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大学生のコミュニティ意識と児童虐待通告との関連

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Ⅰ はじめに

わが国では平成 6 年に「児童の権利に関する条約」が 批准された。そして,子どもは保護・養育の客体ではな く,権利行使の主体としてその人格と主体性を尊重され, 調和のとれた成長発達が保証されるべきであるとの認識 により,子どもの権利擁護のための取り組みが展開され てきた。 ただ,子どもは,保護者からの虐待や不適切な養育に 対して,不当な権利侵害と認知したり,子ども自身の力 で避けることは極めて困難である。従って,できるだけ 早く周囲の大人が虐待に気づき早期対応につなげること が重要である。 特に近年,児童虐待が深刻な社会問題として取り上げ られるようになってきた。その背景には,核家族化やラ イフスタイルの多様化,地域社会とのつながりの希薄化 や地域住民の支えあいによるセーフティネット機能の低 下があげられる。家庭・地域における養育力の低下や, 子育ての孤立化等が子どもやその家族の不安・負担感を 増大させ,そのことが児童虐待につながっているといわ れている。 こうしたなか,平成 12 年に児童虐待防止法が制定さ れた。この法律では,その目的として,「子ども虐待が 子どもの人権を著しく侵害し,その心身の成長及び人格 の形成に重大な影響を与えるとともに,我が国における 将来の世代育成にも懸念を及ぼすことにかんがみ,子ど も虐待の防止等に関する施策を推進する」旨を明記した。 また,定義によると,「保護者が 18 歳に満たない児童 に対して行う行為」とされており,身体的虐待,性的虐 待,ネグレクト,心理的虐待の 4 種類があるとされてい る。具体的には,身体的虐待とは,「身体に外傷が生じ, 又は生じるおそれのある暴行を加えること」で,性的虐 待とは,「わいせつな行為をすること,又はさせること」, ネグレクトとは,「心身の正常な発達を妨げるような著 しい減食又は長時間の放置等,保護者としての監護を著 しく怠ること」,心理的虐待とは,「著しい暴言又は著し 京都女子大学家政学部生活福祉学科

原著論文

大学生のコミュニティ意識と児童虐待通告との関連

鈴木 依子

Effects of community consciousness on child abuse notice among the students:

Yoriko Suzuki

Objective The current study was performed to examine between different factors of community consciousness on child abuse notice among the students. This issue was investigated in men and women separately.

Methods Data for 211 students were obtained on self-written questionnaire survey. Community consciousness were assessed by asking respondents their degree of participation in each type of interaction. The focus was on four factors: solidarity, self-determination, attachment, dependency. In order to examine relationships between different aspects of community consciousness and child abuse notice, the author used multiple regression analyses with the four types of community consciousness level as independent variables. All community consciousness were categorized as lower, middle and higher levels. Each of the four factors of community consciousness was entered as an independent variable. The analyses were conducted separately for men and women, controlling for household composition, sister composition, obligation of child abuse notice.

Results The results of the multiple regressions were as follows :among women, only self-determination were positively associated with child abuse notice. Whereas among men, only self-determination were passively associated with child abuse notice.

Conclusion Effects of community consciousness on child abuse notice among the students was only self-determination

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く拒絶的な対応,配偶者等への身体に対する不法な攻撃 等,著しい心理的外傷を与える言動を行うこと」と記さ れている。 こうした虐待を受けた子どもは彼らの心身に深い影響 を残し,その回復のためには長期間の治療やケアが必要 とされるため1),できるだけ早く虐待に気づき早期対応 につなげる取り組みが重要となる。そこで,平成 16 年 に児童虐待防止法が改正されるときに,児童虐待に係る 通告の対象が拡大される(虐待を受けたと思われる場合 も対象とする)こととなった。 通告の対象拡大前の状況は,一般的な主観により児童 虐待が認められるであろうという場合は通告義務が生じ るにもかかわらず,通告につながらない状況があった。 総務省の児童虐待の防止等に関する政策評価書2)では, 速やかな通告がなされなかったことについて,「児童虐 待の確証がない」,「継続的な児童虐待の事実が認められ なかった」,「児童が虐待者をかばう状態にあった」と いった,児童虐待の確証を得る程度までに情報収集でき なかったことを理由とすることが報告されている。 また,同評価書2)には,児童虐待に係る相談や情報提 供について「抵抗がある」と感じる旨の回答が 15%あり, また,速やかな通告がなされなかったことについては, 「児童虐待の状態が解消される見込みであった」,「地域 でのサポートが効果的と考えた」「児童の心理状態を考 慮した」という理由が多くあげられていた。 つまり,児童虐待防止法改正前の通告の対象は「児童 虐待を受けた児童」であったため,基本的には,児童が 虐待を受けているところを通告者が目の前で見た,ある いは児童の体に虐待のあざや傷があるのを見たといった 児童虐待が行われていることが明白な場合しか想定され ていなかった。 児童虐待防止法の改正により,通告対象が「児童虐待 を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」 に拡大されたことにより,虐待の事実が必ずしも明らか でなくても,一般の人の目から見れば主観的に児童虐待 があったと思うであろうという場合であれば,通告義務 が生じることとなった。尚,こうした通告については, 法の趣旨に基づくものであれば,それが結果として誤り であったとしても,そのことによって刑事上,民事上の 責任を問われることは基本的には想定されないものと考 えられている。 また,全国の児童相談所における児童虐待に関する相 談対応件数は一貫して増加し,平成 27 年度には児童虐待 防止法制定直前の約 8.9 倍に当たる 103,260 件となってい る。平成 27 年度に児童相談所に寄せられた虐待相談の 通告経路は,警察等(37%),近隣知人(17%),家族(8%), 学校等(8%)からの通告が多くなっている3) 児童虐待通告の主な増加要因には,児童が同居する家 庭における配偶者に対する暴力(全面DV)についての 警察からの通告や,児童相談所全国ダイヤル 3 桁化の広 報や,マスコミによる児童虐待の事件報道等により,国 民や関係機関の児童虐待に対する意識が高まったことが あげられる4) 都市部の児童虐待の通告経路について研究した金子 は,虐待通告ルートについて,「警察や学校」などのア ソシエーション系ルートに特化した場合と,アソシエー ション系とコミュニティ系といわれている「近隣・知人」 とが共存している場合に大別できると報告している5) コミュニティ系ルートの近隣知人からの児童相談所へ の通告は,公的機関を除けば 1 番目に多いとされている。 児童虐待等の地域に潜む問題は,制度だけでは対応しき れない部分も多く,近隣住民のインフォーマルな見守り やサポートの果たす役割が大きいことは明らかである。 児童虐待防止には,住民の地域社会に対する態度や意識, すなわちコミュニティ意識を育成することが大きな意味 を持っているといわれている6) また,アソシエーション系ルートのうちでも学校は, 学齢期の児童虐待について,子どもや家庭での変化を キャッチしやすく,家庭にとっても物理的に近く,子ど もの教育を担っていることから他機関以上に家庭とつな がれる可能性が高いといわれている7)。学校が子どもや その家族の抱える課題への早期対応を図るための地域社 会の拠点であるプラットホームとなり,虐待対応に適切 に対応するためには,そこで働く人材にも地域社会に対 する態度や意識,つまりコミュニティ意識が問われるこ とになる。 こうした,コミュニティ意識についてはこれまで多く の研究が行われてきた。代表的な研究としては,奥田8) のコミュニティモデルがある。奥田は近代市民としての 意識を問う普遍性と地域への積極性という 2 軸の組み合 わせにより,「コミュニティ型」,「個我型」,「伝統アノミー 型」,「地域共同体型」の 4 つにコミュニティ意識を分類 している。また,田中他9)は,「積極性―消極性」「協同 志向―個別志向」の 2 因子からコミュニティ意識を検討 している。こうしたコミュニティ意識に関する研究を踏 まえたうえで,石盛6)は,コミュニティ意識を地域にお ける行政の役割や市民の主体性の発揮に対する意識も含 む多面的な概念として定義した。このコミュニティ意識 は,「連帯・積極性」「自己決定」「他者依頼」「愛着」の 4 つの因子から構成されている。

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コミュニティ意識についての先行研究では,健康指標 との関連などが報告されている10)11)。しかしながら虐待 予防との関連を検討した研究の蓄積はきわめて少ない。 また,地域社会に潜む児童虐待を発見し通告につなげる ためは,人々の地域社会に対して持つ態度や意識,すな わちコミュニティ意識を育成することが大きな意味を 持っていると考えられる。そこで本研究では,住民が地 域社会に対して持つ態度や意識としてのコミュニティ意 識と児童虐待通告との関連について検討することを目的 とした。

Ⅱ 研究方法

1.分析対象者と調査方法 本研究の調査は,京都市の大学生 211 人を対象とした。 内訳は,社会福祉を学ぶ学生 119 名と,大学関連の行事 にサポーターとして参加し地域社会に貢献している学生 92 名である。無記名自記式調査票を用いた。調査期間 は 2017 年 6 月~8 月までであった。 2.倫理的配慮 調査対象者に対しては,本研究の目的や本研究で得ら れた情報は論文投稿・学会発表・報告書作成等以外には 用いないこと,情報から個人が特定できないように配慮 すること,調査への参加は強制ではなく個人の自由意志 であること,得られた情報は漏えいのないように保管す ること等を文書で説明した。本調査の趣旨に同意の得ら れた場合のみ調査に参加していただけるように依頼した。 3.分析に使用した変数 1)コミュニティ意識 コミュニティ意識は,コミュニティ意識尺度(短縮版) を用いた12)。この尺度は地域における行政の役割や市民 の主体性の発揮に対する意識も含む多面的な概念であ る。第一に,積極的にみんなと協力しながら地域のため に活動するかどうかに関する「連帯・積極性」について 3 項目,地域をよくするためには市民自らも決定権を持 つことが重要であると考えるかに関する「自己決定」に ついて 3 項目,行政や他の熱心な人に地域の問題や取り 組みは任せてよいと考えるかに関する「他者依頼」3 項 目,そして地域への誇りや愛着の有無に関する「愛着」 について 3 項目で,合計 12 項目から構成されている。「非 常にそう思う」から「全くそう思わない」までの 5 つの 選択肢で尋ね,それぞれに 5 点から 1 点までの得点を付 与した。得点が高いほどコミュニティ意識も高いことを 示している。コミュニティ意識のうち,「連帯・積極性」 のCronbach のα 値は 0.71 であり,信頼性を有すると考 えた。同じく,「自己決定」のCronbach のα 値は 0.60, 「愛着」は 0.73 であったたため,信頼性を有すると考え た。「他者依頼」のCronbach のα 値は 0.58 であったた め,主成分分析を行った。第一主成分によって全体の変 動の 54.7%が説明され,第一主成分に対する各項目の負 荷量がすべて,0.5 以上であったため,信頼性は確保され, 分析に用いても大きな問題はないと判断した。 コミュニティ意識 4 因子である「連帯・積極性」「自 己決定」「他者依頼」「愛着」は,それぞれ平均値から上 下 0.5SD 分で区分し,「低位群」「中位群」「高位群」の 3 つのカテゴリーに三等分し,「低位群」を参照カテゴ リーとする 2 つのダミー変数を作成した。 2)虐待通告 虐待通告に関する調査項目は,厚生労働省の「子ども 虐待対応の手引き」等を参考にした1)。児童虐待の具体 的な行為として,身体的虐待では,「繰り返し殴ったが けがはしなかった」「子どもにタバコを押し付けた」「子 どもを一室に拘束する」などの 5 項目,性的虐待は「子 どもに性交を強要する」「性器を子どもに触らせる」な どの 5 項目,ネグレクトは「買い物中に乳児を車に残す」 「子どもを不潔な環境で生活させる」などの 5 項目,精 神的虐待は「ほかの兄弟と比べて差別的な扱いをする」 「子どもの目前で配偶者に暴力をふるう」などの 5 項目 の計 20 項目をランダムに並べ,それぞれの行為につい て通告するかどうかを尋ね,「する」と「しない」とい う 2 つの選択肢で回答を求めた。回答選択肢の「する」 に 1 点,「しない」に 0 点を付与した。それぞれ 4 側面 の虐待行為は,単純加算し 20 点満点とした。得点が高 くなるほど,虐待への通報意志が高いことを示すように した。 3)調整変数 調整変数は,世帯構成,姉妹構成,発見者の虐待通告 は義務か否かを用いた。世帯構成は,1 人暮らしを 1, 家族と同居を 0 とするダミー変数とした。姉妹構成につ いては 2 つのダミー変数を用いた。その際,「一人っ子」 「長女」以外のカテゴリーは,「その他」というカテゴリー に纏めた。そして,姉妹構成 1 は,「一人っ子」という 回答に 1,「長女」と「その他」に 0 を付与し,姉妹構 成 2 は,「長女」という回答に 1,「一人っ子」と「その 他」に 0 を付与した。発見者の虐待通告は義務であるを 1,それ以外を 0 とするダミー変数とした。 4.調査内容と分析方法 虐待通告については,「あなたが小学校で働くことに なったと想定して回答してください。あなたが所属する 小学校で子どもに対する親の虐待行為に疑いを持った場 合,あなたはどのような対応をとりますか」という質問

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を通して,被虐待児を発見した時の通告意思を確認した。 この理由は,アソシエーション系の虐待通告ルートであ る学校が学齢期の子どもの虐待について子どもや家庭で の変化をキャッチしやすいとの報告7)から,調査対象者 が虐待通告をイメージしやすいようにした。 分析はコミュニティ意識を従属変数とする重回帰分析 を,男女別に行うこととし,コミュニティ意識の 4 因子 の変数を因子ごとに独立変数に投入した。調整変数は, いずれの分析においても,世帯構成,姉妹構成,発見者 の虐待通告は義務か否かを投入した。分析には,統計ソ フトIBM SPSS ver. 22.0 を用い,p<.05 を統計学的有意 とした。

Ⅲ 結果

1.分析対象者の属性 分析対象者の属性は,表 1 に示したとおりである。 各属性を性別で比較したところ,世帯構成と発見者の 児童虐待通告は義務か否かについて有意な違いが見ら れた。世帯構成は,1 人暮らしの男性は 57.9%,女性は 35.1%で男性のほうが高かった。家族との同居では,男 性は 42.1%で,女性は 64.9%で女性のほうが高かった。 児童虐待通告は義務だと回答した女性は 81.2%,男性は 67.3%で女性のほうが高かった。姉妹構成には有意差は なかった。虐待通告意識の 4 因子については,自己決定, 愛着,他者依頼に有意な差が見られた。自己決定の低位 群は,男性が 49.1%,女性が 24.0%で男性のほうが高かっ た。愛着では低位群の男性が 39.3%,女性が 22.7%で男 性が高く,高位群では,男性が 21.4%,女性が 36.4%で 女性が高かった。他者依頼の高位群は,男性が 7%,女 性が 19.5%で女性が高かった。虐待通告意思については 男女に有意差はみられなかった。 2.コミュニティ意識 4 因子と虐待通告との関連 重回帰分析の表 2 の分析結果は,以下の通りであった。 自己決定の高位群は,女性は低位群より虐待通告得点 が高かった。男性は,低位群より虐待通告得点が低かっ た。自己決定の中位群は女性のみ低位群より虐待通告得 点が高かった。男性は,自己決定の中位群と低位群の間 には有意な差が認められなかった。「連帯・積極性」「他 者依頼」そして「愛着」には,男女ともに虐待通告得点 との有意な関連はなかった。(表 2) なお,重回帰分析の結果すべてにおいて,VIF(variance inflation factor)の値は最も高いものでも,1.95 であり, 変数間に多重共線性の問題は見られないことが確認された。

Ⅳ 考察

分析結果の考察を示す。 調査対象者には,アソシエーション系の虐待通告ルー トである学校に従事する教職員を想定して虐待への通告 の意思を問うことで,コミュニティ意識との関連を検討 した。 虐待通告意思と関連が認められたコミュニティ意識 は,「自己決定」因子のみで,「連帯・積極性」「愛着」「他 者依頼」との関連は認められなかった。その理由として は,「児童虐待通告」を行う場合,主として個人の価値 観である社会正義を拠り所としている部分が大きいと考 表 1 分析対象者の属性 人(%) 検定 男性(n=57)女性(n=154) 世帯 1 人暮らし 33(57.9) 54(35.1) ** 同居 24(42.1) 100(64.9) 姉妹 一人っ子 4(7.0) 21(13.6) n.s. 長子 16(28.1) 57(37.0) 中間子 4(7.0) 18(11.7) 末っ子 33(57.9) 58(37.7) 虐待通告 義務である 37(67.3) 125(81.2) * 義務でない 18(32.7) 29(18.8) 連帯積極性 低位群(3~9 点) 18(31.6) 41(26.6) n.s. 中位群(10~11 点) 22(38.6) 64(41.6) 高位群(12~15 点) 17(29.8) 49(31.8) 自己決定 低位群(7~11 点) 28(49.1) 37(24.0) *** 中位群(12 点) 12(21.1) 62(40.3) 高位群(13~15 点) 17(29.8) 55(35.7) 他者依頼 低位群(4~7 点) 18(31.6) 31(20.1) * 中位群(8~9 点) 35(61.4) 93(60.4) 高位群(10~15 点) 4(7.0) 30(19.5) 愛着 低位群(3~8 点) 11(39.3) 35(22.7) * 中位群(9~11 点) 11(39.3) 63(40.9) 高位群(12~15 点) 6(21.4) 56(36.4) 虐待通告 平均値±SD 53.54±6.11 53.06±5.86 n.s. 注 1: 検定は各属性の男女間の比較。世帯,姉妹,通告義務,コミュ ニティ意識各因子はχ2検定,虐待通告得点はt 検定を用 いた。 **:p<.01 *:p<.05 n.s. 有意差なし

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えられるからである。社会正義とは,人々の間に不公平 がなく,一人ひとりの人の社会からの扱われ方が理にか なったものであることをいう13)。つまり,児童虐待は, 社会正義の原理に反する状態にあり,そうした状況に敏 感な者,つまり,児童虐待通告は社会正義だと思う者が, 自分の判断で社会に対して働きかけを行うことになる。 そこで,コミュニティ意識の中では,自分の判断で社会 に対して働きかけを行うという,自己決定因子について 児童虐待通告との関連が示唆されたことになる。 コミュニティ意識の因子のうち,「連帯・積極性」は, 地域社会の中で,集団として何かに取り組むことで地域 社会に貢献することであり,児童虐待通告のように単独 で地域社会に対して貢献する内容との関連がなかったと 考えられる。「愛着」についても,児童虐待通告は,地 域社会に対する愛着の有無に左右されるものではないこ とが明らかとなった。「他者依頼」については,コミュ ニティ意識の中では最も消極的な考え方であり,児童虐 待通告に消極的であれば,この他者依頼と関連があるの ではないかと考えたが,今回の対象者では関連が認めら れなかった。 ただ,コミュニティ意識のうち,唯一児童虐待通告と の関連が認められた「自己決定」因子については,虐待 通告意志に性差はなかったにもかかわらず,男性と女性 では違う結果となった。 女性の場合,虐待通告意志の高い者は,地域社会をよ くするために住民が生活課題に主体的に取り組む必要が あり,そのことが地域社会を良くすることにつながると 考えていることが示唆された。男女共同参画白書14) よると,女性が社会に貢献したいと思っている分野とし て,「社会福祉に関する活動」を挙げている者の割合が 男性よりも高いことが明らかとなっている。女性の場合, 社会福祉への関心が高いことからも,児童虐待通告とい う社会正義を実践することが,地域社会への貢献につな がると考える者が多いといえる。 また,同白書14)では,地域のつながりが薄れる一方で, 地域住民の社会への貢献意欲や地域活動への参加意欲は 高まっており,特に,20 歳代の女性の参加意欲が高い といわれている。こうした理由から,本研究の対象者も 20 歳代であることから,女性は社会福祉に関心があり, 児童虐待通告意志の高いものほど,社会貢献に意欲があ り,地域社会を良くしていこうとする意欲が高くなった と考えられる。 一方,男性は,児童虐待通告意志が高い場合,そうし た主体性が地域社会を良くすることに直接関係するとは 考えていないことが分かった。これは,調査対象者に対 して,学校に従事する教職員が虐待を発見した場合と仮 定したこともあり,あくまでも,虐待問題は学内の問題 であり,虐待通告が地域との連携につながるという考え に至らなかったと考えられる。つまり,学校を地域社会 のシステムの一つとして捉えなかったので,地域との関 表 2 男女別のコミュニティ意識の各因子と虐待通告との関連 男性 女性 β β β β β β β β 世帯構成(一人暮らし=1) -0.284 -0.199 -0.336 -0.165 0.047 0.017 0.044 0.06 姉妹構成 1(一人っ子=1) 0.074 0.042 0.107 0.159 0.06 0.028 0.06 0.05 姉妹構成 2(長女=1) -0.177 -0.285 -0.087 -0.164 0.144 0.128 0.147 0.14 虐待通告義務(必要=1) 0.425** 0.529*** 0.453** 0.359** 0.257** 0.253*** 0.267*** 0.271*** 連帯・積極性 低位群 vs 中位群 -0.017 0.068 低位群 vs 高位群 -0.315 0.123 自己決定 低位群 vs 中位群 -0.189 0.282** 低位群 vs 高位群 -0.528** 0.231* 他者依頼 低位群 vs 中位群 0.289 0.084 低位群 vs 高位群 0.299 -0.05 愛着 低位群 vs 中位群 0.255 0.066 低位群 vs 高位群 0.12 0.064 Adjustered R2 0.288** 0.431*** 0.73* 0.229** 0.069** 0.112*** 0.073** 0.062** ***:p<.001 **:p<.01 *:p<.05

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連性が低くなったといえる。 本研究の対象者のうち児童虐待通告意志の高い男性 が,虐待問題を学校という閉ざされた組織内で捉えたよ うに,学校という立場から,地域社会,特に行政など外 部との連携の困難性については,これまでも多くの報告 がある15)16) しかしながら,昨今の教育現場では,教員だけが子ど もの問題に対して,家庭環境や生活状況を調べ,問題解 決に導くことには限界が生じている。特に近年続発して いる児童虐待による死亡事例では,学校と家庭や関係機 関との間の連携の不十分さが指摘されることも目立って いる。そこで学校でも多様化する児童・生徒の問題に対 処し,教員を援助していくシステムが求められており, 様々な専門職が協働して対応していかなくてはならない といわれている17) 特に,最近の虐待問題への取り組みについては,子ど もの家庭生活に関するアセスメントを高めたり,地域に おいて子どもの課題を把握できるよう,地域住民との信 頼関係を形成をしたり,学習支援や居場所など,地域に おける社会資源の開発に努めるとともに,行政機関と連 携を深め,保護者の生活保護制度や生活困窮者自立支援 制度の活用を図ることなど,学校における虐待問題には 地域との連携が重要だといわれている18) 松岡19)は連携とは,二人以上の異なった専門職が共 通の目標達成をするために行われる交流プロセスである と定義している。つまり,子どもの最善の利益を実現す るために,複数の人や機関が「継続的に」協働すること といえる。地域で暮らす子どもの多くに福祉的な課題が 生じているとするならば,学校自身がそれらの福祉的な 課題に対応できる豊かさを持たなければならない。学校 は,教育だけに特化した場所ではなく,孤立や無縁社会 にあって周囲からの支えを受けにくい子どもや家庭への 取り組みの役割もあり,多様な人や組織が連携すること で,困難に直面している子どもやその家族にサポートの ネットワークを構築することが重要と考えられる。 家族の変化や社会のありようが大きく変化する中で, 子どもたちが直面する困難も複雑化しており,学校の中 だけで対応するには限界が生じている。子どもの問題行 動の背景には,子どもの心の問題とともに,家庭,友人 関係,地域,学校など子どもの置かれている環境の問題 がある。その環境の問題は,複雑に絡み合い,特に学校 だけでは問題の解決が困難なケースも多く,積極的に関 係機関と連携した対応が求められている。 本研究においても,コミュニティ意識の「自己決定」因 子には,行政との連携の必要性が含まれている。女性の 場合,虐待通告意思が高い者ほど,行政との連携に関心 を示しているといえる。つまり,虐待通告意思のあるも のは,通告だけにとどまらず,被虐待児を地域や外部機 関と連携することで,課題解決にとりくむことと捉えて おり,児童虐待と地域連携の関連性が示唆されたといえる。

Ⅴ まとめ

コミュニティ意識と子どもの虐待通告との関連性につ いて検討した結果,被虐待児の存在は,発見通告で終わ るのではなく,その後,地域社会における子どもやその 保護者のおかれている環境の改善や彼らの可能性につい ても,行政と連携していくことの重要性が明らかとなった。 学校において虐待対応に適切に対応するためには,そ こで働く人材にも地域社会に対する態度や意識,つまり コミュニティ意識が問われていた。 本研究では虐待発見場所を学校という環境に限定した ことや,調査対象者が少なかったため,その結果には限 界があった。今後は,学生だけに限らず,世代間の違い などの検討も必要と考える。

文 献

1) 厚生労働省,子ども虐待対応の手引き,2017(www. mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/00.html) 2) 総務省,児童虐虐待の防止等に関する政策評価書, 2016(www.soumu.go.jp/main_content/000142669. pdf) 3) 厚生労働省,児童相談所での児童虐待相談対応件数(速 報値),2019(mhlw.go.jp/04-Houdouhappyou-119010000- Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000132366.pdf) 4) 内閣府,子供・若者白書,2017(www8.cao.go.jp/youth/ whitepaper/h29honpen/pdf_index.htm) 5) 金子勇,大都市の児童虐待の比較分析,現代社会研 究,創刊号,2015,4–19. 6) 西野緑,子ども虐待に対応する学校の役割と課題 ―「育む環境の保障を目的とするスクールソーシャ ルワークの可能性―,Human Welfare,2012,4(1), 41–53. 7) 石盛真徳,コミュニティ意識とまちづくりへの市民 参加―ミュニティ意識尺度の開発を通じて,コミュ ニティ心理学研究,2004,7(2),87–98. 8) 奥田道大,コミュニティ形成の理論と住民意識,磯 村英一他(編),都市形成の理論と住民,東大出版会, 1971,135–177. 9) 田中国夫,藤本忠明,磯村勝彦,地域社会への態度 の類型化について―その尺度構成と背景因子,心裏

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研究,1978,49,36–43. 10) 村山洋史,田口敦子,村嶋幸代,健康推進員のもつ 地域社会への態度尺度の関連要因―経験年数別での 検討―,日本地域看護学会誌,2007,9(2),24–31. 11) 村山洋史,菅原育子,吉江悟,他,一般住民におけ る地域社会への態度尺度の再検討と健康指標との関 連,日本公衛誌,2011,58(5),350–359. 12) 石盛真徳,岡本卓也,加藤潤三,コミュニティ意 識尺度(短縮版)の開発,実験社会心理学研究, 2013,53(1),22–29. 13) 社会福祉士養成講座編集委員会,相談援助の基盤と 専門職,中央法規,2015 14) 内閣府,男女共同参画白書,2008 15) 高良麻子,児童虐待におけるスクールソーシャル ワーカーの役割に関する一考察―児童相談所と小学 校との連携に注目して―,学校ソーシャルワーク研 究,2008,3,2–11. 16) 山野則子,スクールソーシャルワークの役割と課 題―大阪府の取り組みからの検証,社会福祉研究, 2010,109,10–18. 17) 佐藤広崇,金子智栄子,学校現場に求められる援助 について―スクールソーシャルワーカーに期待さ れる役割と課題―,文京学院大学紀要,2010,12, 223–236. 18) 山下英郎,子どもに選ばれるためのスクールソー シャルワーク,学苑社,2016 19) 松岡千代,ヘルスケア領域における専門職間連携, 社会福祉学,2000,40(2),17–38.

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