• 検索結果がありません。

国費留学生の修了生ネットワーク構築に関するSNS の利用と関係流動性からの考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "国費留学生の修了生ネットワーク構築に関するSNS の利用と関係流動性からの考察"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

国費留学生の修了生ネットワーク構築に関する

SNS の利用と関係流動性からの考察

小松 由美

【キーワード】・ 国費留学生、修了生ネットワーク、SNS、関係流動性 1. はじめに  2013 年 12 月に文部科学省が発表した「世界の成長を取り込むための外国人留 学生の受入れ戦略」は、受入れ重点地域や専門分野の多様化、元国費留学生との 連携、同窓会開催やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用し た修了生(奨学金制度での学修過程を修了した個人)のオンラインコミュニティー の形成を提言している。受入れ重点地域として、ASEAN、ロシア及び CIS 諸国、 アフリカ、中東、南西アジア、モンゴルを中心とした東アジア、南米、米国、中 東欧が挙げられ、これまで日本の留学生の大きな割合を占めてきた中国、韓国、 台湾からの学生は、2013 年 5 月の 75.2 %から 2015 年 5 月には 56 %となり(日本 学生支援機構調べ)、留学生の多様化が進んでいることが伺われる。  国費外国人留学生制度の研究留学生には 35 歳までの大卒者が採用され、2016 年春に渡日したのは「ミレニアル世代」(1980 年代初めから 1995 年生まれの若者) である。一方、同制度で 17 歳から 21 歳で渡日して学士号取得を目指す学部留学 生には、「ジェネレーション Z」(1996 年以降に生まれた若者)と呼ばれる次世代の 若者たちが採用され始めている。これらの世代は共にデジタルネイティブと呼ば れ、インターネットがある生活環境で学生時代を送っているが、1954 年に創設 された国費外国人留学生制度の修了生たちは、世代により慣れ親しんできた人間 関係形成や IT 技術が異なる。様々な国、世代の留学生の修了後のつながりを保 つには、ネットワーク構成メンバーとなる人々のネットワークに関する認識や習 慣を理解して推進する必要があろう。この小文では、元国費留学生のネットワー ク構築について、利用する SNS、関係形成に関する認識から考察する。 2. 先行研究  前述の文部科学省発表の外国人留学生の受入れ戦略の提言に先立ち、平成 23 東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集 43:137~145,2017

(2)

年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業として、「各国政府外国人留学生奨学 金等による・修了生へのフォローアップ方策に関する調査研究・- 主要な各国政府、 海外の主要大学の取り組み -」(受託先:立命館大学)という調査が為されている(谷 口・2012)。同調査は、欧・米・豪・東アジアの各政府の外国人留学生受入れを調 査した国レベルのマクロな研究で、SNS によるオンラインコミュニティーの形 成が提言された。  個人を対象としたミクロなリサーチとして、国内外の親日 • 知日人材コミュニ ティーの創成及びマネジメントを事業のひとつとして展開する一般社団法人日本 国際化推進協会の若林氏が ASEAN10 カ国で元国費留学生にインタビューを行 い、その印象が 2016 年 11 月 4 日付・The・Huffington・Post・blog に掲載されている。  これから修了生ネットワークの構成員となる現役の国費留学生のインターネッ ト利用については、彼らの留学前と留学 1 年目の SNS の利用について、筆者(2016、 2016)が調査を行っている。 3. ネットワーク構築メディアの選択  ミレニアル世代の若者は、2004 年に学生が設立し 2006 年に一般公開され世界 最大規模の SNS となったフェイスブックの発展を見てきた。一方、米国の調査 会社によると、ジェネレーション Z 世代はプライバシーを重んじ、アイデンティ ティーを開示するフェイスブックよりフォローするプレッシャーがないと言われ る Instagram や投稿が短時間で消える Snapchat の利用を好むが、情報収集には フェイスブックを利用するという(DIGIDAY・2015)。国によって利用する SNS の種類や利用(実名か匿名か)には違いがみられるが(総務省 2014:・292)、日本国 内でも世代によって利用する SNS の違いが見られ、20 代以下では LINE の利用 が 6 割以上と最も多く、フェイスブックやツイッターを抜いている(総務省・2015:・ 209)。  現在、フェイスブック上には、文部科学省国費外国人留学生制度に関わるグルー プが複数存在する。同制度の申請に関するグループには、同制度の様々な留学生 カテゴリーへの申請に関する情報交換が行われている。他に、予備教育機関の修 了生のグループ、予備教育機関の年度ごとのグループ、出身国のグループなど、 様々である。筆者が 2014 年度と 2015 年度に 38 の国・地域から東京の予備教育 機関に入学した国費学部留学生 106 名を対象に SNS の利用を調査したところ(図 1)、日本留学前の自国では両年度共 90 %以上がフェイスブックを利用していた

(3)

が、日本で広く利用されている LINE の利用者は 4 割前後にとどまった。しかし、 日本留学後は 9 割前後が LINE を利用するようになり、2015 年度生では僅かなが らフェイスブックを抜いて LINE が最も多く利用される SNS となった。2015 年 度生に聞き取りを行ったところ、予備教育機関がある大学のクラブ活動に参加し て日本人学生と交流するようになり、日本人学生が多く用いるメディアがメイン の SNS となっていったという回答が得られた。ネットワーク構築のメディアは 環境に影響され、構築に利用するメディアの検討が必要と思われる。  2016 年 10 月に国費留学生予備教育機関の同窓会場で修了生ネットワーク構築 のためのアンケート調査への協力を呼び掛けたところ、25 カ国からの 36 名の回 答を得た(内 1 名は属性不明)。居住地は数名を除いて日本国内で、25 名は日本 の大学または大学院に在籍している。1 名を除いて 2000 年以降の入学者であり、 ミレニアルとジェネレーション Z の世代である。国費留学生の修了生ネットワー ク構築にはどの SNS が良いか尋ねたところ、フェイスブックを一番とする者が 32 名(88.9 %)と最も多く、前述のジェネレーション Z 世代中心の国費学部留学 生の調査で最も多く利用されていた LINE を一番に挙げた者は 3 名であった。一 方、予備教育機関から修了生である回答者個人に連絡をする場合に希望するメ ディアを尋ねたところ、電子メールを一番に挙げた者が24名(66.7%)と最も多く、 フェイスブックを一番とした者は 16 名(44.4 %)、LINE は 1 名(複数を同位に挙 げた者あり)と、修了生間のネットワーク構築とは違ったメディアが選ばれてお り、目的により連絡するメディアを考える必要が確認された。 学 生 カ テ ゴ リ ー へ の 申 請 に 関 す る 情 報 交 換 が 行 わ れ て い る 。 他 に 、 予 備 教 育 機 関 の 修 了 生 の グ ル ー プ 、 予 備 教 育 機 関 の 年 度 ご と の グ ル ー プ 、 出 身 国 の グ ル ー プ な ど 、 様 々 で あ る 。 筆 者 が 2 0 1 4 年 度 と 2 0 1 5 年 度 に 3 8 の 国 ・ 地 域 か ら 東 京 の 予 備 教 育 機 関 に 入 学 し た 国 費 学 部 留 学 生 1 0 6 名 を 対 象 に S N S の 利 用 を 調 査 し た と こ ろ ( 図 1 )、 日 本 留 学 前 の 自 国 で は 両 年 度 共 9 0 % 以 上 が フ ェ イ ス ブ ッ ク を 利 用 し て い た が 、 日 本 で 広 く 利 用 さ れ て い る L I N E の 利 用 者 は 4 割 前 後 に と ど ま っ た 。 し か し 、 日 本 留 学 後 は 9 割 前 後 が L I N E を 利 用 す る よ う に な り 、 2 0 1 5 年 度 生 で は 僅 か な が ら フ ェ イ ス ブ ッ ク を 抜 い て L I N E が 最 も 多 く 利 用 さ れ る S N S と な っ た 。 2 0 1 5 年 度 生 に 聞 き 取 り を 行 っ た と こ ろ 、 予 備 教 育 機 関 が あ る 大 学 の ク ラ ブ 活 動 に 参 加 し て 日 本 人 学 生 と 交 流 す る よ う に な り 、 日 本 人 学 生 が 多 く 用 い る メ デ ィ ア が メ イ ン の S N S と な っ て い っ た と い う 回 答 が 得 ら れ た 。 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の メ デ ィ ア は 環 境 に 影 響 さ れ 、 構 築 に 利 用 す る メ デ ィ ア の 検 討 が 必 要 と 思 わ れ る 。 2 0 1 6 年 1 0 月 に 国 費 留 学 生 予 備 教 育 機 関 の 同 窓 会 場 で 修 了 生 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の た め の ア ン ケ ー ト 調 査 へ の 協 力 を 呼 び 掛 け た と こ ろ 、 2 5 カ 国 か ら の 3 6 名 の 回 答 を 得 た ( 内 1 名 は 属 性 不 明 )。 居 住 地 は 数 名 を 除 い て 日 本 国 内 で 、 2 5 名 は 日 本 の 大 学 ま た は 大 学 院 に 在 籍 し て い る 。 1 名 を 除 い て 2 0 0 0 年 以 降 の 入 学 者 で あ り 、 ミ レ ニ ア ル と ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン Z の 世 代 で あ る 。 国 費 留 学 生 の 修 了 生 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 に は ど の S N S が 良 い か 尋 ね た と こ ろ 、 フ ェ イ ス ブ ッ ク を 一 番 と す る 者 が 3 2 名 ( 8 8 . 9 % ) と 最 も 多 く 、 前 述 の ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン Z 世 代 中 心 の 国 費 学 部 留 学 生 の 調 査 で 最 も 多 く 利 用 さ れ て い た L I N E を 一 番 に 挙 げ た 者 は 3 名 で あ っ た 。 予 備 教 育 機 関 か ら 修 了 生 で あ る 回 答 者 個 人 に 連 絡 を す る 場 合 に 希 望 す る メ デ ィ ア を 尋 ね た と こ ろ 、 電 子 メ ー ル を 一 番 に 挙 げ た 者 が 2 4 名 ( 6 6 . 7 % ) と 最 も 多 く 、 フ ェ イ ス ブ ッ ク を 一 番 と し た 者 は 1 6 名 ( 4 4 . 4 % )、 L I N E は 1 名 ( 複 数

(4)

4. 関係流動性から考える SNS でのネットワーク構築  上記予備教育機関の同窓会開催の連絡に SNS の利用を呼び掛けた際、多くが 応じる中、SNS の利用をしたくないと回答する者があり、その理由として、セ キュリティーの問題点が挙がった。SNS をネットワーク構築に導入するにあた り、ネット上での自己開示に抵抗がない者、セキュリティーやプライバシー懸念 が大きい者の両方に考慮する必要がある。  SNS 利用における個人情報のプライバシー懸念の違いに関して、Thomson 等 (2015)は、日米比較を関係流動性という社会生態学的要因から試みている。関 係流動性とは、社会の中に存在する人間関係や所属集団の選択肢の多さを言う。 先行研究では、北米より日本のほうが関係流動性は低いとされている(Yuki・et・ al.・2007、Schug・et.al.・2009)。米国のような関係流動性が高い社会では、新しく 人と出会う機会が多く、誰と付き合うのか、比較的自由な選択が可能である。一方、 日本のような関係流動性が低い社会では、付き合う人間や所属団体を自由に変え ることは比較的困難だと考えられる。社会において人間関係や集団をどのくらい 選択できるかという回答者の認識から測定する関係流動性尺度が Yuki 等(2007) により開発され、様々な研究が行われている。  関係流動性が高い社会では、新たな関係形成の機会が多いことから、対人関係 悪化のコストは相対的に小さいが、関係獲得の競争があり、他者とのつながりを 積極的に求める行動が見られる。一方、関係流動性が低い社会は新たな関係形 成の機会が少なく、固定した対人関係の中で協調的維持が重要となる。これを SNS でのネットワーク構築に当てはめてみると、周りの社会は関係流動性が高 いと認識する者は SNS を利用したネットワーク構築を積極的に行い、社会環境 の関係流動性が低いと認識する者は、SNS 利用においても現在の人間関係を損 なわないように慎重になるのではないかと考えられる。  筆者が 2015 年に渡日した国費学部留学生(N=46)を対象に調査したところ、 60 %以上の者が日本より自国のほうが関係流動性は高いと回答した(図 2)。しか し、対象者数が多いアジア出身者(n=31)は自国のほうが高いという者が日本の ほうが高いという者の 2 倍以上であるのに対し、出身者数が少ない地域では逆に 日本のほうが高いという者が多い地域もある。また、男性(n=28)では関係流動 性は自国のほうが高いと答えた者が 50 %、日本のほうが高いと答えた者が 40 % 弱であったのに対し、女性(n=18)は 80 %以上が自国のほうが高いと答え、日本 のほうが高いと答えた者は 20 %に満たない。より大きな調査対象者数での考察

(5)

が必要であろう。  また、国費学部留学生が渡日 1 年目に利用する SNS の数と自国の関係流動性 について調べたところ、弱い相関関係が見られた(r=0.353、p<.05)(小松・2016)。 決定的要因と言えるほど強い相関関係ではないが、関係流動性が高いほど利用 する SNS 数が多い傾向が示唆される。社会の関係流動性が低いと認識する者は、 対人関係の維持を重視することから、自己のプライバシー開示の他、ネットセキュ リティー上のウィルス感染等による知人とのトラブルを懸念する可能性が考えら れる。上記の国費学部留学生の調査結果に表れているように、居住する場所によ り関係流動性の認識は変化すると思われるが、関係流動性が低いと認識する者が 多い地域については、前述のような懸念への対応、ネットワーク構築の動機づけ がネットワーク構築の成果に関わるであろう。 5. 地域や世代を超えた魅力あるネットワークの構築  グローバル化が言われて久しいが、国費留学生の日本での学位取得後のキャリ ア形成も、自国に戻って就職する者、他国の大学院に進学する者、日本での就職 先から海外派遣される者、自国の日本企業から日本に転勤する者等、様々である。  平成 23 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業『各国政府外国人留学生 奨学金等による修了生へのフォローアップに関する調査研究』に関わった堀江 (2015)は、日本政府のフォローアップ施策への提言について論じている。同調 査研究は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、中国、韓国、 台湾の各政府の外国人留学生受入れを調査したものであるが、留学生として受け 入れた優秀な若者が社会的な影響力をもち活躍することがその国の国益につなが るという各国の考え方を挙げ、複数の国に留学する者が増えている近年、いかに 自 国 の ほ う が 高 い と 答 え た 者 が 50% 、 日 本 の ほ う が 高 い と 答 え た 者 が 40% 弱 で あ っ た の に 対 し 、女 性(n=18)は 80% 以 上 が 自 国 の ほ う が 高 い と 答 え 、日 本 の ほ う が 高 い と 答 え た 者 は 20% に 満 た な い 。よ り 大 き な 調 査 対 象 者 数 で の 考 察 が 必 要 で あ ろ う 。 ま た 、 国 費 学 部 留 学 生 が 渡 日 1 年 目 に 利 用 す る S N S の 数 と 自 国 の 関 係 流 動 性 に つ い て 調 べ た と こ ろ 、弱 い 相 関 関 係 が 見 ら れ た( r=0.353、p<.05)( 小 松 2016)。 決 定 的 要 因 と 言 え る ほ ど 強 い 相 関 関 係 で は な い が 、 関 係 流 動 性 が 高 い ほ ど 利 用 す る S N S 数 が 多 い 傾 向 が 示 唆 さ れ る 。 社 会 の 関 係 流 動 性 が 低 い と 認 識 す る 者 は 、 対 人 関 係 の 維 持 を 重 視 す る こ と か ら 、 自 己 の プ ラ イ バ シ ー 開 示 の 他 、 ネ ッ ト セ キ ュ リ テ ィ ー 上 の ウ ィ ル ス 感 染 等 に よ る 知 人 と の ト ラ ブ ル を 懸 念 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 上 記 の 国 費 学 部 留 学 生 の 調 査 結 果 に 表 れ て い る よ う に 、 居 住 す る 場 所 に よ り 関 係 流 動 性 の 認 識 は 変 化 す る と 思 わ れ る が 、 関 係 流 動 性 が 低 い と 認 識 す る 者 が 多 い 国 に つ い て は 、 前 述 の よ う な 懸 念 へ の 対 応 、 ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の 動 機 づ け が ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の 成 果 に 関 わ る で あ ろ う 。 5 . 地 域 や 世 代 を 超 え た 魅 力 あ る ネ ッ ト ワ ー ク の 構 築 グ ロ ー バ ル 化 が 言 わ れ て 久 し い が 、 国 費 留 学 生 の 日 本 で の 学 位 取 得 後 の キ ャ リ ア 形 成 も 、 自 国 に 戻 っ て 就 職 す る 者 、 他 国 の 大 学 院 に 進 学 す る 者 、 日 本 で の 就 職 先 か ら 海 外 派 遣 さ れ る 者 、 自 国 の 日 本 企 業 か ら 日 本 に 転 勤 す る 者 等 、 様 々 で あ る 。 平 成 2 3 年 度 文 部 科 学 省 先 導 的 大 学 改 革 推 進 委 託 事 業 『 各 国 政 府 外 国 人 留 学 生 奨 学 金 等 に よ る 修 了 生 へ の フ ォ ロ ー ア ッ プ に 関 す る 調 査 研 究 』 に 関 わ っ た 堀 江 ( 2 0 1 5 ) は 、 日 本 政 府 の フ ォ ロ ー ア ッ プ 施 策 へ の 提 言 に つ い て 論 じ て い る 。 同 調 査 研 究 は 、 ア メ リ カ 、 イ ギ リ ス 、 フ ラ ン ス 、 ド イ ツ 、 オ ー ス ト ラ リ ア 、 中 国 、 韓 国 、 台 湾 の 各 政 府 の 外 国 人 留 学 生 受 入 れ を 調 査 し た も の で あ る が 、 留 学 生 と し て

(6)

当該国に愛着を持たせるかが重要な視点となりつつある、と述べている。SNS は、 居住する国が変わってもつながりを容易に維持できるメディアであるが、日本で 学位を取得した後に欧米等で上位の学位取得を目指す国費留学生にも日本留学者 としてのアイデンティティーを持ち続けてもらうために、元国費留学生にとって 魅力的な修了生ネットワークの構築が必要であろう。  2015 年に ASEAN10 カ国で元国費留学生の調査を行った若林(2016)は、元国 費留学生ネットワーク化の課題として、元国費留学生の卒業後を把握するという 意識を持った人材の不足、オンラインコミュニティーの明確な目的とメリットの 必要性、元国費留学生や日本留学希望者のメリットになる柔軟なデータベースの 構築を挙げている。オンラインコミュニティー構築の目的とメンバーとなる修了 生へのメリットを明確にする必要性は、予備教育機関の修了生ネットワーク構築 にあたり筆者が様々な入学年度の者と懇談した際にも話題になった。同じ国から の元留学生であっても、世代が異なれば社会との関わりも異なるだろう。国境に とらわれない国費留学生のネットワークを構築すれば、世代による分裂に阻まれ ることなく関係を広げていくことはできるが、どのような役に立つのかといった 明確な提示がないネットワークは、やがて求心力を失っていくであろう。 6. おわりに  筆者が行った上記の調査から、国費留学生のネットワーク構築には、留学初期 の予備教育課程在籍中の者は LINE を好み、修了生はフェイスブックを好むこと、 大学から修了生への連絡においてはフェイスブックより電子メールを選ぶ者のほ うが多いことが分かった。また、SNS での関係づくりの積極性と関連づけられ る関係流動性について、更に大きな規模で調査を行うことで、これからの修了生 ネットワーク構築に貢献すると思われた。各国政府の取組や帰国留学生の調査の 考察から、複数の国に留学する者が日本留学で築いたネットワークを維持する魅 力を持つネットワーク構築の必要が示唆された。  世代や出身地、専門分野が異なる日本留学経験者をつなぐネットワークは様々 な発展が考えられるが、プライバシー懸念が異なる人々のコミュニティー故の課 題も見えてくる。グローバル化で人の動きが複雑になり、連絡先のアップデート を全ての出身校に継続的に行うことは難しくなっているが、構成メンバーがネッ トワークに求める利用目的やプライバシー懸念の違いといった課題への工夫を探 りながら SNS でつながりを構築することは、元国費留学生と我が国の双方に益

(7)

するであろう。 参考文献 小松由美(2016)「留学生のインターネット利用と関係流動性に関する一考察」『異文化 間教育学会第 37 回大会抄録』,202-203 小松由美(2016)「国費学部留学生の SNS の利用に関する探索的考察」『東京外国語大学 留学生日本語教育センター論集』第 42 号,123-130 総務省(2014)『平成 26 年版情報通信白書』(PDF 版) ・ <http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/pdf/>(2016 年 11 月 19 日閲覧) 総務省(2015)『平成 27 年版情報通信白書』(PDF 版) ・ <http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/pdf/>(2016 年 11 月 19 日閲覧) 谷口吉弘他(2012)「各国政府外国人留学生奨学金等による・修了生へのフォローアップ 方策に関する調査研究・―主要な各国政府、海外の主要大学の取り組み―・平成 23 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業(立命館大学)」 ・ <http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1330395.htm>(2016 年 11 月 19 日閲覧) 日本学生支援機構 「外国人留学生在籍状況調査」 ・ <http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/index.html>(2016 年 10 月 20 日閲覧) 堀江未來(2015)「外国人留学生のフォローアップ施策に関する 6 つの提言―『各国政 府外国人留学生奨学金等による修了生へのフォローアップ方策に関する調査研 究』より―」独立行政法人日本学生支援機構 ウェブマガジン『留学交流』2015 年 3 月号・Vol.48 文部科学省・戦略的留学生交流の推進に関する検討会(2013)「世界の成長を取り込むた めの外国人留学生の受入れ戦略(報告書)」 若林親正「ASEAN 元国費留学生から見た日本留学」The・Huffington・Post・blog ・ <http://www.huffingtonpost.jp/chikamasa-wakabayashi/overseas-education-japan_b_12765810.html>(2016 年 11 月 14 日閲覧) DIGIDAY (Tanya Dua)“Four things brands need to know about GenZ”2015.4.9 <http://digiday.com/brands/four-things-brands-need-know-gen-z/>(2016 年 11 月 19 日閲覧)

(8)

Schug, J., Yuki, M., Horikawa, H., & Takemura, K. (2009) “Similarity attraction and actually selecting similar others: How cross-societal differences in relational mobility affect interpersonal similarity in Japan and the USA. Asian Journal of Social Psychology, 12. 95-103. Thomson, R., Yuki, M., & Ito, N. (2015) “A socio-ecological approach to national differences in online privacy concern: The role of relational mobility and trust.” Computers in Human Behavior, 51, Part A, 285–292. Yuki, M., Shug, J., Horikawa, H., Takemura, K., Sato, K., Yokota, K., & Kamaya, K. (2007). “Development of a scale to measure perceptions of relational mobility in society.” (CERSS

Working Paper 75). Center for Experimental Research in Social Sciences, Hokkaido

(9)

Perspectives on Establishing an Alumni Network for the Japanese

Government (MEXT) Scholarship Program:

Use of SNS and Relational Mobility

KOMATSU Yumi

Keywords: MEXT scholarship students, alumni network, SNS, relational mobility One of the Japanese government’s strategies regarding the admission of foreign students, which was announced by the Ministry of Education, Culture, Science, Sports, and Technology (MEXT) in 2013, was “to establish networks for foreign students who have already been educated through government support.” This paper explores use of SNS (Social Network Service) and the relational mobility related to the establishment of a MEXT scholarship alumni network through SNS. The author’s studies on current and former MEXT scholarship students suggest that those who are enrolled in a preparatory education program in Japan prefer LINE for networking, while graduates of the program prefer Facebook. However, in order to receive information from the alma mater, graduates prefer e-mails to Facebook. In addition, investigating the relational mobility of the alumni seemingly contribute towards the establishment of an alumni network. Reviews of preceding studies suggest construction of a network that is attractive and beneficial for MEXT alumni, so as to maintain contact with them in the era of globalization. Establishing a network using SNS while exploring ingenuity will benefit both the MEXT scholarship alumni and Japan.

参照

関連したドキュメント

ガイダンス: 5G 技術サプライヤと 5G サービスプロバイダは、 5G NR

[r]

食品 品循 循環 環資 資源 源の の再 再生 生利 利用 用等 等の の促 促進 進に に関 関す する る法 法律 律施 施行 行令 令( (抜 抜す

「1.地域の音楽家・音楽団体ネットワークの運用」については、公式 LINE 等 SNS

は,医師による生命に対する犯罪が問題である。医師の職責から派生する このような関係は,それ自体としては

第 4 章では 2 つの実験に基づき, MFN と運動学習との関係性について包括的に考察 した.本研究の結果から, MFN

前項で把握した実態は,国際海上コンテナ車の流

 また,2012年には大学敷 地内 に,日本人学生と外国人留学生が ともに生活し,交流する学生留学 生宿舎「先 さき 魁