香川大学農学部学術報告 算29巻第61号109∼115,1977 109
瀬戸内地方に適合した畑地かんがいの基礎的研究(Ⅶ)
−植物の生理的因子を考慮した畑地かんがいに.ついて−−一
山田 宣良,佐藤 省三*,田代 良則**
FUNDAMENTAL STUDIES ON THE RATIONALIRRIGATION FOR
THE DISTRICT AIJONG THEINLAND SEA OFJAPAN(VII)
−On the FieldIrrigation Considered with the PhysiologicalFactors of the Plant・q
NoriyoshiYAMADA,Shozo SATO and YoshinoriTAS王王IRO
Nowadays,thelogicalbases ofirrigation practices,SuChas the time of sprinkle,quantity
Of water and means ofit,are based on the methods with the micro climate or・On the deficit
Of soilmoisture. Authors haveinsisted that the consideration of physiologicalfactors of
plant must be also one of the bases.
In this paper’,the elongation of branch,the enlargement of stem and fruit,and the mois・
ture potentialofleafin orange treesareinvestigated for the applicability toirrigation pIaC・
tices. Asthe resultsof these experiments,itis provedthat the enlargement of fruitis the
most profittableindication now forits correspondence to soilmoistur’e Circumstances,and the
moisture potentialofleafhasan applicability forthe future by the explanation of manyplo・
blems to soIve. 現在畑地かんがいの時期,永畳,方法等を決定する理論的根拠としては,接地気象に.もとづく方法,土壌の水分消費 をもとに.した方法などがあるが,筆者らは植物の生理的因子をも考慮すべきものと考えている.本実験的研究紅おいて は,ミカンの樹の生理的因子として枝の伸長盈,幹の肥大盈,果実の肥大盈,真の水分ポテンシャルの4項目紅ついて 畑地かんがいへの適用性を検討した結果,これらの因子のうちでは果実の肥大畳が土壌水分環境ともよく対応し,最も 適した指標であること,葉の水分ポテンシャル値は現在多くの問題点があるが,今後の研究によってほ応用されうる可 能性を有することが明らかとなった・ Ⅰ.ま え が き 現在,畑地かんがいの時期,水盤,方法等を決定する紅際しての理論的根拠としてほ,かんがいの対象となっている 植物の消費水畳が最も重要なものとして採用されている.その具体的な方法は椎名(1)紅よってとりまとめられている よう紅,1960年代紅ははば確立したものとなり,現在ではポット,ライyメーータ,チャンバ等に.よるETの直接測定, 傾度法,熟収支法等接地気象を比較的ミクロ紅みた方法,TboI・ntbwaite,Blaney−CIiddle法等マクロな方法,有効 板群域内の土壌水分の減少から判定する方法などがあり,その一部は再評価されるに至っている(2).これらの方法は それぞれが長所をもち,その適合性紅応じて受入れられているのであるが,畑地かんがいの主目的が対象植物の正常生 * チェリ・−コンサルタント ** 新兵庫ヰセキ販売
山田 宣良,佐藤 省三,田代 良則 香川大学農学部学術報告 110 育とそれに伴う安定した収盈の確保紅ある以上,植物自体の生理的因子についても考慮をはらい,できれば畑地かんが いの一億針としてとり入れるぺきではないかと考える.そこでここでは香川大学付属戯場紅おいて−ミカンの樹を対象と し,枝(伸長鼠),幹(肥大鼠),果実(肥大盈),葉(水分ポチ1/シヤル)の4項目に.わたって,昭和46∼51年度に行な った実験のうち,特に.昭和50年度のデー・タを中心として畑地かんがい基準への応用の可能性について■検討を加えてみ た. ⅠⅠ.実験の結果と考察 植物の生理的因子を数鼠的に,かつ簡便に知るため紅ほ,間接的な指標にすぎないという問題点はあるものの,何ら かの生長盈を計測するというのが最も−・般的であろう.これについて−は既に方法論的にほ確立したものとなって−お り(S),種々の成長曲線も得られている.測定の対象となりうる部位として:は,樹木の場合,根,幹(茎),枝,果実, 葉などが考えられるが,果樹(ミカン)の特殊性を考慮して,ここでは上記の枝(伸長蛍),斡(肥大盈),果実(肥大 塁),葉(水分ポテンシャル)の4項目をとりあげ,これと従来畑地かんがい実施上の基準として用いられていた土壌水 分ポテンシャルとの対応の下にその適応性を判定した. 1.枝の伸長蕊について 植物体の成長盈の1つ紅植物全体の大きさの変化があり,草丈,梓長などの測定が容易な比較的小さい植物において 広く用いられている.しかしながらミカンの樹は「般に2m以上もの大きさにして栽培するのが普通であるので,とれ の測定ほ現実的であるとはいえない.もしこの考えを生かすならば,生長点をふくむ枝の伸長盈を測定するのが最も合 理的であろう.ミカンの樹の枝の伸長塩については既に一部報告して小る(4)が,ここでは昭和50年魔の測定結果を対 比させながら考え.て.みたい.測定は平均12本の枝を対象として,日変化を午前9時の定時,巻尺によってmmの単位ま で測定した.その結果は図・−・1に示すとおりである. 図・−1 枝 の 伸 長 鼠 この図からは次のことがわかる.a一・般紅ミ.カンの樹の枝は春枝,夏枝(場合によっては秋枝)と不連続に.伸長す る.b春妓(又ほ秋枝)は伸長盟が小さく,伸長期間もやや短い..c 夏枝ほ伸長意が大きい.ただし枝によるバラツ キも大きく,−・般に上向きの枝はど伸長盟が大きいようである・d枝の伸長鼠は生育時期(季節)との関連性が高く, 水分環境の影響は比較的小さい1、以上a∼dの各項目は,枝の伸長慈を畑地かんがい実施上の基準として適用するにほ
第29巻寛61号(1977) 瀬戸内に適合した畑地かんがい(Ⅶ)植物の生理的因子 111 マイナスの面であるが,その他に,e 測定が容易であり,特に.夏枝の場合にはcm単位の計測でも実用性がある.とい う利点ももっている. 2.幹の肥大恩について 植物体の成長鼠を表わす基準として,幹の肥大蕊を採用している例はこれまでに.も多く鼻られる.NAMXENらく8) は,棉の幹の直径と伸長蓮とをトランスジューーサで測定し,特に後者が水分応力と対応していたことを報告している. 彼等は別報(6)でも,生育時期にかかわらず幹の肥大鼠が水分応力に.よく対応することを示している.しかしながら VE川MEYER(7)は,アンズ,ア−モンド,モモによる測定の結果,水分が多いはど肥大も大きいとは限らないという 結論に達しており,この点紅ついて−検討を要するように.思われる.筆者らはミカンの樹の接地紅近い部分を対象とし て,4方向から固定ダイヤルグー・汐の読みに.より,直径の日変化を〝単位まで測定した.こ.の際ダイヤルグ−ジを使 用したことほ,安価かつ簡便であるという利点を生かしたためであり,樹木の傾斜紅よる影替を避けるため東西南北の 4方向から計測してその平均値をとってこいる・・その結果は,計測誤差の要因が多いためか不安定なものとなり,前日の 値紅対して数十ミクロンも縮小したり,数百ミ.クロンもの肥大意を示す例がみられたので,15日毎の平均値として図− 2に.示した. 5︵ノ9 ∩︶ノ∼4 5 く9 00 ■∼ 3 / 00 7 6∼ 230 2−∼25 柑∼20 1 ′.﹀ 0 6′−︶ − ∴′.\ノ5 7 図−・2 幹 の 肥 大 愚 幹の肥大桑は,a測定法の選定に.問題があり,正確かつ簡便な方法が得られに.くい.bダイヤルグー・ジによる方法 では風の影響が大きく,また幹との接点が移動しやすい・C測定値に/ミラツキが大きく,日毎の測定や〝単位の表示 の意味があまりない.d全般的紅変化蛍が小さく,かつ諸因子の中では生育時期(季節)との関連性が最も高いよう に㌧思われる.これらa{ノdの各項目は,幹の肥大宜を畑地かんがい基準として取入れる紅ほ不都合なことを示している が,e 客観的な連続測定項目として有意義な利点もある 3.果実の肥大盈について 果実の肥大はそれ自体が畑地かんがい実施上の主目的の1つでもあることから,いわゆるかんがい効果を判定する手 段としてこれまでもしほしば利用され,筆者らの一・適の研究においても既にいくつかの知見を報告している(4).ここ
山田 宣長,佐藤 省三,田代 良則 香川大学農学部学術報告 112 では昭和50年度紅おける測定結果を中心として報告したい.果実の肥大堂の測定法そのものについても,特にその野外 における連続測定という点において問題があり,数多くの方法が試みられているが,今回はその簡便さを生かし,ノギ スに.よって械径を%mmまで測定した.対象果実ほ.当初36個としたが,落果・その他測定に胤えられなくなったものを除 外して,最終的に.は16個となった.その平均値の日変化を示すと図−・3のとおりである・ ● \ ● \ \ ● ● ./′■ 「■■ ■ ̄ / ● ● \ ● \● \ ● ● ● ● ● ● ●●● ● ● / ● ● ● ● ● ● \ / ● ● ● ● ● ● ● ●●
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15 20 25 10 15 20 図一・3 果 実 の 肥 大 鼠 この図からわかるように.,果実の肥大量ほ多少は生育時期(季節)との関連性もみられるが,それよりも他の因子, 特に土壌水分の影響が著しく表われているように思える.すなわち,7月下旬における肥大盈の著しい低下と,7月下 旬から8月上旬紅.かけて全般的に欄巴大豊が小さかった事実は,この時期における連続干天に.もとづく土壌水分の減少を 反映しているものと考えられる.そこで図−・3の結果を土壌水分(pF値)との対応で示すと,図−・4のように.なる.この図における土壌水分値は,従来の研究によって最も代表的な測定点であると考えられるに至った(8)深さ20cm,
樹幹から90cmの位置の値をグッレオメ」一夕によって−測定したものである.こ.のうら黒丸で示したものが昭和50年皮の測 定結果であるが,pF値が小さい場合のデータが不足していたので,過去のデー・タ(4)も加味して−白丸によってこ示して ある.図・−4の結果から判断すると,肥大盈はある程度pF値と対応していることがわかる・すなわちpFl・2前後を 境乾して−,それより水分が少ない場合に.は,土壌水分(pF):肥大盈(mm/day)の間に7■=一0・5∼−0け7程度の負の相 関が,また多い場合に.はタ・=0.3∼0小6程度の正の相関がみられた・従〔て土壌水分環境紅よって肥大塵が受ける影響 は,日単位の測定値に対しても明白に.現われているといえよう.このように果実の肥大患は,a どの個体を選ぶか紀聞 題があり,平均値をとる紅は少なくとも10個程度が必要となる.という欠点はあるものの,b畑地かんがい実施上の主 目的の1つが果実の肥大である.C 土壌水分環境と比較的良好な対応をみせている.d比較的長期間にわたっての安 定した指標となる.e ノギスで測定すれば比較的容易な作業となる.という利点をもつことから,畑地かんがい実施 を考えてゆく上で,特紅植物の生理的因子紅も着目した場合に.は有効な指標となるのではないかと考えられる. 4.斐の水分ポテンシャルについて 真の水分ポチ㌧/シヤルの測定紅はいくつかの方法があるが,筆者らは従来行なった現場測定への応用の可能性につい ての検討結果(9)を生かして,サイクロメ」−タによってこれを行なった.サイクロメ−・タを用いた現場での測定は,特 に.U.S.A.において広く受入れられており,多くの報告がなされている.(文献(9)参偲)ここでは径8mm(断面税0.5欝29巻第61号(1977) 瀬戸内に.適合した畑地かんがい(Ⅶ)植物の生理的因子 113 ● ● ● ㌔●● ● ● ● ● ● 20 肥大丑(mm/day) 図・−4 肥大盈と土壌水分との関係 cm2)のり十フパンチによって,ミカンの.ニ年生の葉を3∼5枚程度(サイクロメ−タの容盈0・3mllばい)採取して測 定した結果をpF値に換算して図−5に示す∴ この図からもわかるよう紅,薬の水分ポテンシャルは生育時期(季節)によって若干の変動を示すが,全般的傾向か ら類推すると,測定原理とも関連して湿度および気温の影響が現われているのではないかと思える.すなわち,データ がやや不充分なきらいはあるが,8月上旬払おけるpF値の極小値は,この時期が湿度,気温ともに高いことを反映し ているのではなかろうか.これはBRADYら(10)によって行なわれた葉の水分ポテンシャルの経時,経日変化の測定結 果とは必ずしも一哉した傾向を示して・おらず,さらに検討を要するものと考えられる.またREICOSⅨYら(11)紅よれ ば,日射盈や土壌水分ポチ∵/シヤル,生育時期などが葉の水分ポテンシャルに影響を及ばすといわれ,その点の解析が 必要とな(てくる.すなわち,この方法はa計測に際して一種々の環境因子から影響を受ける.b どの葉のどの部位 を選定するかが問題である.c若干の専門性に伴う技術を必要とする.d現状ではまだ未知となっている要素が多 い.などの欠点または改良点を残してはいるが,e水分ボタンyヤルの直接的測定法である.というのは大きな利点 であろう.
山田 宣良,佐藤 省三,田代 良則 香川大学農学部学術報告 114
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図−・5 其の水分ポチ ン∵レ ヤ ル ⅠⅠⅠ.植物の生理的因子の畑地かんがいへの応用 ⅠⅠで論述した各因子に.ついての検討結果を総合的にまとめてみると義一1のようになる. 表一1 畑地かんがいへの応用性 枝 (伸長盈)】幹 (肥大愚)】果 実(肥大愚)】葉(水分ポチ∵/シヤル) 0 0 0 0 この表からわかるように.,現時点紅おいてただちに.畑地かんがい実施上の基準として応用できるのほ果実の肥大盈で はないかと考えられる.具体的にほ,ミカンの場合にほ0.4mmノday程度が肥大愚の榛準と考えられるので,連続干天 によって次第紅肥大盈が減少し,0.4mm/day以下となった時点(図−・4から判断するとpF櫨が大きくなるほど危険) において−かん水を考慮すればよい.このときのかん水豊は対象土屑の水分が,最大肥大盈を示す土壌水分値(pFl.2前 後)となるのに必要な立となる・本実験で採用したように,代表的土壌水分測定点の深さは20cmが適当であるので,こ の場合の対象土層はこの2倍程度の40∼50cmと・す・るのが,有効根群域の深さともはば一致して妥当ではないか る.しかしながら果実の肥大塁のみでは厳密な基準とはなりにくいことから,従来採用されていた方法と併用して,た とえば土壌水分がpF2.7となり,果実の肥大塁が0..4mm/day以下となる2条件が満足されたときに.かんがいを行な うといった方法が合理的なものとなろう小その他の因子について個々に検討した結果では,枝の伸長豊は最も可儲性が 小さく,基準として採用することは困賂であるといってよい.幹の肥大鼻は正確かつ簡便な測定が前提条件となるが,第29巻籍61号(1977) 瀬戸内紅適合した畑地かんがい(Ⅶ)植物の生理的因子 115 現状でほこれ紀聞題点があり,適当な測定法が見出しに.くいことがその適用性に.おける最大の制約事項となっている. これが解決された時点で若干の可能性は期待できるが,本質的に.は春材と基材とで「年輪」を構成することからもわか るように.,より季節的要因の強いものであろう.ただし−・般に降雨盈,気温等の環境周子に澄まれていた年は年輪の幅 が広いといわれていることからもわかるように.,今後ある程度の可能性は.残されているものと思える.最後に葉の水分 ポチン1/ヤル紅ついては,現状でほ測定値そのものに対して影響を及ぼす因子が完全軋把捉されてはおらず,その意味 で実用ほ不可能である.しかしながらこれらの各項目の中では最も論理的な測定値であり,今後の検討庭.よってほ広く 適用されてゆく可能性は有してこいるものと考えられる.これについてほ次報紅おいてさらに詳述する. ⅠⅤ.謝 辞 本研究の遂行に.あたり便宜をとりはかって戴いた.真部桂教官はか付属農場各位に対しあつく御礼申し上げます. 参 考 (1)椎名乾治:畑地カンガイ計画法(その1∼6),虚 土語,33(1∼7)(1965), (2)鈴木重義:畑地カンガイ計画(その2)気象特性 と畑地カンガイ,農土誌,45(5),40(1977)・ (3)田崎忠良,田口亮平:植物体の成長,実験植物生 理生態学実習,129(1974). (4)松田松ニ,山田宣良:瀬戸内地方に・適合した畑地 かんがいの基礎的研究 Ⅴ土壌水分消費機構の時 期的不均叫性について,番犬農学報,24(1),72 (1972). (5)NAMKEN,L・N,BARTHOLIC,J・F・・,RtTNKLES, J.R.:Monitoring cotton plant stem radius
as anindication of water stress,Agron.].
61,891(1969)
(6)NAMKEN,L・N,BARTHOLIC,J・F,RuN軋ES, J.R.:Water stress and stem radialcont
raction of cotton plants under fieid condi tions,Agγ∂〝./.63,623(1971).
(7)Ⅴ封HMEYER,F・J・:Thegrowthoffruittrees
inresponsetodifferentsoiトmoisturecondi・
文 献
tions measuェed by㌣id抽of annual‖ngS and otheI− meanS,ざ扇J・乳扇.71g(6),448
(1975). (8)松田松ニ,山田富良:瀬戸内地方酷遇合した畑地 かんがいの基礎的研究ⅤⅠ閉場規模での土壌水分 消費機構の不均一催と代表性とについて,番犬農 学報,24(1),81(1972). (9)松田松ニ,浅沼興−・郎,山田宣良:サイクロメ一 夕による葉の水分ポテンシャルの測定,番犬農学 報,27,139(1976). (10)BRADY,R・A・,PowERS,W.L,STONE,L.R., GoLTZ,S.M.:Relations of soybeanleaf
Water pOtentialto soilwater potential,
』g7〃仇./.81,795(1974).
(11)REICOSKY,D.C‖,CAMPBEI.L,R.Br,DoTY,C. W.:Diurnalfluctuation ofleaf−Water pO・
tential0壬corn asinfluenced by soilmatric potentialandmicroclimate,AgY■On.].67,380
(1975).