香川大学農学部学術報砦 第28巻第60号169∼179,1977 169
生鮮野菜類の栽培過程における残留農薬の解毒促進に関する研究
Ⅰ.複合ミネラルの施用効果について
樽谷 勝,梅田 裕,諸岡信一・,田川 清,芳沢宅実,水川邦夫
DEGRADATION OF RESIDUAL PESTICIDESIN SOILS
DURING VEGETABLE PRODUCTION
IE鮎ctofMineralComplexApplicationinSoil
MasarilKuRETANI,YutakaUMEDA,NobuichiMoROOKA,KiyoshiTAGAWA,
TakumiYosHIZAWA and Kunio MIZUKAWA
ThcinvestlgationreportedherewasconductedwiththepurpOSeOfassuranceofthesafttyln
vegctablefbodstuffb bypreventlng the accumulationofpesticidesintogrowlngPlantsl・From
October1971toJuly1975,theauthorSinvestigatedthee鮎ctsofsupplyofmineralcomplexcs
suchasAlgitandNeohirononthephysicalpropertiesofsoil,Onthegrowthandqualityofvege−
tables,Onthegrowthorsurvivalofsoilmicroorganismsandonthepersistenceoforganochlorine
peSticides(BHC,Aldrin)inthesoilTheresultsobtainedwereasfo1lows:
(1)Whenthemineralcomplexesweresupplicdinthesoil,increaSeSintheporosityandinthe
humuscontentofsoilandimprovementofthesoilreactionsweredetected
(2)Thegoodgrowthofvegetablcswasobservedonthesoilf邑tilizedwiththemineralssothat
theyieldandqualityofthemwereimproved
(3)NosigniBcantetTtctwasobservedbysupplyofthemineralsonthesoilmicroflora
(4)Thedccreaseinα・・BHCcontentinthesoilwasacceleratedbyftrtilizationwiththeminerals
本研究は栽培野菜類への農薬の残留を防止して,食品としての安全性を確保する目的で行をったものである・ 筆者らは1971年10月から1975年7月までの間,供試複合ミネラルとしでアルギソトおよびネオヒロンの施用が,土 壌の理化学性に与える影響,栽培野菜類の発育・品質に及ぼす影艶 土壌微生物の増殖または生存に与える影響,な らびに施用した有機塩素系農薬(BHC;アルドリン)の土壌中での残留に対する影響をどについて追究した。その結 果はつぎのとおりである小 (1)土壌に供試複合ミネラルを施用した結果,土壌の孔隙丑,腐植含盈が増加し,土佐の矯正がみられたr・ (2)複合ミネラルを施肥することにより,野菜類の発育がよくなり,収盈の増加と品質の向上がみられた、 (3)土壌微生物相に対する複合ミネラル施用の影響は殆んどみられをかったい (4)複合ミネラルの施用によって,土壌中のα−BHCの消失が促進された1. 緒 日 生鮮野菜の食品としての安全性を保持することば,生産者,消費者を問わず重大な関心事である現在では農薬取 締法,毒物および劇物取締法等によって,残留毒性および毒性の強い農薬の使用規制(1)がなされており,また,食品 衛生法によって,食品中の農薬残留基準が設定されている(2)をどの,行政上の措置が講ぜられている ところが従前来,比較的長期に亘って常用されてきた有機塩素系の農薬は,施用彼の濃縮,男性体化をどによって,桶谷麟仁梅lⅠ祢」諸制帽一・,げ川l描,芳沢宅実,水川邦夫 香川大学農学部学術報告 170 土壌中での毒性残留の期間が長ぐ13),また,食品としての栽培作物に吸収,移行し,それが食物連鎖による人体へ の蓄積性が高い(4,5,6)とされている 一\般に野菜類の栽培過程における土壌中での農薬残留は,直接的には土壌処理剤としての農薬使用が多く,間接的 には農薬か混人した汚染水の流人,栽培作物体への農薬散布,その他施肥,農薬汚染材料の投入をどによることがあ げられるそうして土壌中に人・つた農薬の多くは理化学的作用,土壌中の微生物括軌 特異を植物による吸収作用な どによって,毒性の不活性化,分解による異化 吸着,吸収などが行なわれて,無書化の方向をとるものとされてい る(7,8,9・10) り しかしをがら,今日的を課題として,なお・栽培作物の食品としての安全性確保の観点から,非残留性農薬 をはじめ,残留成分分解促巻札 あるいは安全な新農薬の開発,さらには農薬に頼らをい病虫害防除の技術的方策が 望・まれている(1・5,11) 本研究は,いち早くこのことに着目し,とくに残留性の強い有機塩素系農薬の,土壌中における解毒促進をはかる 目的で,複合ミネラル肥料の施用が,土壌中の有用微生物の活性促進に及ぼす効果(4,5,12・1射 を根底にした生態学的見 地から,1971年より研究を始め1975年に亘る間に,生鮮野菜類の安全性確保にかかる栽培法の改善に資するために行 なったものであるけ この研究の遂行に当たっては,筆者らがそれぞれの専門的分野において研究を分担した.. おのおのが本研究において分担した研究項目は,(1)土壌の理化学的性質について梅田が,(2)作物の発育,収蛍, 品質について樽谷が,(3)土壌微生物相および微生物による農薬分解について諸岡,田川が担当した.さらに,(4) 土壌中の残留農薬の経時変化ならびに作物への農薬の吸収。移行については芳沢,水川が担当した をお,この研究の遂行に対して昭和48年度および49年度の2カ年,文部省科学研究費補助金(試験研究2)の交付を 得たい また,本研究による結果の−・部および概要については,園芸学会昭和50年度秋季大会研究発表において報告し た. 材料および方法 本研究の遂行に当たって,まず本報では共通材料による実験を行ない,それぞれ研究の分担において必要な試料の 採取,測定,分析をどを行なった Ⅰ供託材料 (1)実験期間,場所および供試土壌 1971年10月から1975年7月の間,香川大学農学部構内の研究圃場において実施した‖ 供試土壌として農薬汚染のき わめて僅少と思われる沖積層壌土(元,本学部附属農場の水田土壌)を入れた,10×10×04mの角型コンクリ・− トポットを用いた. 図一1角型ポソトによる実験方法(共通材料) (2)供試農薬 供試農薬として,つぎのものを用いた
第28巻第60号(1977) 複合ミネラル施用による残留農魔の解毒促進の研究(1) 171 1) アルドリン粉剤 トモノ農薬株式会祉製,アルドリン4%含有のもの. 2)BHC粉剤 日産化学工業株式会社製,†−BHC3%含宥のもの山 上記二つの供就農薬を,実験開始の当初(1971年10月)に1回のみ,別項のように設定した試験区(表−2参照)に したがって,その所定最の製品盈を土壌表面に散布した後,中耕して作土とよく混和させた.. (3)供試複合ミネラル 供試した複合のミネラルの名称,および特性の概要はつぎのとおりである. 1)アルギソト(NorwegianKelpMeaトALGIT) アルギン酸含有の天然有機質の複合ミネラルで,ノルウ.‡.一国産の海藻Asc呼ん〟ぴ∽∧b(わ5〟偶の乾燥粉末である. 昭和42年11月9日付で,特殊肥料として承認されているものであるい 2)ネオ■ヒロン2号(NEOHIRONNo”2) 化学的に合成・調合された複合ミネラル肥料で,農林省肥料登録生第44753号として市販されているものである. 上記の供就役合ミネラルの施用は,表−1の中に示すように,ほぼ1年ごとに別項の試験区(表−2参照)に示す所定 蚤を,元肥の施用と同時に添加し,作ニヒとよく混和した、 (4)供試作物の栽培およびその管理概要 実験開始以降の供試作物の種類,栽培期間等は真一1に示すとおりである1. 衷−1供試作物の栽培期間,種類 栽 培 期 間 種 類, 品 種 備 考 1971年10月3日∼1971年12月2日 〝 10月3日∼1972年1月17日 〝 11月8[†∼ 〝 5月231ヨ ホーレン草(日本種・次郎丸) 大根(みの早生) ソラマメ(さぬき長英) 大豆(自中生種) 大根(宮盛帝首給太り) 1972年6月 ∼1972年10月 〝 10月 ∼1973年2月 1973年4月 (−1973年8月 〝 10月 † 〝 12月 〝 11月 ∼1974年5月 枝豆(l巨生櫛) レタス(グレイトレス366巧) キャベツ(中生甘藍) 1974年9月 ∼1975年2月 1975年3月 ∼ 〝 7月 大根(宮重青首総太り) 馬鈴薯(しまばら) 注:備考欄の◎印は,供試複合ミネラルの施用時を示す 供試作物の播種,植付けおよび肥培管理は常法によったが,病・審虫防除のための農薬使用は一切行なっていない. 施肥はおおむね元肥として1ポット当たり堆きゅう肥1kg,化成肥料(15:15:15)60gを施し,追肥としては各作 物に対して,適宜に上記の化成肥料を施した ⅠⅠ試験区の設定 試験区分ならびに供就農乳 供試複合ミネラルの施用鼠は,嘉一2のとおりである. ⅠⅠⅠ実験および調査方法 各研究分担者において,それぞれに必要を試料の採取・調製,測定および分析等を行なったが,その方法について 研究項目別に示すとつぎのとおりである (1)土壌の理イヒ学的性質 1)供試土壌の採取および調製 供試料として,実験開始後の初期(1971年12月11日)と,実験終了時(1975年7月10日)に,1ポット当たり数カ 所の表層部より土壌を採取し,よく混合して風乾後,径2mmの円孔飾にかけた細土を用いた. 2)物理性については其比亀 仮比重を常法(14)により測定し,その結果より孔隙塁を界出した{√ ただし,1971年
樽谷 勝,梅田 裕,諸岡信⊥・,桂川l清,芳沢宅実,水川邦夫 香川大学農学部学術報告 嘉一2 試験区の設定 172 合ラ 音芸(g/m2) 農薬施用鼠(gノmg) 試 験 区 分
標 準 対 照 区
ア ル ギ ッ ト 施 用 区 アルドリン+アルギット施用区 BHC+アルギット 施 用 区 ネ オ ヒ ロ ン 施 用 区 アルドリン+ネオヒロン施用区 BHC+ネオ・ヒロン施 用 区 ア ル ド リ ン 施 用l茎 B H C 施 用 区 0 0 アルドリン粉剤10BHC 粉 剤 10
0 アルドリン粉剤10BHC 粉 剤 10
アルドリン粉剤 10BHC 粉 剤10
0 アルギット 30 〝 30 〝 30 ネオヒロン2号15 〝 15 〝 15 0 0 12月11日採攻上壌の物理性については測定しなかったい 3)化学牲については,pHは東芝ペックマン社製エクスバンドマチック SS−2型pH計により,電気電導度は東 亜電波工業社製CM−1DB型電気電導討を用いて測定した.土壌酸度,有機炭素および腐植含盈,養分吸収力につい ては,それぞれ常法(14)によって測定した∴また,緩衝曲線については,一・走塁の土壌にアルカリ(0.1N−NaOH)を 添加し,pH7、0付近までの変動を測定したい (2)栽培作物の発育,収量,品質 1)ダイコンの発育および品質 実験開始当初の1971年10月3日播種,ダイコン(みの早生)の発育状態を調査するとともに,根部(上,中,下の 3部分)の汁液糖度を屈折糖度討で測定した.さらに根部の上,中,下部より等盈ずつ採取した試料について,イン ドフェノール法(15)によって,還元型ビタミンC(アスコルビン酸)含量を測定した. 2) ソラマメの発育および結実状態 1971年11月8日播種のソラマメ(さぬき長英樺)について,翌年5月23日の青果としての収穫時に,茎葉の発育状 態,結英数,了・実垂等の観察・調査を行なった. 3) レタスの発語および品質 1973年10月9日植付け,12月24日収穫のレタス(グレイトレス366号)の,1株当たりの球蚤,薬汁の屈折糖度計 示度ならびに遊元型ビタミンC含虫を測定した. (3)土壌微生物数の測定 1)供試料の調製 各試験区について実験開始の初期(1971年12月17日),7カ月後(1972年5月20日),実験開始3カ年後(1974年12 月20日)に,ポット内の数カ所から表層の10cm部位の土壌500∼700gを,500ml容の広口瓶に採取したり 採取した土壌はよく挽搾偏食した後,その20gを別の広口瓶に秤取し,これに500mlの滅菌生理食塩水500mlを 加えて撹伴混合し,25倍希釈原液とした. 2)培養および計数法 敵記の25倍希釈液を,さらに滅菌生理食塩水で101,102,10$,104倍に希釈し,それぞれの希釈液1mlを寒天培地 10mlに加え,よく投絆混合してからシャーレ‥一に流し込み,平板とした. 細菌の場合は300C・3Iヨ間,かびおよび酵母の場合は250C・4日ないし5El間培養し,生育したコロニ・−を計数 した.菌数は各希釈液段階5仮の平板において,1平板当たり10∼100偶のコロニー数の希釈段階のものを計数し, その平均値を馴1=/て,これに希釈倍数む乗じて土壌1g中の歯数としたu 使用した培地は,細菌の場合WalくSnlanのアルブミン寒天培地‖牒),かびおよび酵母の場合は012%ペプトン添加の Czapek培地である., (4)土壌中の残留農薬の縫時推移 1)分析試料の調製 1972年1月から1973年12月までの間,ほぼ6カ月ごとに表−2の各ポッ†Jの5カ所より,探さ約15cm部位の作土を節28巻第60弓(1977) 複合ミネラル施用による残留農薬の解握促進の研究(1) 173 採取し,よく混和した後,その適量を室温鳳乾し,30メソシ.ユ.の飾別細土10gを分析に供した. 農薬抽出用n−ヘキサンは,市販特級品を2回精留して用いた.他の試薬ほいずれも残留農薬分析用の市販品であ る‖ BHCの各異性体およびアルドリン,ディルドリンは束京化成二L業の特級試薬を用いた 2)分析法 土壌中の残留農薬の抽出は,図−2に示す方法に従って行なった 風乾土壌,10g アセトン30ml添加 抜殻後,吸引口過 アセトン屑 残 娃 減圧濃縮 n【ヘキサン50ml,2%Na2SO4溶液3001111 を加え.て5001nl分液ロ・−・トに移し抽出 n−ヘキサン屑 水 屑 Na2SO4で脱水 吸引口過後,濃縮 濃 縮 液 ガスクロマト分析 ECD−GLC 図−2 土壌残留農薬の分析法 本法によるBHCの各異性体,ディルドリンお・よびアルドリンの添加恒i収率ば90%以上である.をふ1内部腰準物 磐としてへブタクロルエポキシドを使用した. ガスクロマト分析の条件は,つき■のとおりである巾 ガスクロマトグラ■7機種:日本電子JGC−1100型およびJGCr20K型ガスグロマトダラ17(電子捕獲数検出器6SNi 付). カラム:内径3mmx長さ2m,および内径2mmx長さ2mのガラスカラム. カラム充填剤:3%シリコン0V−17/ガスクロームQ(60−80メッシュ)巾 分析温度:カラム槽・2000C,カラム注入口・2400C,検出器・2600C キャリヤーガス流恩:N2ガス,40ml/min. 実 験 結 果 (1)土壌の理イヒ学的性質 実験開始後の初期における各試験区土壌の化学性について調査した結果は,表−3のとおりである1また,実験終了 時における各試験臥上.壌の理学性および化学性については表/−4のとぉりであり,実験終γ時にム・ける標準対照区,ア ルギソト施用区およびネオヒロン施用区の3区における土壌の綬循曲線は,図・・3に示すとおサであるい 表−3および4についてpH値を見ると,各試験区土壌とも実験初期に比べて,実験終了時において低い催を示して いるい また,標準対照区に比べてアルギット施用,ネオーヒロン施用の各区では,実験初期および実験終了時も,とも に低い檎を示し,土壌の酸性化傾向がみられる. Cおよび腐植含盈については,各試験区の土壌ともに実験初期にくらべて,実験終了時において多くをっている. また,標準対照区に比べて,アルギソト施用およびネオヒロン施用の各区では,実験初期ならびに実験終了時ともに,
樽谷 勝,梅田 裕,諸岡信一】・,闇川 乳 芳沢宅実,水川邦夫 香川大学農学部学術報篭 174 去−3 実験開始初牒の土壌の化学性 (1971年12月11日)
標 準 対 照 区
ア ル ギ ッ ト 施 用 区 アルドリン+アルギソト施用区 BHC+アルギット施用 区 ネ オ ヒ ロ ン 施 用 区 アルドリン+ネオヒロン施用区 BHC+ネオ ヒロン施用 区 ア ル ド リ ン 施 用 区B H C 施 用 区
表”4 実験終了時の土壌の理化学性 、…、、Ill‥…l・:・しぃ・・:!:.
(1975年7月10日) し −ご・1 い\\
項目 \二1:㌦ ¶ 共比重】仮比蛮試 験 区 \
% 【H201KCl】 % 】 %
標 準 対 照 区
ア ル ギ ソ ト 施 用 区 アルドリン+アルギット施用区 BHC・+アルギット施用 区 ネ オ■ ヒ ロ ン 施 用 区 アルドリン+ネオヒロン施用区 BHC+ネオヒロン施用 区 6 5 4 9 6 5 7 6 7 4 4 4 3 ■4 4 4 4 4 2 2 2 2 2 2 2 2 2 7 9 2 2 5 3 3 7 7 0 9 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 1 1 1 1 1 1 6 9 8 7 7 8 8 6 6 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 6 2 3 3 0 3 5 5 5 0 0 5 5 5 5 5 5 00 6 ︵0 5 9 2 5 9 7 4 4 4 4 4 5 4 4 4 4 3 4 3 4 4 3 3 3 0 5 0 5 5 0 0 0 0 1 6 0 8 0 4 7 8 7 0 2 1 8 7 0 8 9 8 3 5 6 3 3 6 4 3 3 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 4 6 8 】Oml/25g O1N−NaOH 図−3 実験終了時土壌の緩衝曲線 腐植の増加がみられる, 土壌の物理性について,実験終了時における調査結果を見ると,孔防塁において各試験区間に差がみられ,標準対 照区の孔隙盈がもっとも小さいのに対して,アルギットおよびネオヒロン施用の各区では,孔隙盈の増大がみられる. その増大傾向はアルギソト施用区においてはっきりみられる. 土壌の緩衝曲線については,標準対照区に比べて,ネオヒロン施用区ではほとんど差が認められず,アルギソト施 用区ではその差が大きく,緩衝作用が強くをっていることがうかがわれる.第㌶巻第60弓・(1977) 複合ミネラル施用による残留農薬の解毒促進の研究(1) 175 (2)作物の発育,収盈,品質 1)ダイコンの発育および品貿 実験開始当初の供試作物であるダイコン(みの早生)の発育および品質について,供試複合ミネラル施用の影響を 調査し■た結果は,表−5に示すとおりである. 義一5 ダイコンの発育および晶肇 (1971年10月3日播種,翌年1月17日収穫調査) すをわち,標準対照区に比べて複合ミネラル添加施用の各区ほ地上部,地下部の発育がともにすぐれており,また, 根部の汁液糖度(屈折訓示度)が高く,還元型ビタミンCの含量も高いい 2)ソラマメの発育および結爽状態 供試作物ソテマメ(さぬき長爽種)の青果収穫時における,茎葉の発育状態および結爽状態の観察・調査,子実重 等を調査した結果は義一6のとおりである. 表−6 ゾラ マメの発育および結爽状態 (1971年11月8日播種,翌年5月23日調査;1株当たり)
数序文ほ体霊室結英数l結爽重
子 実 生体重 子実/空英比 標 準 対 照 区 アルギット施用区 ネオヒロン施用区 茎葉の発育状態について観察したところ,標準対照区ゐ草体の発育がやや徒長的であったのに対して,複合ミネラ ル施用の各区では草丈が低く,茎数の多いものもあって茎柴の発育はゃや緊姿型であった.子実の収量に関係ある結 爽数,結爽蓋および子実蛮は,複合ミネラル施用区においてすぐれ,子爽/空爽比が大きく,1爽当たりの子実歪も 大きかった. 3) レタスの発育および品質 レタス(グレイトレス366号)の1株当たりの球重,葉汁中の可溶性固形物(屈折計示度)および還元型ビタミン C含盈を測定した結果は,表−7のとおりである. 表−7 レタスの球重,品質 (1973年10月9日植付け,12月24日収穫調査) 1株当たり平均球歪と,還元型ビタミンC含盈において,アルギット施用区がやゃすぐれたが,薬汁中の可溶性樽谷 勝,梅田 裕,諸岡信一,馴Il乳 芳沢宅実,水川邦夫 香川大学農学部学術報告 176 固形物含盈(屈折計示度)においては,必ずしも複合ミネラル施用区かすぐれたとはみられない. (3)土壌中の微生物数の消長 各試験区の土壌中の細菌,かび菌数の消長について測定した結果を比較すると,義一−8のとおりである. 卦−8 土壌中の細菌数およびかび菌数の測定比較(土壌1g中生菌数) Ⅶ▼ 東面南痛言奇頑
建趣月20郎
_州
細 菌】かび蘭標 準 対 照 区
ア ル ギ ッ ト 施 用 区 アルドリン+アルぎット施用区 BHC+アルギ ット施用区 ネ オ・ヒ ロ ン 施 用 区 アルドリン+ネオヒロン施用区 BHC+オネ ヒ ロ ン施用区 ア ル ド リ ン 施 用 区B H C 施 用 区
すなわち,実験開始の初期においては,各試験区間にはっきりとした差異や傾向は見られ覆いが,実験開始7カ月 後と3年後の測定でほ,各区間のばらつきがみられるこの場合とくに,BHC施用の各区においては細菌の数が, 他の区に比べて目立って少ないことがみられる.他方,アルドリン施用の各区でほ,僅少差ではあるが細菌数の多い ことがみられる小 しかし,細菌,かび菌ともに,供試複合ミネラル施用の影響としての傾向を示す結果は認め難い. (4)土壌中の残留農薬の経時推移 1)BHCの経時推移 BHC施用の各試験区の土壌111に残留するBHC異性体の,2年間の推移は図−4に示すとおりであり,供試複合ミ ネラルの添加施用区におけるかBHCの減衰が明らかに認められる. げ72 7 12 6/’73Ⅰ21′72 7 】2 6/,73121′72 712 6/,7312 図−4 BHC異性体の土壌残留量の経時変化 ○−○:BHC区 ●−●:アルギット加用区 △−△:ネオヒロン加用区 すなわち,α−BHCの1年後の残存率は,BHC区が9%であるのに対しでアルギット加用とネオヒロン加用区は,第28巻第60号(1977) 複合ミネラル施用による残留農薬の解毒促進の研究(1) 177 それぞれ3.2%および2.9%で,その減衰率は約3倍促進されている‖ また,3種のBHC異性体の相対比(%)の推 移について見ると,実験開始3カ月後ではα体66∼67%,β体17∼18%,†体15%であり,各試験区の間に差異は ないが,時日の経過につれて,BHC区ではβおよび丁・体の相対比が次第に増加し,2年後ではα体とβ体はほぼ 同比率となった‖ これに対して,アルギソト加用とネオヒロン加用の両区では,す‥でに7カ月後には,α体は他の異 性体と同比率となり,2年後ではβおよびγ体の2∼3分の1に減少した. 2)アルドリンの経時推移 アルドリン施用の各試験区における綴時推移は,図−5に示すとおりであり,アルドリンの急速を消失に比例してデ ィルドリンが増加した(往:これは土壌微生物によって,アルドリンがエポキシ化されて,ディルドリンに移行した ものである). り,72 7 】2 6/,73 12 図−5 アルーlざリンおよびディルドリンの土壌残留二誌の経時変化 ○:アルドリン区 ●:アルギバ、加用区 △:ネオヒロン加用区 アルドリンとディルドリンの総故について,1972年1月の時点を基準とした1年および2年後の残存率は,アルド リン区ではそれぞれ63%と由%であり,この種の農薬の土壌残留性の強さを示している.こ.れに対してアルギット加 用区では1年後23%,2年後18%を示し,アルギット施用による農薬分解促進の効果がうかがわれた.しかし,ネオ■ ヒロン加用区では,1年および2年後ともに残存率は40%前後であり,その施用効果は少なかった. 考 察 (1)土壌の理化学性に及ぼす複合ミネラル施用の影響について 供試土壌としての沖積地土壌に,複合ミネラルとしでアルギットおよびネオ・ヒロンを添加施用し,栽培試験を行な った土壌の理学性ならびに化学性について検討した結果,実験終了時土壌の理学性については義一4に見るごとく,標 準対照区の土壌に比べて,供試複合ミネラル施用の各区土壌では,真比重,仮比重ともに小さくなり,孔隙盈の増加 がみられた.この場合とくに,アルギット単用区においてそれが明らかであった.耕地土壌に有機物を施用すれば土 壌は団粒化し,孔隙急が増して,物理性が改善されることはよく知られているが(1L7),本研究の実験においても孔隙 盈の増加したことば,おそらく施用したアルギブトの腐植化と併せて,栽培作物の残さい物,その他有機物の分解に
樽谷 勝,梅田 裕,諸岡信一・,田川 清,芳沢宅実,水川邦夫 香川大学農学部学術報告 178 対するプライミング効果(18)等による腐植の増加が影響して土壌の団粒生成を促したものではないかと考えられる. また,化学性のうちpH備については表−3,4に見られるように,実験開始初期および実験終了時ともに,標準対 照区の土壌に比べ,供試複合ミネラル施用区土壌においてpH倍の低 ̄F■がみられ,やゃ酸性化の傾向を示した..これ は栽培作物の養分吸収に伴う塩基の減少と,栽培作物の残さい物の分解による有機酸の生成等に起因するものではな いかと思われる. 有機炭素(C)および腐植含二愚については,実験開始初期ならびに実験終了時土壌とも標準対照区に比べて,アル ギットおよびネオヒロン施用のニヒJ壌において増加がみられたことは,土壌中の有機物含意の多いことを示すものであ る1. 実験開始初期土壌のチッソおよびリン酸の養分吸収力および電気電導度を測定した結果は表−3のとおりであるが, 標準対照区と供試複合ミネラル施用の各区との間に顕著な差異は見られない… また,実験終了時土壌の標準対照区と アルギソト施用区,ネオヒロン施用区の緩衝力について測定比較すると,図−3に見られるごとく標準対照区とネオヒ ロン施用区との間には,ほとんど差が認められないが,アルギット施用区においては標準対照区に比べて緩衝力の強 さがみられた.このことは土壌のpH値,腐植含放との関係によるものと思われる. (2)作物の発育,収蚤,品質に及ぼす複合ミネラル施用の影響について 栽培する作物が健康に育ち,収遼,品質ならびに食品的栄養価値の増進をはかるためには,作物の育つ土壌条件が 良好で,必要をる養・水分の補給が過不足をく均衡よく円滑に行なわれなければならない.一・般に野菜類の体中には 50殊に近い元素が含まれており(6・19),また,土壌の理イヒ学的性質,生物学的性質およびそれらの相互関係が,栽培野 菜の発育,収乳 甜臥 食味および栄養的成分に及ぼす影響は大きいものと考えられる.このようなことから近時, 作物栽培の土壌条件に関して,従来の施肥および作物栄養に対する考え.方が,いわゆる作物の発育,品質等に及ぼす 土壌生態系としてみるようになり町,20),土壌中の有機物,ミネラル,微生物活性などが総合的に重視されるように なってきた… このような観点から本研究における実験は,複合ミネラルの施用が土壌生態系に及ぼす影響についての 検討でもある. 本実験において供試復合ミネラルの添加施用区における供試作物のダイコン,ソラマメ,レタスなどの発育状態を 良くし,その収盈の増加がみられ,ことにダイコン,レタスにおける可食部分の糖度,可溶性固形物,ビタミンC (還元型)含盈などの増加が見られたこと(表−5,7)は,興味ある結果である… このような実験結果は,さきに筆者 (樽谷)が行なったハウス作キュウリ,トマトに対するアルダットの施用試験拗),連作スイカに対するアルギットお よびネオヒロンの施用効果に関する栽培試験(12−1S) ,さらにほSENNらの報告(22)をどの試験結果とよく一徹するもの がある. しかし本研究における実験結果よりして,複合ミネラルの施用と野菜栽培との関係を考えるとき,個々の無機要素 の示す単独効果 要素の欠乏・過剰症的な観点(19,28)のみではなく,要素相互間の均衡性,供試複合ミネラル肥料の もつ特性および成分構成,施用盈および方法,さらに土壌生態系に及ぼす総合的な影響など,多方面からの検討によ る効果判定を行なうべきである..この点については今後において実際栽培圃場での究明と併せて詳細な検討を要する ものと考え.る. (3)土壌微生物相に及ぼす複合ミネラル施用の影響について 本実験においては,複合ミネラルを施用した土壌中の微生物相には,殆んど変化がなく,むしろ,BHCによる菌 数の減少傾向がみられたい このことばBHCによって,或る種の菌の増殖が抑制されることがうかがわれる. 今後の研究において,複合ミネラルを多盈に施用した場合,BHCの微生物増殖阻書効果が抑制されるものか,ま た,土壌細菌の増殖に栄養源として役立つか否か,などについて追究する必要が示唆される. (4)土壌中の残留虚薬の経時推移に及ぼす複合ミネラル施用の影響について 本実験の結果が示す2カ年間における,土壌中のBHC減衰盈およびBHC各異性体の比率の推移から判断して, 供試複合ミネラル施用によるα−BHCの減衰促進が認められる.BHC各異性体間の減衰速度が異なるのは,それら の挿発性,水溶性,土壌吸着性をどの理化学的性質の差異による消失速度の速い,あるいは土壌pH,生物的作用に よる分解の難易に起因するものと思われる. 一・般に有機質に富む土壌では,農弟ほ有磯質とともに土壌に吸着されて,農薬の主要な消失機構である坪散・流亡 が妨げられ,その結果残留性が高まるものとされている(24,25)..また,土壌中の或る種の金属イオンは,農薬の分解 および土壌吸着に影響を及ぼすものといわれている(28〃・28)
第28巻第60号(1977) 複合ミネラル施用による残留鹿薬の解毒促進の研究(1) 179 本研究において示された複合ミネラルによるα−BHCおよびアルドリンの減衰促進効果は,このような非生物的分 解作用のみをらず,土壌残留農薬の後期減衰における土壌微生物の活性による,微生物的な分解作用が加わったこと に起因するものと思われる 引 用 文 献 (1)環境庁二LJ褒農薬課編:公害と防止対策,農薬汚艶, pp.42−49,83−95,104−160,東京,白亜省房(1974). (2)厚生省:食品添加物・農薬残留基準−・覧表,食衛 学雑,17(1),105−132(1976). (3)永井洋三:虚および囲,48(10),1312−1316(1973)い (4)湯嶋 健,桐谷圭拾,金澤 純:現代科学選薯, 生態系と農薬,東京,岩披密店(1973). (5)高倉撫景:医農学の提唱と微塵要素,pp‖1−23,栃 木県虚業改良協会(1966)い (6)香取宏明:農薬技術研究,8,9,10,11,12,(1974)い (7)土壌微生物研究会編:現代科学選香,土と微生物, ppn166−189,束京,岩波沓店(1970). (8)上杉康彦,塚野 豊,松中昭一・,里見朝正,宮本 純之:化学生態の展望3,化学総説,Noい2,57− 102(1973)一. (9)藤原喜久夫,新井 正:環境汚染と微生物,pp 315−360,東京,医歯薬出版(1973). (10)渡辺 巌:土と微生物誌,14,1−7(1973)‖ (11)科学技術庁計画局:安全な農薬に関する技術開 発,技術開発目標体系化調査報告書(1973)… (12)樽谷 勝:園芸学会昭和48年度秋季大会研究発 表要旨,pり457(1973)い (13)樽谷 勝:園芸学会昭和49年度春季大会研究発 表要乱 pp‖218−219(1974). (14)京都大学農学部農芸化学教室編:農芸化学実験 番,第1巻,p‖236,265,東京,産業図書(1957). (15)永原太郎,岩尾裕之:食品分析法,pp..204−208, 束京,柴田讃店(1957). (16)WAKSMAN,S‖AhandCuRTIS,R:SoiJ,Sci,1, 79(1916) (17) 日本土壌肥料学会編:近代農業における土壌肥 料の研究,第1集,pp,39−43,東京,養賢堂(1970) (18)甲斐秀昭,橋本秀教:土壌腐植と有機物,pp.148 −176,東京,農文協(1976) (19)山崎 伝:微盈要素と多量要素(土壌・作物の診 断・対策),東京,博友杜(1966). (20)小田桂三郎,田中市郎,宇田川武俊,棟方 研: 耕地の生態学,pp…66−158,東京,築地書館(1972) (21)樽谷 勝,伊藤博允:園芸学会昭和45年度春季 大会発表要旨,p374(1970). (22)SENN,T。L.,MARTIN,].Aり,CRAMFORD,,.H..and DERTING,CいW.:耶わふ加脆C加戒乃α4gγ・払正 れ〝αJE砂βγま∽g乃£ 励α£よ0乃,(滋仇ゞ0乃 α物e, Rβ5eαγCゐ励rよgゞ,No‖23(1961) (23)高橋英一L,谷田繹道彦,大平幸次,原田登五郎, 山田芳雄,田中 明:作物栄養学,pp.59−80,束 京,朝倉書店(1969) (24)井上克弘:化学と生物,7,596(1969). (25)HARRIS,C…R…and SANS,WりW:].Econ,En− わ椚d,65,333(1972) (26)DowNS,W”GりBoRDAS,E.and NAVARRO,L: 鹿よe乃Ce,114,259(1951) (27)SwANSON,C。L.W”,TIすORP,F′C.andFRrEND,R B.:助去プ鹿よ\,78,379(1954) (28)GELLAHER,Rい,小and EvANS,Lh:NZ.JAgr Re5,4,466(1961) (1976年9月30日 受理)