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スペイン国際養子縁組法における養子保護の展開 利用統計を見る

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スペイン国際養子縁組法における養子保護の展開

著者名(日)

笠原 俊宏

雑誌名

東洋法学

54

3

ページ

247-285

発行年

2011-03-29

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000808/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止

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  目   次 一   緒言 二   二〇〇七年国際養子縁組法成立前における展開   ( 1)   一九七四年改正民法典中の国際私法規定   ( 2)   一九八七年一一月一一日法律第二一号   ( 3)   一九九六年一月一五日基本法第一号 三   二〇〇七年国際養子縁組法の概容   ( 1)   改正直前の実務上の取扱い   ( 2)   二〇〇七年国際養子縁組法の目的及び規則   ( 3)   改正の問題点 四   若干の考察   ( 1)   スペイン法の位置付け   ( 2)   若干の比較立法   ( 3)   総括的考察 五   結語 (参考資料)   スペイン国際養子縁組法(二〇〇七年一二月二八日法律第五四号) 《 研究ノート 》

スペイン国際養子縁組法における養子保護の展開

 

  

 

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一   緒言   諸国における国際私法の改革が強力に推進される中にあって、スペイン国際私法規定は、一八八一年から現在に 至るまでの長い年月に亘る種々の法令中に散在しており、形式的にも、また、時間的にも漫然として、全体的な整 備が必要な状況が続いていた。離婚制度の導入や憲法改正を契機として、その改革に着手され、今般、また、スペ イン国際私法としては最初の特別立法となる国際養子縁組法 (二〇〇七年一二月二八日法律第五四号、 以下、 「二〇〇七 年法」とする) が成立した ( Santiago Álvarez González, The new international adoption system in Spain, Yearbook of pri -va te in ter na tio na l l aw 2 00 8, p.4 09 .; C hr ist op h B en ick e, D ie N eu re ge lu ng d es in te rn ati on ale n A do pt ion sr ec ht s in S pa nie n, Praxis des Internationalen Privat- und Verfahlensrechts 2010, S.473. ) 。 過 去 三 〇 年 間 に お け る ス ペ イ ン 国 際 私 法 の 法 源 は、 そ の 殆 ど が 一 九 七 四 年 の 民 法 典 中 の 国 際 私 法 規 定 に 部 分 的 な 修 正 を 加 え た に 過 ぎ な い も の で あ る が (拙 稿「外 国 国 際 私 法 立 法 に 関 す る 研 究 ノ ー ト ⑼ ―― ス ペ イ ン 民 法 典 中 の 国 際 私 法 規 定 の 改 正 ――」 大 際 国 際 大 学 紀 要 国 際 研 究 論 叢 一 四 巻 二 号 四 七 頁 以 下、 拙 稿「ス ペ イ ン 国 際 離 婚 法 に お け る 離 婚 保 護 の 展 開」 東 洋 法 学 五 三 巻 二 号 二 一 九 頁 以 下) 、 こ の 間、 一 九 七 八 年 の 憲 法 が 国 際 私 法 判 例 に も 影 響 を 及 ぼ す と と も に、 一 九 八 〇 年 代 に は、 多 く の 国 際 条 約 が 置 換 さ れ、また、一九八六年には、スペインは欧州共同体へ加入する等、それを取り巻く状況が変化している。しかし、 抜本的な改革はなされておらず、スペイン国際私法の体系は徹底した整備を必要としているが、二〇〇七年法を見 る限り、立法者が今後も根本的な改革よりも部分的な現代化を選択しようとしていることの証しであると推察する ことも不可能ではない (

Álvarez González, op. cit., p410.; Benicke, a. a. O., S.474.

 

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構成されており、比較法的に見て、国際養子縁組に関する最も広範な規則を有する単独立法であると見られるが、 それに対する評価は、スペイン国内においても賛否両論に分かれており、問題点が少なくないことも指摘されてい る ( Álvarez González, op. cit., p.410 et seq.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。この小稿においては、二〇〇七年法に定められ た規定の内容、及び、それらの規定に関連する問題点に言及することにより、スペイン国際私法立法の動向を知る とともに、同法と他の国々の近時の国際養子縁組法とを比較することにより、国際養子縁組のための立法のあり方 について、若干の考察を試みることとしたい。 二   二〇〇七年国際養子縁組法成立前における展開 ( 1 )  一九七四年改正民法典中の国際私法規定   国際養子縁組に関する国際的管轄規則及び準拠法選定規則を定めるスペイン国際私法立法として、先ず、最初に 挙げられるべき立法は、 一九八九年のスペイン民法典 (一九七四年五月三一日命令第一八三六号、 同年七月二九日施行) の「法規、その適用及び効力に関する序章」の改正の際に追加された第四節第九条第五項であるが、同項は、次の ように定めていた。すなわち、 「第九条第五項 (改正前) ⑴   養子縁組は、その効力及び養子をする能力につき、養親の法律に依る。 ⑵   夫婦による養子縁組において、共通本国法がないときは、養子縁組の当時における夫の本国法に依る。 ⑶   養子の属人法は、その者の能力、承諾及び代理ないし補完の方法に関し、遵守されなければならない。 ⑷   養子縁組の成立については、養親の国籍所属国の官庁が管轄権を有する。また、夫婦によって行なわれる養子

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縁組については、その共通国籍所属国の官庁が管轄権を有する。これがないときは、養親が常居所を有するか、 又は、養親夫婦がその共通常居所を有する国の官庁が管轄権を有する。 ⑸   行為の方式は、第一一条第三項において規定されたところを除き、養子縁組が行なわれる地の法律に依らなけ れ ば な ら な い。 」 (本 項 の 邦 訳 は、 拙 稿「ス ペ イ ン 民 法 典 中 の 国 際 私 法 規 定(一 九 七 四 年) 」 法 学 新 報 八 四 巻 七 ・ 八 ・ 九 合 併 号 二 三 七 頁 に よ る。 尚、 右 第 一 一 条 第 三 項 は、 「外 国 に 在 る ス ペ イ ン の 外 交 官 又 は 領 事 に よ っ て 公 証 さ れ た 契 約、 遺 言 及びその他の法律行為については、スペイン法が適用される。 」と定める規定である) 。   右の規定は、双方的抵触規則の形式の下に、人の身分事項の管轄権及び準拠法の双方への国籍主義の採用の規則 を確立し、それとして、養親の本国法及び養親の本国の官庁の管轄権に依拠することを定めるものであり、その規 則 に お い て、 養 子 の 本 国 法 と か、 ス ペ イ ン 法 秩 序 に 特 有 な 地 域 法 ( derechos forales ) に つ い て、 重 要 性 は 認 め ら れ ていない。管轄権に関しては、一九六五年一一月一五日の「養子縁組に関する管轄権、準拠法及び法規の承認に関 するハーグ条約」に倣ったものである ( Álvarez González, op. cit., p.412 et seq.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。尚、本国法 の 優 先 の 前 に、 常 居 所 地 の 官 庁 の 管 轄 権 は、 本 国 法 が な い と き に の み 認 め ら れ る も の と さ れ て い た ( Álvarez González, op. cit., p.412.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。これらの規則は、登録及び公証局 ( Dirección General de los Registros y del Notariado ) や、 民 事 身 分 事 項 に 関 与 す る 行 政 機 関 に 対 し て、 あ る 程 度 の 影 響 を 与 え た が、 間 も な く、 妻 に 対 する夫の本国法ないし官庁の優先という明らかな差別の存在や、国際的管轄規則の双方的性質に対する批判を招く 結果となり、更に、養子縁組の効果に関する養親の法の優先もまた、改正以前からの旧態依然とした内容を有する 法規であった ( Álvarez González, op. cit., p.412.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。しかしながら、一九八七年一一月一一日法 律第一一号により、上記の状況から脱却した後においても、スペイン人養親によって外国において行なわれた養子

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縁組につき、一九七四年改正民法典中の規定の立場が支配していたことが、ペルーにおける養子縁組の承認を拒否 した一九九三年六月九日の登録及び公証局決定において見られた他、更には、アルゼンチンにおける養子縁組の承 認を拒否した二〇〇四年一二月一日の同決定においても見られて、今日に至っているというのが実情であり、それ に対しては、元来の裁判所の管轄権の所管が支配すべきとする原則からは、批判されるべきものであると指摘され ている (

Álvarez González, op. cit., p.412 et seq.; Benicke, a. a. O., S

.474. ) 。 ( 2 )  一九八七年一一月一一日法律第二一号   前世紀において、スペイン法制度が最も重要な変化を経験したのは、一九七四年から一九八七年までの期間であ る。蓋し、一九七八年憲法を基盤とする独裁政治から民主主義への変遷が、家族の概念その自体を変容させ、主要 な立法的改革を必要としたからである。養子縁組に関する国際的管轄規則が変更されたのは一九八五年である。す な わ ち、 裁 判 法 が、 「養 子 縁 組 の 創 設」 に つ き、 養 親 又 は 養 子 が ス ペ イ ン 人 で あ る か、 又 は、 ス ペ イ ン に 居 住 し て い る と き、 ス ペ イ ン 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 す る こ と を 定 め る に 至 り、 そ の 二 年 後、 「国 際 私 法 に お け る 養 子 縁 組 及 び その保護に関する一九八七年一一月一一日法律第二一号」により、民法典第九条第五項も、次に掲げるように改正 された。すなわち、 「第九条第五項 (改正後) ⑴   スペイン裁判官によって創設された養子縁組は、要件につき、スペイン法上の規定に依る。但し、次に掲げる ときは、養子の能力及び必要な同意につき、その者の本国法が遵守されなければならない。   一   養子がスペイン国外にその常居所を有するとき   二   養子がスペインに居住するときであっても、その者が養子縁組によってスペイン国籍を取得しないとき

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⑵   養親又は検察官の請求に対して、裁判官は、養子の利益のため、更に、養親又は養子の本国法又は常居所地法 によって求められている同意、聴聞又は許可を要求することができる。 ⑶   養子縁組の創設のため、スペイン領事は、養親がスペイン人であり、かつ、養子が領事の管轄区域に定住して いるとき、常に、裁判官と同一の権限を有する。事前提案はスペインにおける養親の最後の居所地の然るべき公 的機関によって作成される。養親がかつてスペインに居所を有したことがないとき、事前提案は必要ないが、領 事は、養親の適正を評価するため、その者の居所地の官憲から充分な情報を入手する。 ⑷   外国の権限を有する官憲によって創設される養子縁組の場合には、養親の法が能力及び必要な同意について規 律する。同法によって要求されている同意は、創設が着手される国の官憲の面前か、又は、事後においては、他 のいずれかの権限を有する官憲の面前において行なわれる。この場合において、スペイン人を養子にするために は、 ス ペ イ ン に お け る 養 子 の 最 後 の 居 所 の 然 る べ き 公 的 機 関 の 承 諾 が 必 要 で あ る。 」 (一 九 九 〇 年 一 〇 月 一 五 日 法 律 第 一 一 号 に よ る 語 句 修 正 後 の 同 項 の 邦 訳 は、 拙 著『国 際 家 族 法 要 説(新 訂 補 正 版) 』(高 文 堂 出 版 社、 平 成 一 六 年) 二 五 二 頁以下による) 。   右の規定は、双方的抵触規則の形式、すなわち、抵触法的アプローチから、権限を有するスペイン裁判官がスペ イン法を適用するという裁判上の形式、 すなわち、 管轄権的アプローチへと移行したことを表すものである ( Álva

-rez González, op. cit., p.413.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。また、この一九八七年改正規定は、領事による養子縁組、及び、 外国官庁によって創設された養子縁組の承認についても規律するに至った。前述のようなスペイン官庁の実務から 見れば、スペイン法の適用は、一九七四年民法典第九条第五項に由来する法廷地と準拠法との関係に従う法規であ る と い う こ と と な る が、 そ れ で も、 改 正 法 が 重 要 な 変 更 を も た ら し た こ と は 否 定 で き な い ( Álvarez González, op.

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cit., p.413.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。 当 該 改 正 の 特 徴 と し て 指 摘 さ れ て い る の は、 次 の よ う な 四 つ の 点 で あ る。 す な わち、第一に、養子縁組を、裁判官ないし裁判所が構成部分となる任意的裁判権によって形成される行為として、 位置付けていること、第二に、スペイン官庁による国際養子縁組の管掌に寄与していること、第三に、養子縁組を 未成年者の保護方法として顧慮していること、そして、第四に、子の利益を他の全ての者よりも優先していること がそれらである ( Álvarez González, op. cit., p.413.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。一九八七年改正法は、準拠法の決定にお い て、 養 子 縁 組 の 公 的 (国 家 の) 管 理 及 び そ の 国 際 的 有 効 性 と い う 二 つ の 基 本 的 な 利 益 の 顧 慮 の も と に、 ス ペ イ ン 法 と、 結 果 と し て、 子 の 本 国 法 と の 択 一 的 連 結 か、 養 親 の 本 国 法 と 子 の 本 国 法 と の 累 積 的 連 結 の 規 則 に よ っ て い た。それらの利益については、二〇〇七年法との関連において改めて言及されるところであるが、同様に養子縁組 の国際的有効性を保障するため、幾つかの法律の適用を目論む規則をもって、継続して支持されている。しかし、 子の本国法、又は、養子縁組の有効性を保障するため、養親若しくは養子の国籍若しくは常居所の暫定的適用及び 条 件 的 適 用 の 立 場 に つ い て は、 学 説 上、 必 ず し も 全 面 的 に 支 持 さ れ て い た わ け で は な い ( Álvarez González, op. cit., p.413 et seq.; Benicke, a. a. O., S.474. 因みに、批判的な見解として、 J. D. González Campos, Derecho internacional privado, Parte especial, vol. Ⅱ , 1988, p.220. が あ る) 。 ま た、 領 事 に よ る 特 別 な 養 子 縁 組 も、 多 く の ス ペ イ ン 学 説 に よ っ て 批 判 さ れ て い た が ( González Campos, op. cit, p.222.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 、 何 よ り も、 一 九 八 七 年 改 正 法 の 最 も 興 味 深 い点としては、漸増する外国養子縁組のスペインにおける効力に関する問題の他、同法の公布の際における誤った 書 き 写 し が あ っ た こ と が 指 摘 さ れ て い る。 す な わ ち、 「外 国 の 権 限 を 有 す る 官 憲 に よ っ て 創 設 さ れ る 養 子 縁 組 の 場 合 に は、 養 親 の 法 が 能 力 及 び 必 要 な 同 意 に つ い て 規 律 す る。 」 と い う 規 定 に お け る「養 親 の 法」 と い う 誤 っ た 文 言 は、 漸 く、 三 年 後、 「性 別 に よ る 不 差 別 の 原 則 の 適 用 に よ る 民 法 典 の 改 正 に 関 す る 一 九 九 〇 年 一 〇 月 一 五 日 法 律 第

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一 一 号」 に よ り、 本 来 の「養 子 の 法」 と い う 文 言 に 訂 正 さ れ た と い う 経 緯 が あ る ( Álvarez González, op. cit., p.414.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。 ( 3 )  一九九六年一月一五日基本法第一号   二 〇 〇 七 年 法 が 実 施 さ れ る ま で、 一 九 八 七 年 改 正 法 (一 九 九 〇 年 改 正 法) は、 別 の 幾 つ か の 変 更 を 経 て い る。 そ れ ら の 中、 最 も 重 要 な 変 更 は、 一 九 九 六 年、 「法 定 未 成 年 者 保 護 法」 (一 九 九 六 年 一 月 一 五 日 基 本 法 第 一 号) に よ っ て 行 な わ れ た。 す な わ ち、 同 法 は、 民 法 典 第 九 条 第 五 項 中 へ、 ス ペ イ ン 人 が 養 親 で あ る 場 合 に お い て、 外 国 官 庁 に よって創設された養子縁組の承認のための特別規定を導入するに至った。当該規定の内容は、外国養子縁組の効果 がスペイン立法によって定められたものでないときは、養子縁組として承認されず、また、スペインに常居所を有 するスペイン人養親による養子縁組は、官庁がそれらの養子縁組の適合性を宣言しない限り、承認されないと定め るものである (

Álvarez González, op. cit., p.414.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。   一九九六年の改正が行なわれたのが、前出ハーグ養子縁組条約がスペインにおいて適用された後であり、国際養 子縁組に関し、法律抵触の規律に加えて、それについて責任を負う官公庁及びその養子縁組の手続の調整を信任さ れた機関の幾つかの機能の面を規律する特別規則が導入された。また、スペイン中央官庁と他の国々の中央官庁と の 情 報 交 換 が、 右 ハ ー グ 条 約 に 定 め ら れ て い る よ う に 調 整 さ れ る べ き こ と が 求 め ら れ た ( Álvarez González, op. cit., p.415.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。   更に、一九九六年改正法に取り消しうる養子縁組に関する新たな項の規定を追加したのが、一九九九年五月一九 日 法 律 第 一 八 号 で あ る。 当 該 規 定 は、 「外 国 法 に よ る 養 子 縁 組 取 消 権 の 属 性 に つ い て は、 前 記 権 利 が 公 的 捺 印 証 書 か、 又 は、 民 事 登 録 係 (出 生、 婚 姻 及 び 死 亡 登 録 係) の 面 前 に お い て 放 棄 さ れ る と き、 そ の 承 認 は 妨 げ ら れ な い も の

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と す る。 」 と 定 め る も の で あ る。 す な わ ち、 完 全 養 子 縁 組 以 外 に も、 ス ペ イ ン 法 に お い て 定 め ら れ た 養 子 縁 組 と は 異なり、養親によって取り消されることができる養子縁組をも、受け入れるべきとするのがその意味するところで ある。それにより、スペインにおいては、多数の養子縁組の承認が可能とされたが、規定上、養子縁組取消権の放 棄がスペインについてのみ有効であるという一方的概念は、未解決のままの理論的問題を生じさせる結果となった ( Álvarez González, op. cit., p.415.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。そして、二〇〇七年法も、一方的取消権放棄の余地を維持 している (第二六条参照) 。   尚、 ス ペ イ ン 法 秩 序 は、 相 続 法 等 に 見 ら れ る よ う に、 部 分 的 に、 共 通 法 ( derecho común ) 及 び 地 域 法 ( derechos forales ) が 併 存 す る と い う 不 統 一 法 国 法 で あ る が (拙 稿・ 前 掲 法 学 新 報 二 三 四 頁 以 下 参 照) 、 そ れ と 呼 応 し て、 一九八七年改正法の実施以後においても、国際養子縁組の登録実務上、中央官庁による共通的な取扱いと個々の自 治 州 ( Comunidades Autónomas ) に よ る 自 律 的 な そ れ と が 必 ず し も 一 致 し て い な い た め、 共 通 立 法 に 基 づ か ず、 未 成年者保護のための自治立法に依拠することから派生する問題の他、それらの自治立法の解釈を巡り、不明瞭で混 乱した問題も存在しているのが現状である ( Álvarez González, op. cit., p.415.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。更に、全ての 自治州が、国際養子縁組における行政的介入を含め、未成年保護に関する裁判権及び独自の規則を有しており、ま た、前出ハーグ条約との取組みの体制においても、各自が中央官庁となっていることから、国際養子縁組について も、個々の州において異なる実務が行なわれている。このような問題についても、二〇〇七年法は解決を試みてい るが、 国家の中央官庁と州のそれとの間のそれぞれの立法権の範囲設定は、 引き続いて困難な情況である ( Álvarez

González, op. cit., p.416.; Benicke, a. a. O., S.474.

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三   二〇〇七年国際養子縁組法の概容 ( 1 )  改正直前の実務上の取扱い   二〇〇七年法のための二〇〇七年二月草案が用意される数ヶ月前、すなわち、二〇〇七年法が可決される一年半 前、外国官庁によって創設された養子縁組のスペイン民事登録簿への登録に関して適用される一般的法制度を明瞭 にするため、二〇〇六年七月一五日の登録及び公証局決定が回付されている。その決定において注目される点は、 二〇〇七年法に先行する立法の解釈に関する諸提案の多くが、同法の内容の一部となっているという事実である。 それによれば、外国養子縁組の有効性は、それがスペイン民事登録簿へ登録されるか否かに拘わらないとしても、 い か に、 登 録 簿 に 関 連 す る 事 項 の み が 新 法 に と っ て 重 要 で あ っ た か が 如 実 に 示 さ れ て い る ( Álvarez González, op. cit., p.418.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。 登 録 及 び 公 証 局 に と っ て、 二 〇 〇 七 年 法 に 先 行 す る 制 度 の 公 式 な 解 釈 を 表 明 す る右決定の主たる狙いについては、前出ハーグ条約又はその他の国際的合意によって影響されない外国官庁による 養子縁組の承認と関連して、次のように述べられている。すなわち、第一に、外国官庁の裁判権の証明とは、養子 縁組とそれが創設されている国の官庁との間に何ら合理的な繋がりがないような場合に対するスペイン国際公序を 条件として、外国制度によって確立された裁判籍に従っていることである。第二に、外国官庁によって適用された 法律の証明とは、養子縁組について要求された養子及び養親になる者の双方の同意、承諾又は聴聞に及んでいるこ とであるが、それは、また、縁組能力及びその禁止にまで及んでおり、外国官庁が当該外国の抵触規則によって指 定された国の法の適用の確保を意図していることである。第三に、養子縁組の方式とは、伝統的な「場所は行為を 支配する」という規則を選択的に他の幾つかの連結とともに認めて、契約の方式及び儀式、遺言、並びに、他の法

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律行為に関する民法典第一一条に定められた一般的な規則に従っていることであり、第四に、スペイン法によって 規律される外国養子縁組と養親との間において要求される相応な効果との関係におけるスペイン養親の場合と外国 養 親 の 場 合 と の 相 違 と は、 ス ペ イ ン 国 民 に 影 響 を 与 え る 外 国 養 子 縁 組 の み が 登 録 さ れ る と す る「登 録 上 の 法 律 抵 触」の存在が正当化されることであり、第五に、スペインの制度においては、単純養子縁組を完全養子縁組へ転換 する方法を置かないことであり、第六に、単純養子縁組は養子縁組として承認もされず、また、民事登録簿へも登 録されないが、かような単純養子縁組の存在、有効性及び効果が、養親の官庁を含めて、子の本国法によって決定 さ れ る (実 質 的 承 認) と き、 単 純 養 子 縁 組 は、 ス ペ イ ン に お け る ス ペ イ ン 実 質 法 に 従 っ た 全 く 新 規 の 完 全 養 子 縁 組 の創設という効果だけを助長するものとして法的分類されること等がそれである (

Álvarez González, op. cit., p.418 et

seq.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。 ( 2 )  二〇〇七年国際養子縁組法の目的及び規則   二〇〇七年法の目的は、第一に、従前のスペイン立法の規則の構成に見られる散漫な性質を終結させることであ り、そして、第二に、養子縁組手続を通じて、恒常的な「未成年者の利益保護」という指針を貫くことである。こ のような「未成年者の利益保護」は、養子縁組の国際的効力との関連において、幾多の事件において同一視される も の で あ り、 解 決 の 国 際 的 調 和 を 正 当 化 さ せ る 新 た な 基 準 と な る も の で あ る ( Álvarez González, op. cit., p.418.; Ben -icke, a. a. O., S.474. ) 。   右の第一の目的についてであるが、前述のように、スペインにおいては、国家の中央政府とは別に、それぞれの 自治州が、例えば、未成年者保護の措置、国際養子縁組の仲介、国際養子縁組協力局の認証、助言及び証明、同局 と養子縁組申請者との間の関係、養親になろうとする者の適格性、養親の縁組後の義務等の未成年者保護に関する

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事 項、 並 び に、 国 際 養 子 縁 組 に 関 す る 様 々 な 行 政 面 に お け る 業 務 を 負 担 し て お り、 そ し て、 そ れ ら に つ い て、 二〇〇七年法よりも詳細かつ正確に規律していると言われている ( Álvarez González, op. cit., p.419 et seq.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。国の立法者は養子縁組事項へ適用される国際条約を改変することはできず、また、その余の立法も殆 ど変更されていない。二〇〇七年法中の国際養子縁組に直接的に関連しない修正は、登録法、民事訴訟法、民法典 中の法文と同様であり、今、なお、外見上の散漫さは残されたままである。更に、二〇〇七年法は、スペイン裁判 官 な い し 裁 判 所 が 養 子 縁 組 を 創 設 す る 国 際 的 管 轄 権 に 関 す る 裁 判 法 か ら も 脱 却 し て い な い ( Álvarez González, op.

cit., p.420.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。   次に、第二の目的、すなわち、養子となる未成年者の利益保護について言えば、二〇〇七年法の内容は一般的で は な く、 複 雑 な 立 法 で あ る と 批 判 さ れ て い る。 例 え ば、 国 際 養 子 縁 組 の 基 礎 と し て 官 庁 間 の 協 力 の 要 請 が あ る こ と、 ま た、 養 子 縁 組 の 創 設、 そ の 修 正 及 び そ の 無 効 の 宣 言 に 関 す る 抵 触 法 の 選 択 が あ る こ と、 養 子 縁 組 契 約 に つ き、一方主義と双方的抵触規則が奇妙に混在していること、子の本国法を通じた単純養子縁組の承認と、外国官庁 の抵触規則及び国際的管轄規則に頼る一方的要件の下における他の養子縁組の承認との間に相違が見られること等 が批判の理由として挙げられている ( Álvarez González, op. cit., p.420.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。しかし、その一方、 二 〇 〇 七 年 法 第 三 条 は、 「未 成 年 者 の 国 際 養 子 縁 組 は、 一 九 八 九 年 一 一 月 二 〇 日 の 子 の 権 利 に 関 す る 条 約、 並 び に、一九九三年五月二九日の国際養子縁組に関する子の保護及び協力に関するハーグ条約によって与えられている 諸原則を尊重するものとする。 」と定め、更に、 「その目的のため、権限を有する公的部局は、非締結国と署名する 国際養子縁組に関する合意において、できる限り、一九九三年五月二九日のハーグ条約上の基準及び保護措置を取 り 入 れ る も の と す る。 」 と 定 め て い る。 こ の よ う な 宣 言 は、 ハ ー グ 国 際 私 法 会 議 の 二 〇 〇 〇 年 一 一 月 な い し 一 二 月

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特別委員会第一一号提案を繰り返した二〇〇五年九月特別委員会提案に同調するものであり、それが、二〇〇七年 法 第 四 条 第 一 項 c 号 に お い て 規 定 さ れ る に 至 っ て い る。 す な わ ち、 「当 該 国 に お い て、 養 子 縁 組 に つ い て 適 切 な 保 障を規定せず、また、養子縁組の実務及び手続が未成年者の利益を尊重しないか、又は、第三条に言及された国際 的 な 倫 理 上 及 び 法 律 上 の 原 則 を 遵 守 し な い と き」 、 国 際 養 子 縁 組 手 続 は で き な い も の と 定 め ら れ て い る ( A. Borrás Rodríguez, La Conferencia de La Haya de Derecho internacional privado ( 2005 ), Anuario Español de Derecho Internacion -al Privado 2005, p.1210 et seq. ) 。   更に、国際的に強い効力を有する養子縁組の創設を通じて、未成年者の利益を保障するという目的との関連にお いて、二〇〇七年法は、官庁の管轄権、準拠法及び外国養子縁組の承認の三つの側面において、それぞれ、次の通 り、解決している。   先ず、養子縁組の国際的管轄基準は従前の立法におけると同様である。すなわち、養親又は養子のいずれか一方 が、スペイン国籍を有するか、又は、スペインに常居所を有するとき、スペイン裁判所ないし官庁には管轄権が認 められる。しかし、この規則は、少なくとも理論的には、スペインとの合理的な繋がりがない養子縁組を許すもの であり、二〇〇七年法に好意的な学説からは、本法はかような繋がりがない場合のための「断絶条項」を有してい ると言われているが、国際的に強い効力を有する養子縁組の創設という目的が達成されない危険性が高い。全くス ペインとの結付きがない場合には、スペイン裁判官は国際養子縁組を創設すべきではないが、二〇〇七年法はかよ うな柔軟性を備えていないと指摘されている (

Álvarez González, op. cit., p.421 et seq.; Benicke, a. a. O., S

.474. ) 。   次に、準拠法については、幾つかの準拠法の強行的連結ないし択一的連結による国際的に強い効力を有する養子 縁組の創設のための技術的な模範が提示されている。養子縁組の創設において適用されうる幾つかの法の可能性の

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下に、スペイン法又は外国法を適用することが基本的な制度である。このような可能性は、以前においても、旧民 法典第九条第五項に存在していたものであり、そして、未成年者の利益保護の観点からは批判されていたものであ る。しかし、二〇〇七年法第一九条にあっても、子の本国法がスペイン法とともに適用されることができるのは、 「権 限 を 有 す る ス ペ イ ン 官 庁 が、 養 子 の 本 国 法 が 養 子 の 国 籍 国 に お け る 養 子 縁 組 の 有 効 性 を 容 易 に す る と 考 え る と きにおいてのみ」である。また、養親又は財務省の申立てにより、養親又は養子の本国法又は常居所地法に依って 求められた同意、聴聞又は許可を要求することも、当該同意、聴聞又は許可が子の利益となることを条件として可 能 で あ る。 更 に、 同 法 第 二 〇 条 は、 「裁 判 所 の 意 見 に お い て、 外 国 法 を 考 慮 す る こ と が 事 件 と 関 連 し た 他 の 国 々 に お け る 養 子 縁 組 の 有 効 性 を 容 易 に す る と き は、 と く に 養 子 の 利 益 に な る と 考 え ら れ る も の と す る。 」 と 定 め て い る。そして、同法第二一条においても、同様に、右のような基本的な考えが、外国法によって規律される養子縁組 に関して繰り返されている (

Álvarez González, op. cit., p.422.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。   そして、養子縁組の国際的有効性と同視される「未成年者の利益」の確保を目した解決の締括りとして、外国養 子縁組の承認のために求められている要件として、従前の立法の下に、スペイン登録及び公証局に対して求められ ると同様な要件、すなわち、本源国官庁の管轄の立証、及び、同者によって適用される法の立証までもが含まれて いることである。それにつき、二〇〇七年法第二六条は、次のように定めている。すなわち、 「外 国 官 庁 に よ っ て 創 設 さ れ た 養 子 縁 組 は、 次 に 掲 げ る 要 件 を 満 た す と き、 ス ペ イ ン に お い て 養 子 縁 組 と し て 承 認 されるものとする。 一   それが、権限を有する外国官庁によって創設されたこと。    養子縁組を創設した外国官庁が、養子縁組の創設において、がそれ自体の法に定められた裁判籍が遵守されて

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いるときは、国際的に権限を有するものと考えられる。    前規定に定められたところに拘わらず、養子縁組が養子縁組を創設した官庁国と本源、家族歴又は他の同様の 種類の合理的な結付きを呈示しない場合には、外国官庁は国際的管轄権を欠くものと見做される。 二   それが、養子縁組を創設している外国官庁が属する国の抵触規定によって指定された国の法律に従って創設さ れたこと。 」   このような二〇〇七年法上の明文による規則のほか、登録及び公証局による従前の制度に関する解釈上における 承 認 要 件、 す な わ ち、 「養 子 縁 組 が 創 設 さ れ た 国 に お い て 有 効 な 養 子 縁 組 の み が 承 認 を 受 け る こ と が で き る」 と い う規則も支持されている。これが概括的な論理的帰結であるが、二〇〇七年法が必ずしもそれに成功していないこ とは、以下において言及されるところである (

Álvarez González, op. cit., p.422 et seq.; Benicke, a. a. O., S

.474. ) 。 ( 3 )  改正の問題点   上 述 の よ う に、 登 録 及 び 公 証 局 に よ り、 一 九 八 七 年 改 正 法 第 九 条 第 五 項 に つ い て 行 な わ れ て い た 解 釈 の 殆 ど が 二〇〇七年法として立法化され、現行実定法となっている。そして、少なくとも、国際的管轄権、準拠法の基本的 構造、及び、外国官庁によって創設された養子縁組の承認に関する立場については、次のように、十二分に明らか になっている。例えば、同じく、過度にスペイン国籍を重視している広範な国際的管轄基準、子の本国法、又は、 場合により、養親又は子の常居所若しくは国籍の法の適用の可能性も認められた上でのスペイン法の適用の優先、 スペインに居住する者をも含め、外国人養親とスペイン人養親との間に説明し難いほどの相違が存在し続ける外国 養子縁組承認制度の確立等がそれらとして、集約することができるであろう。そして、そのような相違は、養子と される子がスペイン人である場合にも拡大されているが、それを正当化するため、スペインと繋がりを有しない養

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子縁組、すなわち、外国人養親と外国人養子との養子縁組はスペイン社会の一部ではなく、単なるスペイン社会の 通 過 に 属 す る も の で あ る と い う 立 法 者 の 一 方 的 な 決 付 け が な さ れ よ う と し て き た ( Álvarez González, op. cit., p.422.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。   翻って、以上におけるような旧制度の存続に対し、実質的に改革された点は何であるか。それとして、先ず、立 法 趣 旨 の 説 明 に よ れ ば、 「二 〇 〇 七 年 法 は、 外 国 官 庁 に よ っ て 創 設 さ れ た 単 純 養 子 縁 組、 又 は、 完 全 養 子 縁 組 と ま では言えない養子縁組 (不完全養子縁組) のスペインにおける効力に関し、従前の実定法に欠けていた規則、及び、 権限を有するスペイン官庁がその転換に同意するための個々の場合における要件を定めることにより、完全養子縁 組 へ の 転 換 の 可 能 性 を 含 ん で い る。 」 と い う こ と が 指 摘 さ れ て い る。 よ り 具 体 的 に 言 え ば、 次 の 二 つ の 点 が 最 も 重 要な改革として指摘されている。その一つは、二〇〇七年法第三〇条の規定が、次のように定めている点である。 す な わ ち、 そ の 第 一 項 は、 「外 国 官 庁 に よ っ て 創 設 さ れ た 単 純 養 子 縁 組、 又 は、 不 完 全 養 子 縁 組 は、 そ れ が、 民 法 典第九条第四項に従い、養子の本国法を遵守するとき、単純養子縁組、又は、不完全養子縁組として、スペインに おいて効力を有するものとする。 」と定めており、また、同条第二項は、 「単純又は不完全な方式における養子の本 国 法 が、 か よ う な 養 子 縁 組 の 存 在、 有 効 性 及 び 効 果、 並 び に、 親 権 の 帰 属 を 決 定 す る も の と す る。 」 と 定 め て い る ( Álvarez González, op. cit., p.423 et seq.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。このように、完全養子縁組と単純養子縁組との規律 を区別する立場に対しては、それらが、養子縁組の特定の付随的効果において異なるに過ぎないものであり、両者 に含まれた手続的な面からしても、また、保障の観点からしても、単純養子縁組についての対立的な解決の選択は 正当化されるものではなく、民法典第九条第五項に見られる完全養子縁組及び単純養子縁組への同一の承認制度が 適用されるべきであるとする批判がある ( Álvarez González, op. cit., p.422.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。尚、第三〇条第

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一 項 に お い て 引 用 さ れ て い る 一 九 八 七 年 改 正 民 法 典 第 九 条 第 四 項 は、 親 子 関 係 に つ き、 「養 親 子 関 係 を 含 め、 親 子 関 係 の 性 質 及 び 内 容、 並 び に、 親 子 間 の 関 係 は、 子 の 属 人 法 に 依 っ て 規 律 さ れ る。 」 と し て、 一 九 七 四 年 民 法 典 中 に お い て 採 用 さ れ て い た 父 の 本 国 法 主 義 を 子 の 本 国 法 主 義 へ 改 正 し た 規 定 で あ る (拙 稿・ 前 掲 法 学 新 報 二 三 二 頁 以 下、及び、拙著・前掲書二五二頁参照) 。   次 に、 い ま 一 つ の 重 要 な 改 革 点 で あ る 単 純 養 子 縁 組 の 完 全 養 子 縁 組 へ の 転 換 の 可 能 性 に 関 す る 問 題 に つ い て、 二〇〇七年法は当該問題を新規の問題として取り扱い、従前の制度に関する学説上の論争を解決しているが、それ により、新たな問題が提起されることとなった。蓋し、単純養子縁組の完全養子縁組への転換の準拠法に言及する 抵触規則、並びに、単純養子縁組がスペイン法によって支配される養子縁組へ転換される可能性及び要件を定める 実質規則の双方の規則によって規律されるべきと定められたからである。すなわち、養子縁組の転換、無効及び再 審 に 関 す る 同 法 第 二 二 条 の 規 定 は、 「養 子 縁 組 の 創 設 の 準 拠 法 の 決 定 に 関 す る 前 の 基 準 は、 同 様 に、 養 子 縁 組 の 転 換、 無 効 及 び 再 審 の 準 拠 法 を 決 定 す る た め に 適 用 さ れ る。 」 と 定 め て い る。 因 み に、 前 の 基 準 は、 養 子 縁 組 の 創 設 の準拠法に言及したものである。また、上記転換の諸要件は、二〇〇七年法第三〇条第四項a号からg号として、 直 接 的 か つ 実 質 的 に 列 挙 さ れ て い る が、 や は り、 準 拠 法 へ の 言 及 を 含 む も の と な っ て い る ( Álvarez González, op.

cit., p.424.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。   これら第二二条及び第三〇条第四項との体系的な関連における第一五条第二項及び第三項の解釈についても、問 題 の 存 在 が 指 摘 さ れ て い る。 問 題 と さ れ る 後 者 の 規 定 は、 次 の よ う に 定 め て い る。 先 ず、 同 条 第 二 項 が、 「養 子 縁 組の準拠法が単純養子縁組の可能性を定めるとき、スペイン裁判官及び裁判所は、前項に記された場合に、単純養 子縁組を完全養子縁組へ転換する 管 轄権を有するものとする。 」と定め、そして、同条第三項が、 「第一条に記され

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た場合、及び、養子縁組が外国官庁によって創設されたときも、スペイン裁判官及び裁判所は、当該養子縁組がス ペ イ ン に お い て 承 認 さ れ て い る 限 り、 養 子 縁 組 を 修 正 又 は 再 審 す る 管 轄 権 を も 有 す る も の と す る。 」 と 定 め て い る。果たして、二〇〇七年法によって予見された転換は、単純養子縁組がスペイン法によって考えられた完全養子 縁組への転換であるのか、それとも、単に、外国法によって予見された完全養子縁組への転換であるのかという二 つの可能性が考えられる。そして、後者の立場からは、単純養子縁組からスペイン法によって支配される養子縁組 へ の 転 換 の 準 拠 法 の 適 用 範 囲 は、 当 該 転 換 の 許 容 性 を 決 定 す る に 止 ま る と さ れ る ( Álvarez González, op. cit., p.425.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。その一方、この問題と関連して、養子縁組が創設された国において適用された法律は顧慮 すべきではないとする見解が見られる。さもなければ、実務上、転換が行なわれる機会は相当に減少することにな るであろうと指摘されている。蓋し、単純養子縁組がある外国において初めて創設されたということは、当該外国 法 の 制 度 上、 完 全 養 子 縁 組 の 手 続 の 可 能 性 が 制 限 さ れ て い る こ と を 意 味 す る か ら で あ る ( Álvarez González, op. cit., p.426.; Benicke, a. a. O., S.474. ) 。 四   若干の考察 ( 1 )  スペイン法の位置付け   この二〇年余りの間に、スペインにおける国際養子縁組の数は飛躍的に増加し、現在、スペインは、米国及びス ウェーデンに次いで、多数の外国国籍の養子を受け入れている。それに対処するスペインに特殊な事情として、国 際養子縁組を規律する立法は、専ら抵触法に関する規則を負担する国の立法者と、未成年者の保護に関する規則を 定 め な が ら、 ハ ー グ 条 約 の 適 用 に お い て 独 自 の 中 央 官 庁 を 有 す る 地 方 の 立 法 者 と が 分 担 し て い る。 管 轄 権、 準 拠

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法、及び、外国養子縁組の承認に関する国の立法は、一九八七年以来の部分的な改正を通じて発展しており、民事 登録を負担する行政機関である登録及び公証局は、制度上のあらゆる可能性を利用することなく、立法の文言解釈 に終始してきた。それにも拘わらず、単純養子縁組の状態に影響を与える問題のように、実務から生じる諸問題の 中 の い く つ か は、 立 法 自 体 に 起 因 す る も の で あ り、 立 法 の 解 釈 に よ る も の で は な い。 そ の 画 期 的 立 法 と し て、 現 在、スペイン国際養子縁組法の法源となっているのが、他ならぬこの二〇〇七年の国際養子縁組法である。同法は 国際養子縁組法として重要であるのみならず、スペイン国際私法としては、最初の特別法であるという意味におい ても重要である (

Álvarez González, op. cit., p.428.; Benicke, a. a. O., S.474.

) 。   しかしながら、二〇〇七年法は、国際養子縁組に関する完全な規則を供給することを期待されながら、それが達 成されていないことが、以上における叙述からも知られるところである。その原因として指摘されているのは、国 の立法者が完全な規則を制定する権限を有していなかったからであり、また、二〇〇七年法が余りにも形式的問題 及び理論的問題に注意を払い過ぎたからであるが、更なる原因は、先例として倣うことができる然るべき立法例が 存在しなかったこと、 及び、 法文における大袈裟な形容が余りにも多いことである (

Álvarez González, op. cit., p.428.;

Benicke, a. a. O., S.474. ) 。起草者は躊躇うことなく、徹底して、その抵触規則の社会的性質、その創造的表現、市場 反映と結合した抵触規則の存在、それらの規則中の価値付けられた声明等の多重奏を賞賛しているが、解決を明ら か に 同 一 に す る た め に 必 要 な 技 術 上 の 正 確 さ に 欠 け て い る と 批 判 さ れ て い る ( Álvarez González, op. cit., p.428.; Ben -icke, a. a. O., S.474. ) 。 客 観 的 に 見 て も、 二 〇 〇 七 年 法 は 制 度 を 柔 軟 に す る た め の 明 確 な 要 素 を 含 ん で お ら ず、 解 決 における簡明性、有効性、及び、一貫性に代えて、憶測や形式的、理論的な論理が蔓延しているように見られると する厳しい批判が加えられている (

Álvarez González, op. cit., p.428.; Benicke, a. a. O., S.474.

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  かくして、二〇〇七年法について総括的に言えば、辛うじて現状を改変しようとしたということになるであろう が、実務的には、余り変更されていない。そして、また、自治州における大きな立法上の動きを誘発することもな く、国際養子縁組を負担する地方の公共機関の機能は大きな変化を受けないであろうと見られている。民事登録の 業務は更に複雑化され、単純養子縁組につき、特にその完全養子縁組への転換の問題が多発することとなるであろ うと予想されている。二〇〇七年法は、養子とされる未成年者の本源国に対し、国際養子縁組についてのスペイン 官庁の明瞭な関心を伝達しているが、しかし、国際私法における技術的な面から見ると、国際養子縁組を一貫して 規律する機会を逸しており、このような立法化のための姿勢が、スペイン国際私法の現代化に際して踏襲されるべ き模範を示したものでないことが望まれている (

Álvarez González, op. cit., p.428 et seq.; Benicke, a. a. O., S

.474. ) 。 ( 2 )  若干の比較立法   管轄権的アプローチを採用している立法として、先ず、最初に挙げられるのは、スウェーデンの「養子縁組に係 わ る 国 際 的 法 律 関 係 に 関 す る 法 律」 (一 九 七 一 年 一 一 月 一 九 日 法 律 第 七 九 六 号、 一 九 七 二 年 一 月 一 日 施 行) で あ る。 そ れ は、 次 の よ う に 定 め て い る。 す な わ ち、 管 轄 権 に つ い て は、 そ の 第 一 条 が、 「養 子 縁 組 申 請 書 は、 申 請 人 が ス ウェーデン国籍を有するか、もしくは、その住所を内国に有するとき、または、国王が申請書の審査を許可したと きは、スウェーデンの裁判所により受理される。 」と定め、準拠法については、第二条が、 「養子縁組申請書は、ス ウ ェ ー デ ン 法 に し た が っ て 審 査 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「申 請 書 が 一 八 歳 以 下 の 子 に 関 す る も の で あ る と き は、 申 請 者 または子について、国籍もしくは住所に基づくか、または、その他の点で、いずれかある外国との関連性が存在す るか否か、および、養子縁組がその地において有効とされない場合においては、子について著しい不利益が生じる か 否 か が、 と く に 顧 慮 さ れ る も の と す る。 」 (第 二 項) と 定 め、 外 国 養 子 縁 組 の 承 認 に つ い て は、 第 三 条 が、 「い ず

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れかある外国でなされた養子縁組の許可は、申請者がその外国の国民であったか、または、その地に住所を有して いた場合において、この許可がなされたとき、並びに、養子がスウェーデン国民であったか、または、その住所を スウェーデンに有していた場合において、国王または国王により指定された官庁によって養子縁組が認められたと き は、 内 国 に お い て 有 効 と さ れ る。 」 (第 一 項) 、「国 王 ま た は 国 王 に よ り 指 定 さ れ た 官 庁 は、 そ の 他 の 場 合 に お て も、 外 国 で な さ れ た 養 子 縁 組 の 許 可 が 内 国 で 有 効 と さ れ る 旨 を 命 ず る こ と が で き る。 」 (第 二 項) と 定 め て い る。 そ し て、 外 国 養 子 縁 組 の 効 果 に つ い て は、 第 四 条 が、 「い ず れ か あ る 外 国 で な さ れ た 養 子 縁 組 の 許 可 が 内 国 で 有 効 と さ れ る と き は、 養 子 は、 監 護 権、 後 見 お よ び 扶 養 の 問 題 に つ き、 養 親 の 嫡 出 子 と み な さ れ る。 」 (第 一 項) 、「養 親 子 関係から生ずる諸問題で、相続権に係わるものについては、養子縁組についていかなる法律が基準となっていたか にかかわらず、相続事件の準拠法上の一般的規定が適用される。ただし、その問題が内国で発生したときは、養子 は 常 に 養 親 の 嫡 出 子 と み な さ れ る。 」 (第 二 項) 、「養 親 に 対 す る 相 続 権 が 養 子 に 帰 属 し な い と き は、 公 平 の 観 点 か ら、 子 の 扶 養 の た め、 養 親 の 遺 産 中 よ り 一 定 の 財 産 が 供 与 さ れ る 旨 定 め る こ と が で き る。 」 (第 三 項) と 定 め て い る。 又、 特 別 公 序 条 項 と し て、 第 六 条 が、 「い ず れ か あ る 外 国 で な さ れ た 養 子 縁 組 の 許 可 は、 そ れ が 内 国 の 法 秩 序 上 の 基 本 原 則 と 合 致 し な い こ と が 明 ら か な と き は、 ス ウ ェ ー デ ン に お い て 有 効 な も の と は 認 め ら れ な い。 」 と 定 め、 そ し て、 条 約 の 優 先 的 適 用 に つ い て、 第 七 条 が、 「い ず れ か あ る 外 国 と の 協 定 に 基 づ く ス ウ ェ ー デ ン の 義 務 の 履 行 に つ き 必 要 と さ れ る 限 り に お い て、 国 王 は、 本 法 中 の 諸 規 定 と 異 な る 規 定 を 公 布 す る こ と が で き る。 」 と 定 め ている (福山達夫訳「国際婚姻法・親子法に関するスウェーデンの二法」戸籍時報二二八号一九頁以下参照) 。   次に、同じく、管轄権的アプローチを採用している立法として、スイス国際私法典中の諸規定を掲げることとし た い。 す な わ ち、 管 轄 権 に つ い て は、 第 七 五 条 が、 「養 子 を す る 者 又 は 養 子 を す る 夫 婦 の 住 所 地 に お け る ス イ ス の

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裁 判 所 又 は 官 庁 が 養 子 縁 組 を 言 い 渡 す 管 轄 権 を 有 す る。 」 (第 一 項) 、「養 子 縁 組 の 取 消 に つ い て は、 親 子 関 係 の 確 定 又 は 否 認 に つ い て 管 轄 権 を 有 す る 裁 判 所 (第 六 六 条 及 び 第 六 七 条) と 同 一 の 裁 判 所 が 管 轄 権 を 有 す る。 」 (第 二 項) と 定 め、 そ し て、 第 七 六 条 が、 「養 子 を す る 者 又 は 養 子 を す る 夫 婦 が ス イ ス に 住 所 を 有 せ ず、 か つ、 そ れ ら の 者 の い ずれかがスイス市民であるときは、その住所地において養子縁組を実行することが不可能であるか、又は、期待で き な い と き、 本 籍 地 に お け る 裁 判 所 又 は 官 庁 が 養 子 縁 組 に つ い て 管 轄 権 を 有 す る。 」 と 定 め、 準 拠 法 に つ い て は、 第 七 七 条 が、 「ス イ ス に お け る 養 子 縁 組 の 要 件 は ス イ ス 法 に 服 す る。 」 (第 一 項) 、「養 子 を す る 者 又 は 養 子 を す る 夫 婦の住所地又は本国における養子縁組が承認されず、かつ、それによって子に重大な不利益が生じることとなるこ とが明らかになるときは、官庁は当該国法上の要件をも考慮する。その場合においても承認が確実なものとみられ な い と き は、 養 子 縁 組 は 言 い 渡 さ れ て は な ら な い。 」 (第 二 項) 、「ス イ ス に お い て 言 い 渡 さ れ た 養 子 縁 組 の 取 消 は ス イス法に服する。外国において言い渡された養子縁組は、取消原因がスイス法によっても存在するときにのみ、ス イ ス に お い て 取 り 消 さ れ る こ と が で き る。 」 (第 三 項) と 定 め、 更 に、 外 国 養 子 縁 組 の 承 認 に つ い て は、 第 七 八 条 が、 「外 国 の 養 子 縁 組 は、 そ れ が 養 子 を す る 者 又 は 養 子 を す る 夫 婦 の 住 所 地 国 又 は 本 国 に お い て 言 い 渡 さ れ て い る と き、 ス イ ス に お い て 承 諾 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「ス イ ス 法 の 意 味 に お け る 親 子 関 係 と 異 な る 重 要 な 効 力 を 有 す る 外 国の養子縁組又は同様の行為は、創設国においてそれに相応する効力のみを有するものとしてスイスにおいて承認 される。 」 (第二項) と定めている (拙編訳『国際私法立法総覧』 (冨山房、一九八九年)一四一頁以下参照) 。   更に、一九九五年のイタリア国際私法第三章第五節「養子縁組」は、次のように定めている。先ず、準拠法につ い て、 第 三 八 条 が、 「養 子 縁 組 の 要 件、 創 設 及 び 取 消 は、 養 子 縁 組 の 当 時 に お け る 養 親 の 本 国 法、 又 は、 養 親 の 双 方の本国法がそれらの者にとって共通であるときは同法、又は、それがないときは、養親が双方とも居住者である

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国家の法、もしくは、それらの者の婚姻生活が主として位置付けられる国家の法によって規律される。但し、未成 年者に嫡出子の身分を付与することを意図する養子縁組がイタリアの裁判官に申し立てられるときは、イタリア法 が 適 用 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「い ず れ の 場 合 に お い て も、 養 子 と さ れ る 成 年 者 の 本 国 法 に お い て 同 意 が 必 要 と さ れ る と き は、 そ れ に 関 す る 規 定 の も と に、 同 法 の 適 用 が 留 保 さ れ る。 」 (第 二 項) と 定 め、 養 子 縁 組 の 効 力 に つ い て、 第 三 九 条 が、 「養 子 と 養 親 又 は 養 親 の 双 方 及 び そ れ ら の 者 の 親 族 の 間 の 身 分 関 係 及 び 財 産 関 係 は、 養 親 の 本 国 法、 又 は、養親の双方の本国法がそれらの者にとって共通であるときは同法、又は、それがないときは、養親が双方とも 居 住 者 で あ る 国 家 の 法、 も し く は、 そ れ ら の 者 の 婚 姻 生 活 が 主 と し て 位 置 付 け ら れ る 国 家 の 法 に 依 っ て 規 律 さ れ る。 」と定め、又、管轄権について、第四〇条が、 「イタリアの裁判官は、次に掲げるとき、養子縁組に関する管轄 権 を 有 す る。 (a) 養 親 の 双 方 も し く は そ れ ら の 者 の 一 方 又 は 将 来 の 養 子 が イ タ リ ア 市 民 で あ る か、 又 は、 イ タ リ ア に 居 住 す る 外 国 人 で あ る と き、 (b) 将 来 の 養 子 が イ タ リ ア に お け る 遺 棄 の 状 態 の 未 成 年 者 で あ る と き」 (第 一 項) 、「養 子 と 養 親 又 は 養 親 の 双 方 及 び そ れ ら の 者 の 親 族 の 間 の 身 分 関 係 及 び 財 産 関 係 に つ い て は、 第 三 条 に 規 定 さ れた場合のほか、養子縁組がイタリア法に従って創設されたときは、常に、イタリアの裁判官は管轄権を有する。 」 (第 二 項) と 定 め、 そ し て、 外 国 裁 判 の 承 認 に つ い て、 第 四 一 条 が、 「養 子 縁 組 に 関 す る 外 国 裁 判 は、 第 六 四 条、 第 六 五 条 及 び 第 六 六 条 の 文 言 の も と に、 イ タ リ ア に お け る 承 認 に よ っ て 受 け 入 れ ら れ る。 」 (第 一 項) 、「未 成 年 者 の 養 子 縁 組 に 関 す る 特 別 法 の 規 定 は 留 保 さ れ る。 」 (第 二 項) と 定 め て い る (拙 稿「イ タ リ ア 国 際 私 法 の 改 正 と そ の 特 質 に つ いて」比較法三四号一三二頁以下) 。   そして、更に、二〇〇四年のベルギー国際私法典中の諸規定である。すなわち、先ず、管轄権について、第六六 条 が、 「本 法 上 の 総 則 に 反 し て、 ベ ル ギ ー 裁 判 所 は、 養 親、 養 親 の 一 方 又 は 養 子 が 請 求 開 始 の 当 時 ベ ル ギ ー 人 で あ

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る か、 又 は、 ベ ル ギ ー に そ の 常 居 所 を 有 す る と き に の み、 養 子 縁 組 を 言 い 渡 す 管 轄 権 を 有 す る。 」 (第 一 項) 、「ベ ル ギー裁判所は、第一項に定められた条件の下にか、又は、養子縁組がベルギーにおいて創設されたとき、先に存在 する親子関係の紐帯を断絶することを効果として有しなかった養子縁組の完全な養子縁組への転換を宣言する管轄 権 を 有 す る。 」 (第 二 項) 、「ベ ル ギ ー 裁 判 所 は、 第 一 項 に 定 め ら れ た 条 件 の 下 に か、 又 は、 養 子 縁 組 が ベ ル ギ ー に お い て 創 設 さ れ た と き、 養 子 縁 組 の 取 消 し を 宣 言 す る 管 轄 権 を 有 す る。 」 (第 三 項) 、「ベ ル ギ ー 裁 判 所 は、 第 一 項 に 定 め ら れ た 条 件 の 下 に か、 養 子 縁 組 が ベ ル ギ ー に お い て 創 設 さ れ た と き か、 又 は、 養 子 縁 組 を 創 設 す る 裁 判 が ベ ル ギ ー に お い て 承 認 さ れ た か 若 し く は 執 行 で き る も の と 宣 言 さ れ た と き、 養 子 縁 組 の 再 審 を 宣 言 す る 管 轄 権 を 有 す る。 」 (第 四 項) と 定 め、 次 に、 準 拠 法 に つ い て は、 第 六 七 条 が、 養 子 縁 組 の 創 設 の 要 件 の 準 拠 法 と し て、 「民 法 典 第三五七条の適用を妨げることなく、養親子関係の創設は、養親又は養親の一方及び他方がその当時国籍を保有す る 国 家 の 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「養 親 が 同 一 国 家 の 国 籍 を 保 有 し な い と き は、 養 親 子 関 係 の 創 設 は、 一方及び他方がその当時それらの常居所を有する領域が帰属する国家の法、又は、同一国家における常居所がない と き は、 ベ ル ギ ー 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 二 項) 、「但 し、 裁 判 官 が、 外 国 法 の 適 用 が 明 ら か に 養 子 の 優 越 し た 利益を侵害することになり、かつ、養親又は養親双方が明らかにベルギーと密接な関係を有するものと考えるとき は、 そ の 者 は ベ ル ギ ー 法 を 適 用 す る。 」 (第 三 項) と 定 め、 第 六 八 条 が、 承 諾 の 準 拠 法 と し て、 「民 法 典 第 三 五 八 条 の適用を妨げることなく、養子及びその両親又は法定代理人の承諾並びにその承諾の表明方法は、養子が養子縁組 のための移動の直前、又は、かような移動がないときは養子縁組の当時、その常居所を有する領域が帰属する国家 の 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「但 し、 第 一 項 に よ る 準 拠 法 が よ う な 承 諾 の 必 要 性 を 定 め な い か、 又 は、 養 子 縁 組 の 制 度 を 知 ら な い と き、 ベ ル ギ ー 法 が 養 子 の 承 諾 を 規 律 す る。 」 (第 二 項) と 定 め、 第 六 九 条 が、 養 子 縁 組 の

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創 設 方 法 の 準 拠 法 と し て、 「ベ ル ギ ー に お け る 養 子 縁 組 の 創 設 方 法 は ベ ル ギ ー 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 一 項) 、 「養 子 縁 組 の 証 書 が、 そ れ が 締 結 さ れ た 国 家 の 法 に 従 い、 外 国 に お い て 作 成 さ れ、 か つ、 そ の 法 が 司 法 手 続 の 必 要 性を定めるときは、それは、ベルギー法によって定められた手続に従い、ベルギーにおいて遂行されることができ る。 」 (第二項) と定め、第七〇条が、養子縁組によって創造された紐帯の性質として、 「第六七条による準拠法は、 養子縁組によって創造された紐帯の性質、及び、養子がその生来の家族に属することを止めるか否かを決定する。 」 と 定 め、 第 七 一 条 が、 養 子 縁 組 の 転 換、 取 消 し 及 び 修 正 の 準 拠 法 と し て、 「民 法 典 第 三 五 九 条 の 二 の 適 用 を 妨 げ る こ と な く、 養 子 縁 組 の 転 換 は、 第 六 七 条 な い し 第 六 九 条 に よ る 準 拠 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「養 子 縁 組 の取消しは第六七条ないし第六九条による準拠法によって規律される。但し、連結の要素は、養子縁組の創設の当 時 に お け る そ の 具 体 化 に 応 じ て 評 価 さ れ る。 」 (第 二 項) 、「養 子 縁 組 の 再 審 は ベ ル ギ ー 法 に よ っ て 規 律 さ れ る。 」 (第 三 項) と 定 め、 そ し て、 外 国 養 子 縁 組 に つ い て、 第 七 二 条 が、 「本 法 の 諸 規 定 に 反 し て、 養 子 縁 組 の 創 設、 転 換、 取消し、再審又は無効に関する外国裁判又は公署証書は、民法典第三六五条の一ないし第三六六条の三の諸規定が 遵守されなかったとき、及び、同法典第三六七条の一に定められた裁判がその法典第三六七条の二に従って登録さ れ な い 限 り、 ベ ル ギ ー に お い て 承 認 さ れ な い。 」 と 定 め て い る (拙 稿「ベ ル ギ ー 国 際 私 法 の 邦 訳 と 解 説(上) 」 戸 籍 時 報五九三号三七頁以下) 。   最後に、単独立法の形式をもって、詳細な規則を定めている立法例として挙げられるべきであるのが、オランダ の 国 際 養 子 縁 組 抵 触 法、 す な わ ち、 「養 子 縁 組 に つ い て の 法 律 の 抵 触 の 規 律 に 関 す る 二 〇 〇 三 年 七 月 三 日 法 律 (養 子 縁 組 抵 触 法) 」 (オ ラ ン ダ 官 報 二 〇 〇 三 年 第 二 八 三 号) で あ ろ う。 同 法 の 主 要 な 規 定 は、 次 の 通 り で あ る。 先 ず、 条 約 の 優 先 的 適 用 に つ い て、 第 一 条 が、 「子 の 保 護 及 び 国 家 間 の 養 子 縁 組 に つ い て の 協 力 に 関 す る 条 約 (オ ラ ン ダ 条 約

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集 一 九 九 三 年 第 一 九 七 号) 、 同 条 約 を 施 行 す る 一 九 九 八 年 五 月 一 四 日 法 律 (オ ラ ン ダ 官 報 第 三 〇 二 号) 、 並 び に、 養 子 縁 組 の た め の 外 国 人 た る 子 の オ ラ ン ダ へ の 配 置 に 関 す る 規 則 を 含 む 法 律 の 適 用 は、 本 法 に よ っ て 影 響 さ れ な い。 」 と 定 め、 又、 養 子 縁 組 の 定 義 と し て、 第 二 条 が、 「第 一 条 に 拘 わ ら ず、 本 法 に お け る「養 子 縁 組」 は、 未 成 年 の 子 と共同した二人の者達又は一人の者のみとの間に法律上の家族的結合を創設する権限ある官庁の決定を意味する。 」 と 定 め て い る。 次 に、 オ ラ ン ダ に お い て 宣 言 さ れ る 養 子 縁 組 及 び そ の 法 的 効 果 の 準 拠 法 と し て、 第 三 条 が、 「第 二 項 の 規 定 の 他 は、 オ ラ ン ダ 法 が オ ラ ン ダ に お い て 宣 言 さ れ る 養 子 縁 組 に 適 用 さ れ る。 」 (第 一 項) 、「子 が 有 す る 国 籍 が帰属する国家の法律が、子の父母又は他の者若しくは機関の同意若しくは諮問、又は、それらに付与された情報 に適用される。子が一つより多い国籍を有する場合には、子が有する国籍が帰属する国家であって、全ての情況を 考慮して、その者が最も密接な関係を有するものの法律が適用される。かようにして指定された法律中に、養子縁 組の法的概念につき、いかなる規定も定められていないときは、オランダ法が適用される。同意の欠如が裁判上の 決 定 に よ っ て 代 替 さ れ る こ と が で き る か 否 か も、 本 項 に 従 っ て 適 用 さ れ る 法 律 に 依 っ て 決 定 さ れ る も の と す る。 」 (第 二 項) 、「オ ラ ン ダ 法 が、 オ ラ ン ダ に お い て 宣 言 さ れ た 養 子 縁 組 の 撤 回 に 適 用 さ れ る。 」 (第 三 項) と 定 め、 第 四 条 が、 「オ ラ ン ダ に お い て 宣 言 さ れ た 養 子 縁 組 は、 子 と そ の 養 親 と の 間 に お け る 法 律 上 の 家 族 的 結 合、 及 び、 以 前 か ら存在する子の何らかの法律上の家族的結合の終了に関し、オランダ法によって付与された法律上の効果を有する も の と す る。 」 と 定 め て い る。 更 に、 外 国 の 養 子 縁 組 の 承 認 及 び そ の 法 的 効 果 と し て、 第 五 条 が、 「本 章 の 諸 規 定 は、 第 一 条 に 記 さ れ た 条 約 の 当 事 国 で な い 諸 国 家 に お い て 宣 言 さ れ た 養 子 縁 組 を 支 配 す る。 」 と 定 め、 第 六 条 が、 「養 子 縁 組 が 宣 言 さ れ て い る 外 国 に お い て 下 さ れ た 決 定 は、 そ れ が 次 に 掲 げ る 外 国 の 地 域 的 に 権 限 を 有 す る 官 庁 に よ っ て 宣 言 さ れ る と き、 法 律 の 運 用 に よ り、 オ ラ ン ダ に お い て 承 認 さ れ る も の と す る。 (a) 養 親 及 び 子 の 双 方

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が、 養 子 縁 組 の 申 立 て 並 び に 決 定 の 両 方 の 当 時、 そ れ ら の 者 の 常 居 所 を 有 し た 外 国、 又 は、 (b) 養 親 又 は 子 の い ずれか一方が、養子縁組の申立て及び決定の両方の当時、それらの者の常居所を有した外国」 (第一項) 、「承認は、 次 に 掲 げ る と き、 養 子 縁 組 を 定 め る 決 定 を 保 留 さ れ る も の と す る。 (a) 決 定 が 下 さ れ る 前 に、 明 ら か に、 い か な る 先 立 つ 適 切 な 調 査 又 は 適 切 な 法 的 手 続 も な い と き、 又 は、 (b) 第 一 項(b) 号 に お い て 言 及 さ れ た 場 合 に は、 この決定が、子、又は、場合により、養親が、養子縁組の申立て及び決定の両方の当時、それらの者の常居所を有 し た 国 家 に お い て 承 認 さ れ な い と き、 又 は、 (c) か よ う な 決 定 の 承 認 が、 明 ら か に オ ラ ン ダ の 公 の 秩 序 に 違 反 す る こ と に な る と き」 (第 二 項) 、「第 二 項(c) 号 に 記 さ れ た 理 由 に 基 づ く 養 子 縁 組 の 決 定 の 承 認 は、 決 定 が 明 ら か に 偽 装 行 為 に 関 係 す る と き、 常 に 保 留 さ れ る も の と す る。 」 (第 三 項) 、「決 定 の 承 認 は、 オ ラ ン ダ 人 が 含 ま れ る と き も、第二章の諸規定から適用されることとなっていた法律とは別のものが適用されたことのみを理由として、第二 項(c) 号 に 記 さ れ た 事 由 に 基 づ い て 拒 否 さ れ て は な ら な い。 」 (第 四 項) と 定 め、 第 七 条 が、 「養 子 縁 組 が 宣 言 さ れた外国において下された決定であって、養親がオランダにそれらの者の常居所を有する一方、子が、養子縁組の 申立て及び決定の両方の当時、その常居所を有した外国における地域的に権限を有する官庁によって宣言されるも の は、 次 に 掲 げ る と き、 承 認 さ れ る も の と す る。 (a) 外 国 人 の 子 の オ ラ ン ダ に お け る 配 置 に 関 す る 規 則 を 含 む 法 令 の 諸 規 定 が 遵 守 さ れ た と き、 及 び、 (b) 養 子 縁 組 の 承 認 が、 明 ら か に、 子 に と っ て 最 良 の 利 益 と な る と き、 及 び、 (c) 承 認 が、 本 法 第 六 条 第 二 項 又 は 第 三 項 に 言 及 さ れ た 事 由 に 基 づ い て 保 留 さ れ る こ と が な い と き」 (第 一 項) 、「第 一 項 に 言 及 さ れ た よ う な 養 子 縁 組 は、 裁 判 所 が 同 項 に 記 さ れ た 承 認 要 件 が 充 足 さ れ る こ と を 確 定 し た と き の み、 承 認 さ れ る も の と す る。 オ ラ ン ダ 民 法 典 第 一 編 第 二 六 条 の 手 続 が 適 用 さ れ る。 」 (第 二 項) 、「養 子 縁 組 の 承 認 要件が充足されたことを決定する裁判所は、職権により、養子縁組が、その後、出生、死亡、婚姻及び登録パート

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