児童虐待が疑われる頭部外傷患児診療における問題とその対策
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(2) 大江ほか:児童虐待が疑われる頭部外傷患児診療における問題とその対策. 9. Fig. 1 Checklist for finding child abuse.. 応した.医療ソーシャルワーカーは児童相談所と連携を とり最終的に虐待検討部会で虐待の可能性が高いと判断 した場合は児童相談所へ通告した. 結 果 頭部外傷を含む 37 例の受傷機転は, 交通事故が 21 例,. で頭蓋骨骨折は 13 例で認められた(Table 1) . 頭部外傷患児 37 例のうち 8 例で子ども虐待発見のた めのチェックリストが使用された.このうち 7 例で初診 時に児童虐待を疑い,最終的に 2 例で虐待の可能性があ ると判断した.これら 2 例はいずれも第三者の目撃はな かった.虐待と判断された 2 例を提示する.. 転落・転倒が 11 例,スポーツ外傷が 3 例,親による暴. 症例 1 1 か月女児. 力が 2 例であった.また,当院への搬送方法は救急車が. 既往歴,家族歴 特記すべきことなし.. 26 例,ドクターヘリが 9 例,自家用車が 2 例であった.. 現病歴 入浴中に泣き止まないとのことで父親が揺. 頭部画像検査で頭蓋内病変が見られた症例は 19 例 (脳. さぶりさらに叩きつけた.その後ミルクを与えようとし. 挫傷 10 例,急性硬膜下血腫 5 例,急性硬膜外血腫 4 例). ても飲まず寝せておいた.帰宅した母親が児の異常に気.
(3) Fig. 2 Corresponding flow for child abuse in our facility.. 10 小児の脳神経 VOL.46 NO.1 2021.
(4) 大江ほか:児童虐待が疑われる頭部外傷患児診療における問題とその対策. 11. 付き自家用車で近医を受診,頭部 CT 検査で広範な低吸. 態が悪化し緊急で気管挿管下に人工呼吸管理を開始し. 収域が認められたため,受傷 5 時間 30 分後に当院へ緊. た.虐待検討部会で虐待の可能性が高いと判断し,裁判. 急搬送された.. で児童虐待と判決が下され父親は現在服役中である.. 現 症 GCS6: E1V1M4,両側瞳孔散大 6.0 mm,両側. 家族背景 母親は性格に問題があり幼稚性が強く,夫. 対光反射消失, 自発呼吸は見られ呼吸回数 27 ∼ 35 回/分,. 婦関係は不良. 母親は当日も夜勤明けの父親に児を預け,. SpO2 100%(酸素 5 l /分 マスク) ,血圧 73 / 52 mmHg,. 夜まで外出していた.. 脈拍 148 回/分で体表に新旧の皮下出血斑(Fig. 3-A)が. 症例 2 4 か月女児. 認められた.. 既往歴,家族歴 特記すべきことなし.. 検査結果 入院時頭部 CT 検査で外傷性くも膜下出血. 現病歴 岐阜へ旅行中に旅館で夫婦喧嘩となり,夫が. および両側大脳半球広範に脳腫脹な低吸収域および脳腫. 妻を殴ろうとしたところ児を殴ってしまったとのこと.. 脹が認められた(Fig. 3-B) .また眼底検査で両側眼底出. 両親とともに救急車で来院. 現 症 意識晴明,神経学的異常なし.右頭頂部の陥. 血が認められた. 治療経過 保存的治療を行った.頻呼吸ではあったが 自発呼吸は入院後も安定しておりマスクでの酸素投与下 に SpO2 100% を維持していた.入院 14 時間後に呼吸状. 没(Fig. 4-A)を認めた.体表にその他の異常所見は認 められなかった. 検査結果 入院時頭部 CT 検査で右頭頂骨の陥没骨折 を認めた(Fig. 4-B) .. Table 1 Summary of pediatric head trauma cases transferred to Gifu University Advanced Critical Care Center. 頭部外傷. 37. 頭蓋内出血あり. 19. 急性硬膜下血腫のみ. 4. 急性硬膜外血腫のみ. 2. 外傷性クモ膜下出血のみ. 2. 脳挫傷を伴うもの. 11. 頭蓋内出血なし. 18. 頭蓋骨骨折あり. 6. 頭蓋骨骨折なし. 12. A. 治療経過 両親による受傷の説明に信憑性を欠き虐 待が強く疑われた.父親は威圧的な言動が見られたもの の複数の医療スタッフが協力し親子を分離し入院加療を 行った.神経症状の出現なく経過し,当院入院中は保存 的治療を行った.虐待検討部会で虐待の可能性が高いと 判断し, 児童相談所と連携を取った後に近医へ転院した. 家族背景 これまでもしばしば夫婦間での家庭内暴 力があった. 考 察 児童虐待は社会環境の変化に伴い年々増加しており,. B Fig. 3 Photograph (A) and head CT (B) of case 1 at the time of transfer to our hospital..
(5) 小児の脳神経 VOL.46 NO.1 2021. 12. A. B Fig. 4 Photograph (A) and head CT (B) of case 2 at the time of transfer to our hospital.. 厚生労働省によると平成 2 年度に 1,101 件であった児童. ミエリン化が発達していない乳児の急性期脳浮腫の評価. 虐待相談の対応件数が,平成 30 年度には 159,850 件と. には CT が有用とされる [7].また SBS 症例では広範な. なり,近年は毎年約 10% ずつ増加している [12].また. 大脳白質変化を来し重篤化することがあり,その原因と. 平成 30 年度の医療機関からの相談件数は 3,542 件で全. して一次脳幹損傷により呼吸不全を来し二次的な低酸. 虐待相談件数の 2% であった [12].欧米での虐待発生率. 素・脳虚血との報告がある [4].今回の症例 1 では自発. は小児 10 万人あたり 20 ∼ 30 例と推測されている [1, 2,. 呼吸はみられたものの, 受傷時に呼吸不全による低酸素・. 6].我々が対応する児童虐待は主に身体的虐待 [11] とな. 脳虚血を来した可能性は否定できず,また一次損傷とし. るが,児童虐待による死亡例は頭部外傷が主な原因であ. ての広範な剪断損傷,脳挫傷およびそれに伴う二次的な. る [2, 3, 5, 9, 13].我々が医療現場で行うべきことは,児. 血管性浮腫 [5],興奮性アミノ酸毒性による細胞性浮腫. の治療とともに児の安全を確保し,再発予防のため児童. が挙げられる [14].. 相談所に報告し情報を共有することである.実際,診療. 我々の施設では初診医は子ども虐待発見のための. 現場での問題は大きく 2 つあり,児童虐待を疑えるか否. チェックリストを活用し,脳神経外科医,小児科医およ. かの判断と児童虐待が疑われた場合の安全確保を目的と. び高度救命センター医師がチームとして診察し虐待が疑. した保護者の面会制限を含めた対応である.児童虐待症. われるか否かを協議している.その際,特に家族背景を. 例の経験が少ない医師にその判断,対応は難しい場合が. 把握することは重要で,配偶者間に暴力のある家庭の約. 多く [16],我々の施設では経験を積んだ医師を含めた複. 2 割では子どもへの暴力があるという調査結果がある. 数の診療科医師が,チェックリストを使用し,院内対応. [15, 18].また,第三者の目撃のなく家族の申告する受. マニュアルに沿って対応することで,これまで虐待を疑. 傷機転と重症度・転機が乖離する場合には,虐待を含む. われる症例の見落としはなく,問題なく対応できている. 他害の可能性もあるとの報告があり [8],そのようなこ. と考える.また,児童虐待に慣れた脳神経外科医でも目. とを念頭に置きつつも保護者からの病歴の聴取は重要で. 撃者がいない症例,受傷機転が不明な症例および外表所. あり真摯に耳を傾ける必要がある.当院では虐待が疑わ. 見に乏しい急性硬膜下血腫症例,いわゆる shaken baby. れた場合, 作成したマニュアルに従って対応することで,. syndrome(SBS)を含めた nonaccidental traumatic brain. 児童虐待症例に対する判断および対応を標準化し,親子. injury [3, 5] では判断が難しい場合がある [2, 6, 17, 19].. 分離といった対応も躊躇なく行うことができている.近. そのような症例に対して眼底出血の評価は重要であるが. 年は残虐な虐待も増加しており保護者による威圧的な要. [7, 9, 17],非虐待性の軽微な乳児急性硬膜下血腫でも. 求や暴力の行使等が予想される場合もあり警察や児童相. 60% の症例で眼底出血がみられるとの報告があり,そ. 談所等の関連機関と速やかな連携が重要である [10, 18].. の判断には注意を要する [16].また画像所見で急性硬膜. 一方で最近,SBS が疑われたものの裁判で無罪判決が. 下血腫が円蓋部に薄く広範囲に見られる場合,円蓋部の. 下される事実もあり,虐待と判断する難しさは欧米でも. みでなく大脳半球間裂部や後頭蓋に多発する場合,広汎. 問題になっている [2, 6].. な剪断損傷や虚血性損傷が見られる場合には虐待による. 今後も児童虐待は増加していくことが予想されるた. 外傷の可能性がある [2, 3, 5, 6, 7].頭蓋内微小病変の検. め,病院として診療体制を整備し,小児頭部外傷患児を. 出や頚椎靭帯損傷の評価に MRI は有用であるが [2, 3, 7],. 診察する際は児童虐待の可能性を念頭に置き,児童虐待.
(6) 大江ほか:児童虐待が疑われる頭部外傷患児診療における問題とその対策. が疑われる場合は迅速かつ適切に対応することを心掛け る必要がある. 著者のうち岡本 遥,長屋聡一郎,小倉真治は,自己申告 による COI 報告書を本会編集委員会に提出しました.その他 の著者は全員日本脳神経外科学会への COI 自己申告を完了し ています. 本論文の発表に関して開示すべきCOIはありません.. 文 献 [1] Barlow KM, Minns RA: Annual incidence of shaken impact syndrome in young children. Lancet 356: 1571― 1572, 2000. [2] Duhaime AC, Christian CW: Abusive head trauma: evidence, obfuscateion, and informed management. J Neurosurg Pediatr 24: 481―488, 2019. [3] Duhaime AC, Christian CW, Rorke LB, Zimmerman RA: Nonaccidental head injury in infants - the “shaken-baby syndrome”. N Engl J Med 338: 1822―1829, 1998. [4] Geddes JF, Vowles GH, Hackshaw AK, Nickols CD, Scott IS, Whitwell HL: Neuropathology of inflicted head injury in children II. Microscopic brain injury in infants. Brain 124: 1299―1306, 2001. [5] Gerber P, Coffman K: Nonaccidental head trauma in infants. Childs Nerv Syst 23: 499―507, 2007. [6] Högberg U, Lampa E, Högberg G, Aspelin P, Serenius F, Thiblin I: Infant abuse diagnosis associated with abusive head trauma criteria: incidence increase due to pverdiagnosis?. Eur J Public Health 28: 641―646, 2018. [7] Hsieh KL, Zimmerman RA, Kao HW, Chen CY: Revisiting neuroimaging of abusive head trauma in infants and young children. AJNR Am Rentgenol 204: 944―952, 2015. [8] 池庄司遥,問田千晶,六車崇:外傷患者家族から聴 取された受傷機転と重症度と転機の関連.日児誌 . 13. 119: 858―862, 2015. [9] Karibe H, Kameyama M, Hayashi T, Narisawa A, Tomonaga T: Acute Subdural Hematoma in infants with Abusive Head Trauma: A literature Review. Neurol Med Chir(Tokyo)56: 264―273, 2016. [10] 厚生労働省: 「児童虐待防止対策の強化に向けた緊 急 総 合 対 策 」 の さ ら な る 徹 底・ 強 化 に つ い て. https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000477987. pdf, 2019. [11] 厚生労働省:児童虐待の定義と現状.https: // www. mhlw.go.jp / seisakunitsuite / bunya / kodomo / kodomo_ kosodate / dv / about.html. [12] 厚生労働省:児童相談所での児童虐待相談対応件数 〈 速 報 値 〉 .https: / / www.mhlw.go.jp / content / 11901000 / 000533886.pdf, 2018. [13] 厚生労働省:子ども虐待による死亡事例等の検証結 果等について(第 15 次報告) .https: // www.mhlw. go.jp / content / 11900000 / 000533867.pdf, 2019. [14] Moritani T, Smoker WRK, Sato Y, Numaguchi Y, Westesson PA: Diffusion-Weighted Imaging of Acute Excitotoxic Braon Injury. AJNR Am J Neuroradiol 26: 216―228, 2005. [15] 内閣府男女共同参画局:平成 29 年度男女間におけ る暴力に関する調査報告書.http: // www.gender. go.jp / policy / no_violence / e-vaw / chousa / pdf / h29 danjokan-12. pdf, 2018. [16] 西本博,栗原淳:家庭内での軽微な外傷による乳児 急性硬膜下血腫の再評価.小児の脳神経 31: 215― 223, 2006. [17] 埜中正博:児童虐待による頭部外傷の診断と対応. No Shinkei Geka 44: 815―822, 2016. [18] 鈴木亜由美:児童虐待防止対策の強化を図るための 児童福祉法等改正案 主な内容と論点.立法と調査 412: 70―87, 2019. [19] 山崎麻美,埜中正博:脳神経外科医が見過ごしては ならない小児虐待による頭部外傷の特徴と治療. Jpn J Neurosurg 18: 642―649, 2009.. 要旨. 小児の脳神経 46: 8— 13, 2021. 児童虐待が疑われる頭部外傷患児診療における問題とその対策 大江直行,岡本 遥,長屋聡一郎,大鷲悦子,庄田健二,豊田 泉,中山則之,矢野大仁,小倉真治,岩間 亨 脳神経外科医が児童虐待症例を診察する機会は増えている.当院では平成 25 年からの 3 年間で小児頭部外傷患児 37 例のうち最終的に 2 例で児童虐待を疑った.児童虐待診療での問題は大きく 2 つあり,児童虐待を疑えるか否かの判断 と児童虐待が疑われた場合の安全確保を目的とした保護者の面会制限を含めた対応である.当院では初診時にチェック リストを活用し,脳神経外科医をはじめ複数の医療スタッフで対応している.また病院としてのマニュアルを作成する ことでその判断および対応を標準化し,問題なく行うことができている..
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