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L. ベヒシュタイン ベーラーの洞窟 - 民話 訳・注・解題

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題   十 六 世 紀 の 半 ば 頃 の こ と、 靴 屋 の ヨ ー ナ ス (( ( 親 マ イ ス タ ー 方 は (( ( テ ュ ー リ ン ゲ ン な る ア ル ン シ ュ タ ッ ト (( ( で 食 う や 食 わ ず の 暮 ら し だった。生まれた時からまずまず男一匹のこの歳に至るまで、なんかこう悪意を持った運命に付き 纏 まと われているあん ばい。早く両親に死に別れたが、残された資産なんぞこれっぽっちも無い。靴屋の 職 ゲ ゼ レ 人 として他郷に出掛け、ニュル ンベル ク (( ( 、アウクスブル ク (( ( 、フランクフル ト (( ( 等等といった大きな自由帝国都 市 (( ( で仕事をやって来た。もっとも、父祖 の町に戻りたい、としょっちゅう憧れていたから、いくらかの貯えができるとこれを懐に、旅杖を押っ取り、 故 ふるさと 郷 へ てくてく帰ったわけ。間もなくちっぽけな家を買い込み、親方の権利を獲得、諸道具を揃えた。さてヨーナス親方と なってみれば、どこぞに操正しい娘はいないかな、とあいなり、この探し物は 代 パ ー テ 父 シ (( ( ルデックナーの子である貞潔な 乙女エリーゼ・ バ ル バ ラ (( ( に落ち着いた。この娘は敬虔で淑やかで善良、もっとも物質的な富には恵まれておらず、新 たに店開きした夫に婚資として持参したのはまことにもってささやかなもの。しかしながら二人とも、せっせと両手 を働かせて実直に生計を立てて行こう、神様が子どもを授けてくださるなら、神様を畏れ敬い、品行方正な生涯を送 るよう 躾 しつ けることができますように、というのが念願。ちっぽけな家を買い込み、婚礼を挙げ、新居の家具調度をし

  

ベーラーの洞窟

 

──

フォルクスメルヒェン

ルートヴィヒ・ベヒシュタイン

鈴木滿

訳・注・解題

(2)

武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 つらえると、ヨーナス親方の貯えは綺麗さっぱり無くなったが、挫けるどころか、 倦 う まずたゆまず仕事に励み、伴侶 のリースヒェンは誠心誠意その介添えに当たる。彼女が巧みな手わざで婦人用の靴を縫えば、夫はもっと荒い仕事を こなす。間もなく彼らは一段と素晴らしい家庭の幸せに恵まれることになり、ヨーナス親方はまたひとしお熱心に稼 ぎ、 愛 いと しい女房に向かって、もっと体をいたわらなきゃあいけないよ、としげしげ言ったもの。でも、こちらは嬉し さ一杯の目付きでご亭主の取り越し苦労をひょいといなすのだった。エリーゼは母親になった。おっかさんそっくり の可愛らしい男の子で、彼女の膝に抱かれて、父ちゃんにきゃっきゃと笑い掛ける。薔薇色 頬 ほ っぺのちびちゃんが両 親 の 足 許 に 座 り 込 み、 [ 床 に 転 が っ て い る ] 古 い 長 靴 や 上 履 き 靴 ((( ( を 玩 具 に し て い る と、 仕 事 は い つ も ず ん ず ん 捗 る。 こうして一年が平穏無事に過ぎ去った。そりゃ贅沢なんぞはこの矮小な家に足を踏み入れることはなかったが、愛と 健康は住人から離れたことはなく、満足と喜びがささやかな食事にしばしば風味を添えたもの。二人目は女の子で、 小さな家族の数と夫婦の喜びを増やした。その時、悪性の熱病がこの町の子どもたちの間に蔓延。ヨーナス親方のち びたちにも襲い掛かり、まずさっさと女の子を奪い去った。病いの床に就いた男の子の枕元で四週間というもの、懊 悩する両親は祈り続けた。彼らの胸はその前の子どもの死で張り裂けんばかりだったが。しかし、哀訴嘆願は役に立 たず、死の天使は男の子を天に連れて昇った。そこでは妹のちっちゃな魂が可愛い薔薇色の雲にふわふわ乗っかって、 お兄ちゃんを迎えに出たもの。男の子の顔は穏やかに 蒼 あお 褪 ざ め、甘美な夢が廻りに漂っているかのようで、死んでから もなお微笑みを浮かべていた。悲嘆に沈む母親は小さい頬を撫でさすったが、これは死の冷たさ。彼女は可哀そうに 高く悲鳴を挙げると、魂の抜け殻となった愛児の 臥 ふし 床 ど の傍らで失神した。   この子の埋葬が済んで、ものの一週間も経っていなかった。不幸せな両親は宵も 更 ふ けた頃、寂しい小部屋に黙りこ くって座っていた。外では嵐が轟轟と 荒 すさ び、窓の隙間からひゅうひゅう吹き込んだので、 洋 ラ ン プ 灯 の焔はたえずちらちら

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 揺れ、そのため壁に奇妙な影が動き回っているように思われた。働き疲れでエリーゼ奥さんの両手は膝に垂れてしま い、目は段段閉じて行った。ヨーナス親方はふと仕事を脇に置くと、食器 棚 ((( ( から聖書を取り下ろし、精巧な彫刻で飾 られ、詰め物をした革張りの大型安楽椅子を机にもっと近づけた。戸外の嵐はますます荒荒しく猛り狂い、諸処の鎧 戸をがたがたさせ、家家の屋根から瓦を落とした。ヨーナス親方は黒革の縁無し帽を脱ぐと、両の手を組み合わせ、 聖書をひもとき、詩篇第九十 篇 ((( ( を敬虔に読んだ。   「 主 しゅ よ、 汝 なんじ は常に我らの隠れ家にてましませり。山いまだ 生 な り出でず、汝いまだ地と世界とを作りたまわざりしと き、 永 とこしえ 遠 より汝は神なり。   汝人を死なしめてのたまわく、人の子よ、汝ら帰れ、と。汝の前には 千 ち 年 とせ も既に過ぐる昨日のごとく、 夜 よ の ま 間 の 一 ひととき 刻 に同じなればなり。   汝 こ れ ら を 大 水 の ご と く 流 れ 去 ら し め た ま う。 彼 ら は 一 ひと 夜 よ の 眠 り の ご と く、 早 く も 枯 る る 青 草 の ご と し。 朝 あした に 生 え出でて早くも枯るるなり。しかして──」   ──「火事だあっ」という声が 戦 おのの きに満ちて通り中に響き渡った。 「火事だ、火事だ」と繰り返しての叫び。人人 が横丁を馳せめぐる。太鼓の連打と鐘の唸りがこれに混じり、凄まじい悲鳴を嵐と競う。仰天したヨーナス親方が鎧 戸を押し開くと、天に宙する血紅色の輝きが小部屋をさっと照らした。   「ああ、イエス様」 。ヨーナスのおかみさんは両手を揉み絞り、震えながらおろおろ歩き回った。その時火の手が近 隣の家家に襲い掛かり、がつがつと屋根を舐め、乾いた 破 は ふ 風 を燃やすと、とてつもなく大きくなり、突風に煽られて 二、 三 本 の 通 り に ぱ ち ぱ ち と 拡 が っ た か と 思 う と、 再 び 天 を も 焦 が さ ん ば か り に 燃 え 上 が っ た。 く ぐ も っ た ず し ん と いう音がし、それから幾つもの声が入り混じった絶叫が聞こえた。燃え尽きた家屋が倒壊し、労働者を何人か押し潰

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 したのだった。もう五軒が焼け、焔がこの小さい家に向かった。ヨーナスのおかみさんは僅かばかりの寝具を敷布に 包み、急いで助けに来た数人の友だちが、夫婦の晴れ着が入っている柏材の櫃を家から担ぎ出してくれた。ヨーナス 親方は聖書を手にすると、大変なごったがえしの中を妻を連れて脱出した。折から二軒目と三軒目ががらがらと崩れ、 ヨーナス親方のちっぽけな家も間もなく炎炎と燃え上がった。   エリーゼ奥さんの従兄の一人が慈善心を発揮、焼け出されの二人を自分の住まいに迎え入れ、一部屋をあてがった。   エリーゼ・ヨーナス夫人は二十二歳で、まだ花の盛りの美しさだった。そもそもこれが情け深い従兄──以前女房 を虐待して死なせちまったことがある──が彼女に対して優しい関心を抱くに至った要因。彼は大いにちや ほ やする ことによってこの関心を表明、どんな底意を持っているかこの可愛い若妻に、遠回しなんかじゃなく気づかせたので ある。ヨーナス親方はこやつにとって目の上のたん瘤だったから、他の親方衆の許で賃銭稼ぎをするよう強いられ、 帰って来るのはやっとこ昼と夜だけという始末。彼が戻ると、従兄のヨースト──稼業は亜麻布織 匠 ((( ( ──は苦虫を噛 み潰し、なんのかのとぶつくさ言い散らしては、そこいらの扉をばたあんと閉める。エリーゼ奥さんはすぐと相手の 底意を見抜いたが、余計な心配を掛けまい、と夫には何も言わなかった。来る日も来る日も、ヨーナスが留守になる た ん び、 従 兄 殿 は 貞 節 な 妻 を 図 図 し く も 恥 知 ら ず な 科 せ り ふ 白 で 責 め 苛 さいな み、 彼 女 が、 夫 に 打 ち 明 け ま す、 と 脅 す と、 家 か ら出て行け、そうすれば──とこやつはぬかしたもの──路地で寝る羽目になるかもな、と威嚇するのだった。一度 などは我を忘れて、実力行使に及び、彼女を「ひっくりかえそう」としたが、これは身のためにはならなかった。エ リーゼ奥さんは小さな可愛らしい握り 拳 こぶし を 拵 こしら えて、相手の顔にしたたかな一撃をお見舞いしたので、こちらは唇と 鼻から血がたらたらのていたらくとなって、急いで彼女を放した次第。冗談だってば、と言い紛らしはしたが、心中 ひそかに報復を誓う。人に言い触らしたいことを、こりゃあくれぐれも秘密にな、とおしゃべりする連中はその時代

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 から既に存在した。今日 ほ ど多くはないにしてもね。こういう手合いに向かってヨーストは、かのうら若き女性の内 緒のご厚誼に与っていることを自慢、ただし、こいつはおおっぴらにしないでくれや、と頼んだわけ。   三日と経たないうちにもう、一人の友だちがこのでき立て ほ や ほ やの噂話をヨーナス親方に伝えたし、かみさん連 中や娘っこどもは噴泉の端[井戸端]で何の 咎 とが も無い奥さんを断罪した。哀れな靴屋の 萎 しお れかけた愛の喜びの花をあ っさりへし折るにはこれで充分。子どもたちは死んでしまい、小さな家は 烏 う 有 ゆう に帰し、金も無ければ、暮らし向きが 良くなる見通しも無い。そして真心籠めていとおしんだ女房は不貞を働くと来ている。これ以上過酷な運命の打撃が またとあろうか。夕方遅く家に戻ると、従兄は意地悪で陰険なにやにや笑いで、リースヒェンは無邪気で明るい眼差 しで彼を迎えた。けれどもヨーナスは妻にただいまも ろくすっぽ 言わずじまい。それどころか、妻の澄んだ 碧 あお い瞳を 見ると、心中に疑念が 萌 きざ すのだった。彼はいらいらと、どうしたよいものやら見当も付かぬまま、床に就いた。する と夢を見た。散歩に出掛け、高い巖から転落した。ところが素晴らしく綺麗な男の子が彼を引き留め、ずっと遠くの とある草原に連れて行った。男の子は草の中に座り込んで、遊び始めた。彼も一緒に遊ばなければならなかった。男 の子は金貨をどっさり持っていて、それを草の中に投げるのだった。ヨーナスは探さなければならなかったが、見つ けたものは彼のものになった。突然妻のエリーゼもそこにいて、男の子と遊んだ。すると大きな蛇が一匹、草叢から 出現、妻に巻きつくと、その心臓に飛び掛かった。けれども男の子が黄金の 笞 むち で蛇を打つと、蛇は死んで下に落ちた。 ヨーナス親方は驚いた。そして蛇が死んで落ちると、はっと目が覚めた。まだ真っ暗な夜中だった。また寝入って、 今度は熟睡したので、翌朝、この日は日曜だったが、奥さんは夫が起きるまで長いこと揺さぶらねばならなかった。 ヨーナスはもう夢のことは覚えていなかった。   この時従兄がやって来て、どうにも気の毒だが、といった様子を装い、夫婦に、家を出てもらいたい、と告げた。

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 なぜそうするのか、との 埒 らち も無い口実の数数には不自由せぬ。惨めな二人は立ちすくんで、お互いを見つめ合った。 エリーゼは愁いと不安の眼差しで。なにしろ夜の宿りがなくなったのだから。ヨーナスは 忿 ふんまん 懣 を胸に秘めて歯を喰い しばり、帽子を手に取ると、一言も言わず、歩き出した。   天気は晴朗だった。ヨーナス親方は快適な谷間に足を踏み入れた。どちらを向いても葡萄が支柱に絡んでいる。彼 は物思いに沈みながら進んだ。考えが 千 ち ぢ 千 に交錯する。間もなくとある高い巖頭に立ったが、これは垂直に屹立して ぞっとするような奈落を 見 み 霽 は るかせる。あと一歩でヨーナスは谷底でこなごなになってしまう。その時目に見えない 誘 惑 者 が 近 づ い て、 こ う 囁 い た。 「 何 を ぐ ず ぐ ず し て い る の だ。 お ま え の 苦 し み に け り を 付 け て し ま え。 神 は お ま え を見捨てたのだから」 。これに対して内なるより良い声が言う。 「忌まわしい遣り方で人生を終わってよいものか。そ して女房をあの誘惑者の手に任せてよいものか」 。するとまたしても誘惑の声。 「おまえの女房は再婚できるさ。それ と も お ま え、 物 乞 い に な っ て 土 地 か ら 土 地 へ 彷 さ ま よ 徨 い 歩 き、 そ の 上、 他 の 男 の 子 ど も た ち を 養 っ て や ろ う っ て の か 」。 そこで邪な者の声がより良い感覚を凌いだ。   「神よ、わたしの罪 業 ((( ( を許したまえ。そして女房の面倒を見てやってくださいまし」 。そう祈ったヨーナス親方は恐 ろしい断崖の前に進み出、目を 瞑 つむ った。──この瞬間、力強い手にぐいと引き戻され、乱暴に地面に転がされた。同 時に背中を一つしたたかにどやされるのを感じた。がばと跳ね起き、憤慨して殴った者を振り返ったが、それでも自 分がまだ山の頂にいるのが心中嬉しかった。と、てもさても奇妙な衣装を纏った一人のちっぽけな男の小人が頭上の 絶壁の上に立っており、死ぬ ほ どの大笑いに取り掛かっている。この時ヨーナス親方は自分が見た夢のことを思い出 した。   「あんたはだれだね」と彼は消え消えの声で小人に訊ねた。なにしろ怖くて全身ぞくぞくしたからで。

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題   小人は 呵 か か 呵 大笑しているため返辞ができないでいたが、高い崖からぱっと飛び降りるなり、仰天しているヨーナス の隣に立ち、ぐるりと一回転して、こう言った。 「わしと一緒に来るがいい。散歩いたそう」 。それから、どうして巖 頭から身を投げようとしたのか問い質したが、そうしながらも滑稽な 顰 しか めっ面に終始。いくらか気を取り直したヨー ナ ス 親 方 は 悩 み ご と の あ り っ た け を 縷 る る 縷 物 語 っ た。 愁 嘆 の 顛 て ん ま つ 末 を 話 し 終 え る と、 「 お ぬ し は ば か だ 」 と 小 人 は の た も うたが、それきり黙って、よたよたした足取りでひたすら前を行く。   そこでヨーナスは仔細にあちらを観察した。ちびすけで、その両足は胴体に較べるなんともかとも変てこりん、脛 は ト ル コ 人 の 彎 サ ー ベ ル 刀 み た い に 半 月 形 で あ る。 皿 型 の 釦 ぼたん の 付 い た 黒 い 上 着 を 一 着 に 及 び、 襟 は は だ け て い た。 両 眼 は 一 対の眼鏡の玉のよう。髪の毛の色は鈍い鼠色に近く、頭には先の尖った黒い小さな縁無し帽を被っている。ヨーナス 親方はこれまでこんな小人についぞお目に掛かったことはない。彼は勇気を出して、小人の上着の裾を引っ張り、相 手 が さ っ と 振 り 向 い て、 じ っ と こ ち ら を 凝 視 す る と、 「 あ ん た は な ん て 名 前 だ ね 」 と 訊 ね た。 す る と ち び す け は そ っ く り 返 り、 む か っ と し た 様 子 で ((( ( こ う 言 っ た。 「 わ し は ヒ ュ ー ゲ ル パ ッ チ ュ ((( ( と 申 す。 し た が そ れ が お ぬ し に な ん の 関 わ り が あ る 」。 そ う し て 射 る よ う な 目 付 き で 睨 にら ん だ の で、 ヨ ー ナ ス 親 方 は ま こ と に 気 味 が 悪 く な り、 そ れ か ら は ず っ と だんまりで通した。   小 こ 径 みち は荒涼 寂 せきばく 寞 となる一方。両側は禿山で、真昼の太陽は燃えるような熱さで照りつける。ヨーナス親方は奇妙な 案内人を道連れにしたことをだんだん後悔し始めた。やがて小人は立ち止まり、口笛を吹く。すると 橉 りん 木 ぼく の ((( ( 生垣の下 の枯れた草叢から三匹の緑色の 蜥 と か げ 蜴 が跳び出し、小人の体に駆け上がった。小人は蜥蜴たちを手に乗せ、二言三言も にゃもにゃと呟くと、また走り去らせた。それから道は谷から出て上り坂になり、険しい山を登ることになったので、 ヨーナス親方は小人の後に 跟 つ いて行くのがやっとだった。頂上に着くと、またしても両脇が崖になったので、頸の骨

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 をおっぺしょる危険が付き纏った。けれども妙ちきりんなちびすけはますます足を速め、漸く立ち止まった。ヨーナ ス 親 方 が 息 せ き 切 っ て 後 を 追 い、 そ こ ま で 辿 り 着 く と、 相 手 は 巖 の 中 に 通 じ て い る 穴 の 前 に 立 っ て い た。 「 わ し は こ こに住んでおる」とヒューゲルパッチュ殿は言った。 「一緒に中へ入れ」 。そして電光のように狭い開口部に跳び込ん だ。   ヨーナス親方はびくびくものでこれに従った。しばらくの間腹這いで進まねばならなかったが、とうとう洞窟は広 く な り、 立 ち 上 が る こ と が で き た。 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の ((( ( 皿 の よ う な 目 玉 は こ の 暗 闇 の 中 で 光 を 発 し て い た。 い わ く「 も う す ぐ わ しらは遠路遥遥やってまいった目的地に着く。そしておぬしにゃこんなに歩いたのを後悔させんよ」 。   侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 が 三 度 巨 おお き な 巖 の 割 れ 目 を 叩 く と、 こ れ は ぐ ぐ っ と 開 い た。 ヒ ュ ー ゲ ル パ ッ チ ュ は 怖 く て 物 も 言 え な い ヨ ー ナスの手を取り、中へ入らせた。すると狭い扉はまたさっと閉じた。ヨーナスは立っているのもやっと。なにしろ世 間から隔絶されて、生きながら埋葬されたのだから。しかし案内人はしっかりと彼を導いて無数の階段をどんどん深 く深くに下りて行った。   やがて二人が足を踏み入れた広い平地は一面穏やかな薄明かりに照らされていた。空の色はしかとは分からず、緑 と青と灰色とが入り混じったもの。太陽も無ければ月も無い。ふさふさした苔が地面を覆い、そこを幾筋かの白銀の ように輝くせせらぎが横切っている。辺りを森閑とした静けさが支配、ただ時折見霽るかせない遠方から琴の響きの ような音が聞こえて来る。遠くを見ることができないのは、銀灰色の霧の 面 ヴェール 紗 が全てを覆って神秘にぼんやりとさせ ているからで。   「 怖 が る で な い 」 と ヒ ュ ー ゲ ル パ ッ チ ュ は ヨ ー ナ ス に 言 っ た。 「 お ぬ し が お る の は 善 良 王 と 添 え 名 さ れ る 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 王 ボ ヘ リ ー ア ((( ( の 地 下 の 王 国 で な。 剣 け ん の ん 呑 な こ と に 遭 わ せ は せ ぬ 」。 こ の 時 堂 堂 た る 建 物 が 霧 の 中 か ら 現 れ、 頭 で っ か ち の

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 侏 ツヴェルク 儒 たちが何人も二人の傍を忍びやかに通り過ぎ、和やかな楽の音が聞こえて来た。   彼らは宮殿に入った。ヒューゲルパッチュが 余 よ 所 そ 者 もの を伴って姿を現すと、一同うやうやしくあとずさった。この宮 殿内の壮麗さはなんとも素晴らしかった。四壁は金属製の鏡でできてお り ((( ( 、床は貴重な大理石の板を敷き詰めたもの で、 こ れ に は 目 も 文 あや に き ら め く 宝 石 類 が 象 ぞ う が ん 嵌 さ れ て 多 彩 で 美 し い さ ま ざ ま な 形 を 描 き 出 し て い る。 や が て 二 人 の 僕 しもべ が高い広間の幾つもの扉を開け放った。何千もの灯火が、輝く 枝 シ ャ ン デ リ ヤ 付燭台 と鏡の壁とから、 皓 こう 皓 こう と来着者たちを迎えた。 広間の中央にある卓には全侍臣を従えた王が豪奢な装飾を施した 雪 ア ラ バ ス タ ー 華石膏 の椅子に座し、お妃である小さな素晴らし く麗しい 女 ツ ヴ ェ ル ギ ン 性侏儒 が ((( ( 並んでいた。両者とも、巧みな 伎 わ ざ 倆 を凝らし、真珠と 金 ダイアモンド 剛石 を鏤めた黄金の冠を戴き、その衣装 にはこの上なく典雅な刺繍が施されていた。王の左側の席が一つ空いていたが、ヒューゲルパッチュは ボ ヘリーア王 の 御 前 で 深 深 と 三 度 お 辞 儀 を し、 王 の 隣 に 腰 を 下 ろ し た。 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の 宮 廷 の 全 て の 貴 顕・ 貴 婦 人 が 王 の 総 理 大 臣 に 低 頭 し た。 ヒ ュ ー ゲ ル パ ッ チ ュ は そ う だ っ た の だ。 一 同 壮 麗 な 身 な り だ っ た。 彼 ら は 銀 糸 で 縫 い 取 り を し た 黒 い 平 バ レ ッ ト らな鍔無し帽 を被り、これに 金 ダイアモンド 剛石 の留め飾りと色とりどりの羽根の前立てを付け、当時の最新流行に従い、黒い 短上着と 寛 ゆる やかな半 洋 ズ ボ ン 袴 を纏い、鼠の皮で綺麗に縫い上げた手袋を 嵌 は め、黒い 朝 ハ ム ス タ ー 鮮鼠 の毛皮製のちっちゃな可愛い 半 はん 長 ちょう 靴 か を 履 い て い た。 二 十 四 人 の 竪 ハ ル フ ェ 琴 奏 者 が 明 る い 広 間 の ぐ る り に 座 り、 二 十 四 人 の 僕 た ち が あ ち こ ち で ご 馳 走 を 運 び、 二 十 四 人 の こ よ な く 愛 ら し い 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の 乙 女 ら が 小 さ な 水 晶 の 酒 盃 に ひ っ き り な し に な み な み と 繰 り 返 し お 酌 を し て廻る。ヨーナス親方も座らざるを得なかった。だれもが愛想よく笑い掛けたので、恐怖は消え去り、愉快に 美 うまざけ 酒 を 傾けた。やがて王が合図すると、二十四の 竪 ハルフェ 琴 が見事な和音で斉奏され、白銀のように清らかな声で 竪 ハルフェ 琴 奏者が歌う。    暗い大地の懐深く、薄明の中に我ら棲む。

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号    黄 き ん 金 の太陽、また 月 ルーナ の優しき光を仰がずに。    されどここでは争いが我らを分かつこともなく、    静かな平和が続くのだ。    地下はいつでも穏やかで、地上は常に不和ばかり。    とりどりの花が咲き匂う、明るい地上は綺麗だが、    選り抜きの水晶が光を放つ地底もやはり美しい。    地上の民の貪欲が、宝を地中に埋め込めば、    我らの手許に落ちて来て、小人の民のものになる。    彼らが倦まず探すもの、地底深くの宝石や、    金や銀やは全てこれ、我らが守護するものなるぞ。    されど無害な鉱夫らをお化けはたまた悪戯で決して脅かしたりはせぬ。    悪党だけを懲らしめる力を 神 ((( ( は与えたが。    憎しみ、妬みに苛められ、人間族から逃げて来た    者を我らは庇護しよう、我らが正義を与えよう。    万歳、 ボ ヘリーア、我らが王、王に歓び授けたまえ、    万歳、良王、正義王、偉大な王よ、万万歳。   弦の響きは次第に消えたが、王の息災を祈って打ち合わされた、巧みを凝らした水晶の酒盃は、まだ妙なる余韻が

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 鳴り止まず、そのうちしんと静まり返った。その時ヒューゲルパッチュが立ち上がり、三度鄭重に腰を屈め、耳を傾 ける一座にヨーナス親方の苦しみの顛末を物語った。こちらはその間小さな人人の人相の観 察 ((( ( に耽り、胸の 裡 うち で大笑 いしていた。なにしろ、ある者は小さな目、縫い針に通せるくらいに尖った小さな鼻で、右肩にはでかでかとした瘤 を背負い、またある者は 盤 ばん 広 びろ な顔と平べったい鼻の持ち主で、下唇が上唇より一ツォル 半 ((( ( も突き出している。そうか と思うと、鼻が唇の上までぶらさがっているというのも。さてまた全員脚は 彎 わんきょく 曲 、 家 あ ひ る 鴨 みたいなよたよた歩き。   さてヒューゲルパッチュが語り終え、王の御前で低頭すると、王はこう叫んだ。 「 施 せ 物 もつ 掛 がかり 、 ((( ( この気の毒なヨーナス を 宝 ほ う ぞ う 蔵 に 案 内 い た し、 黄 金 の 延 べ 棒 七 本、 白 銀 の 延 べ 棒 七 本、 金 ダ イ ア モ ン ド 剛 石 を 七 個、 七 掛 け る 七 本 の 真 珠 の 頸 飾 り を 遣 わ せ」 。──すると大蔵大臣は仰せ 畏 かしこ んだ。王の宝蔵に足を踏み入れた時、ヨーナスはなんと驚いたことか。きらきら と 磨 き 上 げ た 多 ブ リ リ ア ン ト 面 体 の 金 ダ イ ア モ ン ド 剛 石 、 紅 ル ビ ー 玉 、 青 サ フ ァ イ ア 玉 、 そ し て あ り と あ ら ゆ る 宝 石 の 夥 し い 色 の 輝 き に 真 っ 向 か ら 迎 え ら れ た 彼は、 燦 さんぜん 然 たる容器や道具類の数数をいくら眺めても見飽きなかった。施物掛である大蔵大臣、銀色巻き毛の愛想の 良 い 小 柄 な 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 が、 に こ に こ し な が ら 極 め て 貴 重 な 宝 石 と 金 銀 を あ ち こ ち の 衣 ポ ケ ッ ト 嚢 一 杯 に 詰 め 込 ん だ 上、 一 緒 に 饗 宴 の間に戻ってくれた時、ヨーナスの気持ちといったらなんともかんとも。善良王 ボ ヘリーアは立ち上がり、ヨーナス に、 近 こ う 寄 れ、 と 合 図、 こ ち ら が 御 前 に 片 膝 突 く と、 こ う 言 っ た。 「 そ ち は こ れ で 人 間 に 望 む こ と が で き る 物 を 悉 しっかい 皆 手にしたわけじゃ。王侯のごとき身にもなれようが、余の忠告に耳を貸す気があるなら、今のままでおるがよか ろう。そして余はずっとそちの友でいようぞ。そちのためにちょっとした畑を杭で囲っておく。この山の麓にの。こ れをそちに取らせる。豊かな稔りがあるはず。そちの妻はこれまで貞節を守って来た。楽しい未来がそちを待ってお る。だれにも言うでないぞ、どうしてこうした幸せに巡り合ったか。これからも正直者のままでおれよ。では、息災 でな。思い出のよすがに余の愛用の酒盃を遣わす。これで酒を酌むたび ボ ヘリーアを偲んでくれい」 。

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号   すると麗しい 侏 ツヴェルク 儒 の女王オルゼリ ア ((( ( が歩み寄り、こう言った。 「この指環をお取りなさい。そしてそなたの最愛の ひとにあげるのです。わらわからよろしく、とね。彼女が何か助けを必要とする折には、指に嵌めたこれを廻すだけ でよい」 。それから ボ ヘリーアは百合を 象 かたど った 王 おうしゃく 笏 で幸せなヨーナスに触れた。と、彼は深い眠りに陥った。   目を覚ますと、彼がいたのは飛び下りようとしたあの巖の下。町の鐘が十二時を告げた。夢を見たのではないか、 と思ったが、 衣 ポケット 嚢 の重みが、そうじゃないんだ、と納得させてくれた。すっかり心も軽くなり、意気揚揚と家路を急 いだ彼は、あっけに取られている従兄に家賃を支払い、手回しよく綺麗な住まいを借り受けると、貞節なエリーゼと ともにそこへ引き移った。ヨーナスは授かった幸運をちゃんと用心深く隠しおおせなかったので、妬み屋どもの注意 を大いに惹き付けた。最も中傷を試みたのは従兄で、なんともひどい噂をばらまいたが、その一方、あさましいおべ っ か を 尽 く し て 連 日 金 持 ち の 靴 屋 に 付 き 纏 い、 上 うわ 辺 べ を 飾 っ た 関 心 ぶ り で ヨ ー ナ ス 親 方 の 裕 福 さ が 何 に 由 来 す る の か 穿 せんさく 鑿 した。こちらはこの厄介者から逃れたい一心、くれぐれも内密に、という条件で、とうとう顛末の一部を明かし てしまった。と、同じ日の宵にもうヨースト親方は、これ以上織匠の椅子に座って糸紡ぎなんかする気は無く、手っ 取り早く金持ちになろう、と思い、 乙 ユングファーシュプルング 女 の 跳 躍 ─ ((( ( ─つまり、ヨーナス親方があの親切なヒューゲルパッチュに出逢 った巖はそう呼ばれているのだ──を目指して歩いていた。ヨーストは、だれも出て来ないかもしれない、とも考え たのだが、なんかこう闇雲に駆り立てられたのである。巖のてっぺんに着くか着かないかのうちに、二人の 不 ぶ 恰 かっ 好 こう な 地 グ ノ ー ム の精 ど ((( ( もが地中からにょっきり姿を現した。そこでヨーストは驚愕のあまり死人のように蒼褪めたが、なんとか勇 気を奮い起こして深深とお辞儀をした。しかしながら妖魔たちは挨拶なんぞにかけ構いなく、ものすごい嘲笑を浴び せるなり、逆らう相手を引っ摑み、崖下へぽうんと放り投げた。ヨーストは気を失った。これを別の連中が受け留め、 引っ張ったり、ひっかいたりして失神しているのを正気に戻した。それから谷を抜けてまっしぐら、 茨 いばら 、 薊 あざみ のきら

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 いなくそれらの上を引きずって山に登ると、かの巖穴の前にやって来た。そこでこれまた他の者らが出迎えた。その 容姿たるやいよいよもって異様醜怪。彼らはヨーストを白銀の鎖で縛り上げ、頭に黄金の冠を載せたが、いや、その 冠 の 重 い こ と と い っ た ら、 ほ と ん ど 地 べ た に 押 し 潰 さ れ ん ば か り。 そ れ か ら ま た し て も 出 て 来 た の は 無 慮 無 数 の 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の 群 で そ の 王 も 一 緒。 こ れ ら が ヨ ー ス ト を 前 に 押 し 立 て て、 一 同 地 面 の 上 に ふ わ ふ わ と 音 も 無 く 拡 が る。 こ の 広 い 谷 間 で ヨ ー ス ト に 聞 こ え る の は 掛 け ら れ た 鎖 の か ち ゃ か ち ゃ と い う 澄 ん だ 響 き と 自 分 自 身 の 跫 あ し お と 音 だ け。 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 は 皆 黒 装 束 で、 短 い 剣 を 佩 お び、 銘 銘 片 手 に 枝 無 し 紡 シ ュ ピ ン ネ ン ク ラ ウ ト ぎ 草 ( ((( ( 原 注 ) の 花 咲 き ほ こ る 茎 を 一 本 持 ち、 そ の 白 銀 の よ う な花花が月光に明るく輝いていた。行列は町を指していたが、とある高い山に来ると、正義王 ボ ヘリーアは腰を据え、 配下の者たちはその両脇に居流れた。谷の底まで、目路の及ぶ限り 侏 ツヴェルク 儒 たちが密集していた。   さて一方ヨーナス親方はどうも良からぬことを予感。すぐ戻るから、自分のことは心配しないでおくれ、と妻に告 げ る と、 穏 や か な 月 光 に 照 ら さ れ た、 静 か な 谷 へ と 出 掛 け た。 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の 全 て の 民 が そ こ に 集 っ て お り、 高 い 玉 座 に は 王 が 座 り、 ま た 不 実 な 従 兄 が 鎖 に 繫 が れ て い る の を 見 て、 彼 は な ん と も 驚 き、 急 い で 登 っ て 行 っ た。 「 あ の 者 は 死 罪 に当たる」と裁判官の 侏 ツヴェルク 儒 が厳かな声音で言った。 「突き落とせ」 。鎧に身を固めた二人目の 侏 ツヴェルク 儒 が近付き、絶望し たヨーストをむんずと摑んだ。その時ヨーナスは王の足許にがばと跪き、 「お慈悲を、王よ、お慈悲を」と懇願した。 す る と 王 の 額 に 掛 か っ て い た 逆 げ き り ん 鱗 の 暗 雲 は 散 り 散 り に な り、 彼 は に っ こ り し て、 こ う 言 っ た。 「 そ ち を 滅 ぼ そ う と し たあやつのためにそちが願うのであれば、あやつは許して遣わそう。したが」と命拾いをしたヨーストに向き直り、 こ う 続 け た。 「 我 ら の 手 か ら 逃 れ る こ と が で き る と は 思 う な。 ま た、 新 た な 悪 巧 み を 再 び 企 も う と も な。 そ の ほ う は 自分から我らの支配下に入った。我らはその ほ うがいずれへ参ろうとも見つけるぞ。いずれの地でもその ほ うを罰す ることができるのだ」 。王が語り終えると、低い 竪 ハルフェ 琴 の音色が響き、和やかな音色は、宵の 微 ゼフィロス 風 に運ばれてさざめい

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 た。    万歳、 ボ ヘリーア、我らが王、王に歓び授けたまえ、    万歳、良王、正義王、偉大な王よ、万万歳。   そ し て 突 然、 王 も 裁 判 官 も 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 た ち も 消 え 失 せ た。 銀 色 に き ら め く 霧 の 面 ヴ ェ ー ル 紗 が 谷 間 を 漂 っ て 行 き、 や が て 遠 く で 消え失せた。従兄のヨーストはヨーナス親方の足許に泣きながら崩折れ、犯した悪事の数数を告白し、命を助けても らったことを感謝し、ひたすら許しを乞い、幸せに恵まれた方は相手を許してやった。   何日かあと、ヨーナスはもらった畑に出掛け、その状態を検分しようとした。すると、これがもう耕され、 鋤 す き返 されているのを発見。しかし親切な 侏 ツヴェルク 儒 たちは一人も見つからなかった。   ヨーナス親方は貞節なエリーゼとともにこの上もなく幸せに安楽な暮らしを送った。陣痛の時一度だけ、静かな夜 更けに、エリーゼは指環を廻してあの親切な 女 ツ ヴ ェ ル ギ ン 性侏儒 に助けを求めた。王妃はまめまめしく介添えしてくれ、彼女は 可愛い女の子を分娩。その後エリーゼは次から次へ六人の子どもを産んで愛しい夫を喜ばせた。この子たちは皆成長 し て、 幸 せ に な っ た の で あ る。 ヨ ー ナ ス は た び た び 子 ど も や 孫 ら に 囲 ま れ て、 自 分 を 破 滅 か ら 救 っ て く れ た 善 良 な 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 た ち の 話 を 物 語 り、 善 良 な 王 が く れ た 優 美 な 酒 盃 を 感 謝 し な が ら 傾 け て 一 同 の 健 康 を 祈 っ た も の。 こ の 話 を 聞 き、ひとつ運を開こうと、あの谷へ入った者はたくさんいたが、何も見えず、何も聞こえなかった。ヨーナス親方は 八十四歳で世を去り、多くの人人に追悼され、同胞市民の全てに賞讃された。なにしろ敬虔で働き者、慈善を施し、 親 切 だ っ た か ら。 ア ル ン シ ュ タ ッ ト 近 郊 の 例 の 美 し い 谷 は 彼 の 名 に ち な み、 今 こ ん に ち 日 に 至 る ま で ヨ ー ナ ス 谷 タール と ((( ( 呼 ば れ て

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 お り、 そ こ に あ る 高 い 巖 の 一 つ、 ボ ヘ リ ー ア が 法 廷 を 開 い た あ の 巖 は 王 ケ ー ニ ヒ ス シ ュ ト ゥ ー ル の 玉 座 と ((( ( い う。 ヨ ー ナ ス 親 方 の 物 語 に よ って知られるようになった ボ ヘリーアなる名は後に縮められ、まず バ エリー ア ((( ( 、それから更に ボ エラ ー ((( ( となった。谷 の背後にある巖穴はいまだにベーラー の スロッホ 穴 あ ((( ( るいはベーラー の ス ヘ ー レ 洞窟 と ((( ( 呼ばれている。しかし巖板はもはや左右に開く ことはない。   故老たちはいわゆるベーラーの小人たちについてたくさんのことを語る。月光の中で畑を耕しているのを目撃した、 と主張する者も少なくない。今は何も出現しないが。ただし、どこぞの農夫が「 麗 シェーネンブルンネン し の 泉 」の前 に ((( ( 長逗留をつかま つ り、 か つ、 麦 ビ ー ル 酒 の 杯 を 覗 き 込 み 過 ぎ た 場 合、 ふ ら ふ ら 家 路 を 辿 り つ つ、 侏 ツ ヴ ェ ル ク 儒 の 洞 窟 の 入 り 口 の 向 か い に あ る 小 さ い潅木のところに来ると、背後から抱きつかれたような気がして、もんどりうってぶっ倒れるとか、ひゅうっと吹い て来た風が彼の黒い帽子を 攫 さら って行っちまうので、半時間もそのあとを追っかけなければならないとか、何か重い物 がどさっとおぶさって来て、最寄の村のエスペンフェル ト ((( ( の ほ ど近くまでそいつを背負って行かねばならないといっ たようなことは時折起こるのだ。あの辺りでおちゃらかされたり、道に迷ったりという御仁がけっこういる。という のも、あの静かな谷間にいると人界から隔絶されているような感じがするので。さて、奇妙 奇 き て れ つ 天烈 な地の精たちが相 も変わらず大いに本領を発揮しているのか、あるいは、もう連中が姿を現わさないところを見ると、どこか別の居留 地を選んだのか、これについては問題にしないでおきましょうね。 原注 紡 シュピンネンクラウト ぎ 草  Spinnenkraut.   アンテリクム・リリア ゴ ・リンネ Anthericum Liliago. Li n ((( ( n.  

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 訳注 ( () ヨ ー ナ ス  Jonas.   「 ヨ ー ナ 」 Jona と も。 旧 約 聖 書 ヨ ナ 書 に 出 る ヘ ブ ラ イ の 小 預 言 者。 神 ヤ ハ ヴ ェ が、 大 都 市 ニ ネ ヴ ェ( テ ィ グ リ ス 河 左 岸 に あ っ た 古 代 ア ッ シ リ ア 帝 国 の 首 都 ) に 赴 き、 そ こ が 悪 行 の た め 滅 び る、 と 伝 え よ、 と ヨ ナ に 命 じ た。 し か し、 ヨ ナ は そ の 命 に 背 き、 逃 亡 し よ う と 船 に 乗 っ た が、 神 の 放 っ た 暴 風 に 遭 遇、 諦 め て 同 船 の 人 人 に 自 分 を 海 に 放 り 込 ま せ る。 ヨ ナ は 大 魚 に 飲 み 込 ま れ、 三 日 三 晩 そ の 腹 中 に い て 悔 い 改 め る。 そ こ で 魚 は 陸 地 に 彼 を 吐 き 出 し、 ヨ ナ は ニ ネ ヴ ェ に 預 言 を し に 出 掛 け る。 と は 申 せ、 こ の 人 物 が 物 語 の 主 人 公 に 何 ら か の 形 で 投 影 さ れているわけではない。主人公の名は「ヨーナス 谷 タール 」に由来する。 ( () 親 マ イ ス タ ー 方  Meister.   職 匠。 手 工 業 組 合( 北 部 ド イ ツ で は ギ ル ド、 中 部 ド イ ツ で は イ ヌ ン グ、 南 西 部 ド イ ツ で は ツ ン フ ト ) の 組 合 員。 手 仕 事 を 身 に 付 け よ う と す る 少 年 と 年 季 契 約 を 結 び、 徒 レーアリング 弟 Lehrling と し て 一 定 期 間 修 行 さ せ る 資 格 を 有 す る。 年 季 奉 公 を 終 え た 者 が 職 ゲ ゼ レ 人 Geselle 。 こ れ は元の親方の許を離れ、自由意志で各地の親方のところに住み込み、伎倆に磨きを掛ける。これが 旅 ヴ ァ ン ダ ー ヤ ー レ 修行期間 Wanderjahre 。 ( () ア ル ン シ ュ タ ッ ト  Arnstadt.   中 ミ ッ テ ル 部 テ ュ ー リ ン ゲ ン の 中 都 市。 エ ア フ ル ト の 南 方 二 〇 キ ロ ほ ど の と こ ろ に あ る。 ベ ヒ シ ュ タ イ ン は 一 八 一 八 年 こ こ を 振 り 出 し に、 以 降 マ イ ニ ン ゲ ン、 バ ー ト・ ザ ル ツ ン ゲ ン で 薬 プ ロ ヴ ィ ー ゾ ア 剤 師 主 任 助 手 を 十 年 勤 め た。 十 九 世 紀 の 人 口 二 万 ほ ど か( 二 〇 〇 六 年 現 在 二 万 五 千 余 )。 テ ュ ー リ ン ゲ ン の 豪 族 の 一 つ だ っ た シ ュ ヴ ァ ル ツ ブ ル ク = ゾ ン ダ ー ス ハ ウ ゼ ン 家 の か つ て の 城 下 町。 ほ ど ほ ど の 産 業 基 盤 を 持 ち、 伝 統 あ る 文 化 の 中 心 で、 保 養 地 で も あ る。 古 く は ヘ ル ス フ ェ ル ト 家 の 代 官 と し て ケ ー フ ェ ル ン ブ ル ク 伯 爵 家 が 治 め て い た が、 一 三 〇 六 年 シ ュ ヴ ァ ル ツ ブ ル ク 伯 爵 家 の 手 に 渡 り、 同 家 は 一 七 〇 六 年 ま で こ こ に 宮 廷 を 開 い て い た。 ロ ー マ の 軍 事 殖 民 諸 都 市 以 外 で は ド イ ツ 最 古 の 由 緒( 七 〇 四 年古文書に初出)を誇る。エアフルトやアイゼナハとともに バ ッハ一族のゆかりの町でもある。 ( () ニ ュ ル ン ベ ル ク  Nürnberg.   現 在 バ イ エ ル ン 州。 ミ ュ ン ヒ ェ ン に 次 い で 州 内 第 二 の 大 都 市。 中 ミ ッ テ ル 部 フ ラ ン ケ ン の 由 緒 あ る 都 市。 一 〇 五 〇 年 に は 既 に そ の 名 が 文 書 に 登 場 し て い る。 一 〇 六 二 年 市 場 開 設 権 を 取 得、 一 二 一 九 年 王 都 と し て 承 認 さ れ、 以 来 し ば し ば ド イ ツ 王 の 滞 在 地 と な る。 ニ ュ ル ン ベ ル ク は 北 か ら 南、 東 か ら 西 へ の 交 易 路 の 交 点 に 位 置 し、 一 二 五 六 年 ラ イ ン 都 市 同 盟 の 一 員 と な り、 一 五 〇 〇 年 頃 に は 二 万 以 上 の 住 民 を数え、金属加工、交易(一三五〇年以降は特にイタリアとの)などの諸産業は早くから栄え、いくつもの名家がこれに従事した。 ( () ア ウ ク ス ブ ル ク  Augsburg.   現 在 バ イ エ ル ン 州。 ミ ュ ン ヒ ェ ン、 ニ ュ ル ン ベ ル ク に 次 い で 州 内 第 三 の 大 都 市。 紀 元 前 一 五 年 皇 帝 ア ウ グ ス ト ゥ ス の 治 下、 ロ ー マ 帝 国 の 軍 事 屯 営 地 と し て 出 発。 名 称 ア ウ グ ス タ・ ウ ィ ン デ コ ル ム。 帝 国 最 盛 期 に は 一 万 二 千 ほ ど 人 口 が あ っ た と か。 一 五 〇 〇 年 頃 の 人 口 は 三 万 ほ ど。 ケ ル ン( 四 万 )、 プ ラ ー ク( ボ ヘ ミ ア 名 プ ラ ハ。 三 万 ) に 次 い で 神 聖 ロ ー マ 帝 国 最 大 都 市 の 一 つ だ っ た。 イ タ リア、特にヴェネツィアとの交易の要衝としてフッガー家に代表される大商人たちの活動で栄えた。 ( ()フランクフルト   Frankfurt.   フランクフルト・アム・マイン Frankfurt am Main 、すなわちマイン河畔のフランクフルト。現在ヘッセン州 最 大 の 都 市( 人 口 六 十 六 万 七 千 余 )。 ド イ ツ 連 邦 共 和 国 で 五 番 目 に 大 き い 都 市。 七 九 四 年 カ ー ル 大 帝 の 古 文 書 に そ の 名 が 現 れ、 一 二 二 〇 年 神 聖

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 ロ ー マ 帝 国 直 属 都 市 と な る。 中 世 中 期( 最 盛 期 ) 以 降 こ こ で ロ ー マ 王、 神 聖 ロ ー マ 帝 国 皇 帝 が 選 出 さ れ、 戴 冠 さ れ た。 一 五 二 〇 年 の 人 口 は 約 一万だった、とのこと。 ( ()大きな自由帝国都市   große und freie Reichsstädte. 「自由帝国都市」は「神聖ローマ帝国直属都市」のこと。帝国直属諸侯と同じく帝国議会 に 出 席 す る 権 利 を 持 ち、 近 隣 諸 侯 の 掣 肘 を 受 け な い 自 由 独 立 の 都 市。 な お、 中 世 ヨ ー ロ ッ パ に お い て「 大 き な 」 と い う の は、 ド イ ツ 語 圏 を 基 準 とすれば、人口一万以上であろう。 ( () 代 パ ー テ 父 Pate. キ リ ス ト 教 の 幼 児 洗 礼 に 立 ち 会 っ て、 洗 礼 を 受 け る 者 の 神 に 対 す る 約 束 の 証 人 と な る 大 切 な 存 在。 男 で あ れ ば 代 パ ー テ 父 ( 名 ゲ フ ァ ッ タ ー 付 け の 父 )、 女 で あ れ ば 代 パーティン 母 Patin ( 名 ゲ フ ァ ッ テ リ ン 付 け の 母 )。 名 付 け 親 は 当 の 嬰 児 に と っ て は 将 来 と も に 両 親 同 様、 あ る い は そ れ 以 上 に 頼 り に な る。 早 く に 両 親 を 亡 くした若きヨーナスにとって、シルデックナーとっつぁんは最も親しい人間だったわけ。 ( ()エリーゼ・ バ ル バ ラ  Elise Barbara.   エリーゼの愛称は後に出る「リースヒェン」 Lieschen 。 ( (0)[ 床 に 転 が っ て い る ] 古 い 長 靴 や 上 履 き 靴  十 八 ・ 九 世 紀 オ ラ ン ダ の 風 俗 画 に お け る 靴 屋 の 場 面 に は こ ん な 図 柄 が あ る。 [      ] 内 は 訳 者の補足。 ( (()食器棚   Kannrück.   Kannrick であろう。これならグリム『ドイツ語辞典』に gestell für kannen として記載されている。けだし「液体容器、 缶、ポットなどを載せる棚」である。   ( (() 詩 篇 第 九 十 篇  旧 約 聖 書 詩 篇。 以 下 の 和 訳 は 訳 者 の 手 許 に あ る 文 語 訳 日 本 聖 書 協 会 発 行『 旧 新 約 聖 書 』 と は か な り 異 な っ て い る が、 で き る 限 り、ベヒシュタインの原文に即し、また、右の文語訳に近づけて訳した。 ( (()亜麻布織匠   Leinweber.   植物の 亜 あ ま 麻 Lein, Flachs の繊維を原料とする糸で布を織る職人・親方。 亜 ラ イ ン 麻 から作られた布は 亜 ラ イ ネ ン 麻布 (フランス語 リニエール liniére 。これが訛って日本語「リンネル」 )で、古くはリネン Linnen とも。 ( (()わたしの罪業   キリスト教にあっては自殺は罪業である。 ( (() む か っ と し た 様 子 で  名 前 に は そ れ 自 体 力 が あ る( 「 名 前 の 魔 力 」 Namenzauber ) の で、 名 前 は う か う か と 明 か す も の で は な い。 超 自 然 的 存 在は名前を知られると無力になる。 ( (()ヒューゲルパッチュ   Hügelpatsch.   「丘のぱちゃぱちゃ」 。 ( (() 橉 りん 木 ぼく   Schleendorn.   現 代 の 綴 り で は Schlehdorn あ る い は Schlehe と な る。 薔 薇 科 の 常 緑 喬 木。 高 さ 五 メ ー タ ー に 達 す る。 堅 かた 桜 ざくら 、 柊 ひいらぎ 樫 かし と も。 ( (() 侏 ツヴェルク 儒  Zwerg.   英語の dwarf に当たる。通常丘の中など地下に住み、金属を精錬、宝石を掘り出して、見事な装飾品や刀剣を作る。醜く、 魔 法 の 心 得 が あ る。 古 英 語 dweorg 、 古 代 北 欧 語 dwergr 、 語 源 は よ く 分 か ら な い。 古 代 北 欧 叙 事 詩『 エ ッ ダ 』 に よ れ ば、 原 初 の 巨 人 ユ ミ ル の

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号 屍 骸 に 生 ま れ た 蛆 うじ の よ う な 存 在 で あ る、 と の こ と。 地 下 の 自 然 力 の 人 格 化 で あ ろ う。 短 躯 な の は 勿 論 だ が、 頭 が 胴 体 に 較 べ て 大 き く、 手 は 長 く て頑丈、といったところか。 ( (() 侏 ツヴェルク 儒 王 ボ ヘリーア   Zwergenkönig Bohelier.   未詳。 ( (0)四壁は金属製の鏡でできており   ベヒシュタインはヴェルサイユ宮殿の「 鏡 ガルリ・ド・グラス の 回 廊 」に着想を得たか。あちらはガラスの鏡だが。 ( (() 女 ツ ヴ ェ ル ギ ン 性 侏 儒  Zwergin.   侏 ツヴェルク 儒 Zwerg は 男 性 形。 こ の 種 族 に は 元 来 女 性 は い な い よ う で、 女 性 形 Zwergin は 一 般 的 で は な い。 し か し、 い つ か 彼 ら は ブ リ テ ン 諸 島 で は あ り ふ れ た 存 在 で あ る 妖 フェアリー 精 fairy ( こ れ は 男 女 が ち ゃ ん と い る ) と 混 同 さ れ、 昔 メ ル ヒ ェ ン 話 で は そ の 属 性 も 持 つ こ と が あ る か ら、 女性の小人があっても不思議はないか。 ( (()神   ein Gott.   単数形だが不定冠詞が付いている。従ってキリスト教の神ではない。 ( (() 人 相 の 観 察  Physiognomien.   観 フュジオグノミー 相 学 Physiognomie は 十 八 世 紀 後 半 の 西 欧 で 流 行 し た 学 問。 ム ゼ ー ウ ス は た と え ば、 個 人 的 に は 高 く 評 価 し て い た ス イ ス の 神 学 者 ヨ ー ハ ン・ カ ス パ ー ル・ ラ ー ヴ ァ タ ー( 一 七 四 一 ─ 一 八 〇 一 ) 著『 人 間 知 識 と 人 間 愛 促 進 の た め の 観 相 学 に 関 す る 諸 断 章』全四巻 Physiognomische Fragmente zur Beförderung der Menschenkenntnis und Menschenliebe ((((( -(( ) に、 『ドイツ人の民話』の中で再 三 触 れ、 あ る い は そ の 内 容 を 仄 め か し て、 か ら か っ て い る。 ベ ヒ シ ュ タ イ ン の 脳 裡 に も こ れ が あ っ て の 言 及 だ ろ う。 け れ ど も、 ヨ ー ナ ス 親 方 に こ ん な 態 度 を 取 ら せ た の は 感 心 し ま せ ん な。 総 理 大 臣 ヒ ュ ー ゲ ル パ ッ チ ュ が 声 涙 と も に 下 る 口 調 で 自 分 の 哀 れ な 身 の 上 話 を し て く れ て る 最 中 な の だ か ら。 も っ と も、 作 者 ベ ヒ シ ュ タ イ ン が 小 人 族 の 形 状 に つ い て の 知 識 を こ う し た 遣 り 方 で 読 者 に 披 露 し た か っ た ん だ、 と 考 え て、 こ の 場 面 を許容してやるべきかも知れない。とにかくこれを書いた時ベヒシュタインは二十歳そこそことごく若かったことだし。 ( (() 一 ツ ォ ル 半  ツ ォ ル Zoll は 古 い 長 さ の 単 位。 イ ン チ に 同 じ。 地 方 に よ り 異 な る が、 一 般 に 二 ・ 五 四 セ ン チ。 し か ら ば 一 ツ ォ ル 半 は 三 ・ 八 セ ン チ 強。 ( (() 施 せ 物 もつ 掛 がかり   Spendemännchen.   「 施 物 掛 」 Spendemann の 縮 小 形。 従 っ て「 小 人 の 施 物 掛 」 が 正 確 な 訳。 施 物 掛 は 王 侯 の 側 近 で、 教 会 へ の 途 次などで喜捨を乞う貧民に、王侯に代わり布施をする御仁。 ( (()オルゼリア   Orselia.   未詳。 ( (() 乙 ユ ン グ フ ァ ー シ ュ プ ル ン グ 女 の 跳 躍  Jungfersprung.   淫 ら な 男 に 追 い 掛 け ら れ て 進 退 窮 ま っ た 乙 女 が、 巖 頭 か ら 別 の 巖 頭 へ 跳 び 移 っ て 難 を 逃 れ た、 と い う 伝 説 ( 解 題 参 照 ) が こ う し た 名 称 の 由 来 だ ろ う。 な お、 グ リ ム 兄 弟 編 著『 ド イ ツ 伝 説 集 』 一 四 二「 乙 ユ ン グ フ ァ ー シ ュ プ ル ン グ 女 の 跳 躍 」( こ れ は 別 の 土 地、 オ ー ス ト リ ア 中 部 の シ ュ タ イ ア ー マ ル ク の 話 ) に よ れ ば、 乙 女 は 川 を 越 え て 対 岸 の 丘 ま で 跳 ん だ、 と な っ て い る。 ち な み に、 南 西 ド イ ツ の 美 し い 都 市 フ ラ イ ブ ル ク・ イ ム・ ブ ラ イ ス ガ ウ 近 く に 険 し い 巖 壁 の 間 を 切 り 抜 い て 狭 い 街 道 が 通 っ て い る 場 所 が あ る。 こ こ は、 そ の 昔、 猟 師 に 追 わ れ た 角 ヒ ル シ ュ 鹿 が、 巖 壁 か ら 巖 壁 へ、 街 道 の 上 空 を 横 切 っ て 跳 ん だ そ う で、 「 角 ヒ ル シ ュ シ ュ プ ル ン グ 鹿 の 跳 躍 」 Hirschsprung と 呼 ば れ て い る。 も っ と も こ れ だ っ て、 絶 対 不 可 能 な 跳 躍 距

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ベーラーの洞窟 ──民話 ルートヴィヒ・ベヒシュタイン著 鈴木滿訳・注・解題 離だが。 ( (() 地 グ ノ ー ム の精 Gnom.   地中に棲み、金銀宝石、鉄や銅を掘り、これを加工して素晴らしい工芸品を作る。醜い小人とされる。ただし女性形グノミー デ Gnomide は美しいとのこと。人間をからかうこともあるが、大抵は親切にしてくれる。コー ボ ルト Kobold とも言う(家の精のコー ボ ルトと は異なる) 。  ( (()枝無し 紡 シュピンネンクラウト ぎ 草 astloses Spinnenkraut   「シュピンネ」を「蜘蛛」とも訳せるが、白く可憐な花を咲かせるのに、 「蜘蛛草」ではどうにも不 似合いなので「紡ぎ草」とした。訳注「アンテリクム・リリア ゴ ・リンネ」参照。 ( (0) ヨ ー ナ ス 谷 タール   Jonastal.   中 ミ ッ テ ル 部 テ ュ ー リ ン ゲ ン の ク ラ ヴ ィ ン ケ ル か ら ア ル ン シ ュ タ ッ ト に か け て 走 っ て い る 谷。 ヴ ィ ル デ・ ヴ ァ イ セ 川 が 貫 流。 こ の 川 は 貝 ム ッ シ ェ ル カ ル ク 殻 石 灰 岩 統 を 部 分 的 に 深 く 浸 蝕 し、 と こ ろ ど こ ろ 険 し い 崩 落 斜 面 を 形 成。 第 二 次 世 界 大 戦 末 期 ナ チ ス・ ド イ ツ は こ こ で ブ ー ヘ ン ヴ ァ ルト 強 カ ー ・ ツ ェ ッ ト 制収容所 (ヴァイマル近郊)の囚人たちを夥しく使役して何らかの秘密工事を行った。 ( (() 王 ケーニヒスシュトゥール の 玉 座  Königsstuhl.   未詳。 ( (() バ エリーア   Baelier.   未詳。 ( (() ボ エラー   Boeler.   未詳。 ( (()ベーラー の スロッホ 穴  Böhlersloch.   未詳。 ( (()ベーラー の ス ヘ ー レ 洞窟 Böhlershöhle.   未詳。 ( (()「 麗 シ ェ ー ネ ン ブ ル ン ネ ン し の 泉 」 の 前 に  vor dem Schönenbrunnen.   定 冠 詞 が 付 い て い る の で 既 知 の も の。 従 っ て ア ル ン シ ュ タ ッ ト の 住 人 は 先 刻 ご 承 知 の 固 有 名 詞 で あ る。 し か し、 こ れ が 実 際 の 噴 泉 で あ り、 こ こ で は そ こ の 前 に あ る 居 酒 屋 を 指 し て い る の か、 あ る い は 居 酒 屋 の 屋 号 自 体( 後 者 の 場 合 は、店内ではなく、店の前、すなわち外の椅子・卓で飲む、と解釈)なのかは、原注が無いので分からない。前者ではないか、とは思うが。 ( (() エ ス ペ ン フ ェ ル ト  Espenfeld.   「 白 や ま な ら し 楊 の 原 」 の 意。 現 在 ア ル ン シ ュ タ ッ ト を 形 成 す る 地 区 の 一 つ で 最 小( 人 口 一 六 〇 )。 東 の ゲ ラ 谷 タール と 西 の ヨーナス 谷 タール に挟まれた高台( ほぼ標高三八〇メーター)の窪地にある。 ( (() ア ン テ リ ク ム・ リ リ ア ゴ ・ リ ン ネ  Anthericum liliago. Linn.   原 注 Liliago の 頭 字 L を 小 文 字 l に 改 め た。 ド イ ツ 語 名 Traubige Graslilie は 「葡萄のような草百合」の意。和名は未詳。百合科。草丈約五〇センチ。五月から七月に掛けて六つの花弁に分かれた白い花を咲かせる。

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武蔵大学人文学会雑誌 第 40 巻第 1 号   解題   「ベーラーの洞窟   ── 民 フォルクスメルヒェン 話 」の原題は Böhlershöhle. Volksmährchen である。     ベ ヒ シ ュ タ イ ン は ベ ー ラ ー の ス ロ ッ ホ 穴 に 棲 む 小 人 族 に 関 す る 本 来 の 伝 説 に つ い て は 別 の 場 で 報 告 し て い る。 『 テ ュ ー リ ン ゲ ン 地 方 の 伝 説 群 と 伝 説 圏 』 Der Sagenschatz und die Sagenkreise der Thüringerlandes ( 一 八 三 五 ─ 三 八 ) 第 三 巻 ( マ イ ニ ン ゲ ン 、 一 八 三 七 ) 第 二 節 所 収 の 一 八 「 ベ ー ラ ー の 小 人 た ち 」 Die Böhlersmännchen と 一 九 「 乙 ユングファーシュプルング 女 の 跳 躍 」 Der Jungfersprung 、 お よ び、 『 ド イ ツ 伝 説 集 』 Deutsches Sagenbuch ( ラ イ プ ツ ィ ヒ、 一 八 五 三 ) 所 収 の 一 八 九 「 乙 ユ ン グ フ ァ ー シ ュ プ ル ン グ 女 の 跳 躍 」 と 五 八 六「 ベ ー ラ ー の 小 人 た ち 」 が そ れ。 し か し な が ら こ の 物 語 に お い て は、 尊 敬 措 く あ た わ ざ る ムゼーウスの饒舌な流儀に倣って伝説の素材を 昔 メルヒェン 話 風に語ろうと試みた。従兄弟同士の間柄だが、片や善良で貧乏、 片や邪で金持ちという対比を持ち込んだのは多分そのためであろう。特に亜麻布織匠のヨーストが靴屋のヨーナス親 方と同様の幸運に与ろう、と小人たちの許に出向き、さんざんな目に遭わされるのは 昔 メルヒェン 話 の図式に基づいている。

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Hugh Woodin pointed out to us that the Embedding Theorem can be derived from Theorem 3.4 of [FM], which in turn follows from the Embedding Theorem for higher models of determinacy

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藤野/赤沢訳・前掲注(5)93頁。ヘーゲルは、次

今回の調査に限って言うと、日本手話、手話言語学基礎・専門、手話言語条例、手話 通訳士 養成プ ログ ラム 、合理 的配慮 とし ての 手話通 訳、こ れら

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