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2型糖尿病に対する電気刺激療法

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Academic year: 2021

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はじめに

 糖尿病とは,インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を 主徴とする代謝性疾患群であり,複数の遺伝素因に加えて様々 な環境要因が組み合わされて発症することが明らかにされてい る。国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)が 2012 年に発表した「Diabetes Atlas Update 2012」によると, 成人(20 ∼ 79 歳)における世界の糖尿病人口は約 3 億 7,100 万人とみられ,糖尿病有病率は約 8.3%に上ると報告されてい る1)。その数は今後も増え続け,2030 年には約 5 億 5,200 万人, 約 9.9%に達すると予測されており,21 世紀のもっとも重大な 健康問題のひとつとされている。我が国においても,厚生労働 省が 2007(平成 19)年に実施した「国民健康・栄養調査」で は,糖尿病治療中,もしくは糖尿病が強く疑われる人は 890 万 人,糖尿病予備群も含めると 2,210 万人に上ると報告されてお り2),その数は 1997(平成 9)年に実施された同調査と比較し て約 1.6 倍に増え,増加ペースが加速している。また,2008(平 成 20)年の「患者調査の概況」では全入院患者の 16%が糖尿 病に関連し,脳血管障害や腎臓病などの合併が多いことが指摘 され3),それらの医療費が国家財政を圧迫する勢いとなってい る。今後,高齢化のさらなる進展に伴い,疾病の治療や介護に 要する経済的・社会的損失はますます大きくなると予測され, その対策が重要な課題となっている。  一般に有酸素運動は,2 型糖尿病の発症を防止するのみでな く,その病態のひとつであるインスリン抵抗性を効果的に改 善し,生体全体の代謝状態を正常へと導くことが知られてい る4‒6)。また,2009 年に発表されたシステマティックレビュー の結果から,筋力トレーニングをはじめとするレジスタンス運 動が,筋重量の増大(筋肥大)を促すことでインスリン抵抗性 を改善し,良好な血糖コントロールの維持に有効であることが 示されている7)。「Clinical practice guideline(CPG)レビュー: 糖尿病診療ガイドライン」においても,有酸素運動とレジスタ ンス運動を組み合わせて行うことで,骨格筋の質的および量的 改善を図ることが推奨されている8)。さらに,運動はインスリ ン作用に依存せず骨格筋内への糖取り込みを増加させることか ら9),これらの根拠を基に臨床現場では運動療法が多くの糖尿 病患者に適応されている。しかしながら,超高齢社会を迎えた 今日,寝たきり患者や慢性的な運動不足者,体力の低下した 人々,あるいは過度の肥満や整形外科疾患を有するなどの理由 から積極的な運動を十分に行えない糖尿病患者が多数存在す る。したがって,運動が制限される患者を対象にした場合にお いても優れた運動効果をもたらすことができる,運動負荷以外 の治療方法の早期開発が求められている。 電気刺激を利用した骨格筋収縮活動とその 2 型糖尿病 治療への応用  運動負荷以外の方法で近年,2 型糖尿病の治療を目的とした 応用が試みられているものとしては,骨格筋電気刺激を利用し た方法がある。この手法は,筋組織を司る末梢運動神経に対し て,表面電極を用いて低周波電気パルス刺激を施すことによ り,刺激に応じた筋の収縮活動を人為的に誘発するものであ り,寝たきり患者や体力が低下した患者であっても施行可能で ある。電気刺激誘発性の筋収縮活動は,その結果としての心拍 数と血圧の増加,酸素摂取量の増加,骨格筋内グリコーゲン含 量の消費など,自発的な軽い運動でみられるものと同様の生体 反応を誘導することが明らかにされており10)11),健常者や糖 尿病患者を対象とした臨床研究において骨格筋電気刺激の糖代 謝に及ぼす効果が検討されてきた。たとえば,健常者を用い た Hamada らの研究10)では,6.5 × 8.5 cm の表面電極を,両 側の大腿四頭筋の遠位部と近位部 2 ヵ所のモータポイントに貼 付し,0.2 ms,20 Hz の両極性矩形波電気パルスを 1 秒間隔の on ‐ off サイクルで 20 分間負荷したところ,電気刺激を負荷 している 20 分間のみでなく,刺激終了後少なくとも 90 分間に わたって糖(グルコース)消費量が増加したと報告している。 このグルコース消費量は,最大酸素摂取量(maximal oxygen uptake: V̇O2max)の 40%程度の運動強度に相当する自転車エ

2 型糖尿病に対する電気刺激療法

─インスリン抵抗性改善作用の可能性─

岩 田 全 広

1)2)

 渡 辺 裕 之

3)

 土田和可子

1)2)

 鈴 木 重 行

2)

ランチョンセミナー

Electrical Stimulation Therapy for Type 2 Diabetes: The Possi-bility of Improvement in Insulin Resistance

1) 日本福祉大学健康科学部リハビリテーション学科 (〒 475‒0012 愛知県半田市東生見町 26‒2)

Masahiro Iwata, PT, Wakako Tsuchida, PT: Department of Rehabilitation, Faculty of Health Sciences, Nihon Fukushi University

2) 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 Masahiro Iwata, PT, Wakako Tsuchida, PT, Shigeyuki Suzuki, PT:

Program in Physical and Occupational Therapy, Graduate School of Medicine, Nagoya University

3) 愛知県健康福祉部健康対策局医務国保課

Hiroyuki Watanabe, PT: Medical Affairs and National Health Insurance Division, Department of Health and Public Welfare, Aichi Prefectural Government

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ルゴメーター運動を 30 分間実施した場合と同程度であり12), 電気刺激誘発性の筋収縮活動によっても,糖代謝に対して急性 の運動効果を十分に発揮できることを示している。  糖代謝に対する運動の急性効果は,上述のように電気刺激誘 発性の筋収縮活動によっても十分にもたらされるが,耐糖能異 常の是正やインスリン抵抗性の改善を目的とするためには,通 常の運動療法と同様に,定期的かつ持続的な運動刺激を長期間 にわたり処置する必要がある。Poole ら13)は,日常生活活動 に支障のない 2 型糖尿病患者に対して,12 週間にわたり電気 刺激を負荷して,その糖尿病病態に及ぼす繰り返し(トレーニ ング)効果について報告している。具体的には,2 型糖尿病を 有する 8 名(年齢 46 ∼ 61 歳,body mass index[BMI]= 25 ∼ 35 kg/m2,hemoglobin A1c[HbA1c]が 9%以下,合併症 なし)に対して,8.0 × 13.0 cm の表面電極を,腹筋 4 ヵ所と 両側の大腿四頭筋の 2 ヵ所に貼付し,50 Hz,8 秒間隔の on ‐ off サイクルの電気刺激を,最初の 2 週間で 1 日 1 時間から 1 日 4 時間へと徐々に刺激時間を延長させ,その後 10 週間にわたっ て 1 日 4 時間(毎日)負荷している。その結果,電気刺激によ る筋収縮活動は,Hamada ら10)11)の研究結果と同様に,急性 効果(心拍数と血圧の増加やグルコース消費量の増加)をもた らすが,2 型糖尿病の病態に対しては有効な治療効果は観察さ れなかった。すなわち,12 週間の電気刺激介入前・後におい て,空腹時血糖値,インスリン値,HbA1c 値,BMI 値,血中 脂肪値とそのプロファイルなどの指標で有意な改善効果はみら れず,経口糖負荷試験やグルコースクランプ法(高インスリン 正常血糖クランプ法)を用いたインスリン感受性検査において も有意な効果は観察されなかった。唯一,脂肪代謝に対するイ ンスリン作用がわずかに改善しているが,長期にわたる電気刺 激を施行しても,2 型糖尿病に対して有効な治療効果は得られ なかったと結論している。将来的な臨床応用を考慮すると,こ れらの相違した結果は,糖代謝の改善を目的とした骨格筋電気 刺激の効果について画一化された条件下での詳細な検討が必要 不可欠であることを示している。  この点について,比較的実験条件を統一できる健常ラットに 対して,Chang ら14)は,鍼電極を用いて 30 分間の電気刺激 (15 Hz,10 mA)を負荷したところ,刺激中から刺激後の耐糖 能が有意に改善したと報告している。また,Johansson ら15) は,インスリン抵抗性モデルラットに対して鍼電極を用いた電 気刺激(80 Hz,0.8 ∼ 1.4 mA)を,最初の 3 週間で 1 日 15 分 間から 1 日 25 分間へと徐々に刺激時間を延長させ,その後 1 ∼ 2 週間にわたって 1 日 25 分間,週 5 回の頻度で実施したと ころ,インスリン感受性が亢進したと報告している。したがっ て,動物実験においては,生体への電気刺激負荷によっても運 動と同様に糖代謝を改善することができるとの結果が得られて いる。しかし,これまでの動物実験は,すべて手術侵襲や鍼電 極を必要とするものであり,理学療法介入として臨床応用が可 能な経皮的電気刺激を用いた報告はなかった。そこで我々の研 究グループは,糖代謝に対する骨格筋経皮的電気刺激の効果を 検討し臨床応用に向けた基礎的なデータを得ることを目的とし て,健常ラットを対象に表面電極を用いた骨格筋電気刺激が糖 代謝に与える影響を検討してきた。その結果,健常ラットに対 して 1 日 30 分間の骨格筋経皮的電気刺激を 7 日間(毎日)負 荷すると,健常ラットの耐糖能およびインスリン感受性の亢進 が認められた16)。 骨格筋経皮的電気刺激がインスリン抵抗性モデルラッ トの糖代謝に及ぼす効果  すでに述べたように,健常ラット骨格筋において繰り返され る経皮的電気刺激は,耐糖能およびインスリン感受性を亢進さ せるが16),2 型糖尿病モデルやインスリン抵抗性モデルといっ た病態モデルの糖代謝に対する骨格筋経皮的電気刺激の効果は 明らかでない。そこで今回,高脂肪食摂取によりインスリン抵 抗性を呈するラットを対象に用いて,継続的な骨格筋電気刺激 がインスリン抵抗性モデルラットの糖代謝に及ぼす影響を検討 した。 1.材料と方法  今回の実験は,名古屋大学動物実験委員会保健学部会に実験 計画書を提出し,承認を受けた後(承認番号:023-019),名古 屋大学が定める動物実験指針に準じて実施した。 1)実験動物  実験動物には 6 週齢の SD 系雄性ラット(体重 170 ∼ 210 g) を使用し,室温 25℃,12 時間明暗サイクル下にて水を自由に 摂取できる環境においた。インスリン抵抗性モデルラットは, ラットに高脂肪食(日本クレア,High Fat Diet[HFD]32) を 3 週間摂取させることで作成した。normal 群(n = 5)はこ の間,通常の餌を与えて飼育した。3 週間の高脂肪食摂取後, ラットをさらに麻酔のみを 7 日間投与する群(HFD 群,n = 6) と,電気刺激を 7 日間負荷する群(HFD + ES 群,n = 6)に 振り分けた。normal 群は電気刺激を負荷せず,麻酔のみを 7 日間投与した。なお,飼料に関しては,normal 群は自由摂取 としたが,通常食飼育を行う群と高脂肪食飼育を行う群の総摂 取カロリーの差異をなくすため,HFD 群と HFD + ES 群は 1 日の最大摂取量を 20 g(約 102 kcal)とした。 2)電気刺激の負荷方法  電気刺激装置は SEN-7203(日本光電)を使用した。電気刺 激を負荷する前にラットにイソフルランの吸入麻酔を行い,両 側大腿部を剃毛した。そして,両側の大腿四頭筋の近位部(− 極)と遠位部(+極)に位置する皮膚に 1.0 × 1.0 cm の表面電 極(Techno Link)を貼付した後,1 日 1 回,30 分間の電気刺 激を負荷した。刺激条件は周波数 20 Hz,パルス幅 200 μs,電 流 1.6 mA,duty cycle 1 秒 on ‐ off とした。刺激中,ラットの 後肢は固定せず,大腿四頭筋の収縮と股関節および膝関節の関 節運動を視認した。 3) 高 イ ン ス リ ン 正 常 血 糖 ク ラ ン プ 法(hyperinsulinemic euglycemic clamp 法)  高インスリン正常血糖クランプ法は,Koshinaka ら17)の方 法に準じて以下のように実施した。  覚醒下で高インスリン正常血糖クランプ法を実施するため に,すべてのラットの右頸静脈と左頸動脈にカテーテルを挿入 する手術を行った。具体的には,2 日目の電気刺激の直前にペ ントバルビタールナトリウム(40 mg/kg)を腹腔内投与して

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麻酔を行い,右頸静脈と左頸動脈を露出してカテーテルをそれ ぞれに挿入し,右頸静脈に挿入したカテーテルよりペニシリン G(10,000 U/ml)を注入した。その後,カテーテル内での凝固 防止のためにポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone: 以下,PVP)を両カテーテル内に充填し,留めピンで栓をした。 栓をしたカテーテル端は側∼後頸部皮下に沿って頭頂部まで通 し,縫合糸によって頭頂部の皮膚と固定した。手術後はラット をケージに戻し,通常飼育した。  高インスリン正常血糖クランプ法は,7 回目の電気刺激終了 から 20 ∼ 24 時間後に実施した。ラットは 16 時間以上絶食さ せ,ケージ内を自由移動できるようにした。頸静脈のカテーテ ルは,カテーテル内の PVP を除去した後,インスリン(Novo Nordisk)溶液と 20%グルコース溶液を注入するために用い た。頸動脈のカテーテルは , 血糖値の測定に用いる血液を採血 するために用いた。血糖値が安定していることを確認した後, インスリン溶液とグルコース溶液の注入を同時に開始した。高 インスリン正常血糖クランプ法の実施時間は 180 分間とした。 インスリン注入速度は,3.0 mU/kg/min(低濃度注入)および 30.0 mU/kg/min(高濃度注入)の 2 段階とし,各々 90 分間ず つ連続的に実施した。グルコース注入速度については,血糖値 を 10 分毎に測定し空腹時血糖値と同じレベルになるように調 節した。そして,血糖値が安定した各クランプの後半 30 分間 の平均グルコース注入率(glucose infusion rate:以下,GIR) を算出し,インスリン注入速度が 3.0 mU/kg/min 時の GIR を インスリン感受性の指標,30.0 mU/kg/min 時の GIR をインス リン反応性の指標とした。 4)随時血糖値  実験開始時(6 週齢)と介入開始前(9 週齢)にラットの尾 静脈より採血を行い,随時血糖値を測定した。 5)筋採取  実験期間終了後は,すべてのラットの頸静脈カテーテルより ペントバルビタールナトリウム(20 mg/kg)を注入して麻酔 を行った。そして,右大腿直筋を摘出して筋湿重量を測定した。 6)統計処理  得られた結果は,平均値±標準偏差で表記した。各群間の比 較には,対応のない t 検定(2 群の場合)および一元配置分散 分析(3 群以上の場合)を適用し,有意差を判定した。そして, 一元配置分散分析にて有意差を認めた場合には,多重比較検定 に Tukey 法を適用し,2 群間の比較を行った。なお,すべて の統計手法とも有意水準は 5%未満とした。 2.結果  高インスリン正常血糖クランプ法において,インスリン注 入速度が 3.0 mU/kg/min の場合の GIR をみると,HFD + ES 群,HFD 群の GIR は normal 群のそれより有意に低値を示し, HFD + ES 群と HFD 群を比較すると HFD + ES 群が有意に 高値を示した(図 1)。次に,インスリン注入速度が 30.0 mU/ kg/min の場合の GIR をみると,HFD 群は normal 群に比べ有 意に低値を示した。また,HFD + ES 群と HFD 群を比較する と HFD + ES 群が有意に高値を示した(図 1)。   大 腿 直 筋 の 筋 湿 重 量 は,3 群 間 に は 有 意 差 を 認 め な か っ た(HFD + ES 群;0.93 ± 0.04 g,HFD 群;0.95 ± 0.04 g, normal 群;0.96 ± 0.04 g)。  随時血糖値は,各群ともに 3 週間の高脂肪食飼育(normal 群は通常食飼育)の前・後で有意差を認めなかった(図 2)。 3.考察  インスリン抵抗性を in vivo で評価する方法として,現在, もっとも正統的と考えられているものは,高インスリン正常血 糖クランプ法である18)。先行研究では,高インスリン正常血 糖クランプ法の実施に際して,インスリンを低濃度で注入する 場合の GIR は,生理的なインスリン濃度下における末梢組織 図 1  インスリン抵抗性モデルラットにおける骨格筋電気刺激 のインスリン作用(グルコース注入率)に及ぼす効果 縦軸はグルコース注入率(glucose infusion rate:GIR)を示 し,横軸は群を示す.左側にはインスリン注入速度が 3.0 mU/ kg/min(低濃度注入)時の GIR を示しており,右側にはイ ンスリン注入速度が 30.0 mU/kg/min(高濃度注入)時の GIR を示している.(*: P < 0.05,**: P < 0.01) 図 2 随時血糖値の変化 縦軸は随時血糖値を示し,横軸は高脂肪食飼育(normal 群は通常食飼育)の期間(日)を示す.

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への糖取り込み量を評価しており,おもにインスリン受容体結 合部でのインスリン作用(インスリン感受性)を反映する。一 方,インスリンを高濃度で注入する場合には,非生理的なイン スリン濃度下で肝臓からの糖産生がほぼ完全に抑制され,脂肪 の糖取り込みもわずか数%になるため,GIR は末梢組織の中で も骨格筋の糖取り込みの最大反応を評価することになり,おも にインスリン受容体結合部以降でのインスリン作用(インスリ ン反応性)を反映すると報告されている19)20)。  今回の実験では,高脂肪食を 3 週間摂取させることでイン スリン抵抗性モデルラットの作成を試みた。病態モデル作成 の成否を判定する目的で,2 段階の高インスリン正常血糖ク ランプ法を実施した結果,低濃度(3.0 mU/kg/min),高濃度 (30.0 mU/kg/min)の各段階ともに HFD 群の GIR は,normal 群のそれより有意に低値を示した。これらの結果は,ラットに 3 週間の高脂肪食を負荷するとインスリン抵抗性(インスリン 感受性およびインスリン反応性の低下)が生じることを示した Han ら21)や Kraegen ら22)の報告と類似しており,本実験で 用いた高脂肪食の負荷量や期間によってもインスリン抵抗性が 惹起されたといえる。  一方,随時血糖値に関しては,各群ともに 3 週間の高脂肪食 摂取を行う前・後で変化を認めなかった。先行研究において も,3 週間程度の比較的短期間の高脂肪食摂取では,インスリ ン抵抗性は惹起されるものの,血糖値は不変であったとする報 告が多く21‒23),著明な高血糖を呈する 2 型糖尿病モデルを作 成するには少なくとも 8 週間以上の高脂肪食摂取が必要である とされている24‒26)。実際,8 週間以上の長期間にわたり高脂 肪食を摂取させたラットでは,インスリン抵抗性に加えて,骨 格筋細胞内のインスリン受容体機能低下,インスリンシグナル 伝達の障害,糖輸送担体 4 型(glucose transporter 4:以下, GLUT4)の形質膜へのトランスロケーションの障害などが生 じることが確認されている27)28)。つまり,これらの報告から 推察すると,高脂肪食の継続摂取に伴い上記の因子が集積して いくことで,著明な高血糖,体重増加,肝臓重量の増大などの 2 型糖尿病に特徴的な症状を呈するモデルに進展すると考えら れる。これらのことから,本実験では,2 型糖尿病の前段階で あるインスリン抵抗性を呈した病態モデルが作成できたものと 推察される。  次に,HFD + ES 群の GIR の結果をみると,低濃度(3.0 mU/ kg/min),高濃度(30.0 mU/kg/min)の各段階ともに HFD 群 のそれより有意に高値を示し,電気刺激の継続的実施による インスリン感受性,インスリン反応性の改善効果が認められ た。糖代謝に対する運動の繰り返し(トレーニング)効果につ いて先行研究を渉猟すると,2 型糖尿病患者において 7 日間の 有酸素運動(トレッドミル歩行と自転車エルゴメーターを組み 合わせた運動プログラム)を実施することで,経口糖負荷試験 による耐糖能レベルや,高インスリン正常血糖クランプ法によ るインスリン感受性ならびにインスリン反応性が有意に改善し た29)30)との報告や,動物実験の成績ではあるが,健常ラット に対する 5 ∼ 8 日間の水泳運動は,単離筋におけるインスリ ン依存性糖取り込み量と GLUT4 タンパク質発現量を増加させ た31)32)との報告がなされている。また,持久性運動を行うこ とによって活動筋ではミトコンドリア自体のサイズが大きくな るとともに,密度(骨格筋の単位体積あたりのミトコンドリア 数)も増加するが33),このような持久性運動によるミトコン ドリア・バイオジェネシスは,脂肪酸のβ酸化を促進し,脂肪 組織から放出される遊離脂肪酸を処理しやすくすることでイン スリン感受性の亢進に寄与していると考えられている34)。従 来,骨格筋におけるミトコンドリア・バイオジェネシスは,運 動開始後,数週間かけて引き起こされると考えられてきたが, 実際は,1 週間程度の持久性運動によっても生じることが報告 されている35)。これらの知見を踏まえると,本実験では 7 日 間の電気刺激負荷によって骨格筋内の GLUT4 タンパク質発現 量やミトコンドリア・バイオジェネシスが増加していた可能性 が考えられる。そして,これらの増加に起因する骨格筋の糖取 り込み促進が生じた結果,インスリン抵抗性の改善が観察され たものであろうと推測される。しかし,今回の実験では血糖値 のみしか測定しておらず,GLUT4 タンパク質発現量やミトコ ンドリア・バイオジェネシスの変化に関しては推測の域を脱し ない。したがって,今後は GLUT4 タンパク質の検出をはじめ, ミトコンドリアのサイズや数の解析などを行い,電気刺激によ るインスリン抵抗性改善のメカニズムについて検討を行うこと が必要である。 おわりに  今回,骨格筋における糖代謝に対する経皮的電気刺激の効果 を検討し臨床応用に向けた基礎的なデータを得ることを目的と して,インスリン抵抗性モデルラットを対象に実験を行った。 その結果,7 日間という短期間の電気刺激介入によってインス リン作用(インスリン感受性およびインスリン反応性)の改善 効果が得られた。このことは,動物実験の結果ではあるものの, 骨格筋電気刺激が 2 型糖尿病の治療方法として有用である可能 性を示唆している。そして,これは整形外科疾患を有する患者 や,体力の低下した患者など積極的な運動を十分に行えない糖 尿病患者においても実施可能な手法であり,今後は臨床応用に ついても検討していきたい。 文  献

1) International Diabetes Federation [Internet]. IDF Diabetes Atlas Update 2012. Available from: http://www.idf.org/ diabetesatlas/5e/Update2012 2) 厚生労働省ホームページ 平成 19 年度国民健康・栄養調査結果の 概要について.http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1225-5a. html(2013 年 7 月 1 日引用) 3) 厚生労働省ホームページ 平成 20 年(2008)患者調査の概況. http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/08/(2013 年 7 月 1 日引用)

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(5)

http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/9/med0004/T0003027(2013 年 7 月 1 日引用)

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