我が国の政策評価制度の課題と展望
東 信 男
*(会計検査院事務総長官房上席研究調査官)
Ⅰ はじめに
ニュー・パブリック・マネージメント(New Public Management:NPM)の理論を応用した行政・財 政システムの改革は,1980年代後半以降,ニュージーランド,イギリスなどのアングロサクソン系の諸国 を中心に行われていたが,徐々にフランス,オランダ,スウェーデンなどへも波及し,今や,欧米先進国 を中心に世界的な潮流になっている。NPMの理論を公共部門に導入したこれらの国々では,財政赤字の 縮小,長期債務残高の削減など,行政の効率化及び財政の健全化の面で一定の成果を収めている。我が国 でも,1999年9月の「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」の施行に伴う PFI(Private Finance Initiative)の導入,2001年1月の「独立行政法人通則法」の施行に伴うエイジェ ンシー(Agency)の導入など,NPMの理論を応用した手法が徐々に導入され始めており,今回,同年1 月の中央省庁等の改革に伴い,新たな「政策評価制度」が導入された。この政策評価は,NPMの重要な 理念の一つである業績・成果による統制を行政運営に応用した手法であり,国民本位の効率的で質の高い 行政を実現することなどを目的としている。 しかし,我が国の場合,PFI及びエイジェンシーの導入に見られるようにNPMの理論を行政・財政シ ステムへ応用するに当たっては,欧米先進国のように既存の関連制度も抜本的に改革しつつ新たな制度を 導入するというよりはむしろ,既存の関連制度を可能な限り温存しつつ新しい制度を導入するという現状 肯定的な色彩が極めて強く,今回の「政策評価制度」についても同じことが言える。このようなアプロー チを取る限り,「政策評価制度」を始めとするNPMの理論を応用した手法が,我が国の行政の効率化及び 財政の健全化にもたらす効果は限定的なものにならざるを得ないと思われる。 我が国の財政状況は,単年度の財政収支の赤字額,長期債務残高の対GDP比のいずれにおいても主要 先進国中最悪になっており,「財政はやや破局に近い(2001年3月の参議院予算委員会での宮沢財務相答 弁)。」とされている。このような状況から,我が国では,行政・財政システムの抜本的な構造改革に取り 組むことが求められており,そのためには,欧米先進国のように既存の制度を抜本的に改革する手法とし てNPMの理論を応用した新たな制度を導入することも選択肢の一つである。そこで,欧米先進国の先行 事例を踏まえながら,我が国に新たに導入された「政策評価制度」が有効に機能する上で直面している制 *1956年生まれ。80年会計検査院へ。防衛検査第3課,大蔵検査課決算監理官などを経て,現職。この間,84∼86年米国ロチェスター 大学経営大学院留学,90∼93年在ニューヨーク総領事館出向。
度上の課題を明らかにするとともに,それを解決するための対応策について展望することとする。(本稿 はすべて執筆者の個人的見解であり,会計検査院の公式見解を示すものではない。)
Ⅱ 我が国の政策評価制度の概要
我が国の新たな「政策評価制度」は,2001年1月の中央省庁等の改革に伴い導入されており,その具体 的な内容については,同月に政策評価各府省連絡会議が了承した「政策評価に関する標準的ガイドライン (以下「ガイドライン」という。)」に規定されている。その概要は,次のとおりである。 1.評価の対象範囲 評価の対象としての政策は,次のように定義される「政策(狭義)」「施策」及び「事務事業」であり, これらは,一般に,相互に目的と手段の関係を保ちながら,全体として一つの体系を形成しているととら えられている(「政策(狭義)」,「施策」及び「事務事業」のイメージについては,図1参照)。 図1 政策体系のイメージ (注) 政策(狭義)(Policy):特定の行政課題に対応するための基本的な方針(道路交通の円滑化の推進) 施策(Program) :基本的な方針を実現するための具体的な方策・対策(高速道路の渋滞の解消など) 事務事業(Project) :具体的な方策・対策を具現化するための個々の行政手段(首都高速道路の拡幅など) ( )は道路行政における例 政策体系その2 政策体系その1 総合評価 政策 (狭 義) 実績評価 事業評価 施 策 事 務 事 業ア 政策(狭義) 特定の行政課題に対応するための基本的な方針の実現を目的とする行政活動の大きなまとまり イ 施策 アの「基本的な方針」に基づく具体的な方針の実現を目的とする行政活動のまとまりであり,政策(狭 義)を実現するための具体的な方策や対策ととらえられるもの ウ 事務事業 イの「具体的な方策や対策」を具現化するための個々の行政手段としての事務及び事業であり,行政活 動の基礎的な単位となるもの 2.評価の実施主体 評価の実施主体は各府省及び総務省であり,各府省については,政策を企画立案し遂行する立場からそ の政策について自ら評価を実施するとされ,また,総務省については,統一的又は総合的な評価を実施し たり,政策評価の客観的かつ厳格な実施を担保するための評価を実施するとされている。そして,評価の 実施に当たっては,次のような対象から重点的かつ計画的に実施することとされている。 ア 各府省 ・新規に開始しようとするもの ・一定期間を経過して事業等が未着手又は未了のもの ・新規に開始した制度等で一定期間を経過したもの ・社会的状況の急激な変化等により見直しが必要とされるもの イ 総務省 ・全政府的見地から府省横断的に評価を行う必要があるもの ・複数の府省にまたがる政策で総合的に推進するために評価する必要があるもの ・府省の評価状況を踏まえ,厳格な客観性を担保するために評価する必要があるもの ・その他,政策を所掌する府省からの要請に基づき,当該府省と連携して評価を行う必要があるもの 3.評価の観点 評価の観点は,「必要性」,「効率性」,「有効性」,「公平性」及び「優先性」であり,評価の目的,評価 対象の性質等に応じて適切な観点を選択して,総合的に評価するものとされている。この中で,「効率性」 及び「有効性」については,次のように定義されている。 ア 効率性 ・投入された資源量に見合った効果が得られるか,または,実際に得られているか ・必要な効果がより少ない資源量で得られるものが他にないか ・同一の資源量でより大きな効果が得られるものが他にないか イ 有効性 ・政策の実施により,期待される効果が得られるか,または,実際に得られているか NPMの理論において,行政の業績・成果は,経済性(Economy),効率性(Efficiency)及び有効性 (Effectiveness)(3E)の観点から評価されることが多いが,ガイドラインには,経済性の観点が含まれ ていない。また,NPMの理論では,効率性という観点は,インプットとの関係でアウトプットを評価す
る場合に使われることが多く,ガイドラインの効率性の定義は,NPMの理論では,通常,費用対効果 (Cost-Effectiveness)と呼ばれているものである。行政マネージメント・サイクルと評価の観点の関係に ついては,図2のとおりであるが,特に,実績評価において基本目標・達成目標を設定するベースとして, インプット,アウトプット及びアウトカムを明確に区別することが重要である。 4.評価の方式 評価の方式は,次のように定義される「事業評価」,「実績評価」及び「総合評価」であり,所掌する政 策の特性や各々の分野における政策評価に対する要請などに応じて,適切な評価の方式を採用し,実施す るものとされている。 (1)事業評価 主に事務事業を対象に,事前の時点で費用対効果分析を行い,途中や事後の時点での検証を行うことに より,行政活動の採否,選択等に資する情報を提供することを主眼としている。具体的には,費用に見合 った効果が得られるかについて検討するため,可能な限り,予測される効果やそのために必要となる費用 を推計・測定し,それらを比較する。その際,効果については,受益の帰属する範囲や対象を極力特定し, 可能であれば定量化する。また,費用については,事務事業に係る直接的な支出のみならず,事務事業に より付随的に発生するそれ以外の費用(例えば社会費用等)についても含めることを検討する。評価の実 施に当たっては,公共事業,研究開発事業,ODA事業などを中心に取り組むことになっている。 (2)実績評価 主に施策を対象に,あらかじめ達成すべき目標を設定し,定期的・継続的にその目標に対する実績を測 図2 行政マネージメント・サイクルと評価の観点 外部要因 経済性(Economy) 有効性(Effectiveness) 成 果 (アウトカム: Outcome) 産 出 (アウトプット: Output) 実施過程 (プロセス: Process) 投 入 (インプット: Input) 資 源 (リソース: Resource) 効率性(Efficiency) 費用対効果(Cost-Effectiveness) (注) インプット :行政サービスを生み出すために資源を投入すること(建設国債・道路特定財源を財源とする予算の執行など) プロセス :行政活動(新道路整備五カ年計画の策定,用地買収交渉,予算要求,道路整備請負契約の締結,道路の位置指定など) アウトプット:行政活動によって生み出される行政サービス(国道の拡幅,高速道路の延長,都道府県道の新設など) アウトカム :行政サービスが国民生活及び社会経済にもたらす効果(渋滞の解消による平均走行速度の増大,交通事故死者数の減少,騒音の 低下など) 外部要因 :アウトカムに影響を及ぼすアウトプット以外の要因(鉄道・空港施設建設に伴う道路利用者の減少(プラス要因),マイカーの 普及に伴う道路利用者の増加(マイナス要因)) ( )は道路行政における例
定しその達成度を評価することにより,施策の有効性についての情報を提供することを主眼としている。 具体的には,各施策ごとに,国民に対して「いつまでに何についてどのようなことを実現するのか」を分 かりやすく示す,成果(アウトカム)に着目した基本目標を設定する。ただし,具体的な達成水準を示す ことが困難な基本目標については,これに関連した測定可能な指標を用いて,それぞれの指標ごとに達成 水準を示す具体的な達成目標を設定する。そして,この達成目標は,可能な限り客観的に達成度を測定で きるような定量的又は定性的な指標を用いて示すこととされている。評価の実施に当たっては,各府省の 主要な施策について幅広く対象とすることになっている。 (3)総合評価 主に政策(狭義)及び施策を対象に,実施後一定期間を経過した時点で,その効果の発現状況を様々な 角度から掘り下げて総合的に評価を行い,その効果を明らかにするとともに,問題点の解決に資する多様 な情報を提供することを主眼としている。具体的には,政策(狭義)及び施策の直接的効果や因果関係, 場合によっては,外部要因の影響についても掘り下げた分析を行い,さらに,必要に応じ,波及効果(副 次的効果)の発生状況及びその発生のプロセスなどについても分析する。評価の実施に当たっては,社会 経済情勢の変化により改善・見直しが必要とされるものなどを重点的に採り上げることになっている。
Ⅲ 課題と対応策
1.政策評価の導入目的の優先付け (1)現行制度の課題 政策評価制度の具体的な制度設計を行ったり,政策評価が有効に機能するために必要な関連制度を整備 するためには,政策評価を導入する目的を明らかにすることが重要である。 ガイドラインによれば,政策評価を導入する主な目的は,①国民に対する行政の説明責任(アカウンタ ビリティ)を徹底すること,②国民本位の効率的で質の高い行政を実現すること,③国民的視点に立った 成果重視の行政への転換を図ることとされている。ここで留意しなければならないことは,成果の発現を 過大に重視すると,投入コストを省みない行政運営が行われる可能性があるため,②の効率性(アウトプ ット/インプット)の実現と③の成果(有効性(アウトカム))の重視は,時により矛盾するということ である。 したがって,現行制度のように相互に矛盾する目的を複数設定したまま,具体的な制度設計を行ったり, 関連制度を整備した場合には,制度が複雑になったり,効果が限定的なものとなることから,導入目的の 優先付けを行うことが求められる。 (2)欧米先進国の動向 政策評価の導入目的の設定に当たり何を優先的に重視するかは,欧米先進国の間でも対応が分かれてお り,大きく,①効率性を優先的に重視するニュージーランド型,②財政状況の好転に伴い,効率性から有 効性の重視にシフトしつつあるイギリス型,③有効性を優先的に重視するアメリカ型に分かれている。 ニュージーランドは,1980年代後半以降,NPMの理論が公共部門に導入される過程で世界の先導的役 割を果たしてきたが,その契機となったのは,経済成長の鈍化などに伴う財政収支の赤字,長期債務残高 の拡大であった。このため,同国の政策評価は,規制緩和,民営化などを内容とする包括的な行政改革の一環として導入されており,行政の効率化による財政再建が第一義的な目的となっている。例えば,1989 年に制定された財政法(Public Finance Act)に基づき,各大臣とその所管省庁の事務次官(Chief Executive:CE)との間で,各省庁のCEが提供し大臣が購入するアウトプットの量・質とその提供に必 要な費用を明らかにした購入契約(Purchase Agreement)が締結されたり,コスト情報を把握するため に会計処理のみならず予算にも発生主義が導入されるなど,効率性をより重視した制度設計になっている。 なお,オーストラリアについても,ニュージーランドと同様に,効率性をより重視した制度設計になって いる。 また,イギリスは,1980年代後半以降,NPMの理論が公共部門に導入される過程でニュージーランド とともに世界の先導的役割を果たしてきたが,その契機となったのは,やはり,経済の停滞,行政の肥大 化などに伴う財政赤字の拡大であった。このため,同国の政策評価は,当初,公的企業の民営化,エイジ ェンシーの導入などを内容とする行政改革の一環として導入され,行政の効率化による財政再建が第一義 的な目的となっていた。例えば,1988年のネクスト・ステップス(Next Steps)により導入されたエイジ ェンシー(Executive Agency:EA)では,それぞれが属する所管省庁との間で,各省庁が決定した政策 目的を達成するために当該EAが実施すべきアウトプットベースの業績目標を設定した業績協定が締結さ れたり,コスト情報を把握するため会計処理に発生主義が導入されている。その後,行政改革の成果など により財政状況が好転し始めたことから,同国の行政運営は,行政の規模の縮小から,政策の有効性や行 政サービスの質の向上にシフトしつつある。例えば,2001年度予算から本省だけではなくEAも含めた中 央政府全体において,政策評価制度が資源会計・予算制度(Resource Accounting and Budgeting:RAB) と一体となって運営されており,アウトカムベースの業績目標を定めた公的サービス協定(Public Service Agreement:PSA)が各省庁と大蔵省との間で締結されるなど,有効性がより重視されつつある。
一方,アメリカでは,1980年代のレーガン政権の下で行われた規制緩和による経済成長の回復や行政改革 の成果などに伴い,1990年代に入ってから財政状況が好転しており,政策評価はこのような状況の中で1993 年に制定された政府業績結果法(Government Performance and Results Act:GPRA)に基づいて導入さ れている。このため,同国の政策評価は,行政の効率化による財政再建よりも,むしろ,政策の有効性や行 政サービスの質の向上を第一義的な目的としており,アウトカムベースの業績目標を採用したり,コスト情 報をもたらす公会計制度改革とは直接連動していないなど,有効性をより重視した制度設計となっている。 このように,欧米先進国1)では,政策評価制度の具体的な制度設計を行ったり,関連制度を整備するに 当たっては,その国の財政状況に応じて,効率性を優先的に重視したり,または,有効性を優先的に重視 したりしている。 (3)我が国の対応策 我が国では,2001年度の一般会計予算において歳入の34.3%に当たる28兆3180億円が国債発行で調達さ れることになっており,また,2002年3月末における国と地方を合わせた長期債務残高はGDPの128.4% に当たる666兆円に上ると見込まれており,単年度の財政収支の赤字額,長期債務残高の対GDP比のいず れにおいても主要先進国中,最悪の状況になっている(主要先進国の財政状況については,図3・図4参 照)。 1)政策評価を導入している国として,オーストラリア,カナダ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,オランダ,ニュ ージーランド,スウェーデン,イギリス及びアメリカが上げられる。なお,欧米先進国における実績評価の導入状況については, 東(2001)P18−25を参照。
図3 国及び地方の財政収支の国際比較(SNAベース) -11.0 -9.0 -7.0 -5.0 -3.0 -1.0 1.0 3.0 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年(暦年) 日本 日本 英国 英国 米国 米国 カナダ カナダ イタリア イタリア ドイツ ドイツ フランス フランス (%) (注)修正積立方式の年金制度を有する日本及びアメリカについては,実質的に将来の債務とされる社会保障基金を除いている。 (資料)2001年3月「財政の現状と今後のあり方」(財務省) (対GDP比,%) 暦 年 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス イタリア カナダ ▲2.0 ▲6.7 ▲6.5 ▲2.5 ▲4.2 ▲9.5 ▲9.2 ▲4.8 ▲5.7 ▲8.0 ▲3.1 ▲6.0 ▲9.4 ▲8.7 ▲5.1 ▲4.5 ▲6.8 ▲2.4 ▲5.5 ▲9.1 ▲6.7 ▲6.4 ▲3.9 ▲5.8 ▲3.3 ▲5.6 ▲7.6 ▲5.4 ▲6.9 ▲3.1 ▲4.4 ▲3.4 ▲4.1 ▲7.1 ▲2.8 ▲5.9 ▲2.0 ▲2.0 ▲2.7 ▲3.0 ▲2.7 0.2 ▲7.1 ▲0.9 0.4 ▲2.1 ▲2.7 ▲2.8 0.2 ▲8.8 ▲0.4 1.3 ▲1.4 ▲1.8 ▲1.9 2.2 ▲7.8 0.8 2.7 1.4 ▲1.4 0.1 2.5 ▲7.7 1.0 2.2 ▲1.7 ▲0.1 ▲1.0 2.1 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 図4 国及び地方の債務残高の国際比較(SNAベース) 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年(暦年) 日本 日本 英国 英国 米国 米国 カナダ カナダ イタリア イタリア ドイツ ドイツ フランス フランス (%) 30 50 90 70 110 130 (対GDP比,%) 暦 年 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス イタリア カナダ 59.3 74.1 49.4 41.8 44.7 116.1 110.3 63.7 75.8 58.4 47.4 51.6 117.9 116.9 68.8 75 56.1 47.9 55.3 124 117.5 76.2 74.5 61.1 57.1 59.3 123.1 120.6 80.5 73.9 60.6 60.3 62.3 121.8 120.9 84.6 71.4 60.9 61.7 64.7 119.8 117.4 97.4 68.4 62.0 63.0 65.2 117.7 116.2 105.3 65.3 57.0 60.6 65.0 116.6 111.6 112.3 59.5 53.5 59.6 64.6 112.0 105.9 118.6 54.6 50.7 57.8 63.6 108.3 100.5 1992年 1993年 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年
このような財政状況が続けば,経済構造の成熟化,少子高齢化社会の到来などの社会経済情勢の変化に 対応した機動的な財政運営を行うことが困難になるおそれがあるため,今後,財政構造改革を中心とした 行財政改革による財政再建が第一の行政課題になると思われる。したがって,政策評価の導入に当たって は,ニュージーランド,オーストラリア及び初期のイギリスのように,行政の効率化を第一義的な目的と することにより,財政赤字の削減及び長期債務残高の減少に資する制度にすることが考えられる。その後, 景気の回復や行政改革の成果により財政状況が好転した段階で,アメリカ及び現在のイギリスのように, 政策の有効性や行政サービスの質の向上に資する制度に変更することが望ましい。 2.予算制度との連動:財政規律の設定 (1)現行制度の課題 行政の効率化により財政の健全化を図るためには,厳しい財政規律を定め,その下で設定される歳出限 度の枠内で,各政策ごとの予算配分の合理化・効率化を図る手段として政策評価が活用されることが重要 である。なぜなら,歳出限度額などのような財政規律が予算編成方針として設定されなければ,政策評価 において施策目的及びそれを達成するために実施すべき基本目標・達成目標が財政上の制約を省みること なく設定され,行政の肥大化・歳出の拡大をもたらす可能性があるからである。 このように,予算制度は,政策評価が有効に機能するための関連制度として非常に重要であるにもかかわ らず,現行の政策評価制度では,予算編成上の財政規律と連動させることについては考慮が払われていない。 (2)欧米先進国の動向 欧米先進国では,政策評価の導入だけではなく,予算編成上の財政規律も設定することにより,財政の 健全化に取り組んでおり,これらの国々の財政状況は着実に改善している。 例えば,イギリスでは,1990年以降のメジャー政権において利払費等を除いた歳出額の実質伸率を 1.5%以下に抑制したり,また,1997年以降のブレア政権において公的借入れを投資的経費に限定したり, 一般政府の債務残高の上限を対GDP比の40%にするなどの財政規律を設定した結果,1998年度以降,国 及び地方の単年度の財政収支は黒字に転じている。なお,EUは通貨統合の条件として,国及び地方にお ける単年度の財政赤字の対GDP比を3%以下にすることと,債務残高の対GDP比を60%以下にすること を求めたため,政策評価を導入した他の欧州先進国でも予算編成上の財政規律が設定されている。 また,カナダでは,1993年に政権の座に就いたクレティエン首相がメキシコの通貨危機を契機に財政緊 急事態を宣言し,社会保障関係費の抑制,国営企業の民営化,国家公務員の削減などの行政改革を推進し た。この結果,1997年度以降,国及び地方の単年度の財政収支は黒字に転じており,また,債務残高も純 減している。1998年度以降は,財政再建のための予備費として毎年度30億加ドルを計上しており,さらに, 2001年度以降,追加的な予備費を計上する予定になっている。
一方,アメリカでは1990年及び1993年に包括財政調整法(Omnibus Budget Reconciliation Act: OBRA)を制定して,裁量的経費の上限を定めたCap制や,義務的経費にスクラップ・アンド・ビルドを 定めたPay-as-you-go制を導入している。さらに,1997年に財政収支均衡法(Balanced Budget Act)を制 定して,2002年度までCap制とPay-as-you-go制を存続させるとともに,一層の歳出削減に取り組んだ結果, 2000年度以降,連邦及び地方の単年度の財政収支は黒字に転じており,連邦については,2002年度以降10 年間で5兆6000億ドル以上の財政黒字を見込んでいる。
各政策ごとの予算配分の合理化・効率化を図る手段として活用されている(欧米先進国で設定されている 財政規律については,表1参照)。 表1 欧米先進国における財政規律の設定状況 ・一般政府の純債務残高の対GDP 比を2000-2001年度までに10%に する。 ・連邦政府の債務残高の対GDP 比を継続的に削減し,2005年度 から2006年度までに約40%にす る。(1997年度以降,債務残高 は純減) ・2004年に,一般政府の財政黒 字(対GDP比の0.2%)を達成し,債 務残高の対GDP比を52.9%にする。 ・2004年に,一般政府の財政赤 字の対GDP比を0.0%,債務残高 の対GDP比を54.5%にする。 ・数値目標は,特に設定されて いない。 ・中長期的に一般政府の債務残 高の対GDP比を40%以下にする。 ・1998年度から2002年度までに, 財政赤字を1750億ドル削減する。 ・連邦政府の財政収支を2002年 度までに均衡させる。(1998年 度以降,財政黒字を達成済み) ・1998年に制定された予算公正憲章法(Charter of Budget Honesty Act)に基づき,連邦政府の 債務を適正な水準に維持したり,将来世代に対 する財政上の影響を考慮した政策決定を行った りなどしている。 ・景気循環サイクルを通じて平均的に財政収支 の均衡を達成する。 ・1993年11月以降,社会保障関係費の抑制,国 営企業の民営化,国家公務員の削減などにより, 行政改革を推進している。 ・1998年度以降,財政再建のための予備費とし て毎年度30億加ドルを計上しており,さらに, 2001年度以降,追加的な予備費を計上する予定 になっている。 ・1997年6月に成立したジョスパン左派内閣は, 社会保障関係費の抑制,国防費の削減,国家公 務員の削減などにより歳出伸率を抑制している。 ・各省からの概算要求に先立って,政府全体とし ての予算額の上限と,人件費及び物件費の伸率の 上限を各省に提示する「予算回章」に加え,1994年 度以降,新規措置は同額の既存措置の削減によっ てのみ認める「モラトリアム原則」が採用されている。 ・1999年6月に,大幅な歳出削減措置と連邦政府 機関のスリム化等を内容とする「将来プログラム」 が閣議決定され,2000年度予算や「財政再建法」 等の成立で本格的に実施されている。 ・1994年に制定された財政責任法(Fiscal Respo- nsibility Act)に基づき,毎年度の支出額を収入 額以下に保ち,政府債務を賢明な水準まで削減す る。また,将来の不測の事態に対処できる水準ま で,政府の純資産を引き上げ,維持する。 ・1997年5月に成立したブレア政権は,建設公債 原則(公的借入れを投資的経費の枠内に限定)を 導入している。 ・1998年7月に特定経費についての各省庁ごとの 限度額を含む3年度(1999-2001)分の歳出計画が 発表されている。 ・1990年及び1993年に制定された包括財政調整法 (Omnibus Budget Reconciliation Act)に基づ き,国防費,メディケアなどの個別の経費ごとに 具体的な量的削減目標が設定されている。また, 裁量的経費にCap制(シーリング制度)が,義務 的経費にPay-as-you-go制(財源なくして増額措置 なし)がそれぞれ導入されている。 ・1997年に制定された財政収支均衡法(Balanced Budget Act)に基づき,2002年度までCap制と Pay-as-you-go制が存続することになり,また,一 層の歳出削減に取り組むこととなった。 オーストラリア カナダ フランス ドイツ ニュ−ジ−ランド イギリス アメリカ 国 名 財政健全化の目標 財政規律 (資料)2001年3月「財政の現状と今後のあり方」(財務省)などにより作成
(3)我が国の対応策 我が国でも,財政再建を目的とした取組みが行われたことがあり,1997年12月には「財政構造改革の推 進に関する特別措置法(財政構造改革法)」が施行され,2003年度までに国と地方を合わせた単年度の財 政赤字の対GDP比を3%以下とするような財政健全化目標を設定したり,社会保障関係費,公共投資関 係費などの主要な経費別に量的縮減目標を設定したりなどして,予算上の財政規律により,財政の健全化 を図ろうとした。この背景には,危機的な財政状況の中で,将来に向けて更に効率的で信頼できる行政を 確立し,安心で豊かな福祉社会及び健全で活力ある経済を実現するという課題に十分対応するためには, 財政の構造改革が不可避であるとの認識があった。しかし,その後,景気の回復に全力を尽くすことが政 府の最大の課題とされ,経済対策のための財政支出を余儀なくされたことから,同法は1998年5月に財政 健全化目標・量的縮減目標を緩和する改正が行われた後,同年12月にその施行が停止された。 現在の我が国の財政状況は,バブル経済崩壊後の累次にわたる経済対策にもかかわらず経済が回復軌道 に入っていないため,財政構造改革法が施行された時と比べて更に悪化しており,財政健全化への取組み は,当時より緊要な行政課題となっている。従来の財政主導型の経済対策では景気に及ぼす効果が限定的 であることは明らかであるため,同法の停止を解除し,現実的な財政健全化目標・量的縮減目標を設定す ることにより,財政再建に着手すべきである。したがって,政策評価は,同法の下で設定される歳出限度 の枠内で,各政策ごとの予算配分の合理化・効率化を図る手段として活用することが考えられる。ただし, 同法は,主要な経費の量的縮減目標の設定において,縮減対象を一般会計予算に計上される経費や当初予 算に限定しており,財政規律としては十分ではないため,量的縮減目標の設定では特別会計予算や補正予 算を含める必要がある。 3.予算制度との連動:業績計画(政策評価実施計画)の客観性の確保 (1)現行制度の課題 実績評価では,各府省が事前に評価の対象とする各施策ごとに基本目標・達成目標を設定し,これと実 績値を比較することにより,有効性の観点からの評価が行われるため,評価の対象とする施策,各施策ご との基本目標・達成目標などを定める業績計画(政策評価実施計画)の策定プロセスにおいて客観性を確 保することが重要である。その策定に当たっては,各府省の主観的な判断が含まれることになるため,予 算要求を正当化するために,特定の施策が評価の対象として選定されたり,意図的に高め又は低めの基本 目標・達成目標が設定されたりする可能性がある。 ガイドラインでは,各府省が政策を企画立案し遂行する立場からその政策について自ら評価を実施する とされていることから,評価の対象とする施策,各施策ごとの基本目標・達成目標などを定める政策評価 実施計画の策定に当たっては,単独で決定できることになっている。また,政策評価に関する各府省の事 務を総括している総務省には,各府省の政策評価実施計画について,審査し改善を求める指導・監督権限 は与えられていない。 このように,政策評価実施計画の策定プロセスにおいて客観性を確保することが政策評価を有効に機能 させる上で不可欠であるにもかかわらず,現行の制度では,その客観性を確保できる仕組みにはなってい ない。 (2)欧米先進国の動向 政策評価制度を導入した欧米先進国では,政策評価そのものが各省庁の自己評価であり,その客観性を
確保することが同制度を有効に機能させる上で不可欠な要件であるという認識から,業績計画の策定段階 から,評価実施省庁以外の第三者が関与することにより,その客観性を確保することに努めている。
例えば,オーストラリアでは,1999-2000年度予算から政策評価制度は発生主義に基づくアウトカム・ アウトプット・フレームワーク(Accrual-based Outcomes and Outputs Framework:AOOF)の中で予 算制度と一体となって運営されており,各省庁の事務次官(Agency Head :AH)は所管大臣と,大臣が 定めたアウトカムベースの政策目的を達成するために実施すべきアウトプットの量・質とその提供に必要 な費用について協議を行うこととされている。AOOFでは,このアウトプットの提供に必要な費用が予 算額となることから,各省庁の業績目標を定めたアウトカム・アウトプット体系は,財務行政省 (Department of Finance and Administration)の査定を受けたり,首相,財務行政大臣などをメンバー とする歳出検討閣僚委員会(Expenditure Review Committee)の審議を経て,予算参照書(Portfolio Budget Statements)として閣議決定されている。
また,イギリスでは,2001年度予算から政策評価制度は資源会計・予算制度(RAB)と一体となって 運営されており,各省庁は大蔵省(HM Treasury)との間で3ヵ年を対象として,各省庁の設置目的 (Aim),政策目標(Objective)とそれに対応したアウトカムベースの業績目標(Performance Target)
を定めた公的サービス協定(PSA)を締結している。このPSAについては,各省庁と大蔵省との事務レ ベルでの協議が終了後,大蔵大臣が議長を務める公的サービス・公的支出閣僚委員会(Cabinet Committee on Public Service and Public Expenditure)において,最終的な決定が行われている。
一方,アメリカでは,政策評価制度は予算制度と一体となって運営されてはいないが,各省庁が各施策 (Program Activity)ごとの業績目標(Performance Goal)を設定した年次業績計画書(Annual Performance Plan)については,行政管理予算局(Office of Management of Budget )が各省庁の予算 要求とあわせて査定を行っている。また,会計検査院(General Accounting Office:GAO)は,政府業 績結果法(GPRA)第8条に基づき,連邦政府による政策評価の実施状況を監視していくこととされてい るため,年次業績計画書とともに,各省庁が5年以上の長期的な総合目標(General Goal and Objective) を設定した戦略計画書(Strategic Plan)についても検査しており,これらはすべてGAOの検査結果を踏 まえたものとなっている。 このように,欧米先進国では,業績計画の策定は,予算編成プロセスの中で行われていることから,財 務行政省,大蔵省などの評価実施省庁以外の第三者が関与する制度的な体制が整備されており,その客観 性が確保される仕組みになっている。 (3)我が国の対応策 制度導入の初期においては,試行期間という位置付けから,各府省の政策のうち優先度の高い一部の政 策が評価の対象になると思われるが,否定的な評価が下されると予想される政策が意図的に評価の対象か ら外されることもあるため,本格的実施に至った段階で,実績評価については各府省が実施するすべての 施策を評価の対象とすることが求められる。これにより,各府省では毎年度,評価結果に基づいてすべて の施策について見直しができることになるため,予算編成上の財政規律の下で設定される歳出限度の枠内 で,各施策ごとの予算配分の合理化・効率化を図ることが可能となる。 さらに,政策評価実施計画の策定に当たっては,各施策ごとの予算額を踏まえた適切な目標値を設定す ることが不可欠であるため,予算編成プロセスの中で政策評価実施計画を確定することが考えられる。各 府省は,この予算編成プロセスの中で予算額と同時に各施策ごとの目標値の査定を受けることにより,政
策評価実施計画の客観性を確保することが可能になるため,財務省に各府省の政策評価実施計画について, 審査し改善を求める指導・監督権限を与えることが望ましい。 4.予算制度との連動:アウトプット型発生主義予算の導入 (1)現行制度の課題 政策には企画立案,実施の各プロセスにおいて予算が必要であり,また,国の主要な財政統制は予算に より行われていることから,政策評価の結果が予算に反映されるような制度設計を行うことが重要である。 ガイドラインによれば,予算への反映について,各府省は,評価結果を踏まえて,政策の改善・見直しに関 して検討を行い,その結果を予算要求の段階等で適切に反映するよう努めるものとするとされ,また,財政 当局は,予算編成の過程において,政策評価の結果の適切な活用を図るよう努めるものとするとされている。 このように,現行の制度では,各府省及び財政当局に対し,政策評価の結果を予算に反映させるよう求 めているものの,政策評価と予算を連動させる具体的な仕組みについては,検討されていない。 (2)欧米先進国の動向 政策評価の結果を予算に反映させることの重要性は,政策評価を導入した欧米先進国では共通した認識 となっており,これらの国々では施策に関してはすべての施策を包括的に評価の対象としていることもあ って,政策評価と予算の連動を図るための体制を整備している。 例えば,政策評価を導入した国々では,評価の結果を予算に反映させる前提として,大蔵省,財務省な どの財政当局が同制度の設計・運用や,各省庁が作成する業績計画・実績報告書に対する指導・監督など を所管している。なお,ニュージーランドでは,政策評価は人事評価とも連動しているため,人事行政管 理委員会(State Service Commission)との共管になっている。
さらに,オーストラリアでは,政策評価と予算の対応関係を明確にするため,1999-2000年度予算から 政策評価体系と予算書体系を一致させる取り組みが,アウトカム・アウトプット・フレームワーク (AOOF)の中で行われており,①アウトカムベースの政策目的,②各政策目的を達成するために実施す べきアウトプットベースの業績目標(複数),③各アウトプットベースの業績目標を達成するために要す るコスト見積を合計した予算額を,それぞれ計上するアウトプット型予算(Output-based Budgeting) が導入されている。また,予算編成上の財政規律の下で設定される歳出限度の枠内で,①コスト見積を踏 まえて,各政策目的を達成するために実施すべきアウトプットの量・質を決定したり,②アウトプットの 実施方式の決定に当たり,コスト比較により民間委託方式の採否を決定したり,③ライフ・サイクル・コ ストを踏まえて,固定資産を新規に取得したり,または,不要な固定資産を処分したりなどするために, 発生主義予算が導入されている。この結果,オーストラリアでは,予算額は各省庁が行政サービスを生み 出すために投入する資源(インプット)の積上げではなく,各省庁が実施する行政サービス(アウトプッ ト)のコストとして積算されることとなった。なお,発生主義予算については,アイスランド(1998年度 予算から全面的に),カナダ(予算科目の一部のみ),オランダ(エイジェンシーのみ),ニュージーラン ド(アウトプット型予算とともに1994-95年度予算から全面的に),イギリス(2001年度予算から全面的に) 及びアメリカ(予算科目の一部のみ)でも導入されている。 また,イギリスでは,政策評価の枠組みとなる公的サービス協定(PSA)は,3ヵ年度を1期間とし ているが,この政策評価の対象期間と予算の歳出権付与期間を一致させるため,ブレア政権は,1998年に 経済財政戦略レポート(Economic and Fiscal Strategy Report)を発表し,新たな予算編成方針を導入し
た。この新たな予算編成方針では,歳出予算の歳出権付与期間を1ヵ年度及び3ヵ年度とし,①社会保障 関係費,EU共通農業経費,利払費などの義務的経費(Annually Managed Expenditure)については1ヵ 年度の歳出上限を,②その他の裁量的経費(Departmental Expenditure Limit:DEL)については3ヵ年 度にわたる各年度の歳出上限を定めることとした。これにより,各省庁は,DELについて3ヵ年度にわ たる歳出権を確保するとともに,PSAに沿った成果を達成することが求められることとなった。
一方,アメリカでは,行政管理予算局の通達(OMB Circular A-11)に基づき,政策評価体系と予算書 体系の整合性を図ることとされているが,政府業績結果法(GPRA)に基づいて作成される年次業績計画 書の施策区分は,予算書上の科目(Program Activity)を必要に応じて統合したり,分割したり,または, 連結したものとなっているため,政策評価体系と予算書体系は完全には一致していない。しかし,目標達 成水準の変化に応じて,必要な予算額がどのように変化するかを分析するため,予算書上の科目を年次業 績計画書の施策区分と一致させた業績予算(Performance Budgeting)の導入が5つの省庁において試行 的に行われており,また,2ヵ年度予算(Biennial Budgeting)の導入についても検討されている。 このように,欧米先進国では,政策評価と予算を連動させるため,政策評価体系と予算書体系の整合性 を図ったり,政策評価の対象期間と予算の歳出権付与期間を一致させたりなどしており,インプットベー スの予算統制からアウトプットベースの予算統制への転換が図られている。 (3)我が国の対応策 我が国の予算は,一般会計予算と37の特別会計予算から構成されており,その中心となる歳入歳出予算 において,歳出は所管・組織・項から構成されており,項が国会での議決対象となっている。この項は, 目的別に集計することとされているが(財政法第23条),実際は,①人件費,庁費などの管理部門の予算 額が独立科目として計上されていたり(一般会計歳出予算の例,「農林水産本省」),②支出先の予算額が 計上されていたり(同「日本鉄道建設公団助成費」),③事務事業レベルの予算額が計上されていたり(同 「平成9年度甲型警備艦建造費」)などしているため,予算書からは,国が実施しようとする各政策ごとの 支出内訳が把握できない形になっている(現行の予算書体系については,図5参照)。また,予算書に加 え,その内訳を記載した予算参照書が作成されており,この中で,項の内訳として事項及び目別の予算額 が集計されている。そして,各省各庁の長は,財務大臣の承認を経なければ,目の間において各目の経費 を流用することができないとされており(財政法第33条第2項),現行の予算制度は,極めてインプット 統制の色彩が強くなっている。 我が国では,政策評価制度の導入に伴い,インプット統制から成果重視の行政運営に転換することが期 待されていることから,政策評価と予算の関連性を明らかにするとともに,予算編成の透明性を確保する ため,政策評価制度及び予算制度を次のように見直すことが考えられる。 ア 政策評価制度 ①各府省において,所管しているすべての政策について,政策(狭義)−施策−事務事業の目的手段の 関係を明らかにした政策の体系化を行い,3ヵ年度を対象とする政策評価実施計画(案)を策定する。こ の政策評価実施計画(案)では,各府省の政策の実施により期待される効果とそれを達成するために求め られる行政サービスの関係を明らかにするため,政策(狭義)についてはその目的をアウトカムベースで 設定し,施策についてはその業績目標をアウトプットベースで設定する。そして,2ヵ年度目以降は,実 績に基づいて必要に応じ目標値などの改訂を行う。 ②各府省は,毎年度,8月末までに政策評価実施計画(案)を予算概算要求書と共に財務省に提出し,
図5 現行の予算書体系(一般会計歳出予算国土交通省の例) 国土交通本省(自動車損害賠償責任再保険特別会計へ繰入,国家公務員共済組合負担金など) 治水事業費(治水特別会計へ繰入) 揮発油税等財源道路整備事業費(揮発油税等財源の道路整備特別会計へ繰入) 住宅建設等事業費(公営住宅建設費等補助,住宅市街地整備総合支援事業費補助など) 国土交通本省 住宅対策諸費(住宅金融公庫補給金,公営住宅家賃対策等補助など) 都市環境整備事業費(道路環境整備事業費道路整備特別会計へ繰入,まちづくり総合支援事業費補助など) 都市計画事業費(下水道事業費補助,都市公園事業費補助など) 揮発油税等財源北海道道路整備事業費(揮発油税等財源の道路整備特別会計へ繰入) ・・・・・ 地方整備局(職員基本給,職員諸手当など) 地方整備局 地方整備局施設費(施設整備費) 都市公園事業工事諸費(職員基本給,職員諸手当など) ・・・・・ 北海道開発局(職員基本給,職員諸手当など) 北海道開発局 北海道道路事業工事諸費(職員基本給,職員諸手当など) 北海道農業生産基盤整備事業等工事諸費(職員基本給,職員諸手当など) ・・・・・ 地方運輸局 地方運輸局(職員基本給,職員諸手当など) 気象官署(職員基本給,職員諸手当など) 気象庁 静止気象衛星業務費(静止気象衛星製作費,電子計算機等借料など) 気象研究所(職員基本給,職員諸手当など) ・・・・・ 海上保安官署(職員基本給,航空機及船舶運航費など) 海上保安庁 船舶建造費(船舶建造費,船舶建造旅費など) 航路標識整備事業費(航路標識整備事業費,航路標識整備事業調査費) ・・・・・ ・・・・・ ・・・・ ・・・・・ ・・・・・ (資料)2001年度一般会計予算 所管 組織 項(主な目の例) 国土交通省
目標値などの査定を受けて,政策評価実施計画を確定させる。 イ 予算制度 ①各府省において,各政策ごとにその目的を達成するために必要なコストを予算編成の段階から的確に 把握するため,アウトプット型の発生主義予算を編成する。発生主義予算は,所管−政策(狭義)− 施策の編成とし,政策評価実施計画で設定された各施策ごとにアウトプットを提供するために必要な コストを予算額として計上する。 ②各府省において,実際に配賦される予算は現金であることから,現金主義予算も併せて編成する。現 金主義予算も,所管−政策(狭義)−施策の編成とし,発生主義予算額に,公共事業費,貸付金など の資産取得費を加算したり,減価償却費,貸倒引当金繰入などの非現金費用を控除したりして,政策 評価実施計画で設定された各施策ごとにアウトプットを提供するために必要な現金を予算額として計 上する(アウトプット型予算書体系のイメージについては,図6参照)。 ③各府省が所管する政策の中には,一般会計と特別会計の両方で財源措置されているものがあったり, 政府の政策の中には,複数の府省において横断的に実施されているものがあり,各府省全体及び政府 全体で各政策ごとの予算額を把握するためには,各府省の一般会計予算額及び特別会計予算額を連結 することが求められることから,一般会計予算及び特別会計予算における政策(狭義)−施策の分類 については,統一的なコード番号を付与する。 ④政策評価実施計画において3ヵ年度にわたる目標値が設定されることに伴い,公共事業など長期計画 に基づいて実施される施策については,3ヵ年度分の予算額を認めたり,不用額の一定割合を自動的 に2ヵ年度目以降へ繰り越すことを認める。 ⑤国会の議決対象は発生主義予算及び現金主義予算とし,政策評価実施計画については予算参照書の一 部とする。また,各施策ごとに編成される発生主義予算及び現金主義予算の内訳として,事務事業別 予算を作成し,予算参照書の一部とする。 ⑥各府省は,予算の議決対象である各施策ごとのアウトプットの提供に責任を有することから,同一施 策内における事務事業及び経費の変更については裁量権を与えられる。 ⑦財務省は,予算執行上のインプット統制を緩和する代わりに,各府省から定期的に各施策の実施状況 に関する報告を受け,目標値の達成状況をモニタリングする。 5.公会計制度改革との連動:コスト情報の把握 (1)現行制度の課題 政策評価に基づいた政策の改善や見直しにより行政の効率化を図るためには,各府省が提供した行政サ ービスを定量的に把握するとともに,各政策ごとに行政サービスの提供に要したコストを把握することが 重要である。公会計制度は,政策評価に不可欠なコスト情報を提供する制度インフラになり得るものであ るが,現行の公会計制度では,基本的には現金主義が採用されているため経常収支と資本収支が区別され ていないなど,合理的なコスト情報を把握できる体制にはなっていない。また,決算は,目的別に編成さ れている予算の執行実績を表わすことを主眼としているため,現金主義に基づいた政策別の決算額さえ把 握できない状況になっている。2) ガイドラインでは,評価の観点の一つとして効率性を挙げたり,また,事業評価において費用対効果分 2)現行の公会計制度の課題については,東(2000)P63-P79を参照。
図6 アウトプット型予算書体系のイメージ(一般会計歳出予算国土交通省の例) 居住水準の向上 良質な住宅取得の促進(住宅地区改良費補助,住宅金融公庫への補給金交付など) 賃貸住宅の供給の促進(公営住宅建設費等補助,公営住宅家賃対策等補助など) 職住近接の住宅市街地の整備(住宅市街地整備総合支援事業費補助,密集住宅市街地整備促進事業費補助など) 住環境・都市生活の質の 都市公園の整備(国営公園整備事業,都市公園事業費補助など) 向上 下水道事業の推進(下水道事業費補助,下水道関連公共施設整備促進事業費補助など) ・・・・・ 都市鉄道の整備・輸送力の増強(地下高速鉄道整備事業費補助,ニュータウン鉄道等整備事業費補助など) 公共交通の利便性の向上 都市モノレール・新交通システムの整備(運輸施設整備事業団への助成費交付など) バス利用の促進(バス運行対策費補助,バス活性化システム整備費補助など) ・・・・・ 良質で安全な水の安定し 河川の正常な流量の確保(治水特別会計へ繰入) た利用の確保 水道源水の水質改善(治水特別会計へ繰入,水道水源開発施設整備費補助など) 地域の競争条件確保のための幹線道路網の構築(道路整備特別会計へ繰入) 広域的モビリティの確保 整備新幹線の整備・在来幹線鉄道の高速化(新幹線鉄道整備事業費補助,幹線鉄道等活性化事業費補助など) 国内航空ネットワーク充実のための空港整備(空港整備特別会計へ繰入) 中枢・中核国際港湾等の整備(港湾整備特別会計へ繰入,港湾利用高度化拠点施設緊急整備事業費補助など) 国際競争力の強化 大都市圏拠点空港の整備(空港整備特別会計へ繰入) 国際幹線航路における船舶航行の安定性・安全性の確保(海上保安庁による警備救難事業・航路標識整備事業など) ・・・・・ 水害対策(治水特別会計へ繰入,河川等災害復旧事業費補助など) 災害による被害の軽減 土砂災害対策(直轄道路災害復旧事業,急傾斜地崩壊対策事業費補助など) 震災対策(大都市広域防災街づくり推進事業費補助,気象庁による地震・火山観測事業など) ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ (資料)国土交通省2001年度政策評価運営方針(政策目標,業績指標,関連施策等(素案))などにより作成 国土交通省 所管 政策 施策(主な事務事業の例)
析を行うことを求めているが,合理的なコスト情報を把握するため公会計に発生主義を導入する公会計制 度改革については触れていない。 このように,公会計制度は,政策評価が有効に機能するための関連制度として非常に重要であるにもか かわらず,現行の政策評価制度では,公会計制度改革と連動させることについては考慮が払われていない。 (2)欧米先進国の動向 政策評価を実施するに当たって,コスト情報を把握することの重要性は,政策評価を導入した欧米先進 国では共通した認識となっており,これらの国々では,政策の実施に要したコストを把握するための体制 を整備している。 例えば,オーストラリアでは,4.(2)で記述したように発生主義をベースとしたアウトプット型予 算 が 導 入 さ れ て い る が , 会 計 処 理 に つ い て も 1 9 9 7 年 に 制 定 さ れ た 財 務 管 理 ・ 責 任 法 ( F i n a n c i a l Management and Accountability Act)に基づいて発生主義が導入されているため,各政策ごとに行政サ ービスとして提供されたアウトプットの量とその提供に要したコストの実績を把握することが可能となっ ている。
また,イギリスでは,1999年度決算から発生主義に基づいて5つの決算書が作成されているが,これら のうち,省庁目的・目標別資源計算書(Statement of Resources by Departmental Aims and Objectives) において,各省庁の行政サービスの提供に要したコストが目的及び政策目標ごとに算定されることになっ ている。この計算書における目的及び政策目標は,公的サービス協定(PSA)の目的及び政策目標と一 致しているため,イギリスでは,各政策(Objective)ごとに各省庁が提供した行政サービスの成果とそ の提供に要したコストを把握できる体制が整備されている。 一方,アメリカでは,政策評価は1993年に制定された政府業績結果法(GPRA)に基づいて行われてお り,また,公会計に発生主義を導入した公会計制度改革は1990年に制定された首席財務官法(Chief Financial Officers Act:CFO)に基づいて行われている。このように,アメリカでは,政策評価と公会 計制度改革は,別々の法体系で行われているが,各省庁がCFOに基づいて作成する決算書の一つである 純コスト計算書(Satement of Net Cost)において,各省庁の行政サービスの提供に要したコストが算定 されている。この計算書におけるコストの集計区分は,行政管理予算局の告示(OMB Bulletin No.97-01) により,GPRAに基づいて作成される年次業績計画書の施策区分などにならって,部局別及び主要な施策 ごとに集計されることになっているため,アメリカでは,主要な施策(Program)ごとに各省庁が提供し た行政サービスの成果とその提供に要したコストを把握できる体制が整備されている。 なお,フィンランド及びスウェーデンでは,各省庁はその所管に属するエイジェンシーと締結した業績 契約に基づいて政策評価を行っているが,これらの国々では,エイジェンシーのみならず,本省の会計処 理にも発生主義が導入されているため,各省庁がエイジェンシーを政策実施部門として提供したアウトプ ットの量とその提供に要したコストの実績を把握できる体制が整備されている。 このように,欧米先進国では,政策評価制度と公会計制度の連動により各政策ごとに行政サービスの提供 に要したコストを把握するため,会計処理に発生主義を導入したり,決算書を政策別に編集したりしている。 (3)我が国の対応策 現行の公会計制度は,現金主義に基づいているため合理的なコスト情報を把握できないことから,各府 省が現行制度のまま発生主義に基づいたコストを把握しようとすると,事務量が増大するため政策評価の
対象が量的に限定されることになり,また,発生主義に固有な主観的な判断を第三者が検証する仕組みが ないためコスト情報の信頼性は大幅に低下することになる。行政の効率化により財政の健全化を図るため には,合理的かつ客観的なコスト情報に基づいた政策の改善・見直しが不可欠であることから,現行の公 会計制度を次のように改革することにより,政策評価体系,予算書体系及び決算書体系の一致を図り,各 政策ごとのコストを把握する体制を整備することが考えられる。3) ①各府省において行政サービスの提供に要したコストを決算の段階で把握するため,会計処理に発生主 義を導入する。 ②国会に提出される決算書として,各府省及び一般会計・特別会計ごとに,4.(3)イで記述した発 生主義予算の執行実績に対応する「行政コスト計算書」,現金主義予算の執行実績に対応する「キャ ッシュ・フロー計算書」,財政状態を明らかにする「貸借対照表」を作成する。また,「行政コスト計 算書」については,その内訳として事務事業別決算を作成し,決算参照書の一部とする。さらに,政 策評価実績報告書についても,決算参照書の一部とする。 ③政府全体における各政策ごとの決算額とともに,政府全体の財政状態を把握するため,「行政コスト 計算書」,「キャッシュ・フロー計算書」及び「貸借対照表」については,全ての府省の一般会計と特 別会計を連結する。 ④発生主義に基づいて作成される決算書には,各府省の主観的判断が含まれていることから,その信頼 性を確保するため,会計検査院が監査証明を行う。 6.独立行政法人制度等との連動:独立行政法人等の業績評価とのリンク (1)我が国の課題 各府省の政策は,本省が企画立案し,外局,独立行政法人及び政府出資法人がその目的を達成するため の事務事業を行っている場合が多いことから,各府省が政策評価を実施するに当たっては,これらの独立 行政法人等が行う事務事業を包含した政策評価実施計画を策定することが重要である。一方,独立行政法 人等は,本省の政策目的を達成するための手段として行政サービスを提供していることから,独立行政法 人等が業績評価において業績指標を設定するに当たっては,この目的と手段の関係が明確になるように, 各府省が設定する基本目標・達成目標とリンクさせることが求められる。 ガイドラインでは,職務権限が独立しているものなど独立性の高い外局等にあっては,府省の内部部局 のほかに当該外局等に政策評価を担当する組織を置くことができるとされ,その場合においては,当該外 局等において政策評価を自律的に実施することができるものとするとされているだけで,本省の政策評価 と,政策実施部門である外局,独立行政法人及び政府出資法人の業績評価とのリンクについては,何ら規 定していない。さらに,実績評価では,基本目標をアウトカムベースで設定することになっているため, この基本目標と外局,独立行政法人及び政府出資法人が提供する行政サービス(アウトプット)との関係 が明確にリンクする仕組みにはなっていない。 このように,各府省の政策評価と外局,独立行政法人及び政府出資法人の業績評価をリンクさせること は,本省の政策体系の中で独立行政法人等が果たすべき役割を明確にする上で不可欠であるにもかかわら ず,現行の制度では,両者の評価がリンクする仕組みにはなっていない。 3)公会計制度を改革する場合の課題については,東(2000)P63-P79を参照。
(2)欧米先進国の動向 NPMの理論を公共部門に導入した欧米先進国では,行政部門を政策企画立案部門と政策実施部門に分 離し,政策実施部門に政策実施上の権限を委譲するとともに,この政策実施部門を業績・成果により統制 する行政手法を採用している。 例えば,イギリスでは,1988年のネクスト・ステップスに基づき,中央省庁の行政部門が政策企画立案 部門と政策実施部門に分離され,政策実施部門として新たにエイジェンシー(EA)が設立されている。 EAはそれぞれが属する所管省庁との間で業績契約を締結しており,この中で,各省庁が決定した政策目 的を達成するために当該EAが実施すべき行政サービスを具体化したアウトプットベースの業績目標が設 定されている。日本の独立行政法人と違い,イギリスのEAは中央省庁の一部と位置付けられており, 1998年度末で136機関において国家公務員の75%以上が勤務している。また,EAと同時期に,日本の独立 行政法人に相当する非省庁公共団体(Executive Non-Departmental Public Body:NDPB)が設立されて おり,1999年度末で297機関において11万2900人が勤務している。NDPBはEAと同様に,それぞれの所管 省庁との間で業績契約を締結しており,この中で,各省庁が決定した政策目的を達成するために当該 NDPBが実施すべき行政サービスを具体化したアウトプットベースの業績目標が設定されている。
また,イギリスでは,1999年度予算から各省庁は大蔵省との間で,本省だけではなくEAとNDPBも含 めた当該省庁全体として達成すべきアウトカム業績ターゲット(Outcome Performance Target:OcPT) を定めた公的サービス協定(PSA)を締結しているが,2001年度予算からは,PSAのOcPTを達成するため に実施すべきアウトプット業績ターゲット(Output Performance Target:OpPT)を定めたサービス提 供協定(Service Delivery Agreement:SDA)も締結している。この結果,本省がその所管に属するEA 及びNDPBと業績契約を締結するに当たっては,PSAのOcPTやSDAのOpPTとの関係が明らかになるよ うに,業績目標を設定することとされている。 一方,デンマーク,フィンランド及びスウェーデンに代表される北欧諸国でも,1990年代に入り,政策 実施機能を専担する機関としてエイジェンシーが設立されている。これらの国々のエイジェンシーでは, イギリスと同様に,それぞれが属する所管省庁との間で業績契約が締結され,その中で,各省庁が決定し た政策目的を達成するために当該エイジェンシーが実施すべき行政サービスを具体化したアウトプットベ ースの業績目標が設定されており,その達成度を年次実績報告書で明らかにすることになっている。 なお,イギリス及び北欧諸国以外の国でも,政策実施機能を専担する機関が設立されており,規模,機 能,行政組織上の位置付けなどに相違はあるものの,カナダでは Special Operating Agency,オランダ ではAgency,ニュージーランドではCrown Entityが,それぞれ設立されている。 このように,欧米先進国では,政策実施機能を専担するエイジェンシーなどの機関を設立するとともに, 本省が企画立案した政策目的とリンクした業績目標をエイジェンシーとの業績契約の中で設定することに より,本省の政策目的を達成する上でエイジェンシーが果たすべき役割を明確にしている。 (3)我が国の対応策 独立行政法人は,2001年4月から段階的に設置されており,3年以上5年以下の期間を対象に業務運営 の効率化に関する業績目標などを定めた中期計画を策定したり,また,この中期計画に基づいた当該年度 の業績目標を定めた年度計画を策定し,その実績について所管府省に設置される独立行政法人評価委員会 の評価を受けることになっている。独立行政法人化された機関は,現在のところ,研究所,美術館・博物 館,大学校などが大部分で,イギリスのエイジェンシー(EA)のように本省の政策実施機能を担ってい