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萩谷昌己教授文理融合的な発展が期待される 東京大学概説入試情報公立はこだて未来大学人工知能ビッグデータ筑波大学九州大学IoT会津大学教育卒業後の進路< 図 1> 情報学のルーツ 第 37 回 情報学 概説 東京大学大学院情報理工学系研究科 メタサイエンス としての情報学 さまざまな源流を持つ学問を包

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第37回  現代は「情報社会」と言われている。コンピュータや ネットワークに関する技術(情報技術)は1960年代頃 から発展・普及し、企業の活動や市民の暮らしのあらゆ る側面を支える、不可欠な技術となっている。さらに、イ ンターネットやSNSが普及したことで、誰もが、いつで も、どこでも情報を入手したり発信したりできるように なり、人々のコミュニケーションも変化している。  「情報学」は、情報に関するさまざまな側面について追 究する学問分野である。情報に関する原理や技術は、「情 報科学」「情報工学」など理工系の学部・学科で学べるこ とが多いが、情報を活用した企業活動などを研究する 「経営情報学」、情報と人間や社会との関係を扱う「メ ディア学」「コミュニケーション学」など、人文・社会科 学系に設置される場合もある。さらに近年は、2017年度 に新設された名古屋大学情報学部や滋賀大学データサイ エンス学部など、文理融合的な視点から「情報」に迫る 学部・学科も増えている。  今回の記事では、そうした「情報学」の全体像につい て、まず東京大学の萩谷教授に解説いただく。また、今 後の産業、経済、労働、医療、教育などさまざまな分野 に影響を与える技術として注目が集まる「人工知能 (AI)」「ビッグデータ」「IoT」について、その概要と具 体的な研究・開発の内容について、紹介する。

学部

学科

情報学

C

ontents

概説

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p51

東京大学 萩谷昌己 教授情報学の目的は「価値創造」文理融合型の教育・研究が進む

入試情報

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p54

名古屋大、滋賀大、東洋大などが学部を新設・改組

人工知能

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p56

公立はこだて未来大学 松原仁 教授ハードウェアの高度化や「深層学習」の研究が進み、 さまざまな分野の「人工知能(AI)」が発展 ❖機械の研究を通じて「人間とは何か」を問い直すこ とが人工知能研究の面白さ

ビッグデータ

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p58

筑波大学 北川博之 教授大量で多様な「ビッグデータ」が生み出される基盤技術を応用し、ビッグデータから新たな価値を 生み出す研究を産学官で推進

IoT

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p60

九州大学 福田晃 主幹教授身の周りのさまざまなモノをインターネットにつな ぐ「IoT」 ❖自動車の自動運転や、子どもや高齢者の見守りなど、 新たなサービスの創出に期待が集まる

教育—会津IT日新館

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p62

会津大学 石橋史朗 教授情報学分野の教育の特徴は「プログラミング」と 「課題解決学習」 ❖企業や自治体と連携し、現実課題の解決に取り組む 「会津IT日新館」

卒業後の進路

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p64

❖先端IT技術を持つ人材に期待が集まる さまざまな学問に知見を与える「メタサイエンス」 としての性格 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 50

(2)

情報学

第37回

萩谷

昌己

教授

文理融合的な発展が期待される

「メタサイエンス」としての情報学

概説

東京大学大学院 情報理工学系研究科

さまざまな源流を持つ学問を包括し

社会の在り方を追求する情報学

 現代社会は膨大な情報に溢れている。その情報を研究 対象とする学問が情報学だ。「情報」は日常的に使われて いる言葉だが、「情報とは何か」を明確に定義することは 難しい。一口に情報といっても、手紙などの文書、人と 人の会話、電子メール、映像や画像、機械が発する信号 など、その形態や内容はさまざまだからだ。  情報学系の学部・学科がカリキュラムを編成するとき の参考として策定された、日本学術会議の「大学教育の 分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 情報 学分野」(以下、参照基準)では、情報を「世界に意味を 与え秩序をもたらす源泉」と定義している。抽象的な表 現になっているのは、研究対象の範囲を狭めないための 配慮であると同時に、情報学がさまざまな学問的なルー ツからなる<図1>ために、情報の範囲を限定的に扱う ことが難しいからだ。  情報学のルーツの一つは「計算機科学」である。1930 年代に登場した計算理論に基づいて、1940年代にはコン ピュータの開発が始まり、情報を担う記号の伝達や変換 の原理を扱う情報理論などが確立した。いずれも数理的、 技術的側面が強い学問分野である。  1960年代頃には、コンピュータとネ ットワークが普及し、社会インフラとし て不可欠な存在となった。そこで、それ らを使って、会社などの組織の管理・運 営をどのように効率化していくかを考え る「情報システム」分野が生まれ、現在 の情報学のルーツの一つとなった。  また、情報技術や情報システムなどは、 人間の社会を大きく変貌させた。とりわ けSNS(ソーシャル・ネットワーキング・ サービス)などをはじめとする情報メデ ィアが発達することで、人々のコミュニ ケーションの在り方が大きく変わった。こうした情報技術 と人間社会の関係を研究する「社会情報学」が、近年で は情報学の中で確固たる地位を占めるようになっている。  このように、情報学は、計算機科学、情報システム学、 社会情報学などを包括する学問として存在している。そ れぞれに扱う情報の性格が異なるため、参照基準でも、や や抽象的な定義にしているのだ。

情報学の目的は「価値創造」であり

文系理系の枠を超えた広がりを持つ

 参照基準では、「情報学」を「情報によって世界に意味 と秩序をもたらすとともに社会的価値を創造することを 目的とし、情報の生成・探索・表現・蓄積・管理・認識・ 分析・変換・伝達に関わる原理と技術を探求する学問」 と定義している。この定義のポイントは、情報学の目的 を「価値創造」に置いた点にある。  「理学と工学に代表されるように、学問には分析的な学 問と、社会への応用を目的とした学問があります。情報 学は、情報技術によって価値を創造することを目的とし、 社会の変革を意図しているわけですから、その両方の側 面を備えています」(萩谷教授)  情報学は、多くの分野からなる文理融合型の学問であ る。情報は社会の在り方にも大きな影響を与えるため、 <図1>情報学のルーツ

(3)

情報学では、社会に対する理解や人間に対する理解が強 く求められているのである。  「近年、情報系の学部・学科をみると、情報工学科や情 報科学科などの理系だけでなく、コミュニケーション学 科やメディア学科など文系の学科も増えています。また、 高校の情報科も『情報の科学』と『社会と情報』に分か れ、理系と文系の両方の観点から学べるようになってい ます。今後、情報学が発展していくためには、これまで 以上に人間社会を対象とする文系のアプローチが重要に なってくるはずです」(萩谷教授)  情報学のもう一つの特色としては、諸科学全体を覆う 科学である「メタサイエンス」である点が挙げられる。 例えば、数学が物理学や経済学にその原理を提供し、統 計学が生物学や医学にとって不可欠であるように、メタ サイエンスとは、他の学問分野の原理や知見を支える学 問である。情報学も、さまざまな情報原理やアルゴリズ ムの考え方、コンピュータの応用技術などがあらゆる学 問分野で使われている。どのような分野でも研究の過程 でさまざまな情報を処理することになるため、情報に関 する原理や技術を活用することで、研究が深まったり、新 たな分野が生まれたりするのだ。  情報に関連が深い領域が、応用される分野のなかで体 系化されるようになると、「〇〇情報学」という分野が生 まれてくる。これらを「領域情報学」という<図2>。 情報学を広義に捉えれば、領域情報学をすべて包括した ものになるが、以下はメタサイエンスとしての情報学に ついて解説する。

5つに分類される情報学の知識体系

将来的にはすべての学生が学ぶ方向へ

 参照基準によると、情報学の研究分野は5つに大別さ れる<図3>。  第1は「情報一般の原理」で、情報と意味、情報の種 類、情報と記号、記号の意味解釈、コミュニケーション などに関する概念を扱う。文系と理系に広がる情報学を 俯瞰するための基礎的な概念を含んでおり、大学では入 門的な講義などで教えられることが多い。  第2は「コンピュータで処理される情報の原理」で、 情報量の概念や、標本化、圧縮化、符号化、暗号化などの 原理を含む「情報の変換と伝達」をはじめ、データ構造 やデータ化、データベースを扱う「情報の構造と表現・ 記録」「情報の認識・分析」「計算」「各種の計算・アルゴ リズム」などの領域を扱う。  第3は「情報を扱う機械および機構を設計し実現する ための技術」で、ハードウェア、コンピュータアーキテ クチャ、入出力装置、インターフェース、基本ソフト ウェア、プログラミング言語、言語処理系、コンピュー タネットワークなどに関する原理と技術を扱う。  第4は「情報を扱う人間社会に関する理解」で、社会 の中で情報が生み出され伝達される過程と仕組みや、情 報を扱う人間の特性と社会システム、経済システムの存 立と情報との関係、情報技術を基盤にした文化などが対 象だ。  第5は「社会において情報を扱うシステムを構築し活 用するための技術・制度・組織」で、情報システムを開 発する技術や効率化する技術、情報に関わる社会制度や 法制度、情報システムと人間のインターフェースに関す る原理や設計方法などを扱う。  このうち「情報を扱う人間社会に関する理解」につい ては、情報処理学会が策定した「情報専門学科における カリキュラム標準(J07)」(注1)にはない分野であり、理 工系学部に設置される情報学科などでは、授業科目とし て設置していない場合もある。参照基準で分野として示 したのは、情報系人材として活躍するためには、システ ム構築などの知識や技術を身につけるだけでなく、人間 や社会を理解し、組織づくりや社会づくりに貢献できる 能力を持つことが不可欠だからだ。文系の学部に設置さ れる「メディア」「コミュニケーション」といった学科 などを情報学の一部として位置付ける狙いもある。

人工知能(AI)技術に注目が集まり

データを集めるIoTにも大きな期待

 情報学には数多くの研究領域があるが、その中でも最 (注1)J07…世界標準である米国 IEEE/ACM の CC2001-CC2005 を土台に、日本の状況に対応して見直した、情報専門学科におけるカリキュラム標準の こと。コンピュータ科学(CS)、情報システム(IS)、ソフトウェアエンジニアリング(SE)、コンピュータエンジニアリング(CE)、インフォメー ションテクノロジ(IT)の5つの領域と、広く情報について学ぶ内容を定めた一般情報処理教育(GE)についてまとめている。 <図2>情報学の構成 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 52

(4)

情報学

第37回 近話題になっているトピックを紹介する。  まずは「機械学習」だ。人間が学習するプロセスをコ ンピュータにもさせようという研究で、膨大なデータを 並列コンピューティング(注2)で扱えるようになったこと や、ニューラルネットワーク(注3)が実用的に稼働するよ うになってきたことで期待が高まっている。機械学習を 使うことで「自然言語処理」や「画像認識」も大きく進 歩している。  「現在の情報学のホットな潮流は、何といっても人工知 能(AI)です。かつてコンピュータは、計算や推論など 人間の左脳で処理する作業が得意だと言われていました が、現在では、芸術や創造といった右脳で行われる処理 が人間を凌駕するまでになっています。AIが囲碁でトッ ププロに勝ったことは、その象徴的な例です。人が経験 や直感で処理できることは、ほとんどがコンピュータで 実現できるまでになっています」(萩谷教授)  このほか「ビッグデータ」も注目されている。大量で 多様なデータをどのように蓄積・処理し、データからど のような情報を引き出すかという研究などがある。さら に最近では、IoT(InternetofThings)と関連付けた研 究も盛んである。  「IoTは、あらゆるモノをインターネットで結ぶこと で、ユーザーに利便性を提供しようという技術ですが、情 報を集める側から見れば、モノに搭載されたセンサーを 通して膨大な情報を得る技術になります。生産現場のあ らゆるモノにセンサーを搭載し、そこからの膨大なデー タを処理することで生産効率を飛躍的に高めることが次 の産業革命につながると考えられているため、世界中で 研究が進んでいます」(萩谷教授)  一方で、情報に関する文系的なアプローチにも、新し いものが登場している。その一つが、「ナッジ」と呼ばれ る考え方である。ナッジとは肘でつつくという意味で、 行動経済学においては「人々の行動が変化するきっかけ」 という意味で使われる。情報技術を駆使することで、そ のきっかけを分析し、国家の政策実現や、企業経営など に活用する研究に注目が集まっている。  このほか、エスノグラフィー(注4)の考え方を用いて 人間や社会と情報の関係を明らかにする研究や、創作活 動をネットワーク上で行うことで、ユーザーとクリエー ターの区別のない世界を実現させる「CGM:Consumer GeneratedMedia(コンシューマー・ジェネレイテッド・ メディア)」といった考え方も登場し、芸術分野も情報学 の研究対象となりつつある。

「プログラミング演習」を通じて

問題発見・解決能力をトレーニングする

 情報学系の学部・学科では、大学によって力を入れる 分野は異なるものの、参照基準に示された5分野を基本 として、最先端の情報技術などにも触れながら学ぶカリ キュラムを構築している。  教育内容の特徴としては、「プログラミング演習」を重 視している点が挙げられる。プログラミングとは、コン ピュータに実行させたい情報処理の内容を、コンピュー タが理解できる言葉で組み立てることである。そのため には、最適な計算過程を考えプログラミング言語で表現 する力や、論理的な思考や創造性などが必要である。場 合によっては複数で協力しながら行うため、協調性も求 められる。情報システムを構築する上で基本的な活動を トレーニングできる科目であり、多くの大学で必須に なっている。  PBL(Project / ProblemBasedLearning)に取り組 む大学も多い。大学によっては、企業が直面しているよ うな具体的な課題を設定するところもあれば、自ら課題 を見つけて情報システムを企画した上で、実際にシステ ムを構築して実行し、課題解決をめざすといった一連の 流れを経験させるところもある。情報技術の専門家にな るにせよ、他の分野に進む場合でも、プログラミングと 課題解決力は情報学出身の学生として身につけておきた い能力といえる。  最後に、萩谷教授は高校生に向けて次のように語る。  「情報学を学びたいと思っている高校生のみなさんは、 まずは高校の『情報』の科目をしっかりと学んできてほ しいと思います。また、情報学は、最終的には情報技術 を通して、新しい社会を作っていく学問です。ですか ら、創造性に富んだ人に来てほしいと思っています」 (注2)並列コンピューティング…計算処理を複数のコンピュータに分散し、同時に処理する技術。 (注3)ニューラルネットワーク…人間の脳内での情報処理の働きをモデルにした人工知能のこと。学習機能をもち、知識を蓄積できる点などに特徴がある。 (注4)エスノグラフィー…フィールドワークを通じて人間の集団や社会の行動様式を明らかにする、文化人類学の研究方法。 <図3> 情報学に固有の知識の体系

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工学系での設置が目立つ

情報系学部の新設も進む

 情報系の学問は主に工学部に設置されている情報やコ ンピュータといった名称を持つ学科で学べる。最近では 研究分野の拡大から、情報系の学部の設置・改組の動き も盛んだ。2017年度は名古屋大情報学部(情報文化学部 より改組)、滋賀大データサイエンス学部、東洋大情報連 携学部といった学部が設置された。また、2018年度も横 浜市立大にデータサイエンス学部(仮称)の設置が予定 されている。  情報系学部では工学系の学部とは異なり、文化、メデ ィアといった文系的なアプローチが可能な学科も設置さ れているケースが多い。このほか、広義では人文・社会 科学系学部に設置されているコミュニケーション、メディ アといった学科も情報系の学科に含めることができる。  <図表1>は情報、データといった名称を持つ学科を学 部系統別に分類したものである。国公立・私立ともに幅 広い学部系統で学べるが、国公立大では「工」が65%、 「総合・環境・情報・人間」が13%を占めている。私立大 でも「工」が5割、「総合・環境・情報・人間」が25%を 占める。また、私立大では国公立大に比べ、社会科学系 の学科が占める割合が高い。社会情報、経営情報といっ た社会科学系の情報分野学科が多く設置されているため である。

国公立大のセンター試験 

7科目理型が主流

 次に入試科目の特徴を見ていこう。ここでは学科数が多 い「工」「総合・環境・情報・人間」の情報系学科につい てみていく。  国公立大前期日程のセンタ ー試験科目では、約4分の3 が「7科目理型」となってい る<図表2>。選択科目によ って理型となる「7科目選択 型」を含めると、「7科目理型」 が8割近くを占める。一方、6 科目以下で受験できる大学は 2割弱に限られる。情報系を 志望する生徒には、数学2科 目、理科2科目の7科目で準 備させたい。なお、7科目文型で受験できるのは、筑波大 (情報-情報メディア創成、知識情報・図書館)、静岡大 (情報-行動情報B)、名古屋大(情報-人間・社会情報) の4区分で、いずれも文系の要素を持つ学科になる。  もう一つ気をつけたいのはセンター試験理科の選択パタ ーンである。理科2科目が必要な大学が8割近くを占める が、その大半が理科②2科目を指定している。さらに、そ のうち3分の1は「物理」が必須となっている。また「物 理・化学」を指定する大学も少なくない。このため、理科 は理科②の「物理」「化学」で準備させるのがよいだろう。  理科1科目のみ必要な大学は、「7科目文型」もしくは 6科目以下の大学である。ここで注意したいのが筑波大 (情報-情報メディア創成)である。前述のように「7科 目文型」で受験可能だが、理科①は認めていない。文系 生の多くは理科①を選択するため他大学との併願が難し く、文型では対応の難しい学科である。  次に2次試験科目について見ていこう。前期日程では、 京都大(工-情報)が4教科5科目を課すが、他は2教 科を課す大学が4割強、3教科を課す大学が3割強とな っている<図表3>。教科パターンでは英語・数学・理科 から2または3教科というのが一般的だ。また、全区分の うち物理を必須とする区分が3割を占める。2次試験につ いても、理科は物理での準備が無難であろう。  なお、名古屋工業大(工-創造-情報・社会)では英 語・数学・理科のほかに小論文・面接も課す。また、静 岡大(情報-行動情報A・B)では英語のほか総合問題 を課す。

私立大は一般・センター利用方式とも

2~3教科が主流

 私立大の一般方式(1期)では2教科型が3割、3教科

入試情報

<図表1>情報系 系統別学科数 ここでは、情報系の学問が学べる大学の入試の特徴について紹介する。 工 65% 理 7% 経済・経営・商 4% 教育 7% 社会・国際 1% 文・人文 1% 総合・環境・ 情報・人間 13% 芸術・ スポーツ科学 1% 生活科学 1% 51% 理 3% 経済・経営・商 12% 社会・国際 3% 文・人文 2% 総合・環境・ 情報・人間 25% 法・政治 0.3% 医・歯・薬・保健 1% 生活科学 1% 芸術・ スポーツ科学 1% ※系統分類は河合塾による 国公立 私立 4 科目以下 6% 5 科目 4% 6 科目 7% 7 科目文型 5% 7 科目選択型 5% 7 科目理型 73% Kawaijuku Guideline 2017.4・5 54

(6)

情報学

第37回 型が6割強と、こちらも2~3教科を課 すパターンが主流である。教科パターン は多岐にわたるが、英語・数学・理科ま たは国語から選択という大学が多い<図 表4>。  センター利用方式(1期)では、2教 科型が3割、3教科型が5割を占める。 必要教科・科目は英語、数学をベースに 国語、理科、地歴・公民などが選択可能 といったパターンが主流だ。

国公立大はセンター得点率50 ~ 89%、

私立大は偏差値35.0 ~ 62.5まで広く分布

 最後に情報系の入試難易度について見てみよう。<図 表5>はセンター試験のボーダー得点率の分布を表して いる。国公立大前期日程のボーダー得点率は55 ~ 69% あたりがボリュームゾーンになっていることがわかる。  私立大のセンター利用方式は、ボーダー得点率50 ~ 69%に多くの大学が集まっている。  <図表6>はボーダー偏差値の分布である。国公立大 前期日程は偏差値45.0と47.5の2つの偏差値帯に多く の大学が分布している。後期日程では小論文や総合問題 を課し、ランクを設定していない大学もあるが、偏差値 47.5と50.0の偏差値帯が分布の中心である。私立大の 一般方式は偏差値35.0 ~ 62.5の間に広く分布している ほか、BF(ボーダーフリー)の大学も多くなっている。 <図表3>情報系 国公立大 前期日程2次試験教科パターン <図表2>情報系 国公立大 前期日程センター試験の必要科目数 7科目文型…外・国・地公2科目必須、数・理から3科目 7科目理型…外・数2科目・国・理2科目・地公 7科目選択型…外・国必須、数・理・地公から5科目 ※図表2、3、4とも 2017 年度入試科目で作成 工 65% 理 7% 経済・経営・商 4% 教育 7% 社会・国際 1% 文・人文 1% 総合・環境・ 情報・人間 13% 芸術・ スポーツ科学 1% 生活科学 1% 51% 理 3% 経済・経営・商 12% 社会・国際 3% 文・人文 2% 総合・環境・ 情報・人間 25% 法・政治 0.3% 医・歯・薬・保健 1% 生活科学 1% 芸術・ スポーツ科学 1% ※系統分類は河合塾による 国公立 私立 4 科目以下 6% 5 科目 4% 6 科目 7% 7 科目文型 5% 7 科目選択型 5% 7 科目理型 73% 教科数 教科パターン 募集区分数 4教科 【英、数、国、理2】 1 3教科 【英、数、理、小、面】 1 【英、数、理2】 15 【英、数、理】 11 【英、数】(理、地公→1) 2 2教科 【数、理2】 1 【数、理】 24 【英、数】 9 【英、国】 1 【英】数・地→1 1 【英】数・国・理→1 1 1教科 【英、総】 2 【数】 13 (英、数→1) 1 (数、理→1) 1 【小、面】 1 ※科目パターンが複数ある場合は、それぞれで集計 <図表4>情報系 私立大  一般方式(1期)試験教科パターン 教科数 教科パターン 募集区分数 4教科 【英、数、国、地】 3 3教科 【英、数、理】 149 【英、数、国】 2 【英、数】(国、理→1) 11 【英、国】(数、地公→1) 24 【英、国】(数、理、地公→1) 6 【数、理】(英、国→1) 1 【英】(数、国、地公→2) 3 【英】(数、国、理2→2) 1 【英】(数、国→1)(理、地→1) 4 【英】(数、実→1)(国、理→1) 1 【英】(数、地公→1)(国、理→1) 1 【英、地公】(数、国→1) 2 【数、小】(英、国、理2→2) 1 【数】(英、国、理→2) 6 (英、数、国、理、地公→3) 5 (英、数、国、理→3) 4 2教科 【数、理2】 1 【英、数】 14 【英、国】 6 【数、理】 3 【英】(数、国→1) 2 【英】(数、国、理、地→1) 1 【英】(数、国、地公→1) 1 【数】(英、国、理→1) 9 【数】(英、国、理、地公→1) 1 【数】(英、理→1) 14 【国】(英、数→1) 1 【国】(英、数、小→1) 3 【国】(英、数、理、地公→1) 2 【国】(英、地、実→1) 1 【国、面】(英、地、小、実→1) 1 (英、数、国→2) 10 (英、数、理→2) 2 (英、数、国、地公→2) 3 (英、数、国、理→2)*理 2 科目選択可も含む 14 (英、数、国、理、公→2) 1 (英、数、国、理、公、情→2) 1 (英、数、国、理、地公→2)*理 2 科目選択可も含む 5 (英、数、国、理、地公、情→2) 1 (英、数、実→1)(国、理→1) 1 (英、理→1)(数、国→1) 3 1教科 【数】 4 【面】(英、国→1) 1 【面】(英、数、国、理、地→1) 2 (英、数、国→1) 2 【面、実】 1 【総】 1 【面】(小、実→1) 1 ※科目パターンが複数ある場合は、それぞれで集計 ボーダー 得点率(%) 国公立大 私立大 前期 後期 90 ~ 94 1 85 ~ 89 1 1 5 80 ~ 84 5 7 7 75 ~79 10 15 17 70 ~74 9 14 28 65 ~ 69 14 14 62 60 ~ 64 23 13 45 55 ~ 59 14 2 52 50 ~ 54 4 37 45 ~49 17 40 ~44 1 34 <図表5>情報系 セン ター試験 ボーダー得点 率別募集区分数 ボーダー 偏差値 国公立大 私立大 前期 後期 67.5 65.0 2 1 62.5 1 3 1 60.0 2 4 4 57.5 10 4 8 55.0 6 4 19 52.5 8 6 19 50.0 5 8 28 47.5 19 10 24 45.0 17 2 48 42.5 7 51 40.0 3 26 37.5 27 35.0 38 BF 32 ランクなし 1 24 1 <図表6>情報系 国公立大 2次試験・私立大一般方式の ボーダー偏差値別募集区分数

(7)

ハードウェアの進化で

実用可能になったAI

ディープラーニングに期待が高まる

 AIは文字通りArtificialIntelligence (人工的な知能)の略ですが、明確な 定義はありません。AI研究の目的は 「人間のような知能を機械に持たせ ること」あるいは「人工的な知能を 作ること」ですが、「人間の知能とは 何か」がはっきりしていないため、 ほとんどのAI研究者は、知能のある 側面を切り取って研究しています。 例えば、文章を読んで理解する、言 葉を聞いて理解する、囲碁や将棋な どのゲームで次の一手を指すなどは、 人間の知能の一部だと考えられます から、こうした個別の能力を機械で 実現させようとしているわけです。  そのため、AI研究にはさまざまな 分野があります。代表的なものは、 「自然言語処理」「画像理解」「問題解 決」「機械学習」などです。「自然言 語処理」は、人間が話す言葉を理解 したり、しゃべったりする能力です。 最近ではスマートフォンやカーナビ などに、音声対話のシステムが搭載 されていますが、これらは自然言語 処理に関するAI研究の成果といえ ます。「画像理解」は、画像を見てそ れが何かを理解する能力です。例え ば、ネコの特徴をAIに教え、さまざ まな動物の写真から、どれがネコの 写真かを判断させるような研究があ ります。「問題解決」は、クイズを解 くことや、ゲームで勝つことなどを めざす研究で、東京大学の入試問題 に挑戦する「東ロボくん」(注2)や、 チェスや将棋、囲碁などのゲームソ フトなどがよく知られています。  「機械学習」は、人間の学習過程 と同じように、機械自らがデータか ら学習する能力を持たせようという 研究です。とりわけ近年大きな注目 を集めているのが、膨大なデータか ら一貫性のある規則を見つけ出すこ となどを可 能 にする「 深 層 学 習 」 (ディープラーニング)という分野で す。深層学習の研究が進むことで、 10年ほど前から「自然言語処理」 「画像理解」「問題解決」などさまざ まな分野で、人間の能力を超えるよ うな成果が上がってきています。  例えば、「画像理解」では、さまざ まな人物の写真から、98%以上の確 率で同一人物の写真を見つけ出すこ とに成功した研究があります。これ は、人間が知り合いの顔を判別する よりも高い確率です。がん患者のX 線写真を大量に学習することで、専 門医でも見落とすようなごく初期の 小さな影を発見できるようにした研 究なども知られています。アルファ 碁がトッププロに勝ったのも、深層 学習で大量の棋譜(注3)を学習した結 果です。  深層学習のアイデア自体は、50~ 60年前からありましたが、コンピュ ータのハードウェアの進展でようや く実用的な段階になりました。

汎用的な知能を持ったAI研究と

「意味の理解」が今後のポイント

 AI研究では、チェスや将棋、囲碁 などのゲームソフトの能力向上に話 題が集中していますが、多くの研究 者がゲームをAI研究の対象に選ぶ のは、勝ち負けがはっきり出るため、 技術水準を確認するのに最適だから です。AIは人間の意思決定を助ける 道具です。将棋や囲碁を使ったAI 研究が行われているのは、将棋や囲 碁が人間よりも強くなったことで、 人間が行ってきた意思決定をある程

人工知能

公立はこだて未来大学 システム情報科学部複雑系知能学科

人間の知的能力を超えることではなく

意思決定を支援する便利な道具をめざす

 昨春、人工知能(AI)を搭載した囲碁ソフト「アルファ碁」(注1)が、トッ ププロに4勝1敗で勝利したニュースに世界中が驚いた。1997年にコンピュ ータに敗れたチェスと比べて、囲碁は人間の方がかなり強いと思われていたた め、AIの実力に改めて注目が集まることになった。しかし、AIの活躍分野は ゲームだけではない。現在でもスマートフォンのアプリにも数多く搭載され、 我々の生活を支えているほか、自動車の自動運転の実現も目前に迫っている。 人の能力を拡張、あるいは代替する機械の頭脳として、AIには今後も大きな 可能性がある。

(注1)アルファ碁…Google Deep Mind が開発したコンピュータ囲碁プログラム。

(注2)東ロボくん…国立情報学研究所を中心とした「ロボットは東大に入れるか。」プロジェクト(2011 年~)で研究・開発が進められる人工知能の名称。 (注3)棋譜…囲碁や将棋などの対局で、対局者が指した手を順に記録したもの。

松原

教授 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 56

(8)

情報学

第37回 度、AIに任せても大丈夫だという信 頼を得るためだと捉えると良いで しょう。  現在でも、AIはさまざまな場面で 人間の意思決定の支援に使われてい ます。例えば、スマートフォンの 「乗り換え検索」アプリが、効率の 良い交通経路や乗り換え方法を示し たり、オンラインショッピングの過 去の履歴から「お勧め商品」を提案 したりするのも、AI技術の賜物です。 今後もAIは、それぞれが得意とする 分野で、意思決定支援の道具として の性能を高めていくでしょう。  一方で、将棋ソフトはチェスがで きませんし、人間との対話や、文字 の認識もできません。人間のように 多面的な知的能力を持つAIは、まだ 実現できていないのです。そのため、 汎用的な人工知能(AGI:Artificial GeneralIntelligence)をめざす研究 がホットなトピックとなっています。 その究極の完成形は、家庭用ロボッ トです。家族の話し相手になったり、 子どもの家庭教師になったり、スケ ジュール管理や健康指導などをして くれるAIが搭載された機械です。そ の実現のためには、AIのさまざまな 分野を組み合わせるだけではだめで、 これまでとは全く異なる技術を開発 することが必要となるはずです。  「意味の理解」も、現時点のAIで は不可能です。人間の問いかけに応 じる自然言語処理にしても、その言 葉の意味がわかって反応しているわ けではないからです。「東ロボくん」 がなかなか合格水準に達しないのも、 入試問題の意味がわかっていないか らです。意味が理解できればAIにで きることの範囲は大きく広がります が、現時点ではAI研究の大きな技術 的ハードルの一つとなっています。  また、判断のプロセスを明らかに する研究も始まっています。人間で あれば、後付けであっても判断の理 由を説明することができますが、現 在のAIはそれができず、判断の結果 のみを示します。しかし、理由が不 明で結果だけを出されても、人間は 納得できません。今後さらに意思決 定支援の道具として活用してもらう ためにも、不可欠な研究です。  もう一つ、AIの進歩には、技術の 開発だけでなく、人間が機械と共存 する覚悟を持つことが求められます。 例えば、自動車の自動運転は技術的 には既に実用レベルに達しつつあり、 全ての自動車を自動運転にすれば、 国内の交通事故による死者数を現在 の年間4,000人から数十人まで減ら せるともいわれています。しかし、 自動運転車が事故を起こした場合の 責任の所在をどうするかなど、人間 の側に自動運転車を受容する準備が できていません。AI技術が進展し、 それが実用化されていく際には、 我々一人ひとりが、道具である機械 とどう関わっていくかという大きな 問題に直面することになるのです。

ゲームソフトは

「強さ」から「楽しさ」へ

AI研究はこの先もずっと発展する

 私は、これまでコンピュータ将棋 の研究をしてきました。強さの点で は、すでに人間を超えていることは 確実なため、今後の研究は「人間を 楽しませる」方向に向かっていくは ずです。例えば現在は、接戦の末に 僅差で敗れて人間を勝たせるなど、 勝負を楽しませてくれるAI技術の開 発をめざしています。  AIで小説を書く研究も進めていま す。SF作家の故・星新一氏の小説を 学んだAIに新作を作らせる研究で、 昨年はAIが書いた小説が、星新一賞 の一次審査を通過しました。ストー リーの骨格は人間が与えているため、 完全なAI作家ではありませんが、AI が3,000字程度の、日本語としてお かしくない小説を書けることが証明 できました。今後は、ストーリーも 含め全てAIで小説を書くことを目標 にしていきます。  AI研究には、最先端技術を扱う面 白さや、コンピュータにこれまでな かった能力を持たせる面白さもあり ますが、最大の魅力は、機械の知能 を研究することで、「人間とは何か」 を問い直すことができる点にありま す。哲学とは違い、機械の視点から 人間に迫るわけで、文理融合的な学 問でもあります。人間を対象として いるが故に、当分研究テーマが尽き ることはなく、まだまだ未知の分野 が眠っている将来が楽しみな研究領 域といえます。

(9)

AIの成功に貢献したビッグデータ

その利活用に寄せられる熱い期待

 近年、「ビッグデータ」が話題に なっている背景には、3つの技術的 な要因があります。  1つ目は、デジタル化技術の発達 です。音声や映像など、あらゆる情 報がデジタルデータに変換できるよ うになり、コンピュータで処理でき るようになっています。2つ目は、 センシング技術の発達です。音・ 光・圧力・温度など、さまざまな変 化を感知するセンサーが開発され、 現実世界で何が起きているのかを自 動的にモニタリングできるようにな りました。3つ目は、インターネッ トの普及です。世界中のセンサーが 感 知 した情 報 や、Twitterなどの SNS(ソーシャル・ネットワーキン グ・サービス)を通じて人々が発信 する情報が、リアルタイムにインタ ーネットを介して配信されるように なりました。これらの技術により、 世界中で生み出される電子データの 量が加速度的に増加しているのです。  ビッグデータは、データ量が巨大 だというだけではありません。その 性質は一般に「3V」と説明されま す。  まずは、「Volume(量)」です。あ る企業の試算では、IoT(注1)の発達 もあり、2020年に人間が扱う情報の 量は44ゼタバイトに達するといい ます。ゼタは10の21乗(1兆の10 億倍)です。私たちが普段目にする 単位で言うと、ギガが10の9乗(10 億)、テラが12乗(1兆)ですから、 想像を絶する量です。  次が「Velocity(速度)」です。例 えばTwitterで発信される情報は、 ほぼリアルタイムで配信されますし、 さらに内容も非常に速いスピードで 変わっていきます。  3つ目は「Variety(多様性)」で す。ネットワーク上には、データの 形式も信頼度も異なる多様なデータ が混在して流れています。  このように、ビッグデータは人間 の処理能力をはるかに超えた量と質 を持ったデータの集まりです。しか し、この大量かつ雑多なデータを、 情報技術を使ってうまく分析すれば、 これまでできなかったことができる ようになったり、わからなかったこ とがわかるようになるなど、新たな 価値を生み出せる可能性が高まって きました。例えば、人工知能の「ア ルファ碁」(注2)がトッププロに勝つ ことができたのは、大量の棋譜を蓄 積し学習した結果ですし、自動車の 自動運転が技術的に可能になったの は、自動車の状態や道路の状況に関 する大量のデータを扱えるようにな ったためです。  そこで、ビッグデータの分析など に向けた研究が、国家的なプロジェ クトとして、世界中で推進されてい ます。日本でも、文部科学省をはじ め、総務省や経済産業省などが、ビ ッグデータの利活用をめざした研究 開発の支援に乗り出しています。

ビッグデータを

実社会で活用するには

基盤技術の確立が必要

 これまでの情報学の研究は、コン ピュータの処理スピードを上げるな ど基礎的な研究が中心でしたが、ビ ッグデータの研究では、さまざまな 基盤技術を応用して、現実の問題を 解決することが重視されています。  筑波大学では、東北大学、東京大 学、慶應義塾大学と共同で、文部科 学省の委託事業「実社会ビッグデー タ利活用のためのデータ統合・解析 技術の研究開発」(2014 ~ 17年度) に取り組んでいます<図>。本研究 の目的は、実社会の中で生まれるさ まざまな種類のデータ(リアルタイ (注1)IoT…Internet of Things の略。あらゆるモノをインターネットにつなげる技術のこと。P60 参照。

(注2)アルファ碁…Google Deep Mind が開発したコンピュータ囲碁プログラム。

ビッグデータ

筑波大学大学院 システム情報工学研究科

ビッグデータは膨大で雑多なデータの集合体

そこから価値を生み出すための研究が加速

 コンピュータやインターネットが普及したことにより、電子データは爆発的 に増加している。ビッグデータは、こうした大量のデータの集まりを意味する が、単に量が多いだけではなく、データの種類や有用性も多様で、しかもそ れらの生成・配信スピードが速いという特徴がある。こうした雑多な情報の海 の中から、新たな価値を創造しようと、ビッグデータには高い関心が寄せられ、 世界中が研究開発にしのぎを削っている。

北川

博之

教授 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 58

(10)

情報学

第37回 ムデータを含む)を連携させ利用す るための、データ統合技術や解析技 術を開発することです。社会におけ る実用を意識し、神奈川県藤沢市の 協力も得て、実証実験を行うことも 特徴です。  この研究では、ビッグデータ利活 用の基盤となる要素技術を6種類の 層に分類し、研究開発を進めていま す。①実際の社会の中からデータを どのように取得するかを追究する 「ストリーム管理層」、②さまざまな データの中から、どのデータを連携 させたら目的に合う情報が得られる のかを探る「データ連携層」、③連 携するデータを実際に解析して、関 係性や応用可能性を見出す「データ 解析層」、④得られたデータをわかり やすく表示する技術を開発する「デ ータ可視化層」、⑤これらの各層で利 用する大量のデータをどう格納する かを考える「データ格納層」、そして ⑥各層で確立した基本的な技術を実 社会の問題解決に活かす「データ応 用層」です。

フィールドでの実証実験を通じて

実用的な応用技術を開発

 私の研究室では、上記のうち「① ストリーム管理層」と「②データ連 携層」を主に担当しています。具体 的には、例えば、地震が起きた後に はその周辺で「地震」「揺れ」といっ たツイートが増加することに注目し、 Twitterのユーザーの現在位置を推 定するなど、どの地域で、いつ何が 起きているのかをリアルタイムで明 らかにする技術の開発を行っていま す。さらに、ビッグデータの処理に は、即時的にデータを扱う「ストリ ーム処理系」と、大量のデータを貯 めておいて一気に処理する「バッチ 処理系」がありますが、それら2種 類の処理方法をうまく組み合わせ、 効率的にデータを処理できるシステ ム開発なども進めています。  また、「⑥データ応用層」の研究 の一環として、藤沢市をフィールド にしたゴミ収集データ分析に関する 実証実験に取り組んでいます。藤沢 市から、日々のゴミの収集量などに 関するデータを提供してもらい、そ れらの関係を分析することで、ゴミ の削減に向けた「ゴミ減量G1グラ ンプリ」を実施しています。また、 ゴミ収集車にセンサーを付け、気温 や湿度、PM2.5などの生活環境に関 する値を計測しています。今後は、 住民のTwitterから「汚い」「臭い」 などの不満表現を抽出し、それらを 結び付けて分析することで、ゴミ収 集の改善につなげていくことも考え られます。  このほか、私の研究室では、地元 である茨城県つくば市と連携して、 道路補修に関する実証研究にも取り 組んでいます。市が運行している道 路パトロール車の走行ルートのデー タと、道路の補修箇所や補修内容に 関するデータを分析することで、効 率的なパトロール頻度・ルートや、 道路補修計画の検討に役立てること を考えています。  実際には、実データは一部データ が欠けているなど不完全であること が多いことやプライバシーに配慮す る必要があることなど、取り扱いに は注意すべき点も多くありますが、 こうした研究を通じて、ゴミ収集や 道路の補修だけでなく、生活環境の 把握や、非常時の避難経路の再検討 など、さまざまな社会問題の解決に 貢献できると考えています。  もはや情報はあらゆる人間活動の 基盤となっています。これからの時 代、その重要性はさらに増加してい くはずです。ビッグデータに対する 知識や技術を駆使してさまざまな問 題を解決ができる人材は、あらゆる 分野から強く求められており、活躍 の場は広がるばかりです。ぜひ、多 くの高校生にビッグデータをはじめ とする最先端の情報技術に挑戦して もらいたいと思います。 <図>実社会ビッグデータ利活用のためのデータ統合・解析技術の研究開発

(11)

IoTによってもたらされる情報で

現実世界と仮想世界を融合する

 IoTは、サイバーフィジカルシステ ム(CyberPhysicalSystem:CPS) を構成する要素技術の1つです。CPS は、 セ ン サ ー を使 っ て現 実 世 界 (フィジカル)のさまざまな情報を収 集し、集めた情報を仮想世界/情報 処理空間(サイバー)で分析して、 それを元に社会問題を解決したり、 新しいビジネスの創出につなげるな ど、世界をより良くすることをめざ す技術です。  センサーは身の周りのモノに数多 く存在しています。冷蔵庫やエアコ ンには温度センサーが内蔵されてい ますし、スマートフォンにも、画面 と顔や手の距離、周囲の明るさ、ス マートフォンの傾きなどを測るさま ざまなセンサーが入っています。高 級自動車ともなれば、センサーの数 は100個にも達します。  IoTは、これらのモノをインター ネットにつなげ、センサーをネット ワーク化する技術です。IoTによっ て、さまざまな情報を迅速に収集で きるようになることで、CPSも実現 できるのです。  IoTは、3つの大きな技術から成 り立っています。1つ目は「センシ ング技術」です。センシングする対 象は、温度、光、音、においなどさ まざまです。センシングの対象をさ らに多様にしたり、精度を上げたり、 データの形式を揃えたりする必要が あります。同時に、センサーの小型 化や高性能化、省電力化に向けた技 術を開発することが求められていま す。  2つ目は「ネットワーク技術」で す。モノをインターネットにつなぐ には、有線よりも無線の方が利便性 は高くなります。小さな電力で、確 実にインターネットに接続できるよ うなネットワーク技術が求められて います。  3つ目は「コンピュータ技術」で す。IoTであらゆるモノから情報が 入ってくるようになると、処理する データの量も種類も膨大になります。 一般の企業等が持つコンピュータで は処理しきれなくなるため、コン ピュータの性能を上げるとともに、 大規模な「データセンター」などが 持つソフトウェアやデータベースに、 ネットワークを通じてアクセスし、 データを処理する「クラウドコン ピューティング」の技術なども必要 になります。

利用分野の開拓が求められるIoT

プライバシーとセキュリティの

確保も課題

 IoTは、研究者の間では約20年前 から使われていた言葉ですが、ここ 2~3年で一般にも広く浸透し、注 目を集めるようになってきました。 関連技術が成熟し、IoTの実用化が 可能になってきたことが背景にあり ます。とりわけ、情報端末としての スマートフォンやタブレットが普及 したこと、Wi-Fiなど無線LAN環境 の整備によって、屋内でも屋外でも 簡単にインターネットに接続できる ようになったことが大きく影響して います。  では、IoTによってどのようなこ とが可能になるのでしょうか。企業 では、IoTを使った新しいビジネス が模索されています。例えば、自動 車同士をインターネットでつなぎ、 互いに通信しながら走行させること で車間距離や速度などを調整して交 通事故を減らしたり、渋滞を緩和し たり、温室効果ガスの排出を減らし たり、人が操作を行わなくても走行 する「自動運転」などを実現する 「スマートモビリティ」が話題と なっています。家の中や身に着ける

IoT

九州大学大学院 システム情報科学研究院

あらゆるモノをインターネットでつなぎ

便利で快適な生活を創造する仕組みを追究

 IoT(アイ・オー・ティー:Internet of Things)は、あらゆるモノをイン ターネットでつなぐことを意味する言葉で、日本語では「モノのインターネッ ト」と呼ばれる。家電製品がインターネットにつながれば、スマートフォンで 自在にコントロールできるようになるし、工場内の機械がつながれば、より効 率的な生産方法へと改善もできる。しかし、個人の周囲のモノから、その個 人に関する膨大な情報を集めることも可能になるため、プライバシーとセキュ リティをいかに守るかが、IoT推進の大きな課題になっている。

福田

主幹教授 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 60

(12)

情報学

第37回 ものにセンサーを埋め込むことで高 齢者や小さな子どもの見守りに使う といったことも想定されています。 他 にも、IoTを使 っ てどのような サービスが可能か、どのような問題 を解決できるのかを、試行錯誤して いる状態です。  TwitterなどのSNS(ソーシャル・ ネットワーキング・サービス)が人 間のコミュニケーションを変えたよ うに、IoTも現実世界の人間の行動 や、社会の在り方を変える可能性を 持っています。そこに密接に関わっ てくるのが、プライバシーとセキュ リティの問題です。  あらゆるモノにセンサーが搭載さ れれば、誰が、いつ、どのような行 動をしたのかを自動的に追いかける ことができるため、プライバシーが 侵される可能性があります。  また、悪意ある人がモノを遠隔操 作して被害を与えたりすることも考 えられます。今後は、情報技術に詳 しくない人もインターネットにつな がったモノを使う機会が増えていく ため、セキュリティを万全にするこ とが求められます。

センサーネットワークの基盤技術や

情報基盤プラットフォームを研究

 IoTを本格的に普及させていくに は、いくつか解決しなければならな い問題も残っています。例えば、混 在する通信方式への対応です。さま ざまなモノがさまざまな通信方式で インターネットにつながるため、そ れらを上手く協調させなければなり ません。そこで、私の研究室では、 安価かつ確実に接続できるようなセ ンサーネットワークの基盤研究を 行っています。  また、センサーの位置を特定する 方法も課題です。エアコンを例に取 ると、室内のどの場所にあるセン サーが温度を感知したのかがわから ないと、設定温度や風向をどのよう に変えればよいか、判断できません。 これまで、室内のセンサーは人の手 でコンピュータ等に入力し管理して いましたが、設置するセンサーが増 えると、難しくなります。そこで設 置すると同時に、自動的に位置情報 を取得できるようなセンサー技術の 開発を進めています。  また、スマートモビリティ向け情 報基盤プラットフォームの研究も 行っています<図>。IoTは使って みないと、良い使い方や課題がわか らない場合があります。まず使って もらって、ユーザーから反応をもら い、プログラムを修正して、また 使ってもらうというサイクルを作る 必要があります。研究室では、ス マートモビリティ分野を対象に、自 動車の走行情報や道路情報などを収 集し、迅速かつ柔軟にシステムを修 正できるプラットフォームの構築を めざしています。  さらに私自身は、2016年8月に 福 岡 市 にオ ー プ ン した、「&AND HOSTEL」のアドバイザーも務めて います。室内のセンサーから温度、 湿度、明るさなどの情報を宿泊客の スマートフォンに送信し、エアコン や電灯の操作などもできるようにす るリモコンなど、さまざまなIoT機 器を客室に備えた日本初のスマート ホステルです。IoTの実証実験の場 ともなっており、宿泊者が実際に利 用したIoT機器や感想などを踏まえ た上で、新しいIoT機器の開発や利 用法の提案などに結びつけたいと考 えています。  IoTは、ようやく実現に向けて動 き始めた技術であり、今後の重要な 社会インフラになる可能性を秘めて います。しかし、IoTでどんな社会 が実現できるのか誰もわかりません し、正解もありません。したがって、 どんな提案も可能であり、若い柔軟 な発想こそが求められている分野で もあります。情報学に興味を持って いる高校生なら、夢を持って挑戦で きる分野だと信じています。 <図>スマートモビリティ情報基盤プラットフォーム (科学研究費助成事業 基盤研究(S) 研究概要より)

(13)

5つの専門領域からなる

幅広いカリキュラム

プログラミングは

「講義+演習」が基本

 会津大学コンピュータ理工学部で は、情報学のさまざまな分野の中でも、 コンピュータに関する理論や技術を 中心に据え、社会のさまざまな分野に 応用する力を身につけ、国際社会にお いて活躍できる人材の育成をめざした 教育を行っている。  カリキュラムは、コンピュータ理工 学分野の国際標準であるCC2005(注1) 及びCSC2013(注2)をベースに編成し、 多様な科目を設置している。さらに、 履修モデルとして、「コンピュータ・サ イエンス」「コンピュータシステム」 「コンピュータ・ネットワークシステ ム」「応用情報科学」「ソフトウェア・ エンジニアリング」の5フィールド (専門領域)と、フィールドをさらに細 分化した9トラック(履修領域)を示 し、学生が将来の進路の希望に合わせ て柔軟に選択できるようにしている。  教育方法にもさまざまな工夫をして いる。例えば、プログラミング関連の 科目をはじめ、多くの授業で講義と演 習を組み合わせることで、学んだ知識 を定着させ学生が自力で問題を解く 力を身につけられるようにしている。 また、コンピュータ・サイエンティス ト、コンピュータ・エンジニアとして グローバルに活躍できるように、英語 教育に力を入れており、卒業論文も英 語で書くこととしている。さらに、1 年次から興味あるテーマを追究できる 「課外プロジェクト」を40講座程度 用意し、学生は各自で、テーマを掘り 下げる力を磨いている。

教育プログラム

「会津 IT日新館」で

社会とのつながりを実感する

 中でも重視しているのが、情報技術 と社会とのつながりを実感し、具体的 な課題解決へとつなげる教育プログラ ム「会津IT日新館」だ。イノベー ションに挑戦する精神と技術力を持つ 創業意識の高い若手人材を育成する ことを目的としており、地元の企業や 自治体と連携して、地域のニーズを踏 まえた実践的な教育が行われている。 2007 ~ 2009年には、文部科学省の 「現代的教育ニーズ取組支援プログラ ム(現代GP)」にも採択された。  「会津IT日新館」は、「ベンチャー 基本コース」と「ベンチャー体験工 房」の2つの科目群からなる。いずれ も必修科目ではないが、半数以上の学 生が卒業までに何らかの科目を履修し ている。  「ベンチャー基本コース」は、ITに 関わる基本的なトピックスを教える講 義科目である。前期・後期ともに15 回で構成され、ほとんどの授業を外部 講師が担当している。講師は、IT企 業をはじめ、さまざまな業種・職種の 社会人が担当し、IT企業の現状や、 各業界におけるIT活用の実態などを テーマに講義を行っている。こうした 経験談を通して、学生は自分たちが学 ぶ情報技術が、社会とどのようにつな がっているかを具体的に理解できるよ うになる。  一方、「ベンチャー体験工房」は、 現実社会の課題解決を目標とする PBL(ProjectBasedLearning)型の 科目だ。2016年度は、前期・後期そ れぞれに10前後の工房が開設され、 各工房にそれぞれ10名前後の学生が 集まって活動した。  「2~4年次がほぼ均等に受講して います。本学では3年次から研究室に 配属されるため、配属前に研究の様子 を知る意味で受講する学生、自分の研 究分野とは異なる工房を選び視野を 広げる学生など、さまざまな受講理由 があります。いずれの工房も社会にお ける課題解決を強く志向しているため、 学生は、他の授業等で身につけた技術 をどのように活用できるのかを考える ことになります。そうした学びを楽し

教育—会津 IT 日新館

会津大学 コンピュータ理工学部

情報技術の基礎から応用まで学び

現実の課題の解決に挑戦する

 情報学は文理融合型の学問であり、大学によってカリキュラムはさまざまだ が、プログラミング教育と、情報技術を活用した課題解決学習に力を入れて いる点は共通している。ここでは、日本で最初に誕生したコンピュータ理工学 専門の大学である会津大学を例に、情報技術を活用した課題解決学習につい て紹介する。 (注1)CC2005…Computing Curricula 2005 の略。

(注2)CSC2013…Computer Science Curricula 2013 の略。CC2005、CSC2013 とも、アメリカの国際学会である IEEE や ACM で議論されてきた、コ ンピュータ科学の先導的カリキュラム。

石橋

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教授 Kawaijuku Guideline 2017.4・5 62

参照

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