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経支配は副交感神経優位に切り替わる10) 排尿を決意すると, 副交感神経終末からアセチルコリンが放出され, 膀胱はムスカリン (M) 受容体を介した作用により収縮し, 尿が排出される7) 抗コリン薬はこのアセチルコリンのムスカリン (M) 受容体への結合を遮断することで, 膀胱の異常収縮を抑制する

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選択的β3アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤

開発の背景

過活動膀胱は潜在的な排尿筋過活動状態に 起因していると考えられることから,その治 療には主に膀胱収縮抑制作用を有するムスカ リン受容体拮抗薬が広く用いられている。し かしながら,ムスカリン受容体が膀胱以外に 唾液腺,腸管および毛様体筋などにも存在し, 機能的役割も伴っているため,口内乾燥,便 秘および霧視などの副作用を伴うことがある こと,ムスカリン受容体拮抗薬の膀胱収縮抑 制作用による排尿困難,残尿量の増加および 尿閉などの副作用も懸念されることから2),過 活動膀胱治療薬として既存薬剤と同等以上の 効果を示し,これら副作用の発現率が低い薬 剤の開発が望まれてきた10)。 ミラベグロン(商品名:ベタニスⓇ)はアステ ラス製薬株式会社において創製された選択的 β3アドレナリン受容体作動薬であり,非臨床 試験において,膀胱弛緩作用により蓄尿機能 を亢進させる一方,排尿機能に影響を及ぼし にくいことが示唆された11)。 以上の結果から,ミラベグロンは既存薬と は異なる新たな作用機序を有する新規過活動 膀胱治療薬になり得ると期待され,国内にお ける臨床試験が2005年10月より開始された。 第Ⅲ相試験は2009年7月より開始され,尿 意切迫感,頻尿,切迫性尿失禁という過活動 膀胱症状に対して,優れた有効性および安全 性が確認された12)。また,長期投与試験で はミラベグロンの長期における有効性および 安全性が確認された。これらの結果をもって 2010年6月に承認申請を行い,2011年7月に「過 活動膀胱における尿意切迫感,頻尿及び切迫 性尿失禁」の効能・効果で承認された。 ベタニスは日本で初めて,かつ世界で初め て承認された選択的β3アドレナリン受容体作 動薬である。

ミラベグロンの作用機序

正常な膀胱においては,蓄尿期は交感神経 優位となっており,交感神経終末よりノルアド レナリンが放出され,膀胱はβ3アドレナリン 受容体を介した作用により弛緩10),尿道はα1 アドレナリン受容体を介した作用により収縮し, 尿を溜められる状態となっている7)。一方,膀 胱にある程度尿が溜まり排尿期になると,神

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経支配は副交感神経優位に切り替わる10)。 排尿を決意すると,副交感神経終末からアセ チルコリンが放出され,膀胱はムスカリン(M) 受容体を介した作用により収縮し,尿が排出 される7)。 抗コリン薬はこのアセチルコリンのムスカリ ン(M)受容体への結合を遮断することで,膀 胱の異常収縮を抑制する。一方,選択的β3ア ドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤で あるミラベグロンは,β3アドレナリン受容体 に結合し,ノルアドレナリンと同じように受容 体を介した作用を示すことで,蓄尿期におけ る膀胱弛緩作用を増強させる(図4)。これに より,膀胱はより尿を溜めやすい状態となり, 膀胱容量が増大すると考えられている。

ミラベグロンの特徴

本邦において承認を得た内容は以下の通り である。

◇効能・効果

過活動膀胱における尿意切迫感,頻尿及び 切迫性尿失禁 〈効能・効果に関連する使用上の注意〉 本剤を適用する際,十分な問診により臨床 症状を確認するとともに,類似の症状を呈す る疾患(尿路感染症,尿路結石,膀胱癌や前 立腺癌などの下部尿路における新生物等)があ ることに留意し,尿検査等により除外診断を 実施すること。なお,必要に応じて専門的な 検査も考慮する。

◇用法・用量

通常,成人にはミラベグロンとして50mgを 1日1回食後に経口投与する。 〈用法・用量に関連する使用上の注意〉 (1)中等度の肝機能障害患者(Child–Pughス コア7~9)への投与は1日1回25mgから 開始する。[肝機能障害患者では血中濃度が 上昇すると予想される(詳細は添付文書の 「慎重投与」及び「薬物動態」の項を参照)]。 (2)重度の腎機能障害患者(eGFR 15 ~ 29 mL/min/1 .73 m2)への投与は1日1回 25mgから開始する。[腎機能障害患者では 血中濃度が上昇すると予想される(詳細は添 付文書の「慎重投与」及び「薬物動態」の項 を参照)]。

◇警告

生殖可能な年齢の患者への本剤の投与はで きる限り避けること。動物実験(ラット)で,精 嚢,前立腺及び子宮の重量低値あるいは萎縮 等の生殖器系への影響が認められ,高用量で は発情休止期の延長,黄体数の減少に伴う着 床数及び生存胎児数の減少が認められている。

◇禁忌

下記の患者に対するミラベグロンの投与は 禁忌である。 (1)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある 患者 (2)重篤な心疾患を有する患者[心拍数増加 等が報告されており,症状が悪化するおそ れがある。] (3)妊婦及び妊娠している可能性のある婦人 (詳細は添付文書の「妊婦,産婦,授乳婦等 への投与」の項参照) (4)授乳婦[動物実験(ラット)で乳汁移行が 認められている。また,授乳期に本薬を母 動物に投与した場合,出生児で生存率の低 値及び体重増加抑制が認められている。(詳 細は添付文書の「妊婦,産婦,授乳婦等へ の投与」の項参照)] (5)重度の肝機能障害患者(Child–Pughスコ ア10以上)[血中濃度が過度に上昇するおそ れがある。(詳細は添付文書の「薬物動態」の 項参照)] (6)フレカイニド酢酸塩あるいはプロパフェノ ン塩酸塩投与中の患者(詳細は添付文書の 「相互作用」の項参照)

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◇慎重投与

下記の患者には慎重に投与すること。 (1)クラスⅠA(キニジン,プロカインアミド 等)又はクラスⅢ(アミオダロン,ソタロー ル等)の抗不整脈薬を投与中の患者を含む QT延長症候群患者(「重要な基本的注意」の 項参照) (2)重度の徐脈等の不整脈,急性心筋虚血 等の不整脈を起こしやすい患者[心室頻拍 (Torsades de Pointesを含む),QT延長を 起こすことがある。] (3)低カリウム血症のある患者[心室頻拍 (Torsades de Pointesを含む),QT延長を 起こすことがある。] (4)肝機能障害患者(重度を除く)及び腎機能 障害患者[血中濃度が上昇するおそれがある] (5)高齢者(「高齢者への投与」の項参照) (6)緑内障の患者[眼圧の上昇を招き,症状を 悪化させるおそれがある。]

◇重要な基本的注意

(1)本剤投与によりQT延長を生じるおそれの あることから,心血管系障害を有する患者 に対しては,本剤の投与を開始する前に心 電図検査を実施する等し,心血管系の状態 に注意をはらう。 (2)QT延長又は不整脈の既往歴を有する患 者,及びクラスⅠA(キニジン,プロカイン アミド等)又はクラスⅢ(アミオダロン,ソタ ロール等)の抗不整脈薬等QT延長を来すこ とが知られている薬剤を本剤と併用投与す る患者等,QT延長を来すリスクが高いと考 えられる患者に対しては,定期的に心電図 検査を行う。 (3)現時点では,過活動膀胱の適応を有する 抗コリン剤と併用した際の安全性及び臨床 効果が確認されていないため併用は避ける ことが望ましい。 (4)下部尿路閉塞疾患(前立腺肥大症等)を合 併している患者では,それに対する治療(α1 遮断薬等)を優先させる。 (5)緑内障患者に本剤を投与する場合には, 定期的な眼科的診察を行う。 (6)現時点では,ステロイド合成・代謝系へ の作用を有する5α還元酵素阻害薬と併用 した際の安全性及び臨床効果が確認されて いないため併用は避けることが望ましい。

◇相互作用

ミラベグロンは一部がCYP3A4により代謝 され,CYP2 D6を阻害する。また,P–糖蛋白 阻害作用を有する。そのため,下記の薬剤と の相互作用に注意を要する。

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◇国内第Ⅲ相試験(二重盲検比較試験)の概要12) 国内第Ⅲ相試験は過活動膀胱患者761例を 対象にミラベグロン50mgまたはプラセボを1 日1回朝食後に12週間投与した多施設共同無 作為化二重盲検並行群間比較試験であり,各 種過活動膀胱症状に対するミラベグロンの作 用を検討した。 ◇結果 24時間あたりの平均排尿回数の変化量は, ミラベグロン群では-1.67回であり,プラセボ 群と比べて有意な減少を示した(p<0.001 ,図 5)。また,24時間あたりの平均尿意切迫感回 数(p=0.025)・平均尿失禁回数(p=0.003)・平均 切迫性尿失禁回数(p=0.008)はミラベグロ ン群で有意に減少し,平均1回排尿量は有意 に増加した(p<0.001)。平均夜間排尿回数に は両群間に有意差は認められなかった(図5)。 KHQによるQOL評価では「生活への影響」 (p<0 .001 vs プラセボ,2標本t検定,以下 同様),「仕事・家事の制限」(p <0. 001 ),「身 体的活動の制限」(p=0.004),「社会的活動の制 限」(p=0.005),「心の問題」(p=0.009),「睡 眠・活力(エネルギー)」(p=0.016),および「重 症度」(p<0.001),においてミラベグロン群で有 意な改善を示した。 ◇安全性 副作用発現率は,ミラベグロン群で379例 中93例(24.5%),プラセボ群で379例中91例 (24.0%)であり,ミラベグロン群において発 現率が2%以上であった副作用は,便秘,口 内乾燥,ALT(GPT)増加,血中CK(CPK)増 加,γ–GTP増加,血中Al–P増加であった 最終評価時におけるベースラインからの残尿 量の変化は,いずれの群でも同程度であった。 また,最終評価時における起床時脈拍数の 変化量は,ミラベグロン50mg群で2.74bpm, プラセボ群で0.77bpm,起床時平均坐位血圧 の変化量では,収縮期血圧は,ミラベグロン 50 ㎎群2 .67 mmHg,プラセボ群1 .74 mmHg, 拡張期血圧は,ミラベグロン50 ㎎ 群1.77 mmHg,プラセボ群 0.69mmHg であった。

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おわりに

ミラベグロンは世界に先駆けて本邦で発売 されたばかりであるため,まだ使用経験も少 ない。,現在の過活動膀胱の薬物療法の中で最 も多く用いられ,唯一推奨グレードAとされて いるのは抗コリン薬であるが,ミラベグロンは 今後過活動膀胱に伴う諸症状に苦しむ患者さ んの新たな選択肢となり得る可能性がある薬 剤であると考えられる。 引用文献

1) Abrams P et al.Neurourol Urodyn 2002 ; 21(2): 167–178. 2)日本排尿機能学会過活動膀胱ガイドライン作成委員会.過 活動膀胱診療ガイドライン.ブラックウェルパブリッシン グ,東京,2005 3) 本間之夫ほか:日本排尿機能学会誌2003 ; 14(2): 266- 277.

4) Milsom I et al.BJU Int. 2001; 87(9):760-766. 5) Stewart WF et al.World J Urol 2003 ; 20(6): 327 - 336.

6) Chen GD et al. Neurourol Urodyn 2003; 22(2): 109- 117. 7) 山口脩ほか.図説下部尿路機能障害.メディカルレビュー 社,大阪,2004. 8) 本間之夫ほか. 日本排尿機能学会誌2004; 15: 109. 9) 日本排尿機能学会過活動膀胱ガイドライン作成委員会. 過活動膀胱診療ガイドライン 改定ダイジェスト版. 編. ブラックウェルパブリッシング, 東京, 2008 10) 山口脩.泌尿器外科. 2009; 22(12):1487–1492. 11) Takasu T et al.J Pharmacol Exp Ther 2007; 32(12): 642–647.

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過活動膀胱(OAB)の定義

2002年に国際禁制学会(International Continence Society; ICS)により発行された 「下部尿路機能の用語の標準化」1)以来,過活

動膀胱(overactive bladder; OAB)の定義が 大幅に変更された。本邦で2005年に発行され た過活動膀胱診療ガイドライン2)における新し い過活動膀胱の定義は「尿意切迫感を必須とし た症状症候群であり,通常は頻尿と夜間頻尿 を伴うものである。切迫性尿失禁は必須では ない」である。つまり,過活動膀胱は下部尿路 症状(LUTS)のなかでも特に蓄尿症状を重視 した疾患であり,尿意切迫感に頻尿,切迫性 尿失禁を伴った状態である。ただし,原因が 特定できる疾患(膀胱癌,膀胱炎,膀胱結石, 前立腺癌など)は含まない。 尿意切迫感とは,正常者が長く排尿を我慢 しなくてはならない状況で生じる強い尿意と は異なり,急に起こる,抑えられないような 強い尿意で,我慢することが困難な症状であ る2)。図1に過活動膀胱と症状の関係を示す。 過活動膀胱患者は,尿意切迫感により排尿せ ざるを得なくなったり,この急激な尿意を避け るためにあらかじめ排尿することで頻尿にな る。過活動膀胱患者は,尿意切迫感よりも頻 尿や夜間頻尿を主訴として受診することが多 いが,その根底には尿意切迫感が存在して ると考えられる。そのため,尿意切迫感を改 善することは過活動膀胱治療の基本的目標と なる。

過活動膀胱の疫学,QOL

2002年に日本排尿機能学会により国内に おける排尿に関する大規模な疫学調査が行わ れ,そのなかで過活動膀胱の実態が明らかに なった3)。過活動膀胱は40歳以上の男女全体 の12.4%にみられ,日本の過活動膀胱患者の 実数は810万人と推定され,男性では全体の 14.3%,女性では全体の10.8%が過活動膀胱 の症状を有していることがわかった。男女と もに年齢の上昇に伴い有病率は上昇し,40歳 代では4 .8%であったが,80 歳以上では36.8% に達していた。50歳代以上では,女性より男性 の方が一貫して有病率が高いが,これは前立 腺疾患(前立腺肥大症など)との関連が疑われ る(図 2) 過活動膀胱による生活全般に対する影響につ いては,53.0%が「少し影響がある」以上と答え た。中でも心の問題が41.9%と最も高く,次い で睡眠・活力36.9%,身体的活動33.9%,仕 事・家事 28.7%,社会的役割 22.0%であった。

過活動膀胱の受診率

上記,日本排尿機能学会で実施された疫学 調査において,過活動膀胱で医療機関を受診 しているのは全体の22.7%で,男性では全体 の36.4%,女性では全体の7.7%であった。

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受診率は年齢とともに上昇し,常に男性の方 が高かった。また,受診者の中で泌尿器科を 受診したのは,男性が86.5%,女性が60.0% であり,過活動膀胱患者は,泌尿器科だけで なく,内科や婦人科を受診していることがわ かった。 海外でも,過活動膀胱に関する疫学調査が 行われており,その頻度は,欧州6ヵ国の40歳 以上16,776人を対象とした調査では16.6%4), 米国の18歳以上5,204人の調査では16.6%5), 台湾の女性1,253人の調査では18.6%6)と報告 されている。また,過活動膀胱での医療機関 の受診率は欧州では60%であり4),日本の受 診率22.7%が低いことがわかる。さらに,女 性を対象とした調査を行った台湾での受診率 は27 .1%であり6),日本の女性の受診率7 .7% の低さが目立つ。

過活動膀胱の病態

過活動膀胱の背景には潜在的な排尿筋過活 動状態(蓄尿期における排尿筋不随意収縮)が 共通して存在し,過活動膀胱の初期診断は自 覚症状に基づいて行われる2)。過活動膀胱で は排尿筋過活動により,尿を溜めるべき蓄尿 期に膀胱が不随意に収縮することによって, 尿意切迫感,頻尿,切迫性尿失禁などの蓄尿 症状が現れる7)。 過活動膀胱はその原因疾患により,神経因 性と非神経因性に分類される(表1)2)。排尿 に関与する神経路に影響を与える神経疾患の 多くが過活動膀胱の原因となりうる。非神経 因性の過活動膀胱を起こしうる原因には,前 立腺肥大症(BPH)に代表される下部尿路閉 塞,加齢,女性の腹圧性尿失禁に代表される 骨盤底筋の脆弱化,そして特発性が含まれる。

(5)過活動膀胱の診断

過活動膀胱診療ガイドラインによると,過 活動膀胱の診断は,症状の確認と他疾患の除 外によって行われる2)。 従来,過活動膀胱の病態である膀胱の不随 意収縮は,膀胱内圧測定などの尿流動態検査 (UDS)で診断されてきたが,「過活動膀胱診 療ガイドライン」では,過活動膀胱の初期診断 は症状に基づいて行われ,UDSは必須とされ ていない2)。ただし,明らかな神経因性過活 動膀胱では,UDSは必須の検査となっている。 患者が過活動膀胱の症状(尿意切迫感と頻尿 ±尿失禁)を訴えれば,診療アルゴリズムに沿 って診療が進められる(図3)2)。なお,過活動 膀胱診療ガイドラインに掲載されているこの アルゴリズムは,泌尿器科医だけでなく一般 医家による診療の機会が多くなることを考慮 して作成されている。 過活動膀胱の診療にあたっては,このアル ゴリズムに基づいて問診,検尿,残尿量の測 定が実施され,他疾患が疑われる場合には, 専門医への紹介を通し,除外診断が行われ る。尿意切迫感,頻尿±尿失禁がある患者で は,まずは神経疾患の既往の有無が問診され る。患者に神経疾患の既往があれば専門医へ の紹介がなされる。神経疾患の既往がない患 者では検尿が実施され,血尿・膿尿が確認さ れる。血尿や膿尿があれば,腫瘍・結石・感染 症が疑われるため,専門医の診察が必要とさ れる。血尿や膿尿がなければ残尿量の測定が 実施され,下部尿路閉塞の有無が確認される。 残尿量の目安は50mLとされており,50mL未 満であれば行動療法や抗コリン薬による薬物

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治療が開始される。 過活動膀胱の除外診断には,身体所見,尿 検査,尿細胞診,超音波検査などが必要に応 じて実施される。除外すべき疾患・状態には, 生命に影響を及ぼすものも含まれるため,過 活動膀胱の診断に疑問が残る場合や,治療開 始後も症状の改善がみられない場合には,泌 尿器科専門医に紹介する必要がある。 過活動膀胱は尿意切迫感,頻尿,切迫性尿 失禁などの症状が症候群として存在するため, 症状を個々に評価するのではなく,総合的に 評価することが望ましいとされている。評価 方法には,問診,質問票,排尿日誌による記 録などがあり,過活動膀胱診療ガイドライン のなかで推奨されている方法として,表2の 質問票2() 過活動膀胱症状スコア:Overactive

Bladder Symptom Score;OABSS)がある。

この方法は,日本人の過活動膀胱症例を対象 とした質問票を作成するための研究結果をもと に作成されている。ガイドラインでは過活動膀 胱の診断基準として「質問3の尿意切迫感スコ アが2点以上,かつ,OABSSが3点以上」で あれば,過活動膀胱と診断することが推奨され ている。これは疫学調査の過活動膀胱基準3) および追加解析で病的といえる症状の下限8)と された「1日の排尿回数が8回以上,かつ,尿 意切迫感が週1回以上」にも相当する。また, ガイドラインではOABSSを過活動膀胱の重症 度判定の基準として用いる場合は,「合計スコ アが5点以下を軽症,6~11点を中等症,12 点以上を重症」とすることが推奨されている。 なお,OABSSは,過活動膀胱と診断された 患者に対して,その症状の評価に適用される ものであり,過活動膀胱以外の疾患を鑑別す るために用いるものではない。そのため,たと えば一般住民・人間ドック受診者を対象に過 活動膀胱のスクリーニングを目的とした場合 には,OABSSを簡略化した質問票(過活動膀 胱スクリーニング質問票: SQOAB)が推奨さ れている(表3)。ただし,この質問票は過活 動膀胱に対して感度は高いものの,特異度は 低いことに注意が必要とされる。 排尿日誌は,3日~1週間程度の排尿時刻

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や1回排尿量,尿失禁の有無,飲水量を記録 したものであり,排尿の状態,尿意切迫感の 有無,膀胱容量の推定,夜間多尿の鑑別に有 用とされている。

(6)過活動膀胱の治療

過活動膀胱の治療は行動療法と薬物療法 が基本であり,これらの治療に抵抗性を示す 場合にNeuromodulationが行われる。また, BPHに合併する過活動膀胱の薬物療法では, BPHの治療薬であるα1ブロッカーが第一選択 薬となる2)。下記に過活動膀胱診療ガイドライ ンにおける過活動膀胱の治療方法を示す。 ●行動療法 行動療法には,生活指導,膀胱訓練,理学 療法,排泄介助があり,理学療法には,骨盤底 筋訓練,バイオフィードバック療法が含まれる。 ●薬物療法 薬物療法は過活動膀胱治療の中で根幹をな すものであり,薬物療法と行動療法の併用が より効果的であるとの報告もみられる。薬剤 の中で,有用性や安全性について検討がなさ れているのは抗コリン薬であり,過活動膀胱 治療に現在最も多く用いられている。しかし, 抗コリン薬の使用にあたっては,全身のムス カリン受容体の遮断作用による副作用を十分 考慮する必要がある。 現在,新規抗コリン薬や新しい作用機序の 薬剤の開発も積極的に行われており,今後は 副作用の少ない過活動膀胱治療薬の開発も期 待されている。2008年に発刊された過活動膀 胱診療ガイドライン改訂ダイジェスト版9)にお いて,本邦で発売されている各抗コリン薬は 次のように解説されている。 a.オキシブチニン(Oxybutynin) (推奨グレード:A) オキシブチニンは抗ムスカリン作用に加え て,平滑筋の直接弛緩作用と麻痺作用を有し ている。本剤は消化管から速やかに吸収後, 肝臓でN–デスエチル–オキシブチニンに代謝 される。この代謝物はオキシブチニン本体と 同様の薬理作用を有し,これが臨床効果や副 作用に関係していると考えられている。本邦

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では通常1日6~9mg(分2~3)で使用され ている。オキシブチニンの臨床研究は数多く あり,有効性については十分に立証されてい る。しかし,抗ムスカリン作用に基づく副作 用の発現頻度が,他の抗コリン薬に比較して も高いことから,低用量から開始して漸増し ながら至適用量を決定する方法が推奨される。 オキシブチニンは脳血管関門を通過し,中枢 神経系の副作用(認知障害など)を起こす可能 性があり,特に高齢者での使用に際しては注 意を要する。間欠導尿を行っている症例に対 しては,膀胱内注入療法(保険適応なし)も有 効な方法と思われ,経口投与に比べて副作用 が少ないことが示唆されている。また,副作 用軽減を目的として,さまざまな剤形が工夫 されており,本邦でも貼付剤の開発試験が現 在進行中であり,徐放剤についても治験が開 始される予定である。 b.プロピベリン(Propiverine) (推奨グレード:A) プロピベリンは抗ムスカリン作用とカルシ ウム拮抗作用を有する薬剤である。その薬物 動態や代謝物の作用についてはいまだ不明な 点もある。海外の臨床試験結果からは,プロ ピベリンは過活動膀胱症状に対する有用性を 有し,副作用も少ないことが報告されている。 本邦では,頻尿・尿失禁に対して最も頻繁に 使用され,安全性が保証されている薬剤であ る。本邦においては1日20mg(分1または2) で使用されている。この用量での有効性と安 全性について,本剤とプラセボや他剤との比 較の大規模な無作為試験が行われている。 c.トルテロジン(Tolterodine) (推奨グレード:A) トルテロジンは,世界初の過活動膀胱治療 薬として承認され,欧米では最も汎用されて いる薬剤である。ムスカリン受容体サブタイ プへの選択性はなく,膀胱組織への移行性と 結合親和性が高く,唾液腺に比較して膀胱選 択性が高いことが,動物やヒトで確認されて いる。トルテロジンは,4mg1日1回によっ て,過活動膀胱の各症状,QOLの改善はもち ろん,高齢過活動膀胱患者および重症過活動 膀胱患者を含め幅広い過活動膀胱患者への有 効性と安全性のエビデンスが確立された薬剤 である。第Ⅲ相試験における有害事象による 中止・脱落率も5.3%とプラセボと同等であり, 長期投与試験においては77.1%という高い治 療継続率を示し,長期投与においても副作用 発現率が増加しないことが確認されている。 また,比較的脂溶性が低く,これは中枢への 移行が少ないことを意味しており,この薬剤 の中枢神経への影響の少なさが臨床上でも確 認されている。以上のことからも,長期にわた り高い治療継続率を期待できる薬剤であると 考えられる。 d.ソリフェナシン(Solifenacin) (推奨グレード:A) ソリフェナシンは日本で創薬・開発された 新しい抗コリン薬であり,過活動膀胱治療薬 として初めて承認された薬剤である。ソリフ ェナシンはムスカリン受容体M3に対して比較 的選択性が高く,また唾液腺に比べて膀胱に 選択性が高いことが確認されている。投与後 5時間で最大血漿中濃度に到達し,半減期が 50時間と長く,このきわめて緩徐な薬物動態 を示すことが,有効性の持続と副作用の軽減 に関係していると考えられる。ソリフェナシン は過活動膀胱における尿意切迫感,頻尿,切 迫性尿失禁に対して優れた改善効果を示す。 特に切迫性尿失禁(混合性を含む)を有する患 者の50%以上で尿失禁の消失を認めている。 ソリフェナシンは,1日1回5mgで投与を開 始し,症状や効果に応じて10 mgまで増量で きる,用量調節が可能な薬剤である。有害事

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象による投与中止率は6.5%(82 /1267例)で あり,ソリフェナシンは継続して服用する事が 可能な薬剤であると考えられる。 e.イミダフェナシン(Imidafenacin) イミダフェナシンはムスカリン受容体サブタ イプ選択性に特徴があり,M3とM1受容体の 選択性を高めた過活動膀胱治療薬である。ま た唾液腺に比較して膀胱選択性が高く,膀胱 においてはM3およびM1拮抗作用によりそれ ぞれアセチルコリンによる平滑筋の収縮およ びコリン作動性神経末端からのアセチルコリ ンの放出を抑制すると考えられている。カル シウム拮抗作用は有していない。本邦におい て2007年に過活動膀胱を適応症として承認さ れ,1日0.2mg(分2)で使用されている。 f.プロパンテリン(Propantheline bromide) (推奨グレード:B) プロパンテリンはムスカリン受容体サブタイ プに対する選択性はなく,非選択性の抗コリ ン薬である。プロパンテリンはウロダイナミク ス検査上での排尿筋過活動への効果について は十分には検証されていないが,臨床的には 有用性はある程度確認されている。 ●Neuromodulation Neuromodulationとは,膀胱・尿道機能を 支配する末梢神経を種々の方法で刺激し,神 経機能変調により膀胱・尿道機能の調整を図 る治療法であり,行動療法と薬物療法に抵抗 性の過活動膀胱に対する2次治療として行わ れる。非侵襲的な方法として電気刺激療法, 磁気刺激療法があり,侵襲的な方法として体 内埋込み式 neuromodulation がある。

参照

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