1.はじめに
降雨時には,工場等の点汚染源による負荷に加え,流域の路面や 屋根などからのノンポイント汚染負荷量が増加する。このため,出 水時の汚染物質の流出挙動については,代表的な水質汚濁物質であ る浮遊物質(SS)1-6),全窒素2-5,7,8),全リン2-5,7),生物化学的酸素 要求量1,3,5,6)や化学的酸素要求量5-7)を対象に多数の調査が報告さ れている。また,降雨時に道路を洗った水に含まれる重金属9,10)や ベンゾ(a)ピレン11)についても報告されている。 ダイオキシン類(PCDDs,PCDFs 及び DL-PCBs)についても, 降雨時の流出挙動は上記の汚濁物質と同様と考えられるため,非降 雨時に比べて大幅な濃度の上昇が予想される。また,非降雨時に地 表面などに堆積,蓄積した降下煤じん,粉じんなどが水系に流入す るため,ダイオキシン類の組成も非降雨時と異なる可能性があり, 降雨時に水路を流下するダイオキシン類を調査することは,接続す る河川環境への影響を評価する上で重要であると考えられる。 埼玉県の南東部を流れる古綾瀬川(Fig. 1)は,その下流部にお いてダイオキシン類による底質の汚染が確認されており,汚染は松 江新橋を挟む上流と下流に分布している12,13)。松江新橋を挟む上流 と下流では,ダイオキシン類の組成に違いが見られており,上流の 汚染範囲では,TeCDFs に対し 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が特異的に 高い割合を占める特徴が認められている。汚染範囲の上流端には, 工業団地内を流下する水路が接続しており,当該水路を介したダイ オキシン類の流入が推定された12)。[環境化学(Journal of Environmental Chemistry)Vol.22, No.3, pp.97-104, 2012]
降雨による都市水路中のダイオキシン類濃度と組成の変化
-古綾瀬川汚染実態調査-
細野 繁雄,大塚 宜寿,蓑毛康太郎,杉崎 三男,河村 清史
* 埼玉県環境科学国際センター(〒347-0115 埼玉県加須市上種足914) *埼玉大学大学院理工学研究科(〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255) [平成23年12月 6 日受付,平成24年 6 月 4 日受理]Dioxin Concentrations and Composition Variation in Urban Drainage during a Rain Event:
Research on Contamination of the Furuayase River
Shigeo HOSONO, Nobutoshi OHTSUKA, Kotaro MINOMO, Mitsuo SUGISAKI and Kiyoshi KAWAMURA*
Center for Environmentral Science in Saitama (914 Kamitanadare, Kazo, Saitama 347-0115)
*Graduate School of Science and Engineering, Saitama University
(255 Shimookubo, Sakura, Saitama, Saitama 338-8570) [Received December 6, 2011; Accepted June 4, 2012]
Summary
Dioxin concentrations in water sampled from a drainage ditch flowing into the Furuayase River (southeast Saitama Prefecture, Japan) were monitored during a 3-h rainfall event. The dioxin concentrations in toxic equivalent (TEQ) ranged between 3.5 and 17 pg-TEQ/L. The concentrations in all 12 samples exceeded the Japanese environmental standard (ES) for water (1 TEQ/L), and the concentrations in 5 samples exceeded even the Japanese wastewater standard (10 pg-TEQ/L). Excellent correlation between TEQ and SS in the water samples was observed. The amount of precipitation ing the observation period was 8.7 mm. Discharges of suspended solids (SS) and dioxins from the ditch to the river dur-ing the event were estimated at 570 kg and 68 µg-TEQ, respectively. The average concentration of dioxins in SS was 120 pg-TEQ/g, which is lower than the Japanese ES for sediment. Because the dioxin concentrations and SS in the ditch water varied with rainfall conditions, it was difficult to determine whether the presence of dioxins in the SS was the sole reason that dioxin concentrations of the riverbed exceeded the ES for sediment. The ratio of 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF to TeCDFs in the ditch water was extremely high. This typical pattern in the ratio was similar to the reported value of sediment in the Furuayase River, indicating that the discharge from the ditch into the river still continued.
そこで,当該水路を対象に,降雨時に流下する水路水のダイオキ シン類を測定し,降雨の間に古綾瀬川に流送されるダイオキシン類 及び SS 量を推定して,ダイオキシン類による底質汚染が継続する 可能性を評価した。また,古綾瀬川の底質に見られた特異な組成の ダイオキシン類が,降雨時の水路水にも観測されるか調査し,水路 を通って古綾瀬川へと流入するか検討した。
2.方法
2.1 調査水路の概要 対象とした水路は,工業団地内を流れ,流域の工場から排水が 流入している(Fig. 1)。途中,用水路と交差するため,伏せ越しと なっている。伏せ越しより上流は,いくつかの水路に分岐し,工業 団地の東端付近まで達している。また,道路側溝も接続しているた め開渠の部分が多く,流域の地表面を洗った雨水が流入している。 下流は,道路下に埋設されたボックスカルバート(幅 2.6 m,高さ 1.9 m)となり,古綾瀬川に接続している。下流部のボックスカル バート内には,堆積物がほとんど見られないが,上流部の水路内に は多くの堆積物が確認されており,埼玉県が平成 16 年度に実施し た上流部の水路調査において,水路内堆積物の一部から底質環境基 準を超過する高濃度のダイオキシン類が確認されている13)。また, 水路が古綾瀬川に接続する地点は感潮域にあり,高水位時には水路 水の流下が妨げられる。 2.2 調査方法 調査は,平成 18 年 6 月 9 日の 11 時から 14 時過ぎにかけて実施 した。調査地点に最寄りの越谷局の AMeDAS データ14)を用いた調 査日の降雨状況を,東京都港湾局のデータ15)を用いた調査日の潮 位とともに,Fig. 2 に示す。調査開始前にも数回,短時間の降雨が あったが,いずれも時間雨量 3 mm 以下の弱い降雨であった。東京 湾の潮位は,約 1.5 時間遅れて調査水路が接続する古綾瀬川の水位 に影響するため,調査開始時は最も水位が低い時間帯にあたり,調 査終了時は水位の上昇途上にあった。また,調査日の降雨は 5 月 30 日の 4 mm の降雨以来であり,先行晴天日数は 9 日間であった。 水路が古綾瀬川と接続する直前のマンホール(Fig. 1)を調査地 点とし,多項目水質計(東亜 DKK 製,WQC-24)により 1 分間隔 で濁度(カオリン)の推移を確認しながら,ダイオキシン類測定用 に 12 試料,SS 測定用には 13 試料を採取した。試料量は,水質環 境基準を超過する高濃度のダイオキシン類が検出されることを想定 してガロン瓶 2 本分(約 6.7 L)とし,SS 測定用には約 200 mL をポ リビンに採取した。SS の測定は,環境庁告示第 59 号 付表 8 に従った。 採水と同時に,マンホール直下の 1 地点で水位及び流速を観測し た。また,可搬型の気象計(DAVIS Vantage ProTM Weather Station) により,調査期間の降水量を 5 分間隔で観測した。 濁度が降雨前のレベルとなり,その後の上昇が見られなかったこ とから,14 時過ぎに調査を終了した。 2.3 ダイオキシン類の測定方法 2.3.1 試薬 ポリ塩化ジベンゾ -p- ジオキシン(PCDDs),ポリ塩化ジベンゾ フラン(PCDFs)及びダイオキシン類様 PCB(DL-PCBs)の標 準物質は Wellington 製,溶媒は全て関東化学(株)製のダイオキ シン類分析用を使用した。6 mol/L 塩酸及び濃硫酸は和光純薬工 業(株)製の精密分析用,ワコーゲル DX,44 %硫酸シリカゲル,Fig. 1 Location of Furuayase River and sampling site of the drainage The dashed lines show the drainage ditches.
10 %硝酸銀シリカゲルは和光純薬工業(株)製のダイオキシン類 分析用,活性炭シリカゲルは関東化学(株)製の活性炭分散シリカ ゲルを使用した。ガラス繊維ろ紙は,東洋濾紙(株)製の GA-55(90 mm)を,加熱処理して使用した。 2.3.2 試料の調製及び前処理 試料は,次の手順により調製した。採取した水路水に塩酸を添 加して pH を 2 ~ 3 に調整した後,クリンアップスパイク 250 pg (OCDD,OCDF は 500 pg)を添加した。ガラス繊維ろ紙でろ過し, ろ過残渣は風乾後にトルエンを用いて 24 時間ソックスレー抽出し, ろ液は 1 L あたり 100 mL のジクロロメタンを加え,マグネティッ クスターラーを用いて 24 時間撹拌抽出した。 ソックスレー抽出液と撹拌抽出液を合わせ,ロータリーエバポ レーターで濃縮後,全量を既報17)に従って処理した。即ち,濃縮 して n- ヘキサンに転溶した抽出液を,濃硫酸及び 44 %硫酸シリカ ゲルを用いて処理した後,硝酸銀シリカゲルカラムに通した。n- ヘ キサン溶出液を濃縮して活性炭シリカゲルカラムに負荷し,n- ヘキ サンで洗浄後,トルエンを用いてダイオキシン類を溶出した。トル エン溶出液にシリンジスパイク 250 pg を加え,25 µL に濃縮して検 液とした。 2.3.3 GC/MS 測定 PCDDs,PCDFs 及び DL-PCBs の測定は,HRGC-HRMS(Agilent HP6890-JEOL JMS-700)を用い,分解能を 10,000 以上としたロッ クマス方式による EI-SIM 法で行った。キャピラリーカラムは, Te~ HxCDD/Fs の測定に CP-Sil88 for Dioxins(長さ 60 m,内径 0.25 mm, 膜 厚 0.1 µm;Varian 製 ),HpCDD/Fs,OCDD/F 及 び DL-PCBsの測定には DB-5 ms(長さ 60 m,内径 0.25 mm,膜厚 0.25 µm;Agilent 製)を使用し,キャリヤーガスはヘリウムを 1.2 mL/minの定流量で使用した。
毒性等量の算出は,JIS K 0312:1999 に準拠し,TEF には WHO 1998 を使用した。
3.結果及び考察
3.1 降雨流出状況とダイオキシン類濃度の変化 調査期間の降雨強度,水路水の流速及び水位の推移を Fig. 3 に示 す。調査開始 5 分後から降り始めた雨は,11 時 30 分過ぎに最も強 くなり,以降,徐々に弱まって 13 時前に一旦止んだ。その後,13 時 30 分過ぎから約 30 分間,再び弱い雨となった。この間の降水量 は 8.7 mm であった。降雨の間に流速も上昇し,12 時に 0.8 m/sec の最大値を記録した後,徐々に低下した。流速が低下する間も含め, 水位はわずかずつであるが常に上昇し,水路が接続する古綾瀬川の 水位上昇による流下の阻害が認められた。 水路水の濁度,SS 濃度及びダイオキシン類濃度の推移を Fig. 4 に示す。濁度は,調査開始時から 40 mg/L と高く,調査開始後に わずかに低下し,調査開始前の降雨による影響が残っていた。この ため,今回の調査では,高い汚濁負荷が予想される初期流出を捉え られていないと考えられる。その後降り出した雨の影響を受け,調 査開始 30 分後から濁度が徐々に上昇し,流速が最大となった 12 時 頃に最大となった。およそ 20 分間高い状態が継続し,以降,徐々 に低下して 13 時 30 分過ぎには調査開始時の状態に戻った。13 時 30 分過ぎから再び弱い雨となったが,濁度の上昇が見られなかっ たことから,降雨の止んだ 14 時過ぎに調査を終了した。 濁度の推移を確認しながら採取した水路水の SS 濃度(13 検体) 及びダイオキシン類濃度(No.2 を除く 12 検体)は,それぞれ 25 ~ 140 mg/L 及び 3.5 ~ 17 pg-TEQ/L の範囲を濁度の増減に従って 推移した。ダイオキシン類濃度は,全て水質環境基準(1 pg-TEQ/L) を超過し,5 試料は排水基準(10 pg-TEQ/L)をも超過した。埼玉県は, 平成 18 年 9 月に民間の分析機関に委託し,今回調査した水路を含 む,古綾瀬川に接続する 8 水路の水路水について,非降雨時にダイ オキシン類を調査している(未発表)。その結果によれば,今回調 査した水路の水路水から 0.74 pg-TEQ/L のダイオキシン類が検出 され,その時の SS 濃度は 12 mg/L であった。これに比べ,降雨時 に実施した本調査のダイオキシン類濃度は数倍から数 10 倍も高濃 度であった。 3.2 河川底質への影響及び流出量の推定 一般に,環境水中のダイオキシン類濃度は SS 濃度との相関が高 く,ダイオキシン類の 70 %以上17)が,また,調査開始時の水路水 と同程度の SS 濃度が検出される灌漑期の綾瀬川では 95 ± 3 %18) が,懸濁態として存在していると報告されている。今回調査したFig. 3 Time courses of precipitation, flow velocity and water depth in the drainage
水路水中のダイオキシン類濃度と SS 濃度にも高い相関が認められ (Fig. 5),ダイオキシン類の多くが SS と結合して存在すると考えら れる。 また,水路水の SS 濃度及びダイオキシン類濃度は,濁度とも相 関が見られる(相関係数はそれぞれ 0.948 及び 0.966)ことから, 1 分間隔の SS 濃度及びダイオキシン類濃度を濁度から推定し,降 雨とともに古綾瀬川に流入した SS 及びダイオキシン類量を推算し た。水路水の流量は,マンホール直下の 1 地点で観測した流速を, 水深と水路幅(2.6 m)の積に乗じて算出し,次の観測までの間, 同一流量が継続したと仮定した。この結果,調査した 3 時間余りの 間に,降水(降水量 8.7 mm)により,水路から古綾瀬川に流入し た SS 及びダイオキシン類の量は,それぞれ 570 kg 及び 68 µg-TEQ であり,単位 SS 量あたりのダイオキシン類量は 120 pg-TEQ/g と 推定された。このため,今回の調査の間に水路を流下した SS が古 綾瀬川に流入後に沈降して底質を形成した場合にも,SS とともに 沈降したダイオキシン類の濃度が底質環境基準を超過することはな いと判断された。 3.3 ダイオキシン類の組成 3.3.1 PCDDs,PCDFs 及び DL-PCBs 本調査における PCDDs,PCDFs 及び DL-PCBs の組成を,実測 濃度(a)及び TEQ(b)について Fig. 6 に示す。実測濃度は 1,400 pg/L(No.12 及び No.13)~ 6,700 pg/L(No.7)と,最小値と最大 値で約 5 倍の開きがあるが,その組成は,PCDDs が 12 ~ 25 %(平 均 17 %),PCDFs が 13 ~ 17 %( 同 16 %) 及 び DL-PCBs が 58 ~ 73 %(同 67 %)といずれの試料も類似していた。TEQ におい ても同様に,3.5 pg-TEQ/L(No.12 及び No.13)~ 17 pg-TEQ/L(No.7 及び No.8)と約 5 倍の開きがあるが,組成は PCDDs が 28 ~ 39 % (平均 31 %),PCDFs が 47 ~ 59 %(同 53 %),DL-PCBs が 11 ~ 21 %(同 16 %)と類似していた。しかし,ダイオキシン類の実 測濃度は,No.7(6,700 pg/L)から No.8(4,800 pg/L)の間で約 30 %減少したにもかかわらず,TEQ はいずれも 17 pg-TEQ/L と違 いが見られなかった。このことは,No.7 と No.8 の間で PCDFs の 実測濃度が 1,100 pg/L から 810 pg/L と減少したが,PCDFs の示 す TEQ は 8.7 pg-TEQ/L から 9.4 pg-TEQ/L と逆に増加したことが
影響していた。 また,平成 18 年 9 月に,埼玉県が同一の水路において実施した 非降雨時の水質調査によれば,PCDDs,PCDFs 及び DL-PCBs は, 実測濃度でそれぞれ 3 %,5 %及び 92 %,TEQ ではそれぞれ 9 %, 45 %及び 46 %を占め(未発表),降雨時に実施した本調査の水路 水における組成と大幅に異なっていた。 3.3.2 PCDDs 及び PCDFs の同族体 PCDDs 及び PCDFs(以下,PCDD/Fs)の同族体組成比を Fig. 7 に示す。PCDDs 同族体は,いずれの試料においても,PeCDDs が最小で,HxCDDs 以降は塩素数とともに増加して,OCDD が 最大となった。同様に,PCDFs 同族体では,TeCDFs が最大で, PeCDFs以降は塩素数の増加とともに減少する傾向にあり,いずれ の試料も,同族体組成は類似していた。しかし,TeCDFs の組成比 は,No.8 及び No.9 では,OCDD の約 1/2 であるのに対し,No.4 Fig. 4 Time courses of turbidity, SS and dioxin concentrations in the drainage
Fig. 5 Correlation between dioxins concentration and SS in drainage
~ No.6 及 び No.12 で は OCDD を 上 回 っ た。 ま た, 他 の PCDFs 同族体に比べても,TeCDFs の組成比は変動が大きく,例えば, PeCDFsが 10 ~ 15 %の範囲であるのに対し,TeCDFs の変動は 16 ~ 33 %の範囲に及んでいた。 調査した水路の上流部には,底質環境基準を超過する水路内堆 積物の存在が確認されている13)。この堆積物中の PCDD/Fs の同 族体組成(未発表)は,TeCDFs が 54 %と半分以上を占めるた め,この堆積物の流出によって,水路水のダイオキシン類における TeCDFsの組成比は大きく変動すると考えられる。 3.3.3 TeCDFs の異性体 調査水路が接続する古綾瀬川では,1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が TeCDFsに対して高い割合を占める特異な組成が確認されており, この比は,接続地点上流では 21 ~ 31 %であったのに対し,下流か ら松江新橋までの間は 32 ~ 58 %と上昇していた12)。水路水におけ るこの値は,25 %(No.8)~ 43 %(No.5 及び No.6)の範囲にあり, 前記の 2 つの値の中間にあった。このことから,TeCDFs に特異な 組成を持つダイオキシン類は,調査水路を通って古綾瀬川に流入し たこと,また現在も古綾瀬川へと流入していることが示された。 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF の濃度とダイオキシン類濃度の間には, 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF 濃度が 84 pg/g と比較的小さいにもかかわ らず,ダイオキシン類濃度は 17 pg-TEQ/L と調査試料中の最大値 を検出した試料(No.8)もあるものの,有意水準 1 %で有意な相関 が認められた(Fig. 8)。そこで,2,3,7,8- 位塩素置換 PCDDs(2,3,7,8-PCDDs)及び 2,3,7,8- 位塩素置換 PCDFs(2,3,7,8-PCDFs),並びに DL-PCBsの各異性体について,1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF 濃度の相関 を確認した(Fig. 9)。1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF 濃度は,2,3,7,8-PCDFs よりも DL-PCBs との相関が高く,他の異性体に比べて検出濃度 が 1 桁以上小さい 3,3’,4,4’,5,5’-HxCB(#169)を除き,相関係数は 約 0.9 またはそれ以上となった。PCB 製品の KC-300 に含まれる PCDFsの同族体組成は,TeCDFs から OCDF へと塩素数の増加に 従って低下すると報告されている19-21)。このことは,水路水に確 認された PCDFs の同族体組成と類似するが,KC-300 に含まれる PCDFs濃度は,DL-PCBs 濃度に対して ppm のオーダー19,20)でし かなく,高濃度の 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が PCB 製品に由来した とは考えられない。DL-PCBs の異性体濃度との高い相関は,高濃 度の 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF を特徴とするダイオキシン類が,PCB と連動して流出した結果と予想させる。 調査水路の上流部には,上述のとおり,TeCDFs が PCDD/Fs 濃 度の 54 %を占める堆積物の存在が確認されているが,委託調査 であったことから,1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF の濃度は報告されてい ない。今回調査した降雨時の水路水では,TeCDFs 濃度に対する 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF の割合が,PCDD/Fs 濃度に対する TeCDFs の割合と相関する傾向が見られた(Fig. 10)。そこで,同一水路 内の底質試料にも水路水と同じ関係が成立すると仮定した場合, PCDD/Fs濃度の 54 %を TeCDFs が占める試料では,TeCDFs 濃 度の 60 %を 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が占めると推計され,水路が 接続する古綾瀬川の底質に確認された最大値(58 %)に匹敵する。
4.まとめ
底質のダイオキシン類汚染が確認されている古綾瀬川に接続する 水路を対象に,降雨時に水路を流下するダイオキシン類を調査して, 次の知見を得た。 降雨時の水路水に検出されたダイオキシン類濃度は,3.9 ~ 17 pg-TEQ/Lの範囲にあり,全ての試料が水質環境基準を超過し,5 試料は排水基準をも超過した。降雨時のダイオキシン類濃度は,非 降雨時の調査に比べ数倍から数 10 倍高く,流量も増加することか ら,古綾瀬川の水環境に与える影響は大きいと考えられた。 調査時の降水量 8.7 mm の間に,古綾瀬川に流入した SS 及びダ イオキシン類の量は,それぞれ 570 kg 及び 68 µg-TEQ に達すると 推定された。単位 SS 量あたりのダイオキシン類量は 120 pg-TEQ/g と計算され,この結果からは SS が沈降して底質を形成したとして も,SS とともに沈降したダイオキシン類の濃度は底質環境基準を 超過しない。今回の調査は高い汚濁負荷が予想される初期流出を捉 えられていないと考えられること,また,SS 及びダイオキシン類 の流下量は降雨状況等によって増減することから,不確実性は残る ものの,古綾瀬川の底質汚染は,調査水路を流下したダイオキシン 類が原因であり,汚染が継続している可能性が示された。 古綾瀬川の底質では,TeCDFs に対し 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が 高い割合を占める特異な組成が確認されている。降雨時の水路水に おけるこの比は 25 ~ 43 %の範囲にあり,水路が接続する地点より 上流側の値及び下流から松江新橋までの間の値の中間にあったこと から,TeCDFs に特異な組成を持つダイオキシン類は,調査水路を 通して古綾瀬川へと流入したこと,流入は現在も継続していること が示された。要 約
降雨時に流下する水路水のダイオキシン類を測定し,降雨の間に 古綾瀬川に流送されるダイオキシン類及び SS 量を推定して,ダイ Fig. 6 PCDDs/PCDFs/DL-PCBs profiles in concentration ofオキシン類による底質汚染が継続する可能性を検討した。また,古 綾瀬川の底質に見られる特異な組成のダイオキシン類が,降雨中の 水路水に観測されるか調査し,水路を通って古綾瀬川に流入するこ とを確認した。 降雨時の水路水中のダイオキシン類濃度は,非降雨時の数倍から 数十倍に達し,調査した 12 検体全てが環境基準を超過した。この 内の 5 検体は排水基準も超過し,最高値は 17 pg-TEQ/L に達した。 約 3 時間の調査の間に,8.7 mm の降水とともに 570 kg の SS,68 µg-TEQのダイオキシン類が古綾瀬川に流入したと推計された。単 位 SS 量あたりのダイオキシン類量は 120 pg-TEQ/g と計算され, 底質環境基準を下回った。しかし,この値は降雨状況等により増減 することから,古綾瀬川の底質汚染は,調査水路を流下したダイオ キシン類が原因であり,汚染が継続している可能性が示された。古 綾瀬川の底質では,TeCDFs に対し 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF が高い 割合を占める特異な組成が確認された。降雨時の水路水におけるこ の比は,水路が接続する地点より上流の表層底質に検出された値よ りも大きいことから,TeCDFs に特異な組成を持つダイオキシン類 は同水路を通って古綾瀬川に流入したこと,現在も流入が継続して いることを確認した。 文 献 1) 土屋十圀,和泉 清:都市河川の感潮域における水質と汚濁堆 積物の挙動,水工学論文集,35,573-578(1991) 2) 太田陽子,中津川誠:出水時を含む水質成分負荷量と流域土地 利用との関係について,水工学論文集,46,887-892(2002) 3) 小澤貴幸,小川裕正,湯田純一,永林久夫,真野 明:出水時 の阿武隈川における汚濁負荷の計測と物質輸送機構の検討,水 工学論文集,49,1507-1512(2005) 4) 今野 篤,二瓶泰雄,大竹野歩,水口陽介:複数の都市河川に おける降雨時水質環境の比較解析,水工学論文集,49,1501-1506(2005) 5) 和田有朗,道奥康治,辻 義和:都市流域の流出汚濁解析と負
Fig. 7 Homolog profiles in concentration of PCDDs and PCDFs in the drainage ■ Homolog of PCDDs, ■+□ Homolog of PCDFs, □ 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF
荷特性におよぼす降雨形態の影響,水工学論文集,49,1579-1584(2005) 6) 永吉光一,石田和広,渡辺政広,李 大民:分布型土研モデル による合流式下水道の雨天時汚濁負荷流出解析,水工学論文集, 49,1591-1596(2005) 7) 二瓶泰雄,大竹野歩,川嶋祐太,酒井耕介,増永 良,戸簾幸 嗣,出口 浩:降雨時における手賀沼流域の水環境特性に関す る現地観測,河川技術論文集,7,187-192(2001) 8) 野口正人,西田 渉,姜 相赫,水野良宣,矢代まゆみ:降雨 時における流域からの非点源汚濁負荷流出機構の解明とそのモ デル化に関する研究,水工学論文集,45,61-66(2001) 9) 三島聡子,大塚知泰,庄司成敬,坂本広美,安部明美:高架道 路から水域への重金属の流出と由来,環境化学,15,335-343 (2005) 10) 岩佐知洋,浦瀬太郎:雨水ます中の堆積泥に含まれる重金属の 濃度分布,水環境学会誌,28,637-631(2005) 11) 三浦浩之,和田安彦,尾崎 平,中嶋宜信:雨天時道路排水 の流出先水系での汚濁物質の挙動,用水と廃水,45,779-785 (2003) 12) 細野繁雄,大塚宜寿,蓑毛康太郎,王 効挙,杉崎三男,河村 清史:古綾瀬川における底質中ダイオキシン類の濃度分布と汚 染の特徴,環境化学,22,89-96 13) 埼玉県:古綾瀬川底質ダイオキシン類対策に係る中間報告, http://www.pref.saitama.lg.jp/page/901-20091202-17.html 14) 気象庁:過去の気象データ検索, http://www.data.jma.go.jp/obd/sfats/etm/index.php 15) 東京都港湾局:東京港24時間潮位表, http://www.kouwan.metro.tokyo.jp/choui/users/chosa/18choui.pdf 16) 細野繁雄,蓑毛康太郎,大塚宜寿:底質試料中ダイオキシン類 の迅速抽出に関する検討,埼玉県環境科学国際センター報,4, 149-152(2003) 17) 国土交通省:平成13年河川におけるダイオキシン類に関する実 態調査等の結果について(平成14年12月 国土交通省河川局) 18) Minomo, K., Ohtsuka, N., Hosono, S. and Kawamura, K.:
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Fig. 9 Correlation coefficients between 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF and 2,3,7,8-PCDDs, PCDFs , and DL-PCBs Fig. 8 Relationship between 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF and
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Fig. 10 Relationship between the ratio of 1,3,7,8-/1,3,7,9-TeCDF to TeCDFs and TeCDFs to PCDD/Fs