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韓国商法(保険編)改正に関する一考察

著者名(日)

李 芝妍

雑誌名

東洋法学

52

1

ページ

45-70

発行年

2008-09-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000648/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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︽論  説︾

韓国商法︵保険編︶改正に関する一考察

はじめに

芝 妊

 韓国では、商法の全面的な改正がここ数年前から行われていて、二〇〇七年八月には海商法の改正が行われた。       ︵1︶ そして、会社法と保険法は政権交代により、新たに立法予告がなされ、現在、法制処で検討中であるので、近日 中、国会に提案される見込みである。そして、商法総則と商行為法については、二〇〇八年二月に改正分課委員会 が構成され、改正作業を進めている。         ︵2︶  商法、特に保険法を一六年ぶりに改正しようとする動きが見られているのは、保険産業の量的成長および保険業 界の変化を現実に反映しようという背景がある。そのため、改正商法は、保険の健全性を確保し、善良なる保険契 約者を保護する内容と保険産業の成長と現実的な変化を反映する内容、障害者と遺族を保護する内容、現行法の不 備点を補完する内容がその中心となっている。改正試案の重要内容は、︵一︶保険詐欺防止規定の新設、傷害保険 45

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝研〕 における飲酒・無免許運転等、免責約款の有効化規定の新設、︵二︶保証・疾病等の新種契約規定の新設、︵三︶保 険代理店と保険設計士の権限規定の新設、︵四︶一部精神障害者の生命保険加入を許容、︵五︶一定範囲の生命保険 金の差押え禁止規定の新設、︵六︶家族に対する保険者の保険代位禁止規定の新設、︵七︶保険者の保険約款の交 付・明示義務違反に対する保険契約者の取消権不行使効果の具体化、︵八︶保険金の分割支給に関する根拠規定の 新設、である。       ︵3︶  なお、日本での保険法改正は、保険会社の不払い問題が社会問題の一つとなったことの影響なのか、約一世紀ぶ りの改正の中身として保険金支払の遅延時、保険者は説明義務を負うこと、契約解除と免責は契約者の犯罪行為が あるときのみ可能としたし、傷害保険の場合、保険事故の立証責任を保険者に負わせること等、保険契約者の利益 を保護する内容となっている。それに比べ、韓国の場合、保険金の不正請求など保険制度の悪用が社会問題となっ ているため、改正法では、保険の善意性と健全性を確保するための努力が見られているが、その結果、保険者によ        ︵4︶       ︵5︶ り有利な内容であるのではないかという批判の声もある。その反面、保険業界では、第一に、自殺免責期間を二年 から三年に延長するよう提案したが受け入れてもらえず、逆に事実上の自殺について保険金を支給するような内容 を取り入れられたこと、第二に、保険契約者が保険証券を受け取ったかどうかを確認するのは困難であることか ら、保険契約者の取消権行使について、証券を受け取ったときではなく契約が成立した日から三ヵ月以内とする内 容を提案したが、受け入れてもらえなかった。そして、保険者が保険約款の説明義務違反をした場合、保険契約者 が保険証券を受け取った日から三ヵ月以内に取り消しできるとし、取消権の行使期間を延長したこと、第三に、保 険代理店と保険設計士の権限規定は保険業法で新設するよう提案したことに対し、商法でこれらの規定を新設した こと、などについて懸念を示している。 46

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 本稿では、韓国商法︵保険編︶の改正試案を紹介し、その主要条文について個別検討することにする。また、日 本でも保険法が単独法律として制定されたという保険法をめぐる大きな動きがあったので、類似する時期における 両国の保険法改正について比較的な検討を行い、その相違点を考察する。 二 商法︵保険編︶改正案の概要  法務部は二〇〇八年四月二五日に法務部公告第二〇〇八−三八号で新たに商法︵保険編︶の一部改正法律案を立 法予告しており、その改正理由を次のように述べている。  保険の健全性を確保し善良なる保険契約者を保護するために、保険詐欺を防止し、飲酒・無免許運転などの免責 約款を認めるための規定などを新設する。そして、保証保険・疾病保険などの新種保険契約及び保険代理店などの 権限に関する規定を新設して保険産業の成長及び変化した現実を反映する一方、一部精神障害者に対する生命保険 の加入を許容、一定範囲の生命保険金の差押え禁止及び家族に対する保険代位禁止規定などを新設することにより 障害者と遺族の保護を図る。また、保険目的の譲渡時において譲渡人などの通知義務違反に対する効果を具体化す るなど現行制度の運営上に現われた一部不十分であった問題点を改善・補完するためのものである。 以下でその具体的な主要内容を紹介する。       ︵6︶  ︵一︶保険契約の最大善意性の明文化  現行法は保険契約の最大善意性に基づく諸規定︵例えば、第六五一条の告知義務違反による契約解除、第六五九 条の保険者の免責事由︶を設けているにもかかわらず、この原則を直接には明文化していなかった。それで、民法 47

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上の大原則である信義誠実原則に相応する概念として保険契約の最大善意の原則を明文規定化した。これにより、 保険契約当事者に対する基本的行為規範として作用し、保険の健全性を確保し、法規定の不備の際は裁判の援用規 範として機能することが期待できる。 48 韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝研〕        ︵7︶  ︵二︶保険者の保険約款の交付・明示義務違反に対する保険契約者の取消権の行使期問の延長  現行法は保険者が保険約款の交付・明示義務を違反した場合、保険契約者は保険契約の成立日から一ヵ月以内に 取消権を行使できるとしているが、その期間が非常に短いため、実際は取消権を行使できないケースがよくある。 そこで、改正法は、保険契約者が保険証券を受け取った日から三ヵ月以内に取消できるように定めて、保険契約者 の取消権行使期問を延長したのである。  ︵三︶保険代理店等の権限についての規定を新設  現行法は保険代理店等、保険者の補助者の権限について具体的に規定していないため、保険契約者が保険代理店 および保険者の補助者に保険料・申込等の意思表示をした場合、それに関連して保険者と保険契約者との間におい て紛争原因の一つとなっていた。そこで、改正法は保険代理店に保険料受領権、保険証券の交付権、申込・解除等 の意思表示の通知権・受領権を与えて、特定の保険者のために保険契約の締結を継続的に媒介する者に対しては保 険料の受領権︵保険者名義の領収書を交付する場合に限る︶と保険証券の交付権を認めて、保険者の補助者として の権限を明確に規定した。

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 ︵四︶告知義務と因果関係のない保険事故における保険者の契約解除権の明確化  現行法は保険契約者等が告知義務を履行しない状態で保険事故が発生した場合、保険者は契約を解除できるとし て保険者の免責を認める規定を設けている。しかし、告知義務違反等と保険事故との間に因果関係が認められない 場合、保険者は免責できないと規定しているのみで、保険者に契約解除権が認められるか否かについて、その解釈 上、トラブルが多発していた。そこで、改正法は、告知義務違反等と保険事故との間における因果関係が認められ ない場合においても、保険者は保険金を現行どおり支給するが、契約は解除できるように明文規定を設けることに した。        ︵8︶  ︵五︶保険詐欺防止規定の新設  保険詐欺は保険料の引き上げおよび重大犯罪の誘発要因の一つとして作用するだけでなく、善良なる保険加入者 を害する行為でもある。しかし、現行法は保険詐欺に関する規定を設けていないため、保険詐欺を効果的に対処で きない状況である。そこで、改正法は、詐欺によって締結された保険契約を無効とし、詐欺を手段とした保険金請 求についても一定の要件を満たした場合に限り、保険者に免責を認める規定を設けている。すなわち、事実を隠す 等の詐欺的方法によって締結される保険契約を無効とし、虚偽で保険金を請求して保険者の保険金支給可否または 算定に重大な影響を及ぼしたときは一ヵ月以内に保険金請求権が喪失される旨を通知することで保険者が免責でき るとしている。また、保障保険は契約が無効となってもその事実を知ったときまでの保険料請求権を要するが、生 命保険等の人的保険の場合、積立された金額は保険契約者に返還するように定めている。  保険契約者等のモラル・リスクを防止することにより、善良なる多数の保険契約者を保護できると期待してい 49

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る。 50 韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕  ︵六︶消滅時効期間の延長  現行法は消滅時効期間を保険金請求権は二年、保険料または積立金の返還請求権は二年、保険料請求権は一年と 定めているが、これは外国立法例に比べ非常に短期間である。そこで、改正法は短期消滅時効による保険者と保険 契約者の不利益を防ぐため、消滅時効期間を保険金請求権は三年、保険料または積立金の返還請求権は三年、保険 料請求権は二年に各々延長することにした。  ︵七︶重復保険の関連規定の整備  現行法は重複保険の要件として﹁保険金総額の保険価額の超過﹂のみを規定しているので、保険金総額の損害額 の超過は重複保険として扱うことはできない。そして、二つ以上の保険契約を締結している事実について通知義務 違反がある場合、その効果が規定されておらず、重複保険の関連規定を実損てん補的傷害保険にも適用できるかの 可否についても解釈上見解が分かれていた。そこで、改正法は重複保険の要件としててん補額の総額が損害額を超 過する場合を含めており、保険契約者等が二つ以上の保険契約を締結している事実を通知すべき義務を違反した場 合、保険者が保険契約を解除できるとし、実損てん補的傷害保険の場合にもその性質に反しない限り、重複保険規 定を準用できるとした。これにより、利得禁止という重複保険の趣旨を維持し法的安定性が図れると期待できる。

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 ︵八︶保険目的の譲渡時における譲渡人等の通知義務違反効果の具体化  現行法は保険目的の譲渡時において譲渡人または譲受人の保険者に対する通知義務は規定しているが、通知義務 を履行しなかった場合の効果については、何も規定していないので、保険者の契約解除権の認定および免責有無に ついて問題が多発している。そこで、改正法は、保険目的が譲渡された場合、譲渡人または譲受人が保険者に譲渡 通知をしなかったときには一定の要件を充せば保険者は免貢されるとし、保険者は保険目的の譲渡事実を知った日 から一ヵ月以内に保険契約を解除できるとした。これにより、保険者と譲渡人または譲受人間の紛争を明確に解決 できると期待している。  ︵九︶損害防止義務違反効果の具体化及び損害防止費用の負担限度額の設定  現行法は保険事故が発生した場合、保険契約者または被保険者の損害防止義務を規定しているが、その違反効果 については何も規定していない。そして、損害防止費用が保険金額を超過する場合、保険者の指示や同意の可否と は関係なく保険者が責任を負うようにしているので、保険金で保険給付の限度を決める保険契約の基本構造とは異 なっているという問題がある。そこで、改正法は、保険契約者や被保険者が故意または重過失で損害防止義務を違 反した場合にはその防止または減らすことができた損害額をてん補額から控除できるようにした。また、損害防止 費用は原則的に保険金の限度で負担するが、保険者の指示や同意による場合のみ、保険金額を超過する費用も負担 することにした。これにより、損害防止義務違反の効果及びこれに関連した保険者の貢任が明らかになって、法的 安全性を向上できると期待している。 51

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕  ︵一〇︶家族に対する保険者の保険代位禁止規定の新設  現行法は、保険者が代位権を行使できる第三者の範囲が制限されておらず、保険契約者または被保険者の家族に 対しても代位権の行事が可能であるため、その貢任が保険契約者または被保険者にも及ぶことにより保険契約が空 洞化される恐れがある。そこで、改正法は、損害を引き起こした第三者が保険契約者または被保険者と生計を共に する家族である場合、その家族の故意による事故の場合を除いて保険者は代位権を行使することができないとし た。  生計を共にする家族に対する代位権の行事を禁止することで被保険者を厚く保護することができると期待され るQ  ︵二︶責任保険における被保険者の事故通知義務違反効果の具体化  現行法は、責任保険の被保険者が保険事故による賠償請求ができるときは、保険者に遅滞なくその通知を発しな ければならないと規定している。しかし、通知をしない場合の効果に関しては何も規定していないため、その解釈 をめぐって見解が分かれている。そこで、改正法は、責任保険の被保険者がその通知を怠ったことにより増加した 損害については保険者が責任を負わないこととし、責任保険の被保険者がすでに商法第六五七条による保険事故発 生の通知をしたときはその通知をしなくても良いことにした。これにより、通知義務の違反時における保険者の貢 任範囲が明確となり、法的安全性の向上が期待できる。 52

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 ︵=一︶保証保険に関する規定を新設  現行法では保証保険に関する規定がないので、保証保険が有する保証及び保険という両面性、保証保険の性質に 関する見解が対立するなど保証保険の法律関係が不明確である。そこで、改正法は保証保険に関する規定を新設 し、保証保険者の責任、保険編の規定の中で保証保険の性質上その適用が不適切な規定は適用を排除し、﹁民法﹂ 上の保証規定を準用するという規定などを設けている。保証保険に関する法律関係をこの法律で直接規定すること によって法的安全性の向上が期待できる。  ︵ニニ︶年金保険に関連する規定の整備および生命保険の保険事故の具体化  生命保険は死亡、生存、生存と死亡を保険事故と定めることができるにもかかわらず、現行法は生死混合保険及 び生存保険の根拠条項として養老保険及び年金保険の規定を別途設けている。そこで、改正法は、保険金の分割支 給は人保険の共通的な特質なので、人保険の通則に保険金分割支給の根拠条項を新設し、生命保険は死亡、生存、 死亡と生存を保険事故と定められるよう、明らかな規定を設けると同時に現行の養老保険及び年金保険条項を削除 した。  ︵一四︶心神耗弱者に対する生命保険加入の許容  現行法は一五歳未満の者、心神喪失者または心神耗弱者の死亡を保険事故とする保険契約は無効であるとし、精 神障害者は障害の程度に関係なく生命保険契約の締結が不可能となっている。そこで、改正法は心神耗弱者の中で 意思能力のある者は生命保険契約の被保険者となることを可能にした。すなわち、コ五歳未満の者、心神喪失者 53

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝好〕 または心神耗弱者の死亡を保険事故とする保険契約は無効とする。ただし、心神耗弱者が保険契約を締結したり、 第七三一条での書面による同意をするとき、意思能力がある場合には無効ではない。﹂と定めている。これによ りき就職して生計を維持したり、補助したりしている心神耗弱者が生命保険契約に加入できるようになることで、 その遺族の生活安定に貢献できることを期待している。  ︵一五︶生命保険における保険者の免責事由の具体化  現行法は、生命保険において被保険者の故意は保険契約者及び保険受取人の故意と同じく保険者の免責事由であ ると規定しているが、これは生命保険の貯蓄的・保障的機能から鑑みると、不合理的でかつ実務上通用している約 款とも一致しないという問題がある。また、二人以上の保険受取人の中で一部が故意で被保険者を死亡させた場 合、他の保険受取人に対する責任問題に関しても規定していない。そこで、被保険者の故意は保険契約者または保 険受取人の故意と異なると評価し、被保険者が自殺した場合にのみ、保険者は免責されるとした。また、二人以上 の保険受取人の中で一部が被保険者を死亡させた場合、保険者はその他の保険受取人に対してはその貢任を負うと 規定した。  生命保険契約の貯蓄的・保障的機能を反映することで保険受取人と遺族の保護を強化し、保険受取人が二人以上 の場合における法律関係を規定することで法的安全性を高めることを期待できる。 54 ︵一六︶他の生命保険契約の告知義務の新設 告知義務の対象に他の生命保険契約の締結事実も含まれるのか否かについて、 その解釈上見解が分かれている。

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そこで、被保険者が他の生命保険契約の存在有無を保険者に予め告知することで保険契約者側の道徳的危険に対処 していく必要があった。したがって、保険契約者や被保険者が保険者から他の生命保険契約の告知を要求されたに もかかわらず故意または重大な過失で不告知または不実のことを告げた場合、保険者は契約を解除できるようにし た。  ︵一七︶一定範囲における生命保険受給権の差押え禁止規定を新設  現行法は、遺族の生活安定という公益的性格が強い生命保険の受給権に対して差押えの制限がないので、生命保 険受給権者である遺族の保護に充分ではない。そこで、改正法は、保険受取人の直系尊卑属または配偶者が死亡す ることで保険受取人が取得する死亡保険金請求権の二分の一に該当する金額に対しては差押えることができないよ うに規定した。これにより、生命保険の社会保障的機能が発揮できるので、遺族の生活安定に役立つのであろう。  ︵一八︶団体保険の要件の明確化  団体保険は他人の生命保険契約にもかかわらず、現在、その他人の書面上の同意規定の適用から排除されてい て、団体が自分を保険受取人と指定した場合、被保険者である団体構成員の同意が必要であるか否かについて解釈 上トラブルが多発している。そこで、改正法は、団体保険で保険契約者が被保険者でない者を保険受取人として指 定する場合、団体の規約に明示的に定めていない限り被保険者の書面による同意を必要とする規定を設けている。  団体保険において団体の構成員である被保険者の同意を受けることで団体の構成員とその遺族の利益を保護する ことができると期待している。 55

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕  ︵一九︶傷害保険の免責事由規定の新設  現行法は、損害保険と違って傷害保険では重過失による事故の場合、保険者が免責されないと規定しており、大 法院は飲酒・無免許運転などに対する保険者の免責約款はこの法律上、不利益変更禁止原則に照らして無効である としているが、これは犯罪行為であると同時に高度の危険性がある飲酒・無免許運転などを助長するだけでなく保 険事故の偶然性を前提とする保険原理にも反するという問題点がある。そこで、改正法は、傷害事故が保険契約者 等の重過失による場合、原則的に保険者は免責されないが、反社会性及び高度の危険性のある行為として大統領令 で定める行為の場合には当事者問の約定によって保険者は免責されるとした。傷害保険で飲酒・無免許運転など免 責条項の効力を認める根拠を明らかにすることで保険契約者のモラル・リスクを防止して保険の健全性を確保でき ると期待している。  ︵二〇︶疾病保険規定新設  現行法は、疾病保険に関する規定を設けておらず、単に解釈と約款によって規律しているので、その法律関係が 不明確である。そこで、改正法は、疾病保険に関する規定を新設し、疾病保険者の責任と準用規定を設ける一方、 高齢・末期癌患者など、改善の余地がない場合を除いて、通常、受けるべき治療を故意に受けない場合は保険者は 免貢されるとして保険者の免貢規定を設けた。疾病保険に関する法律関係をこの法律に直接規定することで法的安 全性の向上が期待できる。 56

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三 商法︵保険編︶の主要内容の検討  ︵一︶保険者の保険約款の交付・明示義務違反に対する保険契約者の取消権行使期問の延長  改正案は保険契約者が保険約款の内容を正確に把握できない状態でも取消期間が進行することになると、保険契 約者は正当に取消権を行使できなくなることを勘案し、保険証券を受け取った日から三ヵ月以内に取消できるよう にその期間を延長したのである。しかし、様々な保険種類に基づく特徴を考慮せず、一括して保険証券を受け取っ た日から三ヵ月以内とすることは、場合によっては悪用の余地もあるのではなかろうか。従って、大韓弁護士協会 が提案した保険契約期間が一年未満の契約は一ヵ月、一年以上は三ヵ月とする保険契約者の取消権行使期問の差別 化は合理的な意見であるだろう。  ︵二︶保険詐欺防止規定の新設   ︵9V  韓国では、近年、保険詐欺による保険金の不正請求が社会問題となっており、金融監督院の調査によると、 二〇〇五年の保険詐欺の摘発件数は二三六〇七件、被害額は一八〇二億ウォンに上っている。また保険詐欺による 保険金漏れは二〇〇四年の基準で約一兆三〇〇〇億ウォンとなっている。このような現状から保険詐欺の防止策が 必要であることについては、特に異見はない。また、ドイツ及びフランス保険契約は既に保険詐欺に関連する明文 規定を設けている。  この改正案に対して、一般契約における詐欺は取消しをするのに対し、保険契約における詐欺を無効とするため には特殊な必要性が要求されるので、無効ではなく取消とするべきであるという大韓弁護士協会の意見がある。こ 57

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕 の点、保険契約は一般契約と異なる特質を有しているのにもかかわらず、一般契約と同じ扱いをする必要も感じら れないので、無効とする改正案は妥当であるだろう。しかし、これにより派生する問題も大きいのではなかろう か。すなわち、改正案は、事実を隠す等の詐欺的方法によって締結した保険契約を無効としているし、保険金請求 時にも過去の病歴を保険者にすべて知らせなければならないので、保険をめぐる紛争と訴訟はまた増加する恐れが あるだろう。  なお、日本の場合、保険の詐欺無効について、約款は詐欺行為を受けた契約当事者の意思表示がなくとも契約は       ︵Lo︶ 当初から成立しなかったものとするとし、民法上、詐欺を取消できることにした内容より厳しくなっている。この       ︵n︶ 点について、保険においては射倖契約性という特質があるので、保険契約者に対してより厳格な対応をすると学説 と判例は説明している。  ︵三︶傷害保険における飲酒・無免許運転等、免責約款の有効化規定の新設  現在、傷害保険では保険事故が保険契約者等の重大な過失によって発生した場合でも保険金を支給するように定 めており、飲酒・無免許運転で事故が発生した場合、本人が被った傷害はてん補しないという約款条項は無効であ ると解釈している。  保険契約者は最大善意であることをその前提とするならば、飲酒・無免許などによって保険事故発生率が高くな ることを認識できるのが当然であるにもかかわらず、後からいかなる理由付けがあってもそれはやはり保護する価       ︵12︶ 値はないのではなかろうか。アメリカ、イギリス、ドイツ、日本などほとんどの国は飲酒・無免許運転等に関する 免責約款の有効性を認めている。 58

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 改正案では、飲酒・無免許など反社会性および高度の危険性がある行為の中、大統領令で定める行為の場合には 保険金を支給しない旨の約款規定を認めることにし、犯罪を助長して善良なる保険契約者を害する行為を防ぐ重要 な措置ではあるが、その内容は十分なものではない。すなわち、大統領令に委任するより保険法で具体的に免責事 由を定めたほうが合理的かつ適切であるだろう。  ︵四︶保証・疾病等の新種契約規定の新設  現行法は、最近、人気を集めている保証保険・疾病保険について、何も規定していない。したがって、約款規定 のみで規律されることになり、その法律関係が不明確であるため、紛争が増加している。実際、二〇〇六年九月、 疾病保険の契約件数は壬二七〇万件で、契約金額は四一二兆億ウォンである。従って、改正案が保証・疾病保険に 関する規定を新設し、その権利・義務、免責等の関連事項を明文化することで紛争解決のカギになるだろう。        ︵13︶  ︵五︶保険代理店と保険設計士の権限規定の新設  現在は、保険代理店と保険設計士の権限に関する規定がないため、契約締結と保険料領収に関連する紛争が多発 している。従って、その権限を明らかにする必要があって、改正案は、保険代理店に申込、解除等の意思表示を通 知・受領する権限︵ただし、締約代理店に限る︶、保険料受領権、保険証券の交付権を認めており、保険設計士に は保険料受領権、保険証券交付権を認めると明文化した。しかし、これらの内容は日本と同じように保険法で定め るより保険業法で扱うべきではなかろうか。  なお、大韓弁護士協会は、保険代理店等の権限規定だけでなく、現在、判例で認められている保険契約の募集に 59

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従事する者に対する約款説明義務︵大法院一九九六・三・八宣告九五叫五三五四六判決︶ きであるという意見を出している。 に関する規定も新設すべ 60 韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝研〕  ︵六︶心神耗弱者の生命保険加入を許容  現在の商法七三二条は自己を保護する能力が完全ではない者を生命保険に加入させ、保険金を狙う犯罪行為を防 止し、本人を保護するために立法されたものであるが、この条項については国家人権委員会が二〇〇五年にその廃 止を求めた以来、医師協会と一部の市民団体もその廃止を求めていた。また、実際、この条文によって、比較的軽 い精神障害をもつ心神耗弱者の権利が必要以上に制限されるという問題もあった。たとえば、心神耗弱者が扶養す べき家族がいる場合、その家族のために死亡保険に加入しようと思っても保険加入ができないからである。   ︵1 4︶  外国の場合、ドイツは代理人ではなく精神障害人が自ら加入する場合、保険加入を許容しており、フランスは 二一歳未満者と重症障害者に対してのみ保険加入を禁止している。これらの背景から本改正案でその存続と廃止が 議論され、結局、心神耗弱者の場合、保険契約時に意思能力を有していれば保険に加入できるようになった。心神 耗弱者は経済活動ができるし、その場合、遺族は心神耗弱者の死亡と因果関係があるため、心神耗弱者が意思能力        ︵15V を回復した場合には、死亡保険契約を締結できるように決定した理由である。商法第七三二条の実質的な法益は保 険制度を悪用して精神障害人の生命を侵害する危険要因を根本的に断絶することにあり、憲法上の幸福追求権およ び平等権より上位概念である人間の尊厳性および生命権を保護することに繋がることからすると、廃止ではなく比 較的軽い精神障害者に対する保険加入を認める本改正案は妥当で合理的なものであるだろう。

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 ︵七︶一定範囲の生命保険金の差押禁止規定の新設  本来、生命保険の機能は、保険契約者ないしその遺族の生活保障にあり、その意味で生命保険は社会保障制度の 補完的役割を果たしている。しかし、各種の社会保険における受給権︵健康保険法に基づく給付など︶は差押さえ が禁止もしくは制限されているが、民問保険会社の扱う生命保険については、処分・差押えを禁止する規定はな い。それは、生命保険債権も財産法上の権利であり、法律上特別の規定がない限り、他の財産法上の権利と同じく 考えられているからである。したがって、生命保険債権は譲渡・質入れ等の対象となり、また債権者の差押えの対 象となるとしている。  そこで、改正法は、保険受取人の直系尊卑属または配偶者が死亡することで保険受取人が取得する死亡保険金請 求権の二分の一に該当する金額に対しては差押えることはできないとした。しかし、大韓弁護士協会は、この条文       ︵16︶ によって変則的な相続が行われる恐れがあるし、民事執行法第二四五条に規定された差押禁止債権との均衡、他保 険の保険金との公平性の問題があるため、反対するという意見を示した。  生命保険は生活保障の性格が強いだけでなく、健康状態によっては新たな契約を締結できないこともあるため、       ︵17︶ より保険金受取人を強く保護する必要があるだろう。なお、ドイツ、スイス、フランス等の国は一定の範囲におい て生命保険金の差押えを禁止する規定を設けている。  日本の保険法改正でも、保険金受取人・遺族の生活保障を担う生命保険契約等において、一種の介入権制度を設 け、関係者︵保険者および差押債権者・破産債権者一般︶の利害を調整しつつ、生活保障という保険の機能をより       ︵18︶ 実効あらしめることにした。  韓国の場合、端的に死亡保険金に対する差押えを禁止する規定を設けている点で日本の改正保険法と違いがあ 61

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る。 62 韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕  ︵八︶家族に対する保険者の保険代位禁止規定の新設  現在、保険者が保険金を支給した後、保険事故の原因を提供した人に対してその金額の賠償を要求できる権利、 すなわち保険代位権の範囲を制限していないので、保険契約者または被保険者の家族に対しても保険代位権を行使 できるようになっている。たとえば、火災保険に加入している父の所有する住宅が息子の過失によって火災となっ た場合、父は保険者から火災保険金を受け取ることになるが、保険者は火災発生の過失がある息子に代位権を行使 することになるため、結局、火災保険に加入した実益はないことになる。従って、改正法では、生計を共にする家 族に対する保険代位権の行使を禁止することで、より被保険者を強く保護できるようにしたのである。これによ り、損害を生じさせた第三者が保険金を受け取るべき者と生計を共にする家族である場合、その家族の故意による 事故を除き、代位権の行使はできなくなる。この条文について、大韓弁護士協会は、﹁生計を共にする家族﹂とい        ︵刃︶ う概念が不明確であるので、民法第七七九条︵家族の範囲︶を準用するのが合理的であるとしたが、戸主制度の廃 止とその解釈をめぐって議論されている内容を基準とするのは適切なものではないであろう。  なお、ドイツ保険契約法は保険契約者の賠償請求権が保険契約者と家計を共にする家族である場合、その保険代 位権を排除している。そして、日本の改正法では、請求権代位に関する商法六六二条の規定を維持した上で、従来       ︵20︶ 解釈に委ねられてきた一部保険の場合における請求権代位の範囲について明文の規定を新設している。

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 ︵九︶重複保険に関連する規定の整備  保険契約者が重複保険契約を締結しているにもかかわらず保険者にその事実を告げなかった場合、保険者は商法 六五二条または第六五三条の違反を理由として保険契約を解除できるか否かについて議論が続いていた。これにつ いて、従来の判例は、通知義務を規定した趣旨は事前に保険契約における詐欺を防止し、事後的には各保険者が損 害調査および責任範囲の決定を共同でできるようにするためであるので、商法第六五二条または第六五三条による       ︵21︶ 解除権を認めるのは困難であるとしていた。また、保険契約者が重複保険契約の締結を通知しなかった事実のみで        ︵22︶ 保険契約者に故意があったと判断することはできないとした。今回の改正は、重複保険の要件としててん補額の総 額が損害額を超過する場合を含めており、保険契約者等が二人以上の保険契約が締結された事実を通知すべき義務 を違反した場合、保険者は保険契約を解除できると規定して、保険契約者の通知義務違反の判断基準とその義務を 怠った場合における効果を明確にしている。  これについて、大韓弁護士協会は、保険契約の販売方式、締結形態などにおいて過去と比べ非常に多様・迅速化 している現在では、保険契約に関する専門的知識がない保険契約者は自ら十分な認識をしないまま保険に契約して いる場合が多い反面、保険者は保険契約者等の同意を得て金融監督院、各種保険協会等からの金融情報で保険契約 者の重複保険加入有無を確認できるので、保険契約者または被保険者の利益を弱化する恐れがあることから反対の 意見を示している。しかし、保険契約者が自ら加入している保険契約を把握していなかったことについては、あく まで自己貢任であり、保険についての専門知識の格差を理由とすべき条項ではないのに、なぜそこまで保護する必 要があるのか理解しがたいところである。また、保険者に対して重複保険の有無まで調査させる根拠は何か疑問で ある。 63

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕  日本の場合、損害保険契約や傷害保険契約の約款で、保険契約締結の際に他の同種の保険契約に締結している場 合には、それを告知すること、保険契約締結後に際しては、既契約を締結している保険者に対して、他保険契約の        ︵23︶ 加入を通知する義務を保険契約者または被保険者に対して負わせている。そして、保険契約者等が故意または重過 失によって他保険契約の告知または通知義務を違反した場合、約款規定の文言に従い無制限に保険者の契約解除が 認められるわけではなく、保険者が他保険契約の事実を知っていたならば重ねて保険契約を締結しなかった、また       ︵24︶ は保険契約の継続を望まなかった場合に限定して保険契約の解除を認めるべきであると解されている。  ︵︸○︶損害防止義務違反効果の具体化および損害防止費用の負担限度額の設定  損害保険契約において、保険契約者と被保険者は損害防止に努める義務を負うという損害防止義務は一般原則化       ︵25︶ されており、商法にも規定されている︵現行商法第六八○条︶。しかし、損害防止義務違反の効果と損害防止費用 のてん補をめぐる問題が多発するので、改正法でその内容を明確にしたのである。  改正案について、大韓弁護士協会は、損害防止義務の履行のために必要・有益である費用を保険者が保険金の限 度内でのみ負担するように規定するのは、保険契約者に不利な内容であるので、反対する意見を示している。 この点について、日本の約款規定は、損害防止費用を制限的に保険者が負担するもの、てん補額と合算して保険金 額を限度とするもの、費用に制限を設けずに保険者が負担するもの、そして、保険者が全く負担しないとするもの       ︵26︶ に分かれている。これらの約款規定については、損害てん補義務をどこまで認めるかは契約自由の問題であり不当 視すべきではないとし、損害防止費用のてん補をする場合としない場合とでは損害防止義務の内容に自ら差が生じ        ︵27︶ るのではないかという見解がある。保険契約における契約自由の原則と保険契約の構造的な問題を考慮すると、改 64

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東洋法学第52巻第1号(2008年9月) 正案は妥当な内容であるだろう。  なお、日本においても、商法六六〇条で損害防止義務を定めているが、その対象は被保険者のみであるため、他 人のためにする損害保険契約︵だとえば、倉庫業者や運送業者等︶のように被保険者より安価で損害を防止できる 地位にある保険契約者に対しては損害防止義務を課すのが合理的であるので、改正法では保険契約者にも損害防止 義務を課すことにした。また、改正法では、損害防止義務は保険事故の発生を前提とする義務であることを定めた        ︵28︶ 上、﹁防止ヲカムルコトを要ス﹂という表現を﹁防止しなければならない﹂と改めている。しかし、韓国の改正法 と違って、損害防止義務を違反したときの効果は明らかにしていない。  ︵二︶保険目的の譲渡時における譲渡人等の通知義務違反効果の具体化  改正案第六七九条二項では、譲渡人または譲受人が譲渡の通知をしなかった状態で、譲渡日から一ヵ月を経過し て保険事故が発生し、保険者が第一項の承継をしなかったとする事情が認められる場合には、保険者は免責される と規定している。これについて、大韓弁護士協会は、﹁保険者が第一項の承継をしなかったとする事情が認められ る場合﹂を﹁保険者にとって第一項の承継により顕著な危険の変更または増加があり得る場合﹂と修正するべきで あると提案した。その理由は、悪意の譲渡・譲受行為を防止すると同時に善意の譲渡・譲受人を保護するために は、譲渡による顕著な危険の変更または増加有無を保険契約の解除事由とした判例︵大法院一九九六・七・二六宣 告九五叫五二五〇五求償金︶の精神を維持すべきであるからとした。この点、いかなる理由から善意の譲渡・譲受 人を保護する必要があるのか理解できないところである。  保険目的の譲渡は契約における非常に重要な内容であるので、契約者の一方である保険者が知るべき内容である 65

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕 のは言うまでもないことであろう。大韓弁護士協会の提案によると、目的譲渡時における善意・悪意を問わなけれ ばならないので、その立証などが困難な場合が多いので、また新たな紛争を増加してしまう可能性があるだろう。 従って、改正案の内容は妥当であると思われる。        ︵29︶  ︵一二︶団体保険の要件を明確化  改正案第七三五条の三は、第一項の保険契約の場合、保険契約者が被保険者ではない者を保険受取人として指定 するときは、団体の規約に明示的な定めがない限りその被保険者の同意を得なければならないとする内容をその三 項で新設している。この改正により、団体保険契約が有する福利厚生機能を十分発揮できるようになるか、また、 保険金の目的と使用問題、保険金の従属を争う紛争は軽減されるかについて、今後も、また注目していきたい。    四 おわりに  今回の商法︵保険編︶の改正案は、現行制度が不十分だった点を詳細に検討し、具体的な法案を作ろうとした面 で、全体的に評価できるものであるだろう。しかし、この改正によって、現在、溢れている保険紛争が減少するか については疑問がある。  韓国金融監督院の調査によると、保険をめぐる苦情は二〇〇〇年に九二九四件だったものが、二〇〇五年には約 二万件に増加し、二〇〇六年には二七〇〇〇件で六年前に比べると二倍以上増加おり、具体的な苦情内容は保険設 計士の約款説明不足と保険金の支払拒否などである。保険をめぐる訴訟件数は約一万件、訴訟金額は一兆三八○○ 億以上で、日々増加している様子が見られている。特に改正案で一番インパックとが強かったのはやはり保険詐欺 66

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を防止するという名目下で作られた保険詐欺無効条項ではなかろうか。実際、社会問題の一つとなっている保険詐 欺については、立法的な規制が必要ではあるが、詐欺行為の判断基準︵特に、隠す行為︶をめぐって、保険紛争は 増加するのではなかろうか。  詐欺による不正請求が社会問題となっている反面、不正請求を懸念して正当な保険請求者も詐欺行為者として疑 われている実態があり、特に、生命保険における既往症などと関連してその紛争が多発している。これは、非常に 難しい問題であり、本改正案が立法されることにより、保険をめぐる紛争がどう変化していくのかは興味深い点で あるので、これについて、今後、具体的な研究を行う予定である。  日本と比べ、韓国の改正案は、保険業法で定めるべきではないかと思われる保険実務に関する詳細な内容まで含 まれているので、今後その動きに注目すべきである。 ︵1︶具体的な内容は、李芝妊﹁韓国における二〇〇六年会社法︵商法︶改正試案について﹂上智法学論集第五〇巻三号、九三∼  一二一頁を参照。なお、二〇〇八年五月七日、法務部公告第二〇〇八ー四七号で商法︵会社編︶一部改正法律︵案︶が立法予告さ  れたが、二〇〇七年一〇月に立法予告した内容と同様の内容ではあるが、二重代表訴訟制度を除外したのが主な特徴である。 ︵2︶韓国では、二〇〇七年八月一〇日、法務部公告第二〇〇七i九〇号で商法︵保険編︶一部改正法律︵案︶を立法予告したが、 政権交代によって、二〇〇八年四月二五日に法務部公告第二〇〇八−三八号として新たに立法予告した。現在は、法制処で審議中  であって、七月初旬、国会に提出する予定である。 ︵3︶平成二〇年五月三〇日、﹁保険法案﹂および﹁保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案﹂が法律として成立し、同年 六月六日に平成二〇年法律第五六号および第五七号として公布された。このうち保険法は、商法から独立した単行法となっている。 ︵4︶改正商法︵保険編︶について、保険消費者連盟︵KICF︶、大韓弁護士協会等が様々な意見を出している。 67

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕 ︵5︶保険開発院の発表によると、生命保険加入者の中、自殺者の数は二〇〇〇年に一七四五名から二〇〇三年に二〇九〇名、  二〇〇四年に二一四二名、二〇〇五年に二二九四名と毎年、増加している状況である。これにより、韓国の生命保険会社の五社  は、二〇〇五年に自殺した加入者の遺族に支給した死亡保険金は五七四億ウォンで前年度より一八・四%増加しているとした。 ︵6︶改正案第六三八条︵保険契約の意義及び最大善意の原則︶二項﹁保険契約当事者は保険契約の締結および権利の行使と義務の 履行を最大善意の原則に従って行う。﹂ ︵7︶改正試案六三八条の三︵保険約款の交付・説明義務︶二項で﹁保険契約を取消しない場合、保険契約関係はその保険約款の規  定に従う﹂という内容を新設。 ︵8︶改正案第六五五条の二︵詐欺による契約︶①保険契約が保険契約者の詐欺によって締結されたときはその契約を無効とする。 ②第一項の場合、保険者はその事実を知ったときまでの保険料を請求できる。ただし、人保険の場合、保険受益者のために積立て  た金額は保険契約者に支給しなければならない。   改正案第六五七条の二︵詐欺による保険金額の請求︶①保険契約者、被保険者、保険受益者または保険金額の請求権を有する第  三者が保険金額を請求した場合、詐欺の目的で次の各号に該当する行為をして、保険金額の支給可否またはその算定に重大な影響  を及ぼしたとき、保険者はその事実を知った時から一ヵ月内に保険金額の請求権が喪失される旨を通知することで保険金額の支給  責任から免れることになる。   1.損害の通知または保険金額の請求に関する書面または証拠を偽造・変造する行為   2.第一号の書面に虚偽の事実を記載する行為   3.その他、保険金額の支給可否またはその算定に重大な影響を及ぼす事項を虚偽で知らせたり、隠す行為 ②第一項の場合、保険者が既に保険金を支給した場合はその返還を請求できる。 ︵9︶具体的な内容は、李芝妖﹁韓国における保険詐欺防止に向けた取組み﹂NBL八五六号三五∼四二頁を参照。 ︵10︶民法九六条一項詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができる。 ︵n︶山下友信﹃保険法﹄︵有斐閣、二〇〇五年︶二二四頁、中西正明﹁告知義務違反と錯誤及び詐欺﹂﹃保険契約の告知義務﹄︵有斐 68

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閣、二〇〇三年︶一六〇頁、洲崎博史﹁人保険における累積原則とその制限に関する一考察﹂論叢一四〇巻五11六号、二四七頁参  照。 ︵12︶日本の場合、現行自動車保険約款は自損事故保険、搭乗者傷害保険、無保険者傷害保険、車両保険、人身傷害保険のいずれも ﹁酒に酔って正常な運転ができないおそれのある状態﹂で自動車を運転した事故を免責としている。飲酒運転は公序良俗に反し、 かつ事故発生の危険を増大することになるので、被保険者の自らが惹起した保険事故についてまで保護する必要はないであろう。 ︵13︶日本での生命保険外務員、保険募集人と同様である。 ︵14︶日本の場合、無能力者に対する特別の制限規定はないが、他人の死亡を保険事故とする生命保険契約の場合は他人の同意を要 するとしている︵商法六七四条一項︶。この場合、実務上、意思能力を有する精神障害者は本人が同意した後、法定代理人が同意 するか、被保険者が意思能力がない場合には法定代理人が同意するのが一般的である。 ︵15︶貿且8鑛困日﹁商法第七三二条改正案に対する検討﹂保険学会誌第七八輯、一六五∼一九五頁︵二〇〇七年一二月︶参照。 ︵16︶韓国民事執行法第二四五条︵差押禁止債権︶ 次の各号の債券を差押えることはできない。   1.法令に規定された扶養料及び遺族扶助料   2.債務者が救護事業や第三者の助けによって受ける収入   3.兵士の給料   4.給料・年金・俸給・賞与金・退職金・退職年金、その他これに類似する性質を有する給与債権の二分の一に該当する金額 ︵17︶ドイツでは、保険金受取人が差押債権者または破産管財人に対して解約返戻金相当額を支払った場合、保険契約者の地位を承 継するという介入権制度を設けている。 ︵18︶沖野眞巳﹁保険関係者の破産、保険金給付の履行﹂商事法務一八〇三号二七頁。 ︵19︶民法第七七九条︵家族の範囲︶戸主の配偶者、血族とその配偶者その他、本法の規定によってその家に入籍した者は家族にな  る。 69

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韓国商法(保険編)改正に関する一考察〔李 芝妊〕 ︵20︶野村修也﹁損害保険契約に特有な規律﹂一八○八号、四四頁以下を参照。日本でも、損害保険契約法改正試案六六二条四項  で、﹁第三者が被保険者の同居の家族その他被保険者と生計を共にする者である場合には、保険者は、⋮⋮取得した権利を行使す  ることができない﹂と提案していたが、今回の改正案では同様の内容を取り入れなかった。 ︵21︶大法院二〇〇三・一一二三宣告二〇〇一叫四九六三〇判決 ︵22︶大法院二〇〇〇・一・二八宣告九九叫五〇七一二判決 ︵23︶石山卓磨﹃現代保険法﹄︵成文堂、二〇〇五年︶六三頁。 ︵24︶江頭憲治郎﹃商取引法︵第四版︶﹄︵弘文堂、二〇〇五年︶四〇〇頁。 ︵25︶商法第六八○条︵損害防止義務︶①保険契約者と被保険者は損害の防止と軽減のために努力しなければならない。しかし、こ  のために必要または有益であった費用とてん補額が保険金額を超過した場合においても保険者はこれを負担する。 ︵26︶石山・前掲注︵23︶一〇六頁。 ︵27︶山下・前掲注︵11︶四一二∼四一五頁参照。 ︵28︶沖野・前掲注︵18︶三三頁参照。 ︵29︶李芝妊﹁団体保険契約に関する一考察﹂上智法学論集五〇巻四号、一二五∼一四四頁参照。 い じよん・法学部講師1 70

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