平成
23 年 9 月修了
修士(学術)学位論文
介護福祉職の人材育成に関する研究
— 介護福祉士養成施設とユニット型特養の連携 —
Human Resources Development for Care Workers
Cooperation between training institutions for certified care workers and special nursing home for the aged
平成
23 年 6 月 12 日
高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻 起業家コース
学籍番号
1145109
野方 円
Madoka NOKATA
1 研究の背景と目的
1.1 研究の背景
1.1.1 介護を必要とする方の現状 近年,年齢別人口割合にも変化が起こり本格的に少子高齢社会へと進んでいる.図1は 1975(昭和 40)年の人口ピラミッドである.第1次ベビーブームの影響から 26 29 歳で は男女ともに100 万人を超えている.いわゆる 団塊の世代 である(総務省統計局 2011). 図2 は 2010(平成 22)年の人口ピラミッドである. 団塊の世代 が 60 歳台となり,第 2 次ベビーブームに誕生した 団塊ジュニアの世代 と呼ばれる 36 39 歳にもうひとつ の大きな山が見られる.2001(平成 13)年前後に到来するといわれていた第 3 次ベビー ブームは社会のさまざまな変化の影響で起こらず,第2 次ベビーブーム以降,概ね減少傾 向にあるといえる(総務省統計局2011). また,この間2005(平成 17 年)に大きな分岐点を日本は迎えた.厚生労働省が人口動 態統計をとりはじめてから(1941(昭和 16)年から 1943(昭和 18)年までの統計はない), 初めて日本は人口の自然減を経験した.人口動態統計によると,出生数と死亡数の差であ る自然増加数は2004 年がプラス 82119 人であったのに対し,2005 年はマイナス 21266 人であった(図3). このように人口の自然減を重ねることで,2050(平成 62)年の人口ピラミッドは図 4 のように予測されている(総務省統計局2011). 図1 1975(昭和 40)年人口ピラミッド図2 2010(平成 22)年人口ピラミッド
図3 総人口の推移
図5 世帯数と平均世帯人員の年次推移 世帯数と平均世帯人員の年次推移をみると,世帯数は,1953(昭和 28)年には 17180 世帯であったが,2009(平成 21)年には 48013 世帯となっており,概ね増加傾向である ことがわかる.反対に平均世帯人員は,1953(昭和 28)年には 5.00 人/世帯であったが, 2009(平成 21)年には 2.62 人/世帯となっており,こちらは概ね減少傾向であることが わかる(図5,厚生労働省 2010). また,世帯構造別にみた 65 歳以上の者のいる世帯数の構成割合の年次推移についてみ ると,単独世帯は,1986(昭和 61)年に 13.1%であったものが徐々に増加し,2009(平 成21)年には,23.0%となっていることがわかる.夫婦のみの世帯も 1986(昭和 61)年 に 18.2%であったものが徐々に増加し,2009(平成 21)年には,29.8%となっているこ とがわかる.親と未婚の子のみの世帯も1986(昭和 61)年に 11.1%であったものが先の 2 つほどではないが徐々に増加し,2009(平成 21)年には,18.5%となっていることがわ かる.逆に,三世代世帯は,1986(昭和 61)年に 44.8%であったものが急激に減少し, 2009(平成 21)年には,17.5%となっていることがわかる.2009(平成 21)年をみると 65 歳以上の方の半数以上が,単独世帯,もしくは夫婦のみの世帯で生活をしていることが わかる(図 6,厚生労働省 2010).さらに,世帯構造別にみた高齢者世帯数の年次推移を みると,1986(昭和 61)年に男性の単独世帯数は 246 千世帯であったが,2009(平成 21) 年には1285 千世帯となり約 5 倍に増加し,女性の単独世帯数も 1986(昭和 61)年は 1035 千世帯であったが,2009(平成 21)年には 3346 千世帯と約 3 倍に増加していることがわ かる.夫婦のみの世帯数も1986(昭和 61)年は 1001 千世帯であったが,2009(平成 21) 年には 4678 千世帯と約 4.5 倍に増加しているころがわかる.高齢者単独世帯の年齢層割 合に目を向けると,65 69 歳の層は男性が 32.5%,女性が 18.8%,70 74 歳の層は男性 0 1 2 3 4 5 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 28 30 35 40 45 50 55 61 元 4 7 10 13 16 19 21 世帯数 平均世帯人員 注:平成7年の数値は、兵庫県を除いたものである。 平成・年 千世帯 世 帯 数 人 平 均 世 帯 人 員 2.62 48,013 5.00 17,180 昭和‥年
図6 世帯構造別にみた 65 歳以上の者のいる世帯数の構成割合の年次推移 図7 世帯構造別にみた高齢者世帯数の年次推移 が21.5%,女性が 22.0%,75 79 歳の層は男性が 19.4%,女性が 24.1%,80 84 歳の 層は男性が16.7%,女性が 20.5%,85 歳以上の層は男性が 9.8%,女性が 14.6%となっ ており,男性の単独世帯は,65 74 歳で半数以上占めるのに対し,女性の単独世帯は,さ らに高齢化が進んでいることがみてとれる(図7,厚生労働省 2010).また,平成 20 年 度介護保険事業状況報告によれば,65 74 歳の層では,60 万人を超える人が,要支援, もしくは要介護認定を受けており,75 歳以上の層では,400 万人近い方が要支援,もしく 23.0 22.0 22.5 20.9 19.4 18.4 17.3 15.7 14.8 13.1 29.8 29.7 29.8 29.4 27.8 26.7 24.2 22.8 20.9 18.2 18.5 18.4 17.7 16.4 15.7 13.7 12.9 12.1 11.7 11.1 17.5 18.5 18.3 21.9 25.5 29.7 33.3 36.6 40.7 44.8 11.2 11.3 11.7 11.4 11.6 11.6 12.2 12.8 11.9 12.7 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 21 20 19 16 13 10 7 4 平成元年 昭和61年 注:平成7年の数値は、兵庫県を除いたものである。 単独世帯 夫婦のみの世帯 親と未婚の子のみの世帯 三世代世帯 その他の世帯 32.5 18.8 21.5 22.0 19.4 24.1 16.7 20.5 9.8 14.6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 男 女 65∼69歳 70∼74 75∼79 80∼84 85歳以上 246 307 348 449 555 728 906 1,174 1,157 1,285 1,035 1,285 1,517 1,751 2,169 2,451 2,824 3,153 3,195 3,346 1,001 1,377 1,704 2,050 2,712 3,257 3,899 4,390 4,582 4,678 80 88 119 141 178 218 245 292 318 314 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 10,000 昭和61年 平成元年 4 7 10 13 16 19 20 21 夫 婦 の み の 世 帯 その他の世帯 女 男 単 独 世 帯 注:平成7年の数値は、兵庫県を除いたものである。 千世帯
図8 要支援/要介護認定者数 は要介護認定を受けており,これらを足し合わせると400 万人を超える方が何らかの生活 支援を必要としている. 以上のように,少子高齢社会において,高齢者の単独,もしくは夫婦のみの世帯の増加 により,従来日本の社会で行われていた家族が介護することが困難となり,社会で介護す る必要性が非常に強くなってきている. 1.1.2 介護をする人(介護福祉職)の現状 他方,介護をする側の問題も山積している.厚生労働省がまとめた 2010(平成 22)年 一般職業紹介状況によれば,全職種の有効求人倍率が0.52 であったのに対し,介護福祉職 が含まれる 社会福祉専門の職業 の有効求人倍率は1.44 と人手不足であることが窺える. 離職率についてみてみると,厚生労働省がまとめた2010(平成 22)年毎月勤労統計調査 によれば,全職種は1.97%であるのに対し,介護福祉職が含まれる 医療・福祉 は 1.72% となっており,一見,他職種より離職率が低く捉えられるが, 医療・福祉 という広い領 域を対象としているため介護福祉職の離職率が低いとは一概にいえない.賃金に関しても, 2010(平成 22)年毎月勤労統計調査でまとめられている.全業種の平均月収は 317.3 千 0 100 200 300 400 500 600 700 第1号被保険者 (65歳以上75歳未満) 千 要支援1 要支援2 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 第1号被保険者 (75歳以上) 千 0 20 40 60 80 100 120 140 160 第2号被保険者 千
図9 常勤の介護福祉職員(20 60 歳)の平均年収に対する意識調査 円であった. のに対し, 医療・福祉 の平均月収は 297.9 千円であり,世間でいわれるほど低賃金で ないかのように映る.しかし,医療介護CB ニュース(2011)によれば,結城氏の調査に おいて,常勤の介護福祉職員(20 60 歳)の平均年収に対する意識調査によれば,東京, 地方ともに約半数が年収400 万円前後の年収が妥当であると判断している結果となってい る(図9). 介護福祉職と一括りにしているが,国家資格である介護福祉士,公的資格である訪問介 護員2 級(ホームヘルパー2 級),および無資格の介護福祉職に大きく分けられ,介護の質 の担保という点で大きな課題となっている. 300万円未満 4% 300万円−350万円 16% 351万円−400 万円 33% 401万円−450 万円 16% 451万円−500 万円 12% 501万円−550 万円 4% 551万円以上 3% わからない 7% 無回 答 5%
地方
300万円未満 2% 300万円−350 万円 12% 351万円 −400万円 27% 401万円 −450万円 22% 451万円−500 万円 14% 501万円−550 万円 9% 551万円以上 5% わからない 5% 無回 答 4%東京
また,介護福祉士養成施設と介護福祉サービス提供施設との間で,実習,および卒後教 育を含む人材育成に関して連携が密にとられていないことも課題の一つであると考えられ る. 1.1.3 ユニット型特別養護老人ホームの設置に係る要件 ユニット型特別養護老人ホームにおける,1 ユニットの介護福祉職,および看護職の配 置人員は,次のように定められている. 特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準 第12 条 4 項のイ 介護職員及び看護職員の総数は,常勤換算方法で,入所者の数が三又は その端数を増すごとに一以上とすること. ここで,常勤換算方法は次の式で表される. (常勤換算方法): 当該職員のそれぞれの勤務延時間数の総数 当該特別養護老人ホームにおいて常勤職員が勤務すべき時間数 (式1) 例えば,常勤職員の勤務が1 日 8 時間,週 5 日勤務であれば,週 40 時間勤務となり,勤 務延時間数の総数は120 時間を超過すれば良いということになる. また,勤務体制の確保等について,以下のように定めている. 第40条 ユニット型特別養護老人ホームは,入居者に対し,適切なサービスを提 供することができるよう,職員の勤務の体制を定めておかなければならな い. 2 前項の職員の勤務の体制を定めるに当たっては,入居者が安心して日 常生活を送ることができるよう,継続性を重視したサービスの提供に配慮 する観点から,次の各号に定める職員配置を行わなければならない. 一 昼間については,ユニットごとに常時一人以上の介護職員又は看護 職員を配置すること. 二 夜間及び深夜については,二ユニットごとに一人以上の介護職員又 は看護職員を夜間及び深夜の勤務に従事する職員として配置するこ と. 三 ユニットごとに,常勤のユニットリーダーを配置すること.
3 ユニット型特別養護老人ホームは,当該ユニット型特別養護老人ホーム の職員によってサービスを提供しなければならない.ただし,入居者への サービスの提供に直接影響を及ぼさない業務については,この限りでない. しかし,1 日 24 時間,週 7 日では 168 時間のべ勤務時間が必要となり,計算上では,1 日当たり10 時間 17 分は 1 人で 2 ユニットをケアするということになる.
1.2 研究の目的
本研究の目的は,介護福祉職の人材育成に関して,介護福祉士養成施設とユニット型特 別養護老人ホームの連携モデルの提案することである.介護福祉士養成施設と介護福祉サ ービス提供施設の関わり,および介護福祉サービス提供施設の中でも,ユニット型特別養 護老人ホームに限定した理由については後で述べる.2 先行研究
2.1 教育研修の分類と構造
企業における教育研修に関して,河内(2004)は次のようにまとめている. 企業で行なわれている一般的な教育研修について分類すると次のようになる. (1) 教育形態 : 職能(職務能力)別教育,階層(レベル)別教育 (2) 実施形態 : OJT(個別指導教育),Off-JT(集合教育),自己啓発 (3) 教育内容 : 知性教育,技能教育,感性教育 個別の企業では,これらを組み合わせてその組織体の特性に合わせた独自の教育研修体系 をつくっていくことになる. (1)教育形態 教育研修の形態は職能別教育と階層別教育に大きく分けられる. ① 職能別教育 職能とは,職務能力の略語で,職務や職種(職務の上位概念)にかかわる能力(仕事を 遂行するために必要な知識・技術・態度)という意味である.職能別教育を大きく分ける と,現場系と事務系に分けられる.福祉施設などでは,事務系では , 募集・契約,総務・ 庶務,人事・教育,経理・財務,施設管理など,現場系では,生活支援,介護・看護,医 療,食事などに分けられる.これは仕事の専門性をさしている.したがって,会社の部門 (部・課・係)は,この職務別に組織化されている.このため,職能教育を進めるには, 同じような仕事をひとまとめにした職務単位で行なうのが効率的であるため,たとえば, 入居者募集(または販売) という仕事は,商品知識,市場調査,価格政策,広告媒体 計画,広報活動,販売ツールなどの他に,見学案内,接客説明,契約など入居促進策から 解約までの一連の仕事が含まれる.そこにはセールス・プロモーション技術やマーケティ ング技術が必要になる.同じ事務系でも財務・経理とは異なった販売・営業部門を形成す る.このように職務の専門性をグルーピングして能力開発をするのが職能別教育である. ② 階層別教育とは 通常,組織体は経営のトップを頂点にピラミッド型をしている.その組織を職階別にみ ると役員,部長,課長,係長・主任,平職員のように構成される.それぞれの階層(レペ ル)で取得すべき知識・技術・態度をひとまとめにして教育するのが階層別教育である. 階層別と職階別とはほぼ同じになるが,階層の方がより細かく分類される.たとえば,平 職員でも,新入職員,初級職員,中級職員,上級職員に分けられるし,管理者も初級・中 級・上級に区分される.通常,階層別教育研修は経験年数によって教育体制が組まれるが, 大きな節目は昇格・昇進した場合である.取得すべき新たな能力が求められるからである. 教育研修は,一般的には,職能別教育と階層別教育をあわせて体系化(職能階層別教育) するが,中心は階層別になる.その理由は,教育の目的は企業が必要としている能力と個人の有している能力の差(キャリアギャップ)を習得させるものだから,仕事の重要度に そった段階的なキャリアアップが求められるからである.入社初期ほど技術面が重要にな り,経験を積むに従って,リーダーシップなどの管理的能力や人間性教育が求められる. 福祉職のようなヒューマンサービスの特徴は,技術・知識・態度などのプログラムを中心 に,入社初年時からの教育研修に重点がおかれます.1年目,2年目,3年目というように 細かな入社年次ごとの階層別教育が設定される. (2)実施形態 教育研修の実施形態は指導の仕方によって,個人指導と集合教育に分けられる.個人教 育は日常的に上司(先輩)が部下(後輩)を業務中(職場内)に教育するもので,これを OJT(On the Job Training)という.これに対して,仕事場から離れて複数者をまとめて 行なう集合教育をOff-JT(Off the Job Training)という.集合教育は,幅広く用いられて おり,社内教育でも行なわれるが,社外教育ではほとんどがこの集合形式である. ① OJT 上司(先輩)が部下(後輩)を個人指導するのは,特別目新しいものではなく,昔から 行なわれてきた.これを効果的にかつ意識的に行なうようにしたのがOJTの考え方である. OJTとは職場で仕事を行なう過程で,上司が部下の教育の必要点を見いだし,それを1対 1で指導していく教育活動である. 現場で仕事をしながら直接的に上司が部下に不足して いる能力を教えることである.そして,職務に必要な能力とは,近い将来を含めた能力と いうことである.計画的とは,目標レペルが設定され,期限が定められていることである. 合目的的とは , 日常業務遂行のための重要な能力について重点的に開発することを示し ている.継続的とは,単発ではなく,日常業務の中で連続して行なわれることである.そ して,組織的とは,企業の人材育成システムの中で,他の教育プログラムと連携をとって 行なうことを意味している.その活動はPlan – Do – Seeのプロセスで行なう一連のシステ ムなのである. 教育研修でなぜOJTが重視されるかというと,日常業務を習得するには,直属の上司に よる直接的な教育がもっとも効果が高く,費用的にも安価だからである. 効果が高い理由の第1は,職員の最大の関心事は自分がどのような仕事をし,上司がど のように評価し,その結果が処遇(給与や昇進)にどのように跳ね返るかということであ る.第2には,日常業務を遂行するための不足の能力を解決するには,現場で仕事をしな がら行なうのがもっとも効率的だからである.第3には,上司にはリーダーシップを発揮 しチーム全体の業績を上げることが求められており,部下に仕事を任せ,部下の能力を向 上させる責任がある.つまり,OJTとは,指導される立場の人だけでなく,指導する立場 の人の能力アップを意図したものなのである.OJTは階層別教育研修と連携させることに よって効果があがる.
OJTを成功させるには,組織全体で取り組む姿勢が大切である.経営者の考えや経営理 念に基づいた全社的な教育志向があって初めて機能することを忘れてはいけない.見落と しがちな点の第1は,OJTを行なうための職場環境・勤務状況という前提条件である.日 常業務がきちっと行なわれていること.たとえば,業務マニュアルがきちっと整っている こと,教える側が仕事を遂行できる技術や能力を有していること,職場環境(挨拶,時間 厳守などの職場マナー)が健全であることなどがある.第2は,上司側の心構えである. 教える側の上司が自らの姿勢や能力を高めることである.絶えず教える側が自己チェック するぐらいの心構えが必要である.第3に,もっとも大切なことは,経営者の姿勢である. すべての教育の基本は,その組織体の経営理念にある.それを具体的に全員に浸透させる ことが教育の目的なのであるから,職員教育は経営者自らの姿勢が大切になる. OJTは教育研修の万能薬ではない.OJTの欠点も把握しておく必要がある.欠点の第1 は,日常的な業務であるため,当面の問題解決に重点がおかれ,短期的で視野が狭くなる ことである.第2は,指導する上司の能力や人格的キャパシティ(器)によって制約され ることである.第3は,日常業務に追われて育成のための時間が取りにくいことである. 第 4は,上司/部下という1対1なので,人間関係がまずくなると教育どころではなくなり, 逆効果になる.第5は,基礎的な技術・知識・態度に重点が置かれており,高度な知識や 情報などは対象外になる.OJTを行なう場合は,この欠点をよくわきまえて上位の管理者 が上司(指導者)と部下(研修者)の双方を定期的にチェックすることが必要である.そ して,欠点を補う研修や欠点が表面化しないような方策をとることである. 介護や看護の分野でも教育研修の中心は OJTである.とくに,介護福祉職は介護対象 者の生活領域に入って仕事をするので,OJTによるきめ細かな指導が必要になる.介護の やり方はそれぞれの施設や事業者で独自のやり方があるが,初期教育が大切である.その 意味でOJTは初期教育に適しているといえる. ② Off-JT Off-JTは,OJTのように日常時に上司が部下を継続して職場内で個別指導する以外のも のを指す.つまり,職場から離れて行なう研修である.場所的にいえば,社内で行なう場 合と社外で行なう場合に分けられますし,人的にいえば,講師をその組織の職員が行なう 場合と,外部から招く場合がある.Off-JTの実施形態は,集合教育の形式をとる. Off-JT(集合教育)の長所・短所はOJTの裏返しになる.日常業務では学べない高度 な技術や知識を習得し,意識改革をはかることができるが,短所は費用が高いわりに,効 果の測定がしにくいことである.Off-JTは, 職能別教育研修と連携させると効果があがる し,階層が上級にいくほどOff-JTが中心になる.とくに,役職の昇進・昇格時などはOJT も行なわれるが,Off-JTが中心になる. Off-JTは講義形式が中心であるが,最近は,効果を高めるための模擬的な方法(体験学 習,ロールプレイングなど),および体験的方法(実習,グループワーク,ディベートな
ど ) 問題解決技法(ブレーンストーミング ,KJ法など)が多く取り入れられている. 最終的なOff-JTとしては,本人の動機付けに基づいた能力開発のための 自己啓発 を支 援するプログラムを組むことが大切になる. OJTとOff-JTの各要素を比較すると表1のようになる.これからわかることは,OJTと Off-JTとは相互に補完関係にあるということである.したがって,教育研修はOJTを中心 としながらも, その欠点をカバーするために,Off-JTの長所をうまく活用していく必要が ある. ③ 自己啓発 教育の最終目標は自己啓発である.教育とは職員が行なうさまざまな能力開発を指す. 教育研修の目的の1つが職員の自己実現である.その組織の中で会社の目的を実現させ, 同時に,職員個々人が自分の人生の目的を達成させることが組織人の自己実現である.つ まり,自己啓発は所属する組織の目的と一致しなければならない.自分が何になりたいか, 何をやりたいか,それにはどのような能力や技術・知識を得ればよいかという考えに基づ いて行なう自分自身の能力発見や能力開発が自己啓発である. そのために組まれるのが自 己啓発支援プログ ラムである.具体的には,資格取得の支援や大学院・専門職教育への挑 戦,海外への留学などの支援が行なわれている. 表1 OJTとOff-JTの比較 出典:河内2004
(3)教育内容 教育内容は,知性教育,技能教育,感性(または態度)教育に分けられる. ① 知性教育 知識を学ぶこと,つまり,現実を認識し,事象を収集して,問題解決や新たなものを創 造するための教育である.知識とは現状(環境)を認識・記憶する行為で,学習によって 取得されるものである.知性教育は知識だけにとどまらず,これらの事実認識を踏まえた 上で , 創造性を促進する能力や問題解決能力を学ぶことになる. その具体的方法の1つ として,事例研究がある. ② 技能教育 技術教育には,専門技能と社会技能がある.専門技能とは,仕事を処理するための技術 能力である.例えば,小さくはITの能力であり, 大きくいえば経営管理能力などがこれに あたる.社会技能とは組織内や社会に対して良好な関係を維持する能力である.小さくは 社交能力,ヒューマンリレーション(人間関係)などがあり , 大きくは企業広報,およ びプロモーションがある. ③ 感性(または態度)教育 人間の行動をコントロールする働きで,具体的には,好き嫌いの感情,それが固定化し たものを態度といい,態度がその人の行動を左右するほど強固になったものを価値観とい い,それらを統合したものをパーソナリティーという.これらを含めて感性という.人は いくら知性や技術に優れていてもパーソナリティーに左右され,それによって教育の効果 が大きくかわるといわれている.動機づけなどはこの分野に含まれている.このために, 教育研修では,技術や知識だけでなく , 感性教育が重視されるようになっています。 介護福祉職で大事なのは,この感性教育である.企業の感性教育に比べてより重要なこ とは,介護福祉職の感性は自らが提供するケアサービスの中核を形成しているからである. ケアサービスとは自分のパーソナリティーを商品化したものなのである.介護技術や知識 は遅くとも半年から1年あれば日常業務が困らない程度のものは習得できる.しかし,感 性の取得は一生ものである.感性教育で大切なことは,体験学習をすることである.その ためには,不安のない環境をつくり,心的外傷(トラウマ)を負わないように十分注意す ることが必要である.自分が実際に経験し,どのように感じ,考えたかを自覚し,同時に, 自己と他者との感性や思考の違いを認識させる自己覚知が感性教育のポイントになる.そ して,体験を経験化させ,それを価値観まで昇華させるのは,自らが思考し,内証すると いうプロセスが大切である.
2.2 看護職の人材育成
看護師の人材育成について,河内(2004)は,以下のようにまとめている. 2.2.1 看護師の教育研修体系の概要 看護師は勤務形態が不規則であること,命に関わる仕事であること(緊張感が高い), 絶えず新たな技術や知識の習得が必須であるなど,他の職種とは異なった特殊性を有して おり,就労形態の特徴として,退職率が非常に高く,定着率が低いことがあげられる.大 手病院の新卒者の平均在職年数は3∼5年程度といわれている.このため,病院の体系的な 教育システムの目的の第1は,退職動機の緩和と入社した新人をいかに速やかに戦力化し ていくかということである.このために,どこの病院でも新人教育と入社後5年までの年 次別(階層別)の教育体系が重視されている. 看護師の教育体系を,前述した教育研修の構造に照らしあわせて考えると,階層別教育 と職能(職務能力)別教育およびOJTとOff-JTの4つの組合せで成り立っているが,中心 は階層別教育である.新入職員オリエンテーションから始まって,1年目 5年目まで病院 側の主導による半強制的な教育プログラムが組まれている.看護師の教育研修の特徴を図 式化すると次のようになる(図10). 出典:河内2004 図10 看護師教育研修体系イメージ図1年目には , 新人はプリセプタ(指導看護師)によるマンツーマンの教育が行なわれ る.これは入社後3 4年のナースが新人ナースにマンツーマンで指導するもので,病院で 多く取り入れられている新人教育法である.一般企業でもOJTとして先輩が後輩を指導す ることは一般的に行なわれている.しかし,入社後の3 4年の社員はまだ指導的立場に ないので,新人の指導にあたることは少ない.看護師では,3 4年目の職員が,新卒者に 対して全面的に指導にあたる. 2年目は1年目の振り返りと技術力を向上することに力を入れている.2年目以降の教育 は先輩によるマンツーマンの教育はないが,集合教育で行なった内容を先輩職員や主任な どによって日常的に指導を受けながら評価され,課題設定される. 3 4年目では,新人を教育できるためのプリセプタ養成が行なわれる.看護師の評価は リーダーシップが発揮でき,プリセプタとして新人の指導ができるか否かがスタートとな る.そのステップを踏まえて,5年目以降に看護師の教育が方向別れしていくという特徴 がみられる. 5 6年目以降に具体的な形で看護師の進む方向が変化する.その進む先は,おおまかに 分けると,第1には,ライン上の管理職(主任・師長)として進む看護師,第2には看護の 専門分野(専門看護師,認定看護師)を志向する看護師,第3は教育的な仕事を行なう教 育職看護師になる.第4は平職員としての看護師である. 入社後10年以降では,4つの進む道がより鮮明になってくる.このために,中堅職員の 教育は役職や専門性をとれない看護師をどのように動機づけしていくかが重要になる. 職能別教育では,各年次別における習得すべき技術,知識,態度を設定し,そのための 集合教育をプログラム化している.集合教育は1 2年目までは基礎教育,3 4年目はプ リセプタ,5年目以降は各自の選択メニューになる.集合教育(Off-JT)のやり方は,講 義,演習,グループワーク(GW),ロールプレイング,ディペートなどさまざまな形式 が取り入れられている. とくに,実技演習やグループワークのような実践的教育手法がと られる.Off-JTでは,院内で行なう場合と院外で行なう場合があり,院内でもその病院の 職員が講師になる場合と院外から講師を招く場合がある.院外の教育プログラムでは主に, 日本看護協会や各都道府県の看護協会が提供している. さらに,看護師の現任教育では 看護研究 といわれる教育研修分野があり,日常の業 務改善を行ない,その成果を雑誌などに論文として発表する,あるいは学会への参加がキ ャリアアップの重要な教育プログラムになっている.
2.2.2 看護師の教育研修体系の特徴 看護師の教育研修体系の特徴を河内(2004)は次のようにまとめている. ・教育内容の一般的傾向 教育内容のおおまかな傾向を分析すると,経年に伴って,身体(技術的)→ 精神(内 面的)→ 環境(家族,社会)という流れの特徴がみられる. ・早期教育の重要性 看護師の教育体系の特徴は新人教育にある.新卒者のリアリティーショックを和らげ, 退職動機を緩和し,より早く戦力化するための教育体系であるといえる.東京などの大病 院では,平均在職期間が3 5年といわれており,看護師の回転の速さがこのような教育 体系に反映されている. ・プリセプタシップの導入 新卒者に経験や感性が近い卒後3,4年の看護師に新人を指導する役割(プリセプタ) を担わせて,同時にプリセプタの自己の成長を図ることを意図している. ・目標管理の導入 各病院ともそれぞれの段階における教育目的と目標が必ず掲げられている.重要な点は 目標への達成度合を評価して,課題を設定するというプロセスを繰り返すことで職員の能 力向上を目指し,教育効果の徹底を図っている. ・教育研修体系の相似 それぞれの病院の事情や状況によって細かい点では異なっているが,各病院とも現任教 育体系の骨格はほとんど同じような内容をもっている.業種が同じだから当然といえばい えるが,やはり,日本看護協会による教育研修の指導効果が大きいのではないかと考えら れる. ・看護研究の重視(現場と研究の接近) どの病院でも 看護研究 に力を入れており,教育機関や学会などとの連携が強く,そ れが現任教育に反映されている.それだけ実践力が重視され,教育界と現場が近いのが看 護師教育研修の特徴の1つといえる. ・実習生の受け入れ 最近は一般企業もインターンシップ制度により,在学生を受け入れる傾向が強くなって いるが,元々,看護職では,学生の病院での実習が重要視され,看護師養成の教育カリキ
ュラムの必須項目になっており,各病院では看護学生の受け入れを行なっている.学生を 指導するための指導職員の教育も1つの柱となっている. 表2 看護職と介護職の相違点 出典:河内2004 また,河内(2004)は看護職と介護福祉職の相違点について表2のようにまとめている. 看護職と介護福祉職の種類についてまとめたものが,図11となる. 図11 看護職と介護福祉職の種類 ホームヘルパー (公的資格) 無資格の 介護福祉職 介 護 福 祉 士 国 家 試 験 4 年制大学 短期大学(2 年制) 専門学校(2 年制) 実務経験 准看護師 (公的資格) 看護助手 (無資格) 看 護 師 国 家 試 験 4 年制大学 短期大学(3 年制) 専門学校(3 年制)
3 研究の枠組み
3.1 研究課題
多くの介護福祉サービス提供施設では,利用者の個別性を重要視した結果,従来の大規 模なグループによる利用者対応から,小規模なグループによる利用者対応への転換が進ん でいる.しかし,その結果,1 グループに配属される介護福祉職員の数は減少し,OJT を 通じて人材育成を行っていることが多いが,上司(先輩職員)が新人職員に対しての教育 を重点的に行うことは,ほぼ不可能である.先行研究の中で,河内(2004)は,介護福祉 職の人材育成に関して プリセプタ制度 の導入を推奨している.看護職の人材育成で行 われている内容を紹介し,それらを介護福祉職に援用しようという試みである.しかし, 看護職の人材育成を行っている人員規模と介護福祉職では違いが大きく,簡単に援用する ことは困難であると考えられ,実際に,介護福祉職員の人材育成にプリセプタ制度を導入 している施設ではどのように運用されているかについて調査する. また, 2009(平成 21)年から実施されている介護福祉士養成に関する新カリキュラム において,介護福祉士養成施設,および介護福祉サービス提供施設の連携がより一層深ま ったといえる.このようなことから,介護福祉士養成施設と介護福祉サービス提供施設が 介護福祉職員の人材育成に関してどのように関わることができるかが本研究のリサーチク エスチョンである.3.2 研究対象
今回の研究対象は,介護福祉士養成施設には,特に制限を設けない.しかし,介護福祉 サービス提供施設は,ユニット型特別養護老人ホームに限定して行う.理由として,最近 できた形態の介護福祉サービス提供施設でなく,広く普及している点があげられる.また, 先にも述べたが,近年,利用者の個別性を重視した小規模のグループ(=ユニット)での 介護福祉サービスの提供が進められており,国も2014(平成 27)年度までに特別養護老 人ホームの70%をユニット型にする方針を打ち出しており,一部ユニット型特別養護老人 ホームにおいては,経過措置であることが明文化され,ユニット型と従来型に明確に分離 することが求められている.さらに,利用料金に関して,度々,低所得者が入居困難であ ることが問題視されてきたが,今回,低所得者への対応を明言化された. 具体的にはA 県B 市で介護福祉職員にプリセプタ制度を導入して人材育成を行っている ユニット型特別養護老人ホームC を対象に研究を行う.3.3 研究仮説
このように,2009(平成 21)年から実施されている介護福祉士養成に関する新カリキ ュラムにおいて,介護福祉士養成施設,およびユニット型特別養護老人ホームの連携がよ り一層深まってきた.一方,介護福祉職員の人材育成に関してプリセプタ制度を導入することで,一見,介護福祉職員の人材育成がスムーズに進んでいるかのように映る.しかし, 新人介護福祉職員を指導するプリセプタの教育に目が向けられておらず,対応が十分であ るといえない.そこで,介護福祉士養成施設の介護実習を活用し,プリセプタ候補者の教 育を行うことで,プリセプタ制度を安定的に運用することが可能になるのではないだろう か. ユニット型特別養護老人ホームの介護福祉職員配置モデルは図 12 のようになっている ことが一般的である.1 ユニットに,ユニットリーダを含めて 4 人程度で運用する形とな っている.実習を受け入れている施設であれば,介護主任が実習指導者を担当することが 多い. プリセプタ制度を導入したユニットのモデルを図 13 に示す.プリセプタ制度を導入し たことでユニットリーダは新人職員の教育をプリセプタに権限委譲したため,負担軽減に つながることが考えられる.また,ユニットリーダ,プリセプタ,および介護福祉職の業 務をデフォルメし整理したものを図14 に示す. 最後に,実習指導を活用したプリセプタ養成を視野に入れたモデルを図 15 に示す.実 習生を活用してプリセプタ候補者に指導方法等を教授できるほか,養成校の教員も関わる ことでプリセプタ候補者の再教育も可能となり,第3 者からの評価を設けることが可能と なるのではないかと考えた. 図12 一般的なユニット型特別養護老人ホームにおける人員配置モデル
介護主任
ユニットリーダ
ユニットリーダ
ユニットリーダ
介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職 介 護 職図13 プリセプタ制度を導入したユニットのモデル (a)プリセプタ未導入 (b)プピセプタ導入 図14 デフォルメ化した業務内容
プリセンプ
ユニットリーダ
介 護 職 介 護 職 介 護 職 介護業務 介護業務 シフト管理 新人職員等教育 介護計画立案 介護計画立案 ユニットリーダ 介護職 介護業務 介護業務 シフト管理 介護計画立案 介護計画立案 ユニットリーダ 介護職 介護業務 新人職員等教育 介護計画立案 プリセプタ3.4 検証方法
検証方法として,A 県 B 市にあるユニット型特別養護老人ホーム C の副施設長である D 氏,および研修部部長であるE 氏に対して,聞き取り調査を反構造化面接によって行った. 聞き取り内容は,以下4 点である. ① プリセプタ制度導入以前の新人教育 ② プリセプタ制度による新人教育 ③ プリセプタの養成 ④ プリセプタ育成への実習教育との連携 また,ユニット型特別養護老人ホームC の幹事を務め,自身も他の特別養護老人ホーム で事務長を務めた後,現在,A 県 B 市にある F 大学で社会福祉士養成に携わっている G 氏にD 氏と同様の聞き取り調査を行った.聞き取り内容は,以下 2 点である. ① 介護福祉職員の人材育成における課題の整理 ② プリセプタ育成への実習教育との連携3.5 研究枠組み
まず,多くのユニット型特別養護老人ホームで従来から行われている,プリセプタ制度 未導入の人材育成についてモデルを提示し,問題点の整理を行う. 次に,介護福祉職員の人材育成にプリセプタ制度を導入しているユニット型特別養護老 人ホームにおける介護福祉職員に対する人材育成についてモデルを提示し,問題点を整理 する. 最後に,今回提案する介護福祉士養成施設,およびユニット型特別養護老人ホームの介 護福祉職員の人材育成に関するモデルを提示し,実用可能性について考察する.4 連携モデルの検証
仮説検証型の研究では,連携モデルの効果(負担の軽減による業務の円滑化のメカニズ ム)を仮説としてモデル化し,実験等で検証することが望ましい.しかし,本研究では前 例が無い事象(連携効果)の検証であることから,本研究ではヒアリングを通じた経営者 の視点からの参与観察方式の研究と位置づけ,連携モデルの期待される効果を記述し,ヒ アリングによる観察結果からその効果を事実として確認することで,効果の仕組み(実際 の連携モデルの効果発言メカニズム)を構築する方法論を採用した.4.1 介護福祉士に求められる能力
1986(昭和 62)年,社会福祉士及び介護福祉士法が制定され,介護福祉士は, 専門的 知識・技術をもって,入浴,排せつ,食事その他の介護等を行うことを業とするもの と 定義された.言わば,3 大介護といわれる入浴,排せつ,食事に関する介護の専門職であ る.社会福祉士及び介護福祉士法制定から約20 年経た 2007(平成 19)年,法律の一部改 正が行われ,介護福祉士が 専門的知識・技術をもって,心身の状況に応じた介護等を行 うことを業とするもの と介護福祉士の定義が変更された.いわゆる3 大介護から個別性 を重要視した介護への転換が図られたといえる. 介護福祉士資格取得時の到達目標についても図15 のようにまとめられている. 図15 介護福祉士資格取得時の到達目標図16 介護福祉士に求められる能力 また,介護福祉士に求められる能力に関しても,国は図16 のように示している.資格 取得時から介護福祉士に求められる能力を身につけるためには,介護の個別性について幅 広く身に付け,利用者の尊厳を守り,高い倫理性を保持することが求められている.
4.2 介護福祉士養成カリキュラムの変遷
1986(昭和 62)年,社会福祉士および介護福祉士法が制定され,1500 時間をかけての 養成がはじめられた.これまでに2 度のカリキュラム改正を行い現在に至る. 1 度目のカリキュラム改正は 2000(平成 12)年に行われた.このカリキュラム改正の 多くは,介護保険法への対応であった.それに加え, 介護過程 に関する教育も開始され ることとなった.図17 介護過程の展開 介護過程とは,図 17 に示すように,利用者の状況,環境,ニーズを把握し,介護計画 を作成し,実施し,その結果を踏まえて,評価,および修正を行う一連の行為を指す.介 護改訂を展開することは,先に述べた,社会福祉士及び介護福祉士法における介護福祉士 の業の定義が変更された,心身の状況に応じた介護を提供するために,必要不可欠な行為 である.この改正では,養成時間が1500 時間から 1650 時間に 150 時間増加した. 2 度目のカリキュラム改正は 2009(平成 21)に行われた.図 18 にそのイメージ図を示 す.このカリキュラム改正では,介護過程に関する教育が従来30 時間であったのに対し, 5 倍の 150 時間に増加した点である.今回,1650 時間から 1800 時間に養成時間が増加し ているが,そのほとんどが介護過程に関する科目であることは特筆することであろう. また,養成時間の変更はなかったものの,介護実習における養成校と実習受け入れ施設 の連携が強化されたことも,より実践力を身につける意味で非常に重要である.今回の改 正では介護実習を行う介護福祉サービス提供施設に関して,実習施設・事業等(Ⅰ),およ び実習施設・事業等(Ⅱ)に分割された.ここでいう,実習施設・事業等(Ⅰ)は,幅広 く介護福祉サービスを理解するための実習であるため,従来,実習施設と認められなった 地域密着型の施設等でも実習を行えることとなり,介護福祉士の職域を幅広く捉えること ができるようになったといえる.
利用者の
状況,環境,
ニーズ把握
介護計画
作成
介護計画
実施
介護計画
評価・修正
図18 2009 年カリキュラム改正後イメージ図 実習施設・事業等(Ⅱ)では,介護過程を展開する実践力を身につけるための実習と位 置づけられており,150 時間以上行うことが明記されている.
4.3 特別養護老人ホームの変遷
特別養護老人ホームは,1963(昭和 38)年施行された老人福祉法に定められた施設で あり,2000(平成 12)年施行された介護保険法では 介護老人福祉施設 と呼ばれる. 従来,1 部屋に 4 8 人程度が暮らす多床室が多かったが,近年,利用者の個別性を重視す ることから個室を利用するユニットケアがすすめられている.先に記したが,国も 2014 (平成 26)年までに特別養護老人ホームの 70%をユニット型特別養護老人ホームに転換 する指針を出している.従来型からユニット型へと転換することは,介護福祉職員の人材 育成についても組織面,技術面から見直す必要がある.組織面を考えると,従来型では 1 フロアに 10 数人配置されていた介護福祉職員が,ユニット毎に介護福祉職員が配置され た結果,1 ユニットに 3 4名程度しか配置されず,交代勤務を考えると 1 ユニットに 1 人で対応することとなり,新人介護福祉職員は,教育を受けることすらままならないのが 現状である. 人間 と 社会 こころと からだの しくみ 介護 生活 支援 技術 介護 総合 演習 介護 実習 介護 過程4.4 介護福祉士養成施設とユニット型特別養護老人ホームとの関わり 2009(平成 21)年のカリキュラム改正によって,養成校と実習受け入れ施設の連携が 強化されたことは先に示した.その反面,実習施設としての質の担保が求められるように なった.具体的には,実習施設・事業等(Ⅱ)を受け入れるためには,介護福祉職員の30% 以上(常勤換算)が介護福祉士である必要があり,実習指導者は講習会受講者でなければ ならなくなった.また,介護サービスの提供のためのマニュアル等が整備され,活用され ており,介護過程に関する諸記録(介護サービスの提供に先立って行われる利用者のアセ スメントに係る記録,実際に提供 された介護サービスの内容及びその評価に係る記録等) が適切に整備され,介護福祉職員に対する教育,研修等が計画的に実施されていることも 併せて要件として示されている.このことは,介護福祉職員の人材育成に取り組んでいる 施設のみ実習を受け入れることが許されるのである. 4.5 聞き取り調査の結果 D 氏,E 氏,および G 氏に対して行った聞き取り調査の結果を記す. 4.5.1 プリセプタ制度導入以前の新人教育 施設C は,2005(平成 17)年 7 月に開設した. 開設当時,新人は 4 日間程度研修して OJT による教育を受けた.その際,ユニットリーダが指導する形を採ったため,ユニット リーダの負担と責任が非常に大きくなった.開設した年は職員を4 月に採用し開設までの 7 月まで 3 ヶ月間,実際の現場ではないが,ベッドメイキングのような基礎的な介護技術 から新人教育をすることが可能であった. 2006(平成 18)年に採用した職員は,4 日間のみの研修で,その後現場での OJT とな った.ユニットリーダに育成を任せたものの,ユニットリーダも勤務シフトに入るため, 結果的にシフトが重なった職員が新人職員を教えることとなった.その結果,新人職員か らも新人教育に携わる職員からも 2006 年入職者の実力がついていないという声が上がっ てきた.教育マニュアルは開設時に丁寧に作成したものがあったため,その教育マニュア ルの内容が新人職員に伝えられていると考えていたが,実際には伝わっていなかった.当 時,3 ヶ月間の OJT を行っており,そのうち1ヶ月間は,早朝から午後の早い時間までの 勤務(いわゆる,早番)を経験し,もう1ヶ月は午後から夜間帯にかけての勤務(いわゆ る,遅番)を経験する.教育マニュアルも整っていたので,ある程度の教育を受けている と考えていたが,新人教育に携わる職員それぞれによって指導内容が違う等の課題が露呈 する結果となった. 2007(平成 19)年入職者に対しては,2006 年入職者教育の反省を踏まえ,ユニットリ ーダが責任者となり,新人教育に携わり,ユニットリーダ以外の新人教育に携わる職員に 対しても教育マニュアル通り指導するよう申し合わせたが,結果的には,教育に関る職員 と新人職員の勤務シフトがバラバラであったため,教育責任者を決めたとしても,想定し
ていた行動がとれず,仕組みづくりもできなかったため,新人職員が育たないことがわか った.そのため,仕組みづくりをするために,プリセプタ制度を導入した. 4.5.2 プリセプタ制度による新人教育 プリセプタ制度の利点として,新人教育の責任者はいるが,ユニットリーダも責任者(プ リセプタ)を支援するし,ユニットの所属する他の職員も,ユニットに所属していない職 員もより良い組織を作ろうとすることができる点がある. プリセプタ制度を導入してもユニットに所属する職員の数は増えず,1 ユニットに 1 人 のユニットリーダがおり,3 年目の職員(プリセプタ)も 1 人いる.ユニットリーダ,お よびプリセプタを支援する.介護係長は従来から配置していた. プリセプタ制度を導入することでユニットリーダがリーダらしくなったとE 氏は感じて いる.新人教育の直接担当者ではなくなったのでマネジメントに力を注ぎやすくなってい るが,プリセプタ教育をしなければならなくなっている.実際,新人教育を直接担当した 方がプリセプタを指導するよりも仕事量が少ないかもしれないが,それも一つのマネジメ ントの学びであると考えて現在は行っている. 施設C では一般的なユニット型特別養護老人ホームとは違い,非常に強靭な組織を形成 している.一般的なユニット型特別養護老人ホームではユニットリーダの上長には介護主 任のみしかいない(図19,再掲). 図19 一般的なユニット型特別養護老人ホームの体制
介護主任
ユニットリーダ
ユニットリーダ
ユニットリーダ
介 護 介 護 介 護 介 護 介 護 介 護 介 護 介 護 介 護図20 施設 C の体制 しかし,施設C では,フロアリーダがユニットリーダの上にいる.4 ユニットにつき 1 人のフロアリーダがいる.フロアリーダは勤務シフトに入らず,日勤帯のみの勤務である. 一部のフロアリーダは生活相談業務(いわゆる,施設ケアマネ)を兼務する.フロアリー ダはフリーランスで動け,ユニットリーダのマネジメントが業務の中心である.原則1 ユ ニットは4 人の職員(ユニットリーダ,プリセプタ,介護福祉職)と新人職員 1 人が加わ る場合は5 人でユニットを運営している(図 20).一般的なユニット型特別養護老人ホー ムでは,介護長(介護福祉職のトップ),および介護主任が勤務シフトに入ってしまってい る.そうなると,ユニットのマネジメントができない. 聞き取り項目には上げなかったが,介護福祉職員が充実しているが,黒字運営できてい るかとの質問に対し,従業員の多くが若年者層であるため運営できている部分は否めない. 若年者層が多いため,出産結婚で退職する職員もいる.そのため,ある程度多めに新人職 員を採用している. ケアサービス(=介護福祉サービス)を提供している職員自身がケアされていなければ, 利用者に対し,良いケアサービスを提供できないという考え方が施設C では強く存在する. プリセプタ制度の活用により,介護福祉職員の教育は一定の成果が出ている.現在の課題 は,係長クラスの教育になっており,徐々に教育が上層になっている.係長の中には,プ リセプタの育成にも関ることができる人材が育ってきている. また,プリセプティである新人職員は あゆみ という学習ファイルを活用することに より,先輩職員は新人職員が現在どのような目標で業務に取り組んでいるかを知ることが できる.そして,新人職員が何を学び,何に悩んでいるかが理解できるという.プリセプ 介護課長 UL C C P UL UL UL FL 介護係長 FL FL FL:フロアリーダ UL:ユニットリーダ P:プリセプタ CW:介護職
表3 入職者,および退職者数の遷移
年
入職者数
退職者数
2008
6
2(※1)
2009
6
0
2010
7
1
2011(※2)
14
0
※1 退職者のうち 1 名はその後復帰 ※2 2011 年 7 月1日現在 タは新人教育の窓口に過ぎないという考え方が施設C では醸成されている.教育内容に関 して,新人職員は入植した年の 7 月 31 日まで日誌を書くことが義務づけられている.1 週間に1 度,プリセプタはプリセプティが記録した日誌を確認し,1ヶ月に 1 度,ユニッ トリーダが確認する.確認することにより,学んだ内容が正しいか等を把握することがで きる.日誌を記録することにより,国語力に関しても向上していると感じている.また, プリセプティに対して評価面接を行っているという.その際,フロアリーダ,ユニットリ ーダがプリセプティの 介護観 を聴き,否定せずにその介護観を受け入れている.1 年 間かけて120 数項目ある評価項目を 1 年間かけて評価を行っていく. プリセプタ制度導入後,職員の定着率が高くなった.2008 年からプリセプタ制度を開始 しているが,2008 年は,6 名が入職し,2名が退職した.しかしその後,退職者 1 名が復 帰している.2009 年は,6 名が入職し,退職者はなし.2010 年は,7名が入職し,1 名 が退職した.2011 年に関しては,7 月1日現在ではあるが,14 名が入職し,退職者はい ない(表 3).2011 年の採用人数が他の年より多いのは,新たに施設を開設したためであ る.また,一旦退職した職員でも,育児が一区切りした段階で復帰する場合等がある. 4.5.3 プリセプタの養成 施設C では,プリセプタ養成を 6 ヶ月間かけて行っている.新人職員が入職する 6 ヶ月 前,つまり,10 月から月 1 回の割合で研修を行っている.研修の際,課題を出し 1 ヶ月間 かけてプリセプタは取り組む.プリセプタ養成には,支援係長が教育に携わり,希望する 場合はユニットリーダも参加する.当然であるが,課題はプリセプタ養成の成熟度を評価 するために活用される.ユニットリーダへの聞き取りも行い,それについても評価を行う. 入職3 年目の職員がプリセプタ教育を受け,4 年目にプリセプタとなることが多い.プリ セプタ候補者は,プリセプティが評価される際に使用する評価シートで,自身もユニット リーダから教育できているかの評価される仕組みを採っている. 施設 C の施設長である D 氏は,プリセプタ養成の際,プリセプタは仕事を教えるのではなくて,1 人の介護の専門職を育てると伝えている.また,研修部長である E 氏は,法 人・施設全体でサポートする体制をとらないとこの仕組みは上手く運用できないという. プリセプタとプリセプティだけではなく,法人・施設全体で新人を育てるという意識が重 要であり,係長以下スタッフによくそういう話をしているという. 4.5.4 プリセプタ育成への実習教育との連携 実習生をプリセプタ教育に活用してはどうかという問いに対して,次のような回答が得 られた. プリセプタのモチベーションが上がってくることが想定できる.また,実際に実習指導 で起きた事象について語った.多くの場合フロアリーダが実習指導者をしている.フロア リーダが他の業務等で,都合が悪くスーパービジョンに参加できず,フロアリーダの代わ りにユニットリーダがスーパービジョンに参加したことがあった.その際,教員が実習生 に対してスーパーバイズした内容をユニットリーダが聞き,どのような視点で介護すれば 良いのか改めて学ぶことができ,第3 者が介入することの意味はあると感じたそうだ.ち なみに,このユニットリーダも数年前は実習生として教員からのスーパービジョンを受け ていたそうである. 4.5.5 介護福祉職員の人材育成における課題の整理 幹事である G 氏からは介護福祉職員の人材育成における課題の整理について話を伺っ た. 多くの施設で不完全なマニュアルを活用して人材育成が行われている.マニュアルが整 備されていない施設も未だに存在する.施設が第3 者評価を受けることが義務化されてい ない点がこの問題を放置したままにしてしまっている.また,マニュアルを整備している と主張する施設でも第3 者評価を意識して作成されており,実際に現場では活用できない ものを用意している施設もあるという. 新人教育に OJT を導入している施設が多いが,多くの場合,新人を現場に送り込み, 現場では教育を受けることもできず,結局は現場で新人が放置されることになるという. 4.5.6 質問項目に含まれない内容 D 氏は社会福祉法人の経営に関して,次のようなことを語った.極論を言えば,社会福 祉法人が運営する福祉系施設は,職員を設置要件が最低限満たされるように配置し,安い 人材を使えば,安定した経営ができる.また,看護師加算,および介護福祉士加算に関し ては,看護師,もしくは介護福祉士を雇用したとしても,人件費が看護師加算,および介 護福祉士加算を超えてしまうため,利益に繋がらない.従来から看護師,および介護福祉 士を雇用していた施設にとって,利益が増加する仕組みになっている. 介護保険制度がはじまり,措置から契約に制度が変更された.そのため,通所型介護施
設(デイサービス)に関しては市場原理が働き,施設の淘汰がはじまった.しかし,入所 施設,特に特別養護老人ホームは未だそのように施設が淘汰されるような状況にはなって いない.しかし,入所者獲得に関しての競争は未だないが,良い職員の獲得に関しては施 設間の競争が激化している.良い職員を獲得するには,良いケアを提供しなければならな い.介護福祉職は良いケアを提供したいから介護福祉職をやっているからだという.悪い 職員が固まると職員のモチベーションが低くなると考えている. 介護の仕事は尊いとか人のためになりたいという職員は離職が早いという.介護するこ とが楽しいからやっているという職員は逆に長期間勤務する.介護することが楽しいと感 じている職員が感じている真摯さ,情熱を持続させる環境を維持するシステムこそがプリ セプタ制度であるという.プリセプタはスキル,テクニックを伝えるのではなく,メンタ リティを醸成することが大切であるという.研修部長であるE 氏自身も,人が成長してい くことが楽しいと思える.そのバックアップ体制がこの法人にはあり,だからこそ,プリ セプタ制度による人材育成できるという.
5 分析と考察
5.1 介護福祉職の特性 河内(2004)は,介護福祉職は 3 5 年で離職するケースが多いことを指摘している. この理由として,重労働である割に賃金が低いことがよく指摘されている.ここでは,業 務内容,ユニット型特別養護老人ホーム勤務体制の2 点について述べる. 5.1.1 業務内容 他職種においていわゆる ベテラン と呼ばれる方々は 20 年以上その業務に携わって いる方が少なくない.介護福祉職では,もちろん 20 年以上介護福祉サービス提供に関っ ている方も少数であるが存在する.しかし,多くの場合,特に施設の体制が整っていない 場合,3 年目には ベテラン と呼ばれてしまうことがある.勤続年数が短いことが介護 福祉職の一つの特徴といえる.その理由として考えられるのは,誰でもできると考えられ がちな 介護 という仕事に対する介護福祉職の捉え方が大きいと考える. 介護福祉サービス提供に関わる方の中でも,多くの場合, 介助 , 介護 , 介護福祉 という用語は同義語として使用されている.しかし,ここに大きな問題があると筆者は考 える. 介助 は,介助者は被介助者の指示通り動くことが求められる.意志は常に被介助 者に存在するのである.身体障害者団体は自らの意志により行動することを重要視してい るため, 介護 という言葉は使わず, 介助 という言葉を使う.また,最近活躍の場が 増えてきた 介助犬 についても同様で, 介護犬 とは呼ばない.次に 介護 であるが, 介護者は被介護者が,今現在,必要としている支援(ニーズ)が何であるかを把握,もし くは想定した上で,行動をとる.介助と違い介護は,被介護者の意志のみではなく,介護 者の意志も入り込んでくる.両者の意志が相互に把握されていることが重要であるといえ る.そのため,介護者には高いコミュニケーション能力が求められる.最後に, 介護福祉 であるが, 介護 と 介護福祉 の最大の違いは,必要としている支援を把握する際,情 報収集をする期間である.例えば, 介護 の場合,その時々に必要としている支援である ため長くても数週間程度の行動が支援に必要な情報となる.しかし, 介護福祉 の場合, 利用者の人生を支援するという考え方が強いため,生育暦,出身地等,その利用者人生そ のものを対象としている. 多くの介護福祉職は, 介護福祉サービス ではなく, 介護サービス を提供している. そのため,3 年で ベテラン の域に達してしまうのではないかと考える. 介護サービス を提供するだけであれば,先にも示したが,社会福祉士及び介護福祉士法が 2007(平成 19)年に改正以前に定義されていた介護福祉士の業務,つまり,入浴,排泄,食事といっ た,いわゆる3 大介護の技術が習得されれば事足りてしまう.一般的に,介護福祉の専門 教育を受けていない者が3 大介護に対する技術を習得するのに,早ければ 3 ヶ月,遅くと も1年あれば可能であるといわれている.技術を習得した後は,ルーティンワークの日々が待っていると捉えてしまう介護福祉職は少なくない.この結果,3 5 年目の離職者が多 いのではないかと考えられる. 一方, 介護福祉サービス を提供することを意識している介護福祉職はどうだろうか. 社会福祉士及び介護福祉士法が2007(平成 19)年に改正で定義が変更になった介護福祉 士の業務,つまり,心身の状況に応じた介護を提供しなければならない.心身の状況に応 じた介護を提供するには,当然のことではあるが,心身の状況を知る必要がある.心身の 状況を知るためには,情報収集能力,およびアセスメント能力が必要不可欠となる.情報 収集能力を高めるために,さまざまな知識が必要となる.知識なしに情報収集すると,心 身の状況に応じた介護を提供するために活用できるはずの事象を,単なる事象として扱っ てしまい,どれだけアセスメント能力が高くとも,アセスメントに繋げることができず, 結果的には,心身の状況に応じた介護は提供できない. 具体的にどのような知識が必要であるかについてふれる.心身の状況に応じた介護を提 供するための知識というと,心理学,および医学の知識が考えられる.これら2 分野は非 常に重要である.しかしながら,この2 分野の知識のみに頼ってしまうと,目の前にいる 実際の利用者をその2 分野の枠に当てはめて考えすぎてしまう.例えば,疾病,もしくは 障害がある利用者の場合,利用者の行動等から得られた情報を精査せず,疾病,もしくは 障害の特性から提供する介護福祉サービスを考えてしまうことがある.利用者の個別性が 失われてしまう結果となり,良い介護福祉サービスが提供できたとはいえない.良い介護 福祉サービスを提供するために必要な知識は,この2 分野に加えて 2 つある,1 つは,文 化・習慣・歴史等の知識であり,もう1 つは,社会資源活用に関する知識である.文化・ 習慣・歴史等の知識は,利用者の生まれ育った地域の特性,時代の特性,環境の特性を整 理する上で必要となる.社会資源活用に関する知識は,昨今,福祉施策は目紛しく変化し ており,国から提供される福祉サービスも,追加,もしくは削除される項目は多数存在す る.また,同じサービスであったとしても負担割合が変更されている場合もある.それに 加え,最近は少なくなってはきたが,地方自治体独自の福祉サービスも存在する.それら の知識があれば,利用者にとってより良い介護福祉サービスが提供される. いま示した文化・習慣・歴史等の知識は一朝一夕に身につく内容ではないし,社会資源 に関する知識は日々変化しているため,変更された内容を理解していく必要がある.この 2 点のことが理解できていれば, 介護サービス ではなく 介護福祉サービス を提供す ることができ,日々の業務がルーティンワーク化することはないと筆者は考える. この議論は,4 年制大学で介護福祉教育(以下,4年制教育と記す)を受けた介護福祉 職と2 年制の短期大学,もしくは,専門学校(以下,2 年制教育と記す)で教育を受けた 介護福祉職を比較した際に行われる議論に似ている. 2 年制教育では,現在,厚生労働省が定めているカリキュラムを教授することが精一杯 である.特に,2009 年のカリキュラム改正では,介護福祉士は, 介護技術士 に変わっ たと揶揄されるほど,技術教育に重点が置かれ, 福祉 という人生を支援するという発想