J.Jpn.Acad.Mid.,Vol.18,No.2,pp.44-62,2004.12
原
著
女 性 に とって 遺 伝 的 特 質 を 引 き継 ぐ こ との 意 味
― 常染色体優生遺伝疾患を もつ一女性の体験 ―
The
lived experiences
of reproduction
for
woman
who has hereditary
characteristics
a phenomenological
study
中 込 さ と 子(Satoko NAKAGOMI)1) 堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)2) 伊 藤 和 弘(Kazuhiro ITO)2) 抄 録 目 的 本 研 究 は,遺 伝 的 特 質 を親 か ら子 へ 引 き継 ぐこ との意 味 を探 る こ とを 中心 に 据 え て,遺 伝 性 疾 患 を も つ女 性Fさ ん に とっ て 子 ど もを産 み育 む体 験 を記 述 す る こ と を 目的 と した。 対 象 お よ び 方 法 1)協 同研 究 者:軟 骨 無 形 成 症 を もち,既 婚 で,す で に1人 以 上 の 子 ど もを 得 て お り,現 在 妊 娠 して い な い女 性Fさ ん で あ る。 2)研 究 方 法:研 究 デザ イ ンは質 的 帰 納 的 記 述 研 究 とした。 研 究 方 法 は,Giorgi,A.の 提 唱 した現 象 学 的 ア プ ロー チ とし,Heidegger,M.の 存 在 論 を前 提 立 場 と した。 分 析 は,第1に 協 同 研 究 者 の語 りか ら 生 きられ た体 験(lived experience)を 統 合 的 に記 述 し,第2に 記 述 され た体 験 をHeidegger,M。 の 存 在 論 に 基 づ き研 究 者 が 解 釈 を加 え た。 デー タ収 集 は,非 構 成 的 面 接 を2002年8月 ∼11月 に行 った 。 結 果 Fさ ん は 新 生 突 然 変 異 で 出生 し,他 の 家 族 に同 じ特 質 の 人 が い な い環 境 で 育 っ た。Fさ ん は,「 障 害 」 と認 め た くな い 母 親 か ら,何 事 も同級 生 た ち と同 じ よ うに取 り組 む こ と を期 待 され 努 力 し続 け た 。 し か し高校 卒 業 時 よ り,社 会 で の 自立 に 向 か う過 程 で さ まざ まな 障 壁 が あ り屈 辱 的 な思 い も した。 しか し, 身 障者 の 人 び と との 出 会 いや 身 障手 帳 を取 得 した以 降,社 会 的 に 「正 当 に 」 評 価 され た と感 じ精 神 的 に 安 定 した 。 娘 が 同 じ病 気 だ と知 っ て,娘 に対 して,Fさ ん 自身 が 親 か ら育 て られ た方 針 とは逆 の,「 頑 張 らな くて よい 」 とい う この身 体 的 特 質 に対 す る正 当 な考 え方 を教 え た 。 そ して娘 の 身 体 だ け で な く,そ の時 々 で感 じ る辛 さ も理 解 し,そ れ に対 応 で き る よ う先 々 に準 備 を した 。 またFさ ん は,親 の会 活 動 に 参加 し親 や 当事 者 た ち を支 え た。Fさ ん は 「軟 骨 無 形 成 症 」 を もっ た 当1)広 島 大 学 大 学 院 保 健 学 研 究 科(Hiroshima University, Institute of Health Science, School of Medicine) 2)聖 路 加 看 護 大 学(St.Luke's College of Nursing)
2004年4月10日 受 付2004年11月25日 採 用
女性 に とっ て遺伝 的 特質 を引 き継 ぐ こ との意 味 事 者 の声 を発 信 す る活 動 と,当 事 者 と して の 自分 自身 の 「個 人 史 」 を書 き始 め た。 この 活 動 を通 して骨 無 形 成 症 者 」 が社 会 に 広 く理 解 され る こ とを願 っ て い る。 Fさ ん の体 験 の 中 心 的 な 意 味 は,「 自分 の人 生 をか けて,娘 とす べ て の 当事 者 を慈 しむ 」 と して理 解 さ れ た。 中 心 的意 味 を形 成 す る事 柄 と して,1)他 者評 価 を超 えて,自 己 を正 当 に評 価 す る,2)生 き て き た体 験 を もとに,子 どもの人 生 に関 与 す る,3)子 育 て を通 じて,自 己 の 存 在 の 意 味 が 明 確 にな って い く, 4)あ りの ま まの 自分 た ち を 受 け入 れ,形 の な い もの を志 向 す る,が 確 認 で きた。 結 論 子 ど も に遺 伝 的 特 質 を引 き継 い だ体 験 は,病 の体 験 を引 き継 ぐ辛 さで は あ った が,自 分 の体 験 を も と に 子 ど もの 人 生 に関 与 し,わ が 子 の存 在 に よ っ て 自己 の存 在 の意 味 を 明確 に な って い った 。 また この遺 伝 子 が これ か ら も引 き継 が れ る とい う観 点 か ら,自 分 た ち親 子 だ け に と ど ま らず,地 域 社 会 の未 来 の平 和 に対 す る志 向 の 拡 が りが 確 認 で きた 。 キ ー ワー ド 遺 伝,出 産,現 象 学,生 き られ た 体 験 Abstract Purpose
The purpose of this study is to understand and describe the lived experiences of women in the delivery and rearing of a child by looking at the characteristics inherited from the women's genes. Specifically, the focus is to explore the meanings of inherited genotype from parent to child.
Methods
1) Design: The qualitative methodology of phenomenology was selected as the philosophical basis patterned after M. Heidegger's ontology.
2) Co-researchers : The co-researchers in this study are woman who were afflictedwith achondroplasia inherited in an autosomal dominant manner. They volunteered to be co-researchers in this study.
3) Data collection : Data was collected from intensive face to face and audio-taped inter-views. Co-researcher was interviewed in a non-structured and intensive manner.
Results
Based on the results of the interpretation, the central meanings of inheriting a genotype from parent to child for co-researcher was determined as follows;
"I will stake my life for my daughter and all little people"
Although she exerted all efforts in her school to do the same activities as the others, she was unable to cope. She started to live her own life after she met a group of disabled per-sons. She thought it was right for her to be supported by social welfare. Her daughter has the same character. She joined the support group with the support of her parents. She brought up her daughter to be able to live her own life.
There were several meanings of inheriting a genotype from parent to child which formed the central meaning of her experience are the following:
1) Appraising their abilities by individual not by others; 2) Concern in children's life by setting an example with their own life; 3) Coming to terms with the meaning of their existence according to the manner by which they raise their children; 4 ) Intangibly treasure-oriented.
女性 に とっ て遺 伝 的特 質 を引 き継 ぐこ との意 味
Conclusions
Women who have conge nital disabilities or constitutions found positive meanings in their lives. Their active lifestyle has set a good example for their children and the community. Key Words hereditary, childbirth, phenomenology, lived experienc
Iは じ め に 遺 伝 性 疾 患 患 者 は,根 本 的 治 療 法 はない もの の, 療 育 方 法 や療 養 生 活 を可 能 な か ぎ り改善 し,障 害 を もっ て生 き る方 法 を模 索 してい る。 わが 国 で も, 障 害 者 自身 が 自分 の 価 値 体 系 を根 本 か ら見 直 し, 「誇 りを もって 障害 者 と して 生 きる」 こ とが で き る 価 値 や ア イ デ ンテ ィテ ィ を取 り戻 す こ と,障 害 は 個 人 で な く社 会 モ デ ル と し て視 て い こ う とい う実 践 的 な 活 動 や 呼 び か け が あ る(石 川,1996)。 ま た,わ が 国 に 古 くか ら伝 わ る 「遺 伝 」 に対 す る誤 解 や 偏 見 を な くす た め に,子 ど もか ら大 人 へ の 教 育 現 場 で の 啓 発 活 動 も行 わ れ 始 め た(池 内, 2003)。 実 際 に遺 伝 性 疾 患罹 患者 や保 因 者 や そ の家 族 ら は,そ の疾 患 を もっ て さ え も幸 せ に生 き る術 も, また 社 会 的 不 利 益 に よ る生 活 の 困 難 さ も熟 知 して お り(道 しるべの会,1998;武 藤,2000),こ の よ う な障 害 者 活 動 が発 展 して い け ば,遺 伝 性 疾 患 当 事 者 に とっ て も病 の体 験 の 意 味 や,出 産 や 子 ど も を育 て る こ との意 味 は 多様 にな るだ ろ う。 この よ う な社 会 動 向 か ら,わ れ わ れ助 産 師 は遺 伝 的 特 質 や 障 害 とい う もの を,個 々 人 の 体 験 や 生 活 世 界 に即 して 理 解 し,出 産 や育 児 を支 援 す る こ とが期 待 され て い る と考 え る。 す な わ ち助 産 学 領 域 にお い て,子 ど もを産 み育 て る とい う営 み に, 人 び との 「遺 伝 」 を め ぐる体 験 を重 ね て 考 察 す る 必 要 が あ る と考 え る。 II研 究 目 的 本 研 究 は,遺 伝 的 特 質 を親 か ら子 へ 引 き継 ぐこ との意 味 を探 る こ とを中 心 に据 えて,常 染 色 体 優 性 疾 患 を もつ1人 の 女 性 の 子 ど もを産 み育 む体 験 を記 述 す る こ と を 目的 とし た。 III本 研 究 の 理 論 前 提 単 一 遺 伝 子 疾 患 とは,健 康 に大 き な影 響 を与 え る単 一 の 変 異 遺 伝 子 に よ っ て 引 き起 こ され る疾 患 で あ る。 常 染 色 体 優 生 遺 伝 の 場 合,遺 伝 の伝 達 バ タ ー ン は垂 直 で あ り,親 か ら子 へ と次 世 代 に続 く。 本 研 究 は,常 染 色 体 優 生 遺 伝 疾 患 を もつ 女 性 の, 自 身 の遺 伝 的 特 質 を知 っ て か ら,同 じ特 質 を もつ 子 ど も を産 み,育 て る とい う連 続 した 体 験 を記 述 す る こ と を 目的 と して い る。 固有 で 有 限 な 生 を生 き,独 自の 歴 史 を もつ人 間 の経 験 の 意 味 は,単 純 化 が不 可 能 で あ り,形 式 的 理 論で 機 械 論 的 ・因 果 論 的 に分 析 で き な い。 した が っ て遺 伝 性 疾 患 を も つ 女 性 の連 続 した 体 験 の 文 脈 か ら記 述 的 解 釈 学 的 に分 析 を行 う こ とを試 み る こ と と し。 現 象 学 的 存 在 論 を援 用 す る こ と と した 。 Heidegger,M.(1927/1980a)は,存 在 は時 間 とい う性 格 に よ っ て正 当 に意 味 付 け られ る と言 う。 Heidegger,M.(1927/1980b)は 「あ る とい う こ と は ど うい う こ とか 」 とい う存 在 の 意 味 そ の もの を問 う存 在 論 を推 し進 め た。 問 わ れ る もの と して 「存 在 」 を置 き,問 いか け られ る もの が 「存在 者 」, 問 い 確 か め られ る もの が 「意 味 」 だ とす る。 そ し て 人 間 はお の れ の存 在 につ い て か か わ る とい う態 度 を とる 「存 在 者 」 で あ り,「現 存 在 」 と表 現 した (Heidegger,M,1927/1980c)。 またHeidegger,M.(1927/1980d)は,存 在 問 題 の 探 求 方 法 と して 「時 間 性 」 と 「現 象 学 」 を挙 げ た 。 現 存 在 は お の れ の 存 在 の 意 味 を時 間性 に お い て 見 い だ し,歴 史 性 とい う時 間 的 な存 在 様 式 を もつ。 現 存 在 は そ の つ ど 「お の れ が す で にい か で あ っ た か,何 で あ っ た か 」 で あ り,お の れ の 存 在 は根 本 にお い て 歴 史 性 に規 定 され る の で あ る。 さ らに現 存 在 は 自 己 を 解 釈 す る性 格 を もっ て お り, 現 象 と は隠 れ た く当 の もの>を 示 す 意 味 を もち, ロ ゴ ス と は隠 さ れ た もの を暴 露 し て見 させ る とい う意 味 を もつ(Heidegger,M.,1927/1980e)。 し 46 日本 助 産学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12)
女 性 に とって遺 伝 的特 質 を引 き継 ぐこ との意 味 た が って,人 間 は 自分 自身 の歴 史 か ら離 脱 で き る よ うな途 な ど あ りえ な い。 人 間 は 自分 の経 験 を形 作 って い く と と もに,自 分 の経 験 に よっ て形 作 ら れ て い く と と らえ る こ とがで きる。 疾 患 は取 り除 く=治 せ て も,疾 患 の 経 験 は取 り除 け な い ので あ る(Benner & Wrubel, 1989/1999a)。
また 「世 界 」 とはい わ ゆ る客 観 的 な世 界 で な く, その 人 自身 が 見 る世 界 を 「世 界 」 と し,現 存 在 は そ の つ ど 「世 界 内存 在 」 とい う仕 方 で存 在 して い る。 これ は人 間 が 自己 の存 在 を了 解 して い る と考 え る。 「世 界 内 存 在 」 とは実 存論 的観 点 か ら見 た と き の 「人 」 と 「世 界 」 の関 係 本 質 を示 して お り, 実 存 論 的 な世 界 の見 方 とは,「 世 界 とは個 々 の人 間 に よ って 現 に生 き られ て い る そ の 世 界 」 とな る (Heidegger,M.,1927/1980f)。 そ して現 存 在 に とっ て,目 の前 に存 在 す る もの は その時 々 の その人 の 関心 や 生 き方 によって異 な っ て現 れ る。 現 存 在 は 「気 遣 い」 に よ っ て現 存 在 と 存 在 す る もの とかか わ る。 現 存 在 は,「 気 遣 い」 に よ りお の れ の 最 も固 有 な可 能 性 に向 か って 自由 と い う<企 投>で あ る の と同 時 に,配 慮 的 に気 遣 わ れ た 世 界 に<被 投>さ れ て い るの で あ り,被 投 さ れ た 企 投 とい う二 重 構 造 が 根 本 機 構 で あ る。 す な わ ち,遺 伝 性 疾 患 で あれ 障 害 で あれ,人 は,自 分 が 置 か れ た状 況 をた だ 受 け入 れ るだ け とい う存 在 で は な く,自 ら そ の 状 況 に か か わ る 存 在 で あ る (Heidegger,M.,1927/1980g)。 Heidegger,M.は,現 存 在 の世 界 内 存 在 とい う 概 念 を構 成 す る三 契 機 の1つ と して 「内存 在 」 を 挙 げて い る。 「内存 在 」 は,人 間が 自分 の 「実 存 の 世 界 の 内」 を生 き る,そ の 「存在 の仕 方」 の こ と で あ り,「 内存 在 」 はむ しろ主 観 とい う存 在 者 自身 の本 質 上 の存 在 様 式 を示 す ものであ る(Heidegger, 1927/1980h)。 さ らに 「内 存 在 」 その ものの説 明 と して,Heidegger,M.は 第1に 「現 」 の実 存 論 的 構 成 と して,「 情 状 性 」 と 「了 解 」 を挙 げた 。 「情 状 性 」 は,最 も熟 知 され 最 も 日常 的 な もの, つ ま り気 分 とか 気 分 的 に規 定 され て い る こ とを示 す。 現 存 在 は,ま ず気 分 的 に規 定 された 「情 状 性 」 の うち にあ る もの とし て おの れ を見 い だす 。 この よ うな現 存 在 の 「存 在 し てお り,存 在 しな けれ ば な らな い とい う事 実 」 の 側 面 を,「 被 投 性 」 と い う。 ま た,情 状 性(気 分)は 自分 自身 の 存 在 だ け で な く,世 界 が 何 で あ るか を も現 存 在 自身 に知 ら せ る。 つ ま り,人 間 の存 在 が,自 己 の 背 後 に あ る 何 らか の 「非 知 の もの」 に よ って 規 定 され て い る こ と を示 して い る。 現 存 在 は,お の れ の存 在 に お い て そ れ へ とか か わ りゆ くこ とが 問 題 で あ り,お の れ の 「現 」 で あ る とい う こ とを意 味 す るが,「 了解 」 は情 状 性 と等 根 源 的 な 「現 」 の 実 存 論 的 な本 質 契 機 の1つ で あ る。 世 界 が 「現 にそ こ に」 存 在 し て お り,そ う し た世 界 が 「現 に そ こ に」 開 示 され て存 在 して い る ことこそ 「内 存 在 」 であ る。 情 状 性(気 分)に よっ て お の れ を見 い だ し,そ れ を受 け取 る,感 じ取 る 根 底 的 な部 分,つ ま り,実 存 しつ つ あ る世 界 内存 在 そ の もの の 目 的 と,そ こ にあ る有 意 を 開示 す る こ とを 「了 解 」 と名 づ け た。 現 存在 は そ の つ どお のれ の 了 解 内容 を もっ て い る。 了 解 が 諸 可 能 性 の うち に迫 る意 味 と して,了 解 の企 投 性 格 が あ る。 企 投 は世 界 内存 在 の完 全 な 開 示 性 に常 に関 係 す る。 被 投 性 とは,人 間 存 在 が<否 応 な く存 在 し続 け な けれ ばな らな い とい う重 荷>と して存 在 す る こ と で あ り,企 投 とは,人 間 が 常 に 「か くか くの もの だ った 」 か ら 「新 し い もの で あ り う る」 と めが け つ つ存 在 す る こ とを指 す。 す なわ ち 「了 解 」 とは, お の れ の 固 有 な 自己 その もの か ら発 現 す る本 来 的 な 了解 で あ るか,非 本 来 的 な 「了 解 」 で あ るか の い ず れ か で あ る とす る。 IV研 究 方 法 本 研 究 は,遺 伝 性 疾 患 を も った 女 性 の,子 ど も を産 み育 て て きた体 験 の 主観 性の記 述 を目 的 とし, 現 象学 的 ア プ ロー チ を用 い た 。 現 象 学 的 ア プ ロ ー チ はHusserl,E.の 現 象 学 に 関 連 して い る。 デカル ト以 降 の近 代 哲 学 は,「 世 界 は客 観 的 に存 在 す る」 とい う前 提 を決 して疑 わず, 常 に この前 提 か ら出 発 して論 理 を組 み立 て てい た。 つ ま り,わ れ わ れ は認 識 とい う もの を考 え よ う と す る時,ほ とん どの場 合,ま ず 客 観的 世 界 が 存 在 して い て,そ れ を 「意 識 」 が ど う受 け取 るの か, とい う順 序 で考 え よ う とす る。 しか し,Husserl, E.は この順 序 が 問題 な のだ と言 う。 「い まやわ た し は,自 分 に対 して次 の よ う に言 う。 私 に対 し て存 在 す るす べ て の もの が,そ の よ う に私 に対 して 存 日本助 産 学会 誌 第18巻 第2号(2004.12) 47
女 性 に とって遺 伝 的 特 質 を引 き継 ぐ ことの 意味 在 す るの は,認 識 す る私 の意 識 に よ って で あ る」 つ ま り,Husserl,E.に とって認 識 の問 題 とは,認 識 が客 観 世 界 を ど う正 確 に言 い 当 て るか とい う点 に は存 在 せ ず,そ れ は,人 間 が意 識 の 中 で 客 観 世 界 の像 を どの よ う に構 成 し確 立 して い くか とい う 点 に見 定 め られ て いた 。 思 念 す る私 の 存 在 と,思 念 され る世 界 の存 在 とは分 離 され た もの で は な く, 相 即 不 離 で あ り,世 界 の存 在 とは,私 の 世 界 体 験 と して 意 識 に現 前 す るか ぎ りの もの と規 定 され る。 Husserl,E.の 現 象 学 の 潮 流 の 先 に本 研 究 の 理 論 前提 で あ るHeidegger,M.の 現 象学 が あ る。 1.現 象 学 的 ア プ ロ ー チ 現 象 学 的 ア プ ロ ー チ の 目的 は,生 き られ た体 験 (lived experience)を 統 合 的 に記 述 す る こ とで あ る。 本 研 究 は現 象 学 派 の1人 の 研 究 者Giorgi,A. の 提 唱 した現 象 学 的 ア プ ロー チ を具 体 的 方 法 と し た 。 現 象 学 的 ア プ ロ ー チ は面 接 とい うデ ー タ収 集 時 か ら解 釈,記 述 とそ の 過程 全 体 に研 究 者 が か か わ る。 わ れ わ れ が現 象 を経験 す る際 に,1つ の 方 向 性(志 向性)が 提 示 され,意 味 が 与 え られ るの だ と言 う(Giorgi,1970/1981a)。 わ れ わ れ は,意 味 が どの よ うに して体 験 され,生 き られ るの か を 見 るべ きで あ り,さ ら に その 意 味 を体 験 さ れ る ま ま に 理 解 す る に は,ど の よ う なPerspectiveが 最 も適 切 か を見 るべ きで あ り,現 象 へ の ア プ ロー チ を 変 え,発 端 に立 ち返 らね ば な ら な い(Giorgi, 1970/1981b)。 意 味 と志 向 性 との関 係 は複 雑 で あ り,更 な る研 究 を要 す るが,意 味 とは 志 向性 の 軌 跡 で あ り,志 向 性 が 存 在 す る か ら こそ 意 味 が 存 在 す る と言 う。 意 味 は人 間 と世 界 の 出会 い の 所 産 で あ り,そ こで 両 者 が 本 質 的 に か か わ りあ う。 一 般 的 に,こ の ア プ ロ ー チ は研 究 者 自身 が 収 集 した デ ー タ を 自分 自身 の見 方 で分 析 を通 す こ と, 独 断 的 な 分 析 に偏 る とい う意 味 で 問題 と考 え られ て い る。 しか しGiorgi,A.は,中 立 的 な観 察 者 と い う理 念 で 研 究 す る の み で は,明 確 に し た い こ と の 理想 に到 達 不 可 能 で あ る と して,研 究 者 と して あ るべ き客 観 的 態 度 に つ い て 「決 して 影 響 を受 け な い わ け に は いか な い研 究者 自身 の タ イ プ の介 在 を意 味 す る もの」 と解 釈 した 。 した が っ て個 々 の 研 究 者 は,研 究 の プ ロ セ ス や 偏 見,意 図 を す べ て の 研 究 レポ ー トに含 め る こ とに よ り,そ の 研 究 成 果 が 見 極 め られ る よ うに 努 め る こ とを勧 め て い る (Giorgi,1970/1981c)。 ま た,Giorgi,A.は 人 間 の存 在 は単 な る物 質 的 存 在 に よっ て 規 定 さ れ るの で は な く,そ れ よ りは ず っ と文 脈 を も っ た(contextual)も の で あ る と す る。 人 間 が研 究 の対 象 で あ る場 合,研 究 者 は, 最 終 的 に は対 象 で あ る人 の た め に 存 在 しな けれ ば な らず,さ らに重 要 な こ とは,研 究 者 と対 象 とな っ た 人 との関 係 は主 体 に と って 「存 在 す る」 とい う 事 実 だ と言 う。 両 者 の 関係 は人 間 的意 義 を もち, デ ー タ を理 解 す るた め の研 究 者 の基 本 的 準 拠 枠 は, 被 験 者 と状 況 との 関 係 で あ るべ きだ と い う こ と を 意 味 して い る(Giorgi,1970/1981d)。 2.デ ー タ 収 集 以 上 よ り現 象 学 的 ア プ ロー チ で は,研 究 者 は, 「人 間 で あ り,対 象 者 で もあ る情 報 提 供 者 」 との協 同 研 究 者 的 な 対 話 に従 事 し な けれ ば な ら な い。 1)協 同研 究 者 本 研 究 は対 象 者 が 自 ら 自分 自身 の体 験 を語 る こ とを前 提 と して い る の で,協 同 研 究 者 とい う立 場 で研 究 参 加 を依 頼 した。 協 同 研 究 者 は,軟 骨 無 形 成 症(Achondroplasia)を もち,既 婚 で,す で に 1人 以 上 の 子 ど もを得 て お り,現 在 妊 娠 して い な い女 性 と して 研 究 依 頼 を行 った 。 軟 骨 無 形 成 症 は長 骨 骨 端 部 の軟 骨 化 骨 障 害 で あ る。 知 能 や 寿 命 は平 均 的 で あ る が,幼 児 期 に脊 椎 圧 迫 や 上 部 気 道 障 害 の た め,死 亡 す る とい う リス ク が あ る。 常 染 色 体 優 性遺 伝 形 式 で 遺 伝 す るが, 約80%が 正 常 の両 親 か ら出 生 す る新 生 突 然 変 異 で あ る(Gene Reviews,2003;Harper,1998)。 罹 患 者 と そ う で な い者 同 士 の結 婚 で 生 まれ る子 ど も は,50%が 同 じ軟 骨 無形 成 症 を も ち,50%が 正 常 とな る。 四 肢 骨 の 長 軸 の 発 育 不 良 とな るた め,低 身 長,バ ラ ン ス が 悪 い四 肢 で あ り,短 く湾 曲 して 見 え るのが 特 徴 で あ る。 頭 蓋 底 の発 育 が 悪 い た め, 前 額 は突 出 し,鼻 根 部 が偏 平 とな る。 治 療 方法 に は,脚 延 長 術 に よ る身 長 の 獲 得,ホ ル モ ン投 与 が あ る(梶 井,1998)。 2)デ ー タ 収 集 期 間 2002年8月1日 ∼11月8日 48 日本 助 産学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12)
女 性 に とって遺 伝 的特 質 を引 き継 ぐこ との意味 3)デ ー タ収 集 の 方 法 デ ー タ収 集 は非 構 成 的 な面 接 方 法 と し,協 同研 究 者 が 語 るペ ー スに あわ せ た。 面 接 内容 として は, 対 象 者 が 自 由 に語 る こ とを優 先 す るが,協 同研 究 者 の 語 りを引 き出 す た め以 下 の点 を重 点 的 に聞 い た;(1)自 分 自 身 の 身体 的特 質 に関 す る気 づ き と歩 み に つ い て;(2)結 婚,出 産,子 育 て の 道 程 につ い て:(3)当 事 者 か ら見 た社 会,社 会 の 中 の 自分 につ い て 。 また,自 己 の遺 伝 子 を子 ど もに引 き継 ぐこ と を どの よ う に と ら えて い るの か 。 デ ー タ収 集 の た めの面 接 は4回 行 い,確 認 を要 す る点 につ い て補 足 的 に再 面 接 を1回 行 った 。 面 接 場 所 につ い て は協 同研 究 者 が希 望 す る場 所 と し た 。 4)デ ー タの 分 析 方 法 Giorgiの 提 唱 した 方 法 は,1)体 験 の全 体 的 記 述 を読 む こ とに よる全 体 の意 味 の把 握,2)記 述 の 再 読,3)構 成 素 と呼 ばれる体 験 の推 移 単 位 の明確 化,4)そ れ らの構 成 素 を相 互 間 で,ま た全 体 に対 し連 関 させ る ことによ る意 味 の明 確 化,5)主 体 の 具 体 的 な言 語 に よる構 成 素 につ いての 反省,6)そ の 具 体 的 な 言 語 を研 究 者 の 言 語 な い し概 念 へ の 変 換,7)洞 察 と体 験 の意 味 の記 述 的構 造 との統 合 お よ び総 合 が 含 まれ る(Giorgi,1970/1981e)。 5)デ ー タの 信 頼 性 の 確 保 研 究 者 は,「 軟 骨 無 形 成 症 」 の 特 質 を も ち な が ら生 き る人 び とを よ り深 く理 解 す るた め に,当 遺 伝 性 疾 患 を もつ親 と当事 者 が 集 う会 の 一 地 方 支 部 の活 動 に研 究 開始 の3年 前 か ら関 与 した。 親 や 当 事 者 た ち との交 流 に参 加 し,健 康 や 生 活 上 の課 題 に つ い て共 に考 え た。 調 査 を始 め るに あた り,心 理 学 方 法 論 の教 員 の も とで調 査 面 接 法 の トレー ニ ン グ を受 け,面 接 内 で研 究 者 が協 同研 究 者 の語 り を恣 意 的 に誘 導 し,歪 ん だ デ ー タ を収 集 して い な いか 確認 を受 けた 。 デ ータ分 析 におい てはスーパ ー ビジ ョ ンを受 け る こ と を通 して,研 究 者 が協 同研 究 者 に対 す る公 正 さ を保 ち,得 られ た情 報 の妥 当 性 を図 っ た。 協 同研 究 者 に は,ま とめ た体 験 の記 述 に誤 りや加 筆 修 正 を要 す る点 を確 認 し,修 正 を 行 った 。 3.協 同研 究者 へ の倫 理 的 配慮 本 研 究 で は協 同研 究者 の プ ライバ シーへ の配 慮, お よび 本 研 究 が 協 同研 究 者 の 心 理 的 侵襲 とな る こ とを防 ぐ こ とに留 意 す る必 要 が あ る。 協 同研 究 者 に理 解 を求 め同 意 を得 る上 で,文 書 と口 頭 に よ り, 研 究 目的 と方 法,協 同研 究 者 の 心 身 の負 担 へ の 配 慮 す る こと,研 究 協 力 の 撤 回 が 自由 にで きる こ と, 協 同 研 究 者 の プ ラ イ バ シ ー の保 護,協 同 研 究 者 に 生 じ る不 利 益 や 危 険 性 を 回避 す る こ と,研 究 結 果 の 公 表 につ い て説 明 した。 説 明後,約1週 間 の猶 予 を置 き,研 究 協 力 の意 思 を確 認 した 。 なお,本 研 究 は聖 路 加 看 護 大 学研 究 倫 理 審 査 委 員 会 の 審 査 を受 け,2001年4月16日 お よ び2002年 11月25日 に承 認 され た。 V結 果 本 研 究 の結 果 と して,ま ず協 同 研 究 者Fさ ん か ら提 供 され た面 接 デ ー タ と資 料 を も とに,再 構 成 した体 験 を記 述 した。 これ は,Fさ ん 自身 が 語 っ た 言 葉 を精 緻 に記 述 す る こ と を 目的 と した過 程 で あ る。 その 次 に,Fさ ん の体 験 に関 す る研 究 者 の 解 釈 を加 えた 。 これ は,研 究 者 が協 同 研 究 者 の語 りに忠 実 に再 構 成 した もの に加 えて 。 そ の体 験 の 十 分 な理 解 を 目指 す た め に,何 が 「生 き られ た体 験(lived experience)」 の本 質 を構 成 して い るの か を考 察 す る た め に行 わ れ た もの で あ る。 な お, 最 終 的 に,体 験 の記 述 はFさ ん 本 人 の確 認 と了解 を得 なが ら作 成 した。 1.Fさ ん の体 験 Fさ ん は,夫 と20代 の 娘 さん の3人 暮 ら しで あ る。Fさ ん は,趣 味 はス ポ ー ツ,イ ン タ ー ネ ッ ト と活 動 的 な 女性 で あ る。Fさ ん 自身 と娘 さん が 軟 骨 無 形 成 症 で あ る。Fさ ん の 両 親 や そ れ まで の 家 系 に軟 骨 無 形 成 症 無 形 成 症 の 人 は お らず,新 性 突 然 変 異 と考 え られ る。 こ こで は,Fさ ん の 幼 少 期 に体 が 小 さい こ と を 自覚 した 体 験 に始 ま り,学 校 時代,就 職,結 婚,出 産,子 育 て,親 の 会 活 動, 当事 者 と して の 自主 活 動 を通 じた体 験 に つ いて 記 述 す る。 1)母 が 姉 と弟 を す り替 え る 幼 児期 か らFさ ん の低 身 長 としての経 験 が 始 まっ た 。Fさ ん の 母 親 は,Fさ ん よ り2歳 年 下 の弟 が Fさ ん の背 を追 い越 した こ とにつ い て,「 男 が 女 よ 日本 助 産学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12) 49
女 性 に とって遺 伝 的 特 質 を引 き継 ぐ ことの意 味 り大 き い の は 当然 」 と伝 え て き た。 同 時 にFさ ん が 弟 の名 前 を呼 び 捨 て にす る こ とや,弟 がFさ ん を 「お姉 ち ゃん 」 と呼 ぶ こ とを禁 じて い た 。 Fさ ん に よれ ば,母 親 はFさ ん の体 型 を 「異 常 な ほ ど」 認 め て お らず,Fさ ん の よ うな 身 体 の 子 ど もを産 んだ こ とは 「信 じられ な い」,「消 した い 」 事 実 だ っ た 。 だ か ら小 さ い ほ うが お姉 ち ゃん とい う こ とを世 間 に見 せ た くなか っ た。Fさ ん の 母 親 は,街 で小 さい人 を見 か け る と,必 ず 「ほ ら,あ の人 も小 さい よ」 とFさ ん に教 え て い た と言 う。 そ れ に 対 し てFさ ん は 「む か つ く,だ か ら何 な の?」 と思 い な が ら も 「私 よ りは大 きい 」 と思 っ て見 て い た 。 Fさ ん は結 婚 後,夫 の 「なぜ 弟 はFさ ん を"○ ○ ちゃん"と 呼 ぶの か」,「普 通 は"お 姉 さん"じ ゃ な い の か」 と投 げか け られ て,こ れ らの体 験 を思 い 出 した と言 う。 そ し て夫 か ら 「そ れ は姉 弟 をす り替 えて い た ん だ よ」 と言 わ れ,初 め て 気 づ い た と言 う。母 親 に よ る姉 と弟 のす り替 え に 気 づ い た 時 の こ と を,一 種 の"ト ラ ウ マ"とFさ ん は語 っ た。 2)「 小 さ さ」 を意 識 す る 小 学 生 時代,Fさ ん は背 が 低 か っ た が 「周 囲 と の差 」 を感 じて い なか っ た。 周 囲 との差 に気 づ い た の は小 学校5年 生 ぐ らい だ っ た。 そ してFさ ん が最 も 「小 さ さ」 を意 識 した の は,教 習 所 で 自動 車 に乗 った 際,ブ レー キ に足 が 届 か なか った 時 だ っ た 。 「あ の時 に 『私 はす ご くチ ビな んだ,足 が短 い ん だ』 と意 識 し ま したね 。『な んだ,車 の免 許 も取 れ な い の?』 と同 級 生 に言 わ れ た の が 奮起 した き っ か けみ た い な もの で した』 高校 時 代 までFさ ん は身 長 が 伸 び るた め の治 療 を受 けた 。 「い つ か は大 き くなれ るか も しれ な い 」 とい う期 待 も あ っ たが,16歳 の 時 に レ ン トゲ ン写 真 を見 た医 師 か ら,「 もう成 長 関 節 の所 が 閉 じて い るか ら,こ れ で 伸 び な い」 と説 明 され た 。 3)自 分 の 特 質 を障 害 と認 め る (1)就 職:初 め て障 害 に つ い て 考 え る 高 校 を卒 業 しFさ ん はタ イ ピス トの資 格 を取 り, 印刷 会 社 に 就 職 し た。Fさ ん は 高校 卒 業 時,中 学 時 代 の 担任 教 師 か ら就 職 段 階 で 身 障 手 帳 が あ っ た ほ うが よい と ア ドバ イ ス された こ とが き っか け で, 身 障 手 帳 に つ い て考 え た 。 「『先 生 は私 を こ う い う ふ う に見 て い た のか 』 とち ょっ と思 い ま した 」。 し か し 申請 の段 階 で は機 能 障 害 が な い た め審 査 の 対 象 にな らな か った 。 就 職 の 際 に 問題 に な る こ とは,手 が 届 か な い 場 所 が あ るか,普 通 自動 車 の 免 許 が必 要 か,だ った。 今 も軟 骨 無 形 成 症 の 子 ど もた ち の親 や 本 人 た ち が 最 初 に突 き当 た る壁 が,「 就 職 先 が な い 」 と気 づ い た段 階 で あ り,Fさ ん の場 合 もそれ に 似 た 状 況 が あ っ た と言 う。 (2)身 障 手 帳 と運 転 免 許 を取 得 す る Fさ ん は上 京 した 理 由 を,「 田舎 か ら逃 げ たか っ た の か も しれ な い 」 と語 っ た 。 当 時,地 元 で は 自 動 車 免 許 取 得 を あ き ら め て い た が,東 京 で は障 害 を もっ て い て も 自動 車 免 許 が取 れ た し,上 京 後, 身 障手 帳4級 を取 得 した 。21歳 だ った 。Fさ ん は 身 障手 帳 を も らっ た 後 は,就 職 先 も見 つ か り,車 の免 許 を取 る費 用 も一 部 受 け る こ とがで き,「 身 障 手 帳 に よ っ て良 い こ とが い っ ぱ い あ っ た」 と感 じ た と言 う。 Fさ ん 自身 は何 も変 わ っ てな い の に,(身 障)手 帳 を保 持 した こ とに よって 周 りが 変 わ った と言 う。 「こ の社 会 で生 きて い くに は手 帳 が あ れ ば い ろ ん な 面 で優 遇 され て,助 か る とい う こ とが わ か った 。 また手 帳 を持 っ て い る 自分 と,手 帳 を持 っ て い な い 自分 は こん な に も差 別 とい うか 区 別 が あ るん だ とわ か った」 と語 る。 そ して,「 私 はち ゃん と した 障 害者 。 や っ と国 か ら認 め られ た 障 害 者 なん だ わ 」 と受 け止 め た。 自 分 を障 害 者 と認 め る か否 か に か か わ らず,病 気 を 治 せ な い 国 が 自分 の た め に この よ うな 慰 謝 料 と して 制 度 を与 え て い る の だ と考 え た 。 「『病 気 』 と言 うん だ っ た らい つ か は 治 る こ と を期 待 し ます 。 けれ ど も治 らない の だ か ら 『障 割 な ん で す よね 」 と言 う。 さ ら に,そ れ まで 「とに か く頑 張 れ 」 と いわ れ て 続 け て きたFさ ん は 「な ん だ,頑 張 らな くて も … … 」 と思 えた と言 う。 頑 張 ら な くて も身 障 手 帳 を取 得 した こ と に よ っ て就 職 で き,車 の 免 許 を取 得 した。 そ して福 祉 によ って経 済 的 に少 し楽 に な っ た 。 「よ く 『手 帳 を も ら っ て精 神 的 に落 ち 込 ん だ』 と聞 くん で す けれ ど私 は安 定 し ま した ね 。 私 は そ れ まで 体 型 が 違 う の に皆 と同 じよ う に頑 張 らな け れ ば な らな か っ た わ け で す 。 今 まで の 苦 労 が き ち 50 日本助 産 学 会誌 第18巻 第2号(2004.12)
女性 に とっ て遺伝 的 特質 を引 き継 ぐ ことの意 味 ん と正 当 な苦 労 と して認 め られ た と感 じま した 」 と言 う。 身 障手 帳 は必 要 な 時,す な わ ち役 所 で サ ー ビ ス や福 祉 を申請 す る時 や就 職 時,そ う い う時 に提 示 す る もの で あ る。会 社 の 同 僚,学 校 の 同 級 生 に見 せ る必 要 も一 切 な い。 「同 じ病 気 の人 の 中 には身 障 手 帳 を も ら った段 階 で 障 害 者 に な った みた い と言 う人 もい る けれ ど,元 々 何 も変 わ って い な いん だ か ら」 と言 う。 4)結 婚 と出 産 Fさ ん の 身 近 な 親戚 に2人,戦 争 障 害 者 で 片腕 が ない人 と,足 が不 自由 な人 が いた。2人 ともず っ と独 身 で,そ れ ぞ れ の 実 家 で 生活 して い た 。 そ う い う彼 ら を見 てFさ ん は 「普 通 で な か った らず っ と家 に居 な けれ ば な らな い」,ま た家 族 や他 人 か ら 「弟 の 結 婚 の邪 魔 」,「背 が低 いか ら自分 の結 婚 相 手 が見 つ か らな い」 と言 わ れ るの で は な い か と考 え て い た。 そ して,と に か く早 く結 婚 して,他 人 が 干 渉 す る田 舎 を出 て行 こ う と考 えて いた 。 そ の後, 障害 をテ ー マ に した サ ー ク ル に参 加 し夫 と出会 っ た。Fさ ん の夫 は聡 明 で,な お か つ 自動 免 許 を取 得 し車 の運 転 も して お り,当 時Fさ ん は驚 い た と 言 う。 (1)結 婚 前 に身 体 的 特 質 の 遣 伝 性 を問 う Fさ ん は結 婚 前 に地 元 の病 院 で,背 が 低 い こ と が遺 伝 す る か を知 ろ う と した 。 当時 ま だ軟 骨 無 形 成 症 の遺 伝 子 は特 定 され て お らず,Fさ ん に よ れ ば医 師 が 行 っ た検 査 は染 色 体 検 査 だ っ た よ うだ。 異 常 な し とい わ れ,Fさ ん は 「子 ど もは ま と もに 産 め る ん だ」 と考 え て い た と言 う。 一 方,夫 は結 婚 前 か らFさ ん の低 身 長 は子 ど も へ の遺 伝 が あ り うる と思 っ て いた が,Fさ ん に は そ の こ とを伝 え な か っ た。 夫 は仮 に遺 伝 した と し て も同 じ病 気 や 障 害 だ っ た ら育 て られ る と考 え て いた ので,夫 婦 間 で妊 娠 に関 して特 別 な問 題 は な か った 。 (2)出 産 後 に 自分 の 特 質 が 遺 伝 す るこ とを知 る 娘 のGさ ん へ の遺 伝 がわ か った の を知 った の は, 産 後1か 月健 診 時 だ った 。 「診 察 を最後 に回 され た 挙 句,お 子 さん の 手 足 が ち ょっ と短 い よ う な気 が す る ん です と言 われ て,次 の検 査 を予 約 し ま した 。 と りあ えず は家 に帰 って か ら,ダ ンナ の 会 社 に電 話 を掛 け ま した 。 そ して 『遺 伝 して い る っ て。 ど う し よ う』 と言 っ た ん で す よ。 『ど う し よ う』 と 言 っ た の は覚 えて い る ん で す が,そ の 時 の こ と を よ く覚 え て な い ん で す よね 。 夫 は 思 わ ず 『や っ ぱ り?』 と言 い そ う にな って,そ の言 葉 を飲 み こん だ と言 うん で す よ」 と言 う。 Fさ ん はGさ ん の遺 伝 を知 っ た翌 日か ら母 乳 分 泌 が 止 まっ た。 「な ん とな く夢 に描 いた の が ガ ラガ ラ ガ ラ ッ と崩 れ た」 と言 う。Fさ ん は,「 私 は こ う い う体 型 だ け ど,普 通 の人 と結 婚 で きるの よ」,そ し て 「私 は こ うい う体 型 だ け ど も普 通 の子 ど も を 産 んで ち ゃ ん と育 て られ るの よ」 と思 っ て い た。 しか し夫 は障 害 者 で あ り,子 ど も に は 自分 の体 型 が 遺伝 した 。 「両 方 と も こ とご と く,な ん か180度 回転 して し ま っ て。 そ ん な もん な ん だ な あ,と 思 い な が ら,生 活 が楽 だか らい いか な,と も思 った 」 と言 う。 Fさ ん は,`親 の会'に 連 絡 を し,そ こで病 気 の こ と を詳 し く学 ん だ 。Fさ ん 自身 の母 子健 康 手 帳 に は 「胎 児 性 軟 骨無 栄 養 症 」 と記 され て い た が, 病 気 の特 徴 とFさ ん 自身 の特 徴 が違 っ た の で,こ の病 名 を信 じて い なか っ た。 「医 学 書 に何 と も言 え な い奇 妙 な体 型 の 赤 ち ゃ ん の写 真 が載 っ て ます で し ょ。 『私 は こん な ん じゃ な い わ 』 と思 い なが ら。 で も娘 を見 る とその まん まだ か ら。 じゃあ,『 この 子 だ けが 病 気 な の か し ら?』 とか,『 私 の 遺 伝 子 じゃ な い わ』 とか,『 お 父 さ ん の ほ うの 遺 伝 子 よ』 とか,『 じゃあ,こ の 子 は突 然 変 異 だ 』 とか ね。 そ ん なふ うに 言 った こ と もあ りま した ね 」。 その 後5 年,10年 と過 ごす うち に,Gさ ん の顔 が 医 学 書 の 特 徴 的 な顔 か らだ ん だ ん 家 族 に似 て きた こ と と, 身 長 が 伸 び な い こ と を確 認 し,Fさ ん 自 身 と同 じ 病 気 で は な い か と感 じ る よ う に な っ た。 またFさ ん は よ く娘 と 自分 の 手 を重 ね て 指 の 大 き さ を比 べ た り,足 の長 さ を比 べ た り した 。Gさ んが 生 まれ た 当初 「お母 さん よ り重 度 で す ね 」 と 言 われ た言 葉 が 引 っ掛 か って い た と言 う。 身 長 だ け を見 れ ばGさ ん の ほ うが5cm低 く重 度 か もしれ な い。 しか し 「知 能 を見 た らあ の子 の ほ うが 高 い。 学 歴 も上 だ し,英 検 もち ゃん と準2級 まで取 った」, 「結 果 と して どち らが 重 度 な の かわ か らな い」 と言 う。 5)同 じ特 質 を もつGさ ん の 子 育 て Fさ ん はGさ ん に,皆 と仲 良 くす る こ と,意 思 日本助 産 学会 誌 第18巻 第2号(2004.12) 51
女 性 に とって遺 伝 的 特 質 を引 き継 ぐ こ との 意味 表 示 は は っ き りす る こ と を教 え て育 て て きた 。 こ の2つ はFさ ん が これ まで 生 きて きた経 験 上 最 も 重 要 な こ とだ っ た。Fさ ん に よれ ば,現 在 は障 害 児 教 育 な ど しっ か り して きて お り,障 害 を理 由 に い じ め る とい うの は あ ま りな い。 む しろ必 ず だ れ か が 手 助 け を し て くれ た。Fさ ん もFさ ん の 夫 も 障 害 者 だ け ど,い じめ られ た 経 験 は な い。 結 果 的 にGさ ん は周 囲 の人 び との 支 援 に よ り,保 育 園 も 小 学校 も問 題 な く進 め た と言 う。 (1)生 きて き た経 験 を生 か す Fさ ん は,娘 のGさ ん に は軟 骨 無 形 成 症 とい う 疾 患 につ い て 正 し く教 え よ う と考 えた 。 そ して 自 分 の よ う に 「何 事 に も他 人 と同 じ よ う にす るた め に頑 張 る」 よ う,生 きな くて よい こ と を伝 え た。 「小 さ いだ け じゃ な い,ち ゃ ん とした 病 気 な ん だ 」 と伝 えた 。Fさ ん の 時 代 は普 通 に体 育 の 授 業 も受 け て い た が,現 在 で は軟 骨 無 形 成 症 で あ る とい う 診 断書 に よ って免 除 され る体 育 科 目 も増 えて きた 。 「例 えば皆 が4周 走 るん だ った ら2周 に して,皆 が 10分 走 っ て い るの と同 じ10分 間 だ け走 る,と か 。 同 じ距 離 を走 っ た ら20分 ぐらい かか りますか らね 」 と言 う。 (2)た く さん の 人 び と に 自分 を知 っ て も ら う 軟 骨 無 形 成 症 で あ る 自分 を知 らせ る こ とは,将 来 友 人 た ちが社 会 に 出 た時 に,「 ク ラ ス にあ あ い う 子 が い た」 とい う経 験 を し,当 事 者 に対 して 「何 を し て あ げ るた ら よいの か 」,ま た 「何 も しな くて もい い ん だ」 とい うこ とを知 る きっか け に もな り, 親 しみ,近 づ きや す くな る。 Gさ ん の学 校 の方 針 は,ク ラ ス替 え を通 して 固 定 した 友 人 関 係 に な らな い よ う に仕 向 け,Gさ ん が 新 し い友 だ ち を作 り,多 くの 人 と仲 良 くな る機 会 を作 り,結 果 的 に 多 くの 子 ど もた ちがGさ ん に か か わ った 。 (3)自 立 に向 け て:経 済 的 自立 の 準 備 を す る Fさ ん は,娘 が 経 済 的 に 自立 で き る条 件 を整 え る こと を重 視 した。 「仮 に独 身 で いた 場 合 で も,仕 事 を もっ て な き ゃ生 活 の基 盤 が な い 。 しか し会 社 経 営 す る わ け で もな い の で,通 勤 す る こ と に な る」。 そ の よ うな場 合,今 の就 職 状 況 として障 害 者 で あ っ た と して も,大 卒 で あ る こ と,公 共 の 交 通 機 関 を使 え る こ と,移 動 手 段 と して の 普 通 免 許 が 必 要 と考 え て い た 。 そ して これ らを取 得 す る た め に は,あ る程 度 の 身 長 に到 達 す る必 要 が あ り,G さん に対 して は いず れ脚 延 長 術 を受 け る よ う仕 向 け て きた と言 う。 脚 延 長 術 に つ い て だ け は,Gさ ん 自身 の'選 択' の余 地 は な く,'絶 対'受 け る よ う に伝 え続 け た と 言 う。 しか し手 術 の時 期 は小 学 校 の時 点 で は怖 が っ た こ と と,Gさ ん 自身 が 今 の 生 活 を変 えた くな い た め,大 学 入 学 後 と決 め た。Fさ ん の 見 通 しで は Gさ んが 膝 上,膝 下 を双 方 伸 ばせ ば大 体140cmに 到 達 す る は ず だ っ た。140cmに まで伸 びれ ば 自動 車 免 許 を取 得 しや す くな る こ と と,電 車 の 吊 り革 も届 く よ うに な り,Gさ ん は もっ と気 楽 に移 動 で き る よ うに な る。 (4)自 立 に 向 けて:助 け合 え る友 人 を もつ 軟 骨 無 形 成 症 の 管 理 は,決 し て小 児 科 だ け で は な い 。 加 齢 に伴 う腰 痛 や膝 痛 な ど の さ ま ざ まな症 状 につ い て も対 応 し な け れ ば な ら な い 。 それ は例 えば 女 性 の生 理 不 順 や 更 年 期 障 害 と同様 で あ る。 そ うい う場 合 の相 談 は,親 だ け で な く友 人 同 士 で 解 決 して ほ しい と言 う。 例 え ば 「(身体 の トラ ブ ル に対 して),そ うい う 時 に は,こ う い う病 院 が 良 い」 と紹 介 しあ う関 係 の 同 じ世 代 の友 人 が必 要 だ と言 う。 「いか に友 人 を た く さん 作 って 生 きて い くか,で し ょう。 た とえ 結 婚 しな い と して も,友 達 が い て楽 し くや れ ば い い。 そ れ は別 に軟 骨 無 形 成 症 同 士 とい うわ け じ ゃ な くて,い ろ ん な方 とね 」 と言 う。 6)親 の会 活 動 に携 わ る Fさ ん は,出 産 後 は ど う育 て て よい か わ か ら な い,親 の 会 に行 け ば教 えて くれ る人 が い る だ ろ う と考 え,産 後 し ば ら く して 入 会 した 。 Fさ ん に よれ ば,会 に は軟 骨 無 形 成 症 を もつ 子 ど もを 出産 した 親 が 入 会 す るわ け だ が,子 ど もが 中 高 生 に な る と,親 も一 段 落 し て脱 会 す る。 そ の 後,子 ど もが 結 婚 し,同 じ障 害 を もつ 子 ど も を出 産 した 時 に 入 会 … … とい う循 環 で'親 の 会'が 存 在 し て い る。 当事 者 の 中 に は 「自分 自 身 と同 じ体 型 を見 た くな い 」,「鏡 を見 て い る よ うで 嫌 だ 」 と い う理 由 で入 会 し な い人 もい る。 (1)子 ど もた ち の 症 状 の 多 様 さ を知 る Fさ ん は,`親 の 会'に 入 会 し,ま ず 軟 骨 無 形 成 症 に つ い て勉 強 した。Fさ ん と同様,軟 骨 無 形 成 症 当 事 者 の親 で あ っ て も,す で に症 状 は軽 減 し, 52 日本助 産 学会 誌 第18巻 第2号(2004.12)
女性 に とっ て遺伝 的 特質 を引 き継 ぐ ことの意 味 自分 自身 の こ とは解 決 済 みで あ り,普 通 に生 活 し, 普 通 に家 庭 を営 ん で い る。 そ の た め,子 ど もを育 て る段 階 で,小 児 期 に特 有 の 中 耳 炎 な ど軟 骨 無 形 成 症 を もつ子 ど もの症 状 を忘 れ て 戸 惑 う場 合 が あ る。Fさ ん 自身 も忘 れ て い た が,Gさ ん を育 て る 段 階 で改 め て理 解 した こ ともあ った 。 (2)悩 み は繰 り返 され る 軟 骨 無 形 成症 の子 ど もの親 の悩 み は,共 通 して い る。4月 にな れ ば入 学 式,そ して ラ ン ドセ ル, 秋 に な れ ば運 動 会,子 ど もの 思 春 期,会 の 創 立 以 来20年 もた って も同 じ こ とが 話題 に出 て い る。 結 局,親 が 悩 む こ とは共 通 して い るの で 先輩 的 な 親 が ア ドバ イ ス を して い る。 実 際 に イ ンタ ー ネ ッ ト 上 で行 わ れ て い る親 の相 談 内容 を見 て も,相 談 者 の親 た ち は1∼2年 程 度 の先 輩 の親 が ア ドバ イ ス して くれ る こ と を求 め て お り,す で に成 長 した 子 ど もの親 に求 め て い る ア ドバ イス は ほ とん どな い。 自分 の子 ど もが大 き くな っ た時 に あ の程 度 な の か と思 い シ ョ ック を受 け,来 な け れ ば よか っ た と い う親 もい る。 会 に入 っ て情 報 を得 る メ リ ッ トも あ る反 面,将 来 が見 え て し ま う とい うデ メ リ ッ ト もあ る と言 う。 例 え ば軟 骨 無 形 成 症 の人 の体 型 は 四肢 が 短 くア ンバ ラ ンス で あ る。 しか し 「小 さ い」 とか 「背 が 伸 び に くい」 と認 識 して い る親 が'親 の会'に 来 て初 めて成 人 会 員 に 出会 い,驚 くこ とが あ る。 (3)当 事 者 で あ る親 と して相 談 を受 け る 親 の会 でFさ んが 電 話 で相 談 を受 け始 め た ころ は,Fさ んが 当事 者 だ と知 らな い相 談 者 が 多 か っ た。Fさ ん は 自分 の こ とを軟 骨 無 形 成 症 だ と知 ら ず に話 して い る相 談 者 に対 し,あ え て普 通 の親 の フ リを して い た。 なぜ な らば,当 事 者 で あ り,親 で あ る とい うFさ んの 存 在 は,何 も知 らな い相 談 者 が 「軟 骨 無 形 成 症 が遺 伝 性 疾 患 で あ る こ と」 を 知 る き っか け に な るか らで あ る。Fさ ん と して は 遺 伝 の こ とを知 らな い状 態 で 遺 伝 の こ とを伝 え て はい けな い と考 えた のだ 。 Fさ ん が 当 事 者 で あ る と知 る と,相 談 内 容 が 変 わ る と言 う。 治 療 や 学 校 につ い て は医 師 や ボ ラ ン テ ィア に も相 談 で き るが,結 婚 相 談 につ い て はF さん が対 応 して きた 。 (4)健 常者 の 親 た ち は子 どもに頑 張 らせ たい と願 う Fさ ん に よれ ば,子 ど も は1回 頑 張 る と頑 張 り 通 して し ま う。 しか し親 の 意 向 に 応 え よ う と頑 張 り続 け て も,子 ど も に は負 担 が 大 きい 。 途 中 で頑 張 る の を や め る の は挫 折 感 に な り,す ご く悔 しが る こ とに な る。 しか し,Fさ ん の親 の み な らず, 多 くの健 常 者 の親 は軟 骨 無 形 成 症 の疾 患 の 特 性 が 明 らか に な りつ つ あ る現 在 で あ っ て も,子 ど も に で き るか ぎ り頑 張 っ て ほ しい と願 う。 どこ まで 頑 張 らせ る の か とい う点 に お い て は, 軟 骨 無 形 成 症 当事 者 で あ る親 と,健 常 者 の親 の 間 で 対 立 が あ った と言 う。 しか し若 い 新 会 員 の親 た ち は,最 初 か ら身 障 手 帳 に つ い て も学 ん で お り, 子 ど もた ちの こ とや 障 害 につ い て拒 否 して お らず, そ の ま まの 体 型 で 育 て る と思 う人 び と も多 い。F さん も こ うい う親 に育 て られ た子 ど も は伸 びや か に育 つ だ ろ うな と思 っ て い る。 Fさ ん に は当 事 者 の子 ど もた ち が 素 直 す ぎ る よ うに見 え る。 実 際 子 ど もた ちや 若 者 は,親 に気 を 遣 っ て い るが,本 人 が い ち ば ん大 変 だ ろ う とFさ ん は思 っ て い る。 「親 は見 た 目 を気 に して い るだ け」 と言 う。Fさ ん は本 格 的 な 当事 者 団体 を作 ろ う と した が 実現 で きな か った 。Fさ ん は 「社 会 の 人 び と との交 流 もで きて,世 間 に う ま く溶 け込 ん で い る人 は そ れ でOKで す よね 。 で も溶 け込 んで い な い人 は よ り潜 ん じ ゃ っ て引 き こ もっ て い るの か な あ」 と言 う。 (5)親 との 壁 を感 じ る 親 の会 で は,軟 骨 無 形 成 症 の子 ど も を 「普 通 の 体 型 」 に しよ う とす る考 え と,「 あ りの まま」 の 姿 で よ い とす る考 えが 対 立 した 。Fさ ん に は'親 の 会'の 親 た ち は,当 事 者 が 同 じ病 気 の 子 ど も を産 む こ とを否 定 的 に見 て い た と感 じた。 「× ×さ ん に 第2子 誕 生,健 常 なお 子 さん で した,お め で とう」 と会 報 に載 っ た こ と もあ っ た 。 健 常 で良 か っ た と な るが,そ れ で は第2子 も軟 骨 無 形 成 症 だ った ら なん と書 くの か。 そ うい う小 さな こ とで引 っ掛 か っ た と言 う。 またFさ ん は,親 も当 事 者 も,骨 延 長 術 を含 めた 医 療 そ の もの に対 し て,な ぜ そ れ をす る か とい う点 が 曖 昧 な ま ま進 み す ぎ て い る と感 じ て い た。 例 え ば,親 は,子 ど もの 背 を高 くして 普 通 の体 型 に しよ う とす る,足 を手 術 して 背 が 高 く な っ た人 を見 れ ば,次 は腕 とい う人 が 出 て くる。 で も手 術 を す る か否 か は本 人 ま た は本 人 の 家 族 が 決 め る こ とで あ り,第 三 者 が い う こ とで はな い。 日 本 助 産 学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12) 53
女性 に と って遺 伝 的特 質 を引 き継 ぐこ との意 味 Fさ ん は,あ る親 の会 の 目 的 に 「当 事 者 の 気 持 ち は わ か るわ けが な い。 どの よ う に間 違 え な い よ う に子 育 て をす る か を導 くた め の 会 だ か ら,本 人 た ち の 気持 ち な んか わ か らな くて い い 」 と書 か れ て あ った の を読 んで 考 えた。 「本 人 た ち は本 人 た ち で 」 とい う形 を取 ろ う とす る。 この よ う な親 の会 で の企 画 は,親 側 の 志 向 とな り,当 事 者 の 存 在 が 邪 魔 に な る と思 った 。 そ して最 終 的 にFさ んは`親 の会'を 脱 会 した 。 (6)親 の 辛 さ と子 ど もの 辛 さの 違 い に 気 づ く 産 後 に子 ど もが こ の病 気 だ と知 ら され た 時 に悲 しむ親 は 多 い が,幼 稚 園 や 小 学 生 ぐ らい に 成 長 し て い る時期 にな っ て も泣 い て い る親 は少 な くな い。 姑 や 夫 に責 め られ た 昔 を思 い 出 して 泣 くの か も し れ な い。 しか し,Fさ ん は この子 の将 来 を悲 観 し て泣 くとい うの だ った ら,も っ と違 う こ と を考 え た ほ うが い い 。 泣 く と子 ど もま で 自 分 が い る こ と を悲 しむ と言 う。 だ か ら母 親 た ち に は は っ き り と 「あ なた は悪 くな い」,「あ な たの 責 任 で はな い」 と 伝 える こ とが必 要 で あ る。 Fさ ん か らす れ ば,泣 きた い の は む し ろ本 人 た ち の ほ うだ と言 う。 「例 えば就 職 で 失 敗 し た とか, 小 学 校 で い じめ られ た,か け っ こで一 番 ビリにな っ ち ゃ っ た,山 に遠 足 に行 き たか っ た ん だ け ど も登 れ な か っ た,そ うい う悔 しい体 験 を い っ ぱ い して い くの は 本 人 た ち で あ っ て,親 が 泣 く必 要 は な い」。 親 は本 人 が 悔 しい こ とが あ った 時 にす べ て を 包 み込 ん で あ げ る よ うな 形 で,い か に導 くか が 重 要 で あ る。 そ こで 親 が 「あ なた は小 さい のだ か ら」 と言 うか,そ れ と も 「障 害 者 な のだ か ら」 と言 う か,「 他 の こ とで頑 張 りな さい 」 と言 うか は,個 々 の親 の考 え と して認 め られ る。 しか し,Fさ ん に とっ て は親 が 泣 く理 由 が わ か ら な い と言 う。 7)独 立 して,当 事 者 と して の 啓 発 活 動 を始 め る 2000年 にFさ ん は ホ ー ム ペ ー ジ を作 成 した 。 そ の 意 図 は`親 の 会'の 発 信 で は な く,当 事 者 の 声 を引 き出 して社 会 に発 信 した か っ た か らで あ る。 目的 は2つ あ り,1つ は軟 骨 無 形 成 症 当事 者 と し て,同 病 を もつ本 人 や 家族 に伝 え るべ き こ と を伝 え る。 電 話,手 紙 で の 問 い 合 わ せ は大 体 同 じ こ と の繰 り返 しで,時 間 も煩 わ し い。 それ な らば ホ ー ム ペ ー ジで 情 報 発 信 し見 た い人 だ けが 見 れ ばい い。 も う1点 は,医 療 機 関 や 学 校 関 係 者 に対 して この 病 気 を理 解 して も ら うた め に作 っ た 。 (1)自 分 の 体 験 か ら問 題 の 解 決 方 法 を提 案 す る Fさ ん は妊 娠 ・育 児 期 は腰 痛 に悩 ん で い た が, 運 動 を続 け,背 筋 の 筋 力 を つ け る こ とで 解 決 した と言 う。 他 の 軟 骨 無 形 成 症 の人 び との場 合,脊 椎 や 腰 部 に 支 障 を来 す 場 合 が あ り,腰 痛 を訴 え る人 も多 い 。Fさ ん は か つ て'親 の 会'に 所 属 して い た ころ,栄 養 学 や ダ イ エ ッ トの た め の食 事 療 法 を 会 報 に載 せ る こ とを提 案 した が 「栄 養 が 摂 れ な く な って 背 が伸 び な くな る」 とい う反 応 が あ り載 ら な か っ た。 この よ うに適 度 な運 動 と食 事 のバ ラ ン ス につ い て掲 載 した 。 (2)当 事 者 の 本 当 の 問 題 が 見 え な くな る 結 果 的 に,当 事 者 か らの 提 案 は,そ れ ほ ど出 て こな か った 。 結 局 「見 られ るの が 嫌 」,「陰 口 を言 わ れ るの が 嫌 だ 」 と,そ れ だ け しか 当事 者 た ち は 言 って い な い。 軟 骨 無 形 成 症 は,外 出 して じ ろ じ ろ見 られ た と して も,1人 で 電 車 も乗 れ る,吊 り 革 につ か ま らな くて も ドア の所 に つ か ま って いれ ば何 とか な る,車 の 免 許 も手 動 運 転 装 置 で 取 ろ う と思 え ば取 れ る,本 当 に具 合 が 悪 くな っ た ら身 障 手 帳 の 対 象 に な れ る,皆 頑 張 って い る し,普 通 の 学 校 に行 っ て い る し,普 通 に暮 ら して い る の だ か ら全 然 問 題 な い。Fさ ん は,軟 骨 無 形 成 症 とい う 病 気 自体 か ら来 る悩 み が あ る の か 疑 い始 め た 。 8)自 分 自身 の 経 験 を伝 え て い く 最 初 の ホー ムペ ー ジ を始 め て す ぐ後 に,Fさ ん は2つ め の ホー ムペ ー ジ を立 ち上 げた 。Fさ ん の 個 人 史 的 で あ っ た。 これ は,娘 のGさ ん に 残 し て あ げ た い とい う思 い と,Gさ ん の パ ー トナ ー が こ の病 気 につ い て理 解 しや す い よ う に とい う思 い で 作 成 した 。Fさ ん の 考 え,Fさ ん の 体 型,Fさ ん に で きる こ とな どが 中 心 で あ る。 「写 真 を 見 て い く と,小 さ い時 の 顔 は100パ ー セ ン ト軟 骨 無 形 成 症 の 顔 な ん で す け ど,だ ん だ ん変 わ っ て きて い ます 。 実 は他 の親 に ち ょっ と希 望 を もた せ て あ げ よ う か な とい う意 図 が あ った ん で す 。 あ ま り軟 骨 無 形 成 症 独 特 の体 型 よ りも,ち ょっ とは希 望 を もって 『こ うい う体 型 にな れ る場 合 もあ る よ』 とい う感 じで 」 と言 う。 (1)治 療 に関 す る意 見 を書 く 軟 骨 無 形 成 症 の 低 身 長 に対 し て は,脚 延 長 術 と い う治 療 法 が あ る。Fさ ん 自身 も この 治 療 を選 択 54 日本 助 産学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12)
女性 に とっ て遺 伝 的 特質 を引 き継 ぐ ことの意 味 して受 け て きた。 そ の理 由 は 「身 長 を伸 ばす 」 で は な く 「下 肢 の変 形 を治 す 」 こ とだ った 。 身 長 が 10cm伸 び て も低 身長 で あ る こ とに は変 わ らない。 一 般 人 か ら見 れ ば120も130も 小 さ い 。 もち ろん, 延 長 手 術 をせ ず,今 の ま まで もい い と考 え る人 も た くさん い るが,そ れ は本 人 や 親 の 選 択 で あ る。 しか し,「脚 の変 形 」 が 治 る とい う こ とは全 然 違 い ます ね 。 ウ ィ ン ドウ を見 て,自 分 が0脚 で 傾 い て いた の が,結 構 ス ッ と真 っ直 ぐに歩 け る とい う の は全 然違 う。 だ か ら手術 とい う よ りも 『変 形 を治 した ほ うが い い 』 と勧 め て,も し その 変形 を治 す 時 に時 間 的 余裕 が あ った ら 『同 じ手術 方 法 で 治 る ん だ か ら延 長 もした ら?』 とい う感 じで す ね 。 だ か ら何 が 何 で も骨 延 長,10cm云 々 とい うの はナ ン セ ン スだ と思 うん で す よ」 と言 う。 (2)障 害 者 と健 常 者 との 関 係 につ い て 考 え る Fさ ん は,ス ポー ツ を通 して さ ま ざ まな 人 び と と交 流 して い る。 そ こ は障 害 者,健 常 者 は関係 な い。 しか し球拾 い は主 に健 常 者 の人 び とが して く れ る と言 う。 テ ニ ス を通 して 障害 者 と健 常 者 が共 同 して生 きて い る こ とを感 じてい る。 「テ ニ スの場 所 に健 常 者 が い ない と100%楽 しむ ことはで きない。 皆 が 障害 者 だ っ た ら大 変 だ な。 や は り障害 者 だ け じゃ生 きて い けな い し,そ の時 の健 常 者 は皆 『私 た ち も一 緒 に楽 しん で い る』 と言 っ て,特 別 に考 えな い で普 通 に接 して くれ て い ます。 テ ニ ス を健 常者 と一 緒 に して い る時,『 あ あ,人 生 楽 し い な』 と思 う」 と語 った 。 (3)親 が 決 して知 り えな い子 ど もの体 験 が あ る と 考 え る 障害 を も って い る子 ど もの 自立 を妨 げ る最 大 の 敵 が親 か も しれ な い。Fさ ん とGさ ん の場 合 は, 同 じ障 害者 同 士 だ か ら敵 に な らな い とい う。 しか し健 常者 の親 に は当事 者 の 経験 は見 えに く い。 例 えば どの 高校 に通 うか,通 勤 ラ ッ シ ュ を ど うす るか,車 の免 許 を取 るに して も障 害者 用 の所 に行 っ て手 動 運 転 装 置 で 取 らな き ゃな らな い 。 そ の よ うな さ ま ざ まな と こ ろで 屈 辱 的 に 「これ はで きる か?」 と言 わ れ て い る事 実 を親 は知 らな い 。 当 事 者 はそ の屈 辱 感 や 差 別 感 を十 分 に感 じて いる。 Fさ ん は,「 子 ど もは絶 対 親 には言 わな いか ら親 は 理 解 で き な い。 何 とな く 『苦 労 は して い るん だ ろ うな 』 と思 っ て い て も本 人 じゃ な い か らわ か らな い」 と言 う。 Fさ ん はGさ ん を育 て て きた 過 程 に つ い て,親 の 力 で な く,学 校 の 友 人,医 療 者,障 害 や 病 気 を もつ友 人,こ の さ ま ざ まな 人 との 出会 い とそ の 人 た ち の多 様 な人 生 に触 れ て,成 長 し た の だ ろ う と 語 る。 (4)Fさ んの 今 Gさ ん の進 学 の た び に小 さい 山 が あ り,そ れ ら を超 え て きたが,Gさ ん の脚 延 長 術 終 了 時 が,F さん の 子 育 ての ゴ ール と考 え て い る。 脚 延 長 術 が 終 わ った 時 点 で,本 人 自身 が生 き る う えで の選 択 の 幅 が 広 が る と考 え て い る。 現 在Gさ ん の 手 術 を 終 えて,リ ハ ビ リ期 に入 る。 大 学 は休 学 し来 年 復 学 を予 定 し て い る。Fさ ん は とに か く一 段 落 が つ い て い る状 態 だ と言 う。 「下 手 した ら 『お父 さん が 障害 者,お 母 さんが障 害 者,自 分 も障 害 者 』 で もっ と落 ち 込 ん だ か も し れ ませ ん 。 私 た ち の場 合 『まあ,い い か 』 の性 格 だ った か ら良 か った か な。 『本 来 これ っ てか な り悲 惨 な家 庭 な ん だ よね 』 と言 い な が ら何 事 も深 刻 に 悩 まな い で や って き ま した 」 と言 う。 Fさ ん は個 人 史 ホー ム ペ ー ジ に つ い て 「同 じ病 気 で子 ど も を産 ん で も福 祉 と環 境,友 人 関 係 で な か な か 良 い人 生 を送 れ る よ とい うメ ッセ ー ジ …… い ろい ろ詰 め 込 ん で あ り ます」 と言 う。 2.Fさ ん の 体 験 の 解 釈 次 に,軟 骨 無 形 成 症 を もっ て生 まれ たFさ ん の 体 験 の 記 述 を も とに行 った 解 釈 を述 べ る。 1)'新 生'者 と しての 苦 悩 の 意 味 Fさ ん の両 親 は軟 骨 無 形 成 症 罹患 者 で は な く, Fさ ん は新 生 突 然 変 異 とし て 出生 した 。 当 然,近 親 者 に低 身 長 を示 す 者 は い な か っ た。 幼 少 期 な ら 親 が性 差 を理 由 に姉 と弟 の 立 場 を 「す りか え て」 低 身 長 を隠 す こ とは可 能 か も しれ な い 。 しか し, 同 級 生 との 身 長 差 は拡 大 し,や が てFさ ん 自身 が 気 づ く時 が 来 る。Fさ ん の場 合 も10代 を迎 え る こ ろ に は,自 分 が 低 身 長 で あ る こ と を 自覚 した 。 他 者 との差 に気 づ く もの の,Fさ ん は親 か ら健 常 者 と'同 等 で あ る'こ とが期 待 にされた 。 身 長 差 が拡 大 す る に従 い,そ れ 補 うた め の 労 力 は増 大 す るが,Fさ ん の 特 質 を 「異 常 な ほ ど に認 め て い な い 」母 親 か ら他 の 人 と同 じ よ う に頑 張 る こ とを期 日本 助 産学 会誌 第18巻 第2号(2004.12) 55
女性 に とっ て遺伝 的特 質 を引 き継 ぐ こ との意 味 待 され続 け,学 校 生 活,家 庭 生 活,治 療 に お い て 努 力 を続 け て きた 。 皆 と同 じ こ とが で き な い こ と は,「 障 害 」 を意 味 す るので あ り,母 親 に とっ ては Fさ ん の 「特 徴 的 な体 型 」 と 「障害 」 の 双 方 を受 け入 れ る こ とが で き な か っ た の だ ろ う。 そ の よ う な親 の 期 待 に応 え,Fさ ん は人 の倍 の 努 力 を続 けた 。Fさ ん に とっ て 自分 の 存 在 をか け た 闘 い で あ った に もか か わ らず,こ の 努 力 は正 当 に評 価 され な か った 。 ホ ル モ ン治療 の 結 果 の末, 身長 は127cmで 終 わ った 。 母 親 に とってFさ んが 「低 身 長 」 で あ る こ とは 「消 した い事 実 」 として し か映 って い な か った 。 そ して,学 校 で は皆 と同 じ よ う にす るた め に2倍 の努 力 を惜 し まな か った に もか か わ らず,卒 業 を 目前 に教 師 か ら'身 障 手 帳' を勧 め られ た 。 これ らの結 果 を見 つ めFさ ん は, これ まで に 自分 自身 に与 え られ続 け た 「期 待 」 も, そ れ に対 して 自分 が 「応 答 す る こ と」 自体 も本 当 に 妥 当 だ った の か を問 い,わ が 身 が 置 か れ た 状 況 の 本 質 を見 つ め る こ とに な っ た 。 Fさ ん は この 経 緯 の 中 で 自 己 の正 当 な 評 価 を問 い 始 め た 。 家 庭 で も,社 会 で も,ま さ に そ こに い る人 び との 中 に`新 し く特 質 を も って生 まれ た 者' と して の 個 性 と苦 悩 の体 験 が,そ の 後 のFさ ん の 個 人 と して,ま た 親 と して の人 生 を規 定 した。 Fさ ん は幼 少 期 か ら青 年 期 の 具体 的 な 体 験 に つ い て 多 くを語 ら なか っ た が,次 の 内 容 か ら推 し量 る こ とは可 能 だ ろ う。 「結 構 屈 辱 的 に 『これ はで き るか?』 と言 わ れ て い る」,「い ろい ろ な所 で 差 別 的 な こ とが あ っ て … …」 とい っ た 親 に は決 して話 さな い さ ま ざ ま な体 験 を して きた 。 社 会 の 人 び と は あ か ら さ ま にFさ ん の能 力 を問 うて くる。 結 局 「頑 張 れ 」 と言 い続 けた母 親 の真 意 は,軟 骨 無 形 成 症 の わ が 子 の 自尊 心 を護 る とい う よ り,母 自身 が 周 囲 の 目や 偏 見 か ら逃 れ る こ との ほ うが 重 要 だ っ た の だ ろ う と感 じ て い る。 またFさ ん は,「 田 舎 か ら逃 げ たか ったの か も し れ な い」 と語 るが,郷 里 で の体 験 にFさ ん の失 望 感 を み る こ とが で き る。 当 時 のFさ ん に とっ て, そ の つ ど,す で に世 界 内存 在 の う ちで 共 に現 に存 在 して い るの は,両 親 や家 族,友 人 た ち で あ る。 そ して,そ の 人 び とは最 もお の れ にか か わ る 「共 存 在 」 で ある。 加 えて,現 存 在 の世 界 は 「共世 界 」 で あ る。 した が って 「障 害 者 で あ る」 あ るい は 「障 害 者 で はな い」,「社 会 生 活 は無 理 」 な ど とい っ た 視 線 を 向 け る他 者,つ ま り両 親 や 教 師 や友 人 とわ か ち合 う世 界 の 中 で,「 お の れ に 固有 な 自 己 」 をそ の ま ま規 定 し よ う と した 。 しか し,他 者 との 比 較 や 評 価 を そ の ま ま認 め よ う とす れ ば,そ れ は 「あ く まで世 間 の 価 値 基 準 か ら の 自分 が 何 か」 にす ぎ な い。 そ れ は,決 して 「お の れ 固有 な 自 己」 で は な い。 そ の後,変 え よ う の な い 身 体 の特 徴 を もっ て 生 き る 自分 の人 生 に つ い て 問 い 直 す。 そ れ は,ま さ し く親 が期 待 す る 「私 」 か ら脱 し,新 し い 「私 」 を確 立 し よ う とす る過 程 と言 え る。 つ ま り,そ れ は,自 分 の存 在 意 味 の本 質 を問 う こ とで あ る。 親 に よ っ て形 作 られ た 自己 で な く,さ ま ざ ま な障 害 者 との 出 会 い が 自己 を再 構 築 の きっか け とな った 。 Fさ ん は他 の 障 害 を もつ人 び と と出 会 い,そ れ まで 自分 が 生 きて きた 世 界 と は ま っ た く異 な る世 界 を知 っ た。 これ ら の体 験 は,そ れ まで平 均 的 な 日常 性 の 中 で世 間 の 価 値 基 準 か ら自分 を了 解 し よ う と し て き たFさ ん が,新 た に お の れ の存 在 に対 して か か わ っ て い くき っ か け と な っ て い った 。 田 舎 に残 る こ とは,自 分 の本 来 的 な在 り方 を 「隠 蔽 」 し,そ れ を 自覚 す る こ とを 「遮 断 」 して し ま う こ とだ っ た。 しか し なが ら,閉 鎖 的 な社 会 や 「自分 だ けで き な い 」 とい っ た 自信 喪 失 感 は,「 内存 在 」 で あ る現 の実 存 論 的 構 成 と して の 「情 状 性 」 で あ り,こ の 「情 状 性 」 が,そ れ まで の彼 女 の 世 界 を 拡 大 しよ う とす る原 動 力 とな った と考 え られ る。 Heidegger,M.(1927/1980i)に よ れ ば,「 情 状 性 」 は 自分 自身 の 存 在 だ け で な く,世 界 が 何 で あ るか も現 存 在 自身 に知 らせ るの で あ る。 この親 子 関 係 の バ ラ ンス や 障 害 観 を新 た に再 構 築 す る に は,そ れ に反 発 で き る ほ どの 力 を 当事 者 か ら引 き出 す 外 力 が 必 要 で あ り,そ れ に よ っ て 形 成 され て い く と考 え られ た 。 そ して こ の社 会 と 自 己 との距 離 間 を眺 め な が ら,も う一 度 自分 自身 が 身 を置 く場 を見 渡 して い る。 そ う して 自分 の 力 で 他 者 評 価 を超 え て,自 己 を正 当 に評 価 す る よ う に な る。 そ れ は,現 存 在 は 「存 在 し続 け な け れ ば な らな い」 とい う被 投 性 を もちつ つ,「 新 しい もの で あ り う る」 と めが け つ つ 存 在 す る 「被 投 的 企 投 」 とい う本 質 の ところ を示 す もので あ る(Heidegger, M.,1927/1980j)。 56 日本 助産 学 会 誌 第18巻 第2号(2004.12)