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農村地域をネットワークでデザインする

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Academic year: 2021

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(1)農村地域をネットワークでデザインする −. 6次産業化を中心に −. Designing Rural Areas through the Network 柿嶌洋一  JA 信州うえだ青年部部長. KASHIMA Youichi. 小相澤隆幸 上田市農林部農政課課長補佐. KOAIZAWA Toshiyuki Agriculture and Forestry Part Assistant Manager UEDA City. 1.はじめに. Managre Youth Association JA Shinsyu UEDA. 一方、地酒作りを応援する賛助会員が40名集まり、こだわ. 私たちが住む上田市は、合併して10年がたつ。それぞれの. りの酒「特別純米酒・奏龍(なきりゅう)」が誕生した。市内. 地域特性はあるものの、総じて農業地帯であり、住民の高齢. 酒店や観光会館でも販売され、初年度(平成20年)から良好. 化・人口減少傾向に直面している。. な滑り出しとなった。以降、酒米の栽培面積は年々増加し、今. そこで、共通の課題である地域活性化について、農業者自ら. では酒造会社が年間使用する量の半分以上が武石産の酒米と. がアクションを起こし、取組むことが求められている。私たち. なっている(図1、図2、図3、図4)。. は、上田市武石地区(旧武石村)で酒米による6次産業化に取. 2.2. 「奏龍」特徴と位置づけ. 組み、その経験を基に地元大豆で信州味. を醸造し、市内の飲. 食店をグループ化して販売へつなげる取組みを行っている。. ここで、「奏龍(なきりゅう)」というブランド名について紹 介したい。. そこでのキーワードは「ネットワーク化」であり、地域では. ネーミングについては、賛助会員などから募集し、その中か. 1次・2次・3次の多様な事業者の連携が求められる。 自らの. ら投票で決定することにした。結果は武石の名勝である妙見寺. 実践を基に、「地域6次産業化のネットワークモデル」を設定. の「鳴き龍」からとったネーミングとなった。武石という地. し、地域活性化に向けた提案をする。そこでは、地元 JA の利. 域が響き合い、自然の調べで奏でる地域愛が龍のように力強. 用と、青年部を立ち上げ若手農業者が結集する仕組みを組み込. く昇っていけるようにと、 「鳴」を「奏」(かなでる)に変え、. んでいるが、6次産業化による新商品開発・販売の実例も現れ はじめた。 今後も活動を拡大していくために方向を見出してい く。. 「奏龍」とした。 読みづらいとの批判もあるが、何よりもこの地の人たちに とって、酒米「美山錦」と仕込み水・武石の湧水「福寿の水」. 筆者らは、上田市に在住する農業者と市職員という立場で、. は貴重な地域資源であり、歴史あるお寺を絡めた地酒は、アイ. 平成19年に仕事を通じて武石地域(旧武石村)で出会った。. デンティティを示す誇りあるものである。他にはない独自性. 地元で酒米を栽培し、市内の酒造会社で醸造した日本酒を飲み. は、何よりの付加価値となる。. たいという思いで意気投合したのである。 そもそも武石地域は、美ヶ原の豊富な水量と寒暖差により非 常に良い農作物が生産できるものの、決して恵まれた農村地帯 ではない。 それにもかかわらず、非常に元気な方々が多く、シカの被害. 地域の関係者で取り組んだこの地酒造りで学んだ重要だと考 えられるいくつかの事項をあげておく(図5)。 ①まず、この事業の発案者が思いを行動に起こしたこと。私た ちの一方が生活者として「この地の酒米で地酒を作って飲み たい」という強い思いを持ち、共有したこと。. にあっても「鹿に食われちゃった」と笑っている。筆者らはそ. ②酒造会社と生産者をつなげ、ネットワーク化したこと。. の元気さを目の当たりにしたことと、また、この地域はかつて酒. ③産地を創るには JA が必要で、巻き込んだこと。JA に集荷販. 米を栽培していたことをあわせて、付加価値のある地酒で地域. 売や代金決済の役割を担ってもらい、生産者たちは営業を行. をさらに元気にしたいという願望を強く持った。そこで「酒米. うこと。. の故郷構想」を掲げ、願望を実現とするため歯車が回り出した。. ④一人で利益は独占せず、地域みんなでシェアすること。. 2.地酒「奏龍」. 3.6次産業化における事業連携のあり方. 2.1. 地酒「奏龍」の誕生から現状まで. 平成20年度に地酒が誕生して、スタートを切ったが、そこ. まず、地元の有名蔵元の社長に相談することから始め、酒米. で酒造会社等の商工業者と接したことで、これから経営や事業. 栽培に関する調整を行ったが、農業者として商工業者と話をす. について多くの事を学ばねばと、思いを新たにした。そんな. るのはこの時が初めてであった。社長からは酒米の品質が良く. 時、私たちは農商工連携等人材育成研修へ参加する機会を得. 武石地区全体が酒米に適していると評価いただいた。. た。全国中小企業団体中央会主催であるこの研修には、長野県 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 33.

(2) 図1 酒米栽培. 図2 収穫. 図3 醸造会社との連携. 図4 地酒誕生. 中から農商工関連の事業者が結集した。経営のプロ、事業連携. 6次産業化という言葉が適切であると考え、その事業の進め方. のプロになるための勉強会である。. には次の2つの方向が考えられる。. そこで、農業者、中小企業社長、経営コンサルタント他の 様々な業界のエキスパートと知り合い、学びと刺激を受けた2. 経営者自らが、作物の生産・加工・販売を行い価値を創造す. 年間であった。特に大切と感じたこと4つを以下に示す。. るパターンである。成功時の収入は莫大なものがあるが、リス. 1)活学実践:学習した知識を無駄にせず、実践して活かす。. クも高い。. 2)自分の立場:自分が連携をするうえでどうしたいのかとい. 1)メリットは、経営主なのでインセンティブを全て持つこと. う夢を持つ。その上で他の領域を侵さないようにする。 3)みんながハッピー:文字通り、生産者・加工業者・商業 者・生活者がみんな良くなるような夢の連携を目指す。 4)イノベーションの創造:連携の中で、我々しかできないも のを作り、社会的な新たな価値(商品やサービス)を創造 する。 その上で、農業者の立場からとらえると、農商工連携よりも. 34. ①【自己完結型】. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. ができ、付加価値を自らの製品に込め販売できる。 2)デメリットは、始めるにはまとまった初期投資が必要で、 経営で不得意な分野も自らが管理しなければならない。 ②【ネットワーク型】 農・商・工それぞれの経営者が連携し、価値を創造するパ ターンである。収入の劇的な変化は期待できないが、リスクは 低い。.

(3) 図5 地元酒米の企画・栽培・醸造・販売フロー. 1)メリットは、地域ブランドや人材ブランドを創造でき、そ. な思いが、話した相手の心にストレートに響く。この生活者. れぞれの経営が確立しているため、初期投資がほぼかから. という言葉は、普段使われる「消費者」とは少し違う。あく. ない。また、お互い得意分野で最大限の能力を発揮できる。. までこの地域で生活する者が、「より豊かに生きたい」とい. 2)デメリットは、船頭が多いので船が山に登る懸念がある。 私たちは、自らを省みた場合、②の【ネットワーク型】を選 択するのが妥当であり、多様な事業者との連携で地域の付加価 値創造を図っていく。その際、気を付ける点は以下の通り。. うマインドを持っていることである。そこから欲するものを 作ることが、この地域でのマーケットインの発想である。 ③生活者としての発案者は、反応するであろう1次の農業者に 話をするが、場合によっては2次や3次の事業者に話し、そ. まず、ビジョンを共有し、原価計算をしっかり行い(販売価. の人脈で1次につながることもあるだろう。この「つながる. 格の根拠、付加価値の明確化)、商人に数字で負けないこと、. 力」こそ、地域社会の貴重な人的資源であり、普段の公の仕. そのうえで WIN-WIN の関係を築くことである。. 事のつながりではない消防団や PTA・同窓などのインフォー. そこで、地域における6次産業化の仮説モデルを図示すると. マルなきずなが有効である。新たな地域資源を活用した商品. 図6である。この仮説モデルを簡単に説明する。. を創ろうという同じベクトルを共有するには、ネットワーク. ①地域で、6次産業化を発案する発信者は、このままではこの. を組む人たちがフランクに付き合い同調することが極めて重. 地域は衰退してしまうという強い危機感を持っている必要が. 要である。. ある。同時に、地域資源を活用してここでしかできない新し い6次産業化商品のアイデアを持ち、周りの人たちに熱く発. 4.地酒「奏龍」から味噌「奏龍」システムへの展開. 信できる人達である。その場合、地域外から入ってきて、こ. 4.1. 味噌「奏龍」の誕生と定着について. この地域資源の素晴らしさに気付く、または地域外から刺激. 武石地域での地酒「奏龍」作りがスタートし、農商工人材研. を受けて行動するなど、地域外からの情報が大きく作用す. 修を受ける中で、次の展開は、近隣の丸子地区の老舗味. る。. 醸造会社7代目社長との出会いが契機となる。. ②その場合重要なことは、生活者としての視点から発想するこ とだ。「この地の酒米で作った地酒を飲みたい」という純粋. 醤油. この40歳前半の社長は、元ホテル副料理長という経歴の持 ち主で、味. ソムリエの資格を有するといったこだわりがある デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 35.

(4) 図6 地域6次産業化ネットワークモデル. 職人肌である。私たちは武石地区で栽培する大豆でこだわりの. ・奏龍ブランドの普及拡大. 味. ・首都圏発信. 「奏龍(なきりゅう)味. 」を作ることで意気投合し、発. 案者となる。大粒の地元産大豆「つぶほまれ」を契約栽培し、. ・会員同士の情報交換や交流の促進. 同じ名前を付けることで生産者の顔が見える「奏龍味. ・地域に新しいイノベーションを創造する. 」が誕. 【主な取組み】. 生した。 しかし、味. の価値を広めていくには、味. そのものを生活. を使ったラーメン、スイーツ合同イベント. 者に提供するだけでは限りがある。業務用として飲食店のラー. ・首都圏への発信(図9). メン店やスイーツ店等向けの味. ・ビジョンを共有できる新たな経営者の獲得. 要がある。そこで、地元産味. 取り扱い量を増やしていく必 にこだわり、飲食店で創意工夫. 地域ブランドの創造を行うには、中長期的な取り組みが不可. をしてお客様に提供しようという志のある店を対象に、「信州. 欠である。. 上田奏龍の会」を結成した(図7)。. 4.3. 今後に向けて. 4.2. 「信州上田奏龍の会」 現在、生産者と味. 醸造会社、ラーメン店14店、スイーツ. 店15店、料理店他9店が参加している(図8)。会の概要は次 の通り。 【目的】. 36. ・奏龍味. 主に首都圏での販売から感じたことや気づいた点の整理を 行った。 ①消費者の持つ長野県のイメージについて 信州そば、信州味. 、信州のおやき、信州りんご、信州の野. 沢菜等で、決して市町村単位という地域の名前での購入ではな. ・地産地消(地元の農産物の栽培・加工・飲食店販売の直線化). い。「上田産りんご」というイメージはまだ受け入れられない. ・地産適商(上田の良いものを県外に知ってもらう). 現状を理解しておく必要がある。. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

(5) 図7 6次産業化・味. 「奏龍」システム. ②時代のニーズ. その場に「仲間が結集出来ること」 「社会的信頼が得られるこ. お取り寄せのグルメや、生産者の顔の見える商品が消費者に. と」 「発言の機会が得られること」があげられる。これらの条. 受け入れられている。少量で違いをどう見せるか、そこには本. 件を満たすことができるのがまさしく JA であり、新たに若手. 物志向という付加価値を求める姿がある。. 農業者からなる「青年部」が立ち上げられている(図10) 。. ③継続的な販売. JA に出荷しているかどうかは問わず、積極的に農業で地域. 会による販売を行うことにより、継続的な取り組みが可能に. を活性化しようとの志を持つ農業者が結集しており、構成メン. なった。そのメリットは何かというと、リピーターの獲得であ. バーは40人。直売活動は、地域内外のイベント等で青年部の. る。2016年度の NHK 大河ドラマ「真田丸」放映で上田市の知. 生産者が自ら販売し、購入した生活者(消費者)の反応を確か. 名度が高まってきたため、継続的な首都圏販売(図9)で信州. めることが可能なため貴重な機会となっている(図11)。. 上田の認知度を高めていく。. JA 出荷では得られない生産者としての手ごたえや誇りを感. 以上、面的な広がりを指向するグループ化が重要であり、上 田市外にも会員を広げつつあり、会員の人脈を使ってのビジョ ンを共有できる経営者集団の構築が期待される。. じ取ることで、やる気の醸成につながると思われる。 食育活動では、保育園児への農業体験実習や他多くに会員が 取り組んでいるが、地域の将来を担う子供たちに教えることで、 協同の力の継承といった、多くのことを学ぶことができる(図. 5.JA 青年部という常設ネットワークの構築 6次産業化を視野に入れて地酒「奏龍」や奏龍味. 12) 。また、活動をアピールする場として、JA 青年の主張の大 の取組み. 会にも積極的に参加し、全国大会出場を果たしている(図13) 。. を振り返ると酒米の産地化を目指すにはやはり JA の機能を利. このことにより、自らの活動に自信が持て、さらに結集力を. 用するのが有効であり、特に農村地域での JA はネットワーク. 増す効果があった。さらに、JA 青年部の活動(図12)をテレ. (図10)の母体としての役割を果たすことが求められる。 地域農業の衰退が懸念される中、農業者の連携が必要であり、. ビ放映や雑誌などがパブリシティとして取り上げることが、重 要な発信源となっている。これらの働きがけが地域が元気にな デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 37.

(6) 図8 「奏龍の会」. 38. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

(7) 図9 味. 「奏龍」の首都圏販売. 図11 小学生に餅つき指導. 図12 JA 青年部の主な活動内容. 図10 JA 青年部立ち上げ理由. 一方、地域の中では、JA という「信頼の場」に若手農業者. るきっかけになると考えられる。 新たな取組みでは、青年部として会員の養豚生産者の豚肉と 信州味. が結集し、直接販売や食育にも積極的に取組み、地域の中で発. を加工した「みそぽーくまん」を開発して真田丸で賑. 信力を高めつつある。モデル的に整理した地域6次産業化ネッ. わう上田城内ドラマ館で販売を開始した。来客の反応は好評で. トワークモデルはその地域の核として JA 青年部を組み込んで. イベント等にも出店し販売している。この事例を踏まえ、次の. いる(図13)。. 商品開発につなげて、付加価値の創造を目指していきたい。. JA 自体は色々な課題に直面しているが、やる気のある地域 の若手生産者が加わることで、本来の組合員参加型の JA が体. 6.まとめ〜地域6次産業化の次なる展開へ〜 一人の農業生産者と一人の行政職員が出会い、地産地消であ. 現できるのではと思われる。さらに、JA は商工会議所への加 入を検討している。地域での大きなつながりに発展することを 期待したい(図14)。. る地酒「奏龍」を作り、さらに味. 醤油醸造会社社長との出会. いで地元産大豆を使った「奏龍味. 」を開発してきた。そして. これらのネットワークを形成するうえで、発案者はもとよ. を使ったラーメン店やスイーツ店などの飲食店集まり. り、1次・2次・3次の事業者は次の行動様式を持つことが求. この味. である「信州上田奏龍の会」を結成し、地域ブランドという付. められるのではないかと考えられる。. 加価値をアピールしている。. ①アクションファースト:まず行動して、状況を作っていく、 デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017. 39.

(8) 図13 JA 青年部を組み込んだ地域6次産業化ネットワークモデル. ④シャウト:地域で熱く発信していく。 以上、地域の志ある者を起点としたネットワークが主体とな り、活力溢れる農村地域をデザインし、地方消滅というような ネガティブな思考を吹き飛ばしていきたい。. 図14 JA 青年の主張関東甲信越大会最優秀賞を受賞. この地域の言葉では、「ずくを出す」というが第一である。 ②フリーディスカッション:行動しつつ、自由にものを言い合 える関係が新しい発想やさらなる行動を生み出す。 ③スウィング&シンクロ:議論はいろいろ多角的に振幅(ス ウィング)して行い、やがては一つの方向に同調(シンク ロ)して行動につなげる。. 40. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-4 No.96 2017.

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