Tke
JaPanese
丿b獄 獺 J of PSJ・
cJtonomic Science 1991,
Vo1,
1,
No.
1厂
15−
32「
概 念
の
概
念
」
の
概
念
人
工概 念
と概
念
表現
の関 係
に つ い て一
椎
名
乾
平
早 稲田大 学Conceptualization
ofConcept
‘℃ oncept ,,:On
七he
Relation
Between
Artificial
Ca
七egories andConceptual
Represen
七ationsKenpei
SHIINA
}デ{iseda び niversity
Why do we utilize arti丘cial categories
in
investigating
cQncepts and categor1es ?No
clear answer has been given to this question.
Then ,
Ilow can we claim the validityof artificial categories P
Thls paper makes
logical
,
settheoretical
,
andpsychological
consideration around this theme
,
Tlle
major conclusions are : 1)Arti
且cial categorles(concepts )should
be
homomorphic images of existent categories (concepts ).
2>SQme
functional (or abstract )concepts cannot be represented
by
sets of arti丘cial stimuli ;this means arti 且cial categories are not alLpurpose tools.
3
>As
for
the types of categories andconcepts which can be represented
by
sets,
a)intension and extension,
b)the number ofinstances
, and c)modes Df uncertainty both in intellsioll and extension,
乱re problems of
critical importance
.
In particular,
we must make explicit representationalformats
for the processingof
uncertainty
and
logical
structures
inherent
in
concepts
alld
catego 「1es
・
Finally,4
)people can handle conceptualinformation
in completely difCerent工y ways :theya「esolnetimes naive statisticians
,
sometimes naive scientists,
according to the taskdemands and the data available to them
,
Key Wards : concepts
,
categories,
sets , representation,
uncertainty1
.
人 工 概 念実験心 理学の様々 な分 野で人 工 的刺激 が 使 用されて い るが, こ の こと自体が非 難さ れた り問 題と された りする ことはあま り ない
.
多くの研究は刺 激を処理する 心 理 過 程に注 目し て お り,
刺激その もの の あり さ まに注 目する の で はないか らであ り,
刺激 とは ある程 度 独立に,
刺激 処 理 過 程が研 究 可 能で ある と 了解されて い るか らで あろ う,
ところ で概 念・
カ テゴ リー
の研 究は,
人間の持つ知 識 構 造と深 く関 係 す るの だが,
その場 合に は知識 がい か なる過 程に よっ て獲得さ れい かに使 用される かを調べ る の と同時に,
獲 得さ れる知 識そ れ 自体の内 的・
構 造を調 べ るの が重 要である.
知識とはその大 部分 が 広 く外 界ic つ い て の もの で あるか ら外 界の あ りさ ま が知識構造や内 容に大 き な影響を与 えて い る の は疑いない.
そ して,
人 工 概 念 を用い る 実験に おい て外 界と}ま 人 工刺激 慨 念 〉 に他 な ら ない の で ある,
従っ て,
外 界の事 物と その 内 的 表 現 構 造の間:こ成 り立 っ て いる関 係が, 人 工刺 激とその 内 的表 現と の間に成 り立つ こ とがよい概 念 研 究の一
つ の 必要 条 件 とな り,
こ のため に人工概 念は常に外 界の 事 物 を考慮しな け ればな らない こ と になる.
最近で は
,
すべ ての概 念・
カ テ ゴリー
が同じ プロ セ ス に よっ て 処 理 され,
同じ形 式で表現さ れ ると考 える の は 不適 切である とい う主 張がしぽしばな さ れ る (Nelson,
1983
,
p.
133;Armstrong,
Gleitman,
& Gleitnlan,
i983
;Homa ,1984;Kei1,
1989).
ま た 人工刺激を 用い た「概 念研究 」 が有 意 味で ある とすれぽ
,
人工刺 激の集 合 が外 界の事 物や抽 象 概 念の表 現 (representation )にな16
基 礎 心 理 学 研 究 第 10巻 第1
号 た く存 在し ない よ う な人工概念を創作して,
この ような 刺 激に対して も普 通の概 念と 同 じ よ う な処理が 行われる とい っ た た ぐい の研 究が無 意 味とは言 え ない だろ うが,
これ は 「実在 する概念」の研究が一
段落し た後に行われ るべ き もの であろ う,
もっ と も,
あ る任意に作成 さ れ た 人工概 念が,
全て の実 在 する概 念と まっ
た く無 関係であ る こと を証明する のが 困難 なの も事 実であるが).
こ の 二 点 を 認 め る な ら ば,
人 工概 念に も種類 があるべ きであ る.
人 工概念作成者は自分が作成 し た人工 概 念が どの よ うな種 類の実 在の概 念 を 表 現し てい る かを 常に意 識すべ きである.
人工概 念に は そ れ を作 成した研 究 者の概 念 観が しぽし ば研 究 者自身 も 気 がつか ない ま ま 「投 影 」 さ れて い るは ずである.
本 論の 日的は 人 工刺 激が (作 成 者の意 図と特 に か かわ りな く)い か なる意 味で実在 する概念の表現に なっ てい る か を考 察し,
この こと を通じて人工刺激を用 い た概 念・
カ テ ゴ リー
研 究の意 味に対して新しい視 点を 提供 し,
さ らに概 念研 究一
般につ い て考 究 す るこ とであ る、
本稿で は 具体 的モ デルや 実 験以前の 問題を扱うの で,
議論は形式的理論 的であり,
具体的な 処 理過程のモ デル や実 験 的 事 実の解 釈につ い て は必 要 最 小 限の言 及 し かな さ2
,
・
in
い.
考 察の際 念 頭に置かれて い る の は 人工概念は主 として
Bruller
,
Goodnow
, &Austin
(1956),
Posner
& Keele (1968), Reed (1972>, Franks &
Bransford
(197
ユ),
Rosch
&Mervis
(1975
),Neumann
(1977)
,Hayes,
Roth
& Hayes.
Roth
(1977),
Homa(1 9
.
78), Medin & Schwanenflugel (1981), Fried &Holyoak (1984)
,
椎名 (1985), で使 用さ れ たものである.
考察の道 具と して用い る の は (初 歩 的な)集合 論,
論理 学,
フ ァ ジー
集 合 論,
お よび確 率 論で ある.
また本 稿で は概念を 「 」,
集 合 を { }に よっ て示 す.
例 え ば 「犬」 は犬とい う概 念を示し,
{犬}は実 在 する個々 の犬の集 合 を示 す.
ま た {「犬」,
「猫」}は概 念 「犬」「猫」の集 合を 表 し,
{伏 },
{猫}}は {犬}と{猫}の集 合を衷 す,
さて人工概念が何ら か の意味で実在 する概念の表現で な け ればな ら ない とい うこ と を認め る とする と,
心 理 学 が 自ら外 界の記述を 行 わ な げ れ ば な ら ないで あ ろ うか ? 概念の完 全な 理解に は外 界の完 全な 理解が必 要である と い うのは 正 しい のであろうが (Neisser,
1987),
これ、
は心 理学の範 囲 を は る かに超え る仕 事であ る.
さ らに,
抽 象 概念の よ うに外 界に re.
ferent が存在 しない よ うな概 念 も数 多 く存 在する,
こ の よ うな 概 念はいわぽ 「内 界」 に 存 在 する ことにな り,
もし 「内 界」の 完 全 な記 述が 可能 な らば心 理 学は既に完 成して いることに なる.
そこで問 題になる の は,
人工概 念に よっ て実 在 する概 念が表 現さ れ る とは ど うい う事態を指し てい るの か であ る.
こ のた めには まず実在 する概 念が どの ように分 類 さ れる の か,
そ し て 「表現する」とは ど うい うこ となの か を 明ら か に し なけ れ ば な ら ない.
次 節に お い てまず 「表 現」につ い て考察し,
次 次 節で概 念の 分 類を試み た い.
2・
表 現 (representation )につ い て 心理学に おける 「表現」 につ い て の最 も厳 密な 理 論 は 測 定 基 礎 論 (Krantz,
Luce , Suppes,
&Tversky , 1971) に見 られる が,
本 論で は この 理 論の基 礎になっ てい る同 型写 濛,
及び準同型 写像論 を 比喩 的に援 用 する.
これは いわ ゆ る 「モ デル理論 」と呼 ぼれ る大 きな体系の一
部 分 であ り (神野・
内井,
1976),
心 理学におい て はHo1.
land, Holyoak , Nisbett,&Thagard
(1986
),
Halford(
1987
),Gentner
(1989),須賀 (1989)等の適用 例,
ま た Rume ]hart & Norman (1988)の解 説 が ある.
表現と はある事 象を他の事 象や記 号 体 系で記述 するこ とである.
まず 表 現されるべ き体 系をS =
<X ,R
>,
この 体 系を表現 す る体 系 S’=
〈Y,
R’ 〉と す る、
こ こで X は 体 系 S 内の要 素であ り, R は その要 素 問の関 係である.
ま た }厂
は休 系 S’ 内の要 素で あり,
R’ はその要 素 間の 関 係で ある,
表 現 する とはf
:x → Y な る 写像が存 在し,
さ らにR
がR
’ に おいて保 存さ れ る こと を意 味 する.
た とえぽS =
〈{「動 物」,
「哺 乳 類」,
「馬二}〉,
R=
〈動 物は 哺 乳 類 の上 位概 念である,
哺乳ff
}ま馬の上 位概念で ある〉とする と,
こ の体系 S は た と え ぽ κ y2 → → → 」 」 類 物 乳 」 動 哺 馬 「 「「
Uf
かつ R,・
・
(X >y> a)と表 現で きる ことになる,
この例の 場 合,
表 現 されてい るの は 上位一
下 位概念の 関 係だけで 他の関 係は捨
象 されて いる がこれで別に不都 合は ない と 考え るので ある.
Palrner (1978>は表 現一
般の形 式 を理解 することの重 要性 を指 摘し表現につ い ての重要な図 式を提 案し た.
彼 は,
外的 匿界,
(被験者の)内的 世 界,
(研 究 者が立てる) 認 知モ デル , 研 究 者の持つ〉 認 知理論の 4種 を 区 別し,
その間の関 係 を 図 1の ように示 した.
す な わち,
内 的 世 界は外的 世 界の表現であ り,
認 知モ デル は 内的 世 界の表 現であ り,
こ の こ とに よ り認 知モ デル は閭 接 的に外 的 世 界の表現}こな るこ とにな る.
さらに,
認 知 理 論は認知モ デル を 立て る際の枠組み とし て使 用さ れる もの である.
外 的 世 界 ↑ 認 知 内 約 匱界 (被 験 者 ) ↑ 仮 定 認 知モデル (実 験 者 ) ↑ 認 知理論 (実 験 者 ) 図
1
矢 印の先は表 現されるもの 椎名 「概 念の概 念」の概 念 矢 印の始 点は表現す る ものを 示す 外的世界 ← ? 認知 概 念 的 知 識の表 現 (被 験 者 )← ↑ 仮 定 概 念 表 現モ デル→
(実 験 者 〉 外 的 世 界←
↑ 具 体 化 図 2 外 的世界 表現モ デル → 人工概念 (実 験 者 ) 具 体 化 函 3 人工概 念 さて,
概 念 研 究に的を しぼっ た 揚合,
この図 式は どう書 ぎ直せ, 人工概 念は どの ように位 置づ け られるの であろ うか ? この件に関して は3
つ の立場が可能だろ う.
第一
の立 場では まず内的世 界は被験 者の持つ 概 念的 知 識 とな りこ れは外的 世 界の表現である,
つ ぎに認 知モ デル と認 知 理 論を一
ま と めに して考えるとする と,
これは概 念 表 現モ デル とい うこ とができる であろう (図2),
概 念 表 現モ デ ル と は 「被験者の持つ外 的 世 界の表 現」の実験者に よ る 表 現である,
図2
の ように人工概 念ば概 念 表 現モ デル に 準拠してその外 界にお け る具 体 化とし て作 成 される.
こ の場 合 人工概 念は外 界の事物に,
外 界→ (被験 者の) 概 念 的 知 識の表 現→ (実験者 )概念表 現モ デル → 人工概 念 とい う形で3
段階を経て 間 接 的IC関 係 するこ とに なる (図2の点線).
第二 の立 場は,
外 界の事 物の直接 的 表 現 と し ての人工概 念である (図3
).
この立場で は,
入 工概 念 作 成 者が外界に対し て強い仮 説を もっ て お り,
その表 現である刺激を直 接 的に作 成 する場 含や,
外界の事物を 単純化 して 人 工概念とする場 合 が ある.
こ の場 合は外 的 世界と 人 工概 念の間の関 係は (少 な く と も実 験 者に とっ 外的世界 ↑ 認 知 概 念 的 知 識の表 現 (被験 者 ) (・
1 こ1
;
l
!:! 導出 ↓ ↓ 抽象概念 (被験者)← ↑ 仮 定 概念 表 現モデル → 人工概念 具 体 化 図 417
て は) 比 較 的 明 瞭であり, 被 験 者の もつ 内 的 表 現のあ り さ まにつ い て は と り たてて育及 さ れ ない.
内的表現はデー
タか ら推 測されるこ とに な る.
第三の立 揚は,
外 界に referent が存在し ない 抽象概念 を 対 象にする際に出 現 する,
例 えば,
「希 望 」「意 志 」「定 義 」の よ うな概 念は自 然界に対 応 物が存 在せず,
人 間の心的 活 動に よっ て生じ る もの と考え ら れ る (図 4).
この よ う な概 念に対し て阿 らか概 念 表 現モ デル が 仮 定され,
その具体 物とし て人工 概 念がf
乍ら れる,
最 近の (実 験心 理学 系の) 概 念・
カテ ゴ リー
の研 究に は 二つ の流れ がある.一
つ は記 億 内項 凵間の関 係を問 題 にするもの であり,
例え ば意 味 記 憶の研 究が これに相 当 する.
こ の流 れの研 究の特 徴は外 界の事 物は直 接 参 照さ れず,
書 語に よっ て記 述された概 念 間の関 係を取 り扱 う こ と で ある.
もう一
つ の流 れは,
外 界の事 物と記 億項目 (カ テ ゴ リー
)との 関 係を扱う もの で,
ほ と ん どが人 工 刺 激を採 用 するこ とに な る.
この 二 つ の流れの差は要 す るに外 界の事 物に対 する表現 構 造 を 問題にするのか, 既 に 内的に表 現さ れ て お り言語 的ラベ ル がつ いた概 念・
カ テゴ リー
閲の 関 係を問 題とするか で あ る.
こ の こ と が 若 干の混 乱の原 因と なっ て い る.
例 えば 「犬」に言及 する 際に,
外 界に存在 する犬の ことを 語っ て い るの か 概 念 「犬 」につ い て 語っ てい る の かが明 瞭で ない こと が多い.
この状 態で は どの 立 場の 人工概念を 用い るのかが不明暸 になる.
さて第1
第3
の立 場 での人 工概 念は外 界の事 物で はあ るのだが,
「(被 験 者が持つ) 概 念の内的 表 現 」に対し て 実験者が 想 定 するモ デル に準じて作 成さ れる,
従っ て,
こ の立場の人工概 念は,
実 験 者が被験者の 表現 構 造を仮 定しな け れば作り よ うのない ものなのであ り,
よっ て こ の立場の人工概 念は人 間の知 識 衷 現 構 造の モ デル に従 属 する ことにな る.
第 2の立場 を 取る と内 的 表 現 を気に し なくて よ くなる が,
その か わ り外 界の記 述 を心 理学の仕ユ
8
基 礎 心 理 学 研 究 第 10 巻 第1号 事 として引 き受:すなけれ ば な らな くなる.
これ が 冂丁能で ある場 合があるのを認め る とすれば,
この立 場で の人工 概 念は被 験 者の内的 世 界か ら一
応 独 立 と な る が,
し か し 実 験 者の外 的 匱界表現モ デル に は完 全に従 属 するこ とに なる,
実験心理 学では,
実 験 する立場と実 験さ れ る 立場 を明確に分 離して考え るのが伝統で ある の で、
実 験者 が どの よ うな表 現 を想 定す るの も 自由だ が,
だか ら とい っ て被 験 者の表 現 構 造とあま りにかけはなれるの はまずい ので あ る.
結局,
人工概 念の意味とは実験者が持つ 概 念 表現モデルか外 的 瞳 界 表 現モ デル の分 類を前 提に し な け れば議 論で きない こ とになる.
3.
概 念の分 類概 念の 分 類につ い て は様々 な 立 場 がある (4
.
参 照 ).
人 工概 念との関 係におい て は,
以下の5
つ の論 点につ い て 整 理しな け れ ばな ら ない だ ろう.
1) 概 念が集 含 論 的に 表 現可能か どうか.
も し可能な ら ば 2) 集 合が外 延 的に 定 義さ れ るのか 内包的に定 義されるの か,3
)有 限 集 合 で あ るのか無 限 集 合である のか, 4)通 常の 集 合である のか 不確 定性 を含ん だ集 合であるのか, さ ら に 5) ある 特定の個 物 を 同 定プ卩 セ ス に注 目する のか,
異な る事 物 を同等と見なすプ ロ セ ス に注目するの か である,
これ ら の問題につ い て順 次 考 察してゆ きたい.
3.
1 集 合と して の概 念
Bruner,
Goodnow,
&Austin
(1956
)の 冒頭に,
「
To
categorize is tQ render discriminably differentthings equivalent
,
to group the objects and events and people around usinto
class membership ratherthan their uniqueness
.
」 とい う記 述がある,
この定義は
,
現 在 も基 本 的に生 ぎ続 けて お り,
こ の ような概 念観 を定式 化す るの に 最 も 妥当 な 道具 は 集 合 論 で ある (Hunt ,
1962;Reitman ,
1965,
;吉 田,1972;寺 岡, 1977).
こ の アブ卩一
チ の本質的な点は概 念が集 合,
すな わ ち何 ものか のあつ ま り,
に よ・
って表 現される と仮 定 する点で あ る.
集合 論 的モデル には2形 式 ある.一
つ は事 物の全 体集合を想 定 し,
その部分集合 として概 念な定 義 する場 合である.
も う一
つ は,
事 物の持つ特 性の集合を 考 えて,
こ の特・
「生に よっ て概 念を表現 する方 法である.
前 者の ア プ ロー
チ はい わ ゆ る外 延 的 定 義に相当し,
後 者は内 包 的 定 義}こ相当す る (宋 木,
1969).
こ の 二 つの ア プロー
チに 触れ な が ら集 合 論 的モ デル につ い て考え たい.
3.
L1 事 物の全 体集合 を想 定 する場 合 (外延 的 定 義 )集合論 を用い て概 念の定 式 化す るに あ たっ て
,
あま り にも基 本 的である が た めに見 落と さ れがち なのは, 集合 論を用い る ため には,
要 素を指 定 するこ と が是 非とも必 要 なことで あ る.
ところで集合の要 索は他の要 素と判 然 と区別 で ぎ る 個 別 性 を持た な けれ ぽな らない と される.
例えば,
現代的 集 合 論の創 始者Cantor
に よれば 「集 合 とばわ れ わ れの直 感 (Anschauung >ま た は 思 考 (Den−
ken )の対 象で,
確 定 し て い て , し か も互い に明 確に区 別 さ れる もの (そ れ を集 合の 元 とい う)を 1つ の全体と してま とめた もの である 」 と定 義さ れる か らである (岩 波 数学辞典 ),
この 定 義で は集 合の元は 確 定し てい て明 確に区別 で き ればよい と して,
具体 的に どの よ うなもの が 元 とな り うる か につ いて は何 も述べ てい ない.
従っ て {犬1,
犬 2,…
}や {「犬」,
「猫」,…
},
{「動 物」,…
}は もしその要 素が明確 確定 と見 な さ れ る な ら ば集 含にな り うるの である.
こ こで直ちに 想起され るの は,
ア リス ト テ レ ス の 第一
実 体と第二実体の 区別である.
「カ テゴ リー
論」1こよれ ば (1[1本 光 雄 訳,
1971,
p.
7>第一
実 体とは,
「何か或る基 体につ い て言わ れ ることもなけ れば,
何か 或る基 体の うちにある こと も ない ものの ことで ある.
例 え ば或る特定の人 間,
ある い は或る特定の 馬 」で あ り,
第二 実体と ば 「第一
に実 体と言わ れ る ものが そ れの う ち に属するとこ ろの種 とそ れ らの 種の 類 と である⊥ 例え ば第一
実 体は 「個々 の 犬 」とい う要 素であり,
第二実 体 は 「犬」とい う集合的 概 念である.
心理 学に おける概 念 研 究の従 来の用語法に従えば 事 例は第一
実 体であり,
概 念・
カ テ ゴ リー
は 第二 実 体で ある とい うこ とにな り1〕 , (外 延 的 ) 集 合 論 的モ デル とは,
ア リス トテレ ス流の種 概 念を念頭に置 ぎなが ら,
事 例を要 素に よっ て,
概念・
カテ ゴリー
を集合に よっ て表 現 するモ デル なのだ と考 え る こと ができる.
す なわ ち 「犬」= {犬1,
犬2
,…
}.
と なる.
さ らに 概 念・
カ テ ゴ リー
の さらに高 位の集 合 を も考える こと がで き る.
ア リス ト テ レ ス の古 典 的理 論に対して
,Russell
の タイ ブ 理諭 (Whitehead &Russell
, 1910;Wilder,
1965;末 木,
1969> も同じよ う な 「存在 者 の階層 的 構 造」 を考える理論と言えよ う.
こ こでも,
犬 1,
犬 2の よ うな 直 接 指 示 (ostensivedenotation
)で き る事 物と,
「動 物 」= {「犬 」,
「猫」,…
},
「生物」=
{「動 物」,
「植 物」,…
}の ように直 接 指示で きない概念のあつ ま り,
その ような あつ まりのあつ ま りを 区 別し な け れ ば な ら な い.
とい うの は, 概 念 「犬」は集合 伏 1,
犬 2,…
}の 要 素であろうか ? とい う問 題 が 生 起 する か らである.
も し 「犬」; {犬1,
犬 2,…,
「犬」} とするな らば 1) 概 念とカテ ゴ リー
の違い につ い て綜後に述べ る.
椎 名 「概 念の概 念 」の概 念 ユ
9
「犬 」∈{犬 1,
犬 2,…
{犬 1, 犬 2,…
, 「犬 」}} と な り,
以 下 無 限ルー
プictsち込むのである2).
さて外延的に 表現 され た集合に よっ て表現口]’
能な慨 念 と は, と りわけ 類 (クラス) 概念と な るのだ が, これに よっ てすべ て の概 念が 説 明できる の であろうか ? 以下 に示 すのは集 合 論 的 定 式 化が不可能か,
あるい は不自然 な概 念の 存 在である.
少なくと も4種 類の概 念は集 合論的 定 式 化に なじまな い よ うに思 わ れ る.
まず,
「現 実」 「必然」 「抽 象」 「正義」 とい うよ う な 高 度に抽 象 的 な概念 を 考え てみ よ う,
た と え ぽ 「現 実 」 を 考えてみ る と, その要素と認 定さ れ るべ き ものは はっ きり しない ズ 現実」=
{現実 1,
現実 2,…
} とい う様に示せ ない の である.
この原囚は個 別 性ある い は分 節 性の欠 如である,
「犬」 とい う概 念の場 合は, 必 要2
) 実はこれで もパ ラ ド ッ クス が生 じる.
「犬」 「猫」「自 動 車」…
の ような 概 念 が {犬1,
犬2,…
}{猫1,
猫2,…
} {自動 車 1, 自動車 2,…
} の よ うに表 現で きる もの と仮 走 する.
い ま述べた よ うに 「犬」= {犬 1,
犬 2,…
「犬」} とする と問題がありそ う なの で,
概念と し ての集 合 は 自 分 自 身 を 含 ま ない こ とにする.
さて 「概 念」 と い う概 念 も集 合 論 的に表 現で きるとす れば 「概 念」=
{概 念 1,
概 念 2,…
} 例えば 「概 念」=
{「犬」,
「猫」,
「自動 車 」,…
} となる はずで ある.
すな わち 自分 自身を 含 んでい な い よ うなすべ ての概 念の集 合が 「概 念」となる.
と ころで 「概 念」 は 「概 念」 に含ま れ ていたのだ ろ う が ? 自分 自身を含んでい ない よ う なすべ て の概 念 の集 合 がf
概 念」であると定義し たのだか ら 「概念」寉{概 念 1, 概 念 2…
}; 「概念」 (1) で なけれぽな ら ない.
し か し (1) を 認 め るな ら ば 「概 念」は 「概 念」 に含まれてい ない のだ か ら 「概 念」∈「概 念」 でな け ればな ら ない.
これ は Russell の パ ラ ドッ ク ス (Wilder,
1965;広瀬・
横田,
1985)と 呼ばれる も の に他な ら ない.
こ のようなパ ラ ドッ クスを 防 ぐた め に は,
「犬 」,
「猫」,
「自動 車」…
よ うな概 念と,
「概 念」 とは タイプが 異なるとしな け ればなる ま い.
以上の議 論は単なる言 葉の遊び以上の心 理 学 的 意 味を持つ.
例え ぽ 「動 物」は {犬1,
犬2,…,
猫1,
猫 2,
…,
牛 1,
牛 2,
…
} で は な く て {「犬 」, 「猫」, 厂牛」,…
} で な くてはならな くなる,
する と 犬 1¢r
動物 」 とい うこと}こなる,
であ れば犬 1,
犬 2,
犬 3…
とい うように個 物である要 素を指し示すこ とができる.
とこ ろが,
「現実」の場 合に は こ の よ う な指し示 しが難し く外延的な定 義は 不自然で ある3 ).
ま た抽 象 概 念で な くて も「水 」,
「空 気」の ように 英 語で 不可 算名 詞と よ ぽ れ る ような概 念に対して も 同様 の個 別 性 分 節 性の欠 如が観 察で きる の で,
集 合 表 現は難 しい か もしれない.
同様に 「美しい 」,
「大 きい」, 「楽し い二の よ うな 形 容 詞 で表される 概 念 も集合表現は難し い.
何が 「美しい 」事物で あるこ と を決め るのは難しい し, 仮に これ が可能である とし て も,
それらの事 物を 並 べ ても 「美しい」 とい う概 念を表 現し たことに はな らな い であろ う.
つ ぎに,
集合 が たっ た一
つ の要 素しか 含 ま ない場 合を 考えてみ よ う.
例えぽ,
「伊 藤 博 文一
,
「イ ギリス 」とい o た 固 有名 詞で表現 される 概 念 がある.
こ の よ うな概 念 を, 外 延 的 定 義 するのは間違い ではない が同語反復的 で あ り,
何 もの かを 「まとめ る 」 とい う操作にな じ ま ない,
すなわ ち 「伊藤博 文 」= {伊 藤 搏 文 }には たい した 意 昧は ない の である (3.
7 参 照〉,
最 後に,
「上にある」,
「離れて い る」とい っ た状態を 表 す 概 念,
「泳 ぐ」や 「食べ る 」の よ う な動 詞で表 現さ れ る 概念を考え て み よう、
この よ うな 概 念は関係やシ ス テ ム の状 態を表 現 する.
伝統的 立 場で は 関係 概 念と呼ばれる もの であり,
多くの場 合 抽 象 概 念でもある、
論 理 学の用 語を用い るならば二の 種の概 念は (多 項 ) 述 語 と 呼 ば れ,
認知科 学で は フ レー
ム (ス キー
マ で もよい)に相 当 する.
「上にある 」とい う概 念を考え て見よ う.
物体 X と物 体y
の 空間 的 位 置 関 係の 全体を全 体 集 合 と 考え,
その要 素で ある個々 の空 間 配 置に対 して,
「X が Y の上にあ る」 とい う命題が成 立 する か否か で部 分 集 合を考え るこ とがで きる.
しか しこ の 部 分 集 合は 「上にある 」とい う 概 念が 成立 し てい る事例の 集 合で はあっ て も 「上にあ る」 とい う概念その もの で は ない.
なぜ な ら,
こ の 部 分 集合 は 「(Y が X の)下にある 」 とい う概念の事例 集 合 と見な し て もよい し,
「(X
とY
亡よ) 重なっ てい ない」 とい う概 念の事 例 集 合と見 なし て も よい か らで ある.
こ の よ うに関 係が成 立して い る事態の集合を示すこ とは可 能だ が,
この 事 態の 集 合は概念その もの とは 言いが た い.
以 上の こ と を 論 理 学 の言 葉で 言 え ば,
f
を 厂上にあ る」 とい う述語 と し, X, y を空 間 内の物 体の位 置 とする な らば,
ア (X,
)’
)が真で ある場 合 と偽である 場 合 は 区 別 できるが,
命題関 数が真と な る事態の集合はf
とい う 3) 例 えば {太 郎 君に とっ て の現 実,
花子さんに とっ て の現実,…
}とい う集 合はつ くれるが,
指 し示せ な い とい う点につ い て は同 じこ とである,
20 基 礎心 理 学 研 究 第
10
巻 第 1号 述 語その もの で はない とい うこ とで あ る.
同 じこと を認 知 科 学の 言葉でいえぽ,
f
とは フ レー
ムで あ り,.
V,
s は slot・
filler
であり,
フ レー
ムその もの とフ レー
ム が活 性 化さ れ る状 況の集 合を同一
視 するこ とは で きない とい う こ とである,
し か しな が ら,
数学 的集 合論で は しばしば 関 係を順 序 対の集 合と同一
視 する (Hallnos,
1960,
訳 書,
p.
48).
心 理 学で もReitman
(1965)や古田 (1972
)は こ の よ う な 立場を とる.
し か し Frege (藤 村編 訳,
1988)は・
早 くか ら記 号の意 義 (Sin
コ)と意 味 (Bedeutung )との 区 別を 行い,
同 じ意 味を持つ 記 号で も意 義 が 異なる揚含 があるこ と を 主張してい る (野 本,
19.
88a
).
すな わ ち同 じ集 舎で あっ て も,
異な る意 義に よっ て導 出 される場 合 がある わけであ り,
概 念とは こ の 意 義に深 く関 係 する の である,
野本 (1988b)に ょれ ぽ,
Frege の意 義と意 味の 関 係は,
Carnap (1956)の内包 と外 延の区 別に ほぼ対 応 す るd>.
関 係 概念 と は 関 数概 念 で も あ る がCassirer
(1910)は実 体概念と関数 概 念を区 別 する ことの重 要 性・
必要 性を早 くか ら主張し てい る.
簡単に 言 う と,
実体概 念とは第一
実 体の集 合と そ れ を 類 と して ま とめあげてい く際に生じ る集 合であ り,
関 数 概 念は 上で述べ た述 語や 数学・
物理学 等で用い られる関数で表現さ れ る概念であ る.
前 者はか た ま りで あり, 後者は働 きで ある、
彼は関 数 概 念 と実 体 概 念と は区 別さ れ るべ きもの であ り,
多 く の近代科 学の概念は類 概 念と して でな く,
関 数 概 念とし て把 握さ れるべ きであ る とする.
集 含で表 現さ れるの は 主 として実 体 概 念 的な類 概 念であり, 関数概 念を集 合表 現 するのは難し く,
時とし て不可能で ある こ とになる.
少な く とも以 上の4
種 類 (抽 象 概 念,
形 容詞的 概 念,
個 体概 念,
関 係 概 念 )の概 念を集 合 表 現 するの は不 自然 で あ ろ う.
し か し,
注 目 し な ければ なら ない の は,
集 合 に よっ てある種の概念が表現 出来ない場 合で も,
その よ4
) 1) 宵の 明星と宵の明星は同一
である.
2
)宵の 明星は明けの明星 と同
一
である.
とい う二 つ の文 章はまっ たく同じことを主 張し てい るのであろ うか ?一
つ の解 釈は どち らの文 も1「金 星が 金星で ある 」 とい う 自明の理を示して い るとい うものである.
し か し ながら,
「文の認 識 価 笹の説 明に当たっ て は,
単に文の意味= 真理値 (従っ て,
その構成要素名の意味= 表示 対 象 )に劣らず,
その 意 味の与え ら れ方, 規定の仕 方 が 含ま れ る文の意義=
思 想 (その構成要 素 名の意 義)が考慮に い れられ ねばならない」 (野本,
1988a,
pp.
33−
34 ).
分析哲 学の諸 家の用 語 法は非 常に大 ざっ ばに言っ てSinn
=
concept=
intension,
Bedeutung=
extension のよ う に ま と め ら れ る よ うに 思 われる
.
た だ しSinn
は意 味・
意義,
Bedeutung は意 味・
意 義・
指示対 象 等と訳さ れ混 乱し てい るの で注意を要 する,
うな概 念が一
つ の 「思 考の対 象」 と される な らば その集 合は常につ くりうる こと,
すな わ ち概 念の集合は存在 す ることである.
す なわち,{「現 実 」, 「未 来」…
」や{「伊藤 博文 」,
「福沢 諭 吉」,
「西郷隆盛」,…
}や {「泳 ぐ」,
「歩 く」,
「走る」…
}} 等々ぽ立派な集 含で ある.
この意 味で は集 含 論は強 力であり,
少なくと も名辞の存 在 する よう な概 念はその上位 概 念の事 例と し て集合 表 現の構 成 要 素 と なりうるの である.
(そ れで も 「重 力」 や 「伊 藤 [専文 」 や 「泳 ぐ」は 事 例の 集 合 と し て表 現 できない の である が).
そし て こ こ に,
集合論的 概 念 表 現が過 大 評価さ れ て きた一
因があ りそ うで ある,
とに か くどんな概念で あ っ て も一
応 集 合 論 的 枠 組みのな か に取り込 むことがで き るので ある,
し か し,
そ れ ら が事例の集合 として の人 工 概念に よっ て表 現で きるか どうか はまっ た く別 問 題であ る.
3.
1・
2 特性の集 合を想 定 する場 合 (内包 的 定 義 ) 「現実」や 「美しい」 や 「伊 藤 博 文」 や 「上}こある」を 研 究 する にあたっ てそ れ らの概 念の もつ 様々な 特 性 (あ るい は 属 性, 特 徴 で も よい.
これらにつ い ては後ほど 3.
3.
1
で議 論したい)の集合を用い るのならば 集 合論的 定 式 化と言 える とい う立 場が可能である.
こ の 場 合は概 念は特 性に よっ て表現さ れ ること に な り,
いわゆる内包 的 集 合 定 義と な る.一
般に 内 包 的 集 合 定 義 とは 「α」≡
{xlx が 「α」である条 件} と い う形 式を取る.
例 えば (0
) 「現 実」=
{xlx が 「現 実」であるため の条 件} (1 ) 「犬二=
倒ツ が犬である条 件} (2) 等である,
まず 「現 実」の よ う な抽 象 概 念につ い て考え て み よ う.
仮に 「現 実 」 があ る特性の集合に よっ て 定義 可能 である として も, 「現実」の 事例 は存在 し ない.
3.
1,
1で述べ た と お り 「現実」 は 「犬 」 よ うに分節され た 存 在で はない点には何の変わ り も ない か らである.
そ れ で も,
もし 「現 実」であるため の条 件が特性の集合に よ っ て 「説 明 可 能 」であ る 場 合 は (これ は 非常に強い仮 定 である) 「現 実」;
{特 性1,
特 性2 …
} (3) とい う表 現 が可能であり,
これは一
種の集 合 表 現といえ る か もしれ ない,
ま たこ の 表現 は 論 理学的 意味 論におい て記 述 群 説 (記 述 束 説 )と呼 ばれるもの である (野 本,
198Sa
).
つ ぎに事 例が存 在 する 「犬」の例 を 考k
て み よ う.
もし 「y が 犬である条件」 が特性の集合に よっ て表 現できるのな ら, 外延 的定義である 「犬」≡
{犬 1,
犬 2,…
} (4)とい う表現も 「犬」
=
倒特性 1,
特性 2, ・
・
} も, さ らに (3)と同じ よ う に 「犬」=
{特 性 1,
特 性2,…
} 椎名 :「概念の概 念」の概 念 (5) (6 ) もすべ て可能であるこ とに な る.
さて同 じ内包 的 定 義で ある と言 わ れ る (5) と (6) (あ るいは (1)と (3))は ど こが 異な るの だろ うか? (5
)で は事 例集合 が特性集合 に よっ て指 定さ れ,
事 例集合 が概 念を表現 してい る.
で は特性集合 が直 接 的に概 念を表現 し てい る.
よっ て,
(4
)=
(5
) と なりうる が,
必 ず (4
)≠(6
)であ り,
(5
)≠ (6) なの であ る.
(6)の場 合には 「犬」の 具体的事例 と い う もの は どこ に も現れず,
概 念 「犬 」に対 し て特 性 1,
特性 2…
が あ て は ま る とい う説明 方式である,
個 体 とし て の事 例を想 定 する必要が ない のだか ら抽象的 概念に対 し て もこ の 説 明 方 式 は 使 用 叮能 なの である.
結 論 と し て,
(3
>の形の 内包 的 定 義は特 性 集 含が概 念 を 確 定 する の に充 分であるなら ば 可能である といえる.
そ し て (3) の よ う な 形式 が 集含表現の一
種で ある とする と,
事例は 存 在し な いが特 性の集 合に よっ て表現される概 念を認め ることに なる,
(5
)と の達い は以 上述べ た と お りであるが,
(5) あるい は は正式に は特 性を述 語と解 釈し て 「犬 」= {κi
特’
「生 1 (x)八特.
[生 2 (x)八…
} とする べ きで あろう.
こ こ で X は観察可 能な事物 とす るべ きである.
これに対し て (6>は,
(5)よ り 犬 (x)=
特 性1
(x)〈特 性 2 (κ)〈…
とい う形 を導 出し,
さ らに個 体 を 消 去して 犬=
特 [ 1〈特 性 2〈…
とした ものと考え ら れ る.
し か しこ の よう な表現はそ れ 自体 概 念 的 (言 語 的 )なもの と な り, Typical な 人工刺 激は作 成 し え ない.
従っ て,
概 念の内 包 的 定 義を考え る 際に も, 人 工概 念に よっ て表現できるの は 申:例 が存在す るタイプ の概 念である二 とになる,
これよ り,
人工概念 実 験の 文 脈の なかでは 〔5)の形式の 内 包 的 定 義のみ を 考慮す ればよい こ とに な る,
今までの議論では特性 とは何か につ いて定 義し ないで きた.
こ の 問 題について は 3.
3.
1 で 険討するこ とにす る,
3.
2 Concept とCategory
につ い て 今ま での議論で は ccncept とcategory との違いに つ い て も あいまい な ま まに し て お いた.
この 二 つ の語・
は2
工 少なくと も実験心理学系の 概 念 研 究 の論 文 におい て は (意 図 的に ま たは 無 意 識的に) 区 別 さ れず;ご使用 される こ と も多いが,
その本 来の意 味におい て はか なりの差 異 が あるよ うに 思われる.
Category
の哲 学や生物分 類 学 (Jardine
&Sibson,
1971)での用 法は さて お い て,
心 理 学の用 法で は (ま た辞 書に書かれて いる 日常 的 な 用 法では)Class や Group と ほ ぼ 同義とされ
,
CQncept
は Idea とほ ぼ同 義と さ れる.
多くの 研 究でConcept
とCategory
が交 換 可 能 なの は,
「概 念は異なっ た刺激の集.
合に対し て,
その要 素を同等と見なすこ とに より成 立 す る 」 とい う概 念 観 を 採 用 してい る ため である.
前 述し た よ うに,
ク ラス ま たは類 と し て表 現 するの が不 自然 な概 念が多 数 存在するの に もか か わ らず,
こ の概念観の も と ではConcept
とCategory
を 区 別 する必 要が な くな る の である.Class
やGroup
を形 式 的に扱おうとする な ら ば その道 具ぽ 通 常集合論と な る が,
先に述べ た と お り ある種の概 念は集合 論にな じ まず,
従っ てConcept
とCategory
の同一
視も不可能にな る.
Category
とCon −
cept の関 係に は 2つ の立場が あると考え るこ とがで ぎ よ う
.
第1
の立 揚は,
類概 念 とし て のCategory
を Con−
cept の下位概 念 と 考 え る もの である.
例 え ば Piaget 派 の研 究ではCategory
に相 当 する用 語は Cla・
gs (類 )で あり,C・
oncept はその 上 位 概 念 として の地 位 を 保っ て い る (「クラス の概念 」の よ うな用 語 法が用い ら れる).
実験心 理学以外の 分 野での概念と い う語の使用 法につ い て は宮 本 (1982)が 示唆的である.
この本は概 念の問 題 の みを扱っ た 口本 語で唯一
のモ ノ グ ラフ であ ip,
様々な 「概 念」が 登 場 する がそ れ らの間の 関 係に つ いて は統一
的に 記 述されてい ない.
先に述べた よ うに類慨念と関 係 概念の未 分 化が その原因 と なっ てい る の で はない だろ う か? 第 2 の立場 は,
categery を外 延,
concept を内 包と捉える立 場である.
実験 心 理 学 系の研 究は こ の立 場 で ある よ 引こ思 われる.
そし て,
外 延・
内 包の関 係を古 典 的に捉え る と,
その対応 関 係よ り両 者 を 区別する必要 は なくなるの であるE
3.
2。
1 人工刺 激 集 合の意 味 こ こ ま での考 察で明らか になっ たこ と は,
ある種の概 念に は集合 論 的 定 式 化が 不自然不可 能であ るこ と,
すな わちある種の概 念に は 「個々 の 事例 」 とい うものが存 在 し ない か,
判 然 と分 離して示せない か,
ある い は 「ま と め る」とい う操 作に な じ ま ない,
とい うことである.
従 っ て,
とりあ え ず 結 論で きる こと は,
「集合論的な定式 化の できない概念」特に抽象概 念の 存 在であ り,
さ らに 重 要なこ と は,
この ような概 念は事 例が作 り得ない の だ か ら, (少な くと も 現 在まで に考 案 された) 人工概 念に22
基 礎 心 理 学 研 究 第 10 巻 第 1号 よっ て は表 現不能で ある ことで ある.
そこ で以後 本 論で は,
主 として事 例 が存在し集合 論 的に定式化 可能な概念 (類 概 念 >1このみに 考察の 対象を 限 定 する,
こ の 限 定 下 で は,
概念,
category , 集合は ほぼ 同 義の語と し て使用 する こと がで きる,
3.
3
集 合 (類 ) としての概 念の外 包 的 定 義 と 内包 的 定 義 さ て考察の対 象を,
集合論的定式化が可能な類概 念の みに限定 することに した わ けだ が,
こ の限定は 「概念は 異 なっ た刺激の集合に対して, その要素を 同 等と見なす こ とに よ り成 立 する 」とい う概 念観が 妥 当である 場合 だ けを考 察の対 象 とするこ と を意 味 する.
さてつ ぎの 問題 は,
外 延・
内 包の具 体 的 内 容で ある.
内包に よ る定 義と は特 性 集 合や集 合 を生成 する手 続 き を指し示 す 場 合,
す なわ ち集 合の要 素 間に存 在 する な ん らか の内 的構造を利 用 する場 合で あり,
外延に よる定義 とは列 挙に よ る場 合である,
外 延に よ る定 義と は 天 下 り 釣に この 要 素は この集舎に 含 ま れ る と 宣 言 す る もの で あ り,
内 包 的 定義と は なぜ集合に属 するのか とい う理由 を 述ぺ てい るのだとい う解 釈 も可 能であろう.
内包と外 延は一
体となっ た もの であ り,
内 包の推 定は 必然 的に外 延の確 定を も た ら し,
外延の確定は内包の確 定をもたらす と考える のが伝統 的な主張である,
すな わ ち, 「X」とい う概 念がある とき 「X」;
{x1,
x2…
}=
=
{Ptb,が 「X
」である条 件 } とい う関 係が成 り立ち,
時 として「「X
」で ある条 件」 が 特 性の集 合で表 現される わけで ある.
し か し,
しば しば 指摘される よ うに問題は これほ ど単純で はない.
内包は 明瞭であ るが外延がは っ ぎり示せ ない概 念や,
外 延は確 定 し ても内包が不 明の概 念が か な り存 在 するのである.
現 実の概 念1こお い て,
外 延と内 包に よっ て集 合 (概 念 ) が定 義さ れる仕 方に は形 式 的に言っ て大 体 表 1の 4つ の ケー
スが ありうる,
この 表が有意 味で ある た めには確 定,
未確定と は どの よ う な状 態か を はっ き り さ せ る 必 要 があろ う.
外延が確定 する と は 1)集合の要 素を 「全て 枚挙 」できること である (強い 意 味 での外延 確 定 ).
た だし要 素 数が多 けれ ば枚 挙に非 常 な時 間がか か る等の要 因 を考え な けれ ばな る まい.
こ の 問題 は3.
4で 考察す る.
こ こ で は 2)「個物が与 えられた時に,
ほ とん ど確実 に集 合へ の帰 属が判 定できる」 場 合に も外 延 確 定 と考 え ることにする (弱い 意 味での外延 確 定 ).
同様に強い意 味で の内包の確 定とは 「集 合に帰 属させ る方 法,
基準等 を 明確に述べ るこ とがで きる 」状 態を さすこ とにする,
ま た 弱 い 意味の 内包の 確 定 とは 「集 合 に 帰属さ れる方 法, 基準等を 不明 確に 述べ るこ とがで きる」こと とす 表 1 内 包 外 延 確 定 不確定 確 定 工型 3 型 不確定 型 型 24宀
る.
以上の定 義で は 「ほ と ん ど確 実 」「明確に」 とい うあ い ま い な表 現が使用さ れて い るが,
こ の点につ い て は具 体 的 例を挙 げ なが ら考 えて みたい.
まず 外 延の確 定して いる 1型2型の場 合につ い て考 え る,
外 延 が確定 してい る概 念の 例は かな り存 在 する.
「太 陽 系の惑星」「将 棋の駒」「ア メ リ カ の州」「歴 代 天 皇」 「シュー
ベ ル トの 歌 曲」等である.
これ らの概 念におい て は,
有限の事例 を 具体 的に数え 上げて列 挙し て い くこ とが可能である,
し か し 「太 陽 系の惑 星 」のように これ か ら要 素 数が変化 する 可能 性がある場 合 も ある し,
集 合 へ の帰属 が確 率 的であっ た リフ ァ ジー
である場 合 もある だ ろ う.
こ の種の不確定 性の問 題は 3,
5 で扱 うこ と とし とりあk
ず棚上げし て お く.
外延確 定に は も う一
つ の形 式が想定されて い る.
そ れは全 事 例 を 数 え上げる ことは できない が,
事 例を与えられ ればそ れが集 合に属 するか ど うか を ほ とん ど 確実に決定で きる 場合である.
例えば 「自動車 」 「(入間の)男性」等である.
この場 合必ずしも 内 包が明か である必 要ぽ ない.
次 ぎに外延が未確定の 3型4型につ い て考えて み る.
3 型はいわ@る科 学 的 概 念に多い.
た とえ ば 「三 角 形」 「二次関数」 など,
この不確 定 性は要 素 数の 多さに起 因 する,
また 「犬」 「鳥 」 とい っ た自然 概 念の ほ とん ど 4 型であると思われる,
外 延 未 確 定 となる場 合には少 な く と も2種 類 ある.
すな わ ち外 延が (実 質 的 )に無 限大 と な る場合,
お よび 概 念の 境 界 が (確 率 論 的 意味で ま た は フ ァ ジー
集 合 論 的意味で)不明瞭である場合で ある.
こ れらは3、
4,
3.
5 で順 次 議 論 する ことになる,
さ きほど内 包の確 定 とは 「集 合に帰 属させ る方 法, 基 準 等を な ん らか の形で述べ ることができること」である と定 義 した,
さて,
「太陽系の 惑星 」の外延は列 挙に よっ て確定 するが 内 包は確定 するの だ ろうか? {太 陽 系の 惑星}を内包 的に定 義 する ため に は,
「太 陽 系の 惑星であ る 」 とい う述語を用意し て 「太 陽系の惑星」= {.
v]x は 太陽系の惑星である} (7 ) とい う定 義の しかた がある (例 えば, 坂本・
坂井,1971)。
こ の立場で は 「太 陽 系の惑 星 」は 1型である.
の は恒 真 的である の で間 違い で は ないが,
内 包に よ る定義とは 別の形 式を取 りうるので ないかと も考え られよ う.
す な椎名 「概念の概 念 」の概 念
23
わち 「太 陽系の惑 星」=
{xlX は太 陽の ま わ りを 回っ てい る 〈 x は 星である} (8> もし に よっ て 内包が確 定し た と 主張で きるの な ら,
やは り「太 陽 系の惑星 」 は 1型である.
さ らに 徹 底させ れ ば 「太 陽 系の惑 星 」={X……
}…
の部 分に天 文 学の教科書に書い てある 文章,
数 式を書 く (9) で もよ い,
これは 「理諭」に よる 説 明と言 えよ う(Mur ・
phy &Nledin,1985
).
以 上のような 内 包 的 定 義で問題 と な る の は,
「まわ り を 回る」, 「星である」等の 他の概 念を持ち 出 して来 る 点 で,
究 極 的には 「ある」と は 厂動 く」 とは何かを 説 明し な け ればな ら なくなる、
ある概 念を用いて説 明し ても,
その他の 概 念が不 明 確で は説 明し たことにな ら ない の か も しれ ない.
よっ て,
こ の立場で は1
型3
型の概 念は存 在せずすべて 2型4型で ある ことになる.
結局,
内包 確 定 型の概 念の存 在を認め る か どうか は,
条 件 部 分 を 十 分 に確 定し て い ると認め るかど うか にか かわる問 題で あ ろ う.
も し認めない な らば何らか の不確定性を考 慮し.
なけ れぽな る まい.
古 典 的 人工概 念は 1型と考え られ る もの が多い.
3.
3.
1
特 性}こ つ い て つ ぎに,
特}こ内 包 とし て条 件 部 分に特 性 (属性,
特 徴) の集合 を用い る 場合を考えて み た い.
特 性とは何か とい う問いに対し て は,
「概 念に対し て成 立 する文 章 (命題) で ある 」 と答 える のが,
数 量 的な特性 を も含む ことに な i) , 最 も包括的であろう,
こ の立 場で は 「X」に対し て 「x」は青い.
「x
」は広い,
「x」は犬で は ない,
トムは 「X」 が好 きだ.
「X」 は液 体で でぎて お り, 温 度は お お む ね 30度以 下である,
等が全て特性であること}こなる.
X を主 語にするよ う な形 式が一
般 的であろ うが,
他の形 式 も許 容 するべ きで あろ う.
こ の表 現 法は特性に対して最も緩やか な定義 を あた えてい る.
しか しこ の ような定 義で は自由 す ぎる と い う議 論も 可能であろ う.Smith
& Medin (19Sl,
p.
15)は特 性に対 する制 約と し 1) 概念間の 関 係を完全に 記 述し,
かつ それ 自体 分 解可能でない こと,
2)特性 は多 数の概念に適 応可能であり,
従っ てそ れ 自身の数 は少な い 方がよい こと,
3)心理 学 的 実 在 性がある こ と, を挙げ て い る.
1) と2
)は,
要 因数ぽ少なくかつ 説 明力は高 く あるべ きだ とい う,
矛盾する要 求であり,
3)も きわ めて 難しい問 題であ る.1
)と 2)を 同時に満たすた めには, 特 性 間の関係 に 注 目 して よ り 「本 質 的 」な特性 集 合を抽 出 する 必要があろう.
これは特性 を定義 的 特 性と特 徴 的 特 性に分け る考え方 (Smith
,Shoben
, &Lips,
1974).
あるい は surface 特性 と deep 特 性 (Medin &