日台児童虐待対応機関の体制比較
著者 今井 涼, 呉 懿軒
雑誌名 評論・社会科学
号 121
ページ 37‑54
発行年 2017‑05‑31
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015524
要約:本稿では,日本の児童虐待対応機関である児童相談所と,台湾の家庭内暴力及性的 侵害防止治療センターを対象に,法的根拠,機関の概要,体制,虐待の実態等を比較分析 し,課題を明らかにしている。比較の結果,日本では児童虐待を児童福祉の問題の一とし て位置付けていることが,台湾では家庭内の暴力の一として位置付けていることがわかっ た。また両国共通の課題として地域機関との連携が難しいことがわかった。日本の課題と しては,業務の膨大さ,保護者以外からの虐待の実態が見えにくい状況が明らかとなった。
台湾の課題としては,法律上の虐待の定義の曖昧さ,虐待死の公的統計の不在のために虐 待死の把握が困難なこと等の課題が確認された。
キーワード:児童相談所,家庭内暴力及性的侵害防止治療センター,児童虐待,日台比較
目次
1.研究の背景・目的・方法 1-1.背景と目的 1-2.研究方法
2.日本の児童虐待対応の体制
2-1.児童虐待対応機関と根拠法令等について 2-2.児童虐待の定義
2-3.児童相談所の設置と職員配置 2-4.児童相談所の権限と機能 2-5.他機関との連携 3.台湾の児童虐待対応の体制
3-1.児童虐待対応機関と根拠法令等について 3-2.児童虐待の定義
3-3.家防センターの設置と職員配置 3-4.家防センターの機能・権限 3-5.他機関との連携
4.児童虐待の実態
4-1.日本の児童虐待の実態
────────────
1)同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程 2)同志社大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程
*2017年2月28日受付,査読審査を経て2017年3月23日掲載決定
論文
日台児童虐待対応機関の体制比較
今井 涼
1)・呉 懿軒
2)37
4-2.台湾の児童虐待の実態 5.結果
1.研究の背景・目的・方法
1-1.背景と目的
台湾とほぼ同時期に,本格的な児童虐待対応が始まった日本では,1990年代より児 童虐待に対する社会の関心が高まり,2000年の児童虐待防止法制定によって,その対 応に本腰が入れられるようになった。一方台湾では,1988年の民間団体と学術機関の 提携による児童虐待に関する研究成果の公表によって,児童虐待に対する社会の関心が 喚起されるようになった。両国は同じ極東アジアの国であるが,ほぼ同時期に児童虐待 をめぐる社会的な関心が喚起され,そこから本格的に児童虐待対応に取り組み始めたと いう点でも共通している。その後両国でそれぞれ児童虐待対応の実績が一定積み上がっ て来たところで,課題もまた浮かび上がってきた。同時期に児童虐待への取り組みを始 めた極東アジアの国として,その後日本と台湾はその歩みにどのような違いを生じてい るのだろうか。日本では
2017(平成 29)年度から改正児童福祉法が完全施行されるが,
本稿は,それを前にこれまでの両国共通の課題と各々の課題とを明らかにして,比較分 析することを目的としたものである。
児童虐待や児童相談所に関する先行研究は数多くある。そのうち,児童虐待対応機関 を国際比較した研究にはいくつか蓄積があるが,そのほとんどが欧米諸国のそれとの比 較である。アジア諸国と比較した研究については柳川ら(2000)の調査研究がある。こ れは,アジア各国
18
ヶ国にアンケート調査を実施し,うち14
ヶ国から回答を得たもの で,虐待に対する主要機関について紹介し,虐待の認識や,発生率などを比較考察した ものである。しかし台湾の児童虐待対応機関からは回答が得られず,ここでは取り扱わ れていない。黄(1999)は,日本,アメリカ,イギリス,台湾,ヨーロッパの児童虐待 予防や児童虐待治療のプログラムを考察している。しかし台湾については,1999年以 前の民間機関による児童虐待対応が取り扱われるに留まっており,法制度や公的機関に よる児童虐待対応についてはふれられていない。また,北川・余(2005)は,台湾の児 童虐待ケアと防止策を採り上げているものの,当時という時期の限界があり,現在の児 童虐待の実態を踏まえた分析はされていない。したがって本稿では日本と台湾の主たる児童虐待対応機関を対象として,法的根拠,
機関の概要,体制,虐待の実態等の比較分析を行うことを具体的な目的とする。
日本の児童虐待対応機関としては児童相談所を取り扱う。児童虐待防止法の規定では 児童虐待対応は,児童相談所だけでなく,都道府県・市町村設置の福祉事務所も行うこ
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ととなっているものの,ここで児童相談所のみを対象にするのは,児童福祉法上,一時 保護や施設入所,里親委託等の行政権限は児童相談所のみに与えられているためであ る。台湾の児童虐待対応機関としては家庭内暴力及性的侵害防止治療センター(以下,
家防センター)を取り扱う。家防センターは家庭内での虐待や性的被害を受けた人を支 援するのに特化した機関となっている。
1-2.研究方法
研究は,文献研究及び法律,運営指針,手引き,統計等を用いた分析によって行う。
日本のものでは,児童福祉法,児童虐待の防止等に関する法律(以下児童虐待防止法と する)のほか,児童相談所運営指針,子ども虐待対応の手引き,福祉行政報告例等を用 いる。ただし,これらの法律や指針は平成
28
年度の改正によって現在一部未施行のも のがあるため,未施行部分については平成28
年度以前のものを対象にしている。なお,子ども虐待対応の手引きについては現在公開されている最新版の平成
25
年度版のもの を用いる。台湾のものでは,児童及び少年福利と権益保障法・施行規則,児童及び少年 保護通報と緊急度識別の処理及び調査に関する法律,児童及び少年保護の手引き,衛生 福利部保護服務司と民間団体による児童虐待に関する統計データ・報告書等が分析対象 となっている。なお,1, 2, 4-1, 5については今井が,3, 4-2の台湾の動向については呉が執筆する。
また,日本の機関・制度と台湾の機関・制度とは必ずしも概念的・機能的に一致しない ところがあり,併せて訳語の限界もある旨ことわっておきたい。
2.日本の児童虐待対応の体制
2-1.児童虐待対応機関と根拠法令等について
児童虐待対応については,児童福祉法及び児童虐待の防止等に関する法律が根拠法令 である。法律のほかにも,厚生労働省による「児童相談所運営指針」「子ども虐待対応 の手引き」があり,児童虐待対応において児童相談所が参照することとされている(厚
生労働省
2013 a : 1)。なお,児童虐待対応に当たる市町村の福祉事務所向けには「市町
村児童家庭相談援助指針」がある。
2-2.児童虐待の定義
まずは日本の児童虐待の定義について整理しておこう。日本では児童虐待防止法にお いて虐待について定義されている。第二条には「保護者による虐待」として,身体的虐 待,性的虐待,心理的虐待,ネグレクトの四つが定義されている。ここでいう保護者と
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は「親権を行う者,未成年後見人その他の者で,子どもを現に監護,保護している場合 の者」を指す。親権者や未成年後見人であっても,子どもを現に監護・保護していない 場合は保護者には当たらない。例えば,現に子どもを保護・監護していれば,子どもの 母と内縁関係にある者や,児童が入所している児童福祉施設の長も「保護者」となる。
以下に四つの虐待の定義の詳細を見ていく。身体的虐待は「児童の身体に外傷が生 じ,又は生じる恐れのある暴行を加えること」,性的虐待は「児童にわいせつな行為を すること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」,ネグレクトとは「児童の心身 の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置,保護者以外の同居人による 前
2
号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく 怠ること」,心理的虐待は「児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応,児童が 同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが,事実 上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又 は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」とされている。心理的虐待 については,児童に対する直接の暴力だけでなく,家庭内の配偶者に対する暴力につい ても虐待と規定されていることが注目される。
この第二条による定義で特徴的なのは,「保護者による虐待」と定義していることで あろう。たとえばこの第二条の定義にしたがうと,加害者が保護者以外の場合の家庭内 性暴力は保護者による「ネグレクト」として取り扱われることになる。同様に児童福祉 施設の職員による虐待は,保護者である施設長の「ネグレクト」となる(子ども虐待対 応の手引き
2013 : 4)。このような虐待は,福祉行政報告例等の統計上では「ネグレク
ト」としてカウントされることになるため,統計上は保護者以外からの性暴力事案が見 えにくい状況がある。なお,第三条には「何人も,児童に対し,虐待をしてはならない」とある。保護者か らの虐待のみならず保護者以外からの虐待についても,「そもそも本来保護すべき子ど もに対して何人も『虐待』をすることは許されない」として「幅広く子どもの福祉を害 する行為や不作為」を禁じたもので,「児童福祉法第
34
条や児童買春・ポルノ禁止法に 掲げる禁止事項や,暴行罪,傷害罪,保護責任者遺棄罪,強制わいせつ罪等」児童に対 するありとあらゆる虐待行為の禁止を規定したものである(厚生労働省2013 a : 4-5)。
この第三条の虐待を受けた児童も「要保護児童」として児童福祉法上の通告や保護の対 象となるが(厚生労働省
2013 a : 5),指針や手引きの上でも,現実的にも,児童相談所
による虐待対応は,第二条による虐待に焦点化されている。日台児童虐待対応機関の体制比較 40
2-3.児童相談所の設置と職員配置
ここでは日本の児童虐待対応機関の法的な位置付けを確認する。
先述のように日本では児童相談所が主な対応機関となっており,その根拠法は児童福 祉法と児童虐待防止法となっている。児童福祉法上,その設置主体は都道府県(指定都 市含む)については必置となっているほか,政令指定都市以外にも個別に政令で指定す る児童相談所設置市についても児童相談所を設置できることとなっている。
職員構成やその任用資格については児童福祉法に規定されているところだが,職員の 配置基準やより詳細な職員構成については,児童相談所運営指針に記載がある。それに よると職員構成としては,児童福祉司,児童心理司,スーパーバイザー,精神科医,心 理療法担当職員などの配置が規定されている。また職員数の配置基準については平成
28
年度までは児童福祉法施行令にしたがい,児童福祉司を管轄地域の4〜7
万人につき1
人配置することとされていたが(厚生労働省2013 b : 17),平成 28
年6
月の法改正を 受け,最新28
年9
月の指針からは4
万人に1
人となり,他の職員についても詳細な規 定が追加されている(厚生労働省2016 a : 17-18)。
2-4.児童相談所の権限と機能
児童虐待防止法において児童相談所は,通告を受けた場合,必要に応じて地域住民や 各機関と連携しながら,児童の面会・安全確認のための措置や,一時保護を行うことと されている。このようにして通告を受けた場合,児童福祉法や児童虐待防止法上,児童 相談所には固有の権限として,一時保護,施設入所等の措置,親権停止・喪失の請求,
出頭要求・再出頭要求,立ち入り調査,臨検,捜索等の権限が与えられている。
しかしながら児童相談所は虐待対応に特化した機関ではなく,他にも多種多様な機能 を有している。その点について児童相談所運営指針の整理を以下に引用し,確認してお こう。
①(2)に掲げる市町村の業務の実施に関し,市町村相互間の連絡調整,市町村に対 する情報の提供,市町村職員の研修その他必要な援助を行うこと及びこれらに付随 する業務を行うこと(1)。
②子ども及び妊産婦の福祉に関し,主として次に掲げる業務を行うこと。
ア.各市町村の区域を超えた広域的な見地から,実情の把握に努めること。
イ.子どもに関する家庭その他からの相談のうち,専門的な知識及び技術を必要と するものに応ずること。
ウ.子ども及びその家庭につき,必要な調査並びに医学的,心理学的,教育学的,
社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。
日台児童虐待対応機関の体制比較 41
エ.子ども及びその保護者につき,ウの調査又は判定に基づいて心理又は子どもの 健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導その他必 要な指導を行うこと。
オ.子どもの一時保護を行うこと。
③①,②に掲げるもののほか,子ども及び妊産婦の福祉に関し,広域的な対応が必要 な業務並びに家庭その他につき専門的な知識及び技術を必要とする支援を行うこ と。(厚生労働省
2016 a : 5)
以上のように児童相談所は非常に多岐にわたる業務をこなしており,したがって体制 上,児童虐待対応だけには専念できない状況にある。
2-5.他機関との連携
児童虐待防止法上,児童虐待の通告を受け付け,その対応にあたるのは児童相談所と 市町村の福祉事務所であると規定されている。このうち児童相談所は,その役割を「専 門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化」したもの とされている(厚生労働省
2016 a : 4)。しかし児童相談所と市町村福祉事務所の役割に
ついてはこれまで,法律上及び指針・手引きの上で両者の分担についての規定が不十分 であったため,ケースの主担当の振り分け等をめぐって現場の混乱が大きく,ケースの 適切な進行管理の困難等の問題を生じていた。こうした現状を踏まえ,平成28
年の児 童福祉法等改正法では「市町村,都道府県,国それぞれの役割・責務について,明確化 することとされ,市町村は,基礎的な地方公共団体として,子どもの身近な場所におけ る子どもの福祉に関する支援等に係る業務を適切に行うこととされた」(厚生労働省2016 a : 132)。
虐待対応では市町村福祉事務所をはじめ,各関係機関と情報共有し,共通認識をも ち,役割分担して協働することが必要になる場面も多い。そこで各機関の間で円滑な連 携を図るため,地方公共団体には,関係機関により構成される「要保護児童及びその保 護者に関する情報等の交換や要保護児童等に対する支援内容の協議を行う」(厚生労働
省
2016 a : 134)要保護児童対策地域協議会の設置が,児童福祉法上で努力義務として
課せられている。児童虐待対応における機関連携は,守秘義務の課されたこの要保護児 童対策地域協議会の枠組の中で行われることになるが,先述したように児童相談所と市 町村の福祉事務所の役割が曖昧であったことにくわえ,設置が努力義務だったことか ら,設置されていない市町村との連携が難しいなどの課題もあった。
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3.台湾の児童虐待対応の体制
3-1.児童虐待対応機関と根拠法令等について
台湾の主な児童虐待対応機関は,家庭内暴力及性的侵害防止治療センター(以下,家 防センター)という。名称のとおり,家防センターとは家庭内での虐待や性的侵害を受 けた人を支援するのに特化した機関となっている。児童虐待の対応はセンター内の児童 及少年保護扶助組(以下,児少保組)が担当している。
児童虐待対応については,児童及少年福利と権益保障法(以下,児権法),児童及少 年保護通報と分級分類処理及調査方法が根拠法令である。法律のほかにも,内政部によ る「児童及少年保護の手引き」があり,児童虐待対応において家防センターが参照する こととされている。
3-2.児童虐待の定義
台湾では児権法にて虐待にあたる行為が列挙されてはいるが,虐待を分類した明確な 法的定義はない。児権法第
4
章「保護措置」では,児童がしてはならないこと(喫煙,飲酒,ドラッグの使用,クラブや風俗やギャンブル場の出入り等),保護者(親権を行 う人,児童を監護している人,実際に児童と一緒に生活し,児童を養育する親戚または 両親と内縁関係を持っている人)による児童に対する禁止行為(6歳以下の児童または 特別要養護児少を留守番をさせること),すべての人が児童に対してしてはならないこ と(遺棄,心身虐待,児童を利用し乞食させるまたは見世物にすること,わいせつまた は性的行為,誘拐,拉致,売買,結婚させること,教育を受けさせないこと,自殺の勧 誘等)の記載がある。
また,手引きの上で,身体的虐待,ネグレクト,性的虐待,精神的虐待の四つに分け て定義されているが,具体的な例など詳しい説明がないため,児童虐待対応の現場では しつけと虐待,不適切な養育とネグレクトの定義について法的後ろ盾に乏しく,しばし ば混乱のもととなっている。
3-3.家防センターの設置と職員配置
先述のように台湾では,家防センターが主な対応機関となっており,その根拠法は家 庭内暴力防止法・施行規則,性的侵害防止法・施行規則,刑法第
16
章(性自主妨害 罪),児権法・施行規則,児童及び少年性的交易防止法・施行規則(児童ポルノ法に当 たる法律)等となっている。全国の家防センターは,表1
のように第1
級行政区分の六 直轄市(人口125
万人以上,政治・経済・文化の発展に重要な地域)では独立機関とし日台児童虐待対応機関の体制比較 43
て設置され,他の第
2
級行政区分の三省轄市(人口50
万以上125
万人未満)と13
県の 家防センターは地方政府の社会局や民政局(雇用均等・児童家庭局に当たる機関)に所 属している。家防センターの業務区分は基本的に相談内容によって,大きく児少保組,成人保護扶助組,性的侵害保護扶助組の三つに分かれている。また,地方政府の予算に より,ホットライン相談組,総合企画及び行政組,暴力防止組,医療支援組,啓発教育 組などが設置されている自治体もある。
様々に業務が区分されているが,児童虐待対応は児少保組が取り扱う。児少保組の職 員の任用資格は社会福祉士資格を持っている者が望ましいとされるが,実際には慢性的 なマンパワー不足のため,社会福祉士国家試験受験資格を持っている者も採用されてい る。すなわち,相談業務等に携わるソーシャルワーカーについては,資格の有無を問わ ないということであり,専門性には課題があると言えよう。
表1 全国家防センターの設置状況
自治体 設置形態 所属機関
台北市・新北市・桃園市 独立設置 社会局2級機関 台中市・台南市・高雄市
基隆市 任務編成 社会処婦女児少福利科担当業務
宜蘭縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
新竹市 任務編成 社会処社会工作科担当業務
新竹縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
苗栗縣 任務編成 労働及社会資源処社会工作科担当業務
彰化縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
南投縣 任務編成 社会処社工及婦幼科担当業務
雲林縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
嘉義市 任務編成 社会処社会福利科担当業務
嘉義縣 任務編成 社会局社会工作科担当業務
屏東縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
台東縣 任務編成 社会処婦幼福利科担当業務
花蓮縣 任務編成 社会処社会工作科担当業務
澎湖縣 任務編成 社会処社工及婦幼科担当業務
金門縣 任務編成 社会局社会福利科担当業務
連江縣 任務編成 民政局社会課担当業務
李 美 珍(2012)「家 庭 暴 力,性 侵 害 及 性 騷 擾 防 治 法 令 及 實 務」(https : //www.hwwtc.
mohw.gov.tw/att.php?uid=4156. 2017. 03. 13)より呉作成
表2 2012年度各自治体の児童及び少年保護扶助組ソーシャルワーカー一人当りが受け持つ平均ケース数 自治体 台北市 新北市 桃園市 台中市 台南市 高雄市 基隆市 新竹市 嘉義市 新竹縣 苗栗縣
ケース 61 60.5 21.7 76.3 41.2 104.1 54.2 57.5 61.1 59.2 46.3
自治体 彰化縣 南投縣 雲林縣 嘉義縣 屏東縣 宜蘭縣 花蓮縣 台東縣 澎湖縣 連江縣 金門縣
ケース 52.6 54.3 77.9 46.8 52.5 63 230.1 153.6 9.2 8 36.7
康健雜誌(2012)「䬟個城市搶救兒虐最努力?」より呉作成
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3-4.家防センターの機能・権限
台湾の家防センターは家庭内での虐待対応に特化した機関となっていて,通報の受理 及び調査,緊急対応などを行い,措置機能,指導機能,相談援助機能を有し,保護者に 指導を受けさせる権限,保護者や関係機関に調査協力を要請する権限,親権の停止及び 改定の申立の権限を持っている。家防センターは通告を受けた場合,24時間以内に目 視による子どもの安全を確認し,児童とその家庭のニーズに応じて,関係機関と連携し ながら一時保護,家庭再統合,在宅指導,育児指導,アディクション治療,経済的扶助
(生活保護,子ども手当,ひとり親家庭手当,裁判費用など),心理的支援(無料カウン セリングサービス,病院への付添い),司法的支援(無料弁護士の紹介・委託サービス,
裁判所や法廷への付添い)等を行う。
3-5.他機関との連携
児童虐待の対応は,単独機関でできるものではなく,地域における関係機関の連携に より支援を行うものである。しかし,台湾における児童虐待の相談・対応機関は家防セ ンターしか担当しない状況にある。慢性的な人材不足のなかで土日及び夜間を含む
24
時間の安全確認作業も行うため,職員は個々のケースに丁寧に対応する余裕をなくし,緊急度が比較的低いケースを後に回してしまうのが現状である。また,関係機関の情報 共有や連携に向けた取り組みが甘いため,虐待判断の精度が下がり,子どもを保護でき ずに死亡に至ったケースもある(黃翠紋,2012)。したがって,関係機関の連携をより 円滑にするために,定期的に縦横の連携会議,また事例検討を行う必要があると考えら れる。連携会議では各機関の情報及び認識の共有化,役割の明確化,虐待等の定義につ いての共通理解とリスクに応じたアセスメント,モニタリング,再アセスメントの徹底 が必要とされる。
また,児権法第
53
条では,医事人員,社会工作人員,教育人員,保育人員,教保服 務人員,警察,司法人員,移民業務人員,戸政人員,村(里)幹事等が,児童虐待を知 った場合,義務通告人として家防センターに通告しなければならないと明記されてい る。つまり,児童虐待の対応は,家防センター以外の医療,司法,警察,教育,保育な ど,子どもとその家庭に関わるあらゆる関係機関が責任を有している。しかしながら,警察・学校・医療機関の通報と虐待判断とは,曖昧かつ不適当であるため,家防センタ ーの職員に多大の負担がかかり,間接的に調査や支援の質に影響を与えることが分かっ ている(呉,2016)。例えば,警察や医療機関からの通報表は,親子の基本情報と子ど もが受傷している旨の記載しかなく,いつ,どこで,誰が,どのようにケガをしたのか 等,詳細な情報が調査されていない場合が多い。このように,通報表では具体的な情報 が記載されていないため,ソーシャルワーカーによるケースの危機判断に望ましくない
日台児童虐待対応機関の体制比較 45
影響を及ぼすことになり,また,実際に調査を行う際にも余計な時間がかかってしまう ことにもなる。こういった不明確な通報内容は,家防センターの職員に多大の負担をか け,調査の効率の低下や虐待判断の精度が下がることに繋がるのである。また,学校は 保護者と良好な関係を保ちたいため,虐待を子どもに対する厳しめの「しつけ」である と捉えて,通報をためらってしまうことがあり,養育に困難を抱えている家庭への支援 のタイミングを逃す場合がある。今後は通報と虐待判断の精度とを向上させるため,虐 待防止についての正しい知識の普及や,予防教育の充実を工夫する必要がある。特に,
「しつけ」,「ネグレクト」,「虐待」についてより明確に,具体的に再定義をする必要が あると考えられる。そして,責任通報者に対し虐待の通報や支援に関する継続的研修を 行う必要もあると思われる。
4.児童虐待の実態
2
では,日本の児童虐待対応の体制を,3では台湾の児童虐待対応の体制を概観して きた。では,このような児童虐待対応の体制は十分に機能してきたのだろうか。この章 では日本と台湾の児童虐待の実態について概観し,この点について検討する。4-1.日本の児童虐待の実態
表
3
は,日本の児童相談所の虐待の受理対応件数である。この十数年,一貫して増加 傾向が続いており,しかもかなり大きな割合で増加している。増加の背景には,社会の 意識が高まったことで通告件数が増えたことや,いわゆる「面前DV」などによる警察
からの心理的虐待通告の増加が背景にあるとされている。したがって,必ずしも児童虐 待の実態を実数として反映しているとは限らないが,それでも対応件数が増加すれば,それだけ児童相談所の業務は増えることになる。対応件数が年々増加し,2015年度の 対応件数は
2005
年度の3
倍近くに増加している一方で,児童福祉司の数は2005
年の1989
人から2934
人へと約1.5
倍にしか増えていない(厚生労働省2015 : 4)。現場での
繁忙ぶりをうかがい知ることができる。児童虐待件数の実態をある程度反映にしたものには,虐待相談の一時保護件数が指標 となるだろう。ここでも年々増加の傾向がみられており,所内一時保護件数と委託一時 保護件数を合わせれば,ここ十年では約二倍の増加となっている。
では,児童相談所による対応は,児童虐待の緩和につながっていると言えるのだろう か。児童虐待の最も重篤な形と言える虐待死の事例数は,年によって多少の変動はある ものの,ほぼ横ばいに推移している。表
5
は,虐待死と親子の心中死の統計だが,ここ 数年は百件未満の傾向が続いている。先述のように,虐待対応件数が虐待件数の実数の日台児童虐待対応機関の体制比較 46
正確な反映ではないことに留意し,また,少子化によって児童の絶対数そのものが減少 していることを考慮しても,虐待対応件数の増加傾向のなかで虐待死の件数が横ばいに 推移していることは,児童虐待対応が一定の効果を上げていることによるものと言って 良いのではないだろうか。
4-2.台湾の児童虐待の実態
表
6
は2009
年から2015
年までの児童虐待の通報・受理・介入人数の推移を示してい る。通報人数から見ると,年々増加し続けていることが分かった。これは,国が長年に表3 児童相談所の児童虐待対応件数 H 17(2005)年度 34472 H 18(2006)年度 37323 H 19(2007)年度 40639 H 20(2008)年度 42664 H 21(2009)年度 44211 H 22(2010)年度 56384 H 23(2011)年度 59919 H 24(2012)年度 66701 H 25(2013)年度 73802 H 26(2014)年度 88931 H 27(2015)年度 103260
(厚生労働省(2005-2015)「福祉行政報 告例 児童福祉」『政府統計の総合窓口 eStat』(http : //www.e-stat.go.jp/SG1/estat /NewList.do?tid=000001034573, 2017. 2.
25).より今井作成)
表4 児童相談所による虐待相談一時保護受付件数 所内一時保護件数 委託一時保護件数 H 17(2005)年度 6442 2656 H 18(2006)年度 7139 3209 H 19(2007)年度 7503 3254 H 20(2008)年度 7682 3207 H 21(2009)年度 7562 3194 H 22(2010)年度 8611 4031 H 23(2011)年度 8904 4528 H 24(2012)年度 9764 5283 H 25(2013)年度 10216 5458 H 26(2014)年度 10748 6127
(厚生労働省(2005-2015)(「福祉行政報告例 児童福 祉」
『政府統計の総合窓口eStat』http : //www.e-stat.go.jp/SG 1/es- tat/NewList.do?tid=000001034573, 2017. 2. 25).より今井作 成)
表5 虐待死亡事例件数
総数 心中以外 心中
H 15(2003)年度 25 25
H 16(2004)年度 58 50 8
H 17(2005)年度 86 56 30
H 18(2006)年度 126 61 65 H 19(2007)年度 142 78 64 H 20(2008)年度 128 67 61
H 21(2009)年度 88 49 39
H 22(2010)年度 98 51 47
H 23(2011)年度 99 58 41
H 24(2012)年度 90 51 39
H 25(2013)年度 69 36 33
(厚生労働省(2003-2015)「子ども虐待による死亡事例等の検証について 厚生労働 省による検証報告書」『厚生労働省』(http : //www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
kodomo/kodomo_kosodate/dv-jinshin/index.html, 2107. 2. 25).より今井作成)
日台児童虐待対応機関の体制比較 47
わたって児童虐待に対する関心の喚起や児童虐待の通報の呼びかけを続けてきた成果で あり,2011年の法改正による通報義務の拡大がもたらした結果でもあると推測できる。
しかし,通報を受けた家防センターが最初のふりわけを行った結果として,虐待やネグ レクトの疑いがあるとされて受理した人数は,通報人数よりも少ない。さらに,実際に 調査を行い,虐待やネグレクトの事実があると判断され,継続的支援を受ける人数はも っと少ない。計算の結果によると
2009
年には6,528
人の差であったのが,2015年にはなんと
33,218
人もの差となっていた。このことから,通報者は虐待であるかどうかを判断する能力や知識を持たないこと,また情報の収集が不完全の状況であっても,通報 義務違反を理由として行政罰を科されることを恐れ,むやみに通報することになってい るということが分かった(呉,2016)。
児童虐待率の減少からは児童虐待の状況は悪化していないと言いたいところである が,実際は表
9
が示しているように,虐待による死亡事例は依然として後を絶たない状 況である。台湾では虐待による死亡事例が毎年報告されているが,衛生福利部のデータでは病気 や事故によって死亡する事例も含めて統計を行うため,実際に虐待によって死亡した人 数を明らかにすることはできなかった。それに対し,民間団体が児童虐待に関する新聞
表6 児童虐待の通報・受理・支援人数の推移
通報人数 受理人数 介入人数
2009 19928 19841 13400
2010 27459 26550 18331
2011 30197 26573 17667
2012 31917 29268 19174
2013 31102 25971 16332
2014 39352 37357 11589
2015 42822 41512 9604
衛生福利部保護服務司(2016)「児童及少年保護執行状況」(http : //www.mohw.gov.tw /CHT/DOPS/DM1.aspx?f_list_no=806&fod_list_no=4624. 2017. 2. 12)より呉作成
表7 児童人口推移
2009 5062711
2010 4915037
2011 4794846
2012 4701779
2013 4581977
2014 4471470
2015 4365974
中華民 國 統 計 資 訊 網(http : //statdb.dgbas.gov.tw/
pxweb/dialog/statfile9.asp, 2017. 2. 13)より呉作成
表8 児童虐待率【(子ども虐待人数/0-18歳人 口数)X 10,000】
2009 27.88
2010 39.25
2011 38.98
2012 43.33
2013 37.79
2014 27.57
2015 23.44
中華民 國 統 計 資 訊 網(http : //statdb.dgbas.gov.tw/
pxweb/dialog/statfile9.asp, 2017. 2. 13)より呉作成 日台児童虐待対応機関の体制比較
48
記事を収集し分析したデータでは,虐待によって死亡した人数をある程度知ることがで きる。しかし
2012
年には,二つの民間団体による統計データは,その調査時間と対象 の範囲が異なっているため,大きな相違があることが分かった。また,子どもの命が脅 かされる重大な児童虐待事件は,自治体が検討会議を開き,予防及び解決策を報告する 義務があるが,報告書の内容は公開されていないため,各自治体がどのような議論をし たのかを知ることはできない。このように,虐待死に関する統計項目の不完全さにより 虐待死の実態が把握できず,また,各自治体において虐待死事例の検討が十分になされ ているかどうか曖昧であることから,現在においても具体的な虐待死の予防策は講じら れていない。現状のままでは,虐待死を防ぐことも,養育の困難に直面している家庭に 対して適切な支援を実施することも困難であろう。5.結 果
以上,日本と台湾の児童虐待対応機関についての制度や虐待の実態を概観してきた。
ここではそれらのうち,特に両国の違いで際立っていると考えられる,児童虐待対応 機関の位置付け(2-1, 3-1及び
2-4, 3-4)や児童虐待の定義(2-2, 3-2),他機関との連携
表9 児童虐待によって死亡した件数の推移
年別
衛生福利部保護服務司
(病気・事故等 による死亡も含む)
児童福利聯盟文教基金会(2) 台湾児童及家庭 扶助基金会 合計 心中以外の
死亡事例
心中による
死亡事例 虐待死・心中死合計
2009 42 29 14 15 −
2010 60 27 10 17 −
2011 54 37 12 25 −
2012 65 28 13 15 57
2013 48 − − − 47
2014 59 − − − 51
2015 68 − − − 53
①衛生福利部保護服務司(2016)「児童及少年保護執行状況」
(http : //www.mohw.gov.tw/CHT/DOPS/DM1.aspx?f_list_no=806&fod_list_no=4624. 2017. 2. 12)
②児童福利聯盟文教基金会(2012)「2012年殺子自殺及重大兒虐個案解析記者會」
(http : //www.children.org.tw/news/advocacy_detail/936, 2015. 5. 18).
③台湾児童及家庭扶助基金会(2012)「家扶金基金會公布101年度十大兒保新聞」
(https : //www.ccf.org.tw/?action=news 1&class_id=4&did=64, 2015. 11. 2).
④台湾児童及家庭扶助基金会(2013)「兒少性虐待傷害數據?史新高8年來約增加2.7倍」
(https : //www.ccf.org.tw/?action=news 1&class_id=4&did=109, 2015. 11. 2).
⑤台湾児童及家庭扶助基金会(2014)「家扶金基金會公布103年度十大兒保新聞」
(https : //www.ccf.org.tw/?action=news 1&class_id=3&did=154, 2015. 11. 2).
⑥台湾児童及家庭扶助基金会(2015)「家扶金基金會公布103年度十大兒保新聞」
(https : //www.ccf.org.tw/?action=news 1&class_id=3&did=201, 2016. 11. 13).
以上の資料より呉作成
日台児童虐待対応機関の体制比較 49
(2-5, 3-5)について比較分析したい。
一点目は児童虐待対応機関の位置付けである(2-1, 3-1及び
2-4, 3-4)。日本の児童相
談所は,児童を対象にした福祉に関する業務を取り扱う機関である。その業務内容は多 岐にわたっており,児童虐待対応はその一部という位置付けである。そのため,児童相 談等の対応と児童虐待対応との所内分担にはしばしば難しさが生じる一方で,児童本人 に関する情報については虐待以外の情報も集約されやすく,児童自身の問題を広い視野 で捉えることが可能であるという特徴がある。一方台湾の家防センターは,家庭内での暴力全般に対応する機関とされており,児童 虐待はセンター内の児童部門(児少保組)が受け持つという形になっている。つまり児 童虐待は家庭内で起こる暴力の一部との位置付けである。児童虐待を家庭内の暴力の一 として捉えるため,暴力への対応という目的が明確であり,また,DVなどの他の家庭 内暴力事象の把握や関連についても把握しやすく,対応もより円滑になされると考えら れる。
二点目は児童虐待の定義についてである(2-2, 3-2)。日本では児童虐待防止法第二条 において保護者による児童虐待の四類型が定義され,また第三条にて全ての人間による 児童に対する虐待が禁止されている。このうち日本では児童虐待を主に,第二条におけ る保護者と児童本人の間で生じる問題として焦点化しており,保護者以外からの児童虐 待,例えばきょうだい間で起こる暴力等は保護者によるネグレクトとして整理され,
「児童虐待」としての実態が可視化されにくい現状がある。一方台湾では児童虐待を分 類した明確な法的定義はなく,保護者による児童に対する禁止行為や,万人の児童に対 する禁止行為の列挙の記載がある。児童虐待の定義が法律上で曖昧なことは,しばしば 現場の混乱の要因となっている。
三点目は他機関との連携である。日本では児童虐待防止法上,児童虐待の対応にあた るのは児童相談所と市町村の福祉事務所であると規定されており,その役割分担をめぐ っては混乱が大きい面がある。一方で地域においては要保護児童対策地域協議会とし て,各機関が協働する枠組が一定整備されている。医療機関,母子保健,保育園,学 校,警察等の各機関で児童の状況を連続的かつ多角的に見守ることが可能であり,ケー スの進行管理のための定期会議や状況に応じて個別ケース検討会議を開催することで情 報共有を図る仕組みがある。
これに対して台湾では,児童虐待対応機関は家防センターのみであるため,緊急的な 児童虐待対応における役割の混乱はない。ただし,地域機関との関係は通報段階から葛 藤が多いものであり,また,地域の機関が協働するための制度が充分に整備されていな い。
以上,日本と台湾の児童虐待対応機関を比較してきたが,それらを整理すると次のよ
日台児童虐待対応機関の体制比較 50
うになる。すなわち,日本の児童相談所では,児童虐待を保護者と児童の関係を軸にし て捉え,児童の福祉の問題の一として位置付け,市町村福祉事務所との役割分担の曖昧 さを抱えつつ,地域機関で包括的に児童を見守りながら対応に当たっている。一方で台 湾では児童虐待を家庭内で起こる暴力の一形態として捉え,暴力への緊急対応や保護者 に対する指導を主に行っているが,地域機関と協働するための仕組みが充分には整備さ れていない。
両国の児童虐待対応の体制にはそれぞれ一長一短があると考えられるが,こうした違 いが
4
で示したような虐待の実態にそれぞれどのように反映されているのか,児童虐待 に関する統計の採り方が大きく異なることもあってその比較は難しい。日本において は,児童虐待対応にかかる件数が増加傾向にあるのに比して虐待死の件数はほぼ横ばい だが,これに対して台湾では児童虐待率が減少傾向にあるのに虐待死には減少が見られ ない。この差には複合的な要因が反映されていると考えられるが,その一つには先述し たような,地域における関係機関の協働の仕組みの違いが影響している可能性はあるだ ろう。以上,日本と台湾の児童虐待の体制と実態を比較分析してきたが,これらを踏まえて 日本と台湾の課題を整理すると次のようになる。まず日本,台湾の共通の課題として は,法制上の特徴により,児童相談所・家防センターは市町村との連携にそれぞれの困 難を抱えていることがわかった。日本の固有の課題としては,業務の広範かつ膨大であ ること,保護者以外からの虐待の実態の不可視的な状況等が明らかとなった。台湾の課 題としては,法律上の虐待の定義が曖昧であること,また,虐待死の公的な統計が存在 しないためにその正確な実態の把握が困難なこと等の課題が明らかとなった。
最後に,今後の課題について述べて締めくくりとしたい。
日本では平成
28
年度に児童福祉法の大幅な改正が行われており,平成29
年度より完 全に施行されることになるが(厚生労働省2016 b),これによって市町村との連携や役
割分担をめぐる変化など,日本の児童虐待対応の体制に大きな変化がもたらされること が予想される。今後はこうした日本の体制上の変化を踏まえ,また,台湾の統計データ 等の整備をまった上で,改めて両国の対応を比較実証する研究が必要であろう。その際 には地域における関係機関の協働の仕組みの違いが,一つの分析の指標となるかもしれ ない。日台両国の児童虐待対応機関が今後どのようにそれぞれの課題を解決していくのか,
その動向を注視し,次なる研究につなげたいと考える。
注
⑴ ただし,市町村職員の研修を除く。(厚生労働省2016 a : 5)
⑵ 児童福利連盟文教基金会のものは2012年11月15日までに収集した資料に基づき公表したもので,台
日台児童虐待対応機関の体制比較 51
湾児童及家庭扶助基金会のものは2012年11月30日までに,育児ヘルパー等代替養育者も虐待者とし て扱って集めた資料を用いて分析したものである。
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児童福利聯盟文教基金会(2012)「2012年殺子自殺及重大兒虐個案解析記者會」(http : //www.children.org.tw /news/advocacy_detail/936, 2015. 5. 18).
台湾児童及家庭扶助基金会(2012)「家扶金基金會公布101年度十大兒保新聞」(https : //www.ccf.org.tw/?ac- tion=news1&class_id=4&did=64, 2015. 11. 2).
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org.tw/?action=news1&class_id=4&did=109, 2015. 11. 2).
台湾児童及家庭扶助基金会(2014)「家扶金基金會公布103年度十大兒保新聞」(https : //www.ccf.org.tw/?ac- tion=news1&class_id=3&did=154, 2015. 11. 2).
台湾児童及家庭扶助基金会(2015)「家扶金基金會公布103年度十大兒保新聞」(https : //www.ccf.org.tw/?ac- tion=news1&class_id=3&did=201, 2016. 11. 13).
柳川敏彦・中村安秀・桐野由美子ほか(2002)「アジア各国の児童虐待の実態と取り組み──アンケート調 査による比較研究」『研究助成論文集』38, 104-113,安田生命社会事業団.
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児童虐待の防止等に関する法律(2016)「児童虐待の防止等に関する法律」(http : //law.e-gov.go.jp/htmldata/
日台児童虐待対応機関の体制比較 52
H12/H12HO082.html, 2017. 2. 27).
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日台児童虐待対応機関の体制比較 53
This research purpose is to compare with child guidance centers in Japan with child protec- tion institutions in Taiwan, and to find problems of them. As a result, we found out following things.
In Japan, child abuse is regarded as part of the welfare problem surrounding children. In Taiwan, child abuse is regarded as one of the violence that occurs in the home.
And then, the following problems were confirmed. Both of child guidance centers in Japan and child protection institutions in Taiwan have difficulties of working with other organizations.
And there are two problems of the Japanese child guidance centers. The first one is heavy work- loads, the second one is the invisibility of child abuse except for bearers. Then, there are two problems of the Taiwanese child protection institutions. The first one is the ambiguity of legal definitions of child abuse. The second one is the difficulty of comprehending the number of deaths by child abuse because of lack of government statistics.
We need to pay attention to child protecting in both countries, and watch how they solve problems.
Key words: Child guidance center in Japan, Child protection institution in Taiwan, Child abuse, Comparison between Japan and Taiwan
Comparative Analysis of Child Guidance Center in Japan with Child Protection Institution in Taiwan
Ryo Imai and Ihsuan Wu
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