているため,利用患者数 などはリアルタイムで把握されていない.未承認薬の製造企業またはスポンサー(臨床試験実施者) は,FDAに対して未承認薬利用の年次報告を行うこととされている.年次報告には,供給した未 承認薬の用量,未承認薬を用いて治療した患者の数,未承認薬の使用方法,重篤な有害事象の情報 が含まれていなければならず,これをもとに,FDAはウェブサイトで未承認薬の利用実績を公開 することとされている.FDAから情報が公開されるまでは,運用全体を把握するのは困難であろう.
3.未承認薬利用に関する倫理的・社会的課題
ここまでみてきたように,米国では未承認薬の利用の道が拡大された.患者にとっては治療選択 肢が増えたようにもみえる反面,RTT連邦法の成立過程で激しい論争があったことからもわかる ように,未承認薬を利用することには様々な課題が含まれる.以下では,RTT連邦法成立過程で 指摘された論点を中心に,未承認薬利用制度に関する倫理的・社会的課題を整理する. 3.1 患者の身体・生命の保護 第一の課題は,患者の安全の確保である.医療倫理の4原則の一つに「無危害」が含まれている ことからもわかるように,医療の場面で患者に害を与えないことは当然の要請である.未承認薬利 用制度における患者の保護を考える際には,未承認薬というものの性質からみていく必要があろう. 未承認薬とは,規制当局(米国ではFDA,日本ではPMDA(医薬品医療機器総合機構))から製造 販売承認(薬事承認)が下りていない,開発段階のものである.一般に,規制当局からの薬事承認は, その医薬品の有効性・安全性がデータによって確認された場合に与えられる.RTT連邦法では, 法が適用される未承認薬の条件として第1相試験の完了と積極的な開発段階にあることを挙げてい る.RTT連邦法支持者の間では,第1相試験の完了を一定の安全性が担保されていることと同値 とする意見もある6).一定の安全性が担保されていて,かつ,積極的な開発段階にあることで,未 承認薬の利用と通常の臨床試験に参加する場合とで同等のリスクと解する.しかし,第1相試験で は通常健康成人が対象者となり,試験対象薬の毒性が管理できるかという点が評価されるに過ぎな い.通常患者を対象とする第2相試験や第3相試験で重篤な副作用が現れることもあり,結果によっ ては開発が中止される.例えば,2004年から2015年の集計では,がん領域では第1相試験から第 2相試験に進むのは62.8%,第2相試験から第3相試験に進むのは24.6%,第3相試験から新薬承 認申請に進むのが40.1%で,第1相試験から薬事承認に到達できる確率は5.1%であった(David W. Thomas et al. 2016, 13).このように,第1相試験から薬事承認まではかなり遠い道のりであるこ とがわかる.第1相試験を完了しただけの未承認薬を末期状態の患者に用いれば,疾患が改善する どころか,場合によっては予後が悪くなる可能性もある(Yang et al. 2015, 2598). 未承認薬を使うにあたっては,未知の副作用など健康上の不利益が起こる可能性を患者が引き受 けなければならない.また,自分の症状に未承認薬が効かない可能性もある.患者が被る健康上の リスクをできるだけ軽減し,得られる健康上の利益を最大化するために設けられているのが,第三 者による審査である.EAプログラムでは,FDAとIRBによる審査が行われる.例えば,EAプロ グラムを希望する患者は状態が悪く,他の治療選択肢もないため未承認薬の利益を過剰に高く, リスクを低く見積もってしまう可能性もある.この点は,医師と患者との間で議論されるべきこ とであり,インフォームド・コンセントの過程で用いる説明文書の内容の審査は重要である.従来,FDAは個々の説明文書の内容は審査せず,IRBがこれを審査してきており,その点でIRB審 査は患者の権利・福祉の保護に重要な役割を果たしているといえよう.SMART IRB7)という米国 のIRBネットワーク参加機関を対象にした調査では,EAプログラムにおけるIRB審査において, 患者の権利と福祉の保護と,適切なインフォームド・コンセントを確認することの重要性を8割以 上の回答者が支持した(Chapman et al. 2019, 93).ただし,未承認薬利用のゲートキーパーとして
FDAに加えて(Joffe and Lynch 2018, 1―3),IRBの審査の必要性については議論がある.例えば,
IRBはそもそも「研究」に関する審査を行う委員会であり,なぜ個々の患者の「診療」に関する 審査に研究審査と同様の負担をかけるのかという指摘がある(Redman and Bateman-House 2016, 515―6). RTT連邦法では,患者の安全を確保するために必要と考えられている第三者の審査が省かれて いる(図2参照).未承認薬利用の説明文書に関する規定もなく,説明内容や患者との検討事項は 医師の裁量に大きく依存する.この枠組みは,医師が患者の利益を最優先にするという前提が確固 たるものであれば成立するが,仮に医師が患者の利益以外のこと(個人的利益,名誉,興味など) を加味して未承認薬利用を判断してしまうと,患者の状態や未承認薬利用可否の判断に偏りが生じ る可能性がある(Bateman-House et al. 2015, 796).こうした事態を避けるために,未承認薬利用 を求める患者の適切な代弁者としてIRBなどの第三者による審査を省くべきではないと指摘される (American Society of Clinical Oncology 2017).
未承認薬が含む健康上の危害を与える側面と,RTT連邦法が設けた未承認薬利用の評価体制を 合わせて考えると,EAプログラムに比して患者の身体・生命に対する保護が不十分であるとも考 えられよう. 3.2 患者が未承認を「試す権利」の保護 それでは,患者の権利保護の観点ではどうか.RTT連邦法は,その名前(Right to try)の通り, 未承認薬を「試す権利」を保障した法律といえるのだろうか.上述のように,EAプログラムにお いてもRTT連邦法においても,患者が未承認薬を利用できるかどうかは企業の判断による.企業 が未承認薬の提供を拒否すれば,患者の治療選択肢の一つが消えることになる. EAプログラムやRTT連邦法(あるいは州法)による未承認薬利用の方針は各社で異なる.開発中 の薬剤を臨床試験以外に提供するだけの経済的余力が企業にないなどの理由で,EAプログラムに 対応しない方針をとる企業もある(Avalere Health 2017, 4).また,ある患者のEAプログラム申請 やRTT使用の申請は受け付けたとしても,それに続くすべての患者からの申請に対応できない場 合もある.例えば,2014年に米国メディアを賑わせたジョシュ・ハーディ事例(Moch 2017, e121―2) では,重度の感染症を患っていた7歳のジョシュ・ハーディの家族が,医師から勧められた未承認 の抗ウイルス薬のEAプログラムによる使用を製造企業に求めたが,当初は受け入れられなかった (Cohen 2014).また,2.1.1で述べた,アビゲイル・バローズの事例も,製薬企業はEAプログラ ムによる使用が拒否された例である. EAプログラム同様に,RTT連邦法においても,企業に対するインセンティブがないことが指 摘されている.両者において,企業に対して未承認薬利用申請に応じる法的義務は課されていな い.また,企業が未承認薬利用申請に応じたとしても,そのデータが承認申請に使えるなどの規 制上のメリットはなく,未承認薬提供にかかる費用が補償されるなどの経済的なメリットもない (Shoemaker et al. 2018,).RTT連邦法による未承認薬利用制度が新設されたものの,未承認薬利 用について最終判断権を持つともいえる企業の参画を促進するような仕組みが定められていない以
上,未承認薬を「試す権利」を保障したとはいえないだろう.RTT連邦法が患者に保障するのは, あくまでも未承認薬利用を「請求する」「請う」権利にとどまり,患者に対して新しい権利を与え る,あるいは,権利を拡大するものではないといえよう(American Society of Clinical Oncology 2017).むしろ,患者に対して未承認薬利用が確約され,治療選択肢が広がるかのような誤った希 望を与える可能性すらある(Wallis 2018, 2). さらに,費用面からも「試す権利」を保障したとはいえないことが指摘されている.EAプログ ラムでもRTT連邦法でも,企業が未承認の提供に応じた場合,費用を患者に請求することができ る(企業が負担してもよい).未承認薬の製造や管理にかかる費用が患者に請求されることとなり, 非常に高額になることが予想される.RTT連邦法では,未承認薬利用にかかる費用の支払に関して, 患者に対する公的機関や医療機関からの補助などは定めていない.また,保険会社などの第三者に よる支払あるいは一部負担も義務付けておらず,高額な費用がかかることが予想されているにも関 わらず,経済的な手当が全くされていないのである(J. Pitts 2019,).企業との交渉に成功し,未承 認薬が提供されたとしても,それを使えるかどうかは患者の経済力に依存する.経済力がある患者 は治療選択肢を増やすことができ,経済力がない患者は一つの治療選択肢を諦めざるを得ないとい う不均衡も生じるだろう. 以上,2つの側面から考えると,RTT連邦法によって未承認を「試す権利」が保護されたとは言 い難い. 3.3 未承認薬を「試す権利」を実現するための動き RTT連邦法では(EAプログラムであっても),末期状態にあり,他に治療選択肢が尽きてしまっ た患者が未承認薬を「試す権利」を確保することが難しいことが示された.それでも患者や家族 たちは,治療選択肢を求めて未承認薬を「試す権利」の実現に奔走する.その一つの有力なツール となるのが,ソーシャルメディアなどのオンラインツールである.2005年から2015年にかけて, 文献・オンライン署名サイト・ソーシャルメディアを対象とした米国の調査では,患者や家族が 様々なオンライン署名サイトと複数のオンラインツールを組み合わせて疾患や患者個人に対する注 目を喚起して,製薬企業に対して社会的な圧力をかけている様子が明らかになった(Mackey and Schoenfeld 2016, 5―7). 近年では,医療分野におけるクラウドファンディング(メディカルクラウドファンディング)が資 金調達手段として注目を集めている.医療系ベンチャーが行う資金調達,アカデミアの研究チーム が行う希少疾患などの研究資金の調達,非営利団体が行う活動資金の調達,そして患者や家族など が行う個人の治療費の調達である(Renwick and Mossialos 2017, 50―1).特に個人の治療費に関し ては,国民皆保険制度があるカナダでも政府の医療サービス提供が不十分であるなどの背景で,メ ディカルクラウドファインディングが行われる実情が指摘されている(The Lancet Oncology 2017, 269;Snyder et al. 2017, e240).欧米のクラウドファンディングサイトでは,メディカルクラウド ファンディングに力を入れているものが複数ある(Snyder, Mathers, and Crooks 2016).3.2で述 べたように,未承認薬を「試す権利」が保証されていないことの理由の一つに,費用面での手当が されていないことがあり,その解消手段としてクラウドファンディングが活用される可能性は大い にあるだろう. メディカルクラウドファンディングがもたらす利益として,未承認薬しか治療法がないような希 少あるいは難治性の疾患に対して世間の関心とともに費用を集められること,患者が必要とする医 療とそれにかかる医療費のギャップを(部分的に)埋められること,患者と直接知り合いではなかっ
たとしても患者のために支援を贈れることなどが挙げられる(Renwick and Mossialos 2017, 51―2). さらに,メディカルクラウドファンディングを通じて,医療分野への市民参画を促進できるという 指摘もある(Renwick and Mossialos 2017, 52).こうした利点を最大限に活用して,患者・家族は, 法律上保障されていない未承認薬を「試す権利」を実現する支援を得ることができるだろう. 一方,メディカルクラウドファンディングがもたらすリスクが各所で指摘されている.最も顕著 なリスクとして,提案されているプロジェクトが詐欺であったり,マネーロンダリングに用いられ る可能性がある.自身の病状や他人の病状を偽ったり,他人になりすましたり,集めた資金を目的 通りに使わないなどの例が挙げられる(Zenone and Snyder 2019, 220―4).日本でも,クラウドファ ンディングではないものの,甥に渡航移植が必要だと偽って「救う会」を立ち上げ,募金を集めた 例があった8). また,患者が科学的妥当性が確立されていない治療法に向かってしまう可能性もある.米国で 2017年に行われた調査では,科学的な妥当性が確立されていない5つの治療法に関連する1059 のクラウドファンディングプロジェクトに対して,約7億円が集まったことが示された(Vox et al. 2018, 1705).RTT連邦法によれば,第1相試験を完遂し,開発が継続されている未承認薬の使用 を求めることができる.しかし,3.1でみたように,第1相試験を終えただけの段階では科学的な 妥当性が確立されたとは言い難い.メディカルクラウドファンディングによって,安全でない未承 認薬の利用が促進されてはならない. Snyderらは,個人の治療費のクラウドファンディングに伴う主な課題を3つ指摘している (Snyder, Mathers, and Crooks 2016, 28―9).第一に,メディカルクラウドファンディングでは, 支援を求めている患者や家族以外の者が利益を得ている可能性があり,医療へのアクセスに悪影響 を与える可能性があるとする.クラウドファンディングサイトでは,手数料や利用料として少なく ない金額をプラットフォームの提供者に支払う必要がある.また,先に述べたように詐欺によって 支援者の目的とは異なるところに資金が流れたり,科学的に妥当でなかったり違法な医療を行う医 療者に資金が流れることも考えられる.第二に,メディカルクラウドファンディングによって,不 平等な医療アクセスへの理解が促進されない可能性があるという.本来,不平等な医療アクセスが 生じる要因は,制度上の問題であるにも関わらず,メディカルクラウドファンディングが普及する ことによって,制度改革の必要性に注意が払われなくなる懸念がある.第三に,メディカルクラウ ドファンディングの成功と引き換えに,患者や家族のプライバシーが損なわれる懸念がある.プロ ジェクトの成功の秘訣として,SNSやメディアなどで患者の病状その他をできるだけ具体的に, 頻回に拡散することが挙げられている.これらの個人情報は,プロジェクト終了後,患者の治療後 もインターネット空間に残り続けることになり,こうした状況への懸念を示している. メディカルクラウドファンディングが抱える課題は,RTT連邦法で患者に付与された未承認薬 を「試す権利」を実現する過程で生じる課題の一部に過ぎない.そうだとしても,未承認薬利用制 度を社会に実装していく上では検討しなければならない課題であろう.
4.おわりに―日本の制度
本稿では,米国の未承認薬利用制度の概要とその課題の一部を検討した.米国では,RTT連邦 法の成立によって未承認薬利用の道が拡大されたが,患者の身体・生命の保護や「試す」権利が実 現されているとは言い難い状況が明らかになった.最後に,未承認薬利用に関する日本の状況をま とめておく.日本で未承認薬を利用できる主な枠組みとして,治験,拡大治験,患者申出療養制度がある.1. でもふれたように,第一選択肢は治験であるが,様々な理由でそれに入れなかった場合は,拡大治 験,患者申出療養制度を利用する. 拡大治験は,米国や欧州のcompassionate use制度と同様の趣旨を日本の薬事制度・保険制度に 導入するため,2016年1月から始まった(片山2018,37―8).拡大治験の対象となる患者は,「生 命に重大な影響がある疾患であって,既存の治療法に有効なものが存在しない疾患」を有し,既存 の治験(主たる治験)の参加基準に満たない者である.治験の対象薬を投与することで,「患者が享 受できると期待されるベネフィットの蓋然性が比較的高い」と考えられ,かつ,少なくとも主たる 治験への患者組み入れが終了している場合は,その治験対象薬を開発している製薬企業の判断によ り,本来の参加基準に満たない患者に治験薬を提供できる9).一見,EAプログラムの個人患者使 用と似ているが,拡大治験はあくまでも薬機法10)とGCP省令11)が適用される治験の枠組みで4 4 4 4 4 4 4行わ れる.PMDAに対して拡大治験の実施計画書を提出し,主たる治験の実施施設で,主たる治験の 治験責任医師・治験分担医師が患者に治験薬を投与することが原則とされている. さらに,2016年4月には,「困難な病気と闘う患者の思いに応えるため,先進的な医療について, 患者の申出を起点とし,安全性・有効性等を確認しつつ,身近な医療機関で迅速に受けられる」こ とを目的として患者申出療養制度が開始された12).参加できる治験,拡大治験が見つからないが, 試してみたい未承認薬・適応外使用の薬がある場合,患者が主治医に申し出ることによってその薬 の使用が検討される仕組みである.主治医は,患者との相談の上,臨床研究中核病院に対して患者 申出療養の実施計画の作成を求める.臨床研究中核病院は,実施計画を作成し,国の委員会(患者 申出療養制度評価会議)に申請し,認められれば臨床試験として4 4 4 4 4 4 4それを実施することができる.こ の制度は,「困難な病気と闘う患者の思いに応える」ことの他に,「将来的に保険適用につなげるた めのデータ,科学的根拠を集積すること」をも目的としている13). 両制度は,欧米で先行していた人道的使用や拡大使用を参考にしながら検討されてきた(Fujiwara 2016,293―4).これまでにみてきた米国の制度と比較して大きく異なるのは,患者が未承認薬を 利用できる道は,あくまでも臨床試験・治験という研究の枠組みに収まっている点だろう.米国の 制度では,患者が未承認薬を直接「試す(ことを求める)権利」がEAプログラムで付与され,RTT 州法・連邦法で拡大された.これは,患者個人の治療のみを目的とした未承認薬利用の道が拡大さ れたことを意味する.他方,日本の制度では,拡大治験や患者申出療養制度では「臨床試験の枠組 みで未承認薬を利用できる権利」,「臨床試験の実施を求める権利」が拡大されたとみることができ よう. 日本の未承認薬利用制度は,安全性の確保を重視し,国民皆保険制度の維持という日本の医療制 度の特徴に裏打ちされている.「臨床試験の実施を求める権利」と未承認薬を「試す(ことを求める) 権利」のバランスをどうとるか,つまり,患者の希望に応えることと,エビデンス集積のバランス をどうとっていくかは引き続きの課題となるだろう(天野2018,60). 謝辞 本稿は,JSPS科研費JP17K17665,JP15H05913の助成を受けたものです. ■注
compassionate-use
2) Special Access Scheme https://www.tga.gov.au/form/special-access-scheme 3) http://righttotry.org/right-to-try-letter-of-support/ (2019年9月24日閲覧) 4) https://www.fightcancer.org/sites/default/files/National%20Documents/February%20Right%20 to%20Try%20Coalition%20Letter%20-%20Final.pdf (2019年9月24日閲覧) 5) https://www.facebook.com/matt.bellinski.7?__tn__=%2CdC-R-R&eid=ARBrdt9HOvRpiqc-IiqCZ9mdx-LudwBND5tzKycQ3exgdhIML3T3GLbfruq4ZwLgxWA6BZEXokutVRiM&hc_ref=ARTB JU0uRse9NwR5uJgcY8pPFzSicRKU_d5Irm5vxwtut3BY14mtwqvZw2RfZqM1Y3U&fref=nf (2019年9 月24日閲覧) 6) http://righttotry.org/right-to-try-letter-of-support/ (2019年9月24日閲覧) 7) https://smartirb.org/ 多施設共同研究の一括倫理審査を行うネットワーク(2019年9月25日閲覧) 8) 「『心臓手術のため募金』は伯母の虚偽発表」この例では,救う会の募金活動を開始した旨を厚生労働 省で記者会見していた.https://www.sankei.com/affairs/news/161109/afr1611090015-n1.html (2019 年9月27日閲覧) 9) 「人道的見地から実施される治験について」https://www.pmda.go.jp/review-services/trials/0016. html (2019年9月27日閲覧) 10) 正式名称は「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」 11) 正式名称は「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」 12) 患者申出療養制度(患者さん向けページ)https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/ (2019年9月 27日閲覧) 13) 患者申出療養制度(患者さん向けページ)https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/ (2019年9月 27日閲覧) ■文献
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Received: January 9, 2020; Accepted in final form: January 25, 2020
* Division of Bioethics and Healthcare Law, Center for Public Sciences, National Cancer Center Japan; hnakada@ ncc.go.jp
NAKADA Haruka
*Research Note ■ Journal of Science and Technology Studies, No. 18 (2020)■
Is Patients’ “Right to Try” Guaranteed by the Law?:
The Overview of the Preapproval Access Pathway to the
Investigational Drugs in the U.S.A.
Abstract
The federal Right to Try (RTT) law was enacted in 2018 in the United States where the use of investigational drugs has been actively examined. The law enables patients to have access to investigational drugs from pharmaceutical manufacturers without the need for approval by the Food and Drug Administration. Although the law can benefit patients by providing them with additional treatment options, the law may be insufficient for protecting the lives and well-being of patients and for protecting the “right to try” as the cost coverage for investigational drugs is not regulated. Medical crowdfunding has gained significant attention from both patients and their families as a way to cover the cost of medical treatment, while it has some ethical or social issues. Based on the systems developed in the United States and Europe, the Expanded Trial and Patient-requested Therapy System were established in 2016 in Japan. While these systems provide patients with the “right to ask to participate in a clinical trial”, they do not seem to provide individual patients with the “right to try” a particular treatment. Future investigations are needed to evaluate the balance between providing treatment options for individual patients and collecting additional evidence.